※ 当話はフィクションです。実際の団体、名称、個人の名前とは一切関係はありません。





 ここ技術部長執務室にある簡易ベット一つの仮眠室は、独特の匂いと甘ったるい雰囲気が充満していた。

今迄、どんな白兵戦を行っていたかは、想像に任せよう。

 流れる汗を物ともせず狭いベットに肌を寄せ合う生まれたままの姿の二人。

「リツコさん。もう直ぐでしたっけ? 零号機の再起動実験は?」

リツコの胸に顔を埋める様に身を預けているシノがリツコに尋ねた。

「そうね。一週間後になるわね」

そう答えると、リツコは拗ねた顔をする。

「シノちゃん。こう言う場は“リツコ”と言えと言っているでしょう!」

その甘い声の叱責に、シノは舌をチロッとだしてエヘヘヘと照れ笑いをする。

 シノが実年齢相応の表情や態度を見せるのは、リツコを含めた極少数の人達の前だけなので、他の人達が

この表情を見たら大変に驚く事は請け合いである。

特にミサトやゲンドウやユイの前では、56億年経とうが見る事はあたわないであろう。

「御免、御免。じゃ、リツコ。リツコだって私の事を“シノちゃん”って呼んでるぅ」

お返しとばかりに、シノの少し拗ねた顔。

そして、シノは更にリツコの胸に顔を埋めた。

「あ〜、ふかふか〜」なんて声が漏れてくる(笑)。

 リツコの初めて(何の?(爆))を捧げた相手がシノだったと言うのだから、二人の関係はそれなりに古い。

この二人の関係、二人の間に子供が出来ていても可笑しくない関係とだけは言っておこう。

まぁ、シノは両方付いてるし(邪笑)。

 

 

 シノ曰く「ふかふか」の胸から、シノは顔を上げるとリツコに尋ねた。

「ねぇ、リツコ〜。何でレイは前回の実験、失敗したの?」

「それがねぇ、シノ。前回のレイは物凄く情緒が不安定だったのよ」

「あー、それ判る〜」

シノは納得顔で答えた。

「「あの娘、感情の起伏が激しかったから〜」」

シノとリツコの答えは同じであった。何気に過去形なのが怖い所でもある。

 因みに、ここのレイは割りと甘やかされて育てられたので、結構気分屋だったりしたのだ。

あくまでシノに引き取られる前迄であるが(邪笑)。







新世紀エヴァンゲリオン アストレイア

第四話

presented by 伸様







第四使徒戦を受けての戦訓検討会議

 

 地上では第四使徒の遺骸の撤去作業が行われる中、地下のジオフロントに鎮座するネルフ本部の大会議室では、冬月副司令、六文儀ユイ副司令を筆頭に第四使徒戦についての査問調査も含めた会議が行われていた。

 本来であれば、ゲンドウも出席していなければならないのだが、今は人類補完委員会から呼び出しを受けている最中である。

さぞかし、心楽しい時間を過ごしている事であろう。

 

 この戦訓検討会議の一番の議題は、シェルターから人が簡単に出てきた事であった。

 本来、シェルターとは中に入れば事が起こっている最中は、中に入っている人間が簡単に出てくる事は出来ないハズである。

 それが何の専門的な訓練も受けていない中学生が抜け出てくる事が出来た事は、関係者一同のショックは大きかった。

しかも一人は従犯とは言え、頭の中身までお肉の筋肉馬鹿だ。

 更に、問題のシェルターが使徒戦の最終決戦地の傍であり、お馬鹿達が抜け出した事により中に残っていたシェルター内の避難者への二次災害も有り得たのだ。

 もっとも、若干一名程、全然事態を理解していない関係者も居たのだが。

 

 

 査察官たるシノからの報告書を読んだ国連軍上層部や国連事務総長等も、この事態を重くみた。

 何処かの憲兵達の尋問中の不慮の事故で行方不明者に名前を連ねた馬鹿が、自分の父親のIDとパスワードでハッキングして得た情報でシェルターの扉を開けた、と言うシェルターを抜け出した経緯が特に重視された。

 つまり、ネルフの情報管理は如何なってるんだいっ! えぇっ!馬鹿野郎共!!、と国連側は頭を抱えてしまったのだ。

それはそうだろう。ネルフは国連の下部組織の一つ。国連の情報だって無い訳ではないのだから。

 更に守護すべき立場の組織のミスで、二次災害でシェルターに退避していた人が被災しては、何の為の特務権限まで与えている組織なんだ、と言う事になってしまう。

 使徒が突っ込んでシェルターを壊したと言うなら、まだ諦めも付く。

しかし、うっかり八兵衛のうっかりミスでシェルターの気密が破られて中の人は被災しました、では被害者もその家族も堪ったものではない。

これでは特務権限では無く、特無(能)権限でしかないと言う物だ。

 

 

 この事態について、第四使徒戦までシェルターの管理を主管と所管していた某作戦部の長は、シェルター管理の件がこの会議の俎上に上がって冒頭、こう言っていた。

アホな餓鬼共がノコノコとシェルターから出て来ただけじゃないっ!

 行方不明は自業自得でしょ! ウチに何の問題も無いじゃない

 戦闘中に初号機を危険に晒してまで、彼女が言う“餓鬼共”を助けさせようとした、同一人物のコメントである。

 

 

「確か、作戦中のシェルターの管理運営の権限は作戦部だったね」

 シェルター管理の問題が会議の俎上に上がって開口一番、諜報部の部長が嫌味たらたらで葛城ミサトを糾弾する。

 まぁ、彼も今迄、部下の情報管理の不始末を糾弾されている側だったので、そのストレスを発散する意味でも、ミサトを嫌味たらたらネチネチと糾弾する。

 因みに、情報管理の件で、当然の様にミサトは野次ろうとしたが、第一声が発せられた途端に、リツコ特製10万ボルト電気拘束具の餌食となって、情報管理が議題の間はずーっと沈黙していたのだ。

 

 

「そうそう、作戦中は権限は作戦部で一元化しなければならない、と言い切って当初は保安部の権限だったのを作戦部へ移管したのだよねぇ」

 ネルフ本部内で最大人数を抱え最大派閥でもある保安部の部長も此処ぞとばかりに嫌味を言う。

 実際に、保安部時代の計画では、各々のシェルターには保安部員を最低でも一斑6名は付ける計画が立てられていた。

 しかし、作戦部が強引にシェルターの管理警備権限を持って行った。その時に作戦部が立てた計画は人員が少ない作戦部らしい計画になってしまっていた。

つまり、避難時のシェルターの管理は無人で、MAGIのみの管理と言う計画であったのだ。

 因みに、この計画立案にはミサトは参加していない。

副官でもある日向マコトに

「今度、ウチ(作戦部)で有時・平時のシェルター管理もやる事になったから〜♪

 日向君、ウチ(作戦部)だけで出来るプラン、宜しくね〜」

と言い、丸投げしただけであった。

その後の計画のチェック等は、全てめくら印である。

 作戦部の計画立案時、保安部から渋々ではあるがシェルター使用時の人員派遣が申し出されたのだが、それを作戦部は蹴った。

 シェルター被災時に緊急時の訓練を受けた人間がシェルター内に居るのと、全員が素人では、被災時の初動は全然違う物になる。

そして、初動時の救急医療の有無や避難誘導の有無が被災者達の生存確率を変えてしまうのだ。

そういう観点から保安部は作戦部に人員派遣を申し出たのだ。

 しかし、作戦部の長が

「此れは、あたしの部の仕事! 部外者は口を出さないでっ!!」

とのアルコール臭い御託宣に、保安部と作戦部の関係は修復し難い溝が出来たのは、今は関係ない話だ。

 MAGIとて無謬では無い。

ましてや今回のシェルターは、管理を行うMAGIとの回線が断線しており、MAGIの管理監視下にはなかったのだ。

 MAGIと繋がっていなくても、シェルターは自立して動く事を前提としているので、使用する事は出来る。

しかし、MAGIと繋がっていなければシェルターの管理監視は、発令所等のネルフ本部施設からは出来ない。

だからこそ、幾らケンスケが開錠のパスワードを知っていたからと言って、何らセキュリティに引っ掛かる事無く、抜け出す事が出来たのだ。

 この辺も平時の管理を怠っていた作戦部の問題と言えた。

 尤もシェルターの平時保守の計画は部下が立案しており、稟議書も作成されてはいた。

しかし、その稟議書は一番最初に確認捺印する作戦部の長たる人物の机の上にあるヴァミューダトライアングルに囚れたのか、他の書類と共に紛失していたのだ。

 まぁ、この辺は立案した部下が確認を行っていれば防げたのでは? と言う人も居るかもしれない。

だが、立案した者は何度も確認を行っているのだ。日向マコトと言う人物に。

直接、葛城ミサトへ確認しろよっ、と言う人も居るかもしれない。しかし、作戦部も組織。縦割りなのだ。

特に書類関係は次席である日向マコトが確認して、葛城ミサトへ提出すると言うルートが出来上がっていたので、当然、立案者が確認するのは、日向マコトと言う事になってしまったのだ。

 しかし、日向マコトが葛城ミサトへ強く意見出来た事は無いのであった。

そして、平時の保守点検は行われず、今回の使徒戦と相成った訳である。

 こう云う顛末が明かされるに付け、シノは冷笑するしかなかった。

 シノに言わせれば、元々使徒が来ると判っている土地に一般人を住まわせているのも大変に問題アリアリでしょう、となる。

 自分は、平時のお飾りの軍隊ではない実戦稼動の軍隊の軍人でもあるので死ぬのは或る意味覚悟の上だ。死ぬと覚悟せざるをを得ない場面に遭遇したのも一度や二度では無い。

 しかし、一般人は違う。彼等は精一杯生きて老衰で死ぬべきなのだ。

彼等を守るからこそ、自分達の様なヤクザな商売が成り立つのだと、シノは思わざるを得ない。

 

−力を持ち、力を振るう者は、それだけの責務と代償を払わなければならない−

 

 その辺を判って居るのかと、大声で問い質したいシノであった。

 

 

 シノが思考の海から現世に復帰すると、ミサトを嬲る話題は変わっていた。

最早、戦訓検討会議は冬月、六文儀両副司令の監督下における、葛城ミサト吊るし上げ大会と化していた(笑)。

 シノ曰く「コレがネルフ流の査問なんですね」となる。

 参加者一同はシェルターの件で一頻りミサトを嬲ると、シェルターでの話題が尽きたのか、別の話題に移っていた。

 

 

「葛城ミサト君。君は作戦部の権限と言うのを弁えているのかね?」

保安部長が、さも深刻そうな口振りで言うが、シノはその口の端が嘲笑に吊り上がっているのを見逃さなかった。

その一言で口火を切ったかの様に、他の参加者が口々にミサトを弾劾していく。

もっとも、シノの主観では弾劾では無く“揶揄”と言った疇ではあるが。

「上官暴行と言う、しかも他国連組織の出向者に対しての行為。少しはネルフの対面を考えた事はあるのかね?」

「しかし、日頃偉〜そうに言っている割には、手も足も出なかった様だね」

「日頃の不摂生が祟っているのではないのかね」

「それで、作戦部長だとは。ちゃんちゃら可笑しくて、ぶんぶく茶釜の綱渡りだな」

「本当に、臍で茶が沸かせるよ」

 因みに、今のミサトは五重皮手錠に五重の皮の足枷という姿で、リツコ特製の電気拘束具が装着されている。

 しかも、ユイがこれ見よがしに電気拘束具のスイッチを手に掛けているのだ。

 ミサトには、耐える事しか残されていなかった。

 しかし、堪忍袋なるものが非常に小さいミサトの事である。

何時まで持つか………。

 

 

 シェルター管理を如何するのかと言う議題の本題からズレてきているので、この会議の議長でもある両副司令にシノは確認を入れた。

「済みませんが…宜しいですか?」

「なんだね? シノ君」

冬月がシノの挙手に応じる。

「其処の牛を嬲るのは、大いにやってもらって結構なんですが…」

おいっ、良いんかい?!

「シェルターの管理…如何するつもりなんです? 此方としても国連に報告する手前もありますしねぇ。

 真逆、牛の吊るし上げで終わりました(まる)、なんて報告する訳にも行かないでしょう?

 ネルフとしても」

 シノの至極真っ当な意見に、冬月、六文儀両副司令が相談する。

尤も、両副司令も腹案は出来ており、根回し自体は作戦部以外は済んでいたのである。

その辺りは、シノも知っている。冬月が根回しの意味でシェルター管理の内容確認を始めたトップバッダーはシノだったのだから。

 その為、六文儀ユイ副司令は、短い冬月との相談の上で回答した。

「作戦部からシェルター管理の権限、及び住民退避の管理権限を剥奪。保安部に権限を移管します」

 その回答に反応する三人。

 シノは軽く頷き「了解です」と短く回答。

 保安部長は大きく頷き「何処かの極潰しと違う所をお見せしよう」と請合う。

 最後の一人、作戦部長は怒声を上げた。

なんですってぇぇぇぇぇえ〜

しかし、その怒声は冬月副司令の言葉で消える事になる。

「葛城君、減俸20%3ヶ月」

 シノは先程の電気拘束具の電気ショックと減俸とどちらが効き目があるのだろうと、ちょっと考え込んでしまった。

 

 

 そして、葛城ミサトの吊るし上げ大会は再開された。

「葛城君、今回は降格を見送る事になってしまった。非常に残念だよ。

 だが、次は確実だよ」

保安部長が口元に邪笑を浮かべて、さも残念そうに言う。

「作戦部長の椅子も何時まで君の物かねぇ。

 今回、椅子の主が変わらなかった事は、非常に残念だ」

諜報部長も保安部長同様に非常に残念な表情だ。

「経理ですが、何ですか?

 この揚州飯店での作戦会議と言う精算書は?」

 しかし、何故に戦訓検討会議に経理が居る?

「ちゃんとした理由も無いので、精算は出来かねます」

(誰が払ったんだろうなぁ、この牛じゃない事は確かだろうなぁ)

と葛城ミサト以外の参加者は、被害者(店に現金を払った人間)に同情する。

もっとも、精算者の名前が日向マコトなので、名前が判明すれば、皆は同情を止める事だろう。

 ネルフ本部内での日向マコトの評価は、葛城ミサトを甘やかす最大の偽善者と言う物が上層部を中心に定着しだしていたのだ。

「総務ですが、コンフォート17は葛城一尉しか住んでいませんよね?

 生ゴミのハズが市清掃局が回収を拒否。

 その為に産廃業者を呼びましたので、その分の費用を給与から天引きします」

 何故に、総務もこの会議に出席している?

 此れは、今迄葛城ミサトが警戒厳重な重営倉に居た為、経理や総務と言った一般部署の人間が葛城ミサトに面会出来なかった事が原因であった。

 葛城ミサトが娑婆に出てきたから、それぇっ! てな訳である。

な、な、なんですってぇぇ〜!

 あたしが全て悪いとでも言うのっ!

葛城ミサトは吊し上げの末、逆キレしてしまった。

彼女の堪忍袋、又の名を忍耐力とも言うが、その極小さを考えれば持ったほうだろう。

 罪の自覚が無いとは、流石に葛城ミサトである。

 使徒戦役後、ミサトと言う名前を抹殺してしまった原因だけの事はある。

 何せ、その騒動では生者の名前や地名だけでなく、死者の名前まで変えようとした者達が続出したくらいなのだ。

流石に、司法も行政も死者の名前までは変える事は許さなかった。

この為、勝手に墓誌から名前を削ろうとしたりして、器物損壊で逮捕される者が続出したとかしないとか………。

 

 

「「………「「全て貴様が悪いのだろうが!」」………」」+シノの冷笑+ユイの手の中にある電気拘束具のスイッチ。

この両副司令を含む参加者一同のユニゾン攻撃とシノの冷笑、更に手が掛けられている電気拘束具のスイッチに、葛城ミサトは怯んでしまった。

勿論、理性的に怯んだのではない。脊髄反射で、本能で怯んだのだ。

 それを見逃さずに、締めにかかる両副司令。

「ミーちゃん、ビールばかり飲まないで、カルシウム取りなさい。

 給料もそんなに残らないのだから、アルコールに回すお金も無いでしょう?」

 六分儀副司令の言葉であるが、カルシウムを摂取した位で、ミサトの生態が変わるとも思えないが。

しかも、ミサトならローンの支払い等の必要経費を削っても、アルコール飲料にお金を回すと思うぞ。

「そうだぞ、葛城君。だいたい君は父上と一緒で短慮でいかん(以下略)」

 副司令コンビの最後の説教は、老人の延々と続く説教で締括られようとしていた。

 

 

 

戦訓検討会議から数日後。

ネルフ エヴァンゲリオン・ゲージ。

 

 

 此処では、初号機と共に、近頃人類補完委員会から凍結解除を言い渡された零号機が再起動試験に向けて整備・調整が為されていた。

 本来であれば、零号機は第四使徒戦直前には再起動実験を行う事は出来たのだ。

 何せ、シノが初号機を動かす訓練と言って、初号機で零号機のベークライトの除去を行ったので、粗一日で大きな部分は済んだのだから。

更に、シノは人類補完委員会にも諸方面から圧力を掛けていた。

 シノにしてみれば一機より二機である。

幾ら零号機が実験機とは言え、後方からの火力支援位は出来る。

二機の方が使徒と相対した時に取りうる選択肢も広がるのだ。

選択肢が広がる事は、己の生存確率が上る事でもある。

初号機を動かしてでも、零号機の実戦化は急ぎたくもなると言うものだ。

 しかし、此処で思わぬ邪魔が入る。尤もシノは予想していた様だが(笑)。

 ゲンドウとユイが、あーだこーだと首を縦に振らなかったのだ。

 二人とて馬鹿ではない。シノの言う事は頭では理解している。

此処で問題になったのは零号機のパイロットであった。

 つまりゲンドウとユイは、今迄娘として手塩に育ててきたレイの心配をしたのだ。

 二人の手元には前回の起動実験の失敗原因も報告書として届いている。

 前回の失敗の原因──それは実験前日の学校でケンスケに盗撮されそうになった事に腹を立てていた事による情緒不安定──であった(汗)。

 流石はケンスケ。この頃からチルドレンに祟っていたのか。

この事でケンスケの父親が減俸を食らったのは別の話である。

 シノに調教される前までのレイは、蝶よ花よと育てられた影響から、自分の気に食わない事があると、それが尾を引き、情緒が不安定になる事が多々あった。

それが、前回の起動実験の際にはモロに出たのだ。

 尤も、中学生の女の子としては、それが普通かもしれない。

同年齢の少女としてみれば、シノの方が異常なのだ。

 ゲンドウとユイは、その辺を心配したのだ。

今、レイは今迄育っていたゲンドウ達の家からシノの家に移っている。

環境の変化に、レイの情緒が不安定になっているのではないかと心配したのだ。

 リツコもこの辺は心得ていて、何度もレイのメンタルチェックは行っており、その報告書はゲンドウとユイにも上げている。

全ての結果は『情緒は安定している』であった。そう、フラットと言って良い程に安定していた。

 しかし、ゲンドウとユイは首を縦に振らない。

 レイの情緒の不安定を心配した事も確かだが、一番の理由はゲンドウとユイが戦闘の実態に腰が退けてしまったのだ。

 幾ら、安全なジオフロントに鎮座するネルフ本部の発令所から見ているだけとは言え、二人とも今迄学者生活とその延長線上での生活しかしてきていない。

 ゲンドウの荒事とは権謀術数の世界での荒事でしかない。

確かに、暗殺されそうな事もあったが、それは狙撃され様が爆殺され様が暴力の範疇でしかなかった。

それが発令所のスクリーンとは言え、ライブで使徒とエヴァとの戦闘を見た事により、レイをその中に巻き込んでしまうのを恐れたのだ。

それは、第四使徒戦でのアクシデント(ケンスケ達)を体験した事で、更に恐れる様になってしまった。

 

 

 後に冬月からこの時のゲンドウとユイの首を縦に振らない理由を聞かされたシノは、冬月にこう答えたものである。

「冬月先生、それが普通の人なんでしょうね………私みたいにヤクザな商売を続けていると、そう云う感覚が羨ましく思えてくる」

嫌味一つ無く、黒いオーラも感じられない声音のこの回答に、冬月は何も言う事は出来なかった。

 

 

 このゲンドウとユイの我侭と言える行動に、

冬月は二人に

「レイの心配をするより、少しは自分の実の子供と如何上手く付き合うか、そっちを考えろ!」

とか

「所員がお前達を如何見ているか、少しは考えろ!」

とまで言っていた程だ。

 ゲンドウとユイにしてみれば、長い間離れていた実の子供よりも、身近で育てた他人の娘であった。

それに、シノがゲンドウ達を慕ってくれるのならまだしも、そうではないのだ。

 ドッチを取ると言われれば、レイを取りたくなるのは人情ではあろう。

 しかし、他人の目からは左様には映らない。

 シノはゲンドウとユイ以外には、人当たりは非常に良いと言えた。

例外はミサトとそのシンパ(若干一名)位だろう。

 兵装ビルやネルフ航空隊の連中の受けも良いし、ガードでもある保安部の受けも良い。

勿論、日が当り難い整備の連中にも受けも良いし、事務方である総務等の受けも良い。

 この辺は、シノの祖父である碇シンタロウの娘ユイを反面教師とした、帝王学と言って良い薫陶も大きいだろう。

 又、軍隊と言うピラミッド構造の人事組織を持つ組織に所属した事も大きいかもしれない。

 つまりネルフ本部全体のシノに対する好感度は非常に高いのである。

そう云う人達が今回の起動実験不許可の事を聞けは、不許可の原因であるゲンドウ達を如何見るかは自明であろう。

 現実問題、司令部の秘書嬢達からこの事が漏れると、後はあーっと言う間であった、

 女性職員のネットワークが基になって、ネルフ本部の職員の間に噂は広がってしまったのだ。

会社組織を言うまでもなく、お局様は怖い存在なのだ。

レイちゃんだけを庇っているんだ

と言う、かなり事実を突いた噂から、

六分儀ユイ副司令は、シノ嬢を戦死させて、本来自分の物になるハズだった碇家の財産を取り戻すつもりだ

等と言うワイドショーやゴシップ誌ねたとしか思えない噂まで流布されていた。

 結局、人類補完委員会や国連から「(起動実験の)予算を取りながら、何時実施するのだ」と言う催促を受けて、渋々と実験の許可を出したのであった。

 

 

 何やかんやで零号機再起動試験も数日に迫った或る日…。

 その日、シノは初号機の実機を使ったシンクロテストと現調を行っていた。

 何の気無しに、下を見るとレイがエントリープラグ内の調整でも行っているのか、エントリープラグ内に潜り込んだりしている。

 後ろ向きに這い出してくるレイの姿を見て「レイのお尻って、やっぱり可愛い♪」なんて、シノが思っていたのは誰も知らない事だ(笑)。

 

 

 プラグの調整をしているレイに近づく六分儀夫妻。

そして、親し気にレイに話しかける。

しかし、何を言ってもレイは上の空(笑)。

返ってくる返事は全て抑揚の無い声で………問題ありません」だ。

 流石のゲンドウもこの返答には鼻白んでしまう。

ユイは、顔を引き攣るどころか今にも卒倒しそうな雰囲気だ。

 そのレイがふと初号機の方を見やる。勿論、六文儀夫妻は無視だ。

目は虚ろなガラスの様な、いや違うなハートマークに成っている(汗)。

「シノ御姉様〜、今晩も、もっと○めて〜」

 調教(?)のお蔭か、大分、色ボケした様だ(大笑)。

 その言葉を耳にしたゲンドウは大いに顔を引き攣らせ、ユイは遂にゲンドウの肩にもたれかかる様に失神してしまった。

 それをシノは口の端を僅かに吊り上げて、初号機のプラグ内から見ていた。

「(クククク)無駄な事を…。

 その万分の一でもシンジパパに向けていれば、こんな事にはならなかったでしょうに」

 

 

 初号機の周りにいた整備員は当日をこう回想する。

ええ、凄く初号機の目付きが悪いと言うか、邪険と言うか…中々見られないモノを見たもんです

ちょっと勘の良い整備員は当日をこうも回想する。

初号機の目付きもそうですが、初号機が纏う雰囲気と言うか、オーラと言うか、それが物凄くどす黒く感じました

 

 

 シノはゲンドウ達の喜劇を見ながら、「しかし」と溜息をついた。

「レイには成功して欲しいものですね。また暴走では…今度は大怪我をする可能性もある訳ですしね」

 身内には、結構甘いシノではあった。

 

 

 

 日は流れて、零号機再起動実験当日

 

「これより、零号機の再起動実験を行います」

リツコの声が、管制室に響く。

「レイ、準備はいいか」

「レイ、頑張ってね」

モニターに映っているレイに、ゲンドウ、ユイがそれぞれ声をかける。

しかし、レイの返事は、

………問題ありません

シノに対する返事等と違って感情が無い声でしかない。

その声を聞き、顔を少し顰めるゲンドウ、ユイ。

 このシーンに、何とも言えない重い沈黙が管制室を包む。

この中でシノの境遇を良く知る冬月やリツコは、やれやれまだ判らんのか、と言う顔をする。

 しかし、実験は予定通りに開始された。

「第一次接続開始」

「主電源コンタクト」

「稼働電圧臨界点を突破」

「フォーマットをフェイズ2に移行」

 シノは、初号機に搭乗済で、万が一に零号機が暴走した時に備えていた。

 初号機のプラグ内のスクリーンに映る管制室をシノは、何時もの様に冷静に眺めていた。

 一方、零号機のプラグ内のレイは、実験にのみ意識を集中させていた。

レイは、何としても零号機を起動させたかった。

今や心のほとんどを占める様になった、シノに誉めてもらいたい。シノを手伝いたい。

前回の実験には無かった確固たる意志が、そこにはあった。

『パルス及びハーモニクス正常』

『シンクロ問題なし』

『オールナーブリンク終了。中枢神経素子に異状なし』

『1から2590までのリストクリア』

『絶対境界線まであと2.5』

 シノは、静かに目を閉じるとカウントを聞く。その閉じられたアンバーな瞳は、何を見たいのであろうか?

 

 

「零号機起動しました」

マヤの声が管制室に、安堵の空気を醸し出した。

「続いて、連動試験に…」

 その時、管制室に、ネルフ本部に、面白みの無い音が鳴り響く。

 アラート!

第五使徒登場を知らせる不幸なベルが鳴り響いた。

「総員、第一種戦闘配備」

ゲンドウが低く命令を下す。

「零号機は、どうする?」

冬月が確認の意味でも聞いてみる。

「零号機は、未だ調整が完了していませんわ。冬月先生」

冬月の問いに即答するユイ。

「初号機の準備は?」

ユイの回答に、打てば響くようにゲンドウが質問をする。

 この場合、ゲンドウやユイの言っている事は或る意味正しい。

零号機は起動しただけであり、未だ“動かして”はいないのだ。

動かそうとした途端、プスンと全然動かない事もありえるのだ。

しかし、初号機が万が一にも敗退した場合は、零号機の出番なのだ。

ジオフロントなりで連動試験を行っても罰が当たることはあるまい。

 ユイの「未だ調整が完了していません」のセリフを聞いた職員の一部は、こう思わざるを得なかった。

 

じゃ、第三使徒戦での初号機はどうなる? と。

 

 そのあから様にレイを心配する六分儀夫妻の姿に、管制室に居る職員の一部は嫌そうに顔を顰める。

冬月は、そういう職員が多い事を見て取り、密かに溜息をついた。

(また、人に面倒毎を押し付けるつもりか)

 

 

 

 発令所では一悶着が。当然、喜劇の主役は葛城ミサト(笑)。

「使徒の能力は? 葛城一尉」

初号機に搭乗していたシノが情報を求める。

 何時の間に管制室から移動したのか、ミサトは発令所に“もう”陣取っていた。

「能力は不明。戦自が報告を出し渋っているのよ」

 シノは当初から初号機に搭乗していたのだ。

ミサトの管制室から発令所への移動時間を考えると、如何にも情報を取得しようと努力した様には思えない。

「楓、紅葉。戦自から情報を貰って下さい。私の名前なら出すでしょう」

 その玲瓏たる声に焦りは無い。

「「ハイッ、マスター(主様)」」

シノ御付の二人が空いているオペレーター席を使って、関係機関に連絡を取ろうとする。

 それを見た牛は俄かに焦りを感じ出した。

(拙い、拙いわ。“戦自が報告を出し渋っている”って言う嘘がバレちゃう(汗)。

 また、あいつ等に謂れの無い罪(ミサト主観)で嘲笑われるのぉ(涙)。

 また、謂われ無い罪(ミサトの幻想)で減俸されるのぉ〜(汗)。

 嫌よ、あたしはヒロイン! 減俸なんて在ってはならない事なのよぉ〜。

 嘲笑される事なんで在ってはならない事なのよぉ〜。

 あたしは、常に愚かな他人を見下し、嘲笑い、愚民達を正しく導き、あたしを礼賛する様にしなければならないのよぉ〜。

え〜い、こうなったら、女は度胸! 勝負よっ)

 だったら嘘を吐くなっ! と言いたいのだが、この牛、嘘も方便は生きる証みたいな生物なのだ。

もっとも本人は嘘を吐いていると思っていないのかもしれない。

常に自分は正しいと幻想を抱いているのだから。

今や、ミサトの耳には、保安部長や諜報部長の嘲笑の声が響いており、冬月やユイの“減俸!”の声が響いていた。

 隙間が多いとか、海綿状とか言われる脳で考えた勝負とは、慌てて発進の号令を下す事であった。

「そんな暇は無いわ。初号機発進!」

 ミサトのそんなアホな命令に、虚を突かれたのか楓も紅葉も動く事は出来なかった。

しかし、その声につられて、リフト発進ボタンを押す、日向マコト。

 そこに胸騒ぎを思えた冬月とリツコが発令所へ駆け込んできた。

「ミサトっ、それに日向君も何やっているのっ」

「葛城君っ、何を勝手な事をやっているのだっ。君には指揮権は無いのだぞぉっっ」

リツコと冬月の罵声が発令所内に飛ぶ。

 同じく駆け込んできた青葉二尉が自席に着くのももどかしくオペレートを開始する。

そして、自席のモニターを見て顔を青褪めた。

 突然、青葉二尉の声が発令所に響いた。

「使徒内部に、高エネルギー反応!」

 管制室から駆け付け、自席や自分の位置に着いたゲンドウがユイが、冬月がリツコが、そしてこの事態を招いたミサトが驚愕の表情で、メインスクリーンに映る使徒を見つめる。

青葉二尉の緊迫した叫びが続く。

「周円部を加速! 収束していきます!」

リツコが何か思いあたったのか、

「まさか! 荷粒子砲!?」

一瞬、使徒の体の境目が、煌めいた。

「避けてー!」

ミサトの叫び声。

 ミサトが叫ぶ中、日向マコトは楓と紅葉のダブル延髄蹴りを受けて、発令所の床へ横たわっていた。

 

 

 

 初号機が地上に出た所を見計らった様に、荷電粒子の光が初号機を襲う。

「ちっ、あのスポンジ頭の牛がっ!なっ…」

 そうシノは、毒突きながら目の端のビルの向こうに閃光を認める。

 確認するのももどかしくシノは行動を起こした。

「A.T.フィールド全開っ!」

 ビルを溶解させ貫いた閃光を、そのビル直近で発現させたA.T.フィールドで初号機は受け止める。

しかし、A.T.フィールドは徐々に初号機寄りに押されだす。

「ちっ、出力が強いっ! 弾くかっ」

 離れた所にA.T.フィールドを張っている為、プラグ内のLCLの水温は急激な上昇は起こさなかったが、確実に風呂の適温から上の水温になっており、更に高みを目指している。

 この緊急事態にシノは、何時もの玲瓏たる声でなく、白兵戦モードの声音を出す。

 初めて聞き見るシノの姿に、マヤ等は目を丸くしてしまった。

 更にA.T.フィールドの受け止めている面を傾斜させ、荷電粒子の光を虚空へと受け流す初号機。

しかし、今だ拘束具やロックボルトが外されていないので、初号機は身動き出来ない。

『ミ…ト…(ザァァアァ)……何時まで…(ザァァァァアァ)』

『更に…(ザァアァ)』

 シノの耳にはノイズ交じりの発令所の様子が聞こえてくる。映像はサハラ砂漠の砂嵐だ。

『…(ザァァアァ)……リフト…さげ…(ザァァァァアァ)』

 シノの耳に「リフトを下げて」と言う言葉が聞こえてきた。

 その声を聞き、シノは頭をヤレヤレと振った。

 

 

 

 その頃、発令所は混乱を極めていた。

 基本的にネルフは研究組織。軍事部門は戦自等から士官を引き抜いたものの弱体の譏りは免れない。

しかも、トップは学者様だ。こう云う事態を見ると、どうしても頭の中は真っ白になり易い。

 作戦指揮を取るべき人間は、指揮を取る前に前線に放り出されてしまった。

 

 ミサトは戦場の情況も確認せずに、ここぞとばかりに指揮の真似事を行おうとする。

「リフトを下げて、急いでっ」

 しかし、動く者は居ない。下僕の日向マコトは、物も言わずに床に横たわっている。

 しかも、周りのミサトを見る目は非常に白く冷たい。

それはそうだろう。今の指揮官不在を招いたのはミサトが原因なのだから。

誰もが、ミサトが指揮を執りたくて故意に行ったとしか思わなかった。

 尤も今回の事態を招いたミサトの子供じみた心理を知れば、周りの者は思いっきり脱力した事だろう。

 

 そのミサトの声を聞き、シノはプラグ内でヤレヤレと頭を振った。

 今のシノは発令所の様子を確認する位に余裕が出てきていた。

「押されてもいないでしょう」

何時もの玲瓏な声で呟く。

 そうシノは荷電粒子の奔流を虚空に受け流す事で互角に耐えていた。

そして初号機が動けるならば、この最悪の情況をイーブンまでには打開する事も出来うる情況であった。

 このままではリフトが下げられて、一旦戦闘は終了となる。初号機の再整備も必要になるだろう。

 本来、撤退させるなら前線に居る者に状況を確認するか、周囲の状況を確認してからでなければ、敵に付け込まれるだけである。

しかも、自分達の頭の上が前線なのである。観測機材からの情報は、発令所に溢れていると言って良い。

 シノは、現状では撤退するつもりは毛頭無い。

 シノは生きているモニターで初号機の外を確認すると、一計を案じた。

「周りに被害が出るのでやりたくはなかったのですが……

 A.T.フィールド全周展開っ!拘束具を吹き飛ばしますっ」

 荷電粒子の奔流の前面だけでなく初号機全周囲に肉眼でハッキリと厚みが判る程の高出力のA.T.フィールドが展開され、初号機を拘束していたリフトの一部がたまらず吹き飛ばされた。

 更にリフトの底もラッチ部分が負荷に耐え切れずに、下に落ちようとするが、何故か初号機はそれに逆らう様に、最初と同じ位置を維持している。

「やっと、動ける」

 そう呟くと、シノは初号機を左に飛び避けさせた。

と同時に第五使徒からの荷電粒子の光も止むのであった。

 

 荷電粒子の光が止むと発令所との映像も回復した。

 ジト目で発令所を睥睨するシノ。

 その姿を見て、ゲンドウですら怯んでしまう。

しかし、牛はめげない!

「何で撤退しないのっ」

 更にシノの眼光の温度が下がる。

「………馬鹿? 保安部っ、その馬鹿牛とその腰巾着を重営倉に入れておきなさいっ。

 内臓が二つ三つ破裂しようが、複雑骨折の二三があってもかまいません!

 今回は、利敵行為、雑人容疑も視野に入れます。

 楓っ、腰巾着の代わりにオペレートを。

 紅葉、使徒の監視を強化っ。加速器が動きだしたら直に報告を」

「「は、ハイッ、マスター(主様)!」」

 そして、雪崩れ込んできた完全武装の保安部一個小隊によって、ミサトは取り押さえられ様としていた。

電磁警棒を振りかざし、情け容赦なくミサトを叩きのめす保安部一同。

ドコッ、バキッ

「あたしは作戦部長! あんた達と違って偉いのよっ」

このミサトの虚栄に、更なる力が振るわれる。

バキッ、ズカッ、バシンッ、ボクッ、ボキッ

日向マコトは、気絶している所を保安部の手荒いモーニングコールで起こされていた。

 シノは、一気に指示を出すと、リツコを見て言った。

「零号機は出せません?

 パレットガンの弾種は、MPに変更したハズですよね?

 パレットガンでも持たせて山影から牽制してもらうだけで良いのですが…」

 リツコはその提案を聞き、冬月と顔を見合わせ、渋い顔をした。

「司令が出し渋っているのよ…」

 シノはその回答を聞き、溜息を吐いた。

「起動は成功したんでしょう?

 連動試験を行っていないとか、フィードバックの調整が未了だとかは判ります。

 兵装ビルと一緒に山影から牽制してもらうだけなので、精密さは必要なのですけどねぇ」

 シノのシミジミとした声が発令所に響く中、レイから発令所へ連絡が入る、

『………私、如何すれば良いの?』

「レイ、指示…出していなかったっけ?(汗)」

リツコが後頭部に大きな汗を貼り付けた様な感覚に襲われる。

そう、今の今迄、レイは零号機に乗ったまま、忘れ去られていたのだ(汗)。

『………そう………コレが紅葉に聞いた、“ほうちぷれい”なのね』

 レイの言葉を聞いて、楓が紅葉の頭を叩いた。

「紅葉っ! レイ様に何を教えているのっ!」

「い、痛〜い(涙)」

紅葉が涙目で楓の方を向く。

 そんな喜劇を尻目に、ユイがレイに指示を出そうとした。

「レイ、シンクロを解除して降りなさい」

その言葉に小首を傾げて、リツコに聞き直す。

『………良いの?』

「六分儀副司令。現状は、非常に流動的です。今、シンクロを解除するのは、技術部長として反対します」

リツコが段上の司令席の方を振り向き、反対意見を呈する。

「しかしだな、赤木博士」

ゲンドウが妻を助けるべく口を挟もうとするが、そこに冬月が更に口を挟む。

「現状を認識しろっ! シノ君を見殺しにでもするつもりか?」

ユイも負けてはいない。

「しかし、冬月先生。別に兵装ビルからの支援だけで十分なのでは?」

そのユイの言葉をプラグ内で聞き、シノはこの日何度目かの溜息を吐いた。

『相手が加速器を稼動させたのは、エヴァが地上に出てからですか?』

シノの玲瓏たる声が発令所に静かに響き渡る。

「地上に出る前に稼動を始めました」

リツコがシノの言葉を肯定する様に返答する。

『そう言う事です。使徒はエヴァを脅威と見ていると考えて良いでしょう。

 しかも、気配だけで攻撃に入っている。

 兵装ビルだけじゃ、牽制にならない可能性が高いのですよ、六分儀ユイ副司令』

噛み含める様にシノは説明する。

「しかし、それではレイが囮になってしまう…」

ユイがポロッと本音を漏らす。

ユイの本音に、溜息を一つ追加して、シノが嫌味を言う。

『私は、その使徒に近接攻撃を掛ける為に突撃するんですけどね』

 その発令所と初号機との心温まる会話は、青葉二尉の声で遮られた。

「再び、使徒の加速器稼動開始!」

その緊張感を含んだ声とは裏腹な抑揚の無い声が発令所に響く。

『………だから、私、如何すれば良いの?』

 魔女の大釜となりつつある発令所。

 その光景をモニター越しにみながら、シノはまた溜息を一つ追加。

何か言おうとした時に、使徒を監視していた紅葉の声が遮った。

「加速器、作動中。先程より加速時間を長くしています」

 その声にシノは無言で使徒方向にA.T.フィールドを張る。

そのA.T.フィールドは、厚みすら可視できる程に強大な物。

「エネルギー収束。きます」

その紅葉の冷静な言葉と共に、発令所のモニターがホワイトアウトした。

 

 

 初号機は、その荷電粒子の奔流を被弾傾姿を考慮したA.T.フィールドで虚空に弾く。

 力強いが短い一撃が終わると、また初号機と使徒との対峙となった。

「今回の攻撃は、此方のA.T.フィールドを強大なエネルギーで一点突破するつもりでしたかね」

 シノはそう呟くと、発令所へのモニターを見る。

 未だ零号機を出す出さないで騒いでいる司令席付近を見て、また弾息を一つ追加。

「こんなアホな理由で使うとは………」

シノはそう呟くと頭を振った。

「六分儀司令、六分儀副司令、冬月副司令」

常の玲瓏たる声でネルフのトップに呼びかける。

 

 

 ゲンドウ達三人は、シノが映っているモニターを向いた。

「現時点で零号機の実戦投入を命令します」

シノの玲瓏たる声が発令所に静かに響き渡る。

「「なっ」」

ゲンドウとユイは驚愕の声を上げ、冬月は苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 ゲンドウにしてみれば、如何に国連軍での階級が上のシノであっても査察官であり、司令職に対して直接の命令権限等無いと思っている。

因みに、ゲンドウとシノは同じ国連軍中将待遇であるが、ゲンドウは名簿の真ん中辺り、シノは中将の最先任である。

冬月は、シノに付与された権限を覚えていたから、この事態を招いてしまった補佐役たる自分の無力さを痛感してしまっていた。

「何を言っている。越権行為だろうっ!」

ゲンドウの怒声も何のその。シノは鼻で笑った様な顔して、ゲンドウ達を睥睨する。

「………馬鹿? 私には国連軍全軍の総帥たる国連事務総長の軍権に対する代執行権を持っています。

 その権限を持って命令しています」

「うむ〜」

ゲンドウの呻き声。そしてユイは助けを求める様に冬月を見るが、冬月は静かに首を左右に振った。

「逆らうなら、全世界への反逆と見做し、保安部なりに拘束を命令します。

 宜しいですね」

 もはやゲンドウも黙るしかない。

 その状況を確認すると、シノはリツコに命じた。

「技術部長。零号機とパレットガン、お願いします」

 そして、シノは初号機から零号機へ回線を開いた。

因みに、この回線の映像・音声は発令所にも流れている。

「レイ、聞こえています?」

『ハイっ、何でしょう? 御姉様♪』

ゲンドウやユイへの返答と異なり、感情が篭った声がレイから放たれる。

 この事実に、ゲンドウは顔が引き攣り、ユイは精神を手放した。

 そんな上層部を知ってか知らずか、シノは常の玲瓏たる声でレイに語りかける。

「こう云う場面ですが、初陣と言う事になります。

 此れから指示を出しますが、簡単な物です。

 何時も通り、シュミレーター通りやって行きましょう」

『ハイっ、シノ御姉様♪』

レイの嬉し気な声が発令所に響いた。

 

 

 

 使徒戦の結果から言うと、第五使徒は、急遽出撃した零号機と兵装ビルの支援の元、初号機の近接戦闘で殲滅された。

損害は、支援の零号機は無傷、兵装ビルが一基全損。

そして使徒に突撃し近接攻撃を掛けた初号機は、A.T.フィールドを中和し無防備になった際に荷電粒子の奔流が右肩を掠め、後で装甲を取り替える軽微な損害であった。

 

 

 シノは、レイの零号機を先に帰還させ、初号機で出来る範囲で使徒の再生の有無等の現場のチェックを行うと、紅葉のオペレートで帰還ルートに初号機を乗せた。

 今回の使徒戦。余り切りたくない手札を切ったシノは帰還中も帰還後も、結構ご立腹であった。

 エントリープラグから出るのを手伝ってくれた整備員達に、疲れた顔なりに、にこやかに礼を言うとチルドレン待機室へシャワーと着替えをしに戻っていく。

すれ違う職員にも整備員同様、スマイル0円を振り撒き、声を掛けられれば、当たり障りの無いお礼を言う。

 しかし、シノを良く知る者が見れば、シノの目は一瞬たりとも笑っていなかった事に気付いた事だろう。

 シノもこんな早い段階で国連事務総長の代執行権を使うとは思っていなかった。

 シノとて艦隊司令長官という権力者の端くれである。

権力を行使して命令を聞かせるという行為に戸惑いは無い。必要な事態であれば、使うのは当然と考えているくらいだ。

 しかし、行使しなければならなかった理由が、余りに下らない理由(レイへの過保護)であれば、使わせた人間にも使った自分にも腹が立つ。

 それはLCL塗れのプラグスーツを脱ぎ、香料入りのシャワーを浴びて、LCLを洗い流しても、腹立ちは収まらなかった。

 シャワールームの外でバスローブとタオル、着替えを持ってシノが出てくるのを待っている楓と紅葉に、シノはシャワーを浴びながら声を掛けた。

「楓」

静かだが僅かに危険な匂いを含んだ声音。こう云う声音の時は、楓や紅葉も緊張してしまう。

「何でしょう? マスター」

キュッと言う音がしてシュワーが床を打つ音が途絶える。

「ゲンドウ達、ネルフ首脳部に本日中の会見を申し込んでおいて下さい。必ず本日中ですよ」

「判りました。そう申し伝えます」

「ならば良し」

 そう云いバスタオルを体に巻いた姿で出てきたシノの目は笑っていた。それは邪笑と言える笑いであった。

「はい、主様」

紅葉が差し出すバスローブを身に纏い、余計な水分を吸わせると、手早く下着を身に着け、私服に着替えて行く。

「レイは如何してます?」

シノが此処に居ないレイの所在を聞くと、紅葉が答えた。

「レイ様なら、主様を待って、自販機コーナーで本を読んでおられます」

「そう」

そう短く答えるシノの声には先程の危険な匂いは感じられなくなっていた。

 そうして、姿見で身繕いを行うと、レイを迎えにチルドレン待機所を出て行くのであった。

 

 

 そして、通路の端から聞こえてくる何時もの声音。

「………シノ御姉様、遅いの」

「御免、御免♪」

「「レイ様、余りマスター(主様)にくっ付かないで下さいっ!」」

その後にはシノのコロコロと笑う声。

 極身近な者の前で常に行われる小さな騒動が起こっている様であった。

 

 

 

 レイを自宅に送って行き、楓と紅葉をレイの護衛も兼ねて置いてくると、シノは一人でネルフ本部に戻って来ていた。

 まぁ、一人と言ってもシノの護衛には直接護衛としてISS(Ikari Security(Secret) Service)のトップエージェントが4名付き、間接護衛には国連軍として第三新東京市入りしている英海軍海兵隊SBS二個小隊が付いていたのであるが。

碇家や国連からネルフ、総じてゲンドウが如何に信用されていないか判ると言う物だろう。

 シノは査察官の執務室で、今回の戦闘詳報を纏めると共に、極東国連軍経由で国連上層部に出す今回の戦闘の報告書も纏めていた。

 発令所やエヴァの音声やデータは時系列でMAGIに記録されている。更に音声はMAGIによりテキスト化も為されている。

 後は、変な音声のテキスト変換を修正し、テンプレート通りの書類にカット&ペースト等を使って纏めるだけである。

 もっとも、適切に纏めなければ文章量が膨大になるので、カット&ペーストで全て御仕舞いとは行かないのだが(笑)。

 書類が大枠で完成した頃、シノは端末の時刻表示を見た。

「ちょっとティータイムを楽しんだら、愚者の住処へ行きましょうか」

シノは呟くと、立ち上がってティーセットの方へ歩み寄った。

 

 

 

 第五使徒戦後、2350近くのネルフ本部司令執務室

 

 

「どう言う事ですか?六分儀司令、六分儀副司令、冬月副司令。

 零号機を出し渋った事。使徒の能力も確認せず、勝手な初号機の発進。

 まるで、特別査察官たる私を殺そうとするかの様な行動ですね?

 それとも、私を殺して、碇家の財産でも欲しいとか?」

 司令執務室に入ってきてのシノの第一声である。

 流石に、この第一声には、ネルフ一の常識人と言われる冬月が叱責した。

「シノ君。それは言い過ぎではないのかねっ!」

 しかし、シノは司令執務机に固まる三人を蔑みが浮かぶ目で見回す。

シノの存在感が大きくなり、三人を圧迫する。

 ユイは、その視線に耐え切れず、今にもこの場から逃げ出しそうな雰囲気である。

 ゲンドウは顔色一つ変えずに、シノに反論する。

「我々に疚しい所は無い」

静かに切り返すゲンドウ。

 だが、内心は…

(怖いよ〜、ユイ〜助けれてくれ〜)だったりする(嘲笑)。

だったら見栄を張るなと言いたいが、中学二年生の少女の前でガタガタブルブルも出来ない相談ではあろう。

 しかし、シノは口の端にも嘲笑を浮かべだす。

「では、零号機の再起動実験を遅らせた訳は何なのです?

 第四使徒戦には間に合ったハズの再起動実験を此処まで遅らせた理由ですよ。

 六分儀司令、六分儀副指令。あなた方の却下の理由は、かなり非科学的な理由でしたよねぇ。

 確か、かもしれない、とかの言葉のオンパレードでしたよね」

「「うっ」」

シノの詰問に、言葉が詰まってしまうゲンドウとユイ。

この詰問に、言わんこっちゃない、とゲンドウとユイを見る冬月。

「使徒の能力を確認しない。勝手な初号機の発進は、あの牛の所為としても…。

 零号機の実戦投入を渋った訳は何なんでしょうねぇ」

ユイが声を震わせながら、シノの詰問に回答する。

「そ、そ、それは、フィードバックの調整が終わっていなかったし…起動実験が終わっただけで、連動試験も終わっていなかったし…もし動かなかったら…」

空回りする想い。全ては裏目裏目に出てしまう。

「第三使徒戦での初号機も同じ状態だったのではありませんか?」

冬月も含めシノの切り替えしには苦い顔をせざるを得ない。

「連動試験が終わっていないのであれば、ジオフロント内に出して稼動試験をさせたら良いではないですか?

 そう云う事もせずに、動かない“かもしれない”から、実戦に投入しないですか?

 もし初号機が敗退した場合、残るは零号機のみ。その場合でも動かない“かもしれない”から出さないのですか?」

意地の悪い詰問ではある。

 シノの軍事的行動の基本は“常に最悪を想定した備えをしろ”である。

ゲンドウ達は、初号機、つまりシノの敗退等、考えてもいなかったのだ。

しかし、もし日向マコトがオペレータ席に居て、オペレートを行っており、葛城ミサトの“撤退命令”を実行していたら、如何するつもりであったのであろうか?

使徒が急追してきた場合、その撤退時間を稼ぐ為には、零号機が必要だったかもしれないのだ。

これはあくまでも仮定ではある。もしかしたら、使徒は急追しなかったかもしれない。

しかし、使徒の情報が少ないあの時点では、急追するか否かは、フィフティ・フィフティの確率なのだ。

「「うっ」」

またも言葉に詰まるゲンドウとユイ。

 尤も、あの時点ではそこまで頭が回らなかったのが正解であろう。

学者様達にそこまで求めるシノも酷ではある。しかし、彼らは準軍事組織でもあるネルフの長なのだ。

組織の長とは責任を取るために存在している様なものなのである。

まぁ、世間一般では責任逃れをする組織の長の方が、圧倒的に多いのであるが。

 シノは、日付も変わろうとする今、この日最後になるであろう溜息を追加した。

「私を殺害しようとしたか否かは、立証できないかもしれませんが………」

此処でシノは一旦言葉を切った。そして三人を見回す。ゲンドウとユイは“殺害”の言葉で顔を引き攣らせている。

「六分儀司令、六分儀副司令には、何らかの処罰がある事は覚悟して下さい。

 国連への報告書には、今回の件は詳細に書いてありますし。

 で、牛と腰巾着の処罰は如何するのです?」

 話が変わったので一息を吐く、ネルフ側三人。

 ゲンドウは、息を整え威儀を正すと、言い出した。

「まだ余罪を追及中であるが、明日付けで葛城ミサトは二尉に降格、

 日向マコトは初犯でもあるので、減俸20%三ヶ月だ」

「六分儀よ、日向君に対して軽いのではないか?

 彼の行為は、完璧な利敵行為と言えるぞ」

ゲンドウの仮の裁定に異議を唱える冬月。

「冬月先生。マコっちゃんを重営倉に入れるのは簡単ですが、そうなると作戦部の場合、書類仕事を含めて事務全般が滞ってしまいますわ」

芸は身を助ける、と言うべきなのか。

「しかし、そうなると日向君に対する風当たりが陰に篭るのではないかね?」

 別に冬月は日向マコトの身を慮っている訳でなない。万分の一位は慮っているかもしれないが(邪笑)。

冬月が気にしているのは、作戦部と保安部との組織間の対立の激化である。

ネルフ本部内でそういう殺伐たる雰囲気がそこかしこで漂えば、当然ネルフ本部全体の風紀も乱れると言うものだ。

流石、補佐役。切るべき人には容赦が無い。

 シノは腕を胸の前で組み、右頬に小指を付けて小首を傾げる。

「ところで、作戦部長を職から降ろさないのですか?」

 そのシノの問いに苦虫を噛み潰した様な顔になるゲンドウ達三人。

「出来んのだ」

ゲンドウは吐き捨てる様に短く言うと、背凭れに身を預けた、

「したいけど、出来ないのよ」

ユイも唇を噛み締め、キーッと言う表情だ。

「シノ君。アレは我々では根本的な処分が出来ないのだよ」

冬月も渋面のまま吐き出す。

 シノは三人の言葉で大体の事は察した様だ。

「敬老会ですか………」

そのシノの言葉を聞き、三人は静かに頷いた。

 そして、シノは日付が変わって最初の溜息を一つ吐いた。

 

 

 

 翌日、葛城ミサトの二尉への降格、日向マコトの減俸20%三ヶ月が発令された。

 第五使徒戦での二人の喜劇は、もうネルフ本部内に知れ渡っており、誰も同情する者は居なかった。

尤も日向マコトは葛城ミサトの降格について、自分の賞罰等も忘れて憤ったと伝えられる。

 尚、日向マコトはその日の夕刻、ゲージ脇の通路でズタ襤褸になっている状態で整備員に発見される事になる。

整備員は業務に邪魔と“邪魔な不燃物”として総務部に届け出る。

総務部は保安部へ連絡、“不審物”として処理を依頼。

爆発物処理ロボットまで投入される回収作戦の末に、一応医務室へ送致。

送致する際の扱いは、壊れ物注意でも、精密機器でも無い物扱いであったとだけ言える。

医療班による色々な試薬による検査の結果、そのまま作戦部の部屋へ送致する事が決定。

連絡を受けた作戦部員が漸く引き取り、作戦部の部屋で治療を受ける事が出来たのであった。

 

 

 更に翌々日、国連本部より六分儀ゲンドウ、六分儀ユイへの処罰が発令された。

 ゲンドウは減俸10%六ヶ月、ユイは減俸5%三ヶ月であった。

 第五使徒戦中後でのゲンドウ達の言動も技術部の人間や秘書嬢達から尾鰭が付いた「六分儀ユイ副司令は、実子を殺して財産を横領しようとしている」という噂となってネルフ本部内を流布した後であった。

その為、同情する職員は皆無であったと言う。







To be continued...

(2005.04.23 初版)
(2005.04.30 改訂一版)


(Postscript)

 “次は”一月下旬と言っておいて、今や四月下旬(滝汗)。
 しかも、リアルでお堅い仕事とお堅い文書の量産をしていた為に、コッチの文章を書こうとするとリズムが掴めない事(乾笑)。

 第五使徒戦そのものは、あっさりと終わらせました。
 まぁ、日本中から電気を集めると言う実現不可能なヤシマ作戦なんてやらせる気もありませんでしたしね。
 東西日本の電気周波数の違いは、結構根深い物です。
何せ、あの周波数の違いは、発電機からですからねぇ。
 周波数変換とか、周波数の統一とか色々と説もありますが、社会の根幹である電気と言うインフラを何の社会的・一般生活を大規模な犠牲(それこそ日本国民が大量に餓死したり、傷病者への医療の不足で大量の傷病死が発生したり、大規模暴動が起こるとか)無しで代える事が出来るか、ちょっと考えれば、そんな考え方は消えると思うのですけどねぇ。
 電気関係は規模が大きくなればなる程、製造も取り付けも現調も物と人と金と時間が掛かると思っていないのでしょう。家電製品をホイホイ取り替える感覚で物を考えている証拠ですな。
JR東海の新幹線が何故に、東日本の路線でも西日本からの送電に頼っているか、考えて見るのも良いでしょう。
 もう少しはドキュメンタリやノンフィクションを読んでおきなさい、と言いたくなる。

 では、原典では何でそんな事を描いたのか?
 一つはガイナの担当者が知らなかったんでしょうな。
 エヴァ放映当時、家電製品の大部分は電気周波数の変換は、家電製品が自動で行ってくれる様になっていたので、東西の電気周波数の違い等、気にしなくなっていたのでしょう。
エヴァが放映された時代の一昔前だと、セレクタを切り替えて電気周波数を合わせないと、家電製品は誤動作を起こす物でしたからね。
 もう一つはヴィジュアル的に見栄えがするからでしょう。
 あの宇宙から見た日本列島の明かりが消えていくシーン。印象深いものです。
 この二つが事実を捻じ曲げたんでしょうな。

 まぁ、こう云う所をツッコムのも、アニメや小説を楽しむ一つの方法です。

 しかし、実社会で汎用コンピュータ一式を西から東へ移設する際に、「エヴァじゃ出来たじゃん」と言われた時は、頭を抱えた物です(笑)。
思い切り「現実を直視しろ」と言ってしまいました。


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