※ 当話はフィクションです。実際の団体、名称、個人の名前とは一切関係はありません。
 ※ 尚、今回はアスカ様脳内執事氏のナレーションで第8話前編をSpecial Versionでお送りします。

 


 一年中が夏となった日本でも、早霞の時刻には早い午前3時で御座います。
惣流アスカ・ラングレー様は、部屋の固定電話の前で受話器を持って畏まっていらっしゃいました。
 固定電話のコール音が鳴った時、赤い色のパジャマ姿のアスカ様は、今だ頭に血が回っていらっしゃらないのか、目は開いているかいないか判らない半眼でベットをお降りになられまして、お電話にお出になられようと、はしたなくもシーツをズルズルと引き摺りながら、夢遊病者の様に歩き出されました。
 電話機は、ベットサイドには御座いません。ベットとは反対側の壁に作りつけられております。勿論、子機も御座いません。
本来は子機は二台が常備されておりましたが、全てアスカ様の全力全壊(癇癪)で壁の強度試験の試料となり、珠と砕け散ってしまいました。
勿論、理由が理由ですので、ネルフに代わりを出して欲しいとは言えません。勿論、アスカ様としては下賎なネルフ本部職員に頭を下げる気も御座いません。
それに、アスカ様ご自身も携帯電話をお持ちになっていらっしゃいますので不要とお考えになられまして、子機の為に自腹を切る気も御座いませんでした。
その為、子機は無いままと成っておりまして、今回の様な仕儀と相成ったので御座います。
 アスカ様は、血が廻らない頭の所為か、
(寝不足はお肌の大敵なのに………コレもサードの嫌がらせねっ)
等と、怨敵の嫌がらせである事を確信されながら、電話機へとフラフラと歩いて行かれます。
室内は橙色の常夜灯だけで大変に薄暗く、寝起きの為に何時もはお美しいアスカ様の髪はピンピンと立っておりザンバラ髪、目付きが半眼の所為も御座いまして、その顔付きは結構怖いと申せましょうか。やはり、頬を伝い口の端に掛かる一筋の髪の毛がポイントと思われます。
 しかし、受話器から響いた第一声で、そんな体の状態は霧散霧消してしまわれました。
アスカちゃんっ! 聞いているのっ?!
受話器から女性の声が大怨霊音量で漏れてまいります。いや、響いてくると言い直した方が適切かもしれません。
思わず、アスカ様は周りを見回してしまわれました。
御自分がお一人で居る事は理解されていますが、思わず周りを見回してしまう程に、受話器からの音量は大きかったので御座います。
そして、お一人である事を確認されまして、安堵の溜息をお吐きになられました。
 アスカ様は、日本に来てからはジオフロントのネルフ本部に隣接している女子士官用独身寮の個室を自分の部屋としておられまして、優雅にお一人で住んでいらっしゃいます。
部屋は、バストイレキッチン家具完備の2LDKで御座います。アスカ様程のお方が住むにしてはお狭いですが、お一人で住むには十分な広さでもありますし、収納スペースも無駄に多いと申せましょう。私物の多いアスカ様のお荷物も納まった位で御座います。
最初は、地上の宿舎を御希望なされましたが、アスカ様をお守りするセキュリティ等の面から適当な物件が見当たりません。
葛城ミサト様が上司との意思疎通が如何のこうのと言う今一訳の判らない理由から同居を申し出ましたが、ミサト様の部屋の酷さを良く知っていらっしゃる総務の職員の方が保安部対ミサト専従班を呼ぶ事でその件を回避なさいました。
地上の物件が見付かりましたら其方にお引越しをしていただくと言う事で、如何にかアスカ様は御納得なされたと言う、曰く因縁付きのお部屋で御座います。
 受話器から流れ出してくるお母上:惣流キョウコ・ツェッペリン様の言葉に、アスカ様は面食らうしか御座いませんでした。
『アスカちゃん………もう、ママは心配で、心配で、心配で、心配で、心配で、心配で、心配で、心配で、心配で………
 アスカちゃんが変な人と“交際している”というから………』
アスカ様は、そのお言葉に何時もはお美しく光輝くばかりの頬を引き攣らせてしまいます。お口元も引き攣っているかもしれません。
『お付き合いするなら、のーまるじゃなきゃ、駄目でしょっ!
 アスカちゃんが…アスカちゃんが……アスカちゃんが変態になっちゃった………』
「へっ…な、何を言っているのママ?」
最後の方は、小声の為にお聞こえにならなかったアスカ様ですが、前半のセリフだけでも十二分にお母上が変な事を言っている事は判ってしまわれます。
「ママ、“交際している”って………誰の事よ?
はしたないですが、少し険が篭った声で、アスカ様はそう聞き返すしか御座いません。アスカ様ご自身に覚えが無い事で御座いますから。
今の所ですが、アスカ様の意中の人である加持様に、御自分がお子様扱いされていると言う御自覚は、アスカ様にも御座います。
そして、他の方がアスカ様と加持様の関係を見られれば、精々兄妹の関係としか見て貰えない事も、悲しい事ですが、聡明なるアスカ様には御自覚が御座います。
だからこそ、アスカ様は実績を残し、少しでもそう云う関係に見られない様にしなければと、ご努力をなされれているのです。
しかし、此処だけの話ですが、その努力なるものは周りに多大な迷惑を撒き散らす、自己中心的なモノと思われている事は非常に悲しい事と言わざるを得ません。現地の方達が災厄に巻き込まれる事は悲しい事ではありますが、アスカ様の幸福に取ってみれば、些細な事で御座います
『アスカちゃんが“道ならぬ”関係にあるって………』
お母上の返事に、アスカ様は絶句する以外の事は出来ませんでした。
“未知ならぬぅ”? アタシは、ウチュー人かUMAと交際しているとでも?)
アスカ様は、非常に頓珍漢な思考に落ち入ってしまわれました。やはり、流石のアスカ様でも寝起きの頭には血が環っていないと思われます。
『幾ら、“れでーすこみっく”に興味があるお年頃とはいえ、そんなコミックの世界に影響されるなんて………うっ、うっ、うっ…』
受話器の向うから、語尾にしゃくり上げる様な泣き声が聞こえてまいります
「ママ、何を言っているのっ?」
今だ、頭に血が環らないとは言え、その言葉尻に不穏当なモノを感じ、アスカ様も再度聞き返す事をなされました。
『せめて………せめて……嗚呼、せめて…愛読するなら“じゅーん”な世界か“お耽美”な世界にしておきなさい』
ですが、お母上様。そちらの世界も腐女子を育成するだけで、非常に拙い世界だと愚考いたしますが………(汗)。
会話が成り立たず、アスカ様の額には汗が浮かび上がってしまいます。更には、アスカ様の頭の中を“”マークが飛び回ります。
「はぁ〜?」
はしたなくも、アスカ様は気の抜けた返事を返すだけで御座いました。
『アスカちゃんが、う、う、う…』
お母上様も最後の言葉を言えず、思わずどもってしまわれます。
?」
アスカ様の頭の周りを周回する疑問符は、更に数を増されました。
う…し、う、し…うしと付き合っているなんて〜(うゎ〜ん)』
キョウコ様は、搾り出す様に言うと、最後は泣き出されてしまいます。
最近、色々な事情で何時よりお考えが飛躍しているアスカ様の思考でも、ファールラインを55度は超えている言葉が受話器から流れてまいりまして、それをお聞きになったアスカ様の目は点になってしまわれました。此処だけの話ですが、鼻水も少々垂れているやもしれません。
格ー子、格子、鉄格子のなーかのうしは、何時何時出やる?
 使徒戦ごーとに、うーしとさーるとメガネがすーべった。
 迷惑被るのだーれ?

空耳なのでしょうか、何故か珍妙な歌がアスカ様にはお聞こえになる様に感じられます。
うし、うし、うし、我奇襲を行われたり
アスカ様の頭の中には、そんなセリフが浮かんでまいります。
如何も、アスカ様の頭脳は言われた事を理解する事を拒んでいる様で御座います。
下々の者どもは、現実逃避と言うのでしょうが、アスカ様に限ってそう言う事は御座いません。ただ、頭脳が処理し切れないだけで御座います。
『こっちに居た頃に、牛に………あのー、そのー………手篭めに………されたなら……………なんで………なんで、ママに話をしてくれなかったのぉ〜(うゎ〜ん、うゎ〜ん)』
最後は、“わぁぁんわゎぁん”と泣くお母上様の声に、アスカ様は混乱する事、頻りで御座います。
受話器の向うのお母上様の状態に思い至り、お優しいアスカ様も受話器を握り締めオロオロしてしまわれます。
今、お母上様が泣かれている事は、アスカ様ご自身に覚えが無い事なので御座いますから。
何? 何? なに? な・に? な〜に〜? 手篭め? てごめ? て・ご・め? 手篭めぇ?!
お母上様の言葉が頭の中を何度も繰り返され、アスカ様のお考えは散り乱れてしまわれます。
手篭め、手篭め、手篭の中の鳥は、何時何時出やる♪
 夜明の道で、う〜しとめがねがす〜べった♪

先程の歌と同じ旋律(歌詞別ヴァージョン)がアスカ様の頭の中をBGMの様に流れます。
アスカ様の頭の中は、魔女の大釜の様に大混乱になろうとしていました。
 因みに、今は9月の半ばに入ろうかと言う頃で御座います。ドイツではサマータイムとなっていまして、通常−8時間の時差が、今は−7時間で御座います。
アスカ様のお母上キョウコ様がお過ごしであられる時刻は、午後の8時頃という所で御座いましょうか。
『(エッグッ、エッグッ)コッチに居た頃、既に関係を持っていたなんてぇ……
 アスカちゃん、不潔よぉ〜(エッグッ、エッグッ)』
「………」
しゃくり上げる様な涙声のキョウコ様のお言葉に、今やアスカ様は言葉も御座いません。
先ほどのお言葉と言い、キョウコ様のお言葉にアスカ様の頭は付いていけないご様子で御座います。
もしかしたらで御座います。アスカ様にはお心当たりが無いお言葉が雨霰の様に言われましたので、頭が理解する事を拒否しているのかもしれません。
『アスカちゃん………あんな………葛城ミサトになんかに………初めてを………散らされて(エッグッ、エッグッ)
 しかも、今でも関係があるなんてぇ………(エッグッ、エッグッ)
 しかも、同性で交際するなんて………不潔よぉぉぉぉ(うゎ〜ん)』
泣きながらポツリポツリと聞こえるお母上様の言葉に、アスカ様は絶句してしまわれました。
「な、な、な、な、な、な、な、な、な、なんですとぉーーーーーーーーっ!
流石に、今のお母上様のお言葉は、アスカ様もご理解された様で御座います。
しかし、“何ですと”で御座いますか………アスカ様、確かアスカ様はアメリカ生まれのドイツ育ちでは御座いませんでしたか?
全世界………(エッグッ)
 の………(エッグッ)
 国連関連機関でぇ………(エッグッエッグッ)
 しかも、国連軍のかなり高い地位の人の話が元だって………(エッグッエッグッエッグッ)
 話題になっているのよぉ〜(うわぁ〜ん)』
キョウコ様は号泣されてしまいます。
「………」
今のキョウコ様のお言葉に、何を仰って良いのかアスカ様は判断がお付になりません。
脳内で浮かんだお言葉は…(ぜ、ぜ、ぜ、善光寺ぃ〜
アスカ様、失礼ですが、それは違うと思います。人民の血塗れた聖火のスタートを拒否したお寺とは違います。
(ち、違った)
流石はアスカ様です。ご自分の思考の間違いにお気付きになられ、深呼吸をヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フーと行われます。
そうなされ、気持ちを落ち着けられたアスカ様は、仕切り直して、お母上様のお言葉の理解に努められます。
ぜんせかいぃぃぃぃぃ〜
このお言葉を理解なされ時、アスカ様の髪の毛は寝癖を通り越して逆立ってしまいました。
理由も無いゴシップが全世界を駆け巡っているので御座います。それも何と恐れ多い事でしょうか!? アスカ様が一方の主役としてで御座います!
此れに代わる恐怖というものは、そうは無いかもしれません。
今だ真っ白に燃え尽きないだけ、アスカ様は流石と言えましょう。もしかしたら、アスカ様には衝撃が大きすぎて、話の内容が理解出来ないだけなのかもしれません。そうでしたら、何とお痛ましい事でしょうか。
 暫くして、如何にか落ち着かれましたアスカ様は、お母上様のお言葉をご理解しようと頭の中で組み立てなおしてみました。
(あたしが、ミサトの奴に襲われて散らされて、今でもミサトなんかと関係しているって………
 しかも、その風評が全世界に流れて………キィィィィィ
な、な、な、な、な、な、何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!
おお、何と雄々しい事で御座いましょう。アスカ様、完全覚醒の雄叫びで御座います。(アスカ様は、立派なレディで御座いますので、雄叫びと言うのも差し支えるのではありますが)
この瞬間にアスカ様の顔色は一気に朱色となられました。勿論、羞恥の色では御座いません。お怒りの色で御座います。
此処に、勿体無くも赤鬼アスカ様が降臨あそばされたので御座います。
しかし、その様なアスカ様の現状など無視されるかの様に、受話器からはキョウコ様の声が流れてまいります。
ね、ね、ねっ。最初はベットだったの?(ワクワク)
 それとも格闘訓練中のマットの上とか?(ワクワク)
 それともねぇ、それとも、訓練後のシャワー室とか(ワクワク)
 それも違うなら、クラシックに更衣室の中とか(ワクワクワク)
 ちょっと趣味に走って、水泳訓練でのプールなんてシチュエーションとしては
………』
キョウコ様、先ほどまで号泣されていたのではありませんでしたか?
それなのに、今は秘め事を聞き出す事に夢中になっていらっしゃる(汗)。
嘆かわしい。キョウコ様、それではおばさん根性丸出しで御座いますよ。
だ・れ・が、こーんな事を仕出かしてくれたのよぉ!!!
 本当で御座います。誰がアスカ様に対して、この様な呪いとも取れる事をなされたのでしょうか?
何と可哀想な事で御座いましょう。
えっ?! 此れは、前回の戦訓検討会議でアスカ様とミサト様の言い争いが元ですと?
黙らっしゃい!! 
可憐で、高貴で、非常に優秀なアスカ様ご自身の言動でゴシップが生まれる等、ありえないので御座います!!!



 

新世紀エヴァンゲリオン アストレイア

第八話 前編(アスカ脳内執事視点Ver)

presented by 伸様


 

 浅間山の一件から、数日を経た9月半ばの事で御座います。
 その日、アスカ様は朝から不機嫌で御座いました。

 アスカ様は第8使徒戦において、理不尽な理由からプラグ内のLCL濃度を上げられて昏倒させられてしまいました。そして、そのままアスカ様専用の特別病室に入院する事となったので御座います。
意識が戻ってからのアスカ様の運動量と言ったら、他の人も目を見張るモノが御座いました。
その原動力は、要約いたしますと「何で、偉そうに、サードが指揮を執るのよっ! エースのアタシが現場の指揮を執らないで如何するのぉっ!!」の真にご尤もな二言で御座います。
その正当な主張をアスカ様は、行動で示されたので御座いました。
窓の飾りに掴って、お声を上げられての自己アピール、
ドアの強度試験を、恐れ多くもアスカご自身で行われる、
お部屋の中を回遊される、
実芭蕉が目の前に現れれば、丁寧に食される
等、
その行動は、アスカ様の内に備わったモノと言えましょう。
余りにアスカ様が運動されますと、下賎の者が無礼にも精神安定剤をアスカ様に投与しよう等といたしますので、その様な不届き者(医師一人、看護師が3人程)をアスカ様は討ち果たされました。
無論、正当防衛で御座います
最後の不届き者(負傷者)は、拘束衣をアスカに着せていても出た位だから、その運動(暴れ)具合が知れ様と言うものである。
伝え聞くところによりますと、このアスカ様の言動を快く思わないネルフ本部の者どもが、一時期はアスカ様にロボトミー手術をするか検討されたらしいという事で御座います。
何と、ネルフ本部の者どもは不埒千万なので御座いましょう
 しかも、このアスカ様の言動がネルフ本部のアルゲマイネこと、副司令冬月コウゾウの耳に入ってしまったので御座います。
この冬月コウゾウ、アスカ様を何時も足蹴に扱う酷い者で御座います。風体も一見紳士そうで御座いますが、中身は悪鬼羅刹の如くの外道で御座いまして、何時もアスカ様を言葉攻めする陰険な老人で御座います
本来ならば一日程度の入院で御座いましたが、三日間も病室に拉致監禁したので御座います。
しかも、ネルフ本部の者どもは、此れを処罰だと言う。何と、情けない者どもで御座いましょうか。
人類の守護者たる惣流アスカ・ラングレー様処罰する等と言う、破廉恥極まりない行為を口にするなど
 アスカ様が拉致監禁から開放されて自室にお戻りになられた最初の夜が、お母上様からの夜明け前の電話で御座います。
しかも、その内容は、アスカ様の心労を更に増やすモノで御座いました。
真逆、天災美少女エースパイロットであらせられるアスカ様が、あ・の・ミサト様と肉体関係まである交際をしている等と言う風評が全世界を駆け巡っているので御座います!
何たる悪評で御座いましょう!
何たるゴシップで御座いましょう!!
しかも、その風評をお母上様までも耳にされてしまったので御座います!!!
何処の魔女のバーサン(さーどちるどれん)の呪いだと言うのでしょうか
アスカ様は頭を掻き毟りたい心境で御座いました。
否、現実に掻き毟っておられます。何時もは丁寧に梳かされているアスカ様の御髪がピンピンと枝毛が立っているではありませんか。

 そんなあられもなお姿で、アスカ様はネルフ本部内の通路を歩きながら、朝食を摂る為に食堂へと向かっておりました。
アスカ様は今直ぐにでもジオフロント外の地上のお部屋へ引き移りたいので御座いますが、それを急がない理由が此処に御座います。
それは、朝夕食ともにネルフの食堂で済ませる事が出来るからで御座います。
ネルフ本部の食堂は、大きいモノが一つ、中小のモノが三つあり、一つは隣接している職員宿舎からも近い所に御座います。
実はアスカ様、野外行軍演習でのレーション位しか食事を用意した事が御座いません。勿論、アスカ様のお手を煩わせる様なモノではなく、お湯の中に入れるか、お湯をパッケージに注げば食べる事が出来るモノで御座います。
アスカ様は料理というモノをした事がありません。
アスカ様は訓練、勉強、訓練、勉強、また訓練と言う様に、人類の守護者として勉学・訓練に励まれてきたので御座います。
料理等と言う、コックか家政婦が行う様な事をアスカ様が行う事等、考えられもいたしません。
此処だけの話ですが、お母上のキョウコ様は他の家事は兎も角、料理については天災的に苦手とされておりました。
その為、料理は全てコックか家政婦任せで御座いました。
どれ程、キョウコ様が料理について天災的と申しますと………別の世界のミ○マルユ○カ級と言えば、葛城ミサトに並ぶ業の者(誤字にあらず)だとご理解できるかと存じます。
アスカ様のお母上であらせられる惣流キョウコ・ツェッペリン様は、料理世界の負の超弩級艦なので御座います。
その様な事も我慢出来ずに、離婚された前夫は何とヘタレで御座いましょうか。
しかし、アスカ様がご幼少期をご無事に過ごせたのは、偏に家政婦の努力の賜物で御座いました。
ですから、アスカ様は、世間一般で言われる料理と言うモノを行う必要が無い身分の方で御座います

 アスカ様は食堂に向けて、威風堂々と通路を進んで行かれます。
それはもう、威風辺りを薙ぎ払い、堂々とした、貴人に相応しいお姿で御座います。
今日は幾分傾いたお姿で、何時もなら丁寧に梳かされているアスカ様の朱金の髪は枝毛がピンピンと出ていまして、やはり何時もなら丁寧にツインテールに結わえられているハズなのに無造作に結っている様で、左右で長さが異なり、周りを威圧するには十分なお姿で御座います。
そして、肩をご立派に張り、寄らば切るぞとばかりの鋭い目付きで威風堂々と通路を進んで行かれます。
その鋭い目付きを湛える目の下には、薄っすらと隈が出来ているのが本日のチャームポイントで御座いましょうか。
アスカ様の全身から噴き出す王者の気に、行き交うネルフ本部の下々は皆、道を譲って行かれます。
この時間帯、徹夜明けの職員達も食堂を利用されている為、食堂へ向かう通路は、混雑とは言えませんがネルフ本部の下々の者が行き交っております。
通路は左右で進行方向毎にレーン分けがされていますが、貴人のアスカ様には関係は御座いません。堂々と真ん中を歩いて行かれます。

をいをい、またかいぃ?
どうせ、何時もの事だろ。この間も“役立たず”どころか、前線の皆に心理的な迷惑を掛け捲っていたらしいし
その様な声がアスカ様が通られた後に聞こえてまいります。
小さい声で言えば良いモノをアスカ様の耳を汚す様な大きな声で言うなど、なんとネルフ本部の下々は慎み深さが無いのでしょうか。
しかも、アスカ様を誹謗中傷する等、何と天も恐れない行為でしょうか。
何と、大人気無いとも言える行為で御座いましょうか。尤も、この二人だけがアスカ様に遺恨を持っているから言っているからでなく、ネルフ本部の下々の大多数がこう言う雰囲気なので御座います。
しかも最近では、何と言いましょうか………痛い子供を見る様な視線をアスカ様に向ける輩もおります。
情けない忘恩の徒で御座いましょうか! 誰のお陰で、平穏無事に暮らしているのか、ちゃんと考えればアスカ様を褒め称えこそすれ、誹謗など出来るわけが御座いませんものを
 これも、あの悪魔の様な奸佞邪智の輩であるサードチルドレンの策略で御座います。

 何時もなら、下々の声は率先して聞くことにしているアスカ様で御座いますが、本日は違った様で御座います。
下賎の者どものお耳汚しの声等、聞こえない様で威風堂々と食堂へ進んで行かれます。
 アスカ様は、お耳が敏く、下々の声を聞き逃す事は、それ程はありません。特に、ご自分に対する大人の評判を聞き逃す事はあり得ないので御座います。
それによって、より下々に受けの良い言動を行われるの御座います。
誰ですか? 大人の顔色を窺っている狡すっからい等と言う難癖を付けるのは?
黙らっしゃい! 下々の理想通りの言動を行うのも、皆の耳目が集まる人類の守護者たるアスカ様の責務なのです。
ですから、通路で会った下々の言動については、何時ものアスカ様なら大いに気にされる所でありますが、本日はもっと大きな事に気を盗られておりまして、お気付きになられません。
 実はアスカ様は、食堂へお進みになりながら、考え事をなされていたので御座います。
(何故? 如何して、アタシがあーんな奴(葛城ミサト)と関係を持っているなんて風評が流れるの?)
ご尤もな疑問で御座います。
(それも全世界のネルフ関係や国連関係に………おかしいわよ)
確かに、東○スポや夕○フジ、夕○ゲンダイの様なイエローペーパー紛いのタイトルで、短時間に全世界に流れる等、奇怪至極で御座います。
しかも、根も葉も無い風評で御座います。
(おかし過ぎるわ。ゴジップを広範囲に広める事が出来るなんて)
根も葉もないゴシップを広範囲に広げる事等、普通では考えられません。
根も葉もない事、火の無い所なのですから。
(そんなゴシップ、何が元になったのよぉ!?)
アスカ様にとっては、原因など思い付く事は御座いません。
可憐で、高貴で、非常に優秀で、皆に崇め奉られる存在であるアスカ様に限って、そういう原因があるハズもありません。
(考えるのよ、アスカ。ゴシップを広めて、誰が得をするのか)
そうで御座います。誰が得をするかを考えるのは、犯罪捜査の鉄則で御座います。
アスカ様の優秀なる頭脳を持ってすれば、犯人に辿り着くのも難しい事では御座いません。
(そんな広範囲にゴシップを広めるには、相当な権力が必要なハズよ)
確かに、そうで御座います。
此れは、根も葉もない風評で御座います。それを広める為には、相当の金と力が必要になる事でしょう。
勿論、アスカ様のお母上がいらっしゃるネルフのドイツ第三支部の者が広めたと言う事はないでしょう。
そうなると、此処ネルフ本部の者となります。ネルフ本部で権力がある者と言えば………
(あー、あいつかぁ)
流石、アスカ様で御座います。如何やら、犯人の目星が付いた様で御座います。
(サードめぇ。アイツの父親は此処の総司令だし、父親の権力を借りたのね)
アスカ様は、遂に犯人を特定されました。
あの悪辣非道の女、サードチルドレンこと碇シノが犯人でありましたか。
確かに、あの暴虐にして冷酷非常の女であるサードチルドレンの父親は、此処ネルフ本部の総司令。
権力もありますし、その辣腕と陰険陰謀振りは、アスカ様も伝え聞く所で御座います。
しかし、父娘の共謀で、アスカ様を貶めようとは………
何と、悪辣非道暴虐無尽、桀紂の如き行いなのでしょうか!
正義は、この世に無いとでも言う様な行いで御座います!!
(畜生、畜生、ちくしょう、ちくしょう、ち・く・し・ょ・う………)
ネルフ本部では非力なアスカ様は、呪詛をする位しか対抗手段は御座いません。
さあ、アスカ様。呪いの手段としては、少し寝不足になるやもしれませんが、丑の刻参りというモノも御座います。
さもなくば、改宗なされて、悪魔崇拝かブードゥー教への宗旨変えされても結構で御座います。
(それの方が、此方としては好都合で御座います)
弐号機で暴れると言うのも手かもしれません。
これも、全てサードチルドレンが悪いのですから、何の罪科もアスカ様には御座いません
(此れも、美し過ぎ、優秀過ぎる、アタシが悪いのね)
そうで御座います。
全ては、サードチルドレンの妬み嫉みから出た事で御座います。

 アスカ様が色々な事を考えながら食堂にお着きになられた時、食堂の入り口でアスカ様は、とうとう鬱屈した思いが爆発されたので御座います。「サードの馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
 おお、何と雄々しい獅子吼で御座いましょう。
食堂に居たネルフ本部の下々も、アスカ様に注目なされています。

そう言えば、本日は戦訓検討会議の日で御座いましたな………。

 

 

▲▼▲▼▲ 今回は、アスカ様脳内執事ばーじょんでお送りしています♪ ▲▼▲▼▲

 

 

第八使徒戦後の戦訓検討会議

 今回もネルフ本部の第一大会議室で行われる事になったので御座います。
アスカ様のお席は、皆の耳目の集まる中央と言う、皆の耳目を集めるアスカ様に相応しい場所で御座います。

 因みに、今回の戦訓検討会議に葛城ミサト様は出席されておりません。今だ、営倉の中の為だそうで御座います。

 さて、戦訓検討会議は開始されました。
 今回は、アスカ様一人が中央に座っている為、皆の視線はアスカ様に集まります。
そこに座るアスカ様が見据えるのは、ただ一点のみで御座います。その視線の先には、驕敵サードチルドレンが居りました。
アスカ様の眼光は“コロスっ!”と輝き、サードチルドレンを睨むのみで御座います。
 今迄の戦訓検討会議と同じ様に、伊吹マヤ嬢の進行で会議は進んで行きます。
『1400、作戦開始』
そのアナウンスと共に正面の空間干渉型スクリーンに、使徒戦の映像が映し出されました。
『此れより、探査機を投下する』
映像は浅間山の溶岩湖に探査機を投下するUCAV(Unmanned Combat Air Vehicle:無人戦闘用飛行体)の画像に切り替わります。
『アタシの実力を満天下に示す時なのよぉおぉぉぉおぉ!』
何と凛々しいアスカ様のお言葉でしょうか。
しかし、このお言葉は、上段の席を占めるネルフ首脳陣には御気に召さない様子で御座います。
何と罰当たりな者どもで御座いましょう。
 そんな首脳陣も首脳陣ですが、他の参加者もアスカ様を見る目は剣呑なモノで御座いました。
ネルフ本部に居る者どもは、恩義というものを知らない忘恩の徒しか居ないのでしょうか。
しかし、そんな議場の雰囲気等、アスカ様には関係は御座いません。
怨敵サードチルドレンへの復仇のみが、アスカ様の関心で御座います。
『1410、使徒が羽化し、浮上開始』
映像は溶岩湖を映し出しているが、流れる音声は緊張感を伝えています。
『観測機1号機ロスト! 使徒に破壊された模様です』
『観測機4号機、振動波を発信開始しました』
『観測機2号機ロスト。使徒、火口に向かって浮上してきます』
『観測機4号機と使徒の接触時間、早く確認してっ』
そんな中で、豺狼の様な声が流れてきます。
『青葉二尉、使徒が4号機と接触するまでのタイムは?』
その声と対比するかの様に、可憐な声が流れてきます。
『何でっ。アタシまだ潜ってもいないのよぉぉ』
映像が今だ使徒の影も形も見えていない溶岩湖の映像だけに、余計に音声が目立ってしまいます。
豺狼の様な声を聞き、アスカ様は視線の先のサードチルドレンを親の仇でもあるかの様に睨み付けるのみで御座います。
 そんなアスカ様の思いなど関係なく、映像は使徒が溶岩湖からを飛び出すシーンに近づいていました。
『惣流さんはフォワード、私とレイはバックアップになります』
映像からは、憎むべき豺狼の様な音声が流れてきます。その音声に対する返答と思しき音声が、非常に可憐な声音で映像から流れてきます。
『何、アンタが仕切ってんのよっ』
その音声が流れると、音声の主へ注がれる皆の視線は冷たくなった様に感じられます。
何と言う、逆恨みでしょうか。
映像からは、青葉二尉のカウントを告げる音声が流れる中、そんな音声を消すかの様に、映像からは可憐な音声が流れてきます。
『だから、何でアンタが仕切っているかって、聞いてんのよっ!』
そして、皆の音声の主に対する目付きは悪化し、視線の温度は今以上に低下していきます。
何と、恩義を感じない者どもなのでしょうか。
 その様な雰囲気等を無視する様にアナウンスが事態の変化を告げました。
『1420、使徒、溶岩湖から浅間山頂に飛び出す』
『アノマリカリス?』
『冷却材、ナウっ!』
飛び出した使徒は、初号機から吹き付けられる冷却材に、殺虫剤をかけられた昆虫の様に地面に墜ちて、ジタバタともがきます。
零号機からビームの太い光条が5つ連続して使徒に突き刺ささります。
更に止めを刺すかの様に、零号機から撃ち出された5条のビームが使徒に突き刺ささります。
そして青葉二尉の声が動かなくなった使徒を映した画面から流れ出しました。
『パターンブルー、消滅を確認。使徒、殲滅しました』
『1427、使徒の下の岩盤が火口へ向かって崩落』
アナウンスと共に、画像は使徒が崩れる岩盤と共に、マグマを湛えた火口へ滑り落ちて行くシーンに変わります。
『あー、貴重な研究サンプルがぁ〜』
悲鳴が流れた直後に、マグマの面に使徒が接触すると爆発が起こりました。
『噴火?』
『『マスター(主様)』』
サードチルドレンが惨めに慌てふためく声が爆発シーンを映す画像から流れてきます。
『対ショックっ』
そして、無礼千万なサードチルドレンの声が流れてきました。
『惣流さんっ! 爆風の衝撃に備えてっ!!』
それに被る様に流れる余りにお間抜けな声で御座います。
『何で、立っているの?』
この様な事態でも、泰然自若と立つエヴァ弐号機の姿を見て、呆れる等、何と言う無礼な娘でしょうか
 弐号機が立っていたお陰で、第八使徒戦後のエヴァの修理で、弐号機が他のエヴァより修理箇所が多かったという話がネルフ本部の彼方此方で聞かれますが、何と言う懐の小さい者どもでしょうか。
アスカ様のお母上が心血を注いで建造し、アスカ様が駆る弐号機を修理・整備できるのは望外の事と思えない等、全人類の敵としか言えない輩が多くて困ってしまいます。

 映像が終わると、室内が明るくなります。
そして、会議を進めるべく、サードチルドレンに話が振られました。
『碇査察官、今回の使徒戦についての問題点を』
その言葉に、ふてぶてしくもサードチルドレンは溜息を吐きます。
「一番の問題は、指揮統率の紊乱ですね」
何を言い出すかと思えば、この馬鹿者は! 可憐で、高貴で、優秀で、人類の守護者であるアスカ様が指揮を執るのは当たり前の事で御座います。
その様な事も判らない等と、この馬鹿者は気でも狂っているのでしょう。
「弐号機パイロット………」
その言葉に、アスカ様の視線はサードチルドレンを呪い殺さんとするかの様に眼光鋭くなります。
その様な視線など気付きもせずに、盆暗のサードチルドレンは話し出しました。
「貴女は何故、此方の指揮を無視します?」
 その無礼な振る舞いに、アスカ様はサードチルドレンをピシッと指差すと、大音声で宣われました。
アンタ、卑怯よ!
「はぁ?」
アスカ様の凛々しい声に怯えたのか、サードチルドレンは気の抜けた様な返事を返してきます。
礼儀を知らないのも程があると言うものです。
アスカ様の質問に対しては、平身低頭して回答しなければならないというのに、この馬鹿者は気の抜けた返事を返す等、無礼にも程があると言うモノです。
シノの隣に座っていた娘も目を見開き、口をだらしなく開けて、如何にも唖然とした表情を浮かべています。
この娘も馬鹿なのでしょう。サードチルドレンに一味している段階で、馬鹿者決定と言うモノです。
あんな風評を広めて、何様の積りよ!!
そんなサードチルドレンの表情と返答に、アスカ様は当然の様にお怒りになります。
その背後黒いメラメラとした焔を纏った不動明王の様な忿怒の形相で御座います。
しかし、その怒涛の様な怒りの意気を浴びても、サードチルドレンに変化は御座いません。
神をも恐れぬとは、当にこう言う事を曰うのでしょう。
「ア、アタシが牛とで、で、で、出来ているなんて、風評を広げてぇっ!!!
アスカ様は自ら恥ずかしい事を話されてモジモジしてしまいますが、最後は雄々しく獅子吼されます。
「惣流さん………何を言っているのですか? 風評とか………」
サードチルドレンは、白を切ります。
この風評を広めておいて白を切る等、閻魔大王が許しても、アスカ様が許すハズはありません。
自分のパパの権力を笠に着て、風評を広めてぇっ!!!!
アスカ様の何とご立派なお姿なので御座いましょうか。
ご自分の感情の赴くままに叫ばれる等、常人の成せる所では御座いません

 サードチルドレンを弾劾するアスカ様の崇高な義務を中断する阿呆な初老の男が一人出てまいりました。
惣流アスカ・ラングレー君
底冷えする様な、地獄の住人の様な低音で、静かな声がアスカ様を呼びます。
しかし、この男も礼儀作法が成っていません! アスカ様を君付けで呼ぶ等、何を考えているのでしょうか。
 その底冷えがする低音に、流石のアスカ様もサードチルドレンの弾劾を止めざるを得ません。
地獄の底からの声に、アスカ様は自然と出てくる冷や汗を額に浮かべてしまいます。
アスカ様の視線の先には、口元に微笑を浮かべる好好爺然とした冬月コウゾウが立っておりました。しかし、冬月の眼は笑っていません
何と言う、無礼者でしょうか。
「惣流アスカ・ラングレー君。君は組織秩序と言うモノを、ドイツでは如何習ったのだね?」
「………」
この場に合わない頓珍漢な質問に、アスカ様は何を答えて良いか判りません。
この無礼者に如何対処して良いのか、アスカ様は迷ってしまわれたので御座います。
お叱りになれば良いのか、理を説いて迷を解けば良いのか、それとも手討ちにすれば良いのか、アスカ様にも判断が付かない事も御座います。
「いや、言い方を変えよう。君は社会の在り様というモノを、母上から如何習ったのだね?」
「………」
何を言っているのでしょうか、この無礼者は。余りに抽象的過ぎて、如何回答して良いのか、優秀な頭脳を持つアスカ様でもお答えする事は俄かには出来ません。
「ふむ………答えられないかね?」
アスカ様を見る、この無礼者の視線は相当に嫌らしいモノで御座いました。まるで、その視線はアスカ様の事を“この劣等生め”と言っているかの様で御座います。
何と言う不遜な視線でしょうか。一天万乗の君と同じであられるアスカ様に対して、その様な事をするなど。
 しかし、その様な不遜な事を行っている等、冬月コウゾウは気付きもしません。
「そもそも、社会の………人間社会の在り様とは、階層なのだよ。悲しい事にね」
そう云うと冬月は、傍らの湯飲みを口に運び、喉を湿らせます。
しかし、アスカ様には飲み物も勧めず、自分だけ水分補給とは………何をとち狂っているのでしょうか。
「原始共産制であっても、物資を皆に集配する為には何らかの纏め役は居たのだよ。
 そうでなければ、物資を集め、それを共同体の皆に配ると言う事は出来ないのだ」
戦訓検討会議と全然異なる事を延々と話す等、この男自己陶酔癖がある様ですな。
「古代、中世の国家は言うに及ばず、近代に入って政治形態が王権から民権に移っても、必要悪とは言え社会に階層構造が無くなった事は無いのだ」
こんな自己陶酔の世界等、アスカ様が理解しろと言う方が可笑しいので御座います。
 そして、事此処に至り、アスカ様が周りを見渡して見ると、参加者の視線は、自分に集中している事に気付かれました。
その視線は日本に来てから感じる、あの不快な冷たい視線のみで御座います。
その視線は“役立たず”、“要らない子”、“迷惑なのよ”とアスカ様を攻め立てます。
ドイツに居た頃の様に、アスカ様を賞賛する視線は御座いません。
日本に来てから、アスカ様は自分に集る視線に心地よいモノを感じた事がありませんでした。
何故に、こうもネルフ本部の者どもはアスカ様を正当に評価する事が出来ないのでしょうか。
しかも、アスカ様を不当に貶めるので御座います。
アスカ様に、何の罪咎があると言うのでしょうか。
アスカ様には、この様な仕打ちは何故?としか疑問に思うしか出来ません。。
しかし、どの様な仕打ちを受け様が、孤高であろうが、アスカ様は凛々しくなければなりません。
そう、ネルフ本部の下賎な者たちの手助け等、可憐で、高貴で、優秀な人類の守護者であるアスカ様には必要が無いので御座います。
アスカの頭の隅では無意識に、その言葉を考えるのだが、それが意識に上る事は無い。だから、口の端に乗せられない。
 そんなアスカ様の内心等を無視するかの様に、無礼者の話は続いています。
「かのウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフが地上に現出せしめ、ヨシフ・ヴィサリオノヴィチ・ジュガシヴィリが方向付けをしたソビエトの共産主義体制でも同じだった。
 そして、毛沢東が作り出した中国共産党の体制もだ。
 いや、此方の方が尚悪いかもしれない。共産主義や社会主義を謳いながら、中世や近世さながらの一党による王朝を産みだし、見事なまでの共産党を核とする階層構造を産みだし、共産党員と言う名の貴族階級を産みだした。
 北鮮も労働党と名を変えているだけで、同じ事だ」
 何処が戦訓検討会議なのか、理解できる者は居ない様で御座います。
「そして、階層構造とは上下関係であるとも言える。そして、軍事組織というのも見事なまでの階層構造なのだよ、惣流アスカ・ラングレー君」
漸く本論に入った様で御座います。此れだから年寄りは無駄話が多くて困ります。
「基本的に、良い階層社会とは。上位者は全般を見渡し、筋道を考えて下の者に指示を出す。そして、下の者は、その指示を実施する事によって、事態に対処していくものだ」
此処でもったいぶって言葉を一旦切ります。そして、アスカ様を睥睨するなど、無礼にも程があると言うものです。
「指示を出された者が、その指示を無視して、己の恣意だけで動いたら如何なると思うかね?」
「………」
今までの無駄話の為、アスカ様の心は千路乱れていまして、無礼者に答える等出来ようがありません。
「その事態に対する対処は失敗する。上手く行く場合もあるかもしれないが、成功するよりも失敗する率の方が高いだろうな」
何を言いたいと曰うのでしょうか、この無礼者は。
早めに手討ちにした方が、世の為ではないでしょうか。
「では、君の浅間山での行動は如何だったのかね?
 指揮官たるシノ君に対して抗命するだけで、何一つ動こうとしない」
そう云うと、この無礼者は不遜にもアスカ様を睨みつけます。
「君は浅間山で、何をやったのかね? 何か功績を残したのかね?」
「………」
アスカ様が手出しをする必要も無いので、浅間山ではアスカ様は何もしなかっただけで御座います。
ああ云う半端仕事は、下賎な者が行えば良いだけのモノで、アスカ様の手を煩わせるモノではありません。
「君は、浅間山では何もしなかった。 大声で騒いで、抗命していただけだ。
 こう云う行為を世間一般では、何と言うのかね?」
「………」
この様な無礼な質問に、アスカ様は回答する言葉を持ってはおりません。当然の様に無言で、この無礼な質問の返答とするのみで御座います。
「役立たず、と言うのだよ。惣流アスカ・ラングレー君」
何と言う恥知らずな言葉を言うのでしょうか。
しかし、この様な無礼な言葉に耐えるアスカ様は、両手を握り締め、口をキッと引き結び、凛々しいお姿で御座います。
「軍隊での抗命罪は、どれだけ重い罪か知っているかね?」
「………」
その様な下々が知らなければならない事を、何故アスカ様が知っていなければならないでしょうか。
アスカ様は支配者と変わらない身分のお方に御座います。
アスカ様のお言葉こそ、命令なので御座います。
アスカ様のお言葉に逆らう者こそ、抗命と言えましょう。
「君は使徒との戦いの最前線で抗命を行った。此れは前線抗命罪になる。
 つまりだ、惣流アスカ・ラングレー君。君は、死刑か無期懲役の罪を犯した事になるのだよ」
この無礼な言葉がアスカ様のお耳を汚した後、アスカ様は意識を手放されました。

 アスカ様、今は浮世を忘れてお眠り下さい。
何もかも、アスカ様が悪いのでは御座いません。

悪いのはサードチルドレンとその一味で御座います。
可憐で、高貴で、優秀な人類の守護者たるアスカ様は何も悪い事はしていないのです。
眠って、今の不愉快な事はお忘れ下さい。
眠りから醒めれば、また何時もの如く、颯爽たるアスカ様にお戻りになられています。
(それの方が、我らも都合が宜しいのですから)








続きません...
(2008.10.18 初版)


(Postscript)

 この第8話前編の裏バージョンになります。

 前編をHTML化している時に、アスカ視点で書いてみたらという発想で着手したモノです。
如何にアスカ様は自分の暴虐無尽振りを忘れる事が出来たのかというのが、最後のオチだったりします。
 元(第8話前編)はあるので、楽に出来るかと思えば、さに非ず。
アスカの無軌道暴走を肯定して書かなければならないので、苦労しました。
これは裏なので、此処からストーリーが分岐してという事はありませんので、不悪。

 

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