新起動世紀ヱヴァンガル改

第十一話 スカウト・・・

presented by とりもち様





 某所・・・

 ある喫茶店に入って、マナとマユミがお茶をしていた。

 因みに、ある仕事を終えて、別の仕事をしているシンジ達と、ココで待ち合わせているのである。

「いやぁ〜比較的に楽だったよねぇ〜」

 アップルジュースを飲みながら、マナがそう言った。

 因みに、中学生バージョンである。

 どうやら、この姿で仕事をしていたらしい。

「まぁ、少し、手遅れな部分もありましたが・・・」

 紅茶を飲みながら、残念そうに、マユミがそう言った。

 因みに、こちらは、高校生か、大学生バージョンである。

「仕方ないでしょ。
 アレは自爆、本人が悪いんだし」

 マナがどことなく、呆れたようにそう言った。

「それも、そうですね〜
 でも、シンジさん達は、どこに行ったんでしょうか?」

「シンジは、スカウトって言っていたけど・・・
 本来、居る場所に居なかったらしいから、探しているらしいわ」

 誰をスカウトすると言うのであろうか?
(バレバレ?)

「そんな・・・・・・
 お約束を破る人なんて、信用できるのですか?」

 マユミは眉を顰めながらそう言った。

「ん〜私もその事については聞いたんだけどね。
 なんか、約束はしてなかったらしいよ」

 マナはマユミにそう言った。

「あら、お約束をしていなかったんですか?」

 不思議そうに、マユミがそう聞いた。

 シンジが、仕事関係で、自分から会うのに、アポもとらないとは珍しいからだ。

「まぁ、相手は出来ない状態だったらしいからねぇ〜」

「どんな人なんですか?」

「う〜ん、内緒って事で、詳しくは教えてくれなかったから、わからないけど・・・
 シンジは、楽しそうだったから、面白い人である事は間違いないでしょ♪
 『だから、態々、地獄から連れ出してあげるんだ』っていってたし♪」

 からんころ〜ん

 喫茶店にサングラスをかけた2人の大人の女性が、入ってきた。

「マナ、マユミ、終わったから、帰るよ」

 女性の1人が、2人に声をかけてきた。

 どうやら、こちらはカヲルらしい。

「シンジ君は、交渉相手を連れて、直接帰るって・・・
 私達も、用事終わったから、帰るわ。
 外で待っているから、早く来て・・・」

 もう1人の女性もそういった。

 こちらはレイである。

「「はぁ〜い」」

 マナとマユミはそう返事を、伝票を持つと、レジの方に走り、 会計を済ませると、一緒に出て行った。





 その頃・・・

「ドイツで大学まで卒業した私が、
何で、態々、日本の中学になんかに、
行かないといけないのよ!」


 ベッドの上で、不満そうにアスカがそう言った。

「そうは言ってもね、コレはリハビリの一環でもあるし・・・」

 説得しているのは、リツコである。

 因みに、転入届はマヤに出させている。

「私に、必要は無いわ!」

 ムスッとしながら、アスカがそう言った。

「でも、貴女、未だ、前回の使徒戦の事、ロクに思い出させないんでしょう?
(まぁ、思い出されても困るけどね・・・)」

 そんな事を言いつつも、リツコは、アスカの意識がハッキリしていない内に、 思い出さないように暗示をかけていた。

「うっ・・・」

 リツコにそう突っ込まれて、アスカは言葉を濁す。

「それだけではなく、貴女も訓練漬けで暮らしたくないでしょう?」

「どういう事?」

 リツコの言葉に、アスカが怪訝な顔をする。

「まぁ、あんまり言いたくないけどね。
 ミサトよ」

「ミサトぉ〜?」

 アスカは眉を更に顰めてそう言った。

「そう、最近、色々あってね・・・
 あんまり言いたくないんだけど、チルドレンにあたるようになっているのよ」

「その話は聞いたけど・・・
 本当なの?」

 アスカはそう聞き返した。

「(やっぱり、鈴原君の事を聞いていたわね・・・)」

 リツコはアスカの言葉で、ミサトがトウジを渋滞にした噂が、 所内でかなり広まっている事を確信した。

 ネルフ本部で唯一、積極的に庇う存在日向マコトを、 アッサリ、自分の手で切り捨てたミサトには、ネルフ本部内・・・いや、第三新東京市内には、 本当の意味での味方はおらず、その手の噂は、即座に広まるのである。

 因みに、最近は、リツコでさえ、庇おうとはしない。

 まぁ、それをやると、色んな意味で拙いからであるが・・・

「まぁ、あんまり言いたくないけど、情緒が不安定なのよ」

「・・・ネルフが一度も使徒を倒せてないから?」

 リツコの言葉に、(第四使徒戦の事を覚えていない)アスカが、 気の毒そうに言った。

 自分が敗北した事は知っているのである。

 とは言っても、周りの話によると、ミサトの所為っぽいとだけしか知らない。

「まぁ、貴女が気にする事ではないわ。
 そんなわけで、ミサトは訓練不足の所為とか言い出して、 チルドレンに無茶な事をしそうだから・・・
 それに、アスカ、貴女、未だ漢字、あんまり読めないでしょう」

「うっ・・・」

 リツコの最後の言葉に、アスカが冷や汗を流した。

 図星である。

「いい勉強だと思って、中学で漢字を覚えなさい。
 加持君がココに来るまでに覚えておけば、彼、驚くわよ」

 リツコは報告書から、アスカが加持に特別な感情を持っている事を知っているので、 その事を持ち出した。

「えぇ?!
 加持さんが日本に来るの?!」


 リツコの言葉に、アスカは驚く。

「えぇ、ドイツから、弐号機のパーツとかと共に本部に来るらしいわ」

 その辺りは記述と合わせようとしているのであろう。

「そうなんだ」

 そんな説得があり、アスカは第一中学へ入ることを承諾した。

 尤も、一番の理解者で、親友になれるハズだったヒカリはすでに居ないのだが・・・






 第十六独立連隊極東基地のとある会議室・・・

 シンジが、誰かと話し合いをしていた。

 その後ろで、レイ、マナ、マユミ、カヲルは、黙ってそれを見ている。

 軍服を着ているものの、皆、中学生バージョンである。

 因みに、基本形はこの姿らしい。

 無論、この姿を知る隊員は、碇財団の、しかも、逆行当初からの付き合いがあり、 信頼の厚い者以外、殆どいないが・・・
(因みに3老人碇、皇神、アンダーソンは知っている)

「そういうわけで、君に、この大役をこなして欲しいんだ」

 シンジは、詳しい職務内容の書いた紙を見せる。

 彼は、その紙を持ち、内容を確かめ、シンジの方を見る。

「・・・・・・・・・」

「質問は?」

「・・・・・・・・・」

 マナとマユミは、何故か、冷や汗を流している。

 カヲルも、少々引きつっているが・・・

「うん、無論、三食昼寝付きだし、それなりの環境を整えさせてもらうよ。
 今までの劣悪だった環境を考えれば、格段に条件はいいと思うけど?
 あぁ、当然、給金も確りでるさ、それなりの階級だし」

 シンジはニコニコとしながら、そういった。

 因みに、レイも、ニコニコしている。

 相手は特に喋っていないようなのに、通じているようだ。

「・・・・・・・・・」

「うん、それに、復讐にはちょうど良いんじゃない?
 君もあの女に恨みを持っているだろう。
 まさか、あんな目に遭わせられても、未だ未練があるのかい?」

 シンジはそう言った。

 どうやら、交渉相手は、誰かさんに恨みを持つらしい。

「・・・・・・・・・」

「まぁ、その辺も考えているよ。
 そのために、名前を、チョコッと変えて欲しいんだ」

「・・・・・・・・・」

「大丈夫さ。
 名前が違えば、奴らは簡単に騙される。
 君も、あいつ等と付き合っていて、わかるだろ?
 単なるソックリさんですむさ♪」

「・・・・・・」

 暫く、彼は考えて、シンジの方を見て、頷いた。

「良いんだね。
 それじゃぁ、君の階級だけど、二佐で良いかな?」

「・・・・・・・・・」

 その階級の高さに、彼は驚き、目を見開いた。

「あぁ、大丈夫、それなりの経歴を作っているから・・・
 大丈夫、バレやしないって」

「・・・・・・・・・」

「あぁ、存分にやると良いよ。
 君が出る時は、こっちの要求を呑まざるを得ない時か、 こっちが強引にことを進めて良い時だから・・・
 後、何か条件はあるかい?」

「・・・・・・・・・」

「OK、直ぐに探そう」

「・・・・・・・・・」

「大丈夫、そちらも、保障するって」

「・・・・・・・・・」

 そして、彼が手を伸ばすと、シンジは手を重ね、握手した。

「契約成立だね」

 シンジはそう言って、微笑み、レイもそれを見て微笑んでいたが、 残りの3人は、その顔を引きつらせていた。



 その頃・・・

 ミサトが投獄されている特別室・・・

「うっき〜〜〜!!
 えびちゅえびちゅ!!
 むっき〜〜〜
 そこのズベタ!!
 居るんでしょ!!
 えびちゅを持ってきなさいよ!!
 そしたら、サービスしてやるって言ってるでしょ!!
 えびちゅえびちゅえびちゅぅ〜〜〜!!」


 ミサトが騒ぎ出した。

 えびちゅ切れで、トンでもない事を叫んでいる。

 少しすると・・・

「うるさい!!」

 バスン!!

「ぐぎゃ!」

 覆面をつけ、声を変えているっぽい監視の女性が、騒ぐミサトに、 この部屋に設置されている猫印の 暴徒鎮圧用ゴム銃(下手すると死ぬよ)をぶちかました。

 勿論、角度は変えられるし、射角の影に隠れようとしても、 ついているのが天井だし、複数ある為、そんな安全地帯は無い。

 つまり、監視は上に居るのである。

 ミサト用に作られた特別室である。

 ドガ、ベシ、ガン、バシュ・・・・・・・・・

 更に、止めとばかりに、仲間と共に、動かなくなるまで、何度も撃ち続けた。

 因みに、コレでも、数時間後には元気に動き回るのだから、驚異である。

 勿論、監視している者は、いつもの事なので、慣れてしまい気にしないが・・・

 この事で、ある波動も強くなっているが・・・

 それを知る者はココにはいなかった。





 第十六独立連隊・司令執務室

「シンジ君、チョッと良いかな?」

 彼を訓練室に案内した後、執務室に戻ってきたシンジに、カヲルがそう言った。

「どうしたの?
 カヲル」

 レイが淹れてくれた紅茶を飲みながら、シンジがそうこたえた。

「本気で、彼を採用するのかい?」

 カヲルはそう尋ねた。

「当然じゃないか♪
 あの葛城ミサトに対して、彼以上の適任がいると思うのかい?」

 オーバーなリアクションをしつつ、シンジがそう言った。

 その隣で、レイは頷いている。

 やはり、彼は、ミサトに恨みを持っているようだ。

「確かに、そうなんでしょうけど・・・」

「しかし、彼が表舞台に立ったら、何かと拙くないですか?」

 マナとマユミがそう言った。

「大丈夫・・・
 アンダーソン大元帥が作ってくれた経歴をシンジ君が少し訂正したもの。
 矛盾は無いと思うわ・・・多分・・・
 あとは、コレに彼の新しい名前を入れるんだけ・・・」

 レイがそう言って、手に持っていた書類を3人に見せた。

 しかし、多分と小さく呟いたのが気になる人は多いだろう。

「多少強引な気がしないではないけど・・・」

「まぁ、無理やりな気がしないではないですけど」

 カヲルとマユミがそれを読んでそう言った。

「でも、レイちゃんは、ずるいなぁ〜
 会見前に、シンジと2人で読んでいたんでしょ」

 不服そうに、マナがそう言った。

「いえ、さっき、軽く目を通しただけ・・・
 今、シンジ君から、渡されたばかりだもの」

「「「え゛」」」

 レイの言葉に、残りの3人は、驚く。

 因みに、確かに、レイは、この部屋に来て、書類らしきものを渡されたが、 そのまま直ぐ、お茶の準備をやり始めたので、詳しく読んでいる暇はなかったハズである。

「レイはそんなに驚かなかったけど、皆は十分に驚いたようだね♪」

 どうやら、シンジは3人を驚かせる事が出来て、うれしいらしい。

「何か、おかしいのかしら?」

 不思議そうにレイがそういった。

 皆よりも、常識に疎い分、レイはシンジのこう言う悪戯には動じない。

 カヲルの場合、レイよりも常識を学んでいた為、引っかかるのである。
(その点は、ゼーレの方がゲンドウよりもマシだったのかもしれない)

「「「いや、その・・・(おかしいというか、拙いというか)」」」

 レイの言葉に、3人は冷や汗をながす。

「まぁ、まぁ、彼は有能だから、大丈夫だよ」

 シンジがニコニコしながらそう言った。

「それと、前回、彼の心理知能指数は、軽く150以上はあったらしいわ。
 コレは、マギの中に保管されていたデータにあったわよ。
 それに彼は、一つの問題を除けば、非常に優秀よ。
 鍛えればどんどん伸びるわ」

 レイはそう言った。

 つまり、かなりの逸材なのであろう。

 前回というのは、逆行前の事である。

 因みに、心理知能指数とは、精神年齢×100÷生活年齢で導き出される。
(AQ:心理成就指数とも言う・・・つまり、大抵は90〜110辺りが普通らしい)

 ミサトの場合・・・精神年齢を3才として、生活年齢が29(30でも可)であるから・・・

 3(才)×100÷29(才)≒10.34・・・

 で、約10となる。

 猿以下であろう。

 チンパンジーやゴリラなどの類人猿とは比べる必要も無いくらい低い。

「そう言えば、前回あった時も、彼、凄く賢かったっけ・・・」

 マナが思い出したようにそう言った。

「という事は、前回、実際に会った事がないのは、私とカヲルさんだけなんですね」

 マユミがそう言った。

「ふむ、でも、大丈夫なのかい?
 気付かれないだろうか?」

 カヲルがそう言った。

「大丈夫、その為に名前を変えてもらうんだよ♪
 ソックリさんなだけですむさ♪」

 シンジはお気楽そうにそう言った。

「では、彼の新しい名前を書いて、アンダーソン大元帥に送っておくわ」

 レイがそう言った。

「後は、髭が気付かずに決めるだけだね♪」

 シンジがそう言った。

「確実に決めるさ。
 どうせ、残りは、まともな階級じゃないんだろ?」

 カヲルがそう言った。

「えぇ、もし、他の人を選んだら、その神経を疑われる事になるでしょうね」

 マユミもそう補足する。

「でも、どうなるかなぁ〜
 非常に楽しみだねぇ〜」

 マナも、面白そうにそう言った。






 数日後・・・

 冬月の病室・・・

 何とか意識を取り戻したが、退院を許されていない冬月のところに、 ゲンドウが来ていた。

 無論、見舞い等と言う殊勝な心がけではない。

「・・・なんだ・・・い、六文儀・・・
 これ以上、書類を持ってこられても、俺には処理できんぞ。
 本来、医者にも止められているんだからな」

 一瞬、“碇”と言いそうになった冬月は、“六文儀”と言い直して、 てきぱきと、書類を処理している。

「それは、秘書官に任せてある」

 不服そうにゲンドウはそう言った。

「そうだったな・・・」

 冬月は呆れたように、そう言った。

 実は、先日から、秘書官が来て、ゲンドウが冬月にまわした書類の山を届けたり、 処理した物を持って行ったり来たりとしていた。

 無論、コレが冬月の退院が延びている原因であるが、ゲンドウの命令なので、従うしかない。

「で、なんだ?」

 冬月がそう切り出した。

「国連軍上層部からの経由で、先日話した事の回答があった。
 交渉人は、この中から選べとの事だ」

 ゲンドウはそう言って、あるリストを渡す。

 渡した後、冬月の見舞い品である果物を勝手に取って、食べ始めている。

「ふむ・・・聞いたことのない名前ばかりだな」

 書類を机に置いて、受け取ったリストを見つつ、冬月はそういった。

 因みに、ゲンドウが自分の見舞い品である果物を、なんの断りもなく、 勝手に食べているのを咎め様とはしない。

 無駄だから・・・

 この男に、そういう常識を求めるのは諦めているようだ。

 無論、ゲンドウは見舞いの品など持ってきていない。

 この見舞い品は、入院中なのに、仕事を持ってきた秘書官が、 すまなそうに冬月の為に持ってきた物だ。

「ふん、司令や副司令を交渉人にせんとは、こちらを舐めているな」

 リンゴを食べ終わったゲンドウは、リンゴの芯を床に捨て、 冬月のベッドのシーツで手を拭き、 今度は蜜柑に手を伸ばしながら、そう言った。

 当然、副司令であるレイがやってきたら、無理やり監禁し、 自分の女にする洗脳が終わるまで、知らぬ存ぜぬで通す積りである事は言うまでもない。

 司令がやってきたら、暗殺し、人質にとっているフリをして、向こうを脅す気だ。

 勿論、そんな事をしようとしたら、出来ようが出来まいが、 第十六独立連隊が攻めてくるだけでなく、即、A−801が発令され、 国連軍の全軍が、コレ幸いとネルフ本部に攻めてくる事になることなど、全く考えてもいないが・・・

「・・・(貴様の所為で、警戒されているから、当たり前だろうが)
 で、コレを俺に見せて、何をしろというのだ?」

 ゲンドウの食い散らかす行動や思惑に呆れつつも、冬月はそう言った。
(無論蜜柑の皮は、薄皮も床に捨てている)

「選べ」

「おい・・・」

 端的に言うゲンドウに、流石の冬月も、呆れてそう言った。

「こう言うのは、言いだしっぺで、司令であるお前が決めろ」

 責任を押し付けられないように、冬月はそう言った。

「どう言うのを選べばいい?」

 ゲンドウがそう訊いてきた。

 まぁ、ゲンドウは、交渉に来るのが、 向こうの司令シンジや、 副司令レイでないなら、 誰でもかまわないのだろう。

 尤も、直接来ない事は、この時点では知らないが・・・
(冬月も知らない)

「階級的に、それなりの責任が取れる存在だろう。
 階級が低いのを選べば、色々とつつかれるだろうし・・・
 もしもの時は、あっさり責任逃れで、その人物を切られるだけだから・・・
 そうならないように、それなりの地位の者を選ぶべきだな。
 階級は低くとも、向こうは完全に独立系等だから、 こちらの階級が上でも、強気に出るわけにもいかん。
 あくまで対等の立場しか取れんからな」

 暫く考え、冬月はそういった。

「ふむ・・・では、一等陸士や、軍曹、准尉などは却下か?」

 ゲンドウがそう訊いた。

「当然だろうが・・・
 そう言うのしか載っていないのか?」

 そういいつつ、冬月はもう一度そのリストを見る。

 それには苗字らしきものと階級、それに役職しか載っていない。

 尤も、あの部隊の特異性から考えれば、ここまで丁寧に載っている方が珍しいのだが・・・
(大抵は、あっても役職の一覧だけである)

「いや、二佐で、向こうの特殊諜報第6部の部長というのがある」

 ゲンドウは不服そうにそう言った。

「他は?」

「その部下か、新米だろうな・・・
 階級が尉官以下だ。
 それが嫌なら、国連軍から選抜しろとの事だ」

 ゲンドウはそう言った。

 つまり、向こうは、アカラサマに、その人物以外では、 交渉しないと言っているのである。

「ココから選ばざるを得ないではないか・・・」

 呆れた風に冬月はそう言った。

 いまさら、やっぱ国連軍からなどとやった日には、
ネルフは、自分達で、自分達の面子を潰す事になる。

 それに、今後、何かしら要求しても、今回の事を持ち出され、 却下される事になるだろう。

 それゆえ、是が非でもこの中から選ばなければならないのだ。

 そのことを考えれば、かろうじて、二佐という階級まであるのは、助かったと言える。

 もし、このリストに上級士官が1人も居なければ、 ネルフはかなり、拙い状態になったのであろうから・・・
(政治的に・・・)

 もっとも、そんな事になったら、それを使って、抗議が出来たかもしれないが・・・

 おそらく、様々な理由から、無駄であろう。

 相手の、その存在の特異性から、そう言う事の出来る者が、 士官の階級を持っていなかったと言われれば、それ以上何も言えなくなる。

「まぁ、それを踏まえて、選ぶんだな」

「冬月・・・」

 ゲンドウは冬月を軽く睨むように見た。

「六文儀、まさか、俺に責任を押し付けようとしているのか?
 交渉人を向こうから直接出させるという案は、 貴様が、俺が倒れているうちに、勝手にやったんだろうが」

「・・・ムッ・・・」

 図星を指され、ゲンドウは唸った。

 ココで、“もとよりその積もりだった”とか漏らして、 認めたら、冬月との間が非常に拙くなる事は分かりきった事だからだ。

「ともかく、これ以上、書類を回すな・・・
 俺の回復が遅れて、困るのはお前だろうが・・・」

「分かった・・・」

 ゲンドウはそう言って、勝手に、 冬月への見舞い品の入ったバスケットを持ち、出て行った。

「本気で奴を切って、ゼーレにつくか、一縷望みを託して、バックレてやろうか・・・」

 冬月は、ゲンドウが出て行った扉を睨み、肩を震わせながら、小声でそう呟いた。







 数日後

 参号機が届き、ネルフ本部では、フォース・チルドレン、
トウジによるシンクロ・テストの準備を行っていた。

「やっと、ココまでこぎつけたわね」

 リツコはその様子を見ながら、そう呟いた。

「でも、大丈夫なんですか?
 リハビリもロクに終わっていないんですよ」

 マヤが不安そうに、そう言った。

 実は、クローン培養の足ではなく、現在、トウジは、 リツコとマヤが急ピッチで作った超高性能の義足をつけている。

 この義足は、クローンの足とは違い、痛みなどはないが、 神経系統の電気信号を読み取り、動くため、リハビリさえ済めば、松葉杖無しでも、 歩くのには、あまり支障がないようになっている。
(因みに、走ったりするのは難しい)

 確り、防水加工もしてあるので、LCLの中でも大丈夫だ。

 ただし、大きくなったりしないので、成長期であるトウジにあわせて、 何度も付け替えないといけなくなるであろう。

 無論、そんな事を一々しないで済む様に、同じように成長するクローンの足が完成しだい、 それと付け替える為の手術を行う予定である。

 更に、トウジはずっと入院していた為、未だ学校でアスカに会った事が無かったりする。

「仕方ないでしょう。
 いつ使徒が現れるか、分からないんだから・・・」

 マヤをなだめるようにリツコがそう言うと・・・

「そうよ!
 何甘えた事を言っているのよ!
 時間がないのよ!」


 3日前、やっと出てきたミサトが怒ったようにそう怒鳴りつけた。

 因みに、昨日の夜まで、浴びるようにえびちゅを飲みまくったらしく、 いまだにアルコール臭い。

「「「「誰の所為だと思って居るの(ですか)!!」」」」 ×たくさん

 すると、そこに居た全技術部員(含むリツコ)が、ミサトに怒鳴り返した。

 因みに、ミサトは作戦部長という役職を使って、この実験を無理やり見学している。

 無論、仕事をサボる理由として・・・

 現在、マコトが居ない為、そんな事をすれば、 書類が、加速度的に溜まるばかりであるのだが・・・

「な、なによ」

 流石に怯んだのか、ミサトが少しひきながらそう言った。

「ミサト・・・
 誰が、彼の怪我を悪化させたのかしら?」

 リツコが冷たい目で睨みながら、そう言った。

「え〜!!
 誰がそんな馬鹿なことをしたの?!」


 ミサトが驚き、怒ったようにそういった。

「「「「アンタだろうが!」」」」 ×たくさん

 これ以上無いようなユニゾン率で、ミサト以外の者達がそう叫んだ。

 因みに、ココにミサトが居るため、トウジの方には、 必要以上にこちらの声が行かないように、指示をするとき以外、 回線をトウジからの一方通行にしてある。

 無論、ミサトが居ることで、トウジを不安にさせないようにと、 マヤがリツコにそういって、行っている気配りであるが・・・

 予想以上と言うか、ある意味、予想通りの事で、役に立っているようである。

「え?・・・」

 案の定、自分に都合の悪い事は、完璧に忘れているミサトは、 初耳とばかりに、驚く。

 さすが、狂牛病プリオンで、 脳みそがスカスカになっているくせに、そこに止めを刺すように、 アルコールで、日夜、脳細胞を加速度的に破壊していると言われるだけの事はある。

 鳥頭よりも質が悪いともも言われている。

「まだ、彼が応急の義足をはめたばかりの時!
 訓練とか言って、無理やり訓練所に引きずっていき!
 大怪我させたのは誰?!
 片足で、ロクに動けない中学生相手に!
 軍で鍛えた貴女が!
 思いっきり、やった所為でしょうが!」


 リツコが、怒鳴るようにそう言った。

「へ・・・・・・・」

 クビをかしげるミサト・・・

 全員の目が、かなり冷たい。

「うっ・・・え、え〜っと・・・
 な、何よ、あのくらい・・・
 チョッとしたスキンシップでしょ(汗)」

 何とか思い出したのか、ミサトは焦ったようにそう言った。

「たかがスキンシップで、
肋骨を3本も折るのか?!
 アンタは!」


 リツコがそう怒鳴った。

 そう、ミサトは、訓練とか言って、思いっきり、トウジを痛めつけたのである。

 壁まで吹き飛び、義足まで砕かれたトウジを見て、 驚いた他の訓練中だった保安部員達が、異常を感じ・・・

 殺気を出しつつ、止めを刺そうと、トウジに襲い掛かるミサトを慌てて止めなければ、 トウジは息をしていなかったかもしれない。
(それでも、肋骨3本折れ、あちこちに内出血ができ、 緊急手術が必要な状態になったが・・・)

「え?・・・
 いやぁ〜チョッチ、やりすぎたかも・・・てへ♪」

 周りの目を気にしつつ、ミサトは頭を軽く掻きつつ、お気楽そうにそういった。

「貴女のそのチョッチって、 トンでもなくって意味なの?!」

「・・・・・・・(汗)」

 全員の目が冷たい。

「何よ・・・
 私が悪いって言うの?」

 口を尖らせ、まだブチブチ言うミサト・・・

「「「「「最悪に決まっているでしょだろうが!!」」」」」 ×たくさん

「な、何よ、リツコなら、分かるけど、役職もないあんたらが、 何で偉そうなことを言っているわけ?」

「階級はこちらが上ですし、部も違います」

 不服そうなミサトの言葉に、全体を代表してマヤがカウンターをかます。

 その通り、ココにはミサト以下の階級の者はいなかった。

「何ですって!」

 ミサトは、マヤに向かって、手を上にあげようとするが・・・

 当然、リツコは、今後の事を考え、 “赤木印の超濃縮鎮静剤100倍以上に薄めても、 アフリカゾウが1mlでイチコロよVer.W”の原液が20ml入った注射器を手に握る。

「葛城特務准尉・・・
 言っておきますが、ココで暴力を振るわれるつもりなら、 上官反逆罪を適応されます。
 また、シンクロ・テスト単なる見学者
 しかも、作戦部長権限で、 いきなり途中から飛び入りで入ってきた貴女が、 それを行っている我々の邪魔をするなら・・・
 妨害罪等も適応されます。
 降格程度ではすみませんよ。
(しかも、アルコールを飲んで・・・いったい、どうしてこんなのが・・・)」

 マヤは冷たい目で睨みながらそう言った。

 マヤは、ミサトをかなり嫌うようになっていたので、遠慮がない。

 何せ、初戦や二戦目で、あれだけの失態をやり・・・

 更には、保護しなければならないチルドレンを、戦闘以外で逆に負傷させ・・・

 他部署の仕事を鬼のように増やしているのに・・・

 降格程度で済んでおり、そのまま、平気な顔でココに居座っている。

 しかも、アルコールの臭いを振りまきながら・・・

 更に、聞いた話だと、今までやってきた全ての罪を無理やり、 副官であった日向マコトに押し付けたとも聞く。

 しかも、道路交通違反や、職権乱用、犯罪行為など、明らかに関係がないものまで・・・

 無論、他の技術部員達も、やるべき仕事も一切せず、勤務中に酒気を振りまき、 他人の仕事の邪魔をし、負担を無意味に極大化させるミサトの事が、激烈に嫌いである。

 故に、全員がミサトを冷たい目で睨んでいる。

 中には、保安部を呼び出すボタンに指を置く者も・・・

「クッ・・・
 リツコ、何とか言ってよ!」

 周りの雰囲気から、流石に、今、手を出しては拙いと言う事を理解したミサトは、 今度はリツコに怒鳴った。

 だが、完全に、ミサトがココに居るだけで、 邪魔以前に、害悪だと判断していたリツコは・・・

「ミサト・・・」

「何?」

「貴女、今日の17:00までに提出しなければ、 クビになる書類があったんじゃないの?」

「えぇ?!
 な、何よ、それ?!」


 案の定、リツコの言葉に、驚き、叫ぶミサト・・・

 だが、無論、それは嘘である。

 尤も、未提出の書類は鬼のようにあるが・・・
(しかも、期限切れも)

「・・・貴女、また書類をサボっているわね。
 3日前、別荘専用独房から、 出てきた時にも、司令から、直々に言われたんじゃなかったっけ?
(本当にアルコール臭いわね・・・)」

 そこに居た全員がかなり冷たい目でミサトを見ていた。

 リツコがこの場で考えた嘘なのだが、かなり真実味がある。

 いや、むしろ、当然と思っている。

「・・・てへ、リツコぉ〜」

 少し、悩んだミサトは、リツコを見つつ、猫なで声で、そう言うが・・・

「絶対にやってやらないわよ」

 リツコはあっさりそう言い切った。

「そ、そんな・・・」

「貴女が私に押し付けた仕事の量を考えて見なさい。
 それを、今から自分で全部やるならチョッとは考えてあげてもいいけど・・・」

 ハッキリ言って、ミサトは、自分の仕事を、殆どリツコに押し付けていた。

 勿論、本来、作戦部の仕事であるモノだけでなく、余計な仕事も・・・無責任に・・・

「じゃぁ・・・」

 ミサトは喜々として、頼もうと考えるが・・・

 無論、やってもらった後、もう一度押し付ける積りである。

「でも、この実験以外にも、色々と忙しいから、 手をつけるのは、どんなに早くても、明後日の午後ね」

 リツコはそう言った。

「それじゃ、間に合わないじゃない!」

 ミサトはあわてて、そう怒鳴った。

「あら、そう言えば、その時は、既に、貴女はこのネルフには居なかったわね」

 リツコはあっさりとそう言った。

「リツコぉ!」

「それだけ忙しい私に、アレだけの仕事を押し付けているのは誰?
 何を押し付けているか覚えているの?」

 批難がましく言うミサトにリツコはそう言い返した。

「え?・・・えっと〜」


 因みに、ミサトは、自分がどれだけ押し付けているか、覚えてない。
「それに、司令から言われたでしょ。
 あの書類は、手書きでやるようにって・・・
 あら、そうすると、私が代わりにしたら、 一発でバレて、どっちにしても、クビね」

 リツコのその言葉に、ミサトは自分でやることを決意する。

 ミサトとリツコの字は明らかに違うし、ゲンドウはリツコの報告書を、 よく見ているハズであり、字の判別くらい出来そうだからだ。

 だが・・・

「ど、どんな内容だっけ?」

 ミサトはリツコにそう尋ねた。

「貴女の机に、回されているはずよ。
 自分で調べなさい。
 まぁ、書類を片っ端から片付けて、提出すれば良いでしょう」

 リツコは、ため息を吐きつつ、そういった。

「そ、そんなぁ〜」

「こんな所で油を売っていていいの?
 もうすぐ、お昼なのに・・・」

「分かったわよ!」

 ミサトはそう言って、怒りながら、その部屋から出て行った。

 おそらく、部屋に戻って、その書類を捜そうとするだろう。

 勿論、作戦部に残っている部下達は絶対に手伝わないだろうし・・・

 いや、むしろ、見付けても隠すか、八つ当たりを受けないようにする為、 ばっくれるかもしれない。
(元々、居ないかも・・・)

「先輩・・・」

 マヤが不服そうにリツコに声をかけた。

 無論、他の部員達もである。

 なぜなら、黙っていれば、あの業務有害推進部長が居なくなったかも知れないからだ。
(つまり、リツコの即興の嘘を信じ込んでいるから・・・)

「あぁ、あれ・・・嘘よ。
 あぁでも言わないと、邪魔でしょ」

 リツコがそう教えると、周りは納得するものの、嘘であった事を心底残念がった。

「ほらほら、時間がおしているんだから、さっさと準備を進める」

「「「「はい」」」」×たくさん

 リツコの言葉に、未だ、リツコの嘘に未練があるのか、部員達は残念そうに、そう答えて、 作業を再開した。

「・・・(司令に口裏を合わせてもらえば、暫く時間が稼げるわね)」

 リツコはそう考えると、内線を司令に入れた。

 無論、ゲンドウは、これを機に、ミサトいびりを始める事にして、 催促の内線を何度となく入れるのであった。










To be continued...


(あとがき⇒悪あがき?)

 シンジは某所で誰かをスカウトしてきました。
 (交渉シーンが欲しいと言うながちゃんさんの要望により・・・)
 誰でしょう?
 一部の人には、バレバレかもしれませんが・・・
 ヒントは、彼といっているところと、ミサトに恨みを持つ存在ですね。
 そして、トウジの起動実験開始・・・
 という事は、第五使徒ラミエル襲来ですね・・・
 どうなるでしょうか?
 では、また!
作者(とりもち様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで