碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第十一話

presented by 紫雲様


軍議の間―
 「・・・診断結果は?」
 「結核―肺の病だ。すぐにでも絶対安静。最低でも1年は絶対安静にして療養が必要だ」
 吐血して倒れた冥琳。すぐに医療知識を持つ仲達が治療に取り掛かったのだが、診断結果は思わしくない物であった。
 「孟徳殿。こちらが指示した物を用意して下さり感謝する。彼女の吐血についても、こちらの指示通りに対応してくれただろうか?」
 「問題ないわ。ちゃんと貴方の指示通り、貝殻の粉末と混ぜた上で、木箱に詰めて燃やし尽くしたわ」
 「分かった。それなら問題は無いだろう。ただしばらくの間は公瑾殿のいる部屋には、なるべく誰も近づかない様にお願いしたい。本懐を果たす事無く病に倒れては、無念が残るだろうからな」
 彼女の病は感染する、という仲達の言葉に静まり返る軍議の間。
いずれは激突しあう両陣営ではあるが、水軍都督として豊富な経験を持つ冥琳の穴は、この時点においては致命的以外の何物でもない。
 唯一利点があったとすれば、キレた仲達を冷静にさせたぐらいである。
 「この場にいる全員に伝えておく。彼女と同じ病にかかりたくなければ、日に三刻の睡眠と、滋養のある食事、四半刻ほどの運動をかかさないようにしろ。特に荀彧殿、郭嘉殿、程昱殿、それから伯言殿は運動を怠るな」
 「・・・仲達。冥琳は治るの?」
 「治るまでは絶対安静にして体力温存に専念。それしかない。肺の病は基礎体力で勝負するしかない。仙界に赴けば薬はあるだろうが、今回の病は自然発生による物だ。仙界に頼れば、干渉厳禁の不文律に触れる事になる。正直、協力は難しいと言わざるをえない」
 裾からジャラッと音を立てて丸薬を取り出してみせる。
 「代わりに、これ1粒を1日分として、日に3度服用。私が自作した滋養強壮の効果のある代物だが、今はこれで何とかするしかないだろうな」
 苦々しげに呟く仲達。その場の空気が沈む中、雰囲気を変えるかのように、一刀が殊更に明るい声で話しかける。
 「そういえば、仮面はまだ着けたままなのか?もう正体バレてるんだろ?」
 「確かにそうだが、別の理由もあるのでな。まだしばらくはこのままだ・・・さて、今後の方針だが、公瑾殿の穴についてだが腹案は?」
 「ある訳ないじゃない」
 「・・・だろうな。ならば、1つ提案があるのだが」
 仲達に集まる視線。
 「個人の力量で穴埋め出来ないのであれば、組織全体で穴埋めすべきだ」
 「確かに冥琳並みの天才を捜すのは無理だから、貴方の意見は正しいわ。でも具体的にどうする訳?」
 「水軍に関してだが、まず公瑾殿の場所には仲謀殿に就いて頂く」
 いきなりの指摘に『私があ!?』と思わず声を上げる蓮華。
 「次に仲謀殿の補佐役には伯言殿。2人の下に前線指揮として黄蓋将軍と甘寧将軍。甘寧将軍の補佐役として呂蒙殿。周泰殿には民への流言工作と、袁紹軍が来た際の破壊工作による足止めをお願いしたい。その上で、孫策殿。貴女には水軍の一部隊を率いて遊撃部隊として活動。貴女が足りないと思われた場所に向かい、手助けをして貰いたいのだ」
 「ふうん。大将を引っ張り出す訳?」
 「貴女なら不覚など取らんだろう。それに遊撃部隊の役割は大きい。周泰殿による現地の袁紹軍の足止めが叶わなかった際には、遊撃部隊が民を護るのだから」
 「ふふ、良いじゃない。戦う事の出来る立ち位置なら、私は文句ないわ。でも貴方はどうする訳?」
 「私は朝歌で時間稼ぎだ。私が出した策である以上、口にした私が陣頭指揮を行うべきだろう。そういう訳だ、孟徳殿。朝歌にて防衛戦を行う為、すまぬが曹魏の兵3000を御貸し頂きたい」
 「3000ね、それで足りるのかしら?」
 「十分だ。もともとまともに防衛戦等行うつもりは無いからな。奇策を用いて徹底的に効率よく戦うだけだ。その上で頼みたい事がある」
 地図の一角を指差す仲達。
 「ここに兵を伏せておいて貰いたい。数は多ければ多い程良いが、最悪、疑兵でも構わない」
 「・・・貴方、何を考えている訳?」
 「袁紹軍を徹底的に叩き潰す」
 クルクルと地図を束ねる仲達。
 「まずは田豊。李儒の片腕をここで潰す。その為に夏侯淵将軍、弓の名手である貴女の助力を仰ぎたい」

半月後―
 かつて朝歌と呼ばれた場所。そこに兵3000を引き連れて姿を見せた仲達は、温めていた作戦通りに城壁の改修を急ピッチで始めさせた。
 これに協力したのが騎馬兵1000を引き連れた秋蘭である。
 「しかし、お前は本当に何を考えているのだ?」
 「田豊を潰す。その為の真の策。それを覆い隠す為の布石だ」
 朝歌は東西南北4方向に城門が設置されている。ただし城門は風雨に晒され、すっかり半壊状態であった。
 まず仲達は合計4000の兵を1000ずつに仕分けた。その4隊を東西南北に振り分け、同じ作業をさせたのである。
 門の正面を入った所に、木の板を設置。そこから更に5mほど奥にもう1枚木の板を設置。板と板の間を棒で繋げ、真横から見るとH状になる様にしたのである。そこに土を入れて土壁を作り上げたのであった。
 更にその土は、やはり門の傍から採取。丁度木の板が邪魔で直進出来ない為、仮に門から入ってきたら左右に曲がるしかない。その曲がった先に巨大な穴―落とし穴を掘らせてその土を土壁の材料にさせたのである。更に土を入れる際、兵の内何10名かに土砂を踏み固めさせ、急造ではあるが強固な土壁を作り上げたのであった。
 これにより真横に50mの長さと、幅5m、高さ5mの土壁。加えて土壁に沿う様に、長さ15m、深さ10m、幅5m程の落とし穴が門の左右に2つ姿を見せている。そして落とし穴の向こう側には柵が設置予定である。
 ちなみにこのままでは普段の通行に不便な為、仲達の指示で現在は吊り橋が架けられている。
 「ちょうど地下水も染み出て来たからな。これぐらいで十分だな・・・では次の策だ。この近くに竹林が有る。そこで1人2本竹を採って来るのだ。それを竹槍状に設えて、外の城壁に沿って地面に刺しておけ。城壁を乗り越えてきた連中が地面へ飛び降りた時、そのまま串刺しに出来る様にな」
 「仲達?」
 「将軍。何も言うなよ。将軍は何も見なかった、何も聞かなかった・・・汚名を被るのは私1人で十分だからな」
 戦場を往来してきた秋蘭は、何度も目を背けるような光景を目にしてきた。だがこの朝歌で起こるであろう光景を想像する事は容易い。
 落とし穴で侵入を阻まれれば、次に採るのは壁を乗り越える事。秋蘭が攻め手の大将であるならば、当然の選択肢。だがそこに待ち構えているのは―
 「では将軍。すまないが明日まで、ここの指揮を頼む。竹を刺した後は、将軍の目から見て破られそうな場所を随時補強をお願いしたい。その間に私は兵250とともに、所要を済ませてくる・・・第3の策をな」
 「・・・仲達。今からでも止められないのか?」
 「手を抜けばこちらの犠牲が増える。ならば味方の犠牲を減らす為、私は鬼となる。さしずめ私は悪鬼羅刹と言った所か」

翌日、仲達の指揮下で『所要』を済ませてきた兵士達は、全員が1人の例外も無く青褪めた顔色をしていた。そして仲達に向けられる視線に宿るのは『恐怖』の2文字。
『仲達の指示』による箝口令の敷かれたこの策であったが、やはり『仲達の指示』によって飲酒の許された当事者達は、悪夢を忘れる様に泥酔する程に呑み続けた。それによって口の軽くなった者から伝えられた内容に、残る兵士達は『所詮は他国のお偉いさん』程度に軽く見ていた仲達に対する評価を改めたのである。
『大陸で最も恐ろしい男』『悪鬼羅刹』と。
これにより仲達は、恐怖と策謀による規律正しい3000の兵士を入手出来た。そして、それが仲達の思惑通りであるとは、兵士達は1人として気付く事は無かったのである。

数日後、許昌―
 「曹操の軍勢が朝歌に?」
 「いかにも。どうやら北方から輸送されてくる食料を奪う事が目的の様だな。実際『夏』の牙門旗を掲げた一団に、追い散らされたという報告があるのだから間違いはない」
 「・・・見過ごす訳には行きませんね」
 許昌を預かる斗詩は、猪々子が消息不明の今、袁紹軍唯一の将軍として対・曹孫方面指揮官として許昌に駐留している。その立場にあるものとして、今のまま曹操に朝歌へ居座られるのは都合が悪かった。
 「細作からの報告は?」
 「朝歌にいるのは間違いない。兵は3000ほどだそうだ。兵は1万もあれば十分だろう。朝歌の防壁は補強されているとは言え、所詮は昔の廃墟だ。立て籠もるには不向きとしか言えん。ここは短期決戦を進言しよう」
 「ならば兵を2万にしましょう。私、田豊殿、沮受殿で3方向から同時攻撃を仕掛けるのです」
 圧倒的な兵力差による制圧。それが斗詩の出した結論。
 「沮受は李儒殿に呼ばれているらしくてな。今回の行動には参加できないと聞いている。ここは私と顔良将軍で、兵を1万ずつ率いて東西、或いは南北からの挟撃が良いと思うが」
 「仕方ありません。それで行きましょう」
 「確かに承った。明日には進軍出来る様に準備を進めよう。それからもう1つ細作からの報告があったのだが、実は短期決戦を進めたもう1つの理由だ」

 翌日、朝歌への進軍中に目撃した光景に、斗詩は文字通り背中に冷や汗をかいていた。将軍として戦場を往来していた彼女ですらそうなのだから、一般兵士は何を言わんや、である。
 青褪め、恐怖に震え、虚勢を張る。様々な姿がそこにある。
 その視線が捉えるのは、草原に掲げられた墓標。ただし全てが竹槍によって串刺しにされた、袁紹軍の鎧を着た遺体である。
 既に数日が経過した事を示すかのように、烏が集団で遺体をつつき、野良犬が地面に落ちた腐肉を、尻尾を振りながら食んでいる地獄の如き光景。
 もし北郷一刀がこの場にいれば、間違いなくこう評した筈である。
 『串刺し公』と。
 (・・・こんな光景を見せられたら、兵は役に立たなくなる。田豊が10倍の兵力差で短期決戦を進めたのは当たり前ね)
 実際、兵の士気はガタ落ちである。袁紹の治世の拙さもあいまって、このままでは逃亡兵が出るのも時間の問題であった。
 ここから微かに見える朝歌。そこにいるであろう敵手に対して、斗詩は気を引き締め直すと、兵を叱咤激励しつつ行軍を再開した。

朝歌―
 「では策通りに」
 東西から同時に攻め寄せる事にした斗詩と田豊は、それぞれ兵を配置した。城門は閉められているが、長年の風雨によって崩壊しかけている為、突破は容易。壁を乗り越えるよりも、数の暴力で城門を粉砕する方が短期決戦には向いていると判断したのである。
 あの地獄のような光景を作り出した理由。それを考えた時、曹操軍は攻められたくないから、あのような策を弄した。そう判断した為に。
 「かかれ!」
 同時に攻め入る2部隊の兵。対する朝歌からも応戦の矢が、次々に飛んでくる。だが多勢に無勢。城門はアッサリ破壊され、兵士達は城内へと雪崩れ込む。
 第1陣に配置された2000の兵士が城内へ吸い込まれるように姿を消していく。手元に8000残っているが、これを投入する事はないだろうと斗詩は思っていた。
 それが誤りである事を知らないまま。
 突入した兵士2000は、その日の夕方になっても戻らず、朝歌は沈黙を保ったままであった。

異様な事態に、斗詩と田豊は緊急軍議を開いていた。
そこへ駆け寄る1人の兵士。
「理由は分かったか?」
「は。門を入ると、すぐに曲がる様に城壁が内側に作られておりますが、その先に巨大な落とし穴が掘られている模様です。突撃した兵士は、足元に気付かないまま突撃して落とし穴に落ちたと思われます」
「穴の規模は?」
「兵1000を犠牲に、約3割が埋まったと」
渋面を作る田豊。斗詩も顔色が芳しくない。
細作に礼を言い下がらせると、顔良はキッと顔を上げた。
「田豊殿。攻め手を変えましょう。落とし穴を乗り越えるには、単純に考えても兵を4000犠牲としなければなりません。門を変えても落とし穴がある事に変わりは無いでしょう」
「同感だ。だとすれば投石機で城砦破壊が一番だが、さすがに洛陽まで取りに行くのは時間がかかり過ぎるな。そうなれば短期決戦という基本方針からずれてしまう。ならば城壁を乗り越えていくしかないな」
「それで行きましょう。無闇に時間をかけては、曹操や孫策に許昌を奪われかねない」
新たな方針通りに、攻撃方法を変更して攻め入る2人。
だが―
「申し上げます!城壁の向こう側に竹槍が設置されており、飛び降りた兵士が犠牲に!無事な者も混乱した所を迎撃され、前線の兵は全滅です!」
 落とし穴で4000。竹槍の槍襖で3000。僅か2回の攻防で7000の犠牲。既に3割弱が戦死という異常極まりない事態に、敗北の2字が斗詩の頭脳を過ぎる。
 「ここは田豊殿と合流すべきですね。兵数的には多いのですから2手に分けた事自体は問題ありませんが、いっそ一纏めにして攻撃を仕掛けた方が良いかもしれません・・・誰か、田豊殿に伝令を。本陣と合流して下さい、と」

 翌日。田豊と合流した斗詩は、1つの決断を下した。
 策その物は非常に単純。単に城壁を破壊しての正面突破である。
 落とし穴は乗り越えられない。城壁を越えれば槍衾。ならば城壁を破壊して、竹槍を排除しつつ進軍すれば良い、と言う考えである。
 実の所、斗詩達としても、時間の余裕は無いと言うのが事実。故に、悠長に策を練る訳にもいかずに、今回の強硬策となったのである。
 数に物を言わせて、雲霞の如く石垣を引き剥がしにかかる兵士達。対する仲達側の兵士達も煮えたぎったお湯や油、弓矢等で必死に応戦を図る。
 しかし幾ら防壁という地の利があっても、さすがに多勢に無勢。石垣に群がる兵士を排除するには、勢いに違いが有り過ぎる。
 朝歌攻防戦開始から5日目。ついに城壁の一部が剥がれ落ちる。
 そこへ両軍の兵士が群がり、激しい戦いが始まるも、かろうじて仲達側が城壁の死守に成功する。
 だが6日目。斗詩達は朝歌の占拠に成功する。
 なぜなら、5日目の夜の内に仲達達は忽然と姿を消していたからであった。

 「これは一体・・・」
 先遣の兵から敵兵が消えたという報告を受けた斗詩は、完全に首を傾げていた。
 「田豊殿はどう思われます?」
 「単純に考えれば、抜け道があるのだろうな」
 「捜索には時間がかかりそうですね。私としては早く許昌へ戻りたいのですが、かと言ってこの場を放置する訳にもいきません。兵の疲れもありますし、日中はここを探索。一晩ここへ泊って、明朝には帰還としましょう」
 「確かに。念の為、見張りを巡回させよう」
 翌朝、袁紹軍を最大級の恐怖が襲うとも知らず、2人は朝歌に留まるという決断を下したのであった。

翌朝―
 「申し上げます!四方を曹操軍が取り囲んでおります!」
 朝日が差すと同時に駆け込んできた兵士からの報告に、顔良は顔色を変えて外へ目を向けた。
 四方を取り囲む牙門旗。
 東に数里離れた草原には『曹』『許』『典』『荀』。北へ極僅かな至近距離には『司』『夏』。南の森林地帯には『夏』『程』。西の数里離れた平原には『郭』『楽』『李』『于』『十』。その陣容に、顔色を青ざめさせる顔良。
 「しまった、曹操の目的は許昌なんかじゃない!」
 曹操の目的は、ここで袁紹軍の中核である己自身―すなわち袁紹軍最後の将軍を討つ事にあると悟ったのである。
 だからこその曹操軍全軍による包囲戦。今、曹操軍の本拠地を攻めれば、さしたる抵抗も受けずに荊州が占領出来る程に、多数の兵を布陣させているのだろうと判断した。
 「そうだった。文ちゃんと私がいなくなったら、誰が袁紹軍を纏めると言うのですか!何故、私はその事に思い至らなかったのか!」
 曹操軍は朝歌を遠巻きに取り囲んでいる。幸い、すぐに攻めてくる気配も無い為、斗詩は田豊と軍議を開くべく部屋を後にした。
 すでに仲達の撒いた悪意の種が芽吹いているとは露程も知らずに。

 状況を聞かされた田豊は、自分が嵌められた事に気付くと大きな舌打ちをしてみせた。その視線が向くのは北の陣―『司』の牙門旗である。
 「おのれ、司馬仲達!」
 「司馬仲達?まさか、以前報告のあった?」
 「そう、文醜将軍を捉えた男だ!」
 ギリッと歯軋りする田豊。
 「将軍。ここは残り全軍を率いて勝負を仕掛けるべきだ。狙いは北の陣。見た所、兵数は3000程度。こちらの兵は1万強。蹴散らすには訳も無い」
 「そうですね。朝食後、すぐに決戦の用意を兵に通達させて下さい」
 当然の指示に、頷く田豊。だが―
 「それはどういう事だ!」
 激昂する田豊。それは連れてきた兵士の中に、明らかに体調を崩している者が現れた為である。
 その数はおよそ4割。内1割は既に高熱を出し、全く起き上がれないという有様であった。
 無事な兵は8000弱。だが周りの兵が明らかに異様な状態なのである。いつ恐怖による大混乱が発生するかも分からない程に。
 何故なら、兵士達を襲っているのは病なのだから。
 「聞こえるか!袁紹軍副軍師田豊!」
 外から聞こえてきた声に、咄嗟に窓へと駆け寄る田豊と斗詩。北の陣からただ一騎で姿を現したのは、仮面を着けた漆黒の男―
 「司馬仲達!」
 「串刺しの死体の林!奈落の如き落とし穴!そして槍衾に刺された遺体!我が策、心行くまで楽しんで頂けたか!」
 「策だと!?」
 「そうだ!差し詰め、袁紹軍兵士達は恐怖の寸前の筈だ!そう、お前達を襲っている我が策の集大成!疫病の為にな!」
 仲達の宣言に、内心で『しまった!』と叫ぶ田豊。仲達の宣言は、あまりにも致命的過ぎたのである。
 疫病は克服等出来ない死の災害。すなわち『呪い』。一度起きたら、災厄が立ち去るまで死の恐怖に怯えながら隠れる事しか出来ないのである。
 それが自らを襲っているとしたら、兵士達が耐えられる訳も無い。ましてや、その死の災厄を操る者が敵にいると知ったのなら猶更である。
 「田豊!以前、私は棍使いでは無い、そう教えてやったな!今こそ教えてやろう、私は棍使い等では無い!毒使いだ!」
 「毒だと!?まさか、貴様、疫病を意図的に発生させたとでも言うつもりか!」
 「正解だ、田豊!お前達が特攻させた袁紹軍兵士達!その死体は毒の巣だ!お前達が兵士を突撃させる前に、その落とし穴の中には疫病で死んだ者の死体を入れておいたのだ!攻防戦に費やした7日という時間は、兵士の死体を毒の巣とするには十分すぎる時間!そして毒の巣の下には地下水が流れているのだよ!ここまで言えば、お前でも理解せざるをえまい!」
 恐怖が兵士達を襲う。そう、誰もが朝歌に進軍してから、当然の様に井戸水を飲んでしまっているのである。そして既に発病した兵士達を前にすれば―
 「覚えておくがいい!我、司馬仲達を敵に回すという、その意味を!その身を以て理解するが良い!」
 「「「「「「うあああああああ!」」」」」」
 兵士達の中で恐怖が爆発する。誰もが死にたくない。その一心で逃げ道を求めて、朝歌の外へと逃げ出し始める。
 「ま、待て!お前達、何処へ行く!」
 全力で身を乗り出して、兵を叱咤する田豊。だが死の恐怖に囚われた兵士達が、その指示に従う訳が無い。
 袁紹の暴政による忠誠と士気の低さも相まって、ついに袁紹軍は完全な崩壊を迎えた。
 「おのれ!司馬仲達!」
 怒りと屈辱に顔を歪める田豊。だがその田豊は、欄干を越えて地面へと落下した。
 「田豊!」
 背後で驚愕していた斗詩が思わず欄干へと駆け寄る。
 その視線の先には、大地に落下して全身を飛散させた田豊の死体があった。
 そしてその死体の中に、1本の砕けた矢があった事を知る者はいない。



To be continued...
(2015.05.02 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は仲達、モロに悪役です。どう考えてもバイオ兵器によるトラップです。間違いなく歴史に名を刻んでおります・・・悪役としてw
 そして恋姫世界苦労人第1位の座を争う、冥琳と斗詩。彼女達は彼女達で貧乏籤を引きまくりです。2人の未来に幸あれ、という感じです。
 話は変わって次回です。
 斗詩と田豊の離脱により、大打撃を受けた袁紹軍。曹孫連合軍は許昌進軍の為に、一方の涼州・蜀連合軍は朝歌攻防戦の情報を入手して、今後の戦略に頭を悩ます事に。
 そんな中、仲達の身に襲い掛かる影。
 その影はかつて『最強』と呼ばれた者であった。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで