碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第十六話

presented by 紫雲様


洛陽解放から数日後―
 麗羽を表向き死んだ事にする為、火を放たれた王宮。そんな場所で会議を行う訳にはいかなかった為、洛陽へ乗り込んだ盟主達は同じ敷地内に焼け残っていた別の建物を臨時の王宮として、会議を行っていた。
 涼州連合盟主―董卓と軍師賈詡。
 蜀漢盟主―劉備と軍師諸葛亮・鳳統。
 曹魏盟主―曹操と軍師荀彧・郭嘉・程昱。
 孫呉盟主―孫権と軍師陸遜。
 「・・・そういえば仲達は?」
 「先程、劉協様―いえ、劉封殿に捕まっておりましたが」
 「私の記憶が正しければ、昨日『も』捕まっていなかったかしら?」
 「いえ、昨日『から』ですよ」
 3年振りの再会。それも好意を持つ男との再会なのだから、少しぐらいは甘えたくもなるだろう。そう考えて昨日は譲った蓮華であったが、軍師である穏の返答を聞いてコメカミに筋を浮かばせる。
 「そういえば、董卓殿と賈詡殿は宜しいのですか?」
 「ななななな、何を言っているのかしら!?」
 「私達も十分に甘えていますから」
 「月!?」
 「詠ちゃん、もうバレちゃってるんだから、嘘吐く必要なんてないと思うよ?」
 顔を真っ赤に染めながら、俯く詠。そんな幼馴染の姿に、月がクスクスと笑う。
 「正直、まだ甘え足りないとは思いますけど、今の私達には責務がありますから」
 「その事を理解出来ているのであれば、問題は無いわね。それで今回の議題だけど」
 「軍師李儒―妖術師于吉と、その仲間である左慈、ですね?」
 「そうよ。仲達からの報告によれば、于吉は妖術使い。南華老仙の著した太平要術の書を用いて、白装束の集団を無尽蔵に呼び出す事が出来る。左慈は術士としての力量は未知数ではあるものの、個としての武勇は仲達よりも上。少なくとも将軍級だと評価していたわ」
 華琳の言葉に頷いてみせる蓮華。シンジは表向きは『仲達』として孫呉の客将として使えている立場である為、最初に報告が行くのは蓮華であり、次に連合軍を結成している華琳なのである。
 「・・・2人の目的は何なのでしょうか?麗羽さんを操っていた理由も良く分かりませんし」
 「それについては今後の調査次第でしょうね。麗羽もその辺りの事は訊いた事すら無かったそうだから。今は仲達と一刀を担当者として調査中よ。しばらく経てば、何らかの情報は入ると思いたい所だけど」
 「会議中に失礼します。報告したい事が出来ました」
 姿を見せたのはシンジと腕に縋りついている叶。その後ろで苦笑いしている一刀。そんな3人の姿に、コメカミを引き攣らせる少女が数名。
 「仲達・・・」
 「言わないで下さい。指摘される事は十分すぎる程に自覚はしているんです、これでも」
 「まあ良いわ。それで内容は?」
 「少し現地調査に行ってきたいのです。向かう場所は長安北東部―始皇帝墳墓」
 突拍子もない発言に、一同揃って目を丸くする。
 「王宮の侍女や文官から訊きだしたのですが、李儒は良く始皇帝について調べ物をしていたそうです。特に王宮に始皇帝について書かれた書物は無いかと、暇さえあれば捜していたそうで。ただ趣味とするには、あまりにも熱心すぎる故に、この話をしてくれた者も首を傾げていました」
 「行くのは構わないけど、1人で行くのは無謀よ」
 「同感です。ですから腕の立つ者に同行を願おうかと。出来れば冷静沈着な方が望ましいのですが、どなたか適任の方に心当たりはありませんか?」
 「それなら星ちゃんを薦めるよ。腕の方は愛紗ちゃんと互角だから!」
 桃香の発言に、黙って頷いてみせる朱里と雛里。
 「呉からは思春かしらね、思春なら仲達も良く知ってるでしょう?」
 「魏からは秋蘭と言いたいけど、彼女にはやって貰いたい事があるのよね・・・武は無いけど軍師役が1人ぐらいいた方が良いでしょう?問題無ければ風を薦めるわ」
 「涼州からは霞を薦めます」
 「ありがとうございます。必ず、奴らの尻尾を掴んできますよ。これ以上、仙界の関係者に掻き回されたくないですからね」

それから数日後―
 洛陽を遠く離れた一行は、目的地である始皇帝墳墓へと到着していた。
 「ところで一刀。君には程昱殿のボディーガードを頼みたいんだけど」
 「ああ、任せてくれ」
 「ぼでぃいがあど、とは何ですか?」
 「一言で言ってしまえば護衛の事ですね。身を護る術の無い女性を護ったりとか、或いは国家元首を護ったりとか、対象は様々ですけど」
 「なるほど、そういう事ですか。ではお兄さん、風の身を護って下さいね」
 相変わらずペロペロキャンディーで口元を隠している風に、一刀が『任せろ』とドンと胸を叩く。そんな風の頬が、微かに赤みがかっている事に気付いたかどうかは不明だが。
 「そういえばシンジ。始皇帝と言えば、墳墓に罠は付き物だろう?それはどうするつもりだ?」
 「罠解除の技量なんて無いからね。ただこういう場合は、相手の立場になって考えれば良いんだよ」
 「どういう事だ?」
 「墳墓の罠は、盗掘者対策だ。盗掘者を殺す為に罠は仕掛けられている。そこで質問です。墳墓に仕掛ける罠としては、どんな物が適任でしょうか?」
 「第一に弓矢でしょう。暗闇の中から飛んでくる矢。これほど理想的な迎撃方法はありませんから」
 風の言葉に頷く星達。
 「次に落とし穴。天井からの落下物等は、墳墓を痛めてしまいますから、無いと判断しても宜しいかと」
 「矢対策は盾を構えて行けば問題ない。落とし穴は互いの体を縄で繋いで、万が一誰かが落ちても、残りの全員で踏ん張れる様にしておけば良いかと。何かあったら、お互いの判断で縄は切ってしまえば良いですし」
 「後は隊列やな。うちと星が矢面に立つわ。真ん中に天の御使いと程昱殿。最後尾をシンジが守って、甘寧将軍は普段は真ん中。ただし一番身軽やから、将軍の判断で必要に応じて対応を頼む、というのでどうや?」
 「手堅い隊列ではあるな。では先陣を仕ろうか」
 即席の盾を用意し、墳墓の中へと入っていく一行。灯りの松明は一刀とシンジが手にしている。
 通路はそれほど広くは無く、人が3人並んで歩ける程度。
 「張遼将軍。甘寧将軍と交代をお願いします。この狭さでは、その偃月刀を振りかぶる事は難しいかと」
 「言われてみればその通りやな。よっしゃ、交代や。前頼むで」
 「了解した」
 剣を手に、前に出る思春。隊列を直した上で、捜索に取り掛かる。
 「・・・確かに、ごく最近、ここへ誰かが入り込んでいるな」
 「分かるのか?」
 「埃だ。足跡がしっかりと残っている」
 「その足跡を見せて貰っても良いですか?」
 シンジが出てきて、足跡と自分の腕との長さの比較を行う。
 「・・・僕の肘と手首の長さよりも短いな。一刀、同じように比べてくれないか?」
 「ああ、これで良いのか?」
 「どうやら相手は一刀と同じぐらいの背丈の持ち主ですね。李儒は確か、一刀と同じぐらいの背丈でしたから、恐らくは・・・」
 「聞殿?どういう理屈で、その様な答えに?」
 「人間の体って面白い物でしてね。例えば、人間の踵からつま先までの長さと、その人の肘から手首までの長さは、ほぼ同じなんですよ。足の大きさの同じ人は、基本的に背丈はほぼ同じ。であれば、と言う三段論法ですね」
 おお、と感嘆する星。近くでは風が自分の足と腕を比較して『おお、同じです』と驚いたように声を上げていた。
 「それ以上は、僕には分かりませんね。誰か気付いた事のある方は?」
 「・・・察するに2人組だな。足跡は同じ大きさだが、力の入り方に違いがある。1人はただ歩くだけだが、1人は踵があまり着いていない。これはすぐに反応出来る様に、つま先に力を入れているからだろう」
 「そうなると、于吉の相方らしい左慈って奴の可能性が出てきた、っちゅう事やな」
 そのまま足跡を追いかけるように奥へと進む一行。罠は解除されているのか、1つとして発動する事も無い。
 やがてある程度の広さを持った部屋へと辿り着く。
 天井には太陽や月、星を模したらしい飾りが散りばめられている。床には軍を模したらしい無数の人形。そして中央には石の棺―
 「どうやら始皇帝の寝所らしいな」
 「・・・皆さん、注意して下さい。さっきから嫌な気配を感じてはいたのですが、それが急に強まりました。何か起こる可能性があります」
 「よっしゃあ!うちらの出番やな!」
 風と一刀を中心に、シンジ・霞・星・思春が背を向けて円陣を作る。やがて部屋に置かれていた、無数の人形―兵馬庸が小刻みに震え出す。
 「逃げたい所ですが、そうも行かない様ですね」
 「どうするんだ?」
 「逃げられないなら答えは1つです。と言う訳で先手必勝!」
 シンジの振った棍が、まだ動き出していなかった兵馬庸を纏めて打ち砕く。
 「お、良い考えですな。では私も」
 「動けぬ相手を屠るなら簡単だな」
 シンジの考えに同調した星と思春が、シンジ同様に兵馬俑の破壊に取り掛かる。それを見ていた霞も、今はバトルジャンキーの欲求を満たすよりは優先順位が高いと判断して、破壊活動に加わりだした。
 「お兄さんは協力しないのですか?」
 「風。無茶を言うな。俺にあの中へ飛び込んで来い、と?」
 一刀が指を差した先。そこには鬼神の腕の怪力を活かして、平たい石の板みたいな物で纏めて兵馬俑を薙ぎ払うシンジが―
 「ちょ、シンジ!お前、何とんでもない事してんだよ!」
 「線で攻撃するより、面で攻撃する方が効率良いんだよ」
 「そういう事を言ってんじゃねえよ!」
 『石棺の蓋』を引っぺがして、効率よく破壊活動に専念するシンジ。
 「はっはっは。聞殿は豪快ですな」
 「全く。うちらと会った当時の繊細な美少年はどこかに消えてもうたんやな」
 「・・・あれが繊細だったのか?想像も出来んな」
 好き放題言いながら、それでも武器を振う手を緩めない将軍3人。そのまま奮闘する事四半刻。広間には粉々に粉砕された兵馬俑と、蓋を引っぺがせられた石棺の姿だけしか残っていなかった。
 「お兄さんが活躍する所を見られなかったのが、風は残念でなりません」
 「風。期待してくれるのは嬉しいんだが、人には分相応と言う物があるんだ。俺をあそこにいる人間卒業おめでとうメンバーと一緒にしないでくれ」
 「人間卒業とは、また酷い言い草ですな。天の御使い殿」
 「全く、星の言う通りですよ、お兄さん」
 「ちょ、俺だけ!?と言うか、そこは俺に着いてくれる所じゃないんですか、風!?」
 「・・・何を遊んでいるか。まだ終わってはいないようだぞ」
 思春の冷たい言葉に、慌てて視線を戻す一同。その視線が捉えた物は、大きな影。
 「何だ!?」
 「四足の生き物なのは間違いないみたいだが」
 各々が武器を手に構える中、通路の奥から姿を見せたのは1匹の獣。ただし普通の生き物ではない。
 羊の胴体に、人間の顔。脇の下に着いている眼には、言葉にせずとも分かるほどの敵意が宿っている。
 「・・・あれは饕餮です!四凶の1つ!」
 「ほう、神話の化け物の登場とは、これはまた腕が鳴るな」
 チャキッと槍を構える星。隣では偃月刀を振り下ろせるように構える霞。
 「甘寧将軍。奴の背後を頼みます」
 「分かった」
 愛用の棍を―双鞭の宝貝『大極小図』は腰の後ろに納めたまま―構えるシンジ。動きが早く身軽な思春は愛用の曲刀―鈴音を手に饕餮の背後へと回り込む。
 同時に饕餮へ真正面から攻撃を仕掛ける星と霞。霞の正面から振り下ろす全力の一撃を、饕餮はいとも容易く回避してのける。
 だがそれは計算済み。
 完全に霞へ注意を向けている饕餮目がけて、星が得意の刺突を放つ。
 誰もが、一撃を放った星ですら『殺った!』と思った一撃。それを饕餮は、やはりヒラリと躱してみせた。
 「何と、今のを躱すか!?」
 「星、饕餮の目は1対ではありません」
 「なるほど。脇の目は飾りでは無いという事か」
 「聞侍従、甘寧将軍。軍師として協力を要請します。星と張遼将軍を三角形の頂点として、2人が三角形の下の2点を構成するように位置取りをして下さい。例えどれだけ視界が広くとも、体が着いてこられなければ宝の持ち腐れです。風の事はお兄さんがその身を犠牲(餌)にして護ってくれますから、こちらの心配はいりません」
 「俺は餌扱いかよ!」
 「たまには食べられる側に回ってみるのも良い経験かと」
 風の爆弾発言を聞き流しつつ、4人は戦闘行動を採り続ける。偃月刀が煌めき、槍が突きこまれ、曲刀が翻り、金属棍が振り下ろされる。
 その一斉攻撃を饕餮は次々に躱す。特に正面の霞と星の攻撃は危険性が高いと判断しているのか、被弾は一発も無い。逆に背後の思春とシンジの攻撃は、殺傷力は低いと判断したのか、最初の数回はともかく、やがて回避をせずに強靭な体皮の防御力で受け流すようになった。その分、破壊力の高い正面2人からの回避に全力を注ぐ、と言った感じである。
 「学習したのだろうが、嘗められた物だな」
 「体皮の防御力に自信があるのでしょう。それに槍は目を、偃月刀は遠心力で破壊力を倍増されて、体皮を貫かれる事を理解しているのかもしれません」
 「ふむ・・・策は無いのか、仲達?」
 「機を伺っている所です。その時が来たら、全力で仕掛けて下さい」
 シンジが懐から取り出した物。それは湖賊である彼女が、日常的に見かけていた物である。
 その間にも、星と霞は猛攻を仕掛ける。だが攻撃はいつまでも続く物では無い。いかなる達人であっても、人間である以上は酸素が必要だし、体力の限界もある。神話の化け物相手に、永遠に戦い続ける事の出来る人間などいない。
 故に、2人は息を整えようと間を空ける。
 それをチャンスと見てとったのか、今度は攻撃側へ回ろうと饕餮が飛び出そうとした瞬間、饕餮の全身に降り注ぐ影―
 バサアッと音を立てて饕餮を包み込む。
 「今です!」
 「任せろ!」
 シンジから投げられた『投網』によって全身を絡め取られた饕餮は、思う様に体を動かす事が出来ない。網が絡まって邪魔だからである。
 そこへ真っ先に飛び掛かる思春。それに僅かに遅れて星と霞が続く。
 肉を裂き、貫き、骨を断ち切る音が聞こえると同時に、饕餮の叫び声が響く。
 「よっしゃあ!こうなってしまえば、こっちのもんや!」
 「好機!」
 次々に放たれる必殺の一撃。防御を捨てた捨て身の一撃は、饕餮にとっては絶好の反撃の機会だが、投網が邪魔で思う様に動く事も出来ず、反撃に移る事も出来ない。
 それでも『四凶』の名に相応しい怪物としての本領を発揮し、無理矢理力技で投網を破りつつ、反撃へと移る饕餮。だがそこに至るまでの傷が深すぎ、饕餮の動きは見る見る内に緩慢となっていく。
 やがて断末魔の叫びを上げると同時に、ズズンと音を立てて崩れ落ちた。
 「やったのか?」
 「念の為に首を刎ねておきましょう。神話の怪物となれば、異常極まりない再生能力を持つ者や、複数の命を持つ者もいますからね。こいつがそうでないと言う保証はありませんから」
 「確かに、その通りやな。ほないくで」
 振りかぶられた偃月刀が、スパンと饕餮の首を刎ねる。
 「あとは火をかけて灰とすれば問題無いでしょう」
 荷物の中から、調理用に持ってきていた油を取り出して饕餮に振りかける。そこへ松明を投げつけると、瞬く間に火は燃え上がった。
 「で、これからどうするんや?」
 「・・・奥がありますから、念の為にそちらを調査しましょう。その後で、洛陽へ大至急戻ろうと思います」
 「・・・ふむ。風は賛成ですね。例え四凶の残り3体が洛陽へ襲撃を仕掛けたとしても、ここにいる3人と同等の将軍が多数洛陽にはいます。そうそう遅れを取る事があるとは思えません。ならば、風達の役目は少しでも多くの情報を持ち帰る事だと思うのです」
 「了解した。そういう事ならば、すぐにでも調査を開始しよう」

翌日、洛陽―
 洛陽へ襲撃を仕掛けてきた3体の異形の生物。それを撃退する為、洛陽は戦闘態勢に入っていた。
 曹魏の将軍達が相手をするのは、巨大な犬「渾沌」。
 涼州連合の将軍達が相手をするのは、人面虎足に猪の牙を持つ「檮杌」。
 蜀漢の将軍達が相手をするのは、翼を生やした虎「窮奇」。
 孫呉の将軍達は万が一の増援対策と、民の避難という役目に着いている。
 「戦況は?」
 「こちらに優勢の様です。今の所、戦死者が出たという最悪の報告は来ておりません。
 「そう、ならば良いわ。兵達には民の不安を鎮めさせなさい」
 華琳の指示に従い、軍議の間を去る桂花。
 「さて、この状況だけど、貴女達はどう思う?」
 「聞侍従が離れた隙を狙ったかのような時機です。あれが四凶だとすれば、恐らく残り1体は・・・」
 「仲達の所へ向かっているのでしょうね」
 「ほう?思ったよりも冷静な娘どもじゃねえか」
 突然響いた聞き覚えの無い声に、咄嗟に臨戦態勢に入る一同。特別に全員の護衛役として戦場に出ずにいた雪蓮が、剣を抜きつつ声の聞こえてきた方へ踏み出す。
 「何者だ!名ぐらい名乗れ!」
 「良いねえ、アンタみたいな気の強い女は嫌いじゃねえな。ちっと待ってな・・・よし、繋がったか」
 フオンと音を立てて、何も無い空間に波紋が起こる。続いて、何の音も無く人間の手らしい物―真紅の爪と色が青白すぎる肌は、到底人とは思えない―が指先から姿を見せた。
 そして全身のピアスにジャラジャラと音を立てさせながら、黒い革の服を纏った男が姿を見せる。
 「何だ?シンジの奴は、まだ戻ってきていねえのか」
 「アイツなら始皇帝の墳墓に向かったままよ」
 「ち、しゃあねえな。今回だけはサービスだ」
 男はそう呟くと、再び、空間に波紋を起こす。そのままそこへ顔だけ突っ込んだ。
 ハッキリ言って滅茶苦茶シュールな光景である。
 これには華琳や雪蓮といったメンバーも、驚きのあまり声も無い。
 やがて男が波紋から顔を戻す。すると、それに続くかのようにシンジが姿を現し、それに続いて始皇帝墳墓へ向かった者達が次々に姿を見せた。
 「おお!?ホンマに洛陽やんか!月も詠もおるで!」
 「蓮華様、雪蓮様。ただいま戻りました」
 「華琳様。風とお兄さんも戻ったのです」
 「ただいま、華琳」
 数日とは言え、久しぶりの再会に一行の顔に笑みが浮かぶ。
 「月、詠、叶、ただいま。それと紹介しておくね。こちらの方は王天君様。太公望師叔の双子のお兄さんみたいな人だよ。特技は空間操作」
 「・・・ま、そういう事だ。それよりシンジ。元始天尊のクソジジイから指令書を持ってきた。読め」
 懐から取り出された手紙に目を通していくシンジ。その内容に、シンジの両目が大きく開かれていく。
 「これは本当の事なんですか?王天君様」
 「事実だろうぜ。あのクソジジイが嘘を吐く必要があるとは思えねえからな」
 「ですが、どうしてこんな事をする必要があるんですか?于吉にしろ左慈にしろ、正気だとは思えませんよ!」
 「さあな。もっとも連中には連中なりの言い分があるんだろうが、俺にはそこまでの事は分からねえよ。で、聞くまでもねえとは思うが返答は?」
 「言われるまでも有りません。引き受けますよ」
 「なら良い。俺達はこれ以上の外部干渉を防ぐ為に、行動に移る事になる。その状況次第だが、しばらくは音信不通になると思っておけ。それとクソジジイが言っていた。お前自身も、もう少しで本来の居場所へ戻る事になる。あの鬼神についても、太乙の野郎が完全に改良し終えたと言ってやがったからな。必要になったら、分かっているな?」
 思わず無言になるシンジ。そんなシンジを『ハッ!』と笑い飛ばす王天君。
 「何を時化たツラしてやがんだ。その小賢しい頭を使って、何とかするんだな。忘れるな。テメエがあの聞仲と太公望の愛弟子だという事をな」
 そのまま一歩後ろへ下がる王天君。その背後にはいつの間にか波紋が揺らいで、王天君を呑みこもうとしていた。
 「・・・ありがとうございます。王天君様」
 「せいぜい足掻きな。ガキ」
 「はい。では、また」
 「おう、じゃあな」



To be continued...
(2015.12.05 初版)


(あとがき)

 紫雲です、今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は裏で色々とちょっかいをかけている左慈陣営と、被害を被る恋姫陣営と言う形にしてみました。
 左慈達は策略上等な人達なので、まあこういう展開もありかな?と。四凶については、また次回ぐらいに説明いれるつもりです。
 話は変わって次回です。
 洛陽へ帰還したシンジだったが、王天君からの『情報』の重さに悩む羽目に。そんなシンジの重荷を軽くしたのは一刀の一言であった。
 未来を切り開く為、シンジは一刀の協力者に会う事にするのだが・・・
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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