碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第十九話

presented by 紫雲様


 激しい剣戟の音が鳴り響く戦場。各国の将軍達による切込み部隊の先鋒。その大将を任された春蘭は、愛剣の七星狼牙を縦横無尽に振るっていた。
 眼前に見えるのは、異形の群れ。その少し先に、明らかに他とは違う『格』を感じさせる異形がいたのである。
 牛頭人身。両手に戦斧を1本ずつ手にした、筋肉質の体の男。
 「うおおおおお!」
 もう少しで戦の魔王と謳われた蚩尤に接敵できる。その興奮に、更なる力を発揮しつつ突撃を敢行する春蘭。その疎かに成りがちな背後を、凛の指示に従い流琉と季衣がフォローに入る。そして攻撃に偏りすぎている魏陣営の背後に異形達が回り込めない様に、蜀と呉の陣営が更なるフォローに入った。
 そこへ唯一フォローに参加していなかった涼州陣営が、異形の群れの真横へ回り込んで混乱へと陥れる。彼らも迎撃しようとするが、三國無双の武を持つ恋、騎馬戦ならば最強の翠、そして伝説の英雄である飛虎の3人を止める事は叶わない。
 最悪な事に、今の異形達が相手をしている魏陣営の筆頭・春蘭は本能で戦う戦士。当然の如く、彼女の戦士としての嗅覚は、異形の群れに起きた異変を敏感に察知し、そこへと躊躇う事無くつけこんだ。
 振るわれる大剣の前に、次々に斬り裂かれていく異形の者達。流琉と季衣の支援を受けつつ、更に馬を走らせる。そして―
 「我が名は夏候惇!蚩尤、その首貰い受ける!」
 大剣が唸りを上げて蚩尤目がけて襲い掛かる。その一撃を蚩尤はこともなげに手にしていた戦斧で、あっけなく受け止めてみせた。
 それどころか、空いていたもう片方の手に握られていた戦斧が轟音とともに、春蘭目がけて振われる。その一撃を本能で察した春蘭は、咄嗟に馬から転げ落ちるように回避してみせた。
 宙を舞う赤い血飛沫。ドウッと音を立てて崩れ落ちる軍馬。
 戦斧のあまりの速さに、一瞬だが言葉を失う春蘭。かつてない敵の強さに、命の危機すら覚え―襄陽で戦った聞仲を思い出す。
 (・・・いや、あの男ほどでは無い。あの男の方が、よっぽど速かった!)
 自らを奮い立たせる為、雄叫びとともに立ち上がる。両手で握った七星餓狼を構え、再度斬りかかろうとする。
 「ほう?こいつが蚩尤か」
 春蘭の突撃を躊躇わせたのは、割って入った声。そこにいたのは筋骨隆々とした肉体を惜し気も無く曝け出している飛虎と、その後ろに姿を見せている恋・翠・ねねの3人。
 「確か夏候惇将軍だったな。悪いが俺にもやらせてくれや。強敵との戦いに飢えているんでな」
 言い終えるなり、素手で襲い掛かる飛虎。シンジから手渡された棍は背中に結わえたまま、手に取ろうとする気配すら見せない。
 咆哮とともに拳が唸る。対する蚩尤は戦斧で迎撃に入ろうとするが、飛虎は拳を戦斧の真横へ叩き付ける事で、それを弾き飛ばそうとする。
 だが蚩尤も戦の魔王と呼ばれた存在。その程度では武器を手放す事も無く、平然と返しの一撃を放って、飛虎を後退せしめてみせた。
 蚩尤の手強さに、歓喜しながら再度突撃する飛虎。
 「・・・あの人・・・やっぱり強い・・・」
 「む、ですが恋殿ほどではないですよ」
 「お前ら、呑気に観戦してないでこっちを手伝えよ!」
 蚩尤の取り巻きを1人で相手取っている翠の叫びが、2人の耳へ届いたかどうかは定かでは無い。

シンジSIDE―
 春蘭達の突撃を成功させる為、呉と蜀の突撃隊は時間差で突撃を仕掛けていた。中央突破を図る魏の後方両翼に着くような形。仮に春蘭達を真横から横撃しようとした異形達がいても、自らが呉と蜀の一騎当千の猛者達に横撃されてしまい、全く意味を為さない。
 やがて春蘭達が蚩尤と接敵した頃、呉の突撃隊においても波乱が起こっていた。
 「・・・久しいな、司馬仲達。いや、聞侍従と呼ぶべきか?」
 「王宮での借りを返しに来たか?軍師李儒、いや、道士于吉」
 「そういう所だ。ここで決着を着けさせて貰おう」
 異形の群れの中から姿を見せた于吉。その手には、既に抜身の片手剣が握られていた。
 「仲達様!」
 「明命、君は異形の迎撃に専念を。部隊指揮は公瑾殿がいるから問題ない筈だ。それに奴は、ここで倒しておいた方が良い」
 双鞭を手に、馬から飛び降りるシンジ。暗器の使い手であるシンジにしてみれば、馬上の戦いは色々と不都合が生じるからである。
 「ハアッ!」
 先手を取ったのはシンジ。牽制代わりの飛刀を放ちつつ、一気に双鞭の間合いまで詰める。一対の双鞭と、一本の片手剣。リーチでは剣に有利だが、剣を掻い潜ってしまえば攻撃速度と手数で上回る双鞭に有利になる。それがシンジの判断であった。
 対する于吉は飛んでくる飛刀を剣で弾く―ことなく、その切っ先を素直に受け入れる。鋭い穂先は于吉の喉笛を抉り、まるで噴水のように鮮血を噴出させた。
 「何だと!?」
 地面に仰向けになるように、ドウッと崩れ落ちる于吉。だが倒れ込む于吉の顔が、勝利の笑みを浮かべていた事に気付いたシンジが、咄嗟に駆け寄った。
 「于吉!お前、何が目的だ!」
 「・・・だれが・・・おし・・・えて・・・やるもの・・・か・・・」
 ゴフウッ、と一際大きな血塊を吐きだすと、そのまま静かに息を引き取る于吉。于吉の目的が分からないシンジは、自分は何か見落としていたのかと必死に脳裏を探る。
 そこへ聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。
 「遅かったみたいね・・・」
 「貂蝉さんですか。何か起こったのですか?」
 「于吉達を調査していたんだけど、奴らの切り札について分かった事を知らせに来たのよ。奴らは死を前提にして戦っているわ。それは死んでも死ぬことは無いから」
 良く分からない言葉に、眉を顰めるシンジ。
 「于吉達の切り札である蚩尤。その細胞を基に生み出された生物兵器。その生物兵器は于吉達の死を切っ掛けとして動き出すように仕組まれていたのよ」
 「・・・けど、それでは自身の死を引き換えにするほどの意味は無いのでは?」
 「それだけならね。于吉達は死を切っ掛けに、その生物兵器へ魂を転移させる事を目論んでいたのよ。生物兵器の絶大なまでの戦闘力による、泡沫世界の破壊。それが于吉達の真意だったのよ」
 貂蝉が言い終えると同時に、大地を激しい揺れが襲う。
 「来るわよ。蚩尤を基に生み出された最悪の生物兵器―太歳タイソエイが」

 「何だ!?」
 突然の地震に、攻撃の手を緩めて状況把握を行う飛虎。丁度春蘭が蚩尤の相手をしていたからこそ、このような隙を晒してでも周囲を見回す余裕があったのである。
 そして、その視線は前方―蚩尤の背後で止まった。そこには大地を割って出現し始めた異形がいたからである。
 外見は浮遊する巨大な目玉。だが、その目玉には無数の触手が縦横無尽に生えており、まるで周囲を探る様に蠢いていた。
 そして何よりも異様なのは、その大きさ。目玉だけでも直径20mはある。しかも触手はそれ以上の長さがあり、太さは大木とほぼ同じ。
 巨大な目玉―太歳は周囲を睥睨すると、その触手同時に操り、地上で戦う者達へ触手を伸ばす。それに触れられた哀れな犠牲者達は、自らが死の運命に囚われた事にも気づかずに、一瞬にして生命力を吸い取られてミイラの様な遺体へと変じてしまった。
 「チイ、エナジードレインかよ!てめえら、アレに捕まるんじゃねえぞ!」
 飛虎の警告に、翠や恋達は武器を振って触手を切り払っていく。だがそのような真似が出来ない兵士達は、抵抗すら出来ずに死を迎える事しか出来なかった。
 ―そう、敵も味方も関係なく、触手は伸ばされていた。
 「マズイな、おい、嬢ちゃん達!一度離脱するぞ!アイツを倒すには、戦力が足りねえ!」
 「春蘭様!このままでは兵士達が!」
 「・・・クッ、退くしかないのか!」
 蚩尤を蹴り飛ばした反動を使い、距離を取る春蘭。そこへ春蘭の撤退を助けようと、遅ればせながらに駆け込んできた紫苑の指示で放たれた矢の雨が降り注ぐ。
 その隙を突いて、離脱を図る春蘭。蚩尤もそうはさせじと動くが、矢の雨によって動きを制限され、更には触手に狙われると言う不幸も重なり、春蘭を逃すしかなかった。
 追撃が来ない事に、ホッと安堵の溜息を吐く少女達。
 そう、それが失敗だと気付かないが故の安堵。
 距離を取るのは、太歳にとっても望むところだったのである。
 何故なら、時間を必要とする大技の使用が可能になるのだから。
 それに気付いた時には完全に手遅れであった。
 紫苑を筆頭とする弓の達人が、同時に渾身の一撃を放つものの、太歳の触手に弾かれてしまい、全く意味を為さない。
 やがて太歳を中心に光が放たれ、世界は光に包まれた。

 「・・・ここは」
 軽く頭を振りながら、叶は身を起こした。霞や雅とともに兵を指揮しつつ、異形の者達を戦いの最中にあった事が、徐々に思い出され―
 「霞!雅!月!詠!」
 「そんなに慌てる事はないわよお?みんな無事なのねん!」
 背後から聞こえてきた声に、慌てて振り向く叶。そこにいたのはまさに『傾国の美女』という言葉が相応しい美女であった。
 「貴女は?」
 「妾は妲己ちゃんよ」
 「って、まさかあの妲己!?」
 慌てて周囲を見回し仲間に助けを求めようとする叶。すると、すぐ近くにいた霞が『よ』と片手を挙げて応えてみせた。
 「霞!」
 「元気そうで何よりや。月達も無事やから、心配はいらへんで。それより周りを見てみ。面白いもんが見られるで」
 言われた通り周囲を見回す。まず視界に飛び込んできたのは、暗黒の世界。上も下も前も後ろも右も左も、どこを見ても真っ暗闇。
 その闇の中に、薄く光る球体が所々に浮かんでいる。
 「・・・あそこにいるのは、桃香達。それから孫権殿達に、曹操殿もいるみたいね」
 「蜀のメンバーは楊、じゃなくって、通天教主ちゃんが。呉のメンバーは趙公明ちゃんが。魏のメンバーは太乙ちゃんがそれぞれ保護しているわ?突撃隊のメンバーは、元始天尊ちゃん達が保護しているわ」
 「シンジは!シンジはどうなの!」
 「あの子なら無事よ?可愛い愛弟子を、太公望ちゃんや聞仲ちゃんが見捨てる訳がないもの」
 スッと指を差す。そこにはシンジが雪蓮や冥琳、明命らとともに太公望と聞仲に保護されていた。
 そして彼らのすぐ傍。そこには今回の元凶である巨大な目玉―太歳が姿を見せている。
 「お願い!シンジを助けて!」
 「貴女みたいに可愛い子のお願いなら聞いてあげたいのだけどお、聞仲ちゃんに近寄ると怒られちゃうのねん☆だから、あの子の事は太公望ちゃん達に任せておけばよいのね」

 「やれやれ。ここまでする必要が本当にあると思っておるのかのう」
 頬を掻きながら呆れたように呟く太公望。その隣では聞仲が『太公望。遊んでいないで結界の維持を手伝え』と不機嫌そうに返す。
 「師匠、師叔。助けて下さってありがとうございます」
 「何、それは気にする必要の無い事だ。そもそも、あんな生物兵器を持ち出してくるなど、儂ら仙界の者であっても予想すら出来んかったからのう。ジジイの千里眼にも引っかからんかった事から察すると、よほどの防壁を用意しておいたんじゃろうが。それより」
 ビシッとシンジを指差す。
 「ここから先はお主の仕事じゃ。お主の切り札を切って貰うぞ。保護されておる者達の事は気にする必要は無い。儂らが守りきるからのう・・・見せて貰うぞ、お主の両親が作り上げた、神と戦う為の武器を」
 「・・・はい」
 「仲達?」
 「すぐに終わらせます。少し待っていて下さい」
 雪蓮に向かって頷くと、シンジは双鞭を手に取った。ただし2本重ねる様に纏めて、両手はそれぞれ先端と終端を掴んでいる。そして―
 バキイッと音を立てて圧し折れる双鞭。
 同時に、シンジの目の前に波紋が生じる。その波紋は徐々に広がり始めていく。
 「聞仲」
 「分かっている。太公望、その娘達は任せるぞ」
 「うむ」
 結界の維持を太公望に全て任せると、聞仲はシンジと自分を囲む様に球形の結界を作り出す。そして結界ごと宙に浮かぶと、そのまま太公望の結界から進み出る様に、暗闇の世界へと移動した。
 「シンジ。全てを終わらせて来い」
 「はい・・・師匠」
 「・・・お前は私の最後の弟子だ。それを良く覚えておけ」
 すでに波紋は直径10mを優に超えていた。虹色の光を放ちながら、なおも大きく成り続ける波紋に、孫呉以外のメンバーも気づいたのか結界の中から何が起きるのかとジッと凝視している。
 だが太歳は目の前の異変に脅威を感じたのか、その触手をもって波紋ごとシンジを押し潰そうと試みる。だが―
 「いけ、金蛟剪」
 「盤古旛」
 「いけませんねえ、雷公鞭」
 重力で身動きを封じられた所に、特大の雷と七つの竜が襲い掛かる。轟音と爆音に包まれた太歳であったが、未だその身は健在であった。
 「ほう?あれを耐えますか?」
 「面白いな」
 「おい、お前達。あれはお前達の獲物ではないぞ」
 闘争心を刺激されたらしい同僚2人を前に、軽く溜息を吐く燃燈。
 「シンジがあれを呼び出すまで、足止めを図るのが役目だ」
 「・・・アレを倒してしまえば、シンジは戻る必要が無くなるんじゃないのか?」
 「歴史を変えるような真似は慎め」
 シンジを2人目の弟分として見ている哪吒の本音に、燃燈が額を押えながら溜息を吐く。そんな光景にクスクスと笑う申公豹。
 「ふふ、ですがまあ、ここは彼の晴れ舞台。私達は脇役に専念するのが妥当な所ではあるのも事実です」
 「ふん」
 軽く鼻を鳴らしながら、追撃を仕掛けて足止めに専念する哪吒。しばらく爆音が何度も響いていたが、やがて哪吒が大きく距離を取る。
 「これくらいで良いのか?」
 「十分です。もう準備は終えたようですしね」
 チラッと視線を外す申公豹。その視線の先には、ゆっくりと動き出す人類最終兵器の姿が有った。

 「・・・システム・オールグリーン。シンクロ率は82%。追加兵装確認・・・えっと、さすがにこれは拙いでしょう、太乙様。悪いですが生物兵器は後で外させて頂きます。あ、でも接近戦武器が増えているのは嬉しいかな。あと電源は・・・うわ、さすが太乙様。ホントにS2機関自作しちゃったんだ」
 ほぼ20年振りのエントリー。だが太乙の改良を受けた割には、使用方法は以前と全く変わりは無い。おかげで、ぶっつけ本番にも関わらず、シンジは迷わなくて済んでいた。
 「外部状況は、真空かつ無重力?要は宇宙みたいな物か。ま、エヴァには関係ないから問題ないか」
 腰に装着されていた双剣を手にしつつ、動き出すエヴァ初号機。
 その両目がギンッと輝き、口からは唸り声が漏れ出す。
 「行くぞ!」
 瞬間、周囲で見守っていた者達が見失う程の速度で太歳目がけて走り出す初号機。太歳も無数の触手を一斉に叩き付けて接近を阻もうとするが―
 「ATフィールド全開!」
 目の前に現れた赤い障壁によって、全ての触手が前進を阻まれる。太歳が対抗策を考えだすよりも早く、初号機はその懐へと飛び込んでしまう。
 ザクザクザクッという音とともに縦横無尽に振るわれる双剣。太歳の体から、緑色の鮮血が悲鳴の様な咆哮とともに、まるで噴水のように迸る。
 まさに蹂躙と言って良い、一方的な殺戮劇であった。

 「うわ、まさかあの都市伝説ってマジだったのかよ」
 目の前で繰り広げられる、巨大生物兵器同士の戦いを結界の内側から眺めながら、一刀は呆れた様に呟いた。
 「一刀。説明しなさい、アレは何?」
 「俺も詳しくは知らねえんだ。せいぜい、噂程度だがそれでも良いか?」
 コクッと頷く華琳。
 「俺の故郷―第2新東京市と言うんだが、いずれは少し離れた第3新東京市と言う場所に遷都する予定が有るんだ。その第3新東京市では、出所不明の噂話が有ったんだよ。それが『人間が作り上げた巨大兵器が、化け物と戦っている』という噂だったんだ」
 「・・・それがアレ、と言う訳ね?」
 「偶然とは思えないからな。実際、何回か見かけた事が有ったからな、第3新東京市から引っ越してきた人達を。向こうで何が遭ったのか、誰も口には出さなかったから、政府辺りから箝口令が出ていたのかもしれねえな」
 『確かにあんなのが戦争してたら、政府が箝口令出すのも分かる気はするけどな』と呟く一刀。その視線は触手を次々に断ち切られていく太歳に注がれていた。
 「でも、あんなのが必要な化け物って想像も出来ねえな。一体、どんな化け物と戦っていたんだか。ゴジラでも攻めて来たのか?」
 「一言で言えば、神の僕です。天使の名を冠する者達、ですね」
 そう言いながら姿を現したのは、結界を維持している太乙真人であった。
 「どうも人類の一部が、神の怒りに触れるような事をやらかしたみたいですね。その結果が、貴方達がセカンドインパクトと称している大規模災害の裏事情らしいですから」
 「神の怒り?」
 「詳しい事を知りたければ、後でシンジに訊ねると良いでしょう。あの子の両親は、その件に深く関わっている様子ですから・・・おや、もう終わりですか。早いですね」
 言われて振り向く一刀。そこには触手の大半を切り落とされ、最早ピクリとも動かない太歳の姿が有った。
 「やはり人類殲滅兵器と、対使徒用決戦兵器とでは勝負にはならないか、まあ分かりきっていた事ではあったが」
 「分かりきっていたのかよ!」
 「当たり前だ。アレは私が改良を施したのだから。スペック等隅から隅まで、1つ残さずこの頭の中に入っている」
 『師匠、殲滅しましたけど、これからどうするんですか?』
 初号機の外部スピーカーから聞こえてくるシンジの声。
 「・・・そういや、これから俺達どうなるんだ?あの泡沫世界へ戻してくれるのか?」
 「無理です。太歳の攻撃で、泡沫世界は木端微塵に砕け散っていますから。そのせいで地母神と化していた妲己までも、元の姿に戻らざるをえなくなってしまったのですからねえ。あの地に住む民達も仙道全ての力を結集して出来る限りは救いましたが、帰る場所が無い事に変わりはありません。さすがにそこまでは、頭が回らなかったので」
 『ある程度は蓬莱島へ避難して貰えるでしょうけど』と呟く太乙。
 そこへ初号機から響く声が有った。
 『師匠。僕の帰還に合わせて、全員を第3新東京市へ連れて行く事は出来ませんか?父さんを締め上げれば、全員分の居住地とか用意出来ると思いますけど』
 目を丸くする一刀。
 『ですが、代わりに協力をお願いします。父さんをシメル必要がありますから・・・え、喜んで協力して頂けるんですか?では、是非お願いします。でも殺さないで下さいね。あんな悪党でも、みんなの為に東奔西走して頂く必要がありますから。それと師匠。改めてこれからも宜しくお願い致します』
 「何をやるつもりだ、アイツは。いや、それ以上にアイツの親父って何者なんだよ」
 「確か国際連合という組織の一部署で、トップを務めているみたいですね。ただ権力者としては、国連の事務総長すら上回るらしいですが」
 「ああ、もう好きにしてくれ。華琳。大陸制覇は出来なくなっちまったけどさ、代わりに天の国で生活出来るみたいだ。いっそ天の国を、向こうの流儀に従って制覇してみねえか?」
 突然振られた話題に、一瞬だが目を丸くする華琳。だが、その顔には笑みが浮かんでいた。
 「ふふ、面白そうじゃない。天の国にも猛者はいるのかしら?」
 「言っとくが、基本的に武の出番は無いぞ?自らの理想とする政策を公にし、民衆に訴える。それを民衆が判断して、自分が将来を託すに値すると判断した者を指導者として仰ぐ。民主主義という政治形態になるんだが、その舞台で戦う事になるんだ。天の国の基礎知識を覚えれば、華琳なら一国程度は余裕で支配できると思うが」
 「良いわ。やってやろうじゃない。みんな、これから更に楽しくなるわよ?我が覇道は志半ばに折られたが、新たな道が我が前に示された。ならば、新たな道を突き進むのみ!我が大願成就の為、その智と力を私に捧げなさい!」
 魏の重臣が一斉に頭を垂れ、改めて忠誠を捧げ直す。その姿に『マジで日本支配されそうだな』と苦笑する一刀。
 「感動の光景の所、申し訳ありませんが早速移動する様です。何が起こるか分かりませんから、十分注意をして下さい」
 「了解。じゃあ、頼むぜ太乙さん」
 「任されましょう」
 一刀の目が初号機へ向けられる。そこにはATフィールドを全開にし、空間へ亀裂を走らせ始めた初号機がいた。そして亀裂の向こう側には、懐かしい高層建築物の姿がチラッと見える。
 「久しぶりの日本だな。爺ちゃんに連絡入れねえといけねえな」

 「とまあ、こんな感じの事があったんです」
 外見年齢19歳。立派な青年へと成長したシンジから語られた顛末に、NERV上層部メンバーは言葉も無かった。
 「ね、ねえシンちゃん。仮に貴方の言葉が事実だとするわね?すると、貴方の体って」
 「右腕と左足と左目、後は肺の片方と消化器官がEVAの遺伝子になってる筈です。リツコさん、調べてみます?」
 「そ、そうね。後でサンプルを採取させて貰うわね」
 好奇心の塊であるリツコだが、さすがにその好奇心を発揮しきれないほどに、シンジの語る顛末は荒唐無稽であった。
 シンジの背後に、無数の男女が居なければ、間違いなく脳の精密検査を行っていた筈である。
 「しかし、シンジ君。想像以上にハンサムに成長したじゃないか。アスカ、放っておくと誰かに奪られるぞ?」
 「だだだ、誰が馬鹿シンジを!?」
 「「「「「「はーい」」」」」」
 一斉に手を挙げる少女達。その数の多さに、ヒクッと頬を引き攣らせる。
 「少し、失礼な質問をしても良いかな?君達の中に、シンジ君と性交渉をした者もいると思うのだが、念の為にリッちゃんの検査を受けて貰いたいんだ」
 「それはどういう意味なのかしら?」
 「万が一、その子達の誰かが、シンジ君の子供を宿していたとする。そうすると、今回の一件において、胎児は元より母体にも何の異常も発生していない、とは誰にも断言できない。だから検査の必要があるんだよ」
 「まあ、一理あるわね。そういう事なら仕方ないか。月、叶、一緒に検査受けましょう」
 コクコクと頷く月と叶。その隣では雛里、流琉、蒲公英が同じように頷いていた。
 「あらあ?随分とまあ出遅れちゃったわね。ほら、今晩にでも夜襲をかけてきなさい、蓮華」
 「ねねね、姉様!?」
 「蓮華様がご辞退なさるのであれば、僭越ながら私と明命が」
 「亞莎!?」
 忠臣の裏切りに、悲鳴を上げる蓮華。最高権力者の筈の蓮華がイヂラレるという光景に、それを眺めていた美羽がクスクスと笑う。
 「しかし、シンジ君。随分とまあ女泣かせに成長しちゃったなあ」
 「向こうは封建主義真っ只中ですからね。実力さえあれば、基本何でも通りますから。実際、僕も向こうでは軍師として働いてましたし」
 「軍師?三国志だと、孔明とか有名だが」
 「一応、司馬懿仲達と名乗ってましたが?」
 ブホウッと咽るリョウジ。シンジ=仲達という事実を知ったオペレーター3人組は互いに顔を見合わせ、ミサトとリツコは目を丸くして驚いていた。
 「ま、儂らの愛弟子だからのう」
 「英才教育を施してやったからな。惜しむらくは、幼い頃からしっかりとした教育を受けておれば、今以上に成長していた点だな」
 「・・・シンジ君の先生?」
 「左様。儂は太公望。隣のこれは聞仲。しばらく世話になるのでな、今後とも宜しく頼む」
 アングリと口を開くリョウジ。口元から零れた煙草から、紫煙が立ち上る。
 「まあ、お互いに自己紹介は今後の課題として、シンジや。例の件だが」
 「ええ、分かってます。幸い、冬月副司令にご協力を頂けましたので」
 シンジの視線が、少し離れた所へ向けられる。そこには初号機にカヲル君状態で握られたまま、何やら悲鳴を上げているゲンドウの姿が有った。
 「母さんは父さんと家族会議を行いたい、という事なので冬月副司令が責任をもって、みんなの面倒を看てくれるそうです」
 「それは良いんだが、どうするつもりだ?」
 「旧・関東圏が荒地状態じゃないですか。あそこを放っておくなんて勿体なさすぎます」
 父さんにはインフラ整備と戸籍の登録を行って貰う必要がありますから、とアッサリした感じのシンジ。父親を極限まで酷使するつもり満々である。
 「ただこちらの世界の一般常識について勉強して貰う必要を考えると、すぐに実行と言う訳には行きません。ですからそれまでの間は、ジオフロントに隠れていて貰うしかないかと」
 「蓬莱島もあるからのう。2つに分ければ何とかなるじゃろうて」
 「ま、何とかなりますよ。そういえば、母さんから教わりましたけど、今やってる使徒の迎撃もSEELEという黒幕がいるそうですね。どうせですから黒幕には強制退場して頂きましょうか。人類20億道連れの集団自殺なんて考えるキチガイは、この世界には不要ですから」
 シンジの爆弾発言に、露骨に顔色を変えるリツコとリョウジ。
 「シンジ。俺にやらせろ」
 「それなら俺っちも参加するぜ!」
 「暗殺と言うのは気に入らんが、退屈するよりはマシだな。私も参加させろ」
 次々に参加を意思表示する者達。その光景にポツリと呟くリョウジ。
 「哪吒、黄天化、雷震子、燃燈道人、夏候惇将軍、関羽将軍、甘寧将軍、黄忠将軍、黄蓋将軍・・・SEELE、本気で全滅するぞ」
 「加持君。御注進してあげたら?」
 「知ってるか?アルバイトにはそこまでの義務は無いんだよ」



To be continued...
(2016.03.12 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございました。
 とりあえず本編はこれで終わりとなります。
 手直しして続けると言う選択肢もありましたが、大分長くなってきたので思い切ってバッサリ終わらせました。なので消化不良な面もありますが、そこら辺は大目に見て頂けると助かります。
 シンジと一刀は現代日本に帰還し、恋姫メンバーと封神演義メンバーは西暦2015年の日本に出現する、という終わり方になりました。
 貧乏籤を引いたのは言うまでも無くゲンドウとSEELEですw
 それでは、次回エピローグを宜しくお願い致します。



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