新世紀エヴァンゲリオン 〜The place at which a wind arrives〜

第五話 紫のシルフィード

presented by tai様












 『ソレ』がその存在―――――シンジを感知したのは、彼がケージに入ってきたときだった

 彼はただそこにいるだけ

 なのに『ソレ』はシンジに興味を持った

 それはシンジから視えてくる―――――否、流れてくるモノを感じ取れたから

 それは『ソレ』にとって初めての興味という感情だったのかもしれない















 ん? ここは…………

 ああ、なるほど。ここがアイツのナカってわけか

 へえ、さっき感じた通りだね…………存在が二つ在る

 眠っている―――――いや、眠りながら起きている、か。こっちがさっき腕を伸ばしたってわけか

 まあ、それも興味がないわけじゃないけど、僕が気になるのは―――――













 その存在―――――シンジという名前らしい、は『ソレ』の体の中に入ると、続いてナカに入ってきた

 そしてナカに存在するもう一つの―――――おそらく、シンジに深く関係するであろう存在を一瞥するとこちらを見た



 「僕の名前は碇シンジ。君の名は?」



 シンジは『ソレ』に問い掛けた。

 『ソレ』は戸惑う、何故ならば『ソレ』はコミュニケーションの仕方などしらない

 それ以前に名前などない―――――外の存在達はエヴァ初号機などと呼んではいたが

 そんな『ソレ』の心を読み取ったのか、シンジは苦笑すると



 「じゃあ、僕がキミの名前をつけても良いかな?」















 面白い

 コイツはまるで先程会ったレイという少女と似ている

 詳しくはわからないけど存在そのものも似ているというか…………ま、その辺りはどうでもいいんだけど

 しかしこの場所は色々あるなぁ、ひょっとしてこれが彼らの狙いなのかな? ま、教えてはくれないんだろうけど

 さて、名前だったね。うーん、つい流れというかノリで提案しちゃったなぁ

 これは真面目に考えないとね、なんか僕にしては珍しいし―――――そうだ!














 「シルフィード、キミのことはこれからそう呼ばせてもらうね。風の妖精って意味だよ…………ま、完全に僕の趣味だけどね?」















 ウオオオォ―――――ン!!!



 「な、何っ!?」

 「エヴァが…………吼えた!?」

 『初号機、顎部ジョイント破損!!』

 「まさか、暴走!?」

 『いえ、パイロットの脳波、脈拍共に正常。シンクロ率も0%のままです! 

  あっ、シ、シンクロ率400%!? え、また0%に!?』

 「なんですって!?」



 大騒ぎの発令所。

 動きはしないはずの初号機がいきなり吼える、シンクロ率は理論限界値まで跳ね上がったと思えばまた戻る。

 なのにパイロットの状態は変わらないなどと仰天尽くしだった。

 まあ、パイロットの脳波や脈拍が普通なのはシンジが寝ているからなのだがそれに気がつく余裕はないらしい。



 「回線開いて!」



 流石に指揮官だけあって瞬時に冷静さを取り戻した―――――事態に全くついていけなかっただけという説もあるが、

 ミサトが命ずる。



 『駄目です! 回線開けません。いえ、それどころかモニターまで途切れました! これでは初号機内部の様子が一切不明です!』



 長髪を振り乱しながらオペレーターの一人、青葉シゲルが悲鳴のような報告を各人の耳に届けた。















 「…………嬉しいの?」



 ポツリ、と呟いたのは医務室に担ぎ込まれ、治療を受けながらじっと初号機の映っているモニターを見る綾波レイだった。

 その呟きは誰の耳にも届くことはなかったが、その呟きには何故か羨望の念が感じられる。

 もっとも、それは本人すら気がつかないほどの僅かな揺らめきだったのだが。



 「あなたは…………誰?」



 その呟きは喧騒の渦へと消えた。















 『赤木博士、何をしている。初号機は動いた、ならば発進させるのだ』

 「い、いえ。ですがこれははっきり言って異常です! 確かに動きはしたもののパイロットの状態は不明。

  このまま発進させたのでは一体どうなるか―――――」

 『信じろ』



 発令所に重く響くゲンドウの声。

 信じろ、それは己のシナリオへの絶対の自信なのか。それともユイへ対してのことなのか。

 少なくともシンジを、という意味ではないことは側に控える冬月の表情を見れば一目瞭然だった。

 無論、冬月以外にそれを見ていたものはいないのだが。



 だが、切羽詰っていた発令所のメンバーにはその言葉は偉大なる天啓だった。

 彼らには「初号機を信じろ」「俺の息子を信じろ」、そう聞こえたに違いない。

 もっとも、これはカルト教団の集団洗脳となんら変わりないのだが。

 なんせ人間は閉鎖的空間で極限状態に追い込まれれば、道を指し示した存在に従ってしまうもの。

 冷静に考えれば見た目からして怪しい髭面の親父が、素人同然の息子を信じろといって信じる馬鹿はいない。

 現に、例外たる約一名の白衣の女性は冷笑を持ってその台詞を聞いていたのだし。



 「エヴァンゲリオン初号機発進準備!!」



 だが、ゲンドウの言葉に迷いを振り切ったミサトの宣言を皮切りに慌ただしく発進準備が進められる。

 そう、全てはゲンドウの目論見通りに。



 『第一ロックボルト外せ!』

 『解除、続いてアンビリカルブリッジ移動!』

 『第一、第二拘束具除去』

 『第3第4拘束具除去』

 『1番から15番までの安全装置解除』

 『内部電源充電完了、外部コンセント異常なし』

 『エヴァンゲリオン初号機、射出口へ』

 『進路クリアー、オールグリーン! 発進準備完了』



 「よろしいですね」



 ゲンドウへ確認を取るミサト。

 シンジは無視なのか、と思うがシンジとの交信ができないこの状況では何の問題もなかったりする。

 だからといってシンジに注意を向けないのもどうかと思うが。



 『勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い』



 ゲンドウの重い声が再び響いた。

 その言葉の表面にはただ一人の妻のために未来を潰さんとする彼の想いは欠片も感じられない。

 ミサトの頭の中では、この時点でシンジのことは吹き飛んでいる。

 そう、そこに込められていたのは父への万感の想いのみ。

 碇ゲンドウに葛城ミサト、両者の執念とも言える想いはどこまでも固く、そして悲しいものだった。



 「発進!!」















 「ふむ、どうやらようやく始まるようだね」



 サキエルの前方に射出され、安全装置や拘束具を外されていく初号機を見つつ呟くカヲル。

 何時の間に移動したのか、そこはサキエルと初号機からやや離れた瓦礫の上だった。

 腕にはお姫様抱っこで抱えられる一人の小学生くらいの気絶した少女。

 どうやら瓦礫の下敷きになっていたのを助けたらしい。

 もっとも、瓦礫の下になっていたせいかその片足は折れているようだが。



 「サキエル、君と同じく『アダム』より産まれし者として君が滅びていくのを見るのは忍びないが…………許しておくれよ?

  君達の存在が世界の意思だというのならば、シンジ君もまた世界の意思たる存在なのだから。

  そして君が水と嵐を冠する存在であるように―――――僕も自由意志を冠する存在だからね」



 そう言うとウインクをサキエルに送るカヲル。

 無論、もはや初号機しか見えていないサキエルにそれは届かなかっただろうが…………

 それが、カヲルの餞別だったのだろう。



 ―――――そう、滅びゆく存在への















 「何故、睨み合っているの…………」



 発令所にてリツコの呟きが響く。

 そう、初号機射出から既に数分たったにも関わらず初号機、サキエルは共に動きを見せないのだ。

 サキエルはともかくとしても、初号機は拘束具が解除されても立っている以上、起動はしているはずなのだが。



 「シンジ君、まずは歩いて…………って聞こえないんだっけ。あー、もう! どうでもいいから繋がってよー!!」



 そのすぐ近くで通信機に向かって怒鳴っているのはミサトだった。

 発進させたのはいいが、通信できないとあっては指揮以前の話だとようやく気がついた模様。



 「マヤ、通信やモニターはまだ繋がらないの?」

 『はい、一切の理由は不明ですがエントリープラグ内部の様子を確認することは依然不可能です』

 「…………私たちはこうして外部モニターから見守ることしかできないというわけね」



 無様ね、と小声で呟くリツコ。

 もうこうなると本気で神頼みしかない。

 といっても相手である使徒は神の使いとされる存在である。

 ならば私たちが祈る碇シンジは悪魔ってことになるわね―――――それは流石におかしいか、と苦笑するリツコ。



 そんなリツコの耳に、事態の急転を告げるオペレーターの一人たる日向マコトの報告が届いた。



 『使徒、動き始めました!!』















 使徒―――――サキエルは混乱していた。

 アダムを求め進んでいたところに同属たる存在の波動を感知。

 わけもわからず戸惑っていたが優先事項を思い出し、再び進攻を再開した矢先に今度は謎の機体が目の前に現れた。

 しかもその機体からも何がしかの同様の波動が感じられ、しかもただ立っているだけで先程のような攻撃もしてこない。



 そうしてしばらく戸惑いで動きを止めていたサキエルだったが、アレは自分の進攻を妨げる位置にいる。

 ならばアレは障害である、と認識しソレ―――――初号機に襲い掛かる。



 それが自分の消滅を意味するということも知らずに。















 「あれ? なんかアイツこっちに襲い掛かってくるように見えるんだけど…………」



 初号機改めシルフィードのプラグ内にて、目覚めて早々危機感ゼロの台詞を発するシンジ。

 先程、シンクロ率が400%に跳ね上がった際にシルフィードに吸収されかかったのだが

 彼自身の力か、はたまた吸収という形でのコンタクトを嫌がったシルフィードのせいなのか彼の体は無事だった。

 先程まではLCLって体ふやけないかなぁ、などと場違いなことを考えていたが。



 「とりあえず…………避けようか。え、アイツってこっちを敵と認識してるの? だから避けても襲ってくる?

  参ったなぁ、暴力は好きじゃないんだけど」



 緊急事態であるにも関わらず腕を組んで考え込むシンジ。

 既に使徒の攻撃が達するまで数秒もないだろう。



 「へー、今僕とシルフィードは一体化してるようなもんなの? ってことは攻撃されれば当然痛いよね。

  …………うーん、しょうがないか。ここは―――――」



 やれやれ、とシンジは眼前のサキエルを見据えた。

 その瞳には戦闘への興奮も怯えもなく―――――ただ、面倒くさそうに。















 「―――――丁重にお帰り願おうか」










To be continued...


(あとがき)

サブタイトルは某漫画のパクリです。わかる人は少ないかもしれませんが(笑)
ストックが切れました。更新速度が落ちる……(汗
前回の予告通りではありませんが何気にカヲル君が女の子を助けてます、誰でしょうねー彼女(バレバレ?)
ちなみにミサトが「死なないでよ」と言わなかったのはゲンドウの台詞故にですね。
ゲンドウ、皆を局所的とはいえ洗脳してます。怪しい教団の教祖みたいだ(笑)
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