新世紀エヴァンゲリオン 〜The place at which a wind arrives〜

第二話 嵐来たりて鐘は鳴る

presented by tai様












 『緊急警報、緊急警報をお知らせします。本日十二時三十分、東海地方を中心とした関東中部全域に―――――』

 「青い空に白い雲、そしてなびく微風…………良い天気だ」



 黒髪の少年―――――シンジは空を見上げつつポツリ、と呟く。

 辺りには人一人存在せず、ただ緊急警報が鳴り響く。

 明らかに異常事態であるというのにシンジに慌てた様子はまるでない。



 「さて、ゲン爺の話だと…………『来い』だったっけ?うーん、迎えは来るのかな…………

  全く、君たちに頼まれなかったらこんなに風を感じられないところには来なかったよ?」



 虚空を見つめ、『誰か』に愚痴を言うシンジ。

 ここに彼の事を知らぬ第三者がいれば現実逃避をしていると見られてもしょうがない光景である。

 知る者にとってはある程度当たり前の光景なのだが…………



 「…………あれ?」



 と、シンジは何かに気付いたかのように視線を固定させた。

 その視線の先には一人の少女。

 ショートカットの蒼銀の髪と色素の薄い白い肌が太陽の光を浴びて陽炎のように揺らめく。

 その整った顔立ちに添えられた紅い瞳の視線はただまっすぐにシンジを射抜いていた。



 「…………え」



 シンジは驚いた。

 こんなところに何故女の子? とか綺麗な娘だな、などと思ったわけではない。

 彼が驚いたのはその存在の希薄性―――――そして彼女から流れてくる『風』



 「君は―――――」



 シンジが声をかけようとすると同時に砂埃が舞い上がった。

 シンジの視界は遮断され、砂埃がおさまった次の瞬間には―――――少女は消えていた。



 「何故?」



 シンジは虚空に問うた。

 少女が消えてしまったことにではなく、風が砂埃を起こしたことに対して。

 だがその返答は



 「だんまり…………か。いいよ、どうやら何か企んでるみたいだね?

  いや、別に気分を害したわけじゃないさ…………ただ、少しだけこの場所に興味がでてきたよ」



 面白そうに笑うシンジ。

 と、彼の後ろに気配が生まれる。

 背後から感じるその相変わらずな唐突さと決して不快ではない風にシンジは苦笑するのだった。



 「久しぶりだね―――――カヲル君」

 「一ヶ月ぶりだね、シンジ君」















 2015年、第三新東京市のとある駅前

 碇シンジ

 渚カヲル

 二人の少年による再会にて―――――物語は幕を開ける















 「しかしまた騒々しいところだねここは」

 「同感だね、折角の再会もこれでは興が失せてしまうよ」



 二人の視線の先には飛び交うミサイルに戦闘機。

 耳に届くのは爆発音。

 何故か彼らの元に届かない爆風は置いておくとしても、最も異常なのは…………



 「大きいね…………あれ」

 「名称は使徒と言うらしいよ。一応僕も彼の仲間に分類されるけどね、ちなみに彼の名前はサキエル」

 「へぇ、挨拶はしなくてもいいの?」

 「まあ、気付いてないみたいだからね。機会があったらしておくよ、一応兄弟のようなものではあるしね」



 その戦闘機やミサイルを蝿を叩き落すように撃墜していく巨大な怪獣を見ながらもまるで動じていないこの二人の少年かもしれない。















 「ごっめーん、ちょっち遅れちゃった。あなたが碇シンジ君ね?」

 「…………どなたでしょうか?」



 サキエルVS国連軍をのんびり観賞しつつ徒歩で目的地へ向かっていたシンジとカヲル。

 そこに現れた妙齢の女性―――――葛城ミサトの第一声とシンジの返答はこれだった。



 「え、シンジ君写真見てないの? まあいいわ、緊急事態だし、早く車に乗って!」」

 「どさくさにまぎれて誘拐ですか?」

 「違うわよ!」



 吼えるミサト。

 だが、自己紹介もしていない上にシンジは写真を見ていないのでこの返答はある意味当然といえるのだが。

 ちなみにカヲルはシンジの後で笑いをかみ殺していたりする。



 「私の名前は葛城ミサト、あなたのお父さんの部下でありあなたを迎えに来たのよ!」

 「証拠は?」

 「んなこといってる場合じゃないでしょうがー!」

 「知らない人に付いていっちゃいけないのは常識ですよ?」

 「くっ、わかったわよ…………はい、IDカード。これでいいでしょ!?」

 「…………ええ、どうやら偽造には見えませんし、信用します」



 疑ってすみませんでした、と頭を下げつつ車に乗り込むシンジ。

 カードにはNERVだの年齢のところに斜線が引いてあるだの気になる部分が多々あったのだがシンジはスルーすることにしたらしい。

 カヲルはちゃっかりシンジより先にシートに座っていたが。















 「で、あなたは誰?」



 二人を乗せて走り出したミサトの愛車ルノー。

 初めこそ小生意気なシンジの態度に引きつっていたものの、落ち着いてくるとシンジと共にいたカヲルのことが気になったようだ。



 「おっと、これは失礼。僕は渚カヲルといいます。ま、シンジ君の友人ですよ」

 「ふ〜ん、そうなんだ…………(あれ? 資料には内向的で友達なんていないって書いてあったような…………)」



 資料との食い違いに頭をひねるミサト。

 シンジの監視記録は碇家に行くまでのものしかないのだから当然なのだが。



 「しかし渚君って珍しい容姿なのね〜」

 「ええ、アルビノってやつですよ」

 「私の知ってる娘にも一人あなたに似た容姿の娘がいるんだけど……………似てるのは外見だけね」

 「へえ、そうなんですか。ですがミサトさん、あまりそういうことははっきりと言わないことをお勧めしますよ?

  人と異なる外見を持つということは、それが原因で異端視されることがほとんどなのですから」

 「うっ、ごめんね…………不快にさせちゃったかしら」

 「いえいえ、これから気をつけてくだされば気にしませんよ」



 意外と弾む会話。

 ミサトとしてはこれからのこともあるのでシンジと話をしたいところなのだが、シンジはずっと空を見ているだけである。

 怪訝なのは使徒や戦闘機が眼中にないことなのだが。



 「シンジ君、さっきから何を見てるの?」

 「空を見て風を感じています」

 「いや、それはわかるんだけど…………普通、あの怪物―――――使徒っていうんだけど、が気になるもんじゃないの?」

 「何故ですか?」

 「何故って…………目の前であんな怪物がドンパチやってたらそれを気にするのが人間の性というかなんていうか…………」

 「そう言われても、気にしたところでどうにかなるわけじゃないでしょう?」

 「ま、まあそうなんだけどね…………」



 内心「さ、流石あの司令の息子ね。やっぱり変わってるわ」と失礼極まりない思考をしつつも苦笑いで返すミサト。

 と、その瞳が驚愕に彩られる。



 「国連軍が引いていく…………まさか、NN地雷を使うわけぇ!?」



 悲鳴と共に後部座席のシンジとカヲルに「伏せて!」と叫ぶミサト。

 同時にミサト達の乗るルノーの後方でまばゆい閃光が発生し、爆風が襲い掛かった!



 「くぅぅっ!―――――って、あれ?」

 「何してるんですか、ミサトさん」

 「何って、爆発から身を守って…………」



 爆風がおさまる。

 しかしルノーは無傷だった。

 対ショックのため伏せていたミサトは気付かなかったが、爆風はルノーだけを避けて通り過ぎたのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 当然、身を起こしたままのシンジとカヲルも無傷である。



 「な、なんで?」

 「ミサトさん、よそ見運転はいけませんよ」

 「え、あ、ごめん…………じゃなくて、あ、あれ?」



 混乱のミサト。

 目の前には笑顔のカヲルと相変わらず空を見上げているシンジの姿。

 確かにNN地雷の爆撃の余波は自分達の乗るルノーに襲い掛かったはずなのだが…………



 しきりに首を捻りつつも出てこない答えに悩みつづけるミサトの姿は目的地であるジオフロントに到着するまで続くのだった。















 「特務機関NERVですか?」



 カートレインに乗り込んだ三人。

 ミサトから手渡されたパンフレットに反応したのは―――――何故かカヲルだった。



 「そ、国連直属の非公開組織」

 「そこに自称碇の碇ゲンドウがいるわけですか…………」

 「じ、自称?」

 「碇家ではあの人が碇姓を名乗ることを認めてませんからね。僕がそれを破るわけにもいかないでしょう?」

 「そ、そう…………お父さんの仕事、知ってる?」

 「いや、全く知りません」

 「い、一応国際公務員のようなものね。シンジ君のお父さんも勤めてるのよ」

 「忙しいんでしょうね」

 「だから私が迎えに来たんだけどね。ねえシンジ君、ひょっとしてお父さんのこと…………嫌い?」

 「いえ、興味がないだけです」

 「な、なんで!?」

 「そのままの意味ですよ」



 ふっ、と微笑むシンジに何か得体の知れないものを感じてミサトはそれ以上口を挟むことが出来なかった。

 しかし、このままでは間が持たないので他の話題に切り替えることにする。



 「そ、そうそう。お父さんからIDカードをもらってない?」

 「これですか?」



 すっ、とIDカードを手紙や写真とともに差し出すカヲル。



 「なんで渚君がこれを持ってるの?」

 「この手紙が届いた時、シンジ君は家にいませんでしたから」

 「そうなの? だから私のことがわからなかった―――――って、な!?」



 カヲルの言葉に納得しかけたミサトが驚愕の声をあげる。

 『来い』だけの手紙とグシャグシャになった自分の写っている写真を見てしまったのだ。



 (はぁぁ、シンジ君がこれ見てなくて正解だったわね…………でも、なんでグシャグシャなのかしら)



 「ねえ渚君」

 「はい?」

 「なんでこれグシャグシャなわけ?」

 「最初にそれを見たのが碇家現当主、碇ゲンマ氏でしたから」

 「げ!」



 更に驚愕のミサト。

 あの碇の当主にこんなふざけた手紙とともに自分のセクシー(と自分は思っている)写真を送ったのだ。

 そりゃ怒ってグシャグシャにするわよね、と冷や汗たらたらのミサトだった。



 やがてしばらくするとカートレインはトンネルを抜け、明かりが広がる。

 ミサトはシンジ達へ振り返り、誇らしげにソレを紹介した。



 「ここがジオフロント。人類最後の砦にして、特務機関ネルフ本部が存在する場所よ」

 「へえ、凄いですねぇ」

 「風がよどんでるな…………」



 棒読みくさいカヲルの台詞とよくわからないが好意的ではないシンジの言葉に顔を引きつらせるミサトだった。















 「あれ、おかしいわね〜?」



 ネルフ本部内に三人が入って数十分。

 彼ら―――――といってもシンジとカヲルに責任はないのでミサトのせいだが、は迷っていた。

 後に続くシンジやカヲルにミサトを非難する様子は全くないが、逆にミサトは被害妄想にかられ、焦っていたりする。



 「そ、そうよ。システムは利用するためにあるのよね!」



 誰も何も言っていないのに高らかに宣言するミサト。

 非常にマヌケな光景だった。















 彼らがなんとかエレベーターの前に着き、そこに待っていた赤木リツコからミサトが説教をくらうのは、更に数十分後のこと。










To be continued...


(あとがき)

しまった、リツコさんが登場できてない(汗
今話でゲンドウ登場までやるはずだったのに………
メインヒロイン(予定)たるレイ嬢に至っては影と形しかないし………微妙に会話に出てきたけど
もうちょっと一話の容量を増やすべきだろうか………



(ながちゃん@管理人のコメント)

tai様より「風エヴァ」の第二話を頂きました。プロローグから連続の三話同時投稿ですね(お疲れ様です)。
今回は、原作の第一話に相当するお話でしたね。尤も、ゲンドウに合うところまでの進捗はありませんでしたが(汗)。
シンジ君の"独り言"の相手って誰なんでしょうね?・・・まさか妖精さんっ!?(冗談です)
しかし"風"とは一体何なんでしょうね?どうも意志を持った何かのエネルギーっぽいんですが・・・。
恐らくこのSSの核心なんでしょう。タイトルにもあるくらいだし。今後の解明に期待しましょう。
さて、やはりカヲルは使徒のようでしたね。本人が自白したし。
ここのミサトは原作レベルの程よい無能みたいです。
でも現時点では、うちのサイトの主流(クソ)に進むか、非主流(マトモ)に進むかは、まだ判断がつきかねますね。
これから見極めたいと思います(ニヤリ)。
次話を心待ちにしましょう♪
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その際、さり気なく、「ジゴロ」の執筆も頑張って♪・・・って、シツコイ!(爆)