遠野物語

本編

第九章

presented by 紫雲様


SEELE―
 「サードチルドレンの件だが」
 「うむ。報告は聞いている。四号機を廃棄処分にまで追い込んだそうだな」
 「然様。第8使徒捕獲の際、弐号機救出の為に溶岩の中へ飛び込み、溶岩の熱に長時間さらされた為、素体が完全に修復不可能になったそうだ」
 「これでは初号機の使用を認めざるを得ないぞ?」
 「全く、困ったものだ。参号機は未だ完成しておらず、かと言って零号機と弐号機のみで今後の使徒撃破の任務に当たらせるのも不安が残る」
 「・・・仕方あるまい。冬月に初号機の凍結解除を命じる。ただし参号機の完成までが条件だ。参号機は完成次第、汎用コアを搭載させ、サードを搭乗させろ」
 
2週間後、NERV本部―
 リツコの呼び出しを受け、3人のチルドレンは技術部へ顔を出していた。
 手渡されたレポートに目を通すシンジ。
 「・・・マジですか?これ」
 「本気よ。私の考えうる限り、最強の装備ね。S2機関を3つ稼働可能な初号機だからこそ、実現可能な装備なの」
 レポートに記されていたのは、初号機専用試作装備についての情報である。
 「・・・中距離兵装『インパクトボルト』・・・両肩部から出力2億kwの指向性電撃。強制的に相手へ電流を流しこむ・・・」
 「素晴らしいでしょ?」
 「全領域兵器『マステマ』・・・超振動ブレードによる接近戦における斬撃、ガトリングによる射撃、N2による広域破壊と使い分けが可能・・・」
 「ふっふっふ、例え群体の使徒が来ても、イチコロよ」
 リツコのやり遂げたと言わんばかりの笑顔に、少年の頬を冷や汗がツツーッと滴り落ちていく。
 「そして汎用性を捨て、火力の向上と重装甲化に特化した初号機専用F型装備。重量増加に伴う機動力の低下を補うため、S2機関から得られるエネルギーを推進力として利用・・・」
 「初号機から取られたデータを参考にして、弐号機と零号機にもF型装備を作る予定なのよ。楽しみにしていてね」
 シンジの後ろからレポートを覗き見していたアスカが、乾いた笑いを浮かべながら後ずさる。
 「とりあえず、次の実戦次第、というところですね。それはともかく、リツコさんにお願いがあるんですが」
 「珍しいわね、どんな事かしら?」
 「あの男に会えませんか?5分ほどで十分なんですが」
 『ゲ』と心の中で呻き声を上げるリツコ。その理由をシンジは理解してしまった。レポートを読むために、運悪く包帯を外していた為に。
 口に手を当て『ウプ』と呻く。
 「・・・リツコさん、別に明日でも良いですから・・・」
 「そう!?それなら全然、OKよ!」
 「リツコ、アンタ司令に何したのよ・・・」
 アスカの冷たい視線がリツコへ遠慮なく突き刺さった。

翌日―
 実父と面会したシンジは、その両眼を用いてセカンド・インパクトの真実を全て知る事に成功していた。
 実の所、ゲンドウは現在の境遇から抜け出すためなら、かつて捨てたシンジ相手であっても、どのような条件でも呑むつもりでいたので、その意味では、シンジは両目を使い損だった。
 だが、シンジにはゲンドウへかける情けも義理も義務もない。用事が済むと、即座に身を翻していた。
 「待ってくれ!シンジ!頼む、助けてくれ!」
 「嫌です。僕はあなたの面倒など看たくはありませんから」
 ゲンドウは入院中に、四肢全てを義肢に付け替える予定でいた。それ以外の選択肢が存在しなかったからである。
 その唯一の選択肢を、奪い去ったのが他ならぬリツコであった。
 シンジと裏取引をしていたリツコは、入院中のゲンドウを自宅へ運びこみ、義肢をつけないままベッドの上に転がしたのである。
 四肢がない為、今のゲンドウは食事はおろか、風呂も排泄も一人でできない。一人で出来るのは、睡眠だけである。他の行為には、全て介護者が必要であり、それを嬉々として行っているのがリツコだったのである。
 『これで、この男は私の物!』
 リツコの仕事時間が、妙に規則正しくなった本当の理由である。
 「リツコさん。母の手前、あまり大きい声では言えませんが、幸せになれると良いですね」
 「ふふ、ありがとうシンジ君。私は今ほど、公私ともに充実した時間を過ごした事はないわ!」
 バタンと音を立てて閉まるドア。ゲンドウの顔が絶望に染まっていく。
 「さあ、あなた。明日の朝まで一緒ですよ?」
 立派なヤンデレと化した赤木リツコであった。

南極―
 科学という名の力で、完全に外界と隔離された空母に冬月は乗っていた。目的は南極にあったロンギヌスの槍の回収であり、すでに日本への帰路にあった。
 「全てが浄化された、生きる物のいない世界―南極、か・・・」
 本来、ここへ冬月はゲンドウとともに来る予定であった。だがシンジによって四肢を失ったゲンドウを連れてくる訳にも行かず、結局、冬月一人で来るしかなかったのである。
 そのゲンドウも、少し前に病院から失踪した報告を冬月は受けていた。その事に何らかの形でリツコが関わっている事にも、彼は気付いている。だが、それを理由にリツコを処罰するつもりなど、彼には欠片ほどにも無かった。
 (・・・碇がリタイヤした今、ユイ君と再会できるのは私一人・・・)
 ゲンドウを引き取ってくれたリツコに対して、正直なところ、冬月はお礼の言葉を言いたいぐらい感謝していたからである。
 「もうすぐ・・・もうすぐだ・・・」

1週間後、発令所―
 「インド洋上空に正体不明の飛行物体を発見!正面モニターに出ます!」
 青葉の叫びに応じたかのように、モニターに姿が映った。一見すると子供の落書きのようなデザインをした、巨大な使徒―第10使徒サハクイエル。
 そしてその常軌を逸した大きさに、職員達は驚きを隠せなかった。
 「パターンブルーを確認!使徒です!」
 「総員、第1種戦闘配備!」
 日向の指示に、発令所全体に緊張が走る。
 「監視衛星、破壊されました!」
 「MAGIによれば、ATフィールドによる圧縮と思われます!」
 「作戦部職員とチルドレン3名へ通達!直ちにブリーフィングルームへ集まる事!」
 
作戦部ブリーフィングルーム―
 「まず敵の攻撃手段が判明した」
 その言葉に、参加者達がゴクッと唾を呑みこむ。
 「自らの体を質量兵器とする自爆攻撃だ。MAGIによれば、日本が真っ二つに砕けるほどの破壊力だと予想している」
 「そんなの、どうやって防ぐのよ?」
 「基本的にはエヴァ3機で受け止めて貰い、近接攻撃でトドメを刺してもらう」
 唖然として反論すらできないアスカ。レイは何とも思わないのか無表情のままである。
 「さすがに、そのまま受け止める訳ではないでしょう?日向さん」
 「勿論だ。基本的に、敵の攻撃力が大きすぎるため、第3新東京市のどこに落ちても、日本は真っ二つだ。だから、まずは正確な落下位置の予測から説明する」
 日向はホワイトボードを取り出すと、説明しやすいように絵を描きだした。
 「まず高度2万メートルから3千メートルにかけての間に、約500メートルおきに無人偵察機等を配置する。これら一つ一つを超遠距離から監視し、壊れたタイミングや場所等をMAGIに随時報告させる」
 「ふんふん」
 「その壊れたタイミングや、偵察機の場所から、使徒の現在位置を推測。これを繰り返す事によって、エヴァをより正確な落下位置へと誘導していくんだ。ここまでは良いかな?」
 日向の言葉に、アスカがコクンと頷く。
 「エヴァは予め、地上に配置しておくが、その配置場所はこうする」
 ホワイトボードに書き込まれた配置図に、ざわめきが起こる。多くの職員達は、どこへ使徒が来てもいいように三角形の配置を予想していたのである。だが、日向の配置は縦一列であった。
 「中央には初号機をF型装備で配置。弐号機と零号機は、初号機を挟みこむように配置する」
 「どうして、こんな配置なのよ!」
 「初号機には、最大火力で狙撃を行ってもらうからだよ。加粒子砲を使えば、例えあの使徒のATフィールドを破れなかったとしても、落下速度を大きく殺す事ができる。フィールドを突破して、本体を狙撃できれば、それが一番なんだけどね」
 迎撃案を考えた指揮官の視線が、包帯を巻いた少年へと向けられる。
 「日向さん、作戦成功率はどれぐらいですか?」
 「S2機関を全て稼働させれば、成功率は80%を越える。他の作戦だと成功率は50%を切るんだ」
 「・・・確かに、加粒子砲を上回る遠距離射撃はないですからね」
 その言葉に、日向が黙って頷く。
 「弐号機と零号機は、初号機が時間を稼ぐ間に、落下位置へ先回りしてもらう。質問はあるかな?」
 質問がない事を確認すると、日向は作戦開始を指示した。

第3新東京市、地上―
 第3新東京市を中心とした、半径50kmからの避難要請は、当然の如く、一般市民に混乱をもたらしていた。
 途中で起きる交通事故の数は、真面目に数える気にもなれないほどである。
 そんな状況の中、これから避難を始めようとしていた友人達を見送るべく、シンジ達は本部の外へと出てきていた。
 「ワシらには応援する事ぐらいしか、できへんのやな・・・」
 「そんな情けない事言うなよ。トウジは妹を守らなきゃいけないんだぞ?そんな弱気でどうするのさ」
 景気良くトウジの背中を叩くケンスケ。その力強さに、トウジが笑い返している。
 その隣では、やはり避難に取り掛かろうとしていたヒカリが、アスカとレイの身の安全をしきりに気にしていた。
 「2人とも、死なないでね!絶対よ!」
 「オッケー!任せなさいって!」
 「・・・大丈夫よ」
 そんな彼らを、避難用バスの中から2−Aの生徒達が、窓から顔を出して声援を送っていた。
 2−Aの生徒達は、父親はNERVに勤める者が大半であり、母親は他界している。その為、市外へ避難となった時、避難の為に自動車を運転できる保護者のいない者達が多かったのである。
 その為、急遽避難用バスが用意され、彼らは慌ただしくバスへと乗り込んだ。そして出発30分前になって、プラグスーツ姿で見送りに来た3人の同級生を見つけたのである。
 戦闘前にも関わらず、終始明るい表情のアスカと無表情なレイ。だがシンジだけが、どこか暗い雰囲気を漂わせていた事に、トウジは気付いた。
 「なあ、遠野。何か顔色悪うないか?」
 「・・・今回ばかりはさすがにね・・・」
 その言い分に、少女達も振り返る。
 「シンジ!アンタ、ビビってる訳?情けないわね!」
 「・・・否定はしないよ。死ぬ可能性が高いと知っていてはね」
 ボソッと呟かれた言葉に、呆気に取られる子供達。
 「・・・シエルお姉ちゃんから聞いているだろ?僕の『死』の未来・・・天空から落ちてくる死・・・そのビジョンがハッキリと見えているんだよ・・・忌わしいぐらい、ハッキリとね」
 「アンタ・・・何でそんな大事な事、黙ってたのよ!」
 「・・・死ぬのは僕一人だから。アスカもレイも、その死の中には入っていなかった。だから言わなくても良いと思って黙ってたんだけど・・・」
 そう考えていたにも関わらず、思わず口に出してしまったほど、今のシンジはプレッシャーを感じていた。かつてシエルは、シンジは自分の命に価値を見出していない、と評した事があった。だがそれは、死に対して恐怖を感じない、という意味ではない。
 シンジも自分の死に直面すれば、人並に恐怖は感じる。シンジの場合、恐怖を押し殺しても自分を犠牲にしてしまうのが問題なのだ。
 「ごめん、やっぱり先に帰らせてもらうよ。これ以上、みっともない所、見せたくないからね」
 必死に感情を押し殺すシンジ。よく見れば、その全身は細かく震えている。
 踵を返そうとしたシンジの手を、グイッと引っ張る者がいた。
 「逃げるな、シンジ!」
 「大丈夫、私達がいるから」
 紅と蒼の少女は、正面からシンジを見据えた。
 「言った筈よ、私達の事を信用しなさい!」
 「そうね。彼女の言う通り」
 茫然とするシンジ。その間隙を縫うかのように、トウジが声を張り上げる。
 「お前ら、降りてこんかい!こいつらにお守り代わりに、集合写真をくれてやるんや!絶対、また会うためにや!」
 賛同の歓声とともに、バスから駆け降りてくる子供達。引率の教師も、もはや止める事は出来ない。それどころか、トウジの言い分に、どこか賛同している雰囲気すらあった。
 これから戦場に向かう3人の同級生を中心に、子供達が集合する。
 ケンスケからカメラを借りた教師が、手慣れた手つきで写真を撮った。
 「写真はNERVで現像してくれ。カメラは帰ってきたら、返してくれればいいよ」
 「ありがとう、ケンスケ」
 友人の宝物であるカメラを、シンジが受け取る。
 少年の口から洩れる小さな嗚咽は、その場にいた全員が聞いていた。だがそこに含まれていたのは、恐怖ではなく歓喜であった。
 「ありがとう、みんな。必ず、生きて帰ってくるよ」
 出発の時間になり、改めてバスに乗り込む生徒達。彼らは3人のクラスメートが見えなくなるまで、窓から顔を出して声援を送り続けた。
 その内、何人が気づいたのかは分からない。
 両隣から少女達に支えられていた少年が、包帯を外し、緑と銀のヘテロクロミアでバスを見送っていた事に。

 刻一刻と迫ってくる作戦開始時刻。子供達はエヴァの中で、その時が来るのをジッと待ち続けていた。
 『3人とも、そろそろ準備を』
 その言葉に、緊張が走る。
 『零号機51.2%、初号機99.89%、弐号機75.3%。シンクロ率に問題はありません』
 「絶対に、生きて帰ってやるわよ!いいわね!」
 「ええ」
 「うん」
 檄を飛ばすアスカ。頷くレイとシンジ。
 『シンジ君、聞こえる?』
 「どうしたの?お姉ちゃん」
 『未来なんてものは変えてやりなさい。あなたには、それを可能にできるだけの力を身につけさせたつもりよ。何よりも大事なのは、あなたが未来を変えたい、未来を勝ち取りたいと望む事なの』
 シエルの言葉に、シーンと静まり返る発令所。
 『もしあなたが死んだら、悲しむ人がいる事を忘れないで。悲しませない為に、絶対に生きて帰って来なさい』
 「・・・そうだね」
 『もっと元気を出しなさい!そんな覇気のない顔してたら、都古さんに振り向いては貰えないわよ?』
 瞬間、顔を真っ赤に染め上げるシンジ。何か言いたいのだが、言葉が上手く出てこない為に、金魚のように口をパクパクと開け閉めしている。
 『シエルさん、質問です!都古さんってシンジ君の恋人なんですか!?』
 『良い質問ですね、伊吹さん。実はシンジ君の初恋の相手なんですよ、現在、ピチピチの高校一年生です』
 「余計な事を言わないでよ!お姉ちゃん!」
 「・・・是非とも詳しい事を聞かせていただきたいですわねえ・・・」
 「同感。遠野君、素直に吐けば、罪は軽くなるわ」
 「すでに有罪決定!?」
 女性4人に良いようにからかわれる少年の姿に、笑いが起こり始める。
 『二人とも、浮気制裁の為にも、帰ってきたら組手してあげますね。うちの義弟と付き合うには、まだまだ実力不足ですから』
 「アタシ、結構強いわよ?こう見えても10年近く軍隊にいたし」
 『遠野の家は、それぐらいじゃ太刀打ちできない人外魔境なんですよ。3年で適応できたシンジ君が異常なんです。姑になる秋葉さんは軍隊相手でも1人で戦えるし、遠野君は1対1になれば誰が相手でも無敵ですから・・・』
 肩を竦めるシエル。
 『それに、妻たるもの、夫より強くならないといけませんよ?浮気された時に泣き寝入りするつもりですか?それよりは鉄拳制裁するべきでしょう!』
 「良い意見ね。日本に来て以来、初めて耳を傾けるべき意見に出会えたわ」
 「私、腕力ないから・・・武器でも使おうかしら・・・」
 何故か殺る気マンマンな2人の少女。
 「ゴメンね春奈・・・どうやら僕は、遠野の家には帰れそうにないよ・・・」
 別の意味で未来に絶望する少年の姿に、発令所では大きな笑いが生じていた。

 『使徒、落下態勢に入ります!初号機は狙撃の準備を!』
 無人偵察機を砕きながら落下してくるサハクイエル。
 「サキエル、シャムシエル、ラミエル、力を貸して!」
 初号機の両目がブオンッと音を立てて、緑に輝く。
 『初号機、シンクロ率120.3%に上昇!S2機関、稼動しました!』
 「僕はここだよ・・・空を司る天使、サハクイエル・・・」
 その双眸で、シンジは天から降ってくる『死』を見上げた。
 「そうだよ。僕は君が怖い、死ぬのが怖い。それは事実だよ・・・うん、それでも逃げる訳にはいかないんだ・・・そうだね、君が不思議に思うのも当たり前だよ・・・」
 アスカとシエルは、初めて見る『使徒との会話』。他のメンバーは今までにモニター越しに見てはいたが、それでも不気味な光景である。
 「僕は逃げない。必ず君を倒す・・・だから君も僕を殺すつもりで来て良いよ・・・僕も本気でいくから・・・」
 『使徒!進行方向を修正しました!』
 『何だと!?』
 『MAGIによれば、落下予測地点は初号機です!』
 落下予測地点は初号機。その言葉に、紅と蒼の巨人は、初号機目がけて走りだした。
 「シンジ!すぐ行くからね!」
 「遠野君・・・!」
 モニター越しに映る2人の少女に、コクンと頷いてみせるシンジ。
 「頼りにさせて貰うからね」
 少年の意思に従い、初号機が左手を真上に上げる。その先にいるのは『死』。
 『初号機、加粒子砲発射まであと5秒!』
 「いっけえええ!」
 初号機から放たれた一撃は、サハクイエルのATフィールドを貫くに値する威力を持っていた。だがサハクイエルは決して抗おうとはしなかった。
 赤い壁を斜めに展開して、強力な一撃を受け流す事を選択したのである。
 『使徒!進行方向がずれました!ですが、修正しつつ初号機を目指しています!』
 『使徒に異変が起きています!これは!』
 モニターに映っていたサハクイエルは、その全身の所々をボコボコと泡立たせていた。まるで沸騰するお湯の水面のように。
 次の瞬間、サハクイエルは自身の体から同じタイミングで、無数の自身の欠片を地表目がけて投じていた。
 『まさか絨毯爆撃か!?』
 確かに欠片による破壊力は、本体に比べればとても小さい。だがそれはあくまでも単体としての破壊力。第3新東京市全体に降り注ぐとなれば、その破壊力は、桁が3つや4つは変わってしまうだろう。
 窮地に追い込まれるNERV。エヴァは生き残るだろうが、このままでは本部は壊滅確定である。
 誰もが覚悟を決めた時、凛とした声が響いた。
 「諦めんじゃないわよ!アタシがやってみせる!力を貸しなさい、ガギエル!」
 弐号機の四眼が、緑の輝きを放つ。
 『弐号機、S2機関稼動開始!シンクロ率82.7%に上昇!』
 「くらえええええっ!」
 弐号機が右腕を大きく振りかぶる。そこから放たれたのは、ATフィールドその物であった。
 赤い壁に触れたサハクイエルの欠片は、弐号機のATフィールドを前に、次々に撃墜されていく。
 「どうよ!絶対に、街への被害なんて出さないからね!」
 その声にまるで背中を押されたかのように、初号機が再び加粒子砲を放つ。
 だが2発目の加粒子砲も、サハクイエルは同じように受け流した。
 「撃破は無理か・・・」
 目前に迫った使徒へ受け止める態勢に入る初号機。零号機はまだ疾走中、弐号機は欠片の処理の為に、足を止めてしまい到着までにはまだ時間がかかる。
 自分一人で受け止める覚悟を決めるシンジ。
 「オオオオオッ!」
 初号機とサハクイエルが接触した時、シンジは無意識のうちに吠えていた。
 膨大な質量と、落下スピードが初号機を押し潰しにかかる。
 その尋常ではない圧力に、初号機の四肢が破裂。同時に120%を超えた状態でのフィードバックがシンジに襲いかかる。
 LCLの中で、苦痛の呻き声を洩らすシンジ。その四肢からは、LCLよりも濃い赤い液体が流れ出していた。
 『初号機!シンクロ率が低下します!シンクロ率78.4%で停止!』
 『サードチルドレンの生体反応に異常発生!』
 まるで絶叫のようなその報告は、2人の少女の耳にも届いていた。
 「死なないで!シンジ!すぐ行くから、持ちこたえて!」
 「遠野君、待ってて・・・」
 初号機は四肢の破裂に伴い、すでに片膝を着いていた。
 通信モニターから、2人の少女が送る励ましに、シンジは必死になって持ちこたえようとする。2人が来てくれれば、何とかなると信じて。
 「負けて・・・たまるか・・・くらえっ!」
 両手を封じられ、片膝をついた状態から、シンジは救援が来るまでの時間を稼ぐべく、反撃に転じた。
 初号機の両肩に光が灯る。
 次の瞬間、初号機の両肩から轟音とともに電撃が走った。
 轟音とともに放たれたインパクトボルトは、ほぼ零距離の状態からサハクイエルに襲いかかった。
 2億kwにも及ぶ超出力による電撃は、一瞬にしてサハクイエルの全身を、青白い蛇となって包みこむ。
 「援護、入るわ」
 やっと到着した零号機が、プログナイフを両手で構えてサハクイエルのコアへと躊躇いなく突きいれる。
 ATフィールドは初号機によって中和されており、零号機の一撃を阻むものは何も無かった。
 「・・・そう、ありがとう・・・うん、伝えておくね」
 サハクイエルの体内に、初号機が右腕を伸ばす。そこに握られていたのは、砕けかけたコア―
 「レイ。サハクイエルからの伝言だよ。自分を倒した御褒美に、零号機にS2機関をくれるんだって。受け取ってくれるなら、これを零号機に取り込ませて」
 「・・・ありがとう」
 砕けかけたコアを受け取った零号機は、顎部ジョイントを引き千切ると、その口内へコアを放り込んだ。
 すると、それを見届けたかのように、サハクイエルの体が大爆発を引き起こした。
 巻き起こる火炎と煙。その中からATフィールドに守られた2体の巨人が姿を現す。
 「シンジ!」
 初号機に駆け寄る弐号機。その前で、紫の巨人が轟音とともに倒れこむ。
 「シンジ!しっかりして!」
 「遠野君!目を覚まして!」
 少女達が見るモニターに映し出されていた少年は、その顔に死相を浮かべていた。



To be continued...
(2010.08.21 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さりありがとうございます。
 今回の主役はリツコです。マッドでありながらヤンデレを狙ってみたんですが・・・ヤンデレってこういうので良いんでしょうか?何と言うか拉致監禁という気がして仕方ないんですがw
 ゲンドウも相変わらず元気ではありますが、彼の人生はリツコの匙加減一つw彼の未来に幸あらん事を祈りますw
 それから、以前、ラミエル戦の際に、出力の単位についての指摘がありました。調べ直した所ラミエル戦の陽電子砲は1億8千万キロワットが正解でした。なので私の方が間違っておりました。今回のインパクトボルトからはキロワットに訂正しています。
 それから次回ですが、イロウル戦となります。原作においては本部のMAGIへの侵入を試みたイロウルですが、次回、イロウルが侵入するのは松代に設置されているレプリカ・MAGI。イロウルの活躍に御期待下さ・・・活躍させられるといいなあ・・・
 それではまた、次回もよろしくお願い致します。



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