使徒と死徒の邂逅

第弐話

presented by 焚音様


「エントリープラグ挿入!」
「ケージ内全てドッキング位置。パイロットエントリープラグ内コックピット位置に付きました」
「プラグ固定終了!」
「第一次接続開始!!」
「LCL注入!」
すると、足元からLCLと呼ばれた液体が溢れ出してきた。
「あの、なんか水漏れしてきましたよ。欠陥じゃないんですか?」
金槌なシンジにとって水中は死活問題なのである。
そもそも死徒の大半が流水は苦手だ。
「違うわ。それはLCLと言って、肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ」
リツコの説明を聞き、シンジは口の空気を吐き出すと、訝しげな表情をみせる。
「血の匂いと味がする・・・(間違いなくこれは血だな。それにしても吸った事のない味だ・・・人間の血の味に近いが、人間のとは少し違うなぁ・・・)」
「我慢しなさい!男の子でしょっ!」
シンジの呟きに、ミサトが横槍を入れる。
「五月蝿いです(考えている最中に横槍入れるなよな)。大体、血の匂いと味は嫌いとは言っていません。寧ろ血の味は好きな方ですが。人を罵倒している時間があったら、作戦の一つでも考えたらどうですか?」
「くっ!」
周りから白い目がミサトに集中する。
「ミサト、シンジ君の言う通りよ。今は起動の最中なんだからシンジ君に余計なプレッシャーを与えないで頂戴!」
「わ、分かったわよ。そんなに怒ることないじゃない・・・」
周りの白い目とリツコの叱責にしぶしぶ引き下がるミサト。
そんなミサトを尻目に、淡々と作業が続いていく。
「主電源接続!」
「全回路動力伝達!」
「第二次コンタクト開始!」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」
「初期コンタクト全て問題無し!双方向回線開きます。シンクロ率、え?」
目の前のモニタを見ていた黒髪のショートカットの女性が困惑の表情をみせる。
「どうしたの、マヤ?」
「あ・・・はいっ、あの・・・・・・」
「?」
「・・・シンクロ率、100%」
発令所が静まりかえる
「そんな!!プラグスーツもなしにいきなりなんて・・・ありえないわ・・・」
その数値にリツコはいたく驚く。
しかし、次の瞬間、発令所は混沌と化した。
「!!シンクロ急上昇!150・・・190・・・」
「まさか、暴走!?マヤ、シンクロカット急いで!」
「はい、シンクロカットします!ダメです!パルス拒絶!!反応ありません!!」
「そんな、何が起こっているというの・・・」
リツコの呟きに答えられるものはいなかった。



―――シンジ視点―――

シンクロを開始した直後、シンジは妙な違和感を感じていた。
(あれ?なんか、ものすごく中に引き寄せられている感じがする・・・誰かが僕を呼ぶ声がする)
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『そこにいるのだれ?』
「え、僕は碇シンジだけど君は?」
『わたしには、なまえがない・・・』
「そう、ねぇ、今君の居るところに行けないないかな?」
『きてくれるの?』
「うん、行けたらだけど・・・どうやったら行けるかな?」
『それじゃあめをつぶってて、いまよぶから』
その声に言われ、シンジは目を瞑った。
すると、暖かく包まれるような感覚がシンジを巡った。
『もういいよ』
シンジが目を開けると、そこには紅い夕焼けの様な世界が広がっていた。
「ここは・・・」
シンジは周りを見渡すと、目の前に紫色の長い髪と紫色の瞳をした4,5歳くらいの少女がいた。その少女は服も何も身につけていなかった。
そして、すぐ近くにどこかで見たような覚えのある女性もいた。
『シンジ?まさかシンジなの!?』
その女性はシンジを見てかなり驚いている。
「えっと、確かにシンジですが、どちら様でしょうか?」
『まさか、私を忘れちゃったの?でも、10年も会ってないんだし、覚えてないのも当然よね・・・』
女性はかなり落ち込んでいたが、すぐに気を持ち直した。
『私よ、碇ユイよ、あなたの母親の』
「ああ、遺伝子提供者ですか」
かなりきつい事を言うシンジ。
『そんな!!私、シンジに嫌われたの・・・?』
「いえ、今更母親と言われましても何も感慨ないんで・・・碇ユイさん」
「お母さんと呼んですら貰えないの・・・」
ついにいじけ出し、隅っこで、のの字書いている。
「まぁ、あれは置いといて、君だよね?僕を呼んだの?」
少女に向き直り、微笑みながら、優しく問いかける。
「初めまして、えっと・・・初号機?」
「・・・・・・その名前やだ・・・」
少女はフルフルと首を横に振る。
その仕種は見ていて可愛らしく、微笑ましい。
「まぁ、そうだよね。女の子が初号機なんて嫌に決まってるよね・・・それじゃあ、僕が名前を付けてあげるね」
そう言うと、シンジは考え込んだ。
「ん〜・・・【ミコト】はどうかな?漢字で書くと【命】。あまり、僕の様になって欲しくないからね・・・そういう意味も込めて、命を尊ぶ人になって欲しいという意味で付けたんだけどどうかな?」
『ミコト・・・ミコト・・・わたしのなまえがミコト・・・』
ミコトは自分の名前を刻み込むように、付けられた名前を繰り返し呟く。
「えっと、嫌だった?」
『ちがう、すごくうれしい』
「そう、気に入ってもらえたみたいだね」
『ありがとう、パパ』
ん?イマナンテイッタ?
「聞き間違いかな?パパと聞こえたような・・・」
『うん、パパ!私に名前をつけてくれた。だからパパ』
「パ、パパ・・・まぁ、ミコトがそう呼びたいなら構わないけど・・・そういえば、ミコトはここから出れないの?」
『うん、私は魂だけで実体がないの・・・ここでは形はあるけれど、外に出たら私は消えちゃうんだ・・・』
ミコトは悲しく俯く。
「ん〜・・・出来るかもしれない。(第三魔法【魂の具現化】の使い手がいれば自分がしようとしているのよりは成功率は高いんだが、都合よく居るわけないし・・・分は悪いがこれに賭けるしかないか・・・)」
「ホントに!?」
「出来るかは、4割程度。失敗すればそのまま消滅するかもしれないよ。それでもする?」
「うん。ここに居るよりはましだよ。それにパパなら絶対出来る気がする」
「わかった、始めるよ」
シンジが何かを始めようとした時、今までいじけていたユイが慌てた表情をみせる。
「ちょっと、シンジ何をする気!?」
「五月蝿いですから、ちょっと黙ってて下さい。集中力が乱れます」
シンジはユイを黙らせると、何かを呟き始めた。
     全ては血で出来ている
『――All lives with blood――』

すると、どこからともなく、紅い液体が出現する。
そして、その紅い液体はどんどん形取っていき、猫(モデルは某絶倫眼鏡君に懐いている黒い猫)が現れた。
それを見ていた、ユイは驚き声にも出せないでいる。ミコトの方は『かわいい』と言いながら、驚きよりも嬉しさの方が勝っているようだ。
「まず、説明するよ」
そう言うと、シンジは何処からともなく取り出した眼鏡を掛け、説明を始める。
「これは、僕が作った魂のない猫。魂をそのまま物質化するのはまず出来ないから、ちょっと遠回りな手順を踏んでする事になる。それで、この猫にミコトの魂を転移させて、その後、ここから出た後に、さっき僕がやった様に、ミコトの肉体を作って、その肉体に魂を移し変える。と、まぁこんな感じだけど何か質問あるかな?」
「はい!」
ユイが手を挙げている。
「またですか・・・何です?」
「彼方、ホントにシンジなの?子供の頃はそんな髪と眼していなかったのに・・・」
「質問する内容がズレていますが、まぁいいでしょう。確かに碇シンジですよ。この姿になった経緯はまだ言いません」
「そう、ところでさっきシンジがやったアレはなんなの?」
「あれは僕が使う能力です」
「もしかして彼方使徒?」
「確かに死徒ですが、彼方が考えている使徒とは違うと思いますよ。正確にいえば僕は吸血鬼と呼ばれるものです」
「きゅ、吸血鬼!!!?」
シンジの言葉に大声をあげるユイ。
「そんな・・・そんなの居るわけ・・・」
「使徒とかいう巨大生物が居るくらいなんですから、吸血鬼ぐらい居たって不思議じゃないでしょ?まぁ、貴女が信じようがしまいが僕には関係ないですが・・・」
「なぜ、シンジが吸血鬼なんかに・・・」
「『なんか』って言い方止めて頂けませんか。僕から言わせて貰えば、傲慢で平気で他人を裏切り陥れる人間の方が罪深いですよ。僕達は、確かに人の血を吸い、時には人を殺します。しかしそれは、私利私欲の為ではなく、生きていく為に血を吸うんです(まぁ、娯楽の為に吸う死徒もいるが・・・)。ですから、彼方にとやかく言われる筋合いはありません」
「ひ〜〜〜ん・・・私がそんなに嫌い?」
「ええ、嫌いです」
orz
シンジに『嫌い』ときっぱり言われユイは膝を付いた。
すると、ずっと側で聞いていたミコトがシンジの裾をクイっと引っ張る。
「ん、どうしたんだい?」
『パパ、きゅうけつきって何?』
ずっと、エヴァの中に居たミコトは吸血鬼というものを知らないらしい。
「そうだね・・・吸血鬼というのは人の血を吸う生き物ってところかな?」
『そうなんだ、じゃあ、パパは血を吸った事あるんだね?』
「そうだね。僕達みたいのは血がないと生きていけないからね。それじゃあ、そろそろ始めるよ。準備はいい、ミコト?」
『うん!』
いい返事だ。どこにも気負いがない・・・
「まず、ちょっと血を採るけどいいかな?」
『なんで?』
「ミコトの肉体を明確に生成する為には、遺伝子の媒介が必要になる。髪の毛とかでもいいんだけど、血の方がより正確に形取り易くなるんだよ」
『う〜ん・・・よくわからないけど、パパに血をあげればいいんだね?』
「まぁ、そうなるかな?」
知識の乏しいミコトではシンジの話しはイマイチよく分からなかったらしい。
「それじゃ、続き行くよ。ちょっと痛いと思うけど我慢しててね」
その言葉にミコトはコクリと頷く。
そしてシンジは、優しく腕を取り、ミコトの腕に小さな傷を付けた。
チクッとした痛みにミコトは顔を顰める。
その様子を見ているシンジは、痛みに耐えているミコトに『幼いのに強いな』と強く感心をした。
シンジは少しでも痛みを和らげる様に、ミコトの頭を撫でて励ましている。
そしてシンジは傷を付けた腕から血を吸い上げ、ルーンの文字が書かれた小瓶をポケットから取り出し、吸い出した血を、その小瓶に入れ厳重に封をする。
「まず、第一工程終了。次は・・・」
次に、魂の無い猫を手に取りその猫をミコトに渡す。
「ミコト、この猫を抱きつく様に持ってて」
『うん』
シンジに言われ、ミコトは猫に抱き付き、シンジが小さく声を発するとミコトの体がどんどん薄れて行き、最後には肉体が無くなり、魂の無かった猫が突然動き出した。
「ふぅ、第二工程終了。あとは、ミコトの肉体を作って、魂をその肉体に移し変えるだけだね。どう、体に違和感ない?」
『うん♪うわぁ、私猫になっちゃった♪』
猫になってミコトは結構喜んでいるようだ。
「さて、そろそろ戻らないといけないんだけど、どうすればいい?」
『えっと、戻りたいと思えば戻れるよ』
「分かった。ああ、そうそう碇ユイさん彼方もここから出しますから」
突然ユイに話しが振られ、膝を付いていたユイが起動を始める。
・・・というか、まだ落ち込んでいたのか・・・息子に嫌いと言われ相当落ち込んでいたのだろう。
「え?ちょ、ちょっとそんな事したらエヴァが動かなくなるわ」
「んん〜大丈夫でしょう。幸い血(LCL)が満たされているみたいですから、動かすの可能だと思いますよ。血は僕の制御下なので・・・」
そう言うと、ユイの有無を言わさず事を始めるシンジ。
さっきミコトにやった様に、紅い液体が出現し、今度は紅い液体から犬(モデルはチワワサイズのプライミッツ・マーダー)が現れ、ユイの血を吸い上げ、牛乳瓶に封をする。
ユイはミコトと扱いが違うのを感じ、さめざめと涙を流している。
ユイはその事を訴えたがシンジに無視され三度轟沈する。
「さて、やることはやったから戻るかな・・・」
シンジは一人呟き、目を閉じ元の世界に戻っていた。
「さぁ、楽しいショーの始まりと行きますか・・・」
と、誰にも聞かれる事なく呟くのだった。



To be continued...


(あとがき)

あれ?ホトンド進んでないな・・・大体がエヴァの中での話しだし・・・
予定では、戦闘も行う筈だったんですが・・・
なんかシンジの技ちょっと強引だったかな?魔法に近いような気がする・・・
さて、突然ですが2015年版の死徒二十七祖表です。
第一位:プライミッツ・マーダー『霊長の殺人者』
第二位:the dark six『六王権』
第三位:朱い月のブリュンスタッド
第四位:キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ『魔道元帥』
第五位:O R T
第六位:リィゾ=バール・シュトラウト『黒騎士』
第七位:腑海林アインナッシュ
第八位:フィナ=ヴラド・スヴェルデン『白騎士』
第九位:アルトルージュ・ブリュンスタッド『死徒の姫君』
第十位:ナナヤ『殺人貴』ネロ・カオスを滅ばした為空席になった為祖についた。
アルクに血を吸われそのまま死徒になった。アルクの相棒。
第十一位:スタンローブ・カルハイン『捕食公爵』
第十二位:シンジ・アンカー『紅騎士』
西欧ではアンカー=碇と呼ばれている
第十三:シオン・エルトナム・アトラシア 
前祖が滅ぼされ、死徒であるシオンが祖についた。
第十四位:ヴァン=フェム『魔城』
第十五位:リタ:ロジィーアン
第十六位:グランスルグ・ブラックモア『黒翼公』
第十七位:トラフィム・オーテンロッゼ『白翼公』
第十八位:エンハウンス『復讐騎』
第十九位:アキハ『紅・赤・朱』正確には死徒ではないが血を吸う事から祖になった。
第二十位:メレム・ソロモン『王冠』
第二十一位:スミレ『水魔』
第二十二位:サツキ『枯渇庭園』アルクルートなので『殺人貴』に滅ぼされていない。
第二十四位:エル・ナハト
第二十七位:コーバック・アルカトラス『千年錠』
ロアは滅ぼされている。
以上です。結構祖が埋まっているような・・・

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