※ 当話はフィクションです。実際の団体、名称、個人の名前とは一切関係はありません。





 今から2年前の或る日。

 日本中の新聞と呼ばれる物、全国紙から地方紙、果はスポーツ紙にタブロイド紙にまで、見開きで以下の様な広告が載る事になった。

同日、又はそれ以降に発行された週刊誌や月刊誌等の発行物にも同じ広告は載った。

 『日本重化学工業共同体に物申す』とデカデカとしたゴシック文字の表題の広告が(笑)。

 更に、同日の某国営放送の夜8時から45分番組で、同内容の映像版が放送され、夜10時以降の民放の報道番組でも特集が組まれた。

そして、翌日以降のワイドショーや報道番組にも特集が組まれる事になる。

 これ等のスポンサーは、碇財団と言った。

 


 一月前、日本重化学工業共同体は、ある兵器をTV等のマスコミを使って大々的に世間に公表していた。

その名はジェットアローン(Jet Alone)。大型人型機動兵器である。

通称はJA。

 この時点では今だ全貌を現していないネルフの汎用人型決戦兵器の対抗馬として計画された機体である。

他にも、戦自の技研が開発している陸上巡洋艦計画とかがあったが、此方は防秘なる壁が厚く、未だ公開される事は無かった。

 しかし、JAは日本重化学工業共同体(以下、日重)と言う民間企業の開発である。更なる出資者を募る必要性もあり、大々的な公表となったのであった。

 


 このJAの歌い文句は、一にも二にもその長時間の稼働時間であった。なんとリアクター(原子炉)を載せているのだ。

 しかも二足歩行を行う。如何しても場所を食うリアクターを載せ二足歩行とした為に、非常にトップヘビー(頭デッカチ)であり、不安定そうなフォルムを持っていた。

 このリアクターを載せると言うのは、日本重化学工業共同体の親会社達に問題があったと言えた。
親会社達に原発開発関連が強い企業が多いのだ。そして、揃いも揃ってネルフとの関係が薄い会社達でもあった。

 このリアクターを載せると言う事が、ある人物の癇に障ったのだ。

 その人物とは、碇シノ。時の碇財団の総帥であった。







新世紀エヴァンゲリオン アストレイア

第伍話 前編

presented by 伸様







 『日本重化学工業共同体に物申す』のお題目の下には、JAの問題点をズラリと列記していた。

 


 曰く、【そのトップヘビーなフォルムが邪(JA)】


 JAは二足歩行を行う陸上専用機動兵器である。しかし、リアクターを二足歩行機械に載せるとなると、足より上の胴体部分となる。

二足歩行と言うのは、人間が極普通に行っているものだが、此れを機械にやらせようとすると以外に難しい物である。

何せ、一瞬だけ片足だけになったり、重心の移動を常に行わなければならなかったりと、かなり面倒なのだ。此れが疏かだと簡単に転ける事になる。

しかも、リアクターという重い物が二本足の上にあるのだ。

大人一人を背負って歩く姿を想像してもらうと良いかもしれない。背負う相手が重ければ重い程、背負う人はフラフラするものである。

つまり、JAは非常に転け易い機体と言えたのだ。

 これが未だ無限軌道走行等であれば、重心も低くなり、接地面積も増大するので。転ける心配は少なくなるであろうが…ネルフの汎用人型決戦兵器の対抗馬だった事が二足歩行以外の選択肢を無くしたのである。

 

 曰く、【その動力であるリアクターが邪(JA)】


 兵器というものは、矛盾するようだが破壊される事を考慮して設計される。

イスラエルのMBTであるメルカバ等は良い例だろう。

被弾した場合を想定して、エンジンを車体前面に装備し、脱出ハッチも大きなレイアウトにする。

前面にマウントされたエンジンは前面に被弾した場合にエンジンが補助装甲の役割を果たし、車内の乗員スペースの破壊を少しでも軽減する為である。

そして、大きなレイアウトの各ハッチは乗員の脱出をスムーズに行う事を可能とした。

乗員のサバイバビリティを優先した結果のレイアウトと言えよう。

これはイスラエルという国民が少ないお国事情も反映した結果ではあろう。

更に言うと、将兵を真面目に育成するには、それこそMBT1台分以上の費用がかかるものである。

将兵とは使い捨てにして良い物ではないのだ。

 JAの場合、動力としてリアクターを採用した。

リアクターを用いて発電を行い、手足を動かすアクチュエーター類の動力としたのだ。

 全てのリアクターに共通する事であるが、非常に厄介な問題を抱えていた。

放射能物質である。燃料はウラン。そして、燃料を消費していくと、更に色々な放射能物質がリアクターに蓄積されていく。

それらは半減期の長い物質が多い。半減期が長いという事は、地上に撒き散らされた場合、長い期間放射能汚染を起こすという事でもある。

使用済み燃料とは、使用前のウランより厄介な物なのだ。

 JAが自ら、若しくは外部圧力で破壊された場合、当然リアクターが暴走してしまう可能性が非常に高かった。そうなれば、周辺一帯にリアクター内部の放射能物質を撒き散らす事になる。

 人や生物が被爆した場合、それは被爆した当人だけでなく、遺伝子等へ影響を与え幾代もの子孫へも影響は残る。

広島や長崎の場合、あれば空中爆発であった為に、其れ程の放射能物質のフォールアウトも無く、科学者の予想より早く、自然環境が復元したのだ。

 しかし、JAの場合、リアクターの暴走で自爆したら、完全無欠な地上爆発になる。

地上爆発は空中爆発と異なり、空中に拡散する放射能物質より、フォールアウトする放射能物質が多くなり、地上の放射能汚染はより酷いものとなるのだ。

 日重は、万全の対策を行っていると言い張った。

曰く、六ヶ所村の原燃の貯蔵施設よりも強固に装甲している、とか。

曰く、象が踏んでも壊れない、とか(笑)。

六ヶ所村の原燃の施設は、航空機が激突しても耐えられる様な設計が成されている。

しかし、激突は一回だが、攻撃は一回とは限らない。

何度も攻撃されたら?想定以上の力が加われば、当然破壊されるのだ。

破壊されれば、放射能汚染が待っている。

 JAはリアクターを採用した段階で、終わっていた機械なのかもしれない。

 

 曰く、【リアクターの冷却系統が邪(JA)】


 リアクターは核分裂で熱を発生させて、何らかの作業を行う物である。

簡単に言ってしまえば、ウランを燃料としたボイラーと言っても良い。

そして、常にリアクターは冷却されていないと、リアクターその物が核分裂で発生する熱で破壊されてしまう可能性があるのだ。

その為、リアクターを稼動状態に保つ場合は、常に冷却しなければならない事になる。

 冷却系は一次冷却系と二次冷却系に別れる。

一次冷却系は核分裂で発生する熱を直接冷却する物で、その冷却水は放射能塗れと言って良い。

二次冷却系は一次冷却系から熱交換器を介して一次冷却水を冷却する物であり、この二次冷却系は基本的に放射能がたーぷり含まれるものではない。

この熱交換器で蒸気とされた二次冷却水でタービンを回し、その回転力を動力とするのである。

ある場合は発電機を回し、又ある場合は推進器を回したりするのだ。

 JAの場合、碇総研(碇総合研究所)の見積もりでは、一次冷却系の加圧ポンプの容量(加圧力)が小さいと判断していた。

どう考えてもJAの容積から考えて、十分な能力を持つ加圧ポンプを装備出来るとは考えられなかったのだ。

何故に、冷却水を加圧するのか? 一番の理由は、パイプ内の冷却水が沸騰しない為である。加圧されている場合、水の沸点は高くなるのだ。

加圧ポンプの力が弱い場合、一次冷却水は冷却パイプ内部で沸騰してしまい、ポイド(気泡)を発生する事になる。

そしてボイドは、パイプを振動させる事になる。

手近な例だと、薬罐の水が沸騰した場合を思い出して見れば良いであろう。

リアクターを扱う原発関係者にとって、一次系・二次系冷却水パイプの振動発生は悪夢としか言えないであろう。

振動はパイプの繋ぎ目を破断させる大きな要因である。

破断して冷却水が漏れ出す。それはリアクターの暴走、チャイナシンドロームへの門を開く事に繋がるのだ。

 後に、日重はナトリウム炉の搭載を提示する。

冷却にナトリウム化合物を使うナトリウム炉は、ポンプの力が弱くても冷却効果は高いのだ。

しかし、ナトリウムは金属を腐食させる。これはリアクターのパイプに使われるステンレス合金とて例外ではない。

そして、ナトリウム炉はアメリカと旧ソ連の実験艦(潜水艦)に搭載されただけで、実用化には失敗したものであった。

結局、パイプ類の腐食対策が満足に出来なかったのである。

この辺を碇財団に突かれて、ナトリウム炉の話も潰される事になる。

 因みに、碇総研とは、碇財団の政治・経済・外交から工業、そして科学全般のシンクタンク(さまざまな領域の専門家を集めて、社会開発や政策決定などの複合的な問題や未来の課題を研究する機関)の事である。

 

 曰く、【核分裂制御の機械配置が邪(JA)】


 核分裂とは、ウランやプルトニウムなどの原子核が中性子との衝突によって、ほぼ同じ質量の二つの原子核に分裂することである。分裂の際に二、三個の中性子が放出される。

リアクターや原子爆弾は、これを利用してさらに連鎖反応を起こさせる事により、大きなエネルギーを得ているのである。

 つまり、核分裂を制御すると言うのは、簡単に言うと中性子の量をを制御する事でもあるのだ。

中性子の量が減れば、次の核分裂の連鎖反応が起こり難くなるからだ。

中性子は黒鉛に吸収され易い。よって、リアクターの核分裂制御には、黒鉛が良く使われる。

ウランやプルトニウム等の燃料棒の間に黒鉛を入れる事で中性子を吸収し、核分裂を押さえるだ。

制御方法としては、燃料棒を黒鉛の容器に押し込める方法と黒鉛を棒状にした燃料制御棒を燃料棒の間に差し込む方法が一般的である。

前者はチェルノブイリ原発等の黒鉛チャネル型と呼ばれるタイプであり、後者は西側ではポピュラーな加圧水型等になる。

 JAのリアクターは加圧水型であり、核分裂の制御は燃料制御棒を用いる。そして、燃料制御棒の設置方法が最悪であったのだ。

リアクターを稼動状態にするには、燃料棒の間にある燃料制御棒を引き抜くのだが、JAの場合、引き抜いた燃料制御棒は、装甲ケースがあると言っても、外部に露出してしまう。

つまり、JAが稼動時に被弾したり転けた場合、燃料制御棒が破損しやすい事になるのだ。

燃料制御棒が破損すれば、それはリアクター暴走への門を開く事に繋がっていく。

また、上述した様に燃料制御棒は燃料棒の間に挿入したりするので、燃料制御棒が移動する場所は炉心内部への一本道でもある。

燃料制御棒が破損すれば、リアクター内部が外気等に露される可能性が高いのだ。

そうなれば、辺り一面は放射能汚染である。

JAは、どうしても内部スペースの関係で、燃料制御棒を外部に露出せざるを得なかったのである。

 

 曰く、【その緊急停止(スクラム)対策が邪(JA)】


 リアクターには、必ず緊急炉心停止装置と緊急炉心冷却装置が常備されている。

リアクターそのものや周辺機器に問題があった場合、速やかに炉心を停止させる装置が緊急炉心停止装置であり、一次冷却水が大量に漏れ出す等の場合に速やかに炉心に冷却水を追加するのが緊急炉心冷却装置と考えて良いだろう。

 通常、原発やリアクター搭載の艦船の場合、リアクター等に異常振動が発生したならば、緊急炉心停止装置が作動し、リアクターを停止状態にする。

 JAは、全高40mの巨体が二足歩行する為に、内部は数mの上下動が発生する。

内部の振動は、艦船と比較するのも馬鹿らしい程、大きなものだった。

その為、JAの場合、通常発生する振動で簡単に緊急炉心停止装置が作動しない様にする観点から、緊急炉心停止装置を作動させる為のセンサー類の感度が原発等と比べると“甘く”設定されていたのである。

 此れについては日重も反論する事は出来なかった。

日重自身、この辺の対策には苦慮していたのである。

どれが安全な振動で、どれが異常な振動か等、常に大きな振動が発生するJAの場合は切り分けが難しかったのだ。

 更に、緊急炉心冷却装置用の冷却水を入れておくコアフラッドタンクの容量も小さ過ぎた。

これば内部スペースの関係でもあるのだが、碇総研の試算では一次冷却系の配管の破断が起こった場合、数分持てば良い位に小さなものであった。

戦闘機動を行わなくても、その巨体から来る振動は凄まじく、配管類が破断し易いJAの場合、これは致命的とも言えた。

 これについて日重は、外部に補助タンクを載せる事で対処出来るとしたが、更にトップヘビーになる事は明らかであり、戦闘を考えると被弾し易い外部補助タンク等、実用上問題があり過ぎた。

 

 曰く、【その操縦方法が邪(JA)】


 JAは遠隔操作が基本である。

確かに、JAと操縦者との間の回線を高速化する等の対策は行われ、ハード的には限りなくタイムラグが無い様に考慮はされていた。

しかし、遠隔操作の為、どうしても操縦者がJAの周辺の状況を把握するには時間がかかる問題があった。

広角や望遠、そして通常レンズからの映像を幾つものモニター画面を見ながら、JAの周辺の状況を把握し、JAの動作を決定していく。

結構な離れ業である。

 日重は、此れは慣れれば問題が無い、と反論したが、咄嗟の操作に問題が出るのは誰の目にも明らかであった。

 更に回線は無線回線であった。

確かに複数のチャンネルを用意してはいたが、ECMには弱い事には変わりなかった。バラージジャミング等を行われたら、確実に回線は妨害されると、考えざるを得なかった。

 日重は、ネルフの汎用人型決戦兵器が子供が操縦者である事を或る筋からの情報で把握していた。

その為、JAは人道上と言う立前の元、より安全に戦闘が出来ると言うコンセプトで遠隔操作を操縦方法として選んだのである。

しかし、本音はネルフの技術より上である事を示したかっただけなのだ。

向こうはパイロットが搭乗しないと駄目だが、此方は操縦者は搭乗しなくても戦闘が出来るのだ、と…。

 

 曰く、【これで陸戦を行おうとする考えが邪(JA)】


 まぁ、JAの総括みたいな物である(笑)。

 未だ形を為していないJAであるが、結論から言えば欠陥兵器としか言い様がなかった。

二足歩行機械としてみれば、全高40mになるJAは素晴らしいものである。

日本が営々と築き上げてきたロボット技術の精華かもしれない。

しかし、兵器としてみれば欠陥品でしかなかった。

 全高40mの巨体が二足歩行するという事は、リアクターがある付近は、一歩進む度に数m上下する事になる。

リアクター周りのパイプへの振動やG等の影響は多大な物となるだろう。

 更に冷却不足の可能性の高さ。

 燃料制御棒の無防備な装備方法。

 転け易いトップヘビーなフォルム。

 緊急時用の装置の劣悪さ。

 つまり、JAは動かすだけで、常にリアクターの暴走の危険がある機械なのだ。

 リアクターが暴走する、一次冷却水が漏れ出す等など。全てが付近一帯を放射能汚染する事に繋がると言えた。

 しかも、JAは兵器であった。つまり、戦闘を行うのだ。

そして、戦闘は障害物が何も無い地形で行うとは限らない。

当然、不整地での移動、及び戦闘が想定されるのだ。

人間でも不整地を歩いたりすれば、足を取られて転ける場合はママある。

ましてJAは転け易いのである。二足歩行を行うだけで転ける可能性がある不整地。

しかも、戦闘となれば着弾により地面が抉れ、更なる障害物が瞬時に目の前に出来るかもしれないのだ。

どう考えてもJAが戦場に出れば、JA自身の生存確率は限りなく0であった。

そしてJAが破壊される。それはイコールJAが破壊された周辺一帯の放射能汚染を意味していた。

 日重は、JAは後方支援用云々と言い修繕うが、それなら何も二足歩行兵器でなくても、より安価な従来からの自走砲で十二分に用が足りるので、言い訳にもならなかった。

 


 以上の様な問題点を紙面の場合はイラストで、映像の場合はCGやアニメーションで老若男女全てに判り易く説明されたのである。

 更にシノは原水禁や原水協、緑豆を煽る事も忘れなかった。

 2013年当時、セカンドインパクト後の各地の紛争で、日本は世界で唯一の核被爆国という看板を降ろさざるを得なかった。

しかし、世界で最初の被爆国ではある。悲しい事に、東京を破壊したテロにおいて、世界初のN2兵器被爆国にもなってしまった。

これば大多数の国民が持つ核アレルギーを更に強固なものとした。

 各地で日重に対する抗議運動が起こり、その抗議運動をマスコミがニュースとして流す事で更に煽った。

マスコミは抗議運動に寄生する事で視聴率を稼いだ。色々な特集を組み、自称知識人を動員し、JAを日重を攻撃した。

 原水禁や原水協は、抗議運動だけであったが、緑豆は違った。

日重の施設の占拠等の実力行使を行ったのだ。占拠そのものは、即座に鎮圧された。

しかし、占拠した実績は残る。

 これ等の抗議運動は投資家の不安を煽り、日重や親会社の株は、毎日ストップ安を記録し、九九式艦爆のダイブボミング並の降下角度をもって低落していった。

更にJAに追い討ちをかけたのは、原子力安全委員会の決定であった。

原子力利用に関する政策のうち、安全確保についての企画・審議・決定を行う総理府の付属機関である原子力安全委員会がJAのリアクターについて、“待った”をかけたのだ。

 これでJAの運命は決まった。そして日重の運命も。

この決定は、更なる株価低落を呼んだ。こうなると銀行も日重に融資などしない。

資金繰りに困り、親会社もこれ以上の飛び火を恐れて手助けをしない。

遂に、日本重化学企業共同体は倒産する前に、解散する事となったのであった。

当然、JA計画は潰れる事になった。

JA計画の関係者は悲惨であったと言える。主任設計者等は連日のマスコミの報道で実名と顔写真を出されてしまったからだ。

 人と言うのは、集団になれば残忍極まりない動物であると言っても良いかもしれない。

マスコミの報道の元、或る意味誤ったベクトルの知識を植えつけられた人々は、実名報道されたJA関係者を社会正義の名の元に攻撃した。

ある時は陰湿に、ある時はアグレッシブに。

それは家族にも及んだそうである。

JA関係者達は、生命的には抹殺されなかったが、社会的には抹殺されてしまった。

 碇財団の方で、それなりに手を出して、日重関係者を救済する事も出来たであろうが、シノはそう云う指示は出さなかった。

何せ日重を問責する様にマスコミを扇動したのは碇財団である。シノと言い換えても良いだろう。

 その碇財団が日重関係者を救済した場合、日重を乗っ取る為にああ云う事をしたのだとマスコミの矛先は碇財団に向く可能性もあるのだ。

人情は別にして、経営者としての判断としては、シノの判断は妥当であった言えるだろう。

 尤も、JA関係者以外の人間については、それなりに配慮はしていた様ではある。

シノは、「私も未だ未だ甘いですね」と言って、祖父でもある碇シンタロウと笑いあったそうである。

 


 JA叩きの最中、シノは、其処までしなくても、と言う周りの者の諌めにこう答えたものである。

「兵器にリアクターを搭載する意味はなんでしょうね?」

「それは長期間の行動力を確保する為ではないでしょうか」

当然、その様に質問された者達は、シノに答えた。

「そうね。空母や巡洋艦等の水上艦艇に搭載する事は、燃料搭載量による行動の制限を取り払ったわね。

 尤も、それに合わせた戦略の練り直しも必要になったのですがね」

そう言ってコロコロ笑うシノ。

 艦艇の航続距離は、その国が取る海上戦略と密接なモノがあった。

 第二次世界大戦での各国艦艇を例に取ると、こうなる。

イタリア艦艇が航続距離が短めなのは、主な作戦海域が自国の近海とも言える地中海であるからだ。

しかも、そのご自慢の高速力が静かな海面でしか出せないのも、地中海と言う大きな内海の所為とも言えた。

アメリカ艦艇の航続距離が長いのは、フィリッピンと言う植民地を抱えており、また日本という仮想敵が居る為に、自国よりも遠い海面が主な作戦海域になるからと言えた。

イギリス艦艇の航続距離が長いのも、世界中にある植民地との交通線を守る為、自国より遥か遠方の海域での作戦が想定されていたからだ。

日本は駆逐艦の航続距離に、その海上戦略の変化が見て取れる。

小笠原辺りでの近海迎撃から、サイパン辺りの内南洋迎撃へと海上戦略が移行するに従い駆逐艦の航続距離も増大していくのである。

 笑いを止めて、シノは続ける。

「潜水艦にリアクターを載せるのは、行動力の増大もそうですが、その隠密性の増大が一番なんでしょうね。

 通常動力潜水艦は、潜航可能な艦でしかありませんしね。

 まぁ、クローズドサイクルエンジンと言う手もありますけどね。

 潜水艦の利点は、一にも二にも潜航している事による隠密性です。

 通常動力潜水艦では、その隠密性が一時しか得られない。

 それが人間の生理的な問題と機械の損耗を無視するならば、リアクター搭載潜水艦は無限と言って良いだけ潜航でき、無限の隠密性を得る事が出来る。

 もっとも、隠密姓と言っても、リアクターを動かすためのポンプ類の音なんかを無視できればですけれどね(くすくす)」

 一頻り笑うと、シノは続けた。

「リアクターを搭載するには、放射能の対策も重要ですけど、その熱の処理も重要になります。

 そして、両方とも設置場所がそれなりな大きさが必要となる物です。

 それなりの艦艇には、それを可能とするスペースを設け易いですけどね。

 結局、航空機に載せる事は、実験段階で無理と判明しお流れになりましたね」

 アメリカは、NB−36というリアクターを搭載した実験機を作成したが、結局空中でリアクターを可動させたのは一二回で終わり、実験は終了している。

何せ、飛行する毎に空挺一個中隊を載せた輸送機が随伴したそうである。

万が一、NB−36が墜落した場合、墜落地点を中心とした放射能汚染区域を隔離する為に必要な警備担当として(笑)。

「陸上兵器には、プランだけで終わったと言って良いでしょう」

シノは内心で付け加えるー狂人の妄想ですねーと。

更にシノは続ける。

「陸上兵器は、航空機程ではないにしても、搭載スペースに限りがあります。

 まぁ、海上と異なり、陸上には地形と言う物がありますからね。

 どうしても、陸上兵器の大きさは制限されますから。

 一番の問題は防振対策が十分に出来ないと言う事でしょうかね。

 動けば、結構細かい振動を拾いますからね。冷却系のパイプなんか直に恐い事になるでしょうね」

つまり、シノが言いたいのは、外部から幾らでも振動がパイプを襲うという事だ。

「しかし、艦船でも振動はあるでしょうに」

当然の様に相手もシノに質問を返してくる。

「艦船の振動なんて、陸上兵器や航空機に比べたら無いも同じかもしれませんね。

 陸上兵器や航空機は、常に短い周期で振動が発生しますからね」

そして、一旦言葉を切ると、シノはお茶で喉を湿らす。

「この振動が曲者でしてね、結局、艦船に比べて、航空機や陸上兵器はメンテナンスのサイクルが短くなってしまうんですよ」

振動は熱と共に故障の原因の王様とも言える。

単体で比べれば、航空機や陸上兵器のメンテナンスは艦船等と比べ物にならないくらいに頻繁に行われる。

航空機は一度飛べば整備・点検が必要であるし、戦車等の陸上兵器も一度動いた後は点検や整備を行う事が望ましい。

確かに艦船も航海した後は、整備や点検は必要であるが、その行動日数は航空機や陸上兵器に比べて非常に大きいといえる。

因みに、この場合のメンテナンスとは補機類の事ではない。本体を動かし、戦闘する為に直接関係する物の事を言っている。

艦船とて、補機類は日常メンテナンスしなければならない物は多いのだ。

「だから、ハードのメンテンスとの兼ねあいを考慮すると、航空機や陸上兵器にリアクターを搭載する意味が少ないのですよ。

 そんなに大きな行動力があっても、ハードのメンテンスの所為で、宝の持ち腐れに過ぎないのですよ。

 それに撃破されたら、辺り一面放射能汚染じゃ、何処で使うのです?

 沈まない艦船は無いし、撃墜されない航空機も無い。撃破されない陸上兵器も無いのです。

 幾ら放射能漏れ体策を施していると言っても、それは原発に毛が生えたレベルでしかありませんよ?」

 そして、相手を見詰める。

「だから、あの現代のマルダイ金物を葬るのですよ(クスクスクス)」

そう締めると、シノはニコ目になって邪悪そうな笑みを浮かべたそうである。

 因みに、シノはJAの事を良くマルダイ金物と呼んだ。

マルダイ金物とは、帝国海軍が終戦間近に実戦投入した特殊攻撃機「桜花」の事である。

一度、母機を飛び出したら最後、帰投する事が出来ない完全無欠の特攻機。

シノは、公式の席でもそれにJAを例えていたのだ。

失礼に当りませんかね、と言う諌めの言葉に、シノはこう答えている。

「Bakaと呼ばないだけ、日重には感謝してもらいたいですね」

因みに、Bakaとは特殊攻撃機「桜花」に、アメリカが付けたコードネームである。

 

 



 

 


 そして、時は2015年。第三新東京市。

 ネルフ本部、司令室

 

 戦訓検討会議の前、司令室に集まる、ミサトを除いたネルフ本部首脳陣。

「ところで六文儀司令。ネルフはセカンドインパクトの真相を掴んでいるのでしょう?

 何故、葛城ミサトに真相を話して、辞めてもらうなり、逮捕・処刑しないのです?」

シノは開口一番、セカンドインパクトについて、ネルフ本部首脳陣に質問した。

 以前、セカンドインパクトについて調査し、ゲンドウに詰め寄った事もある冬月は渋い顔をすると共に、何故に葛城ミサトの処罰についても言及するのか不思議に思うのだった。

ゲンドウやユイも葛城ミサトに言及した時点で“おやっ”と言う顔をする。

 シノはゲンドウ達の顔を見て、“ふ〜む”とばかりに胸の前で腕を組み、右手の人差し指を頬に付け小首を傾げる。

リツコはシノから、ある程度の話は聞いている。

葛城ミサトの行状についても、それなりの知識があるので、あまり顔色を変える事は無いが、やはりゲンドウ達の顔を見て、“おやっ?”と言う顔になってしまった。

 ゲンドウは冬月とユイの顔を見回し、意を決して話し出した。

「君達の組織は、何処まで掴んでいるのだ?」

「推論も入りますが…多分、全てですね。主犯から実行犯まで。

そして、あそこで何があったかも」

 このシノの返答に、ゲンドウ達3人が驚愕の顔をしてしまった。

この3人の顔を見て、益々謎が深まってしまうシノとリツコ(笑)。

リツコが見ても3人が本当に驚いているのが良く判る。

それが、何故に知っている?!と言う意味での驚愕なのか、何故に自分達が知らない事を知っている?!と言う意味での驚愕なのか、シノでも判断がつかなかった。

 シノは、今の今迄ネルフはセカンドインパクトの真相を掴んでいると思っていた。

それは、航宙軍諜報部門の意見でも有った。又、碇総研の対ネルフ部門の意見も同じであった。

 シノは先程からやっている様に胸の前で腕を組み、右頬に人差し指を付け小首を傾げながら思考に沈んだ。

(私達はネルフを買被っていたのかもしれませんね。

 この驚き様、或る程度は知っている様ですが、実行犯までは知らないみたいですね。

 さて、コッチの手札をオープンしちゃいましょうかね?

 オープンしても問題は無いでしょうし。

 実行犯まで知って、如何この情報を咀嚼するか、見ものですね(クスクスクス))

 ゲンドウはシノとリツコの顔を覗いながら言葉を続けた。

「我々は、葛城博士の計画は知っていた。

 南極の白き月で発見されたアダムのS2機関を稼動させ、そのS2機関の研究を行うという計画だ。

 その計画の最終目標はS2機関のコピーだった。

 そして、ゼーレがスポンサーになった」

ゲンドウの言葉を受けてシノが頷く。

「そうですね。学会で異端視されていた葛城博士をゼーレは拾い上げ、S2機関の研究を行おうとした。

 S2機関の権利を独占する為ですね。

 葛城博士は自分が提唱したS2理論の実現が上手く行かず、学会からは熱狂的阪神ファン扱いを受けていた。所謂、狂人扱いですね(クス)。

 彼はゼーレからの誘いに乗った。

 ゼーレは葛城博士を利用しようとし、葛城博士はゼーレを利用しようとした」

シノの言葉を受けて、ゲンドウが続ける。

「そう、双方はお互いを利用しようとした。

 彼のチームに所属していた私は、アダムの接触実験の一日前に、それまでの資料を持って帰国した。

 当時、ユイはお前を妊っていたしな。

 それと、ゼーレから此れまでの資料を纏めて提出しろと言う指示もきていたからだ」

さり気無くシノに対して、お前は俺達の子供だと言うメッセージを篭めるゲンドウ。

やはり、可愛い所があるのかもしれない(笑)。

シノはゲンドウの言外の意味が判るので、その言葉の所では秘かに顔を顰める。

そして、ゲンドウは何時ものゲンドウ・ポーズを取る。

「今考えると、葛城博士は態とアダムの接触実験を遅らせたのかもしれない。

 私もユイも接触実験については慎重派であった。

 そして、私がゼーレと近い事を葛城博士は知っていた節がある。

 ゼーレが資料を持って帰って来い、と言えば、私がゼーレから指名される事も想定していたのだろう。

 ゼーレが痺れを切らすまで、都合三度も接触実験は色々な理由で遅らせられた。

 接触実験によるアダムのS2機関の起動。此れの成果を独占したかったのかもしれないな、葛城博士は…」

「ところで、葛城博士が行おうとした接触実験の詳細は知っているのですか?」

そのシノの質問にゲンドウとユイは顔を見合わせて、首を横に振る。

「いや、詳細までは知らないな。

 エヴァの様にシンクロしようとしたのか、筋肉等に電気パルスを流そうとしたのか」

ゲンドウの言葉に、ユイも合いの手を入れる。

「そうね、私達はアダムとの接触実験の詳細は知らされていなかったわね。

 葛城博士は、自分の腹心だけに教えていた様なのよ」

「葛城調査隊で生き残ったのは、葛城ミサト、彼女一人だった。

 彼女は重度の失語症と記憶障害になっており、我々は当時南極のグランド・ゼロ(爆心地)で何が起こったかまでは掴めなかった」

シノは二人の顔を見ると、何か得心したのか頷いた。

「冬月先生? 葛城博士の為人は、ご存知でしたよね?」

突然、話を振られたにも係わらず、冬月は驚もせずに静かに答えた。

「ああ、知っているよ。 或る意味、功名心の強い男だったな」

「ありがとうございます、冬月先生」

シノはペコリと冬月に礼を返すと、話し出した。

「此れはゼーレも知っているであろう事ですが、航宙軍の諜報部門とウチの碇総研の調査で判明している事をお話します。

 此れは現段階では他言無用にお願いしますね。

 手近な人達をこの手にかけるのは、流石に気が退けますからねぇ(クスクス)」

少し邪笑を浮かべて、とんでもない事をサラリと言ってのけるシノ。

「葛城博士が計画した接触実験の方法は、ずばり当初のエヴァの操縦方法と同じです」

「「「う〜む」」」

シノの言葉に唸ってしまう、ゲンドウ、ユイ、冬月の三人。

リツコは母ナオコと共にシノから聞いていた事なので、別段驚きはしない。

「当初の方法と言うのは………生贄方式!」

ユイは驚いた様に口を手で覆いながら、最後の方は搾り出す様に言う。

「えぇ。別の人が別の時期に何の脈絡も無いのに、同じ方式を考えていた様ですね。

 ネルフは東方の三賢者が居たお陰で、結局は生贄方式を採用する必要はありませんでしたが。

 葛城博士は外道の道に走った様ですね」

シノの玲瓏たる声が司令室に響いていく。

 そして、シノは一枚のデータディスクを取り出して、ゲンドウが座る司令執務机の上にある端末にセットした。

空間に画像が投影される。

「この画像は、当時SHADOと言った航宙軍の偵察衛星S.I.Dが撮影していた映像です。

 解像度は地上15cmの物まで識別できます」

そして、シノは画像から皆の方へ視線を向ける。

「少し前の事件でエイリアンの地球潜入を知り、怪しい地上の事象を全て偵察する様になっていたのです。

 この偵察衛星S.I.Dも地上の映像、電波、パーソナルパターンまで捉える様になっていた新型でした」

冬月は驚愕を隠せない。それはゲンドウもユイもだ。

当然、三人には共通の疑問が浮かんだ。何故、これ等の情報は秘匿されたのだ、と言う疑問が。

シノもその雰囲気を感じたのか言葉を続ける。

「秘匿されたのは、一にも二にもゼーレの所為ですね。

 当時、国連はゼーレの支配下と言って良い状況でしたしね。

 中々に、SHADOだけでは公表する事が出来なかった」

シノにとっては生まれる前の出来事。そして、当時の責任者達から聞かされた、悔しさと無念さ。

シノは少し遠い目で、ヨーロッパがある方向を見てしまう。

「で、この映像」

シノがそう言うと画像が変わる。

シノを含め誰も端末には手を触れていないのに、端末は操作されていく。

そして、シノの目の奥に残るナノマシンの残光。

「これはアダムの接触実験の直前3分前の白き月を上空から写した映像。そして、此れは…」

白き月の発掘現場の上空からの全景画像から、拡大された画像に移る。

「左端に写っているのがアダムですね。

 アダムから伸びている線は、多分制御装置への配線をカバーする為のピットでしょう。

 そして、ピットはこの部屋に繋がっている」

「この部屋は…」

シノの説明を聞き絶句してしまうゲンドウ。そして、ゲンドウの言葉が続く。

「この部屋は、アダムをコントロールする施設だと葛城博士に聞かされていた。

 中には入れなかったよ。まだ、調整が済んでないので作業中だからと言われてな(フッ)」

しかし、ゲンドウ・ポーズでの嗤い。やはり、此れは恐いものがある(笑)。

シノはその嗤いに怯える事も無く説明を続ける。

「航宙軍でもウチの総研でもそう判断しています。

 そして、この部屋から観測できたパーソナルパターンは…」

「そんな事が出来るのかね!?」

冬月が思わず障ってしまった。

「えぇ、簡易施設のお陰で出来ましたよ。

 まぁ、エイリアンが人間に化けている場合を想定しての装置だったのですがね。変な所で役立ちましたよ。

 それでは、続けても宜しいですか?」

そう言いゲンドウ達三人を見るシノ。

「あー、すまん。続けてくれたまえ」

冬月は、思わずとは言え、シノの説明を途中で障ってしまった為、バツが悪そうに先を続ける様に促す。

「では(コホン)。

 この部屋から観測できたパーソナルパターンは二つ。一つは…」

葛城教授のパーソナルパターンのグラグを左の画面に表示し、右の画面に観測できたパーソナルパターンのAと表記されている方を表示する。

そして、左右のグラフのパターンを重ね合わせると、一致した画像が表示される。

「見ての通り、Aの方は葛城博士のものです。もう一つのBの方は…」

左の画面にはパーソナルパターンのグラグの画像。14歳位の少女の顔写真が一緒に写され、NAMEの項目には−Misato−Katuragi−と表示されていた。

そして、先程と同じ様に右の画面に表示されたパーソナルパターンのBと重ね合わされる。

そして、一致するグラフ。

「この様に葛城ミサトと判明しています」

リツコは知っていた事ではあるが、知らなかったゲンドウ達三人の顔には動揺が浮かぶ。

「何をやっていたのだ、葛城博士達は?」

流石はゲンドウと言う所か、声には動揺は微塵も感じさせない。

伊達にゼーレの爺様達と丁々発止の遣り取りをしてはいない様だ。

「父娘の禁断の世界…ではなかった様ですね」

そうシノは戯けると、話題を元に戻す。

「その前にアダムですけど…アダムからですが、微弱な人間のパーソナルパターンが検出されています」

シノはゲンドウの質問には答えず、アダムからのデータを表示する。

一つは使徒特有のパターン。もう一つは人間らしいパターン。しかし、人間らしいパターンは微弱だ。

「で、このパターンを増幅して、このパターンと重ね合わせると…」

先の二人の様に左の画面にミサトの面影が見え隠れす成人女性の顔写真が付加されたパーソナルパターンのデータが表示されている。

NAMEは−Miyoko−Katuragi−。備考には、葛城博士の妻とある。

そして、増幅されて少し荒いパターンではあるが、左の画面に出されていたパターンと一致した。

「葛城博士の妻、葛城ミサトの母のパーソナルパターンが何故かアダムから検出されたのです。

 つまり…」

「葛城博士は…自分の奥様をコアにインストールしたと言うの!?」

セカンドインパクト前に少なからず葛城博士の奥方とも面識があったユイが、半ば悲鳴の様に、シノの言葉を障った。

「その様ですね」

少し説明を中断されてシノは少しムクレていた(笑)。

交際の長いリツコは、そんなシノの顔色が判るのか少し含み笑いを漏らす。

もっともゲンドウを含めた三人には、そんな顔色は判らない。

はたで見ている限り何時ものクールビューティな顔でしかないだろう。

「つまり、葛城博士は葛城(ミサト)君を…」

冬月の言葉に、シノは頷く。

ゲンドウは何時ものゲンドウ・ポーズで顔色を覗わせない。

泰然自若と言った感じではあるが、シノには隠せなかった。僅かにゲンドウの躰が震えているのを。

シノは、そんなゲンドウ達三人を見ながら、説明を続け出した。

「まぁ、御三方には、もぅ見当は付いていると思います。

 生贄方式であると仮定すると、葛城博士は妻をインストールし、娘をアダムの巫女としたと考えられます。

 起動時に何があったか迄は判りませんが、その後は、この様になった訳です」

そうシノが言うと、今度は動画の様にコマ送りされる画像。

アダムが白く輝くと、八対十六枚の羽を広げ、白き月から出ようとする様子が、上空からの映像で再現されていく。

「可笑しいとは思いませんでしたか?

 何故、葛城ミサトが脱出ポッド等に乗っていたか。

 否、何故に葛城調査隊に脱出ポッド等があったか」

シノの問い掛けに、あっと気付くゲンドウ達三人。

そう、沿岸部とは言え南極大陸部での調査である。脱出ポッド等がある方が不自然なのだ。

これが南極の沿岸部の氷上の上での調査なら判らないでもない。

如何にも脱出ポッドが葛城調査隊に装備されていたのかは、シノに言われてみれば疑問符なのだ。

「脱出ポッドはゼーレが回収したのですよねぇ」

シノの質問に、この中ではセカンドインパクトの事後処理には一番詳しいゲンドウが答える。

「あぁ、ゼーレが調査すると言って回収した」

「脱出ポッドなるものが、ゼーレ版もしくは葛城版エントリープラグと考えれば、葛城ミサトがアダムに接触しようとした事の傍証にはなるでしょうね。

 尤も、その脱出ポッドが無いので、物証自体は無いですが」

そうシノは言うと、一息ついた。

そして、纏めに掛かる。

「以上の様に、セカンドインパクトについては葛城博士が主犯。実行犯が葛城ミサトと言う事になります」

そして、空間のスクリーンを消した。

 シノはゲンドウを直視すると、説明前の質問に戻った。

「葛城ミサトを放り出すには十分だと思うのですけどね。

 このパーソナルパターンの件だけでも」

 ユイは、葛城博士が行った事に対するショックから抜け出していない。

しかし、東方の三賢者(三マッドサイエンティスト)の筆頭がダラシナイと思うのは、シノだけだろうか。

もっとも、この話はギャグじゃないが(苦笑)。

ゲンドウと冬月は、シノの質問に顔を見合わせてしまった。

「確かに、今迄の行状や使徒戦での行状を考えると、葛城君を切りたいのだが…本当に実際の首も切りたいのだが…出来ないのだ」

何気に本音が出てしまうゲンドウ(笑)。

ミサトの所為で、シノも事後処理に困っているのであるが、ゲンドウはそれ以上に困っているのだ。

ゲンドウとて、この面子では愚痴が出ようと言うもの。

「彼女は、委員会と言うかゼーレの肝煎でね。

 使徒戦開始後は再三にわたって、私や六文儀も委員会に馘切りを進言しているのだが、駄目なのだよ」

冬月も困った様に言う。

「ですが、私も殴り疲れたと言うか、飽きたと言うか…」

もう、ウンザリという顔のシノ。しかし、ミサトを追い出す理由がそれかいっ!

そこに漸く復活したユイが加わる。

心此処に非ずではあったが、話そのものは聞いており、進行は把握していたらしい。

「確かに、ミーちゃんを叱るのも飽きたわねぇ。

 叱っても、糠に釘、蛙の面にアレですからねぇ。

 猿でも出来る反省が出来ない娘だから」

此方もうんざり顔のユイ。

「うーむ。もう減俸するにも…次ぎは何年目に入るのだろうか」

ゲンドウ・ポーズで思案するゲンドウ。

「六文儀、減俸と言ってもな、相手が反省しないのでは意味が無いぞ。

 しかし、委員会にも困ったものだな。

 厄介事を押し付けおって!」

何時もの様にゲンドウの脇に立っているが、思案顔だ。

「ならば、切るのも一策でしょう?」

シノが切り出すが、ゲンドウが首を左右に振る。

「しかし、ゼーレは首を縦に振らない。あの文書の所為でな」

「ああ、あの『始まりの巫女』の一節ですか…」

シノはゲンドウの言葉を受けて、ポンッと手を叩く。

「そう、『始まりの巫女は、約束の地にて使徒と対峙す』の一節の為に、頑固一徹なのよね」

ユイも困り顔だ。

貴女が訳したのでしょう、と内心突っ込まないでもないシノである。

「しかし、今ゼーレと事を構えるのは非常に拙いぞ。

 せめて第十六使徒か第十七使徒辺りでなら、ゼーレと事を構えても良いのだが」

冬月の言う事も尤もではある。

 今だ使徒戦は第五使徒までである。これから、死海文書の通りなら後12も来るのだ。

ネルフは非公開とは言え国連組織。今だ国連に対するゼーレの影響力は強いのである。

下手に予算カットでもされたり、ネルフ本部上層部の首の挿げ替えでもされたら、目も当てられない事態を惹起するかもしれない。

そうなれば、シノは当然の如く航宙軍に戻るだろうし、リツコもネルフ本部を離れる可能性が大である。

当然、レイもチルドレンを辞める公算が大きくなる。

ゼーレが国連を使って色々とレイ残留について画策するであろうが、シノが裏から手を回して、強引にでもレイをネルフ本部から引き離すだろう。

こと軍事に関しては、ゼーレよりもシノやシノが所属するグループの方が圧倒的に権限も権力も大きいのだ。

人一人、如何とでもする事は出来る。

最悪、シノならば碇財団を使って、ゼーレと全面対決する事も辞さないであろう。そうなれば、ゼーレとてただでは済まない。

尤も人類社会もただでは済まないだろうが(邪笑)。

 そうなると残るチルドレンはドイツに居るセカンドチルドレンのみ。

訓練結果等のペーパーの上では大した成績を残している様だが、実戦経験皆無である。

セカンドチルドレンの本当の実力は未知数といってよかった。

第五使徒までの事を考えると、下手な指揮ならば、負ける公算の方が高いと言ってもよいかもしれない。

尤も、そうなるとココの下にあるのがリリスだという事が使徒にバレて、使徒はアダム目指してドイツ行〜なんて事になるかもしれないが(邪笑)。

 簡単には解決出来ない問題に頭を悩ませる一同。

「まったく、困った事を押し付けおって…」

冬月の呟きが一同の心の中を代弁していた。

 

 



 

 


第五使徒戦戦訓検討会議

 

 会議開始早々、ミサトはシノを指差し罵声を浴びせた。

「あんたっ!何で私の言う事を聞かないのよっ!!

 あんたには、私の言う事を聞く義務があるのっ!!!

 さっさと独房にでも入って反省しなさいっっっ!!!!」

「「「………「はぁ?」………」」」

ミサトの意味不明の罵声に、ミサト以外の参加者は、コイツ何を言っているんだ?とばかりに呆気に取られていた。

勿論、ミサトの副官である日向マコトもである。

シノも例外ではない。

いや、ミサトが毎度の如く馬鹿な事を言うとは思っていたが、最初からハイテンションになっているとは思わなかったのだ。

 まぁ、ミサトにも言い分はあるだろう。

今朝、独房から出たばかり。独房内では毎日、書類仕事をさせられていたのだ。

当然、何時もは書類仕事を押し付ける日向も居ないので、自分自身で行わなければならなかった。

しかも、書類の記載ミス等で差し戻されれば、終わるまで眠る事は許されないのだ。

食事にはアルコールも付かない。

アルコールが摂取できない事はミサトにとっては、拷問以上の苦痛であった。

そう云う鬱憤が−諸悪の根源であるシノ(ミサト主観)を見て−一気に爆発したのだ。

 シノはミサトを一目見て興味無さ気に、手をシッシッと振った。

此れはシノの挑発であった。シノにしてみれば汚物を見る気もしないし、汚物相手に時間を取られるのも馬鹿馬鹿しい。

此れが終わったら学校に行かなければならないし、学校が終わったら、第五使徒戦の事後処理の書類仕事が待っている。

時間は1秒でも惜しいのだ。

 ユイはシノの行動を見て、自分の子供(ユイ主観)が何を思って挑発したのか理解した。

ユイとて、これ以上ミサトの罵声を聞いているのを良しとはしなかったのだ。

そして、手元のスイッチを押すのであった。

 シノの思惑通りにミサトは挑発に乗ってくれた(邪笑)。

ミサトは席を立つと、シノ目掛けて一直線。

その時、会議室の扉が開き、保安部対ミサト班が雪崩込んで来た。そして、ミサト目掛けて突撃を敢行する。

「あんた達、何よっ!」

驚愕の声を上げるミサト。しかし、対ミサト班は電磁警棒を振り上げ、ミサトを殴打する。

「葛城ミサトっ!会議妨害の咎で逮捕するっ!!」

対ミサト班の班長が見得を切る。

「スイッチを押して25秒で到着ね。後5秒はタイムを縮められるハズね」

そんな騒ぎを横目に、ストップウォッチを手にしたユイがスポコン物のコーチの様に呟く。

対ミサト班の目指す道は、まだまだ遠く険しい様だ(笑)。

そんなユイの呟きを物ともせず対ミサト班は手際よくミサトを拘束していく。

五重皮手錠を手にかけ、五重皮足枷も足にかける。

そして、自殺防止も兼ねて、口にギャグを噛ませる。

そのタイム、なんと40秒。

しかし、鬼コーチの評価は辛い。

「30秒にしないと駄目かしらね」

その言葉を聞いて、シノは頬に汗が一つたら〜りと流れるのを止める事が出来なかった。

(貴女は、鬼ですか〜っ!)

顔色一つ変えずに、心の中で突っ込むシノ。

 そんな騒動を目前にしながらもゲンドウは動じない。

荷物同然に担ぎ出されたミサトを見送りながら、何時ものゲンドウ・ポーズで会議の進行を促した。

「伊吹二尉、会議を進めたまえ」

「は、はぃ。それでは第五使徒との戦闘について…」

 その後、会議は何の問題も無く進んでいく。

 シノは講評をするかの様に第五使徒戦の総括を行う。

「指揮官としては、使徒の形状を見た段階で、アウトレンジ攻撃がある事も考慮に入れて情報の収集、及び指揮を行わないといけませんね。

 この形状では…」

紅葉が気を利かせてスクリーンに第五使徒の画像を表示する。

「手足が出てくる可能性は低いとしか言えません。

 まぁ、使徒なので何でもあり、とも言えるのですけどね。

 戦自から情報を貰う努力もしない、又、ダミーを出すなりして自前で使徒の出方を観測しようともしないと言う不手際は、如何言い修繕っても『馬鹿』としか言い様がありませんね。

 以後の使徒戦では心して掛かってください。特に日向二尉」

突然、日向にシノの矛先が向く。シノの声は罵声でも怒声でも無い常の声だが、それだけに日向には恐いものがあった。

「上司を止めるのも副官の役ですよ?

 今だ実戦配備されているエヴァは3機。チルドレンも3人しか居ないのです。

 兵は使い捨ての駒では無いのです。勿論、切らなければならない時はあるでしょう。

 しかし、何の事前の調査も観測もせずに戦場に送り出して良い事にはなりませんよ。

 一将功成りて万骨枯る、では拙いのです。

 上官が駄目ならば、副官は身を挺してでも諫言して下さい」

(まぁ、恋は盲目とも言いますしね。無理でしょうねぇ(はぁ))

内心、そう思い溜息を吐いてしまうシノ。

幾ら前線の指揮をシノが采ると言っても、後方で邪魔してくれるのでは如何しようも無い時も出てくる。

 シノが一旦、言葉を切ったの見て、今迄口を挟まなかったゲンドウが口を開いた。

「碇査察官、其方からの技術供与の件は如何なっている」

「今週末にも協議開始ですね。ウチ(航宙軍)の技術将校と事務屋が来ますので」

それを聞き、ゲンドウは「うむ」とゲンドウ・ポーズで頷く。

「今回の第五使徒戦を鑑み、此処(ネルフ本部)にUAVの配備を要請します」

UAV(無人偵察機)があれば、ちょいとは偵察する気にもなるだろうと、シノが進言するも冬月とユイは渋い顔。

「問題な(ぎゃ)…」

ゲンドウがシノの進言に何時もの決めセリフを言おうとしたら、左右に控えるユイと冬月に思いっきりハリセンでスパーンと張り倒されていた。

「えぇい、六文儀。

 予算も無いのに、問題が無い訳も無いだろう」

「そうですよ、ゲンドウさん。

 何事にもお金は付いて回るのですよ。

 シノちゃんのA.T.フィールドのお陰で、今回は初号機の修理費は最低限で収まっていますが、それでも四千億程は掛かるのですよ。

 何処に問題が無いのです」

冬月とユイは口々にゲンドウを諌める。

そして、冬月が理由を説明しだした。

「委員会が予算を中々認めないのだよ。対人装備と共に何度も申請は出しているのだがね」

その理由を聞き、シノは肩を竦め頭を何度か静かに左右に振る。

「判りました。来週初めに、作戦部の梃子入れで、国連軍関係から士官10名、下士官50名が来ます。

 UAVの件はネルフ本部ではなく、国連からの要員に付随する形で配備される様に手配しましょう」

 そして、一旦言葉を切ると日向の方を向いた。

「日向二尉」

その声に、再度ビビリまくる日向。隣の青葉二尉が憫れみの目を向ける。

(マコト、もう少し人生経験を積めよ。葛城二尉はサゲマンだぞ)

うーむ、如何いう過去を持つのだ、青葉シゲルよ。

「副官と言うのは、今の様に上司が非常に拙い事をしようとした時は諌めるものです。

 今後は宜しくお願いしますよ。

 尤も、今の作戦部の人間に勝手な事をさせる気は一切ありませんけどね」

只々、首を竦めるだけの日向であった。

 

 



 

 


戦訓検討会議の翌日、司令室での首脳陣による陰謀会議(邪笑)。

 

 今回の話題は、エヴァ以外の機動兵器の取り扱い。

まぁ、ぶっちゃけた話、ネルフやシノが所属するグループが持つ機動兵器以外の物は潰しちゃえ〜、と言う事なのだ(邪笑)。

傍迷惑な話ではある。

 JAは冒頭の様に碇財団と言うか、シノの逆鱗に触れて、文字通り潰された。

だが、大型機動兵器の計画はそれだけではなかったのだ。

 リツコが空間のスクリーンにある画像を投影する。

画像的には粒子が荒い画像であり、かなりの遠距離から撮影したのが見て取れる。

「戦自、戦略自衛隊が開発している機動兵器です。完成そのものは先の予定でしたが…

 シノちゃん、貴女のお陰で完成が早まったの(ふぅぅ)」

リツコは思いっきり息を吐き出す。

「?」

リツコの説明に珍しくシノは困惑顔。シノとて身に覚えが無いからだ。

戦自が計画していた機動兵器については勿論知っていた。

しかし、碇も航宙軍もその計画に援助等は一切していない。

何故に計画の進行が早まったのが自分の所為なのか、訳が判らないのだ。

その顔を見て、リツコが少し悪戯っぽく微笑む。

シノのこう言う顔は、そうは見られるものではないからだ。

「訳が判らないと言った感じね」

「(こくり)」

リツコの言葉に素直に頷くシノ。

「では、説明しましょう!」

やはり説明アビリティは科学者の必須アイテムなのか(笑)。

「2年前、貴女がJA計画を潰したわよね」

「えぇ、完膚なきまでに潰しましたね」

「それが、今回のトライデント早期完成の遠因よ」

「ほよ?」

リツコの説明に更に困惑するシノ。

こんな顔は滅多に見られる物ではない。

 ゲンドウとユイは、非常に驚いていた。顔色に出る程に。

常はクールビューティなシノの歳相応の顔を見るのは初めてだからだ。

ゲンドウ等はゲンドウ・ポーズで固まっている。

ユイも固まっていたが、逸早く復活すると、ある作業を始める。

(こんな顔、滅多に見られないわ〜、さーっそく記録、記録♪)

ユイが滅多に無い子供(ユイ主観)の表情を映像記録に残そうと、ゲンドウの机の上の端末を弄くっていた。

尤も後でシノにバレてMAGIの中の記録は消されるのだが、ユイのスタンドアローンのPCの中までは手が出せなかった(笑)。

 冬月は以前に何度か見た事があるので、逆にゲンドウやユイの反応を見て、笑いを堪えていた。

(六文儀やユイ君のこんな顔を見るのは久しぶりと言うか始めてと言うか(ぷぷぷぷ))

 もう少しシノの困惑顔を見ていたかったが、今は此処までとリツコは具体的に説明を始めた。

尤もリツコも意地悪ではある。

何せ情報を小出しにしているのだから、思い当たる節が無いシノに判れと言うのが無理と言うものである。

「戦自技研(戦略自衛隊技術研究所)が開発していた陸上巡洋艦計画、通称トライデント計画は知っているわよね」

「えぇ」

「2年前、シノちゃんが潰したJA計画で碇財団はJA計画に参画しなかった日重の社員は、それなりに救済したわよね」

「あれが救済と言えるなら、救済でしょうねぇ」

シノはサバサバした顔で答える。

「そのJA計画に参画していた連中が戦自技研に流れたのよ。

 ついでにJA計画で使われるであろう先行手配されていた資材諸共ね」

リツコは手元の端末を操作してスクリーンに関係者の顔を映し出す。

「社会的に抹殺したつもりでしたがね。それを戦自が拾ったと」

シノはやっと意味が判ったと言わんばかりに、納得顔になる。

「そう、極秘裏にね。今でも社会的には抹殺状態よ。

 碇では掴めていなかったの?」

「計画を潰せば、それでOKでしたしね。

 別に計画に参画した人間があの後、如何生き様と干渉する気はありませんでしたよ。

 そこまで、私も傲慢じゃありませんよ」

リツコとの付き合いが親密且つ長いシノは、別段憤慨した様子も無く言う。

(貴女なら、力の暗黒面を恐れる貴女なら、そうでしょうね)

リツコは、そう思ってしまう。

力があれば、それを無性に振るいたくなるのは、或る意味人情ではある。

しかし、人工生命体とは言え、一つの種族を滅ぼした事があるシノは自身の力と権力の恐ろしさを身を持って知っているのだ。

「ウチ(碇財団)の御目溢しのお陰で、トライデントは早期完成した訳ですか(はぁぁぁ)」

結論に思いっきり溜息を吐くシノ。脱力頻りだ(笑)。

「そうなるわね」

リツコは冷静に切り返す。

 今迄、フリーズしていたゲンドウが徐に言い出した。

「戦自には、大型機動兵器開発から手を引いて貰おうと考えている」

「爺様達からの指示ですか?」

先程の“ふにゃぁ”とぃたシノではなく何時ものシノに戻っての対応。

 これを見てゲンドウは内心悲しくなってしまう。何で親にはああ云う顔を見せてくれないんだぁぁぁ!と。

まぁ、何時ものゲンドウ・ポーズで顔には内心は出さないが。

「そう云う事だ。委員会はだがな」

ゲンドウの返事に、シノは、そう云う事ですが、と得心した。

 人類補完委員会は、ゼーレ12使徒の内、bPからbU迄で構成されている。

そして、ゲンドウは委員会は、と言った。ゼーレ12使徒全てではないのだ。

つまり、トライデントについてはゼーレは割れており、戦自にはゼーレ12使徒の下位ナンバーの連中が関与しているのだろう。

 そこまで、シノは推理して、ゲンドウ達を見る。

「で、如何する算段ですか?

 ゼーレが割れているとなると、ネルフとして圧力を掛けるのは難しいでしょう。

 力技でも使いますか?」

それについては、ユイが説明しだした。

「今考えているのは、ウチにも完成式典の招待状が来ているのだけど」

と言って、戦自からの招待状をゲンドウの机の上に出す。

「この席で、トライデントに恥を掻いて貰おうかと思っているのだけど。

 例えば、トライデントの制御コンピュータに自壊式のウィルスを仕掛けるとか」

「ウィルスですか…(ラピスを送ってクラックしても良いのですが)

 しかし、自壊式とは言え、起動前にバレた場合、拙い事になるのではありませんか?」

シノは何時もの癖で、腕を組み、右頬に人差し指を付けて小首を傾げる。

「MAGIのバックアップがあれば、何とかなると思うのだけど」

リツコもユイに同調するかの様に意見を言う。

どうやら、ウィルスについては、リツコとユイの共同案らしい。

「トライデントの制御コンピュータがホストと繋がっていない場合、如何します?

 画像情報があるのですから、物は出来ている訳ですしね。

 制御プログラムのデバックをホストで行ってくれていれば良いでしょうけど、直接搭載しているコンピュータで行われていたら、MAGIでも如何しようもありませんよ?

 そう云う面倒なデバックをしているとは思いませんが…ホストそのものがスタンドアローンの場合も考えないといけませんしね。

 何らかの回線に繋がっていないと、MAGIとて手出しは出来ないでしょう?」

今度は冬月が渋い顔をする。

「うむ、確かにシノ君の言う通りかもしれんが…。

 一応、ウチのエージェントを使って、式典直前に仕掛けると言う手もあるが…」

「仮にも軍隊ですよ?戦自は。

 そう巧く秘密工作が出来るとも思いませんが。

 もし発覚した場合は、此方が拙い事になるでしょう」

シノの切り返しに、逆に質問を投げ掛ける冬月。

「しかし、先程シノ君が言った様に、今回は公的権力で相手を牽制する事も出来ないのだ。

 他に代案があるのかね?」

シノは肩を竦める。

「又、ウチ(碇財団)に汚れ役をやらせる算段ですか…(はぁぁぁぁぁぁぁ)」

シノは魂脱ける溜息を吐くと、ゲンドウ達を見据えた。

「あのトライデント計画でのパイロットがどんな存在だか知っていますか?」

「正確には判っていないが、自衛官なのだろう?」

シノの質問に冬月が答える。

「まぁ、自衛官には違いがないのですが…私達と同じ14歳前後なんですよ。

 しかも国の孤児収容施設から引っ張ってきたりしているんですよね」

シノがウンザリ顔で戦自にとっては重要機密を話す。

 セカンドインパクトの影響で孤児が急増した為、日本政府は国が運営する孤児収容施設を都道府県毎に最低二つは設立していたのだ。

戦自は、それに目をつけたと言う訳である。

「バレンタイン条約違反か…それを突くと(ニヤリ)」

ゲンドウは、シノの言葉を聞き、シノの意図を察したのか、ゲンドウ・ポーズでゲンドウスマイルを発動させる。

バレンタイン条約。これはセカンドインパクト後の世界各地の紛争がある程度沈静化してから、締結された条約である。

常備国連軍の創設等が盛り込まれる等、軍事色が強く、16歳以下の徴兵(及び志願兵)の禁止等も盛り込まれていた。

「蜥蜴の尻尾切りにならなければ良いのですがね。

 でも、トライデント計画は遅らせるか、潰せそうね(ニヤリ)」

ユイも得心したのか、邪笑を浮かべる。

「えぇ、蜥蜴の尻尾切り等はさせませんよ。

 それに、あのトライデントはコックピット周りに欠陥がありそうなんですよ。

 かなりのパイロット候補生がリタイアしていますからね。

 しかも襤褸屑の様に扱われて」

一旦、言葉を切り、シノは一同を見回した。

「国連軍極東方面軍、それに国連事務総長を動かします。

 他に各マスコミ、人道団体にも情報をリークしましょう。

 後はウチ(碇財団)が経済的な圧力を政権政党と戦自に掛けます(ニヤリ)」

シノが邪笑を浮かべながら今後の方策を述べる。

「うむ、それで済みそうだな(ニヤリ)」

「それで済みそうですわね(ニヤリ)」

「済むと思いますよ(ニヤリ)」

最後のゲンドウ、ユイ、シノの会話を聞いて、リツコと冬月は思ってしまった。

((やはり血は濃いのだな(ね)))

シノが聞けば、非常に気分を害した事だろう。

 

 

 その後…統幕議長の文字通りの切腹、戦自技研の責任者クラスの大量逮捕、防衛庁長官の自殺、次官級の逮捕等の事件が相次ぐ事になる。







To be continued...


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