使徒と死徒の邂逅

第参話

presented by 焚音様


シンジが元の世界に戻ると、発令所は再び混乱に陥っていた。
「先輩!シンクロ率がどんどん下がって行きます!」
「なんですって!?」
リツコがキーボードを鬼気として盤上を走らせるが現状は変わらない。
痺れを切らしたミサトがリツコに詰め寄って行く。
「ちょっとリツコ、これはどういう事なの!!」
「私だって知らないわよ!!それに、今は気が散るから話し掛けないでちょうだい!!」
リツコがイライラした口調で言い返す。
すると、オペレーターの方から更に慌てた様子でリツコに言う。
「シンクロ率が下がりに下がりきって現在シンクロ率0%!」
「0%!?そんなのありえないわ!(自分の母親に何も関心ないと言うの?)」
まぁ、本質を言ってしまえば、エヴァの中にそのまま居れば当然シンクロ出来たが、現在はシンジがエヴァの中に居るシンクロする対象を取り除いた為、シンクロ率が0%なのである。しかし、0%でも、現在はエヴァ全体がシンジの支配下なので動かすのは可能だ。
そんな事を知る由もないネルフ関係者は、慌てふためくばかりなのである。



「ふむ、暴走したかと思えば次は0%か・・・これは些か問題ではないのか?」
冬月はゲンドウに皮肉を浴びせる。
「くっ、使えん奴め」
「これでは、計画もままならんな」
ネルフのトップは溜め息を付くばかりである。






戻って来てからずっと沈黙を保っていたシンジが口を開いた。
「あの〜まだですか〜?いい加減退屈なんですが・・・」
いきなり動かすても構わないのだが、それだと怪しまれる(すでに怪しさ爆発だが・・・)
ので、取り敢えず動かし方を聞いておく。
「ちょ、ちょっと待っててくれない?」
「いい加減、飽きてきたので出して構わないですよ」
「起動もままならないのにそんな事出来る筈がないわ」
シンジの提案にリツコが否定する。
しかしゲンドウは「いいだろう」と口を挟み、シンジの提案を了承した。
だが、リツコは当然納得する筈もなく反論する。
「何故です、指令!?」
「エヴァに乗って戦えるのは、今のとこシンジしかいない。だから今はシンジの提案に賭けるしかないんだ」
「・・・分かりました」
リツコはあっさり掌を返し、自分の部下に指示を与えていく。





「本当にいいのか?碇・・・」
「シンジが危険になればユイが勘繰って、覚醒するかもしれん」
ゲンドウがシンジの案を了承したのも、全ては自分の妻であるユイの為だけで、シンジの事は何とも思っていない。そこで、都合よくユイが覚醒してくれれば、万々歳なのである。
「そう簡単に上手くいくと思うか?」
「なに、失敗しても生け贄をレイにすればいいだけの話しだ」
「本当にあくどいな・・・」
「いえ、利用するものは利用するなんて当然の事ですよ、冬月先生」
「そうか・・・(自分の息子やレイを道具扱いとは・・・とんだ鬼畜だな)」
ゲンドウの言葉に呆れて曖昧な返事しか出来なかった。





「エヴァンゲリオン初号機!発射準備!!」
シンジに腕を握り潰されて、包帯で蓑虫状態の腕をしたミサトの号令が発令所内に響く。
その腕を見たリツコがコメカミをピクピクさせながら尋ねた。
「その腕大丈夫なの?」
「これが、大丈夫に見える?(ったく、あのガキの所為で・・・)」
「そ、そう・・・」
リツコは冷や汗を垂らしながら曖昧に答えた。だが、すぐに気を持ち直して作業に移った。


『第1ロックボルト解除!』
『解除確認!』
『アンビリカルブリッチ移動開始!』
『第2ロックボルト解除!』
『第1拘束具を除去!』
『同じく第2拘束具を除去!』
『1番から15番までの安全装置を解除』
『内部電源充電完了!』
『外部電源用コンセント異常なし!』
『エヴァ初号機噴射口へ!』
『進路クリア!オールグリーン!』
『発射準備完了!』
『了解!』
ミサトはゲンドウの方を向き確認をする。
「構いませんね?」
「勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」

「エヴァンゲリオン初号機、発進!!」
ミサトの声と共に噴出されるエヴァを眺めながらポツリと呟いた。
「少しは痛い目に遭って反省しろってぇの」
幸いミサトの呟きを聞いた者は誰もいなかった。




――第三新東京市街――――――――――――
「シンジ君、準備はいいわね?」
「・・・いつでも」
モニターには、第三新東京市内へと侵入する使徒の姿がはっきりと映る。
「最終安全装置、解除!」
「エヴァンゲリオン初号機リフト・オフ!」
「シンジ君、まずは歩く事だけ考えて」
初めての事で緊張しているであろうシンジにリツコは指示を出す。
しかし、シンジはリツコ指示に難色示した。
「それは不効率です。敵が前に居るのに歩けは、可也不効率です。操縦の仕方だけ教えて下さい」
しかし、シンジの言い分はミサトによって妨害された。
「ふざけないで!これは遊びじゃないのよ。ど素人が生意気な事言ってないで、私達の指示に従いなさい!」
「・・・ふぅ、貴方の指示を受けていたら命が幾らあっても足りません。黙っていて下さい。それで、赤木さんどうすれば動かせます?」
「なんですって、この糞ガキ!いい加減私の命令を聞けっていってんのよ!」
シンジの反論にミサトは暴言を吐くが、シンジは全くミサトを相手にしていない。
「ちょっと、ミサト落ち着きなさい。取り敢えず自分が思った通りに考えれば、エヴァは動くわ」
「分かりました。ところで、あの使徒とやらの名前ってあるんですか?」
「一応、サキエルという名前があるわ」
「へぇ。そういう意味の使徒。神の使い走りってわけですか(面白い、使徒と死徒どっちが強いか試してやろうじゃない)」
シンジは天使と魔、対極に位置する存在の人外同志にどっちが強いか純粋に試したくなった。
シンジは別に戦闘狂というわけではないが、時たま、自分がどれ程強いのか試したくなる時があり、幻想種だったり死徒二十七祖の一角と遭ったりすると気分が高揚し、純粋な闘いを挑む時があるのだが、今のシンジの状態がまさにそれ。
絶対逢う事はないであろう存在に年甲斐にもなくワクワクしているのだ。
「(しかし、天使に素手はちときついな)赤木さん、あの使徒と戦う為の武器類はなにかないですか?(剣があれば嬉しいんだが・・・)あと、弱点とかってないんですか?」
「あるにはあるわ。武器にプログレッシブナイフ、略してプログナイフというものがあるわ。他のはまだ開発中なのよ。使徒の弱点は体内にコアという物体があるからそれを狙えば使徒は殲滅出来るわ」
「そうですか(・・・弱点が分かったとはいえ、天使相手にナイフと体術でどうにかしろと?日中では死徒としてまともな力出せないからな・・・・・・しかし、ナイフか・・・・・・お、アレが使えるな。得意武器ではないが、なんとかなるか。志貴さん、アレ使わせてもらいます)。」
そして、シンジはプログナイフを逆手に持ち、シンジは凍えるような口調で言葉を発した。

「この、吾が踊る劇場にお招き頂き誠に有難う御座います。
 
劇中の私語、携帯電話の使用は、他のお客様、並びに出演者に大変なご迷惑になりますので、慎む様お願い致します。

それでは、碇 シンジが織り成す舞踊を篤と御覧あれ。

吾はヒトの生き血を啜る鬼
   ―――ようこそこの素晴らしき殺戮空間へ」


シンジの呟きは発令所内に広く響き渡った。
それを聞いていた発令所内の人達は慌てふためいていた。
「な、なんなのあいつ!?さっきまでと雰囲気違うじゃない!!」
と、ミサトは喚いているが、トップ達は多少は驚いているも、やはりトップというべきか、表情には表れていない。
「後で色々と調べる必要がありそうね」
喚くミサトを尻目にリツコは比較的冷静だった。



「ちっ、奴は本当にシンジなのか?」
「ふむ、容姿が報告書と違うとあったが、性格の方でも違っているか・・・・・・もしかしたらゼーレの差し金かもしれんぞ?或いは他の組織の者かもしれん」
「・・・・・・奴が生き残っていたら尋問するしかないな・・・」
「そう、喋るとは思えないが?」
「その時はシンジを拷問にかける」
「そうか、しかし息子に言うセリフとは思えんな・・・」
「子供なぞユイが帰ってくれば何時でも作れる」
「やれやれ、ユイ君が聞いたら泣くぞ・・・」
「ユイには適当に誤魔化す。それに子供の生殺与奪は創造主である当然の権利だ」
「そうか(こいつは本気で言っているから質が悪い。しかし黙認している私も同罪か・・・)」




――――エヴァ初号機内部――――
そして、無論シンジの肩口で聞いていた猫達(ユイとミコト)の方も慌しかった。
「ちょ、ちょっと口調変わりすぎよ!!殺戮空間ってどういう意味!?」
シンジの突然の口調変わりにユイはわけがわからず慌てふためくばかり。
しかし、ミコトの方は言葉の意味は分かっていないが、シンジの口調を「かっこいい!」と目をキラキラさせていたりする。
「ああ〜、今喋るな。舌噛むぞ・・・」
シンジはユイとミコトに忠告をすると、二匹(人)は静かになり、シンジの一挙一動を確りと目に焼き付けようとしている。
そして、シンジのエヴァでの初陣が始まった。




――――発令所内――――
しばし、シンジの口調変わりに職員は慌てふためいていたが、落ち着きを取り戻し、作戦続行に移った。
「そ、それじゃ、シンジ君まず作戦だけど・・・」
ミサトはシンジに指示を与えようするが、シンジは全く聞いておらず、体制を低くしている。
シンジの無視にミサトはブチ切れた。
「ちょっと!!そこのガキ!命令を聞きなさい!!!」
しかし、シンジは無視。
そして、シンジはミサトが喚いている間に静かに動きだした。
―――閃走・水月―――
初号機はその場から姿を消すと、すぐさま使徒のほぼ真下に現れた。
「蹴り穿つ」
―――閃走・六兎―――
全身のバネをもって放たれる強烈な跳び蹴りが、使徒の腹部に吸い込まれていく。
シンジ(初号機)のいきなりの奇襲に、使徒の持つスキルのATフィールドを張る事はおろか、避ける事すら出来ずに、まともに直撃した。
ズガガガガガン!!!!!!
激しい衝撃音と共にシンジ(初号機)が放った蹴りで使徒は上空に蹴り上げられた。
そしてシンジは透かさず追撃に移った。
「蹴り堕とす」
―――閃走・六魚―――
ドガガン!!ズドドーーーーン!!!!
上空に蹴り上げられた使徒に更に跳び蹴りが加わり、振り上げられた足をそのまま踵落としの要領で振り落とすと、使徒は成す術なく直撃し、使徒はそのまま地面に叩き付けられた。
「なんだ、神の使いと言うからどんなものかと思えば・・・その程度か・・・
汝がその程度の実力ならば、最早汝の死は必然と知れ」

シンジは倒れている使徒に冷めた瞳で使徒を見下ろしている。


その光景を目の当たりにしているネルフの職員達は驚き過ぎて声も出せないでいた。
どうにか、ネルフのトップ達は逸早く再起動を果たしたが・・・
「碇、これは、少しどころか可也まずいのではないか?」
「も、問題ない」
「本当にそう思うか?」
「・・・・・・」
焦りの表情は消えていなかった。
「な、なんなの?あの動きは・・・シンクロ率0%なのに・・・それにアスカですらあんな動きは出来ないというのに・・・シンジ君って何者?」
因みに、シンジの間近にいた猫達は初号機のあまりの動きに目を回して倒れていた。
そんな重苦しい空気の中、全く空気を読めていない『ネルフのお荷物』ミサトが騒ぎ出した。
「ちょっと、アンタ!何故私の命令が聞けないのっ!!?さっきのは偶々上手くいったみたいだけど、これは遊びじゃないの!!」
ミサトはシンジが命令を聞かない事に腹を立て、怒鳴りつけるが、流石のシンジも戦闘中に喚いて邪魔ばかりするミサトにブチ切れ、怒鳴り返した。
「・・・少しは黙れ、阿婆擦れが!!戦場に出ていない臆病者が利いた口を叩くな!!臆病者は臆病者らしく部屋の隅でブルブル震えて怖気づいていろ!!!この、無能が!」
「なんですって!!?この糞ガキ!」
「喚いている暇あったら作戦の一つでも立てるんだな」

そう言って、シンジは通信を切ると使徒の方に向き直った。
「さて、神の使いよ、汝の力見せてみよ!」
そして、シンジの言葉が分かったかどうかは知らないが、サキエルが光の槍を放って来た。
しかし、シンジは難なく避けサキエルに向かっていく。
「斬刑に処す」
―――閃鞘・八点衝―――
シンジが放つ無数の斬撃がサキエルを襲う。
しかし、サキエルは予め予測していたのか、赤み帯びた薄い壁を張るとシンジの攻撃は弾かれる。それでもシンジは慌てずバックステップで距離を取り次の攻撃態勢に移る。
「へぇ、やれば出来るじゃないか・・・テンポアップと行こう。ついてこれるか?」
「ATフィールド!!やはり使徒も持っていたのね。あれがある限り使徒を殲滅する事なんて出来ないわ」
(それはどうかな?)
―――閃走・水月―――
再び、初号機が消えると今度は正面ではなくサキエルのすぐ頭上に現れる。
「寝てな!」
―――閃鞘・ハ穿―――
サキエルの頭上に現れたシンジは、サキエルを斬り付け、追撃とばかりにサキエルの背後に着地し、透かさず素早い攻撃が繰り出される。
(七夜縁の者じゃないから極死系や迷獄沙門は出来ないが、吾には吸血鬼としての膂力がある。ATフィールドだったか?多分結界かなんかの亜種なんだろうが、あの程度、吾にとってどうという事はない。一気に決める)
「斬る」
―――閃鞘・七夜―――
サキエルの背後からとんでもない速さですれ違いざまに斬りつけ、すぐに方向転換しサキエルに突っ込んで行く。
「捌く」
―――閃鞘・一風―――
シンジはサキエルの首元を攫むと全体重を掛け脳天から叩きつけ、倒れたところをそのままサキエルのコアにプログナイフを突き立てた。
しかしサキエルは、最後の足掻きと言わんばかりに自爆を試みようとしていた。
その反応に気付いたシンジは、すぐさま距離を取り、誰にも気付かれない様に結界を張った。
その直後『ドーン!』と大きい爆発音が轟いたがシンジは結界を張っていた為ダメージはなく、使徒殲滅と共に発令所内は【わぁああ!!!】と歓声に包まれた。
そしてシンジは、消える前までそこに使徒が居た場所に向かいコアの欠片を拾うと、シンジは自爆によって出来たクレーターを見下ろし、ゆったりと呟いた。
「その魂、極彩と散るがいい。
          毒々しい輝きならば、誘蛾の役割は果たせるだろう」



To be continued...


(あとがき)

どうも、久々の投稿です。
シンジの戦闘中の口調アチャ語(アーチャー語録、アーチャー語)+七夜になってますね。
アチャ語とか七夜の言葉はかなり好きで結構使用してますね・・・更に一人称も僕から吾になってます。
さて、次回はレイとシンジの邂逅ですね。
シンジの本来の闘い方は剣を使った閃鞘ですね。我流になります。何か技名ありましたら募集します。第4使徒戦で使おうと思っています。
言い方として「剣技我流 閃鞘・○○」みたいな感じですね。
それではまた次回。

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