遠野物語

本編

第四章

presented by 紫雲様


SEELE―
 「サードチルドレンの件だが」
 「うむ。使徒は倒したものの、サードは重態。首から上と胸部が3度の火傷、他はプラグスーツのおかげで2度の火傷。全治2カ月だそうだ」
 「さらに命の危機が続いている事に変わりはない。普通なら、すでに死んでいるほど酷い状況なのだからな」
 「このままでは、次の使徒の迎撃に悪影響が出るのは必至」
 「セカンドが到着するのは2週間後。それまでに次の使徒の襲来があれば、ファースト単独での迎撃となる」
 「碇!何故、葛城の手綱を取らんかったのだ!」
 「・・・問題はありません。意識が無くても、パイロットが乗っていればエヴァは母性本能によって戦闘行動を取ります。十分、迎撃は可能です」
 碇の発言に、委員会メンバーが冷たい視線を向ける。そもそもミサトの暴走を止めなかった理由に答えていないのだから、不信を抱かれるのは当然である。
 「碇。君の罪はそれだけではないぞ。我々は冬月を通して、サードの調査を止めろと命じた。だがお前は葛城一尉に調査をさせたな?それについては、どう釈明するつもりだ」
 「・・・それも問題ありません。葛城一尉はサードの協力を得るため、サードの個人情報や経歴を欲しいと申請してきました。故に、葛城一尉の個人的な調査に留まる範囲であれば、黙認という形で許可を出しました」
 早い話がトカゲの尻尾切りな言い訳である。だが、ゲンドウの発言を嘘と断じる証拠はどこにも無いのである。加えて、脅しをかけた所で、ゲンドウが素直に『調査を命じたのは私です』等と言う訳がない。
 「碇よ。今回だけはお前の言い分を認めよう。だが今後、いかなる理由があれ、サードの調査は認めない。お前の役割は使徒の迎撃と人類補完計画の遂行にある事を忘れるな」
 ホログラムが消え、再び、闇が室内を支配する。その時、ゲンドウがどのような表情を浮かべていたのか、それを知る者はいなかった。

NERV医療部―
 シンジの手術は5時間に及ぶ大手術となった。皮膚を切り取り、培養した人工皮膚を張りつけるのである。ここが生命工学―特にバイオ分野において高度な技術を持っているNERVだからこそ、可能な手術であった。
 だが人工皮膚と言えども、全身を張り替えるにはストックが圧倒的に少ないのも事実である。それ故に、足りない部分は後日、再手術という形にならざるをえなかった。
 手術後はICUに入る事となったシンジであるが、彼が寝ているのはベッドではない。急遽リツコが用意した、LCL入りのケースの中でシンジは眠っていた。
 リツコ曰く。
 『シンジ君は気管支まで軽い火傷を負っている。それなら普通に空気から酸素を取り込むより、血液と同じ成分のLCLから直接酸素を取り入れた方が負担は少ないわ。LCLの温度調整と投薬に気をつければ、効率的に気管支の治療も行えるし、なにより水中だから体重による背中部分の火傷の悪化も防げるわ』
 オレンジ色の液体に浮かぶシンジは、静かに目を閉じていた。その胸が上下に動いている事から、シンジが生きているのは間違いがない。
 その悲惨な姿に、琥珀とレイは怒りを抑えきれないでいた。シンジをここまで追い込んだNERV作戦部―ひいてはミサトへの純粋な怒りである。
 琥珀は即座に秋葉へ事情を説明。怒りのあまり紅赤主へと変じた秋葉だったが、志貴の説得もあり、現在は京都の源一郎と今後の行動について協議中であった。
 「レイちゃん、少しは休まないと」
 「嫌。遠野君が心配なの」
 「それでも休んで来なければダメよ。私の体力も無限じゃない。私の体力が尽きた時に、レイちゃんまで倒れたら終わりでしょ?だから、今は休んで。朝になったらレイちゃんに交代をお願いしたいから」
 琥珀の言葉に、レイが黙って頷く。
 「これはうちの鍵。冷蔵庫の中に料理があるから、それを食べてから眠りなさい。レイちゃんには、朝になったら看病で頑張って貰わないといけないんですからね」
 「・・・はい・・・分かりました・・・」
 そんなレイの姿が消えた事を確認すると、琥珀は携帯電話を取り出した。
 「秋葉様ですか?琥珀です。実は、至急、お願いしたい事がありまして・・・」
 琥珀の要望を、秋葉は即座に認めた。
 その10分後、ICUの前にリツコが駆けつけてきた。
 「お疲れのところ、申し訳ありません。先程、秋葉様から連絡があった筈ですが」
 「ええ、確かに連絡は受けました。シンジ君を助ける手段を、琥珀さん、あなたがお持ちだと伺いました」
 「はい。ただし、ICUの中に入る必要があるんです。その許可と、私がどうやって治療しているのか、それについて一切関与しない事を認めて欲しいんです」
 言外に『監視装置も切ってほしい』という琥珀の要望に、リツコは思ったよりもあっさりと承諾の返事を出した。
 その思い切りの良さに琥珀は首を傾げたが、許可が出た以上、すぐに取り掛かるべきだと判断し、ICUの中へと入った。
 シンジは今、この時も戦っていた。相手は『死』。負ける訳にはいかない戦い。
 「シンジ君、かならず助けるからね」
 琥珀は右腕にナイフを握ると、左手の手首に刃を走らせた。
 赤い鮮血がシンジの口内に流れ込み、シンジの体内へ取り込まれていく。
 慣れた手つきで応急処置を施すと、琥珀は多少ふらつきながらも自分の足で廊下にまで出てきた。
 「琥珀さん、こちらのソファーに」
 「ええ、ありがとうございます」
 「約束通り、何も聞きませんが。造血剤が必要ならこちらで用意しますよ?」
 「そうですね、お願いします。しばらくは続けなければならないでしょうから」
 リツコが医薬室へ駆け出す。その姿が消えたのを確認すると、琥珀は再び電話を取り出した。
 「ええ、ただいま終わりました。ですが、しばらくは続ける必要があると思います。正直な話、造血剤を使っても私一人では・・・ええ、その通りです。今回ばかりは翡翠ちゃんの協力も必要不可欠です・・・そうです。志貴さんとシエルさんが適任かと・・・そうです、シエルさんなら他の方法も御存知かと・・・分かりました。何とか明後日まで、もたせてみせます」
 ピッと切られる電話。そこへ造血剤と飲料水を手にしたリツコが駆けもどってくる。
 リツコに礼を言い、造血剤を服用する琥珀。
 「ところで、ここへ入る許可証を3名分、臨時で発行して頂けませんか?」
 「出来上がったら琥珀さんに渡せば宜しいのかしら?」
 「ええ、そうです。明後日には到着するそうなので、それまでにお願いします」
 
空母オーバー・ザ・レインボウ―
 「サードチルドレンが瀕死!?」
 ラミエル戦の顛末は、ドイツから日本へ向けて移動中のオーバー・ザ・レインボウにまで届いていた。
 その一方が届いた時、アスカは空母に持ち込んだ使徒戦用ヴァーチャルプログラムを使って戦闘訓練を行っていたのだが、それを急遽中止したのである。
 「サードチルドレンは未だ生命の危機が続いているそうだ。今回はミサトの暴走が原因で、あいつが責任を取るそうだが、どうやら事はそれだけでは済まなそうな気配がある」
 「どういう意味?加持さん」
 「サードチルドレンの保護者である遠野家と、実の祖父がいる碇家。この2つは日本でも有数の経済力を持つ企業家だが、彼らが合同で動いている。サードチルドレンが重傷を負った直後からな。間違いなく、何らかの形で報復行動を起こすだろうな」
 加持の視線はいつになく厳しい。遠野と碇、彼らが報復を行うとすれば、間違いなく対象としてミサトが入るからである。
 「それだけじゃない。理由は分からんが、ヴァチカンの一部にも動きがあるそうだ」
 「ヴァチカン!?何で連中が動くの?私達NERVが使徒―天使の名前を持つ化け物を殺すのが気に食わないのかしら?」
 「まあ原理主義な連中なら、そう思うかも知れんが・・・」
 言葉を濁す加持。彼が調べた情報によれば、動いているのはヴァチカンの中でも異端狩りを任務とする暗部『聖堂教会』。さらにその中でも最も戦闘力に特化した異端審問代行機関『埋葬機関』なのである。加持は埋葬機関が化け物退治専門という組織である事を知っている。だからこそ、何故、サードチルドレン重傷とタイミングを同じくして動き出したのかが理解できないでいた。
 「しかし、サードチルドレンも可哀想だな。なまじ顔が整っている分、一生ものの傷が顔に残るんだから」
 「そんなに見た目は良い訳?サードって」
 「アスカは見た事ないのか。ほら、これが写真だ」
 加持から手渡された写真を何気なく見たアスカは、驚きのあまり硬直していた。
 「どうした?」
 「加持さん!本当にこいつがサードなの!?間違いないの!?」
 「おいおい、どうしたんだ?ひょっとして知り合いなのか?」
 「緑の目をした知り合いなら、1人いるわよ。半年前に偶然会ったきりだけど・・・」
 (確か遠野シンジと言ったわね、こんな事で死ぬんじゃないわよ!)
 
シンジの治療開始から1週間後―
 ピー、ピー、ピー
 シンジの枕元に置かれた機械が、ブザーを鳴らした。その音が意味する所が理解できずに、シンジの周囲にいた志貴・翡翠・琥珀・シエル・レイが不安そうに見つめ合う。
 「安心して。これは脳波に変化があった事を教えてくれる報せなの」
 「それじゃあ!」
 「ええ、もうすぐシンジ君は目を覚ますわ」
 リツコの説明に、ホッと安堵の溜息を洩らす5人。
 この1週間、リツコは琥珀と約束した通り、遠野家のメンバーがシンジに施した治療については一切、関与をしなかった。実際の所、リツコが施す現代医学では今以上の事は出来ず、いつシンジが命を落とすかも分からない状況であり、仮に回復に向かったとしても全治2ヶ月という期間は、使徒迎撃の面では致命的だった。
 加えて、ゲンドウは『使徒が来ればシンジを強制的に初号機へ乗せろ』との判断を下していたのである。リツコや冬月は危険すぎると反対したが、その程度で止まるゲンドウではない。
 だが、シンジが目を覚ましたとなれば話は変わってくる。遠野家の治療のおかげで、火傷の治癒は想像以上に早く進み、リツコの見立てならば、あと1週間で治ると判断。さらに人工皮膚の培養も進んでおり、明日には再手術の予定だったのである。
 6人が見守る中、シンジの両目がゆっくりと開いていく。
 「シンジ君、私が分かる?」
 「・・・琥珀お姉ちゃん・・・どうしてここに?」
 LCLのおかげで聞き取りづらいが、それでもシンジははっきりと言葉を口にした。
 その瞳は緑色―ではなく光沢を放つ銀色に変化している。遠野家のメンバーは、巫淨の血を摂取した事により、千里眼の力が底上げされた影響である事を知っている。リツコは初めて見た為、さすがに息を呑んで驚いたものの、それでもシンジの担当医として必要な事に取り掛かった。
 「シンジ君、体の調子はどう?」
 「少し、全身が引き攣ります。あと全身が針で突かれるように痛いです」
 「あなたの全身は火傷をしているのよ。今はLCLに薬と栄養を混ぜて、全身から吸収させているの。今から少し痛み止めも投薬するから、少しだけ我慢してね」
 リツコが作業に取り掛かる間、シンジは周囲に目を向けた。
 琥珀が包帯を巻いた左手首を、右手で押さえながら笑顔を浮かべている。
 嬉し泣きする身重の翡翠を、志貴が優しく抱きしめる。
 尼僧姿のシエルが、安堵のあまり倒れかけたレイを椅子に座らせている。
 全員が、自分を助けるために力を尽くしてくれた事を、シンジはその眼で理解した。
 「ありがとう、みんな・・・翡翠お姉ちゃん、お腹の子は大丈夫?」
 「大丈夫よ、だから心配しないで」
 身重の身でありながら、シンジを助けるために翡翠は己の血液をシンジに与えていた。その事を理解したからこそ、シンジは自分が弟として愛されていると感じたし、同時に翡翠に申し訳なくも思った。
 「リツコさん、僕はどれぐらい眠っていたんですか?」
 「1週間よ。琥珀さん、翡翠さん、シエルさんに感謝するのね。正直な話、私達の医療技術では、シンジ君を助けられたとは断言できなかったんだから」
 琥珀と翡翠の血液投与と、シエルの治癒の魔術の併用により、シンジの火傷は異様なまでの回復速度を見せていた。
 その事に多少の嫉妬は抱いたものの、リツコは自分がすべき事を疎かにするような真似はしない。テキパキと機械が計測するデータを確認しながら、診断を下していく。
 「シンジ君、良かったわね。この分なら、ほとんど後遺症は残らないわ」
 「・・・リツコさん、本当の事を言ってくれて良いですよ。僕の目は、分かってしまうんですから」
 「そうだったわね・・・ごめんね、シンジ君。どうしても治しきれなかった部分があるの。左目の周辺約5cm四方と、胸の部分は、痕が残ってしまったわ。その部位だけは、熱による細胞の壊死が激しすぎて、除去せざるをえなかった。そのせいで、周辺と比べて見た目に変化が生じてしまっているの」
 「それぐらいはいいですよ。僕は自分の顔なんて気にしませんし、普段から包帯のおかげで敬遠されてますからね。目が死んでいないのなら、それだけで十分です」
 シンジが銀色に変じた両目に、険しい色が浮かび上がる。
 「そんな事より、リツコさん。あの男と風俗嬢に伝えて貰えますか?」
 「良いわよ、内容は?」
 「風俗嬢には、無能な作戦指揮によるペナルティを。両足を麻酔無しで焼き切られるのと、初号機の頭部にロープで縛りつけられた状態で使徒と一緒に戦うのと、どちらが好みに合うか決めておくように伝えてください」
 全く容赦のないシンジの発言だったが、今回ばかりはリツコにも、ミサトへの同情は欠片もなかった。発令所での一部始終を考えれば、もはやミサトの存在自体が害悪と言って良いレベルに達していたからである。
 「それと、あの男には2つペナルティを。まず風俗嬢の暴走を止めなかった事に対して、問答無用で両腕を切断。もう一つは家族に手を出さない、という条件を破った事に対して、両足を再切断するのと、僕が初号機を破壊するのとどちらが良いか尋ねてください」
 「シンジ君!?」
 「リツコさん。僕の目は心を読むだけじゃない。銀色になっている時は、リツコさんが知らない他の力も目覚めているんですよ。昨日、翡翠お姉ちゃんを襲おうとして、兄さんとシエルお姉ちゃんに撃退された馬鹿どもの姿が見えました。顔もハッキリと確認できましたから、顔合わせもできます。ちなみに証拠がない、なんて逃げ道があると思わないで下さい。証拠の有無など関係無しに、問答無用で潰すつもりですから」
 ラミエル戦に対する不満と、火傷の痛みはシンジにストレスを募らせていた。このままシンジにストレスを募らせていては、間違いなく災厄を招く事になる。
 もし初号機に搭乗した状態で、報復の為に暴れられては使徒迎撃どころの騒ぎでなくなるからだ。
 「分かったわ、2人には伝えておくから、今は治療に専念してくれる?あなたが早く体を治さないと、レイまで倒れかねないのよ」
 「レイが?」
 「ストレス性の不眠症。あなたが死んでしまうかもという不安が、レイを苛んでいるのよ」
 リツコの言葉通り、レイは明らかにいつもとは違う雰囲気を纏っていた。無差別に当たり散らすような、攻撃的な雰囲気である。
 「レイ、心配かけてごめんね。こっちへ来てくれるかな?」
 「遠野君?」
 近寄ったレイの手を、シンジがLCLの中へ引き込み、自分の心臓の真上に持ってきた。
 「僕は生きてるよ。ほら、動いているのが分かるだろ?」
 「うん、動いてる・・・」
 「大丈夫だから、落ち着いて。今のままのレイじゃ、安心して頼みごともできないよ」
 冗談めかした口調で、シンジは言葉を続ける。
 「トウジやケンスケ、洞木さんも心配していると思う。だからみんなに僕は無事だよ、そう伝えてほしいんだ。でもレイが倒れそうな状況じゃ、お願いできないだろ?」
 コクンと頷くレイ。
 「だからゆっくり休んでほしい。どうしても不安なら、この部屋で休んでいけば良い。リツコさん、それぐらいは大目に見て貰えるでしょう?」
 「そうね、でも今日だけよ?」
 リツコの言葉に、レイは綺麗な笑顔を浮かべた。

ラミエル戦から2週間後―
 シンジは予想を良い意味で裏切る回復を見せていた。リツコの宣言通り、左目の周辺と胸部だけは、それと見て分かるほどはっきりと痕が残っているが、他はほとんど治癒していたのである。
 退院の翌日、シンジは色々な所へ色々な意味で挨拶まわりに忙しかった。学校へは退院終了を伝え、整備部や技術部へはエヴァを壊した事に対する謝罪をし、発令所へは今後も搭乗するという意思表示を示してきたのである。
 彼らは間違いなく、シンジに対して好意的な対応を見せていた。問題だったのは、諜報部とミサトとゲンドウである。
 諜報部はシンジが入ってきた瞬間、即座に戦闘態勢をとった。銃に手をかける者、半身に構える者、それぞれが対応を取る。
 だが彼らが自慢の実力を振るうよりも早く、シンジはすでに作り出しておいた黒鍵を容赦なく投擲。1分とかからずに諜報部を物理的に壊滅させたのである。
 僅かな生存者の中から、シンジは微かに息をする諜報部の部長を見つけ出すと、無慈悲に告げた。
 「翡翠お姉ちゃんに手を出して、この程度で済むと思わないで下さいね。これからあなたには見せしめになって貰いますから」
 緑色の瞳で睨みつけられ、部長は恐怖で息を止める。
 5分後、シンジから連絡を受けた医療部が駆け付けた時には、部長は恐怖で顔を歪めたまま、正気を失っていた。
 
 諜報部の壊滅は即座にゲンドウの元へと届いた。ゲンドウはかつて自分が両足を焼き切られた時の事を思い出した。
 強気な表情は作っているが、義足となった両足を見れば、その強気も揺らがざるを得ない。少なくとも、1対1で勝てる相手でないのはゲンドウも理解している。諜報部が無事だったなら司令権限で数を頼みにシンジを捕縛するという選択肢もあったのだが、その選択肢は、シンジによって先手を打たれて潰されていた。
 「碇。自業自得だぞ。シンジ君との約束を破ったお前が悪い」
 本来なら副司令である冬月も連帯責任でペナルティを与えられる身なのだが、彼が落ち着いているのには理由がある。
 冬月はゲンドウの尻拭いや事務処理の最高責任者である為、彼に何かあると、NERV自体がストップしかねないというリツコの取りなしと、冬月自身がシンジの元を訪れて謝罪をしていたこと、加えてリツコ→琥珀経由で翡翠の襲撃計画をリークしていたのである。
 ちなみにリツコはゲンドウに関しては、全く取りなしをしていない。これにはリツコ個人の思惑も絡んでいる。シンジもリツコの思惑を理解しているため、ゲンドウを殺す事だけはしないと約束していた。
 「さて、私は退室させてもらうぞ。親子喧嘩に水を差すような、野暮な真似はしたくないからな」
 「こんにちは、副司令」
 何とかして冬月をこの場に止め、盾代わりに使おうと考えていたゲンドウを固まらせたのは、司令室に入ってきた緑色の双眸である。
 「こんにちは、シンジ君。この前は迷惑をかけてしまい、本当にすまなかった」
 「もしそう思われているのでしたら、しばらくの間、司令室を立ち入り禁止にしていただけますか?ちゃんと救急箱も持参してきましたから」
 これ見よがしに緑十字のデザインの入った救急箱を見せるシンジ。ちなみにこれはシンジが自宅から持ち出してきた代物である。
 「碇の命さえ無事なら、私は何も言うつもりはない。終わったら、副司令室に連絡を貰えるとありがたいのだが」
 「分かりました。サービスで医療部へも連絡しておきますよ。もっとも医療部は諜報部への対応で忙しいでしょうから、すぐには来てくれないでしょうね」
 シンジの発言に、ゲンドウはまだ冬月が室内にいるにも関わらず、机の引き出しから銃を取り出した。ゲンドウにしてみれば、弱気を見せる訳にもいかない為、必死で抵抗するしかない。
 冬月が司令室を辞した後、防音の筈の司令室から絶叫が響いてきた。

 最後にシンジが向かったのは営倉である。
 「こんにちは、葛城一尉。勿論覚悟はできているでしょうね?」
 右手に黒鍵を携えたまま、笑顔を崩さず近寄ってくるシンジに、ミサトは激しい恐怖を抱いた。
 今更ながらに、シンジに肋骨を折られた時の事を思い出したのである。加えて今のミサトは両手を手錠で拘束された状態であった。
 「それでどちらにするか決めましたか?リツコさんが伝えてから1週間、十分に考える時間はあったでしょう?」
 「じょ、冗談よね、シンジ君?」
 「冗談でそんな事言う訳がないでしょう?こっちはあなたの暴走で死にかけたんですからね。あなたが決められないのなら、僕が決めますので」
 すでに作り出しておいた黒鍵を6本、見せつけるかのようにゆっくりと近寄っていく。
 「しょ、初号機に乗るから!だから足は切り落とさないで!」
 必死になって抗弁するミサト。内心でどう考えているかなど、包帯を外しているシンジには火を見るよりも明らかである。だがその両目は、ミサト自身も知らない、ある出来事すらも感知していた。
 一瞬ではあったが眉を顰めるシンジ。その態度に、助かるのかと安堵したミサトがホッとため息をつく。
 そこへシンジが飛び込み、掌手を鳩尾に叩きこんだ。
 再度、肋骨を折られたミサトが声にならない絶叫を上げ、気絶する。
 医療部へ連絡を入れながら、営倉を後にしたシンジは、一人呟いた。
 「これは、リツコさんに相談した方がいいな」
 
技術部部長室―
 シンジを招き入れたリツコは、手製のブレンドコーヒーを振舞っていた。
 「琥珀さんは紅茶が得意だったようだけど、コーヒーなら私も自信あるのよ」
 「へえ、ありがとうございます・・・うん、香ばしくて美味しいですね」
 「フフ、どういたしまして。ところで、私に何の用なの?」
 直球な質問だったが、今のシンジにはとても都合のよい質問であった。
 「念のために聞きますが、この部屋は大丈夫ですか?」
 「問題ないわ。毎日、私が直接確認しているからね」
 「それなら安心です。実は、葛城さんの事ですが」
 シンジの言葉に、リツコが眉を顰める。
 「あの人、どうやら暗示をかけられていたみたいですね」
 「暗示ですって?」
 「はい。使徒に対する憎悪、それを晴らす事を、最優先行動とする暗示です。あれほど強力な物となると、もはや暗示というよりは洗脳と言った方が良いでしょうね。僕もこの眼がなければ、さすがに気付けませんでしたよ」
 室内に沈黙が下りる。
 「シンジ君、あなたはそれを理解していて・・・」
 「はい。確かにあの人は被害者かもしれない。ですが、相手が被害者だからと言って、僕が大人しく犠牲にならないといけない義務はありません。ここで行動しなければ、あの人は間違いなく、同じ事を繰り返すでしょうから。暗示を解くまでね」
 シンジの言い分に、リツコも渋々ではあるが、頷かざるをえなかった。ラミエル戦において、一度は親友を見限った彼女である。その気持ちに変わりはなかったが、それも暗示による暴走が原因かもしれないと分かっては、さすがに躊躇いの気持ちが生まれてくる。
 「あの人に暗示を仕掛けた相手、心当たりはありませんか?」
 「ミサトが南極でセカンド・インパクトに遭ってから今まで15年という時間が経っている。ミサトに接触できた人間なんて、山ほどいるわ。正直言って、心当たりが多すぎるわよ。いくらなんでも絞りきれないわ」
 「そうですか・・・とりあえず暗示の解除については、僕の方に心当たりがあります。リツコさんさえ問題なければ、秘密裏に解決しておきますけど、どうしますか?」
 「そうね、お願いできるかしら?ミサトは面会謝絶という事で医療部の方へ隔離しておくから、準備ができたら連絡をちょうだい」
 冷めかけたコーヒーを飲みほしたリツコは、やりきれない表情を浮かべていた。
 
翌日―
 本来、この日はジェットアローンの完成お披露目会がかつての東京で行われる日であり、当然の如くNERV技術部にも招待状が届いていた。
 だがNERV、特にゲンドウにしてみれば面白くもない計画であり、リツコにジェットアローンへの工作を指示していたのである。
 ところが問題が発生した。
 最近のリツコはシンジへの対応で忙しく、工作を行う時間的な余裕に欠けていたのである。さらに初号機が取りこんだサキエル・シャムシエル・ラミエルの調査と言う、リツコにしてみれば涎を垂れ流すほどの興味の的が目の前に存在しているのも理由の一つであった。
 「いけない。すっかり忘れていたわね」
 リツコにしては珍しいほどの凡ミスである。今からハッキングをするのも不可能ではないが、ばれる可能性が高いのも事実であった。
 「・・・ま、いいわ。知らん振りしちゃいましょう。幸い、碇司令は向こう一カ月は入院だしね」
 リツコは自分の思惑通りに進んでいる事を再確認すると、己の好奇心を満たすべく、初号機のデータ検証に戻った。
 「本当に興味深いわ・・・うん、これなら懸案中のアレも実用できそうね。問題は予算だけど、これはこちらで細工しちゃいましょうか。司令はいないから、一昨日位の日付にしちゃえば問題ないわね」
 本来なら通る筈のない予算申請書を、裏から小細工で通すリツコ。
 ・・・NERVで一番黒いのは、リツコなのかもしれなかった。

第3新東京市、市立第1中学校―
 「ホンマ、退院できて良かったわ!」
 復帰を喜ぶトウジの姿に、シンジが『ありがとう』と返す。
 「遠野君、無理しないでね。まだ完全に治った訳ではないんだから」
 「ありがとう、綾波。無理はしないから、安心していいよ」
 相変わらず包帯に包まれた―というより、今まで以上に包帯の面積が増えている―シンジの笑顔だが、レイにとってはN2クラスの破壊力がある。
 無表情な顔を真っ赤に染め上げたレイの姿に、クラス中からざわめきが起こった。
 (・・・一体、遠野のどこに惚れたんだろうな?)
 (さあ・・・確かに喧嘩は強かったけどなあ)
 そんなヒソヒソ話が囁かれる教室の中で、ヒカリは友人とお喋りに興じていた。だがその視線の先には、1人の少年―遠野シンジが立っている。
 「ヒカリ、どうしたの?何か、上の空って感じよ?」
 「え?ううん、何でもないの!」
 2−Aにおけるシンジの評価は決して高くない。
 やはり包帯のイメージが強すぎるのである。
 それでもヒカリがシンジを評価するのは、シャムシエル戦の際に初号機へ搭乗してから、シンジが第3へ帰ってくるまでの出来事を、つぶさに体験した点が大きかった。
 加えて、シンジが持っている緑の瞳―その綺麗さに、ヒカリは惹かれていた。
 「・・・ちょっと、遅かったかあ・・・」
 「どうしたの?」
 「ううん、独り言」
 ヒカリが呟いた先で、シンジとレイが立ち上がり、慌てて廊下へと飛び出した。

エヴァ専用輸送機―
 突然の連絡に呼び出されたシンジは、初号機とともに一路、旧・東京へと向かっていた。目的は暴走を始めてしまったジェットアローンの処理である。
 暴走原因は不明。最悪、原子炉が爆発しかねないという状況に、日本政府がNERVに泣きついてきたのであった。
 リツコ曰く。
 『偶然ってあるのね』
 「でも日向さん、いっそ爆発させたほうがいい気がしますけど?どうせ旧・東京には誰も住んでいないんですよね?」
 「それはそうなんだけどね。でも放射能は何十年、何百年という単位で残ってしまうから、やっぱり爆発は防がないと不味いんだよ。この日本だって、そうだな、シンジ君の子供が大人になる頃には、きっと土地が足りなくなってくる。そうなった時、旧・東京のような開発可能な土地が必要になるんだよ」
 未来を守る為に必要な作戦。それが日向の言い分である。
 「シンジ君。僕やシゲル―青葉二尉の事だけど、僕達がNERVに入ったのは、サード・インパクトを防ぐ為じゃないんだよ」
 「じゃあ、何が目的なんですか?」
 「僕達のような子供を作り出さない事。僕達はセカンド・インパクトの時は10才だった。友達をたくさん失ったし、家族だって失った。あの時の苦しさ、辛さ、悲しさ、そして怒りと憎悪。それら全てを味わう様な子供を生みだす世界の、一体どこが正しいのか?そんな世界はお断りだ!僕やシゲルにとって、サード・インパクトの阻止は、目的ではなく手段でしかないんだよ。だからこそ、今回の件にエヴァで介入すべきだと考えた」
 シンジは日向の言い分を、黙ってジッと聞いていた。
 「本来なら、使徒迎撃戦のみに関わればいいのがシンジ君の立場だ。だからシンジ君を連れてくるのもお門違いなのは分かっている。それでも、僕達は君と初号機の力が必要なんだ」
 「さすがにここまで来ておいて『嫌です』なんて言うつもりはありません。力を貸すのは良いんですが、何か作戦はあるんですか?」
 「まずはジェットアローンの機動力を奪う。手足をもいだくらいで爆発はしないから、その点は安心してほしい。次に僕が内部に入って緊急停止用パスを打ち込む。でも、万が一、停止が間に合わなかった場合は、緊急連絡をいれるから僕ごとジェットアローンを消し飛ばしてほしい」
 どうやって?と聞くシンジではなかった。確かに、今の初号機ならそれを可能にするだけのポテンシャルを秘めている事を、シンジは感じ取っていた。日向がそれを知っているのは、リツコから情報提供があった為である。
 「分かりました。でもギリギリまで頑張ってくださいよ。死ぬのはいつでもできるんですから」
 「ああ、ありがとう。じゃあ作戦開始といこうか」
 初号機の左手の上に、耐放射能用スーツを着込んだ日向を乗せて、初号機が大地に降り立つ。その前方200メートルほど先に、暴走中のジェットアローンがガッションガッション音を立てながら走っていた。
 「力を貸して、シャムシエル!」
 シンジの言葉に応えたかのように、初号機の右腕からシャムシエルの光の鞭が生える。同時に初号機のS2機関が稼働を開始。電源表示が∞に切り替わる。
 右手を振りかぶり、全力でジェットアローンの両足を光の鞭で切断。両足を失ったジェットアローンは地響きを立てて大地に転がる。
 左手の上にいた日向が、ジェットアローンの背中に飛び移り、すぐさま内部へと侵入を開始した。
 その間に、シンジは初号機を操り、未だにジタバタと暴れ続けるジェットアローンを力づくで押さえつけ、少しでも静かにさせようとする。
 『・・・聞こえるか?シンジ君?』
 「日向さん!?」
 『最悪だ!パスが変更されているんだよ、これじゃあ止められない!』
 日向の言葉が意味する物を、シンジは正確に把握してしまった。
 このままでは周囲に放射能を撒き散らすのは確定である。
 『シンジ君。時間がある内に、こいつを消し飛ばしてくれ』
 「待って下さい!それなら、僕の賭けに乗ってください!日向さんは、早く外に!」
 『・・・分かった。すぐに出る!』
 日向が出てくるまでの間に、シンジは更に深いシンクロに入った。
 「力を貸して、サキエル、シャムシエル、ラミエル!力を貸して、母さん!」
 初号機に取り込まれていた3つのS2機関が稼働を開始。初号機の全身に、凄まじいまでの力が漲っていく。
 日向が地面に降り立ったのを確認すると、初号機はジェットアローンを掴み上げ、外装をベリベリと剥がしていく。
 勘に従ってジェットアローンを限界まで軽くすると、シンジは全力でジェットアローンを空に向かって投げた。
 みるみる小さくなるジェットアローン。そこへ追撃をかけるかのようにS2機関3つ分のエネルギーを集めた加粒子砲を、左手から放つ。
 例えどれだけ遠くまでジェットアローンが離れていても、光の速さで突き進む加粒子砲にとっては、一瞬の時間でしかない。
 瞬時に加粒子砲に飲み込まれるジェットアローン。即座に原子炉が爆発を起こすが、そこから出る放射能も熱エネルギーも、全て加粒子砲の流れに飲み込まれて大気圏外へと強制的に吹き飛ばされる。
 やがて徐々に加粒子砲が弱まっていく。そして加粒子砲が完全に途絶えるのと同時に、初号機は膝をつくように崩れ落ちた。
 「シンジ君!大丈夫か!」
 日向が声を張り上げる。
 「はは、さすがに初号機の負担が大きすぎたみたいです。あとでリツコさんに大目玉食らっちゃいそうだ」
 外部スピーカーから聞こえてきたシンジの言葉に、日向は安堵のため息をついていた。

NERV本部技術部―
 「それにしても派手にやってくれたわね。人間で言うなら、初号機は全身の筋肉が断裂している状態よ」
 帰還後、緊急メンテナンスを行ったリツコの調査結果である。ちなみにシンジも100%超えのフィードバックを受けて、全身の筋肉が悲鳴を上げていたりする。幸い、筋肉痛程度で済んだのが、不幸中の幸いであった。
 「MAGIによれば、初号機が放った加粒子砲は、電力に換算すると5ギガワットを超えていたそうよ。ラミエルも真っ青な破壊力ね」
 「・・・意外です。初号機壊した事、怒られると思ったんですが」
 「それ以上に興味を惹かれたからよ。初号機の出力が、ここまでとは想像もしなかったわ。これなら、十分実用可能ね、ホント楽しみだわ」
 上機嫌と評していいリツコの態度に、顔を見合わせるシンジと日向。
 「赤城博士、何か新武装でも作られるのですか?」
 「勿論よ。これほどの出力、使わないのは勿体ないでしょ?初号機のメンテナンスは、こちらでやっておくから安心して。修理費用も今回は日本政府が全部負担してくれると言っていたから、心配いらないわ」
 「そ、そうですか」
 半分、腰が引けている日向。確かに沈着冷静さが売りのリツコが、今にも踊り出しそうな雰囲気なのだから、そうなるのも仕方がないのかもしれない。
 「そういえば、新しい作戦部長補佐が赴任したそうよ。ちょうど今、副司令と面会中だそうだけど。それに伴って、日向二尉は一尉として部長へ昇進だそうよ、おめでとう」
 リツコの言葉に、日向が礼を言いつつも、当然の如く疑問を口にする。
 「新しい方という事は、UNか戦自の出身者ですか?」
 「それが軍属ではないそうよ。今回も特務二尉という形で、使徒戦の期間のみに限定で赴任するそうなの」
 「・・・本当に、大丈夫なんだろうか・・・」
 不安そうに呟くシンジ。その隣で日向も同感とばかりに頷いている。
 「あらあら、酷い言われようですね?シンジ君なら私の実力、知っていると思ったんだけどなあ」
 聞き覚えのある声に、シンジが振り向く。そこにはいつもの制服を着込んだ副司令と、シンジにとっては嫌と言うほど見覚えのある尼僧服を着込んだ美女が立っていた。
 「シエルお姉ちゃん!何でここに!?」
 「ふっふっふ。実は今日付けで作戦部長補佐として赴任したのが私なんですよ」
 「・・・お姉ちゃん、指揮なんて経験あるの?」
 「そんなの、ある訳ないじゃないですか!」
 その場にいた全員が、今のは聞き間違いだよね?と自問自答する。
 「私はあくまでも補佐。使徒と言う人外の生物に対する効果的な対策の助言と、実際に戦うシンジ君達チルドレンへの戦闘技術の教授がお仕事になるんですよ。作戦指揮そのものは、そちらの日向一尉が取るんですから、安心してください」
 シエルが相手をしてきたのは、人外の異端、特に死徒である。その常識はずれな能力の持ち主を相手に、臨機応変に戦ってきた経験は、どんな能力を持っているか分からない使徒相手に対して、確かに有効的であった。
 「あとで遠野家と碇家に、お礼の電話を入れておいて下さいね?秋葉さんも源一郎さんも、私を一時的にNERVへ入れる為に、相当無理をしたんですから」
 「うん、帰ったら連絡いれとくよ」
 シンジの言葉に満足そうに頷くシエルである。
 仲の良い、というかどう見ても知り合いにしか思えない2人の会話に、やっと口を挟む機会を見つけた日向が、当然の疑問を口にする。
 「シンジ君は、こちらのシエルさんと知り合いなのかい?」
 「ええ、何と言うか・・・一言で言うなら僕の先生です。教わったのは戦闘技術ですけど」
 「シンジ君。義理の姉という最も重要な事実を伝えないのは何故なんですか?」
 「・・・秋葉お姉ちゃんの逆鱗に触れたくないからに決まっているでしょう?世間一般の判断基準からすれば、シエルお姉ちゃんと兄さんは不倫という関係なんだって分かってるの?」
 「違います。私の方が正妻ですよ」
 まだ見ぬシンジの兄がどんな人物なのかを考え、男として劣等感を抱いてしまった日向である。
 リツコは志貴ともシエルとも、シンジが入院している時に会っていたのだが、シエルと志貴の関係を聞き、頭に?マークを浮かべた。
 「シンジ君。私の記憶が間違い無ければ、翡翠さんは志貴さんのお相手よね?」
 「そうですよ。戸籍上、配偶者なのが秋葉お姉ちゃん。同居している内縁の妻が琥珀お姉ちゃんと翡翠お姉ちゃん。ローマ在住の現地妻がシエルお姉ちゃんです」
 ますます落ち込む日向。独身を貫いている冬月が、その肩をポンポンと叩いている。
 そんな2人の姿に気づいたシンジが、話題を変えた方が良いと判断し、無理矢理話の方向転換を図る。
 「でも、よく使徒相手に戦う気になったね?一応、本職のシスターでしょ?天使を殺すのは不味いんじゃないの?」
 「そういう小さい事は、生き残った後で考えれば良いんですよ。世界が滅んじゃったら、私もレオも死んじゃうんですからね」
 ちなみにレオとはシエルの実の息子。今年で3歳になる男の子で、父親にそっくりな顔立ちである。性格の方も素直で可愛いく人見知りをしない為、現在は母性本能を刺激されたナルバレックと、父性本能を刺激されたメレムの2人が『育ての親』の座をかけ、埋葬機関を2つに分けるほどの暗闘を繰り広げていたりする。
 「と言う訳なので、私もレオも、しばらくシンジ君の所でお世話になりますからね。勿論、その間は徹底的にシンジ君の戦闘技術も磨いてあげますから」
 「・・・お手柔らかにお願いします」
 師匠の言葉に、頷くしかない弟子であった。



To be continued...
(2010.07.17 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 まずは月姫サイドから、カレー先輩(?)ことシエルが参戦となります。シエルの役どころとしては、参謀役です。シエルが案を出し、日向がそれを更に練り上げて指示を出し、それをチルドレンが遂行する、という流れになります。
 それと、今回からゲンドウとミサトが離脱する事になります。ゲンドウについては、ほぼ完全離脱。ミサトは時系列的には、今回の流れの裏で、シエルによって暗示を解かれる事になります。今後、彼女はNERVから身を引き、加持の個人的な相棒として、裏からNERVを支えていく役割を担ってもらおうと思っています(諜報部が壊滅したから、表に出せない仕事を、加持がやるしかない訳でして、そうなると圧倒的に人手不足なんですよね)。なのでミサトは一時離脱しますが、必ず復帰はさせますので、しばらくお待ちください。
 次回ですが、ガギエル戦&アスカの本格参戦となります。
 また次回もよろしくお願い致します。



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