碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第十三話

presented by 紫雲様


襄陽、軍議の間―
 「では太公望師叔がそう伝言を残されていったと」
 「西の壁。数多の命が散華する地。恐らくは」
 雪蓮がピッと地図の一角を指差す。その場所が示すのは―函谷関。涼州連合と袁紹軍の間で3年に渡って戦いが繰り広げられている地。
 「冥琳は説き伏せたわ。命と引き換えにしてでも孫呉の覇業に尽くすと最初は言っていたけど、孫呉の存続にも貴女の出番は必要だと言ったら、何とか了承してくれたわ」
 「治療は良いのだけど、そこまでの交通手段はどうするつもりかしら?」
 「長江を船で上って、漢中辺りに上陸。そのまま函谷関を目指すつもり。例え袁紹軍が気づいて追ってきた所で、水の上なら孫呉の得意な場所よ」
 『それに兵はほとんど連れて行くつもりは無いし』と気軽に答える雪蓮。
 「冥琳の護衛には私が就くつもり」
 「伯符さん!?」
 「さん付けされるのも新鮮ね?でもまあ冗談じゃないわよ。実は孫呉の王の地位だけど蓮華にあげちゃった♪」
 瞬間、シーンとなる軍議の間。頭痛を堪えているのは生真面目な蓮華。その腰には南海覇王が吊り下げられている。
 「・・・何と言うか貴女という人は・・・どうして勘だけでこちらが最善手として考えていた事をやらかしてしまうんですか・・・」
 「あら?仲達、じゃなかったシンジも同じ事考えてた訳?」
 「孫呉最強の武人が『王だから』と言う理由で最前線に出られないのは、純軍事的視点から見れば痛手以外の何物でもありません。仲謀さんの王としての器が、例え潜在的であったとしても貴女を上回ると気付いたからこそ、1つの手段として考えていただけにすぎませんよ。王として仲謀さん、大将軍として伯符さん、筆頭軍師として公瑾さん。この布陣が孫呉にとっての理想でしたから」
 意外な好感触に目を丸くする雪蓮。どうやらお叱りを受ける事前提でいたらしい。
 「まあ川を使うなら、行って帰って半月かからないでしょう」
 「早いわね?」
 「残った面々で許昌と汜水関落としておきますから。襄陽まで帰る必要はありませんよ」
 シンジの言葉に目を丸くした後、大爆笑する雪蓮。
 「僕の名前が武器として使える間に、落とせる所は落としておくべきです」
 「それについては賛成ね。桂花!これより1刻以内に連合軍軍師を集めて許昌攻略戦の策を練り、私と呉王孫権殿へ報告しなさい!内政面については全て文官へ丸投げで構わないわ。重要事項の懸案については全て裁可済み。後の事は実務だけで済む筈よ」
 「わかりました、華琳様!」

その日の午後―
 華琳の計らいによって用意された船を見送る為、シンジと蓮華は船着き場へと足を伸ばしていた。
 函谷関へ旅立つのは冥琳と護衛役の雪蓮。そして雑務と護衛を務める兵士が数人と言った所である。
 「じゃあ、行ってくるわ」
 「冥琳、気を付けてね。姉様が付添だと不安で仕方ないのだけど」
 「蓮華様。そのように事実を口になされるのは・・・」
 「2人とも酷いわ!何で私だけ、そこまで言われないといけないのよ!」
 その言葉にジトーッと冷たい視線を送る2人。その無言の圧力に『う』と呻き声を上げる元凶。
 「公瑾さん。こちら仙界で『常識的な』方々が愛用されている胃薬です。肺病の進行を止める薬と併用しても副作用は無いので、安心してお使いください」
 「有り難い。実の所、肺の薬より有り難いかもしれんな」
 「酷過ぎるうううう!」
 遂に泣き真似を始める元・孫呉の王。そんな彼女を生温かく見守る視線が3対―
 「って、ここは優しく慰める所じゃないの!?」
 「「「何で?」」」
 とうとうマジ泣きし始める雪蓮。さすがに見かねたのか冥琳が声をかける。
 そんな2人を笑いながら見守る2人。
 「さて、そろそろ行くとするか。ほら、雪蓮。護衛が蹲ったままでは、私はどうすれば良いのだ」
 「うう、みんなのイジワル・・・」
 「愚痴は酒でも飲みながら聞いてやる。ほら、行くぞ」
 冥琳に引きずられながら、ズルズルと船へ移動する雪蓮。どちらが主か分からない光景に、シンジと蓮華は苦笑しながら遠ざかっていく船影を見送った。
 「それじゃあ、そろそろ戻りましょうか」
 「ですね、陛下」
 「まだ正式に戴冠はしていないから、今まで通りで良いわよ。そういえば、今更なんだけど、どうして仲達、じゃなかった、シンジは真名を口にしないの?孫呉のみんなから、真名を許されているのに」
 当然と言えば当然の疑問に、シンジは蓮華から視線を外しながら呟いた。
 「真名を許される程に仲良くなってしまうと、別れの時に辛い想いをする事になります。僕はいずれ、この大陸から離れなければならない身。そしてみんなは、この大陸に必要な人達。だったら、距離を取り続ける方が良いんですよ。一生を添い遂げる事等、許されない立場なんですから」
 「じゃあ、これからずっと独りで生き続けるつもりだと言うの?」
 「そのつもりです。一度だけ真名を許す程に仲良くなった子達がいました。今にして思えば後悔しています。何故、心を鬼に出来なかったのか。相手を幸せに出来ない男に、真名を呼ぶ資格等無い。その事にどうして気づけなかったのか、と」
 襄陽城への帰路に着こうと、近くの木に繋いでいた騎馬へと向かう2人。そして騎馬へ乗ろうとした所で、蓮華がスッとシンジへ近寄る。
 そのまま手をシンジの頬へと伸ばした。
 「・・・シンジ。やっぱり、貴方は真名を呼ぶべきよ。少なくとも、私はそうして欲しいわ」
 「どうしてですか?僕にそのような資格は無いと申した筈です」
 「別れが辛い。それは事実よ。だったら、何とかしてみなさい!貴方は孫呉の誇る知恵袋であり、同時に反董卓連合軍を手玉に取った智者なのよ!自分の望む未来を掴む為に、その知恵を絞りな」
 鈍い音とともに、シンジの腕の中に崩れ落ちる蓮華。何事かと目を丸くしたシンジの目が捉えたのは、着弾の衝撃で細かく震える1本の矢。
 「蓮華!」
 一瞬で事を察したシンジが叫ぶ。同時に『蓮華様!』と叫びながら、護衛の兵士を引き連れた明命が駆け寄った。
 「な、何が?それに、熱い・・・」
 「しまった!明命、すぐに犯人の確保を!毒の正体が分かれば、手が打てる!」
 「分かりました!しばしお待ちを!」
 矢の角度からおおよその見当を付けると、明命はあっという間に姿を消してしまう。
 「我慢して!」
 誤って舌を噛まないように、蓮華の口へ布を噛ませると、シンジは右肩へ刺さった矢を引き抜いた。返しのおかげで裂けた肉の痛みに、蓮花が苦痛の悲鳴を上げる。
 そのまま傷口へ口を当て、毒ごと血を吸いだす。その度に近くに吐き捨てるが、2・3度繰り返す内に、シンジは毒の正体に気付いた。
 体内に生じた違和感。宝貝である右腕の恩恵のせいか、シンジの体内へ入った毒は瞬く間に強制分解されて無毒化していく。
 ただここまでの即効性と、舌―粘膜経由での毒の浸透。更には微量であるに関わらず、これほどの毒性を発揮する物。シンジの脳裏に浮かんだのは、あまりにも有名な有毒植物であった。
 だが今すぐに打てる手は無い。常に持ち歩いている消毒用アルコールで肩の傷口を消毒すると、布できつく縛って応急処置を終える。
 そこへ戻ってくる明命。
 「申し訳ありません。毒物は手に入れたのですが、解毒剤は持っておりませんでした」
 明命が布に包んで持ってきたのは、青い花を途中から引きちぎられた植物―
 「やはりトリカブトか。最悪だ!トリカブトには解毒剤が存在しない!」
 「そんな!?何とかならないのですか!」
 「何とかするさ!とりあえず僕達は城へ戻る!明命は先に全力で城へ戻って事の次第をすぐに伝えてくれ!兵士達は犯人を護送!絶対に自殺させるな!」
 ギリッと歯軋りすると、シンジは蓮花を抱いたまま馬に跨り、襄陽の城へと駆け戻りだした。

 孫権襲撃される、の報告は瞬く間に襄陽城の連合軍上層部へ伝えられた。
 犯人は確保済。蓮華の治療の為の部屋も準備された。ただ解毒剤が無いという現実に、城中に緊張と不安が走る。
 そこへ蓮華を抱いたシンジが到着したと聞いた諸将は、慌ててその場へと駆け付けた。
 「シンジ!」
 「部屋の用意は出来ていますか!?」
 「こっちだ!」
 一刀が案内した先。そこには質素ではあるが、日当たりの良い静かな部屋である。
 そこ設えられた布団に横たえると、シンジは一刀へ目を向けた。
 「一刀!君に頼みたい事がある!」
 「俺に出来る事なんだな?」
 「ああ。孫呉の将だけで良い。人工呼吸のやり方を教えてやってくれ!詳しい説明は後で必ずする!」
 切羽詰まったシンジの態度に、祭や穏達は心配そうにしながらも、人工呼吸の説明を受ける為に別の部屋へと移動していく。
 「それから許緒さん!君にも作って貰いたい物がある!ドンブリに水を一杯入れて、その中に砂糖3摘みと塩を1摘み入れた物を作ってくれ!それが蓮華の生命線になる!仕上がりは一刀に訊いてくれれば良い!スポーツ飲料と言えば分かる筈だ!」
 「す、すぽおつ飲料?良く分かんないけど分かりました!兄様に訊ねながら作ってみます!」
 「頼む!体内の毒を強制排除するのに必要なんだ!出来るだけたくさん頼む!」
 駆け出していく流琉。そのまま今度は三羽烏達へ目を向けた。
 「違う大きさの鍋を2つ用意して、それぞれに水を入れてほしい!あと大きい方の鍋にだけ、硝石をたくさん入れて欲しいんだ!」
 「分かったよ、任せて」
 「・・・治療の目途は?」
 「鳥頭―トリカブトには解毒剤が存在しません。そしてその死因は心臓の動きの阻害―医学用語で心室細動や心停止と呼ばれる症状にあります。ですから、本人の体力勝負に任せるしかありません」
 「何とかならないのですか?」
 「・・・今から深夜までが山場です。明日まで持ち堪えれば、峠は過ぎたと見てよいでしょう。ですがこちらもただ見ている訳ではありません。いくつか対抗策を考えてきましたから」
 そこへ即席のスポーツ飲料を作った流琉が飛び込んでくる。それを受け取ったシンジは、軽く蓮華を揺すった。
 「・・・シンジ?」
 「これを飲んで。体の中の毒を排出してくれる」
 「・・・そっか・・・私、毒矢で・・・」
 「ゆっくり飲んで。慌てなくて良いから。僕も毒使いだ。難しい事は専門家に任せてジッとしていれば良いからね」
 「・・・うん。分かったから、飲ませて」
 素直に水分を補給する蓮華。
 「鳥頭―トリカブトは猛毒ですが、2つだけ幸運な点がありました。1つは毒の専門家である僕が近くにいた事」
 「まさに不幸中の幸いね」
 「もう1つは蓮華が孫家の娘であった事。一般人よりは遥かに強靭な肉体を生まれながらに持っていた事です」
 「どういう意味ですか?」
 「・・・みんなは自覚が無いんですね・・・まあ、隠しておくような事でもないか。例えばですが、曹魏の典韋さんや許褚さん、劉玄徳の張飛さん。いずれも子供ですが、大人顔負けの身体能力を有しています。また将軍級の女性は、すべからく男性成人ですら足元にも及ばぬ身体能力を持ち合わせています。特に飛将軍呂布はその中でも頭2つは抜きんでていると言っても過言ではありません。何故、このような『規格外』の身体能力を持って生まれて来たのか?疑問に持った事は有りませんか?何故、自分には普通の身体能力しかないのか、その理由について調べた事はありませんか?荀彧さん、郭嘉さん、程昱さん」
 言葉も無い一同。軍師3人もその疑問は考えた事があったのだが、遂にその答えにまでは至る事は出来なかったのである。
 「それは将軍級の人物は、すべからく仙骨を持っているから。しかし修業していないが故に、仙骨から生み出される力は全て身体能力へと回っている。易姓革命において『天然道士』と呼ばれた存在。それが貴女達なんです」
 「つまり、本格的に修業を始めれば」
 「仙人になれるでしょうね。ただし修業は数十年単位ですから、戻ってきた時には誰も生きていない可能性もありますが」
 「・・・これは好奇心ですが、貴方はどれぐらい修業していたんですか?いわゆる実年齢という奴ですが」
 「14の時に蓬莱島へ強制転移で出現。そこで20年間師匠の下にいました。こちらへ来てから3年経ちますから37歳になります。もっとも精神年齢は外見に合わせていますけど」
 37歳という告白に、違う意味でざわめきが広がる。外見年齢は20に届かないのだから、驚くのは当然なのだが。
 「話を戻しますが、蓮華もそうした天然道士の1人なんです。ただ一言で天然道士とくくっても、その力に差はあります。例えば蓮華の天然道士としての力は、本人を前に申し訳ないですが最下級になります。それでも一般男性と比較すれば、天と地ほどの差はあるのですが」
 「となると、最上級に位置するのは夏候惇将軍辺りになるのですか?」
 「ですね。僕の所感ならば、他には夏侯淵将軍、典韋さんに許緒さん。孫呉だと伯符さん、甘寧将軍、黄蓋将軍。蜀漢だと関羽将軍、張飛将軍、趙雲将軍。直接会った事は有りませんが噂が正しければ、黄忠将軍も同様でしょう。涼州連合だと飛将軍呂布、張遼将軍、華雄将軍、馬超将軍辺りですかね」
 有名どころがズラズラ並ぶ。あまりにも豪華絢爛すぎる顔触れに、立ちくらみを起こす者が若干名いたりもするが。
 「天然道士は反則ですよ。極めれば数の暴力が意味を為さなくなりますからね」
 「そうなのですか!?」
 「黄巾の乱において、呂布が3万の兵を1人で倒したと言うのは事実です。張遼将軍から聞きましたが、戟を1振りしただけで兵士10名を吹き飛ばしたって尋常じゃないでしょう?そんなバケモノ相手に、生半可な知恵が通用すると思いますか?無理でしょう」
 天然道士には天然道士か本物の道士をぶつけるしかないんです、というシンジの言葉に唖然とするしかない風。
 個の武が、数の武を凌駕するなど、有ってはならない事なのだから。
 「そういう意味では楚の項羽も、呂布のような極めた天然道士だったのかもしれませんね」
 そこへ息を切らしながら、飛び込んでくる影が3つ。
 「仲達!持ってきたぞ!」
 「助かりました!脇へ置いておいてください!」
 硝石と水を入れた大鍋の中に、小さな鍋を入れるシンジ。ヒンヤリと冷えた水の中へ手拭いを入れると固く絞って蓮華の額と首筋に当てていく。
 「・・・ヒンヤリして気持ち良いな・・・」
 「人間の体は、体内に害を及ぼす異物が入り込むと、体温を上昇させて蒸し殺そうとする機能を持っています。だが脳みそは、その熱に耐える事が出来ません。そこでこうして冷やす事で、血液を冷却。脳への負担を減らすんです」
 発汗作用と冷却作用を使い分けて、効率よく毒の排出を行うシンジ。そこへ人工呼吸の説明を終えた一刀達が戻ってきた。
 「調子は?」
 「・・・発汗作用による毒の排出と、それに伴い失われる水分と塩分、ミネラル分と糖分の補給。42℃を超える体温による脳へのダメージ軽減。後は本人の体力次第だ」
 「助かるのか?」
 「助けてみせます。それより、事態が悪化した時には貴女達の助力が必要です。その時の為に備えて、今は体力を温存しておいて下さい」
 コクッと頷く祭達。
 「孟徳さん。曹魏の方にお願いしたい事が有ります。犯人の取り調べを魏でやって頂きたいのです」
 「・・・良いのかしら?」
 「今の孫呉の諸将では、感情的になって暴走した挙句に犯人を殺しかねません」
 「確かに言えるわね。分かったわ、それはこちらで受け持ちましょう」
 孫権への襲撃は、曹魏に対して直接的なダメージはない。だが元・王孫策と筆頭軍師周瑜の不在に加えて、新たな王孫権までも不在となれば、連合軍として出撃する事は事実上不可能である。
 結果、シンジの名を利用した許昌攻略戦は断念せざるをえなくなった事に、怒りを覚える華琳。 
 「秋蘭、犯人の尋問を任せるわ。流琉と一刀は聞軍師の手伝いを。それから桂花と凛と風は、私と至急軍議を開く。孫呉を動かせぬ以上、魏一国での許昌攻略も視野に入れておく必要があるわ」
 急展開した事態にほぞを噛みながら、華琳は足音も荒く軍議の間目指して歩き出した。

その日の夜―
 「孫仲謀の容態は?」
 「一進一退との事です。仲達、いえ聞軍師がつきっきりで看病に当たっておりますが、いまだ楽観視は出来ないとの事でした」
 「全く余計な事をしてくれるわね。ところで秋蘭、犯人だけど?」
 「どうやら袁紹軍軍師李儒に雇われた様です。暗殺対象は呉王ではなく、本来は聞軍師を狙っていたとの事でした。ですが幸か不幸か、毒矢を放った後に射線上へ呉王が偶然にも割って入ってしまった、という理由だそうです」
 最悪の偶然に、苦虫を噛み潰したような、渋面を作る華琳。
 そこへ『華琳様!』と駆け込んでくる季衣。
 「どうしたの?」
 「呉王の容態が悪化しました!」
 「何ですって!?」

 「ど、どうするのじゃ!」
 「慌てないで下さい!容態が悪化するのは織り込み済です!それよりこれから一晩忙しくなりますよ!」
 右腕を捲り、宝貝の右腕を晒すシンジ。
 「蓮華の呼吸が止まったら、教えて貰った通りに人工呼吸を行って下さい。今が一番状態が悪い時ですから、ここを乗り越えれば蓮華は回復します!長期戦になると思いますから、適当な所で交代しながらお願いします。一刀、悪いがペース配分を手伝ってあげて欲しい」
 「ああ、任せてくれ」
 「よし。僕は心臓の方に専念するから。緊急事態以外は声をかけないように頼むよ」
 トリカブトの毒による心室細動を起こし始めた蓮華の左胸を露わにし、その上に宝貝である右手を添える。
 「母さん、お願いだ。蓮華を助ける為に力を貸して。僕のせいで誰かが死ぬのを見るのは嫌なんだ。綾波やアスカを失ったと思った、あの時みたいな思いは二度としたくないんだ。だから、僕の人間の部分が必要なら、代償として持っていって!国際連合非公開組織特務機関NERV作戦部所属。汎用人形決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン初号機専属パイロット。サード・チルドレン碇シンジ!」
 途端、宝貝として解放されたシンジの右腕がドクンと脈打つ。そして蓮華の左胸に文字通り『波紋』が生じる。そしてスルリと右手が左胸に沈み込んだ。
 異様な光景に目を丸くする一同。だが声をかけようにも、シンジの緊張しきった表情に声をかけるな、と言われた事を思い出して言葉を無理矢理呑みこむ。
 そこへ駆け込んできた曹操軍メンバー達。彼女達も同様に声を無くすが、一刀の『静かに』というジェスチャーには素直に従った。
 「よし、掴んだ」
 体内に潜らせた右手が、心室細動を起こしている心臓を掴む。そのまま手加減しながら血流を強制的に送り出す。
 (・・・一刀、聞軍師は何をしている訳?)
 (まともに動かなくなった心臓を強制的に動かしているんだよ、まともになるまでひたすら動かし続けるつもりだろうな)
 (アレも天の国の知識?)
 (あんな非常識なやり方じゃねえけどな。本来は外から何度も押すのが普通。或いは電気ショック―人工の雷を利用した技術の事な?最終手段として、皮膚と肋骨を切って直接心臓に触れる方法もあるけど、アイツは体内に手を潜り込ませるだろ?どう見ても仙界の力を使ってるんじゃねえのか?)
 (仙界と天の国の技術の融合って所かしらね)
 シンジの直接の心臓マッサージと、呉の将による人工呼吸。蓮華が死の淵でかろうじて踏み止まっていられるのは、その2つがあってこそ。
 (・・・蓮華・・・必ず助けるから・・・)

 翌朝。再度、見舞いへ訪れた一刀達。その視線が捉えたのは、静かに寝息を立てる蓮華と、その脇で崩れ落ちて眠っているシンジ。そして蓮華を見守る呉の諸将達であった。



To be continued...
(2015.08.01 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は原作で起こった雪蓮イベントを蓮華に起こしてみました。シンジにもっとも近い董卓軍3人娘の強力なライバル登場といった所です。
 ちなみにシンジの心臓マッサージですが、アレはユイがATフィールドを操っているという設定です。原作だとATフィールドによって肉体が構成されている訳ですが、それを知るのは劇場版です。何でシンジがそれを知っているのかは、太乙真人が研究中に理解したからに他ありません。マジで仙界組はチートですw
 話は変わって次回です。
 追い込まれつつある袁紹軍。その中でも武の要である斗詩と猪々子は主である麗羽を助ける為に、敢えて裏切りを決意する。
 一方で袁紹軍軍師李儒は、反袁紹軍勢力を一網打尽にするべく、五胡を利用した戦略を実行に移す事に。
 董卓軍、劉備軍、曹操軍、孫権軍、馬騰軍、全てに異民族が同時に侵攻を開始する。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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