碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第十四話

presented by 紫雲様


洛陽―
 「李儒。噂は私の耳にも届いておりますわ」
 「反乱軍の事でございますな?董卓・劉備連合軍は洛陽へ進軍の為に虎牢関で全軍集結中。曹操・孫策連合軍は許昌を落として、汜水関での戦闘へ突入しております」
 玉座に座る袁王朝初代皇帝袁紹本初の問いかけに、筆頭軍師であり、同時に丞相の地位にある李儒は恭しく応えた。
 「しかしながら何も問題はございません。既に我が策は動き出しております。もう間もなく、彼女達の所へ急使が届く頃合いでしょうな」
 「・・・そう。まだ戦いは続くのですね」
 「袁王朝が大陸を統一するまでの事。それまでの辛抱でございます。それでは、私も時間稼ぎの為に戦場へ向かわせて頂きます」
 謁見の間から立ち去る李儒。その背中を見ながら、麗羽には溜息を吐く事しか出来なかった。
 皇帝。3年前までは、まさか己がその地位に就くとは欠片ほどにも考えていなかった。
 それも反董卓同盟結成の責任の為に、全てを失ったからこそ、手に入れた物。
 誰もいない謁見の間から立ち去る麗羽。そのまま猪々子の部屋へと向かい、中へと入る。
 「姫」
 「文醜さん。顔良さんの容態は?」
 「大分マシになりました。あたいの斗詩は、こんな病気なんかに負ける奴じゃないですから!」
 疫病に感染させられた5000の兵と指揮官顔良。彼女達は洛陽へと入る事は叶わなかった。それは疫病の恐ろしさを良く知るが故の判断である。
 だがそれは、民の間に不穏な空気を立ち込めさせる結果を生んだ。まだ爆発はしていないが、いずれは爆発するのは目に見えている。
 そんな中、どうして斗詩だけが宮中にいられるのか?
 それは麗羽が隠し通路の存在を知っていたからである。
 洛陽炎上の際、王宮は焼け落ちた。だが運良く焼け残った場所もある。
 皇帝となった後、そんな場所を暇潰しがてら散策していた麗羽は、ちょっとした偶然から隠し通路を発見。その通路が洛陽の外にまで繋がっている事を知った彼女は、袁家から追放された後も自分に着いて来た猪々子と斗詩にだけコッソリ教えたのであった。
 その通路を使って『斗詩が病気にかかった』と助けを求めてきた猪々子に、麗羽は猪々子の部屋に斗詩を匿う事を提案。猪々子もその提案に素直に従い、今は『曹操軍に敗れた戦の責任を取って謹慎中』という大義名分の下、部屋に閉じこもったまま斗詩の看病を続けていたのであった。
 更に下働きの者達を近づけぬ為に『身の回りの事も全て自分でやる事』という罰を追加する事で、下働きの者達が部屋へ入る事を禁止。結果、掃除洗濯も自分でやる事となった代わりに、猪々子は斗詩の存在を隠し通す事に成功したのである。
 「・・・姫、李儒や沮受はどうしているんですか?」
 「李儒は函谷関へ、沮受は汜水関へ出撃しましたわ。何か考えがあるみたいでしたけど」
 「あたい馬鹿だからなあ・・・斗詩さえ元気なら・・・」
 「・・・文醜さん。これを」
 スッと差し出したのは小さな袋。その中にはギッシリと砂金が詰まっていた。
 「姫。本当にありがとうございます」
 「今の私には、これぐらいしかできませんわ。所詮、私は操り人形に過ぎない身。だからもう私に忠誠を尽くす事はありませんわ」
 「姫!?」
 「・・・今更ですけど、私は李儒の甘言に乗るべきではなかったのです。ですが、顔良さんや文醜さんまで、私に付き合う必要はありませんわ。顔良さんの容態が落ち着いたら、医者を捜して診て貰った方が良いでしょう」
 そのまま踵を返す麗羽。その背に猪々子が『姫!』と叫ぶ。
 「今の私は袁王朝初代皇帝袁紹本初です。姫等と呼ばれる筋合いはありませんわ。だから・・・不敬罪の罰として文醜さん。貴女を追放致します」
 「姫!何で!」
 「・・・幸せになりなさいな。顔良さんにも宜しく伝えておいて下さい」
 パタンと戸を閉める麗羽。その背に手を伸ばそうとしたが、その手も声も主の背に届くことは無かった。
 「何で、何でだよ姫。あたいと斗詩は、どこまでも姫に着いていく。そう約束したじゃないかよ・・・」
 「・・・姫らしいわね」
 「斗詩!気付いたのか!」
 「まだ治ってはいないけど、少しはマシになったみたいね」
 体中を襲う高熱と寒気、倦怠感に顔を顰める斗詩。
 「私は大丈夫。もう少し経てば、多分治るから」
 「良かった、良かったよ、斗詩」
 「それより文ちゃん。姫の事よ。姫は自分を追いつめているわ。もう心が限界に近づいているのよ」
 「・・・だよな。姫、本当は優しい人だからな。民の怨嗟の声に、良心が耐えられなくなっているんだと思う。どうすりゃ良いんだよ」
 ガシガシと頭を掻きながら、必死に知恵を巡らす猪々子。そんな相棒に斗詩がポツリと呟く。
 「助けを求めましょう。候補としては蜀の劉備か涼州の董卓。でも董卓は以前の件が有るから、劉備の方が話はし易いと思うわ。曹操と孫策については、相談してもバッサリ切り捨てられそうだから、するだけ無駄でしょうね」
 「けどよ、話、聞いてくれるかな?だってあたい達、って言うか李儒の奴が、劉協殿下や少帝陛下、それに聞侍従を殺しちまってるんだぜ?・・・ん?」
 何かが頭の片隅を過ぎった事に気付く猪々子。
 「・・・なあ、斗詩。1つ訊きたいんだけどさ、あたい達より頭1つ背の高い男って会った事ある?」
 「私達より背の高い男の人ですか?そうですね、何人かはいるでしょうが、頭1つとなると聞侍従ぐらいでしょうか?」
 「いるんだよ。孫策軍の中に、頭1つ高い仮面を着けた男が」
 目を丸くする斗詩。恐るべきは猪々子の直感である。
 「そういえば、朝歌で連合軍を束ねていた男―司馬仲達も、確か仮面を・・・」
 「多分、そいつだろうぜ?けどよ、偶然なのか?」
 「私も文ちゃんも、聞侍従には3年前に数える程しかお会いした事は無いから、正直、声を聴いていてもハッキリとは断言できないわ。顔を見ることが出来れば、話は別だけど」
 「だな・・・お、おい斗詩?」
 歯を食い縛りながら、体を無理矢理起こす斗詩。息は荒く、まだ回復していないのは一目瞭然である。
 「もう時間が無い。今は無理をしてでも動くべき時。行きましょう、函谷関へ」

蜀漢、成都―
 「申し上げます!南方より南蛮の軍勢が攻めて参りました!」
 その報告を受けた留守番役・法正はすぐに函谷関に居る筈の主・桃香の所へ急使を飛ばした。
 ただし戻って来るには相当の時間は必須。となれば、その間の時間稼ぎが必要となる。
 武の中心である愛紗、鈴々、星、紫苑は函谷関へ出陣中。桔梗と焔耶は紫苑と星と交代の為に、軍を率いて成都から出立済。急使に気付いて戻ってきたとしても、10日は必要である。
 智の中心である朱里、雛里はやはり函谷関へ出陣中。結果、智将とは言え、政が専門家である法正・張松ぐらいしか成都にはいない。
 「・・・仕方ない。戦は本職ではありませんが、そうも言ってはいられませんか」
 「騒がしいのう。法正殿、何か凶事でも?」
 「盧植将軍!」
 主・桃香が敬愛する師・盧植が成都へ来ていた事を思い出す法正。
 「盧植将軍!恥を忍んでお願いしたい儀がございます!」
 「ふむ。まずは話を聞こうかの。法正殿が悩むぐらいなのだ、相応の問題じゃろうて」
 「はい、実は・・・」

数日後―
 「うにゃああああああああああ!」
 「ほっほっほ。今日も元気じゃのう、お嬢ちゃん」
 「お嬢ちゃんじゃないにゃ!みぃには南蛮王孟獲という立派な名前があるにゃ!」
 南蛮討伐軍総大将の地位に就いた盧植は、5万の軍を率いて南方へ出撃。囮による背後からの奇襲攻撃という基本的な策を使って討伐に成功したのだが、ここで問題が起きた。
 それはみぃの諦めの悪さである。
 「後ろから殴るなんて卑怯だにゃ!そんな奴にみぃは絶対に降伏しないにゃ!」
 この言葉に、幕僚からは首を刎ねましょうという台詞が飛び出す。だが盧植はそれを退けると、一考した末にみぃと賭けをしたのである。
 「お嬢ちゃん、そなたに6回の猶予をやろう。じゃがそなたの意地の為に、突き合わされたそなたの兵―家族が死んでいくのは本意ではあるまい。故に、そなたは1人で儂を捕まえるのじゃ。しかし、逆にそなたが儂に捕まえられたら、猶予が1回潰れる事になる」
 これを承諾したみぃは、いきなりその場で盧植を捕まえようとする。だがそこは盧植。将軍の称号を伊達で付けている訳では無い。
 剣を抜かずとも、みぃを捉えるぐらいの力量は持ち合わせている
 「にゃ、にゃんでにゃあ!?」
 「この盧植。老いたりとは言え、漢王朝の将軍。武に覚えが無いとでも思うたか」
 アッサリと捉える盧植。武では勝てないと踏んだのか、素直に撤退するみぃ。その背中へ『あと5回じゃぞ』と言葉を送る盧植。
 そのまま密林の中で本陣を張った盧植は、みぃの襲撃を待ち続けた。その盧植の判断に部下達は当然の如く疑問を投げかける。
 『本当に来るのでしょうか?』と。
 「来るに決まっておる。あれでも南蛮の王じゃぞ?ここで尻尾を巻いたら、部下に見限られる事ぐらいは理解しておるじゃろう。あのお嬢ちゃんは、己の為に攻撃してこなくてはならんのじゃ。己が有利な立場を捨てた事に気付かずにな」
 盧植の言葉に首を傾げる一同。そんな部下達を諭すように言葉を紡ぐ。
 「戦の難点は補給路にある。じゃがここであのお嬢ちゃんが来るのを待ち受けていれば、儂らは補給路に頭を悩ます事はない。蜀はすぐそこじゃからのう。もし儂らの方からノコノコ突っ込んでみよ。補給は元より、道なき道に迷うた挙句、奇襲攻撃を喰らって大損害を被るじゃろうて」
 史実においては、晩年は袁紹の軍師を務めたと言われる盧植。その頭脳の冴えは、老いてなお益々磨きがかかっている。そんな盧植の言葉に、部下達は感心する事しきりである。
 「それにしても心が躍るのう。若い娘の啼き声は」
 「「「「「「は?」」」」」」
 「今は亡き霊帝陛下から『若い娘と遊び過ぎだ』とお叱りを受けて、王宮から放逐されて以来、女遊びは止めておったのじゃ。いやいや、久方ぶりに血が滾るわ。これでも桃香や白蓮の教師じゃったからの。さすがに生娘の生徒を前にヤンチャするのは、のう?」
 シーンと静まり返る蜀軍総勢5万。
 「漢王朝のチョイ悪親父の称号は陶謙にくれてやるつもりじゃったが、思い出してしまったからにはくれてやるのが惜しくなったわい。南蛮王孟獲、この老骨が『飽きるまで』付き合って貰うぞ?」
 ニヤリと笑う盧植。その瞬間、蜀軍5万の軍勢は心の中で一斉に『みぃちゃん逃げてええええ!超逃げてえええええ!』と叫んだそうである。

西涼―
 代々、異民族対策の為に、西涼の地を預かってきた馬一族。その馬一族は、いよいよ戦が始まるとあって臨戦態勢にあった。
 敵は五胡の内の2つ。羌族と匈奴。その軍勢は総数10万を超える騎馬隊と予想されている。馬騰も細作を送り情報収集に当たっている物の、その状況は芳しいとは言えなかった。
 だが情報が無いからと言って、無抵抗を貫く訳にもいかない。異民族が領内へ雪崩れ込めば、無辜の民が犠牲になると分かりきっているからである。
 故に、馬騰は出陣する。情報無き、不利な戦いに。
 数の上でも、自軍の3倍以上を擁する敵軍に。
 家来達も死を覚悟している。それでも後継ぎである翠は函谷関に居る為、この戦で馬一族の血が絶える事は無い。それだけを救いとして、彼らは最期の戦いに赴く。
 そう、最期の戦いに赴く筈であった。
 「・・・一体、何が?」
 細作から伝えられた唯一の情報―敵軍が陣を張っているという場所。
 そこにあったのは『戦場跡地』である。
 炭となり、灰となり、ガラクタとなった軍需物資。そして息絶えた無数の異民族。
 「・・・お前が馬騰将軍か?」
 突然の呼びかけに、剣を抜き放ちつつ振り向く馬騰主従。そこにいたのは、漢民族とは違う民族衣装を纏った男である。
 年の頃は20代半ば。馬に乗った青年は、武器を持たずに馬を近寄らせた。
 「俺は羌族の長を務める者だ。故あって、お前達を囮に匈奴の軍勢を滅ぼさせて貰った」
 「・・・どういう事だ?お前達は同盟を組んでいるのではなかったのか?」
 「同盟か、確かにそうだが、俺は一族の長として、一族の為に必要な事をしただけだ」
 どうして匈奴の軍勢を滅ぼす事が羌族の為に繋がるのか?
 それが理解出来ないが故に、馬騰は青年の真意を理解出来ない。それが顔に出たのか、青年は何も言う事無く馬を返した。
 「・・・もし、まだあの男が生きているのなら伝えるが良い。お前の師と、我ら一族は同じ血を持つ者。その弟子であるお前が頼むのであれば、我らは力になろう。では、またいずれ」
 「待ってくれ!お前の言うあの男とは一体誰の事だ!」
 「聞シンジ。2年前、我らの下を訪れた男の名だ」
 そのまま少し早めの速度で馬を駆けさせて、男は草原の彼方へと消えていく。その背中を見ながら、馬騰は呆然と呟いた。
 「2年前だと?あの男は洛陽炎上の際に死んではいなかったのか?確かに陛下や殿下はご存命であらせられる。それを考えれば不思議ではないが・・・」
 思索に耽ろうとするが、すぐに今はその時では無い事に気付き、撤収の指示を出す。敵が滅んだ以上、このまま軍を揃えていても意味が無い。
 「誰か。函谷関へ早馬を飛ばせ。聞シンジは存命。羌族と約を結んでいたおかげで、西涼は攻撃を受けずに済んだ、とな」
 「は!直ちに!」

許昌―
 「荊州南郡より山越が国境を侵してきたと言う早馬が参りました!」
 「そう。でも対策はしてあるのでしょう」
 「はい。華琳様が残した準備通りに防衛戦を行っている、との事でございます」
 中央進出にあたり、もっとも危険なのは背後を異民族から脅かされる事。それを防ぐ為に華琳は様々な対策を講じていた。その1つが住民を城へ避難させつつ、兵は防衛戦に徹しさせる、と言う物である。
 「山越は1人1人は恐るべき武の持ち主。でも南方の山岳という出自故に、騎馬の扱いを得手とする者は少ない。故に数に任せた弓矢の攻撃に対しては無力となる」
 「はい。加えて『孫』『陶』の旗を掲げた一軍が背後から奇襲。山越は総崩れとなり、戦局は我らに有利、との事です」
 『孫』『陶』の旗。その言葉に華琳が蓮華へチラッと目を向ける。
 「それ妹と、陶謙殿よ。孫呉は山越とは頻繁にやりあっていたからね」
 「今は礼を言っておくわ」
 「こちらも意趣返しみたいな所があるから、国境侵犯だけ目を瞑ってくれれば、それだけで十分よ。それより幽州・冀州からも早馬が来たんだけど、こっちは烏丸が攻めて来たわ。間抜けな事にね」
 「・・・今の幽州・冀州攻めても意味は無いわね」
 「そういう事。食料は全て持ち出して何も残ってない。民は全員避難して誰もいない。いるのは袁紹軍の兵士だけ。烏丸の連中、民と袁紹軍の区別がついていないらしくて、正面切ってぶつかり始めたそうよ?」
 もし烏丸が無理に進軍してくれば話は変わるが、それには中央か徐州辺りまで足を伸ばす必要がある。だがそんな事をすれば、食糧が足りなくなって撤退を余儀なくされるのは間違いない。
 「とりあえず異民族対策は、脇へ置いておきましょう。それより汜水関攻めがそろそろ始まるわ。私達も本陣を率いて出陣しましょうか」
 「そうね」
 愛用する絶を手にした華琳は、南海覇王を携えた蓮華とともに謁見の間から姿を消した。

函谷関―
 袁紹配下・軍の中心人物斗詩・猪々子の投降と、麗羽の助命嘆願願い。及び聞シンジらしい男が孫策軍に所属している事。
 蜀への南蛮の進出と、それに伴い桔梗軍が急遽成都へ舞い戻った為に軍の運営に支障が生じた事。
 西涼への羌族と匈奴の侵攻。ただ羌族と聞シンジの間に約が結ばれていた為に、羌族は馬騰側に味方した事。
 そしてあろうことか、孫呉の王―自称・元王の雪蓮が盟友冥琳とともに函谷関へ姿を現し、神医として名高い華佗の下を訪れた事。
 次々に降って湧いてくる報告と問題に、上層部はすっかり頭を悩ませていた。
 だが優先順位を付けてしまえば、仕事が進みだすのは自明の理。
 西涼への侵攻は、既に終了した事なので後回し。
 蜀への侵攻は、桔梗達がいれば成都の防衛に不安は無いと判断して後回し―実際には盧植がイイ顔でみぃをイヂめているのだが。
 斗詩猪々子と、雪蓮冥琳。4人ついては聞シンジという共通点がある為、とりあえず話を聞こうという事になり、4人は函谷関の最高責任者である月と桃香と対面するに至っていた。
 「恥を忍んでお願い致します!どうか姫を助けて下さい!姫は操られているだけなんです!姫は民の怨嗟の声に耐えられなくなっているんです!」
 会うなり土下座して頼んできた―と言うより懇願してきた猪々子に、謁見の間に居合わせた一同は目を丸くする事しか出来ない。
 「ちょ、ちょっと待って下さい!一体、何がどうなっているんですか!?」
 「申し訳ありません。文醜将軍に代わって、説明をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
 猪々子よりは理性的な斗詩―登城前に華佗の治療を受けて病気は完治していた―の発言に、ホッと息を吐くチビッ子軍師が2人。
 斗詩の説明は、筋道が通っていて非常に分かり易く、誰もが袁王朝の裏事情について把握する事が出来た。
 「袁王朝の事情は把握出来ました。ですが即答は難しい案件です。桃香様、月様。この案件は私・雛里ちゃん、詠さん、ねねさんと相談の上で対応を検討させて頂きたいのですが、如何でございましょうか?」
 「私は構わないけど、月ちゃんは?」
 「私も構いません。それより聞侍従の事についてですが」
 月の言葉に、ズイッと歩み出たのは雪蓮である。
 「それについては私から話してあげるわ。今から半年ぐらい前かしらね、聞侍従が仮面を着けて、司馬仲達という偽名を名乗って仕官してきたのよ。孫呉が大きくなったら出ていくから、しばらく雇ってくれと言ってね。その時は聞侍従だとは気付かなかったんだけど、面白そうだったからつい雇っちゃったのよね」
 「主の説明を捕捉させて頂きたい。仲達は―我らはそう呼ぶのが慣れているので、仲達と呼ばせて頂くが―孫呉に対して全く忠誠を誓ってはいない。立場こそ孫呉の副軍師ではあるが、形式上は客将扱いだ。ただあまりにも有能なのでな、つい孫呉に本格的に取り込もうと蓮華様―現・呉王孫権様を近づけてしまったが」
 ピクンと反応する3人の少女。そのコメカミに浮かんだ青筋に気付いたのか、『うっわあ』と口元を押えながら呻き声を上げる桃香。
 「・・・聞侍従の傍に居る女の子は、その呉王である孫権殿だけでしょうか?」
 「い、いや。配下に公孫瓚と袁術と張勲がいるが、その内の袁術とは特に仲が良かったと報告は聞いている。主従と言うより師弟関係と言うか兄妹と言うか・・・あとはまあ、孫呉の幕僚にも何人か・・・」
 「ふふ、その方達だけなのでしょうか?」
 「そ、曹操軍の典韋将軍も、兄妹の様に仲は良いと・・・」
 目の前の少女に気圧される冥琳。年の頃は明鈴と同じ、寧ろ彼女より武は劣る。そう感じられるのに、何故気圧されるのかと内心で首を傾げる。
 「聞侍従の馬鹿あああああ!何で私が勇気を振り絞って真名預けたと思ってるのよおおおおおお!皇族が真名預ける意味が分かってんのかああああああ!」
 「お、落ち着いて下さい、姉上!ここは謁見の間ですよ!」
 「月や詠ならまだ許せるけど、3年も姿を晦ましておいてやってるのはスケコマシか!私の純情返せエエエエエエ!」
 「だ、誰か華佗を呼んできて!姉上が壊れた!」
 突如始まった元・皇族による姉弟漫才に、事情を知る涼州・蜀連合軍上層部は笑う事しか出来ない。
 「ちょっと良いかしら?あの2人皇族って言ってたけど、貴女の親戚?」
 「内緒にして下さいね。成長されてしまって外見が代わっているので分からなかったかもしれませんが、少帝陛下と姉君の劉協殿下です。聞侍従が洛陽炎上の際に、長安へ逃がしていたんですよ」
 ブフウッと噴出す断金の2人と猪々子と斗詩。慌てて礼を取るが、そこは事情を知る者ばかりの上層部メンバー。裏事情について説明をするにしたがって『そういう事か』と納得する。
 「しっかし、仲達って実は女泣かせなのかしらね?天の国にも女の子2人待たせてるみたいだし」
 「「「ッ!」」」
 雪蓮の爆弾発言に目を丸くする一同。冥琳は聞仲襲来時には病気療養の為に戦闘の場にいなかった為、その事については事情を知らないのである。
 「ど、どういう事か教えて頂けますかしら?」
 「そんな睨まなくても教えてあげるわよ。アイツの師匠が、アイツを制裁に来たのよ。策の為に疫病を扱うとは何事だ!って感じで。それで師弟で争い始めてアイツは全身ズタボロ片腕片足骨折状態、その上片目が潰れるほど痛めつけられた訳。どうしようもなくなってアイツは切り札を切ったんだけど、そしたらアイツのお母さんが出現したのよ」
 「「「お母さん?」」」
 「いや、そんな驚かなくても。アイツだって一応は人間よ。お母さんのお腹から産まれて来たのは当然でしょ」
 呆然とする月・詠・叶。
 「まあお母さんと言っても既に死んじゃってて、魂だけとなって見守っていた、と言うのに近い感じだったわね。とりあえずそのお母さんがアイツの体を乗っ取って、アイツの師匠と喧嘩始めたのよ。『殺してあげる』って」
 「「「「「「うわあ」」」」」」
 シンジの師が聞仲である事を知る涼州連合―正確には董卓軍メンバーから呻き声が上がる。 
 「師匠が化け物なら、母親も化け物ね。師匠があの殷王朝の聞太師ってだけでも驚きだったのに、母親は創世神話の女媧と同格の存在って、突拍子が無さすぎるわよ」
 「ちょっと待てい!雪蓮、初耳だぞその話は!」
 「だって冥琳、病気で寝込んでいたじゃない。だから知らなくても当然よ。それにしてもあのお母さん、潜在能力だけなら最強じゃないかしら?聞太師の宝貝全力攻撃を防いだどころか、逆に破壊しかけたんだから」
 あ然となる一同。謁見の間に降り立つ沈黙。
 「とりあえず、その後でもう1人の師匠―太公望が仲裁に来て、その場は何とか収まった訳。それでお母さんもまた眠りに就いたんだけど、その時に教えてくれたのよ。天の国での戦友―アスカとレイっていう女の子の事」
 「「「ほ、ほほう。もう少し詳しく」」」
 「私も詳しくは知らないのよ。だってお母さん『思わず手を』って言った所で『あら時間みたいね』って話を打ち切っちゃったから。ついでに言うなら、お母さん、貴女達の事知ってたわよ。仲達と仲の良い女の子―董卓、賈詡、劉協殿下の名前挙げてたし」
 母親に名前を知られていた。そう聞かされた3人は夜叉から一転してテレテレと顔を赤らめる。
 「私達が知る事情はそんな所ね。あとは太公望が『不穏な卦』が出ていると言っていた事ぐらいかしら」
 「不穏な卦?」
 「ええ。仙道としての修業をサボるなって。これって逆説的に『道士でなければ手出しできない事態』が起きるかもしれないって事・・・ちょ、ちょっと急に押し黙ってどうしたのよ!」
 沈黙の原因。それは3年に渡って函谷関より先へ進軍出来なかった理由と、太公望のシンジに対する忠告を=で結び付けてしまったからに他ならない。
 「ありがとうございます、孫策様。貴女の言葉で、私達の抱える問題に一筋の光明が見えた気がいたします」
 「・・・どういう事?」
 「私達が何故、3年に渡って洛陽へ攻め込めずにいたのか。疑問に思った事は有りませんか?その理由。それがもし、道士―仙術が関与していたと仮定すれば、理解が及ぶのです」
 「申し上げます!」
 謁見の間へ飛び込んでくる人影。肩で息を切らせている伝令の姿に、誰もが無礼を咎める事無く次の言葉を待った。
 「曹孫連合軍は汜水関攻めを敢行!しかしながら敗退した模様です!損害はおよそ2万!連合軍は許昌へ撤退!攻め手の大将を務めた司馬仲達は生死不明との事です!」
 「馬鹿な!仲達が指揮を採って敗れただと!?」
 「詳細は不明です!しかしながら、連合軍が許昌へ撤退したのは事実でございます!」
 動乱の真っ只中にある大陸。その暗雲が切り払われる日はまだ遠い。



To be continued...
(2015.09.05 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回はシンジこと仲達から視線を外して、周辺各国の状況をテーマにしてみました。
 で、その間にシンジ君は敗退wこの辺りについては、次回で軽く説明したいと思います。
 話は変わって次回です。
 トラブルに見舞われ、敗北を喫したシンジは雪辱を晴らす為に、少数精鋭での汜水関陥落を狙う事に。
 同行するのは明命と凪。俊敏さでは勝る者のいない2人とともにシンジは汜水関の裏手へと回り込むのだが・・・
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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