※ 当話はフィクションです。実際の団体、名称、個人の名前とは一切関係はありません。
第七使徒戦も如何にか終わり、関係各所への報告書も粗方作成し終わったシノは、自宅のペントハウスに付随するプールのプールサイドにあるデッキチェアに寝転びながら星空を眺めていた。それなりに標高が高い第三新東京市は、夜になると凉風が吹くことが多い。特に、今は深夜と言って良い時間でもあり、プールの上を通り冷やされた風は心地よい。
シノは、身長162cm、上から87、56、85と略女性が憧れるスリーサイズの体をボトムの両サイドが紐結びの細いストリングビキニで包み、昼間の戦闘の興奮で火照った体をクールダウンさせる意味と書類作成の憂さを晴らす為に、先程まで泳いでいたのだ。
因みに、ストリングビキニの色はメタリックブラック。白い肌にメタリックブラックのコントラストは妙に艶かしく、超光沢の奥深い色はシノに合っていた。
シノは、星空を眺めながら星でも掴むかの様に、掌を天空に翳す。
そして、懐かしげに呟いた。
「ラキやソープ、元気にやっているかなぁ」
シノは、星海の果で会ったお惚けピンボケ【神様】夫婦を思い出し、口を綻ばせる。
尤も、ソープなる人物の正体と生身で双方全ての能力を使ってのガチンコ勝負を行って引き分けたシノとしては、強敵と書いて友と言う類の思い出が強かったりするのだが。
他にも、太天位の剣聖さんにナンパされた結果、本気モードでの果し合いとか。この時も両者痛み分けであったりするのだが。
それに、その星団での国家間の争いにも遠征艦隊毎巻き込まれてしまっているので、楽しい思い出よりも、戦闘や戦争と言った思い出の方が如何しても強くなってしまう。
翳していた掌を下げると、その手でシノは自らの頭を困った様に掻いてしまう。
「まぁ、今度の戦役(使徒との戦闘)で、ソープから預かっているMH(モーターヘッド)を持ち出す事はしたくないなぁ」
そして、軽い溜息も吐いてしまう。
「後々の争いの種に成り易いからって、K.O.Gクラスを他の星の人間に預けるかなぁ」
今度は、重い溜息を一つ。
「あんなモンどうしろって言うのよ?
下手にバスターランチャーなんて使ったら次元に歪みが出来ちゃうじゃない………」
何故か、最後は愚痴が出てしまうシノだった。
そんな愚痴を言っているシノへ、御付の二人である楓と紅葉がバスローブを持ってやってきた。
「マスター、もう夜も遅いです」
そう云い楓は、バスローブをシノに羽織らせる。
「主様ぁ、早くベッドに入りましょうよぉ」
何かの期待を膨らませたかの様に頬を染める紅葉。
そんな二人を見て、シノは苦笑を浮かべた。
「今日は二人が夜伽当番でしたね」
「「は〜い♪」」
二人の元気な返事に、シノは再度苦笑を浮かべると二人に手を引かれて、デッキチェアから立ち上がった。
「それじゃ、お風呂に入ってからね」
シノはそう云うと、再び星空を見上げた。
「主様ぁ、お背中流しますねぇ」
紅葉の甘えた声に、シノは紅葉の方を向いて頷く。
「マスター、私もぉ」
楓のやはり甘えた声に、シノは楓を見遣り、やはり頷く。
「今夜は、可愛がってあげるわよ♪」
シノのそんな甘い言葉に、楓と紅葉は喜色満面の顔で、シノを引っ張っていく。
三人の夜は、此れからの様であった。
第七話 前編
presented by 伸様
第七使徒戦はネルフとしては、初の第三新東京市以外での戦闘であり、第三新東京市以外でエヴァを展開する際の問題点が多く出てきた一戦であった。
第七使徒戦に伴い発生した、エヴァ弐号機の路面移動を行った際の路面破壊。
又、重機の遅れが原因の陣地構築の遅れを代替する為に、学校等の公共施設を防御陣地代わりに使った為に発生した公共施設の破壊。これ等の苦情処理は、事務部門に多大な事後処理を押し付ける結果となってしまっていた。
此れがネルフの城下町である第三新東京市で起こった被害なら苦情を抑え込む事も出来たかもしれない。
しかし、第七使徒戦は第三新東京市以外で行われてしまった為、ネルフの強権(特務権限)も使い難くかったのである。
無理に強権(特務権限)を使って日本政府を刺激しては、長期的に見て良い結果を齎す事は出来ないからだ。
この辺は、ネルフ総司令である六文儀ゲンドウも弁えていたと言えるだろう。
その為、苦情への対応はソフトタッチとなり、事後処理の三日間、事務部門は壊した道路や施設の補償の為の臨時予算編成や苦情対応に追われ、ネルフ本部に缶詰状態にされていたのだ。
苦情対応の人員を急遽増員する為に、保安部等の平時では手が割りと空いている部署の人間を急遽出向と言う形で増員もして対処したのだが、それでも三日と言う日数が掛かってしまった。
余りの苦情電話の多さに、出向していた保安部員の中には、ノイローゼとなり病院に通院したり、入院する者まで出た程である。
シノも第七使徒戦当日は如何にか帰れたモノの、翌日以降は午前中だけ学校に出て、昼以降はネルフ本部での事後処理作業に追われていたのであった。
学校等、行かなくてもシノは困らないのだが、“出席日数”“出席日数”と教育委員会や学校関係者が煩いので仕方なく午前中だけ学校に出ている事にしていたのだ。
出席日数については、第六使徒戦での関係各所への説明や報告、及びA.T.フィールド中和兵器の説明会が尾を引いていたと言えた。
シノが行っていた事後処理は多岐に亘る。
ネルフ本部に提出する戦闘詳報に、国連へ提出する戦闘詳報に査察資料。
顧問団との問題点の洗い出しの打ち合わせ。
道路や施設の破壊に対する苦情対処説明の為のシナリオ作りの協力。
及び、碇財団や関連企業への工事の緊急発注の段取り。
そして、命令違反を犯したアスカ、及び毎度の作戦妨害を行ったミサトへの処遇について、ネルフ本部首脳陣との打ち合わせ等など。
しかし、道路や施設の復旧工事をちゃっかり自分の関連する企業に回すと言うのは、抜け目が無いと言うか、職権乱用と言うか。
尤も、余り儲けに関係なく(つまり費用を安く)早く着工させる為には、自分の息が掛かった企業も使うのが手っ取り早いという理由も有るには有るのだが………。
費用を安くする云々は、ネルフの事務部門に泣き付かれた為である。使われる資金の内訳は多岐に渡り、予算は有限なのだ。
アスカの命令違反については、取り敢えずは営倉三日となり、第七使徒戦終了直後に収監された。
騒がれても面倒なので、気絶しているアスカを起こさない様にプラグから救出した際に、睡眠薬を投与しての収監だった。
お陰で、営倉では大騒ぎだったらしい。
その為、ネルフ本部職員の前で被っていた猫の仮面が外れてしまい、アスカは職員達の間で評判を落としてしまう事になってしまった。
まぁ、営倉内で扉を蹴りながら、
「サード(碇シノ)は、人の手柄を横取りした」とか、
「アイツ(碇シノ)は、アタシを助けない冷血な鉄面皮野郎だ」(因みに、シノは戸籍上女性である)とか、
「アタシの事を掩護もしないで見捨てた」とか、
「降下に失敗したのはパイロットの所為」だとか、
「ヘボパイロットを雇っている本部は、やはり黄色い猿が支配する場所だ(これはドイツ第三支部作戦部の受け売り)」とか、
「ドイツ語も喋れない野蛮な人間が居る」だとか、
「殺してやる。殺してやる! 殺してやる!! 殺してやる!!! 殺してやる!!!! 殺してやる!!!!!…∞」とかの罵声を上げていれば、戦闘の経過について知らされているネルフ本部職員達の顰蹙を買おうと言うものである。
まぁ、悪い話は良い話より早く広く伝わるモノと言う事例かもしれない。此れ、悪事千里を走る、と言う。
あくまでも営倉三日は仮の処分であり、アスカへの正式な処罰のお達しは、戦訓検討会議の席上となった。
ミサトについては、ゲンドウが老人達を如何遣り込めるかに掛かっていた。
取り敢えずは、アスカと同じ期間の収監となり、重営倉三日と相成ったのである。勿論、書類仕事は重営倉内で行われる。
因みに、営倉と重営倉の主な違いは待遇の違いにあった。
旧軍の場合、営倉は普通の兵食と寝具が与えられる。拘留期間は1日から14日まであった。
重営倉は、1日6合の麦飯と水だけで、おかずは固形塩しか与えられない。寝具も無く、健康を考慮して拘留期間は3日を限度とされていた。
流石に、ネルフの重営倉では“おかずは固形塩”等と言う事はないが、一汁一菜であり、寝具も与えられていなかった。
又、ミサトに連座して日向マコトも営倉三日となり、作戦部は事務処理で………右往左往する事はなかった(笑)。
此れは、主に日向マコトがミサトの書類を片付けていた為であり、他の日向マコトが本来行う事務仕事を含んだ作業は、他の作戦部員でも代行する事が出来たからである。
作業の効率非効率はあったにしても、当人だけが出来る仕事というのは割かし少なく、大体のモノは他人が代行する事が出来るという良い事例だろう。
第七使徒戦後の戦訓検討会議。
使徒戦から四日後のネルフの第一大会議室。ネルフ各部門の代表、及び国連軍顧問団を交えての戦訓検討会議が始まろうとしていた。
しかし、何故か参加しているネルフの各部門には事務関連の部門も含まれている。
三日も事後処理で缶詰にされれば、戦訓検討会議に積極的に出て、苦情の一つも言いたくなるかもしれない。この戦訓検討会議の席上でアスカとミサトへの処罰のお達しがあるというのは、ネルフ本部内では割と知られていた事だからだ。
この戦訓検討会議は、アスカとミサトへの査問会と、正式な処分の通達と言う側面もあった。
嫌な言い方だが、処分を皆の前で通達する事で、事後処理で苦労した職員達の溜飲を下げさせると言う目的もあった。
まぁ、勝敗は時の運とも言うが、苦労させられた者としては、中々に感情が納得するモノではないからだ。
ガス抜きも必要と言う事である。
他にも、チルドレンとて致命的な問題に繋がるミスを犯せば処罰されるという事を示す、一罰百戒的な側面もあった。
その為、彼女等が営倉から出獄するのを待って行われる事になった為に、使徒戦四日後となってしまった。
尚、今回の戦訓検討会議で参加者全員が見える位置にアスカとミサトの席は設けられていた。如何見ても、被告席と言える会場設営であった。
会場設営を担当した総務部の人間のミサトやアスカに対する意識が現れていると言って良かったかもしれない。
こうして、戦訓検討会議は開かれた。
伊吹マヤのアナウンスで第七使徒戦が映像でリプレイされる。
『1432時、第七使徒が沼津千本浜へ上陸』
会議室のレーザー干渉型空間投影スクリーンに使徒が海面からザバーッと浮かび上がってくるシーンが映される。
それを見た事務関連の部門の参加者が「おーっ」と言う悲鳴とも感嘆とも取れる言葉を小声で発する。
大画面だけに迫力満点の為だろう。
そんな参加者を見て、アスカが「ふんっ」と鼻を鳴らす。そして、声を上げた事務部門の人間を半眼で冷たく見ながら、小声で見下した様な声音で文句を言った。
「こんなんで悲鳴を上げてるんじゃないわよ」
誰かが見ているかもしれない場所で、アスカは猫を被る事も忘れてしまっていた。
今迄入った事もなかった営倉に収監されたと言う屈辱の為に、アスカの精神は余裕を失っていた。
そして、アスカは自分をこんな現状に貶めた(アスカ主観)犯人を怨まざるを得なかった。自分以外を犯人にする事によって、アスカは自分の精神の平衡を保とうとしたのだ。
そんなアスカの今の精神状態を示すかの様に、離れた席に居るシノとレイの二人をアスカは血走った目で睨み付けていた。
そして、アスカが駆るエヴァ弐号機が待機陣地から飛び出してくるシーンが映し出される。
『同1433時、当初の作戦を無視してエヴァ弐号機が使徒へ突出』
このシーンを見て、ミサトがアスカに興奮しながら文句を言い出した。
ミサトは、アスカを今後とも手駒にすべく、先ずは自分との上下関係を示しておこうと考え言い出したのだ。
「なんで、作戦無視して突撃してんのよっ! あたしが何時、突撃しろなんて命令したのっ!!」
「ミサト………あんた、使徒上陸前に何時、作戦の提示や指示なんか出したのよ」
アスカが不機嫌も露に、半眼でミサトを睨み低い声で反論する。
因みに、ミサトは使徒上陸前まで“えびちゅ”を飲んでいただけであった。
「あたしは作戦部長よっ! アスカには、あたしの命令に従う義務があるのよ!
そんな事も判らないの? 馬鹿じゃないのあんた!!」
ミサトもアスカの反論に脊髄反射で反論。
「あんた、何の指示も出していないのに、如何従えって言うの?
あんたの方が余程、バ・カじゃないのっ!」
アスカも売り言葉に買い言葉である。
この二人の言い合いと言うか、醜い罵り合いに、会議参加者達は二人を白い目で見てしまう。
−お前等、場所柄弁えろよ−もしくは、
−お前等、自分等の立場、判ってるのかよ−
な視線が二人を突き刺すが、アスカとミサトはA.T.フィールドでも張っているのか、全然気が付かない。
シノは、この二人を目を横線状にして横目で見ながら、小声で毒づいてしまう。「お馬鹿同士、気の合う事で…」
そんなシノの小声が聞こえた隣の席のレイは、シノに小声で質問してしまう。
「お姉さま、如何見ても仲が良いとは思えない展開なんですが………(汗)」
「“喧嘩する程、仲が良い”とも言うじゃないですか。二人とも精神年齢が極めて近いのかしれませんね」
シノはレイの質問に、しれっと小声で答えた。
しかし、そこはレイである。
「えっ! あの二人の背後には百合の華が咲き乱れているんですかっ!?」
ある種、お約束なボケに思い切り脱力してしまうシノ。俯き、額を右手人差し指で抑え、首を左右に振ってしまう。
「いえいえいえ、その世界は………違うと思いますよ」
シノの頬を一筋の汗が流れてしまう。因みに会議室内は完璧な温度管理が為されていた。
「幾らアスカでも、あの牛と百合の華散る世界に入る程、人間を止めていないでしょうからねぇ」
腕を胸の前で組み、自分の言葉に二三度肯定いてしまうシノ。
この二人の小声での話は、如何いう訳か周りの参加者に聞こえていた様だった。
しかも悪い事に、“牛と百合の華散る世界”以外のレイのボケに対するシノの回答はアスカとミサトの罵り合いの為に周りには聞こえていなかった様であり、且つシノが肯定くシーンは周りに目撃されてしまったのだ。
その結果、この戦訓検討会議の後で、一つの風評がネルフ本部、ついでネルフ各国支部に流れる事になる。
−葛城ミサトと惣流アスカ・ラングレーは、ず〜れ〜の関係だと(滝汗)−
しかも、此れにはオマケがあった。
−最初は葛城ミサトが惣流アスカ・ラングレーをレ○プして関係を持った−
と言うモノであった(汗)。
如何も“華散る”と言う言葉が悪かったらしい。
ある国連の高官が漏らした確度の高い情報として風評が流れた為に、当時ドイツに居たアスカの母親である惣流キョウコ・ツッペリンを非常に心配させてしまう事になった。
その為、娘を心配したキョウコのアスカに対する半日毎の電話攻勢が開始される事になる。
そんな外野を他所に、アスカとミサトの言い争いはクライマックスを向かえ様としていた。「ミサト………アンタ、何時命令を出したのよ? MAGIのログに残っているとでも言うの?」
アスカの低い声がミサトの耳朶を打つ。繰り返すが、ミサトは命令等は出していないので、MAGIにログが残っている訳はない。
「このっ!」
ミサトがアスカに言い負かされそうになり、物理的な手段でアスカに言い聞かせ様としたのだ。つまり、ミサトは暴力的手段に訴え様としたのである。
ミサトが主張する“自分の命令を聞かない云々”は完全無欠な言い掛かりなので、ミサトには最初から理が無い。言い負かされそうになっても、それは仕方が無い事だろう。
このミサトの行動を見逃すユイでもない。ユイは手元の呼出ボタンを押して、対ミサト班を呼び出した。ボタンを押す時に、手元のストップウォッチのスタートボタンを押す事も忘れない。
ユイ自身、このアスカとミサトの罵り合いには飽きがきていたのである。
今のユイの内心を表現すとこうなるだろう。
−つまんない。つまんない。つまんない。つまんないよぉ〜。みーちゃんが暴れる所なんか見飽きたよぉ−
ただ、それだけの理由なのか? 六文儀ユイ(汗)。此れでも、ネルフ副司令。
もう少し、議事進行が遅れるとか何とかと言う真っ当な理由はないのか? と突っ込みたい所であるが、お嬢様育ちは違うと言う事なのかもしれない。
バァッンと言う音と共に会議室の扉が勢いよく開けられる。その時間、呼出ボタンを押してから20秒。
前回の第五使徒戦戦訓検討会議において、ユイから“遅い”と言う叱責を受けてからの訓練が実った瞬間だった。
しかし………無駄な労力と思えるのは筆者だけだろうか………対ミサト班員達に合掌である。
「葛城ミサト、会議妨害の咎で捕獲する! かかれぇっ!!」
ミサトを指揮棒で指し示し、見得を切る対ミサト班班長。彼の見せ場と言えるだろう。
しかも、舞台はネルフ本部各部門の代表が集まっているのである。保安部としては、良いデモンストレーションの場所であった。
保安部長は、この瞬間、こう思ってしまった。
(班長をコナン時代のシュワちゃん似の部員にしていて良かった)
そんな風に保安部長が思っている間にも事態は進行していく。
電磁警棒とスタンガンでミサトを手早く制圧し、五重の手錠、足枷をミサトにかけていく。
「失礼しました」
班長が敬礼をし扉を閉めるまで35秒。
対ミサト班はミサトを載せた台車を押して、風の様に現れ、風の様に去って行くのであった。
「な、何だったの?」
唖然とするアスカの声。35秒で人一人が運び出されてしまえば、唖然ともするだろう。
「後5秒は短縮させないと………保安部長っ」
ストップウォッチを見ながら、不満気な声で保安部長を呼ぶユイの声だけが、ミサトが居た事を物語っていた。
ちょっとした余興等無かった様に、マヤのナレーションで戦訓検討会議は再開された。
『1435時、弐号機の切断により第七使徒が2体に分裂。以降、金角および銀角と呼称します』
スクリーンには、弐号機の背後で蠢いたかと思うと分裂する使徒の姿が映し出される。
『1436時、金角と銀角の連携攻撃により弐号機が沈黙。その際、使徒の驚異的な回復力を確認』
滅多矢鱈と使徒を切り刻むか、体組織だけでなくコアを切り刻んでも、使徒の体は瞬時に復元されていく。
そして、使徒に投げ飛ばされて、こんがり焼かれ公園敷地に埋まる弐号機の様子が映し出された。
『同時、サードチルドレンからの指示で兵装ビルから支援開始』
ミサイルの着弾の爆煙に取り囲まれる使徒。。
その映像を見ながらアスカはシノを睨み付け嚼み付いた。
「何で、アタシが居る時に支援しないのよっ!」
「一緒にミサイルの餌食になりたいと?
あの時、弐号機と使徒はお互いのA.T.フィールドを打ち消しあっていましたから、直接にミサイルの打撃を受けますよ?
それに、あのミサイルは誘導弾じゃありませんからね」
「うっ」
シノが玲瓏たる声で返すと、アスカは言葉に詰まってしまった。
つまり、弐号機と使徒が密接した状態で支援攻撃を行えば、流れ弾多数が弐号機を襲う、とシノは指摘したのだ。
こう指摘されては、アスカも黙らざるを得ないだろう。
『兵装ビルからの支援の元、初号機と零号機は待機陣地へ帰還』
待機陣地へ相互掩護をしながら引き返す初号機と零号機。
そのシーンを見てアスカが馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「ふんっ、もっとスピーディに帰れないの? あんな格好して見っとも無い」
「使徒に背中を見せる訳にはいかないでしょう? それに、相互掩護しながらの撤退は基本ですよ?」
シノは玲瓏たる声で切り返す。
「うぐぅ」
アスカも一応は軍事教練を受けてはいるので、又言葉に詰まった様だ。
『1438時、待機陣地から初号機と零号機が遅退戦闘を開始』
初号機と零号機のビームは面白い様に使徒に直撃する。が、しかし、弐号機の攻撃と同じ様に、どれだけの損傷を与えても、使徒の身体は瞬時に復元していく。体組織だけでなく、コアも同様だった。
『1450時、サードチルドレンより作戦が指示される』
移動指揮車内で国連軍へ指示を出す顧問団の姿が映し出された。
「中々の男前だね」等と、ヒックス大佐が一人に悦に入っている。その隣で、フィチ中佐が“これさえ無ければ”とばかりに掌で目を覆い、天を仰ぐ。
『1500時、沼津市郊外の野戦陣地より国連軍が使徒へ砲撃開始』
15榴や20榴、MLRSのロケット弾の着弾が使徒を囲む。
『1510時、初号機、及び零号機が発砲同調装置を用いて、金角、及び銀角を狙撃』
初号機と零号機のビームライフルが同時に発砲する。
『略同時に金角と銀角のコアを直撃』
双方の使徒のコアへビームが直撃するシーンが映し出され、閃光がスクリーンを漂白する。
『1511時、使徒の殲滅を確認しました』
使徒の最後が映し出された時、アスカは俯き肩を怒りに震わせていた。
(コノ、クツジョク ハラサデ オクベキカ)
シノとレイを睨み付けるアスカの目は、何処までも血走っている様だった。
何と言うか………完全な逆恨みである。
映像が終わると、マヤの振りで、シノは問題点の説明をし出した。
「先ず、沼津方面への沿岸部へ出る為の地下ルートの早期開設ですね」
スクリーンには、ネルフ本部から沼津へ伸びる赤い点線が記入された地図が映し出されていた。
赤い点線、着工予定のリニアトレインの路線である。
「経理ですが、リニアトレン用の予算は使い尽くしていまして………プールしていた予備費も、もう無いのです。
兵装ビルの補修、増設へ予備費を回してまして、それに今回の道路補修や公共施設補修の費用にも回してしまったのが原因です。
それでですね、経理としては、追加予算の申請をお願いします」
経理の代表者が手元の資料を見ながら、現在のネルフ本部の金庫の中身を説明する。
「六文儀総司令?」
シノが司令達の方を向きながら、如何するの? と質問する。
「追加予算については、委員会へ申請する。
経理は、追加予算の詳細を纏めておくように」
ゲンドウは、そう言いながら内心ではサメザメと泣いていた。
(又、委員会の連中に嫌味を言われるのか。如何、委員会に言い繕えっちゅーんや)
ネルフ総司令と言っても、巨大な組織から見れば、中間管理職な様なモノである。
その後も、この件について意見の応酬があった後に別件へと移った。
またマヤに振られてシノは説明を再開した。
「地上からネルフの支援車両が移動する場合ですが………」
シノは何の操作もしないが、スクリーンには避難民の車両の渋滞に巻き込まれて移動できない支援車両の車列が映し出された。
「今回の使徒戦では、避難民の集団と支援車両の移動ルートがぶつかってしまうトラブルがありました」
そう言うとシノは保安部長の方を見る。
「何処の軍隊でも移動ルート上に避難民が居る場合は、対処に困るモノですが………如何にか規制等は出来ないモノですか?」
「第三新東京市内であれば可能なのですが………」
此れは警察出身の保安部長も困った顔で答えるしかないが、回答にならないので歯切れが悪い。
「予め避難ルートは指定しておくしかない、でしょうねぇ」
シノも困った顔で保安部長に提案する。
「ふんっ、それじゃあ完全な解決策とは言えないじゃないっ」
そんなシノの顔色を見て、アスカが嘲る様な口調で噛み付いた。
シノはヤレヤレという顔をしてアスカの方を向くと、噛み砕く様に説明し始めた。
「この問題には完全な答えなんでありませんよ?
ただ、避難民が使うルートと支援車両等が使うルートが分かれているだけでも、進路上の避難民の数は少なくなります。
1000人の避難民の集団と100人の避難民の集団ならば、100人の避難民の集団の方が規制もし易いですしね。
それに最悪の場合、強硬策に出るにしても、100人なら遣り易いですから」
シノはアスカを常の視線で見ながら玲瓏たる声で諭すのみであった。
強硬策と言うあたりは、シノも思考は軍人的と言えるのかもしれない。
しかし、100人ならって、アンタ。結構、怖いことをサラッと言ってくれるモノである。
保安部長はシノの説明に首肯しつつ、隣の部下と二言三言会話する。
「碇査察官。ルートを設定する範囲は、何処ら辺までなんだろうね?」
シノの方を見ながら、保安部長は質問する。
「作戦部と打ち合わせをして貰わないと困りますが………。
第三新東京市周辺と支部がある松代迄のルートは事前に設定しておいた方が宜しいのではないですか?」
と、やんわりと自分はネルフ外の人間である事を示しながらも、ある程度の指針をシノは提示した。
「そうですな。作戦部と打ち合わせをして、早急に関係官庁と協議し決める事にしましょう。
その線で、宜しいでしょうか? 六文儀総司令」
ゲンドウの方を向いて、保安部長が裁可を求める。
「保安部長の方針で進めてくれ。但し、使徒は何時来襲するか判らないので、早くして欲しい」
何時もの“問題無い”と言わないだけ、ゲンドウは大きな進歩をしたのかもしれない。尤も、ユイのハリセンが怖いだけかもしれないが。
次に問題にしたのは、エヴァによるエアボーン(空挺降下作戦)である。
今回の第七使徒戦では、エヴァは初の空挺降下を行った。
元々、ウィングキャリアはエヴァを空中で切り離し、空挺降下させる機能は持っていた。
しかし、ウィングキャリアからエヴァを実際に降下させる訓練は予算や演習場所の都合から、一度も行った事はなかったのである。
此れは、現行稼動できるエヴァ三機共である。
無論、ウィングキャリアのテストフライトの際には、エヴァのダミーを使っての空中での切り離し試験等は行っている。だが、エヴァの実機を使っては一度も行った事はなかったのだ。
この辺は、第三使徒襲来までは、稼動するエヴァがドイツの弐号機1機だけと言う点が大きかった様だ。
「今回は沼津へ出るルートが無かった為に、近距離でありながらウィングキャリアを使ってのエアボーンによるエヴァの前線展開を行いました」
シノは、そこでスクリーンの方を向く。
此処でスクリーン上に沼津周辺の地図が映し出される。その地図上には、第七使徒戦に参加した3機のエヴァの降下地点がポイントされていた。
地図上のLZと書かれたポイント上にはEVA01、EVA00と書かれたポイントが重なっており、そこから10km程離れた場所にEVA02と書かれたポイントが表示されていた。
そのスクリーンの映像を見て、アスカの顔が醜く歪み、「くっ」とばかりに唇を噛み締める。
(コノ、ウラミ ハラサデ オクベキカ)
アスカは、心の内で呪詛の言葉を吐く。シノとレイを見る目は、更に血走っていた。
逆恨みも此処までくれば、立派かもしれない。
そのEVA02のポイントを見て、経理と総務の人間がウンザリした様に呟いた。しかし、呟くには少々声が大きかった様ではあるが。
「アレのお陰で、何本の苦情電話を取ったことか………」
「弐号機の路面移動のお陰で、道路補修の費用がぁ〜………嗚呼、お札に羽が生えて飛んでいくぅ」
「「誰かのミスのお陰でぇ〜」」
その言葉に、アスカは過剰に反応してしまった。此れも精神的な余裕が無い所為だろう。
「アタシが悪いって言うのっ!」
「「原因は、誰だと思っているんだ」」
経理と総務も缶詰状態が長かった所為でハイテンションになっているのか、些か大人気ない。
此れでは、先に進む事が出来ないと、シノは割って入った。
「経理と総務の方々。お気持ちは判りますが、アスカを弄るのは其処までにして貰えませんか?
アスカについては、この会議で皆様も満足すると思われる処分を言い渡しますので」
シノは、そこで言葉を一旦切ると、ミネラルウォーターをペットボトルから一口飲む。
「弐号機が降下地点を大きくズレたのは、訓練不足が原因です」
シノのその言葉に、アスカの顔が大きく歪む。内心で、更なる呪詛でも績いでいるのか、シノを睨み付けるアスカの目はこれ以上ない位に暗い色だった。
そんなアスカ等、無視する様にシノの説明は続く。
「本部チルドレンは、私の着任後、シミュレーターでウィングキャリアーを使った降下訓練を行っていました。
しかし、第三支部ではウィングキャリアーはエヴァを飛行場と飛行場の間だけ運ぶモノと定義していた様で、シミュレーターを使っての降下訓練も一切行っていなかった様です。
今後の事を考えて、チルドレンの教育マニュアルに降下訓練についても一項を設け、シミュレーターでの訓練を義務付けるべきではありませんか?」
シノは最後はゲンドウの方を向いて、チルドレンの教育について提案する。
「本部はそれでも良いのだがね。しかし、支部のチルドレンは支部で作成されたプログラムに則り訓練する事になっているのだ」
冬月がゲンドウに代わって、シノに答える。
その回答にシノの後に座っていたヒックス大佐が挙手して疑問を呈した。
「確かに地域によっては特有な地形もあり、それに沿った訓練も必要でしょう。
しかし、基本的な事に関しては、本部も支部も同じプログラムでの訓練が必要なのではないでしょうか?
本部支部毎に基本的な部分も異なる訓練プログラムでは、基本的な部分で均質化されたチルドレンが育たないでしょう」
エヴァのF装備(ウィングキャリア搭載装備)は、研究機(零号機)も試験機(初号機)も量産試作機(弐号機)も使える機能であり、エヴァの基本的機能の一つと言えるだろう。
この様な基本機能を扱う訓練を本部では行っていて、支部では行っていないでは、本部支部合同での作戦行動を取り辛くするだけでなのだ。
但し、ドイツ第三支部にも言い分はあるだろう。
第三使徒襲来前まで、エヴァを起動できたチルドレンは、セカンドチルドレン唯一人なのだ。
ならば、長い間、チルドレンを調教訓練してきたドイツ第三支部の教育プログラムに本部も合わせるべきだろう、と。しかし、今回のアスカの失敗でドイツ第三支部の言い分も通用しないだろうが。
「と言う訳で、六文儀総司令。委員会への提案は宜しくお願いしますね?」
そんなシノの言葉に、ゲンドウは「問題ない」と頷くだけであった。
しかし、内心では
(またゼーレの連中に嫌味を言われないとならないのか?)
とサメザメと涙を流していた。
次の問題は、試作品のビームライフルについてであった。
「今回の使徒殲滅に多大な貢献をしたビームライフルですが、現在は試作品を運用している状況です。
しかし、試作品である為に色々と不都合もあります。この辺はレポートが技術部から出ていますので、お判りと思います」
シノはそう云うと、ゲンドウの方をチラッと見る。
ゲンドウもその辺の書類は、ちゃんと見ているので“判っている”と頷いて見せた。
そう云う書類を机の上に溜めておくと、ユイが容赦なくハリセン片手に、ゲンドウの事を叱り飛ばすので、ゲンドウはその手の書類を見ていない事はないのだ。
シノは、ゲンドウが頷くのを確認すると、言葉を続けた。
「制式な物の配備は、何時ごろになる予定ですか?」
シノの質問は、意地が悪いと言えた。何せ、ビームライフル開発には、シノも一枚噛んでいるのだ。
スケジュール等、知らない訳がないのである。そして、制式機が製作出来ない理由も知らない訳がないのである。
此れには、技術部を統括するユイやリツコも“判っているくせにぃ”と言う顔をして、シノとゲンドウの顔を交互に見ている。
シノは、そんなゲンドウ達の顔を見ると、ニヤリとして言葉を続けた。
「制式機製作の為の予算が無い事は、承知しています。何時、予算の申請を為されるのでしょうか?」
この質問は、何時までも兵器開発関係の追加予算の申請をしないゲンドウに対しての、シノの嫌味であった。
ゲンドウは、この問題を先延ばしにしていたのだ。まぁ、別目的とは言え、追加予算の申請を委員会に立て続けに行うのも拙いだろうという事で、ゲンドウは申請する事をサボッっていたのである。
ゲンドウにとっても委員会に嫌味を言われ続ける事は、結構な心身の負担なのだ。
会議の他の参加者もゲンドウの方をチラチラと見だした。それが判るゲンドウは、額に脂汗が浮かぶのを止める事が出来ない。
そんなゲンドウの顔を見て、シノは再びニヤリ笑いを浮かべると言葉を続ける。
「他にも、ビームライフル用のエネルギーパックも試作品だけであり、且つ数も少ないのです。
使い捨てにする積りは勿論ありませんが、エネルギーパックは消耗品である事も理解して下さい。
今回の使徒戦で、追加予算を申請するのですから、一緒に申請なされたら如何ですか?」
シノは、ーどうせ追加予算の申請をするのだから、この際ビームライフル関連も一緒に申請しろー、と言っているのだ。
シノのこの助言でゲンドウの進退は極まってしまった。此処で、シノの意見を退ける事は容易である。
しかし、モノはネルフの主戦力たるエヴァの兵器についてである。しかも、今回の使徒戦で有用さを示した兵器であった。
下手に申請しないとでも言えば、ネルフ本部にこの話が知れ渡り、ネルフ本部職員のモチベーションを下げる事にもなりかねない。
「一緒に申請する。経理の諸君は、追加予算申請の詳細に兵器関係も付け加える様にしてくれたまえ」
ゲンドウは、そう云うしかなかった。
(委員会にどの様な嫌味を言われるんだぁ。誰か代わってくれぇ)
内心では、更に泣くゲンドウであった。
更に、幾つかの戦訓が俎上に上がり、色々な議論が行われていった。
そして最後に、アスカの行動が俎上に上がる事となった。本来なら、ミサトの行動についても同じように俎上に上がるハズであったが、先程退場してしまったので、今回はアスカだけである。
「惣流アスカ・ラングレーさん」
シノは、嫌々な気分が滲み出る様な声音でアスカに呼びかける。
「なによ」
投げ遣りな感じで頬杖をついていたアスカから、低い声が返ってきた。当に、アタシ不満です、が滲み出ていた。
アスカの不貞腐れた様な返答に、シノは内心で溜息を吐いてしまった。
戦訓検討会議開始前のネルフ本部首脳陣によるスタンダップミーティングで、先の使徒戦でアスカが取った行動を俎上に上げるか否かで議論になった事を思い出したからだ。
シノは、“何の罪状で処罰を受けるのか申し渡すだけで良いだろう”と戦訓検討会議でアスカの行動を持ち出す事は消極的であった。
アスカの今までのシノ達に対する行動を見ている限り、会議で“命令違反について問題”にしても、反省等はせずに、只此方(シノ達)を逆恨みするだけだろうとしか思えなかったからだ。
それに、此方が問題点を指摘している間、アスカは絶対に此方に噛み付いてくるだろう。
シノとしては、狂犬みたいなモノを相手にしたくもない、と言うのが本音だった。
「罵声が返ってくるだけの、疲れる事は嫌ですよ」
とはシノのスタンダップミーティングでの発言である。
だが、ユイが親友の娘と言う事もあり、反省の糸口にでもなればと、戦訓検討会議の議題として上げる事に固執したのだ。
これには冬月も賛成した。
「只、罰則を言われるより、何が悪かったかを、ちゃんと説明した方が親切と言うものだろう」
とは冬月の弁である。
しかし、懇切丁寧に説明されるだけで、アスカに対する処罰が軽くなる訳ではないのだが。
教育者としては正しい意見なのだが、ネルフは準軍事組織である。そんな悠長な事をして何になる、とはシノの内心の意見だった。
今のシノの気持ちとしては、アスカに代わって弐号機を動かせる者が居るなら、アスカをチルドレンから退役させても良い、とまで考えていたのだ。
結局は、冬月とユイに押し切られる形で、アスカの命令違反について会議の議題とする事になったのだった。
シノは、スクリーンにアスカが待機陣地から飛び出すシーンを映し出した。
何の操作を無く映し出される映像。そしてシノのアンバーな瞳の奥に残るナノマシンの残光。
もう慣れてしまったネルフ本部スタッフは何も言わないし、驚かない。
本来、驚くだろうアスカは精神的な余裕が無いので気が付かない。
「当初の作戦では、“兵装ビルからの攻撃を威力偵察として、使徒を観察し、然る後にエヴァによる攻撃に移る”となっていましたが、貴女は何故、兵装ビルからの攻撃を待たずに使徒へ突撃を敢行したのです?」
只、アスカを見つめながらシノはアスカに常の声で質問する。詰問するでなく、只質問を行う。
「あんたぁ、馬鹿ぁっ!!
作戦なんてぇのはねっ、現場の判断が優先されるのよっ!
トロトロと使徒へ効きもしない攻撃加えているより、エヴァでズバッとやった方が簡単に決まっているからでしょう〜がっ」
予想通りのアスカの罵声に、シノは恨みがましい視線をゲンドウ達ネルフ本部首脳陣が居る方へ向けてしまう。
その視線にユイや冬月は、つい顔を背けてしまう。
「確かに、ドイツ軍の伝統として、現場の判断での臨機応変と言うか………独断専行と言うのはありますけどねぇ………」
シノは、周りに気付かれない様に内心で溜息を吐いてしまう。
シノが言う様に、ドイツ軍−特に陸軍−は、伝統的に臨機応変と言う名の独断専行を許してきた風潮がある。何と言うか、伝統的に“作戦って、何?”な軍隊なのである(笑)。
例えば、“○○市を占領する”と言う作戦目標があり、それを達成する為に作戦を立案する。
当然、作戦では○○市を占領する過程が立案される。
しかし、実際に作戦が実行されると、前線の部隊が作戦とは違う行動を上位司令部に知らせずに行い、○○市を占領する等と言う事が往々にして行われていたのだ。
例外的なのは、第一次世界大戦位だろう。これは、当時の戦場での主役が砲兵(大砲)であると考えられていたからだ。
大規模な砲撃と言うモノは、極めて計画的且つ数学的なモノであり、砲撃で敵を叩き、然る後に歩兵が進軍するというシステムを採用している限り、作戦通りの部隊運用を行わざるを得なかったからである。
尤も、この“砲兵が墾し、歩兵が進む”と言うシステムは、第一次世界大戦で問題点(事前に盛大な砲撃を主攻撃地点に行う事で、何処を敵が攻めるか、守備側に教えてしまい、守備側は主攻撃地点の後方に第二第三の防御陣地を築き、敵の攻勢を止めてしまう)を曝け出し失敗してしまう。
第二次世界大戦のフランス侵攻やソ連侵攻の初期段階の電撃戦の成功は、前線指揮官の臨機応変な独断専行が成功をもたらした要因の一つと言っても良いだろう。
敵の抵抗線を素早く迂回し、背面や側面から攻撃したり、更に後方の敵を攻撃する等の柔軟な部隊運用は、前線の臨機応変な独断専行があったればこそである。
後方のスタッフ部署(作戦指揮部署)に迂回のお伺いを立てて行っていたのでは、迅速且つ柔軟な部隊運用等は巧くはいかなかったであろう。
普通、こう云う作戦無視と言うモノは、軍律違反であり、軍法会議モノである。
しかし、ドイツ軍では、そう云う事は無かった。作戦の失敗の責任追及はあっても、独断専行の咎での軍法会議等は無かったと言って良かった。
ロンメルやグデーリアン等、臨機応変な独断専行をしても、軍法会議等にかけられた事は無いのである。
此処で、気を付けなければならないのは、現場の独断専行と言っても、前線部隊間の連携は取られていた事である。
只々、上位組織が現場の行動を知らなかっただけなのだ。
それは、そうであろう。一部隊だけ、当初の計画と違う動きをすれば、その部隊だけ孤立し、包囲殲滅される公算が高くなるからだ。
その辺を踏まえて、シノはアスカの行動を思い出して頭が痛くなり、つい内心で愚痴を吐いてしまう。
(支援部隊(兵装ビル)との連携を無視しての突撃………。
まるで、ドイツ軍の表面だけ猿真似した、帝国陸軍の三暴将校じゃないの)
因みに、三暴将校とは誤字ではない。無謀、凶暴、乱暴で三暴なのである。戦前戦中は、旧東京の三宅坂界隈に多く生息していたらしい。
シノは気を取り直して、アスカに言い聞かせる様に、説明しだした。
「今回の場合、先に兵装ビルからの攻撃があれば、使徒の驚異的な復元力はエヴァが攻撃する前に判明していた事でしょう」
そうシノは言うと、スクリーンの映像を切り替える。
今度は兵装ビルからの支援攻撃の映像だ。兵装ビルの攻撃は、使徒の体に傷を付け、体組織を吹き飛ばすが、使徒の驚異的な復元力で見る見る内に復元されていく様子が映し出された。
「そうなれば、エヴァが破損する事も無く、使徒を殲滅する事も出来た可能性が極めて高かったと言えるでしょう」
又、映像が切り替わり、初号機と零号機の使徒への射撃シーンが映し出される。
「なによっ! 結果論じゃないっ!」
アスカは髪を振り乱し、シノを睨み付ける。
アスカにしてみれば、
(何で、こんな奴(シノ)に、アタシの行動を非難されなきゃなんないのよぉ。もう、最低)
と言う思いが胸の内を満たしてしまう。
しかし、シノはそんなアスカの顔色など気にした風もなく、アスカを見つめ言葉を続けた。
「確かに、結果論です。
しかし、戦闘で一番重要なのは情報です。情報があれば相手の弱点を突く事が容易になる。
今までの使徒の戦闘から言っても、使徒は同じモノが襲来していません。常に情報不足で始まっている場合が殆どです。
幾ら現場の判断が重要と言っても、判断する材料となる情報が無ければ、如何しようもないでしょう?」
アスカは、歯をギリギリと噛み締め、今にもシノの喉笛に噛み付かんばかりに睨み付ける。
(畜生、畜生、ちくしょう、ち・く・し・ょ・う………)
アスカの胸の内を呪詛が満たしていく。
「貴女は、兵装ビルからの攻撃を待ってから、飛び出しても遅くはなかったのですよ」
尤も、当初の作戦案から考えると、最初の兵装ビルからの攻撃は使徒が分裂する前なので、アスカが飛び出して使徒を切り付けた状況と同じ事になったかもしれない。
シノの玲瓏たる声での指摘。しかも、アスカを見る目には嘲りも貶みも無い。只、アスカを観察する様に見ているだけ。
それがアスカには癪に障る。
(何よ、スカシやがってっ。何様の積りなのよっ!)
口には出さねど、アスカの目付きには、シノを罵倒する色が有り有りと出ていた。
シノにしてみれば、アスカが何時癇癪を破裂させるか判らないので、アスカの態度や表情を観察せざるを得ないだけなのだが。
「それと、何故、此方の照準線を障る機動を行います?
此方は、機動方向の指示を出していたと思いますが………」
「そんなのっ、そっちがアタシに合わせれば良いに決まっているじゃないっ!」
シノの玲瓏たる声とアスカの罵声。その声を聞き、シノは−ほらね−とばかりに内心でまた溜息を吐いてしまった。
アスカにしてみれば、
(エースたる自分の行動にバックアップが合わせるのは当然じゃないの)
となる。
シノにしてみば、啖呵の一つも切りたい所なのだが、そんな気持ちを抑える。此処で完膚なきまでにアスカを論破し、アスカが精神的に壊れられても困るからだ。
「それに、使徒を切断した時に、何故に使徒に背後を向けました?」
そう云うと、シノはスクリーンに使徒を切断後の弐号機の行動を映し出した。
「この時、貴女が行う行動は勝ち誇るのではなく、バターンブルー消滅の報告があるまで、使徒を監視しておく事です」
「くっ」
アスカは唇を噛み締めると、反撃に転じた。
「何で、アンタなんかの命令に従わなきゃならないのよっ!」
「それは、使徒交戦時のネルフの規則に規定されている事です」
アスカにしてみれば、
(エースたるアタシが指揮を采らなくて、誰が指揮を采るのよぉ)
と思わざるを得ない。
だが、此方(シノ)は法的根拠を持って指揮をしていると、アスカの反論をシノは切り捨てた。
しかし、アスカは気付いていない。否、気付きたくないのかもしれない。
ネルフ本部内では、誰もアスカの事をエースとは認識していない事に。「しかも、何で後退しろと言う指示も無視をしたんですか?
そちらが油断なく使徒を監視していれば、無理なく後退する事も出来たでしょう。
又、使徒が分裂し復活した際も、貴女が無理に交戦しなければ、此方の支援の元、後退する事が出来ましたよ」
更に、シノはアスカの命令無視を指摘する。
「そんな事したら、近接攻撃が出来る兵器しかもっていない、アタシは活躍できないじゃないっ!」
シノに対し、叩き付ける様なアスカの罵声。しかし、内容は………本音が出たか。
この時、アスカが冷静であり、場内を見回せば、会議参加者の自分を見る目付きが判っただろう。
皆の目付きは一言で集約できた。
−餓鬼め!− である。
しかし、精神的に追い詰められ、頭に血が上ってしまったアスカには気付きようがなかった。
「アンタ卑怯よっ! アンタとファーストだけ飛び道具を持って、アタシには持たせないでっ!!」
怨念の篭ったアスカの罵声の内容に、シノは内心でクラッと目眩いがしてしまう。
(だから、先にフォワードをするか、バックアップをするか確認したでしょうっ!)
シノは内心でアスカに罵声を浴びせるが、表面的には何も変わらずアスカを見つめている。
「別に近接兵器でも使徒を殲滅する事はできましたよ?
例えば、金角のコアを初号機がプログナイフで刳り、その状態を保持している。
その間に弐号機が銀角のコアをソニックグレイブで刳ると言う作戦も行う事は出来ました。
しかし、データ取りをしている最中に弐号機が沈黙したから、そう言う手も取れなくなったのですよ?」
(尤も、狙撃で殲滅出来るのですから、エヴァが傷つかないで済む方向で作戦を立てたでしょうね。
エヴァの修理に幾らの費用が掛かるか、理解して欲しいものですけどね)
シノは近接攻撃の案を示しながらも、近接攻撃なんて最初から選択しなかっただろうなぁ、と思ってしまう。
シノは常の玲瓏たる声で諭すが、逆にシノの常の声がアスカには癇に障って仕方が無い。
アスカは、−何よ、スカシやがってーとばかりに、シノの睨み付ける。
「何を言っているのよっ。アンタがアタシの活躍を奪ったんじゃないっ!!
デビュー戦だったのに、如何してくれるのよっ!!
この卑怯者ぉぉっ!!!」
当社比50%増しの怨念が篭ったアスカの罵声に、今度こそシノはグラリと表情に表れる程、目眩いがしてしまった。
(何考えているの? この馬鹿………戦闘は遊びじゃないのよ。子供の理屈を振り回さないで欲しいわね)
普段のアスカであれば、己の非に気付いていたかもしれない。そして、素直でない表現で己の非を認めていたかもしれない。
精神的に余裕が有れば、と但し書が付けばだが…。
何も出来なかった第六使徒戦、そして無様を晒した第七使徒戦。更に第七使徒戦後は初めての営倉入り。
全てアスカを追い詰めて行く要素ばかりであり、実際アスカは心理的に追い詰められていた。
此れでは、自己を見詰め直す様な余裕は爪の先程も無いと言って良かった。
しかも、会議で問題点を指摘しているのはシノである。今現在、アスカが敵対視する人物であり、使徒より憎いと思っている人物でもある。
此れでは、如何転んでも己を見詰め直す等、出来なかった。
このアスカの態度に切れた人が一人。その名を冬月コウゾウと言う。「惣流アスカ・ラングレー君」
冬月は静かに、しかし地の底から響く様な低音でアスカに声を掛ける。
その声音に、冬月の周りにいたゲンドウやユイの顔色が変わった。
所謂、ー不味い−な顔色である。
勿論、シノやリツコの様な冬月と交際の長い者の顔色も変わってしまった。
シノが周りを見回すと、冬月と直接顔を会わす事が多い部長クラスの顔色も変わっている。
シノは、隣のリツコにそっと耳打する。
「冬月先生。スイッチ入った?」
リツコも少し顔色を蒼褪めながら、シノの問いに首肯した。
スイッチ………つまり、冬月がお説教モードに突入したのだ。
−此れが………長いんだなぁ−とは関係者の一致した見解である。
冬月コウゾウ、結構な熱血教師なのかもしれない。
アスカは、その声を聞き、本能的に背筋を正してしまう。
ドイツでも、ミサトの後釜の指導教官が、こんな声の時は偉い目にあったと、思い出したからだ。
「チルドレンの職務とは何だね?」
冬月は、怒鳴るでもなく静かに聞いてくる。
「エヴァの操縦です」
アスカも遅れて返事を返しては拙いと、間髪入れずに返答をする。
しかし、この返答に、更に冬月のスイッチは入った様だ。つまり、ターボ・スイッチおん、である。
「違うっ!」
自制も効かないのか、冬月の声が大きくなってしまう。どうも、ターボどころかニトロのスイッチが入ってしまったかもしれない。
冬月は、アスカの返答に、武人埴輪が顔の前で手を振ると青銅色の荒ぶる神になったが如く、完全なお怒りモードと化してしまった。
ネルフは使徒迎撃機関である。そして、ネルフの主戦力はエヴァンゲリオン。そうエヴァは、対使徒用の兵器なのだ。
つまり、ネルフに所属するチルドレンの職務は“使徒の殲滅”であり、“エヴァの操縦”は職務を遂行する上での手段でしかない。
アスカは満13歳であるが、チルドレンとしてゲヒルン時代も含めてネルフには10年間も在籍している。
そこらの下級職員よりも、ネルフでの経歴は古いのである。
そう云う者が、手段と目的を履き違え、尚且つ上官に暴言を吐く。冬月の倫理観には、この様な所業は許せるモノではなかった。
「使徒に勝つ事だっ!」
普段は温厚そうな冬月の怒声にアスカは首を竦めてしまう。
(何で、アタシがこんなに怒られなければならないのよぉ〜。アイツ(シノ)の所為だ。アイツ(シノ)の所為に決まっている)
首を竦めながらも、アスカの心の中はシノ達への憎悪に満ち満ちていった。
しかし、冬月のその声に、シノはーあちゃ〜−と言う顔をしてしまう。
(冬月先生。NGワードを連発しないと良いのだけど)
アスカの事等、心配してあげる必要性はシノには無いのだが、思わずアスカの事を慮ってしまった。
シノにとっても、目の前で人が(精神的に)壊れるのを見るのは辛い物があったからだ。
おいっ、結局は自分の為かいっ! とも第三者的には思ってしまうが、今までのアスカがシノに対して行ってきた言動を鑑みれば、シノがそう思っても仕方がない事ではあった。
そんなシノの思い等、関係なく冬月の説教は進んで行く。
「先の第六使徒戦と言い、今回の第七使徒戦と言い、君は指揮と言うのを何と弁えているのだね?
独断専行等、言語道断! しかも、失敗した独断専行等は何も役にも立たないではないかね。
そんな役立たずな事をされては、皆が困るのだよ。君達の失敗は、即人類滅亡に繋がると考えても良いだろう。
もっと、セカンドチルドレンはチルドレンとしての自覚を持って………」
その冬月の言葉を聞き、シノは頭を抱えてしまった。
(“役立たず”って、今のアスカに一番言ってはならない事を〜)
シノは、ソウッとアスカの顔を見ると、アスカは顔面を蒼白にして震えていた。
「何でアタシだけっ!!!!」
アスカが叫ぶ様に冬月に反論する。
この一言は、更なる冬月の叱責を呼ぶだけであった。
冬月コウゾウ、“もう止められない、止まらない”の河童海老煎状態である。
「アタシだけ? 何を言っているのだね。
実績を示していない。
周りに迷惑を掛け続ける。
上官の言う事を聞かない。
他のチルドレンは、そんな事をやっているかね? やっていないだろう」
冬月の暴走に、目眩いがしてしまうシノ。
(冬月先生〜。相手は3・4歳児のメンタリティしか持っていないんですよぉ)
NGワードの連発に、シノは内心で冬月に注意するが、空気を振動させる言葉になっていないので、冬月に聞こえる訳がない。
冬月の説教を行う時間は長い。此れは、ネルフ本部では常識になっていた。
しかも、冬月のお説教モードと言うか、熱血モードの時は、周りの言葉が耳に入らない事は普通だったりする。
この様な場合、止めるべき人間であるゲンドウやユイも顔面を蒼白にして、冬月から引いている。下手に止めに入れば、自分達に説教の火の粉が降りかかるからだ。
だからなのか、先ほどからチラチラとシノの方を物欲しげな目付きで見ているのだ。
だが、シノも敢えて火中の栗を拾いたくはない。
だから、シノも知らず知らずにゲンドウ達へ物欲しげな視線をチラチラと向けていたのだった。
そんな譲り合いの精神を見て、思わず溜息を吐いてしまうリツコ。
しかし、そんな彼女も冬月を止めようとはしない。リツコとて火中の栗は拾いたくはないのだ。
此れが青銅色の荒ぶる神なら、清い乙女の涙で元に戻るのだろう。生憎な事に、冬月コウゾウは青銅色の荒ぶる神でもなかった。
止め役不在のまま、冬月のアスカに対する説教は続くのであった。
「それに、君は、先程“私の活躍云々”とか言ったね?
君は何を考えているのだね。ネルフは君の為に存在しているのではないのだよ。人類を使徒の脅威、いやサードインパクトの脅威から守る為に存在しているのだ。
そんな事も理解できていないから、“私の活躍”等と言えるのだよ。
エヴァは君一人で動かしている訳ではない! 諸々の人達が支えているから、君がエヴァを操縦する事が出来るのだ」
冬月の説教は長かった。しかし、終わらない説教等と言うものない。
アスカの顔色が蒼白から、全然血の気を感じさせない土気色の変わろうとしている頃、それは訪れようとしていた。
「だからだね、惣流アスカ・ラングレー君。
君には、准尉への降格処分を命じる。
ネルフはオフィサーパイロット制を導入している。
本来であれば準士官である准尉にはエヴァ・パイロットとしての搭乗資格は無い。
だが、今回は特例で次回も君に搭ってもらう事になっている。
何度も言う様だが、君にはチルドレンとしての自覚を持って、今後の職務を遂行してもらいたい。
以上だ」
冬月の説教は、アスカにとってプライドをボロボロにされるショッキングな言葉の連続であり、説教の最中に真っ白く燃え尽きてしまった。
当に、目の焦点は合わず、口は半開きで口の端から涎が滴れている様な状況である。
もしかしたら、幽体離脱してしまい、自分の体を俯瞰する事が出来たかもしれない。
その為、最後の冬月の言葉も殆ど理解できなかった。
理解していたら、ゲシュタルト崩壊を起こしていた可能性もなきにしもあらずなのだが。
因みに、アスカは冬月の説教の部分だけ記憶にプロテクトが掛かった様で、何も思い出す事は出来なかった。
お陰で、翌日からは何時ものアスカ様であった、との事である。
その為、准尉降格の辞令が渡された際に、ミサトに噛み付いたのは、当然の成り行きだった。
冬月の大説教ショーは、アスカの正体がネルフ本部内にバレていた事もあり、それ程はネルフ本部職員達の不興を買う事はなかった。
確かに、大人気ないと思う人も居た。しかし、使徒戦を含め営倉内の三日間のアスカの行状をネルフ本部内で知らない者は居なかった為、冬月の説教は“良い薬だ”と思う人が多かったからだ。
説教の時間が掛かり過ぎた事が皆の不満だった位である。
そして、アスカに対する処罰も概ねネルフ本部内では、好意的に受け止められていた。
アスカが営倉内でしおらしくしていれば同情も集まったかもしれない。
しかし、営倉内で声高に罵声を上げて騒ぎ、言っている内容は同僚のチルドレンや他のネルフ職員に対しての誹謗中傷の為、アスカの降格処分は“良い薬”だと受け止められたのだ。
大人と言うモノは、子供が自分の想定の埒外の行動を行うと、不満を抱くものである。その行動が社会規範に照らし合わせても眉を顰めるモノであれば、尚更だろう。
そう云う不満が、今回の処罰を“良い薬”と捉えたのであろう。
しかし、アスカにとってみれば、この処分は不当なモノとしか思えなかった。
アスカは、己が悪いとは思っていないのだ。己が悪いと思っていない者が反省等出来る訳がないのだ。
その為、アスカとネルフ本部職員との隙間は、更に広がっていく事になる。
因みに、ミサトは現場での飲酒による減俸20%三ヶ月だけであった。
その他に、戦訓検討会議の議事進行妨害により、重営倉三日が付け加えられている。
今回の第七使徒戦の場合は、余りミサトが馬鹿をやる前に眠らされてしまうというハプニング(?)があった為に、それ以上の処罰を行う事は出来なかったのだ。
勿論、ゲンドウは委員会へミサトの降格を進言した。しかし、上述の理由で又しても却下されたのであった。
お陰で、ミサトを眠らせたリツコが「もう少し後で眠らせれば、牛はもっと馬鹿をやっただろうから、牛を降格出来たものを」と影で文句を言われていたりする。
尤も、発言がバレた段階で、言った人間は新薬の被験者になっているらしい。
被験者は、誰彼の例外なく食事や睡眠すら忘れて仕事に熱中する様になってしまうとの事である。
しかも、疲労で入院しても、病院を抜け出し仕事を行う為に自分の仕事場所に戻ってくるとか(汗)。
他には、ミサトが皆が期待した程の処罰を受けない代わりとばかりに、日向二尉が処罰を受けている。
オブザーバーであるミサトの発言を命令として発令しようとした日向二尉は、“指揮系統を混乱させた”と言う点から、減俸20%二ヶ月の処罰を受ける事になってしまった。
この処罰に対して、ネルフ本部職員達の反応は「当然でしょ」と言う言葉が全てを表していた。
日向マコトが現実に目を向けるのは、何時なのだろうか?
To be continued...
(2006.11.18 初版)
(2006.11.25 改訂一版)
作者(伸様)へのご意見、ご感想は、または
まで