第十六話 アスカ・・・失踪?
presented by とりもち様
某総合病院
「へ?・・・
ど、どう言う事ですか?」
アスカを迎えに来たマヤは、目を点にしながら、そう訊いた。
因みに、アスカの気質を考えると、本来だったら、技術部長であるリツコ自身が、 直接迎えに行きたかったらしいが・・・
物質化したドリルの上に絶妙なバランスで、存在している第五使徒の処理や、 各部の調整等で、リツコは忙しいし、ネルフ本部を離れるわけには行かなかった。
(外部的には、使徒の処理くらいはネルフがやらないと、マジでやばい状態であるらしい)
だが、ある程度のクラスの人間が迎えに行かないと、色々と拙いと考え、一応、自分の右腕であり、 それなりに階級も高いマヤを、自分の代わりに行かせたのである。
ここで、マヤに仕事を任せて、自分が・・・という考えも浮かばないわけではなかったが・・・
諸所の都合により、自分が直接しなければならない仕事が多々あったし、リツコはミサト(やゲンドウ?)と違い、 明らかに部下の(能力だけでなく、その地位の)許容範囲を超える仕事を押し付ける事をヨシとしない性格が、 それを許さなかったのである。
故に、自分の代理として、マヤを行かせたのだった。
また、第三新東京市からある程度はなれた地域になると、非常事態警報時に、 シェルターへ避難しなければならないと言う義務はなくなり、任意となる為、 病院などの施設では、よほどの事がない限り、避難しないのである。
(この間、質問されたので・・・)
ついでに、冬月も退院したばかりなのに、各部の調整だけではなく、戦自や日本政府、 ついでに、ゼーレとの交渉等もあり、かなり多忙になるだろう。
それはさておき、話は戻って・・・
「どう言う事も何も・・・
あの患者は、担当の者が目を離した隙に、この病院から、逃げ出したのですよ」
院長らしき医者が、そう答えた。
「な、なぜ?」
事態が理解、もしくは、把握できないのか、マヤは、更にそう訊いた。
「何故って・・・我々も知りませんよ。
寧ろ、コッチが事情とかを知りたいくらいですね。
非常事態警報が鳴ったかと思えば・・・
行き成り、筒のようなモノが、近くに落ちてきて・・・
何事かと思っていたら・・・
ネルフ所属と名乗る黒服の男達が、紅いレオタードのような服を着た女の子を、そこから出し、ココに運んでくる。
そして、何の事情も説明せず、一方的に『治療しろ』、『詮索無用』、『国連からの指示だ』と言い残し、 少女だけを残し、何処かに出かけていく・・・
これで、我々に何を知っておけと言うんですか?!」
バン!
院長は、苛立っていたらしく、最後には、机を叩いて、そう言った。
「うっ・・・」
その様子に、マヤ達は言葉に詰まった。
因みに、黒服達は、アスカをこの病院に届けた後、直ぐに、 ミサトの部屋を探索する為に呼ばれたので、 そのまま、直ぐに、全員で応援に向かったのである。
無論、誰か残しておけば良かったのだろうが、安全に行けた中で、しかも、一番近かったのはココであり、 人手も出来るだけ必要との事だったので、アスカの警護?もせずに全員で、向かったのだ。
(緊急で、司令からの最重要の仕事と言われたので・・・)
まぁ、病院も一般とは言え、大きいし、一応、国連下部組織であるネルフに、表立って敵対する所は、 この付近には居ないだろうし、これだけの病院に手を出してくる所は無いだろうという楽観的な考えも、 あったのだろうが・・・
(後、作戦部長に対する嫌がらせ?)
やはり、ゲンドウの行ってきた、“上から言われた事だけを、反論せず、何も考えず、 黙々とこなすような道具になる”為の教育が、一番の原因であろう。
故に、その場での命令に従い、優先順位を考えず、今までやっていた仕事や、 本当に重要な仕事を放り出し、目先の仕事や、その時、目上に言われた仕事に取り掛かる者が多いのである。
(特に諜報特殊監査部には、何も考えずに、前の仕事を放り出し、その時、新たに言われた命令を、 実行するだけの人間が多いらしい)
まぁ、今までは、ココまで大きな問題になるような事が、無かったし、使徒戦が始まるまで、 動かせる部下には不自由しなかった為、気にしなかった問題であるが・・・
ココに来て、重大過ぎる問題に発展したのである。
(チルドレンが行方不明になるという)
「そして、患者の熱射病や、火傷などの治療が終わっても、中々連絡がないので、こちらか連絡したら・・・
何度も、何度も、たらい回しや、後回しにされた挙句に、後で応対するとか言ってくる。
そのくせ、いっこうに連絡もしてこない。
仕方無しに、再び、こちらから連絡を入れても、担当が違うと言って、知らぬ存ぜずで、相手にし無い。
脅しつけるような事を言って、何とか、上の人に連絡が取れたかと思えば・・・
こちらが連絡していた事等、知らないみたいに、連絡が遅いと文句を言われるし、 事情を説明したら、謝りもせずに、急遽、迎えにくるとか、言うし・・・」
院長はネルフのお粗末過ぎる対応に対して愚痴を言い始めた。
まぁ、いつもの外部に対しての高飛車な対応に慣れていたのに加え、 ネルフ内が、かなりのドタバタで、外部に対しては、いつも以上に、かなりいい加減な対応だったのであろう。
何せ、作戦部長は、人手がいる時に、整備部の連中を1/3ほど引き連れて、 戦自に喧嘩を売りに逝き、そのまま、拘束され・・・
(逝ったのは誤字にあらず?)
その為、時間稼ぎした意味がなくなり、司令は、無駄な事をしたということで、 交渉相手のペンギン(笑)に、大勢の部下が見ている前で、(心の底から)バカにされ、 プッツンして、病院に逆戻りし・・・
(文字通り、上がり過ぎた血圧の為、コメカミの血管から、血を吹いた)
更に、その事について、中途半端な噂を聞いた所員達から、辞職願が大量に出される事等があったから、 半端ではない忙しさであっただろうし・・・
(ペンギン以下の知性しかない司令と言う)
とは言っても、重要なチルドレンの事なのに、上に報告していないとは、本当にやる気がなく、 何も考えていなかったようである。
「もう一度言うようですが、何も事情を説明せず、詮索するなと言って、患者を預けて、全員で、どこかに行く。
患者から事情を訊こうにも、意識が戻ったら、記憶喪失っぽい事を言う。
電話をしても、マトモに対応し無い。
更に、迎えが来る事を伝えれば、患者はベッドのシーツなどを使い、3階の窓から脱走する。
このような状態では、訳の分からず、事情を聞きたいのは、普通、こっちの方なのではありませんか?
こう考えるのは間違いなんですか?」
最後に、もう一度、呆れたように院長が言った。
確かに、行き成り、怪しげな黒服達が、これまた怪しげな服?を着た怪我人を運んできたかと思えば、 そのまま事情を説明せず、連絡先だけ教えて、何処かに行く。
しかも、連絡先が一般人には、不透明な非公開組織であるネルフ本部・・・
何度か連絡したが、中々通じない・・・
やっと通じたかと思えば、何度も、たらい回しにされた上、後回しにされかけ・・・
しかも、言わば、外部協力者である病院に、高圧的な態度をとり、更に軽く扱う。
半ば脅すようにして、上に連絡をとらせ、替わらせる事により、何とか話が出来た。
(が、一部話が通じない)
そして、迎えが来る事を話したら、目を離した隙に、患者は、病室から逃げた。
病院側が、ワケが分からないのは、当然であろう。
(この場の説明だけだと・・・)
因みに、リツコが初めて出て、話を聞いた時、アスカを預けたまま、数日間も放置していた事や、 誰も警護していなかった事を知り、かなり、慌てたらしい。
(既にネルフの病院に移したと思っていたし、最低でも、護衛と言うか、 監視の一人くらいつけていると思っていた)
また、連絡を受け取っても、たらい回しにしていた連中は、リツコに怒鳴られた後、事態の重大さを知り、 罪の擦り付け合いを始めているらしい。
(一番、最初に、病院からの連絡を無視したのは誰だと言って・・・)
無論、諜報特殊監査部でも、色々な言い合いがなされているらしい。
(おそらく、スケープゴートが出るだろうが・・・)
院長は、マヤ達を見ながら、返事を待っている。
「なぜ、見張っていなかった」
だが、マヤの後ろに居た黒服の男が、半ば、院長を脅すようにそう言って来た。
まるで、全ての責任は病院にあると言わんばかりに・・・
まぁ、責任回避の為であろう。
「おかしな事を言いますね。
じゃぁ、訊きますが・・・
なぜ、我々が、未成年である彼女を見張らなければならなかったのです?
先ず、その理由から、お聞かせ願えませんか?」
だが、逆に院長は、黒服の態度にカチンときたのか、責める様に訊いて来た。
「うっ・・・」
脅すようにして、責任を擦り付ける予定だったのに、逆に問われた為、黒服は言葉に詰まった。
「大体、我々は、彼女についてどころか、何も事情を聞かされていないのですよ?
ただ、怪我人を治療しろと、一方的に言われただけで、後は何の説明も無い。
しかも、国連の権限のようなものを持ち出してきて、詮索無用と言って行く。
それだけで、患者を、しかも、未成年の少女を監視するような病院が、一般にあるのですか?
それに、いったい、彼女は何者なのですか?
いえ、見張っていなかった事を責め様としたと言う事は、 貴方には、彼女が逃げ出す事が、予め、分かっていたのですか?
なら、何故、彼女は、貴方達が来ると知った途端、逃げ出さなければならないのですか?
是非、それらの原因、理由をお聞きかせ願えませんかね?
こっちは出るところに出てもいいのですよ」
さらに、院長は、全く平気な顔で、黒服を問い詰めるように、問い詰め始めた。
後半あたりから、声の質が変わっている。
まぁ、院長の心情を考えれば、当然であろう。
いきなり、正体不明の患者を連れて来たと思ったら、高圧的に治療をするように言われ、 何も事情を説明せず、詮索するなと、国際権力で半ば脅されていた状態で、 頼まれてもいないのに、その患者を監禁するような民間病院があったら、怖過ぎる。
しかも、相手は、一応、正式な国連所属の組織・・・のハズである。
不透明だが・・・
「う・・・」
黒服は黙る。
流石に、自分の行動が薮蛇で、物凄く拙かったと気付いたようだ。
いつもはこうやって、外部に責任転嫁してたらしいが、今回ばかりは相手が拙かったようだ。
懸命な読者様は分かっていらっしゃると思うが、一般人には使徒の事も含め、色々と極秘になっている。
(存在はある程度知られているが、一般人には、一応、情報を遮断してある。
尤も、別の機密を漏らしていた某ガキがいたが・・・)
しかも、チルドレンの存在は、ある程度、上位の組織で無い限り、極秘事項である。
(某ガキのお陰で、存在どころか、ファーストチルドレンは、 その姿まで公表されてしまっていたらしいが・・・)
故に、秘匿義務により、いくら医者とは言え、一般人に、 ネルフに所属している黒服が、チルドレンであるアスカの事を説明できるハズが無い。
それに加え、今回の事は、特に外部には、漏れるわけにはいかなかった。
何せ、あの(学習機能が凍結していると言われている)作戦部長が、 また最初の使徒戦の時と同じ事をし、 エヴァを大破させ、チルドレンを殺しかけたのだ。
(説明もせずに、エヴァを使徒の目の前に行き成り打ち出し、拘束したまま放置プレイ?)
技術部が、安全対策の為、徹夜でプラグを始めとする各部脱出機構に、改良に改良を重ねていなければ、 アスカはあのまま死んでいた可能性が高い。
(エヴァだけでなく、エヴァ射出機構自体にも改良を加えていた)
何せ、数秒もたたない内に、脱出させたのに、アスカは、そのダメージで気を失い、 (跡は全く残らないほどだが)軽度の火傷と、熱射病のようなものになったのだ。
それに、弐号機の現状を考えてみても・・・
(上下、真っ二つだし)
ネルフがやった事・・・
(子供を戦場に出し、殺している事・・・
しかも、第三者?的に見れば、ワザととしか思えない行動で・・・)
それが、一般人に漏れでもすれば、かなり拙い事になる事は、簡単に分かることだ。
様々なところから、バッシング以上の事を受ける事となろう。
とは言うものの、ネルフの醜態が外部に漏れるのは、 時間の問題かもしれないが・・・
(もう漏れているかも・・・戦自に・・・それを起こした者の手によって)
まぁ、この男の立場上、特にゲンドウの子飼いでもある自分の口から、 それも一般人に漏れるのは、非常にヤバイのであろう。
何せ、言い訳がきかないだけでなく、物理的に首が切れるのが自分だけではすまないからだ。
(家族にまで、責任が降りかかる)
「コホン・・・
ともかく、事情も説明せず、高圧的な態度で、患者を預ける。
治療したのに、音信不通というか、マトモに対応し無い。
やっと対応してくれる上と代わって貰えたかと思えば、散々文句を一方的に言われ・・・
こちらの事情説明が通ったと思えば、『直ぐ迎えをよこす』と言うだけ・・・
それを落ち着いているように見えた患者に伝えたら・・・
患者は目を離した隙に、布団やシーツを使って、3階の窓から逃げ出す。
こっちの方が、訳が分からず、批難したい位ですよ。
いったい、あの娘さんは、なんなのですか?
そして、貴女方は何者なんですか?」
黒服が何も答えないので、咳払いをした院長が、声質を戻しながらも、黒服を睨みながら、もう一度、そう訊いた。
「わ、私達は本物のネルフ本部の所員です。
か、彼女についてはネルフの機密ですので・・・
と、ともかく、治療費はお支払いします。
それで、あの娘は、どの位前に居なくなったのですか?」
マヤは、あせりながらも、話題を逸らす?為に、そう院長に尋ねた。
「そうですね・・・
担当医が伝えたのが、今日の大体、午前11時頃ですので、彼女が居なくなったのは、 それ以降だと思いますがね。
お昼には居ませんでしたので、聞いて直ぐの行動だったのでしょう」
つまり、ネルフが迎えに来ると聞いてから、1時間以内に居なくなったと言う事である。
「・・・(四時間の範囲で、土地勘もない小娘が金もなしに行ける範囲は・・・)」
それを聞いた黒服は、捜査範囲をおおまかに決め、この部屋を出たら、直ぐに通達する事を心に決めていた。
とは言っても、かなり時間が経っているし、捜索はかなり難しそうだが・・・
「わ、分かりました。
それで、他に気がついた事はありませんか?」
マヤは、更に情報を聞くべく、そう言った。
「他にといわれましてもね・・・
担当の者が、記憶を喪失し、混乱している患者を落ち着かせる為に・・・
『ネルフから、迎えが来るらしいから、君の記憶に関することも、そこで分かるかもしれないね』
という話をした時、何故か顔が蒼くなったようだったと言うくらいですかね?
一応、担当医に相談を受けましたから・・・」
院長はそう言って、マヤ達を疑いの目で見ていた。
いくら権力を持つらしいとは言え、不透明であり、訳の分からない組織を全面的に信じる方が珍しいだろう。
しかも、様々な理由で、現在、落ち目な状態であるし・・・
この病院は、一応、民間の機関であり、ネルフの詳しい事どころか、何も知らないハズなのだから・・・
「そ、そうですか、分かりました。
(もしかして、アスカちゃん、葛城作戦部長から逃げる為に?)
一応、その担当の方にもお話をお聞きしたいので、よろしいでしょうか?」
非常に立場が悪くなっている事を、身を持って感じているマヤが、恐る恐るそう尋ねた。
「担当していたのは、小児科の斎田君です。
一応、私の方からも連絡はしておきますよ。
あまり変わらないと思いますがね。
貴方達が、本物の国連の組織の方か、何か知りませんが・・・
一応、外来の患者さんも居ますので、節度は護ってください」
かなり、細い目で、院長はマヤ達を見ながら、そう言った。
「わ、わかりました。
では、失礼します」
マヤは、そう言って、黒服とともに、院長室を出て行った。
そして、担当の者と話したが、内容は殆ど変わらず、寧ろ逆に、自分達の方が怪しまれた。
未成年の患者が、おそらく、記憶喪失を装ってまで、逃げようとする組織とは、一体、何なんだと・・・
限られた情報しかないが、そうなるにいたった原因が、 簡単に予測できる立場にいるその組織に所属する者達には、その疑問に答えられるハズが無かった。
答えたら最後、その話は、民間に一気に広がる事となるだろう。
当然、話に尾鰭背鰭胸鰭等が、 つきまくるだけでは済まないハズだ。
民間には不透明過ぎる組織であるが故に・・・
そうなったら最後、原因となった者だけで無く、そんな所に所属していた全員が、 色んな意味で不味い事になるのは、マヤにも、ついてきた黒服達にも、よく分かっていた。
(ミサトと同列に見られると言う事である)
故に、ネルフの権限を使い、この件に関しては、秘匿するようにと厳命をする事となる。
そう、依頼ではなく、特務機関の秘匿権限を使った厳命・・・
因みに、ミサトと違い、手続きをチャンととってから行った正式なもの・・・
故に、かなりの不信感を、その病院に与える事となるだろうが、噂が広がるよりはマシと考えたようだ。
無論、この後、アスカ失踪の報告を聞いた上層部は、 非常に強い頭痛と胃痛を感じる事となる。
マヤが院長と会見している頃、ネルフ本部では・・・
「やっとの事で、俺が出て来られたかと思ったら、入れ替わるように・・・
しかも、書類だけでなく、問題も山積み状態だな・・・」
ネルフ副司令執務室で、冬月が頭を押さえていた。
今回、ネルフが出し、また、自腹を切らなければならない被害総額・・・
使徒の処理は、人手や予算が足らなかったが、リツコが出したアイデアで、 訓練という名目を使い、参号機を使用したお陰で、かなりの人手も、経費も、時間も節減が出来たが・・・
(退避訓練という名目で、第三新東京市内の市民も、シェルターに入れた)
それにより、国連からの皮肉・・・
(『アレは処理用の重機でしたか』と言う類のもの)
発令所に所属する殆どの所員達から出された辞職願の山・・・
(ペンギンに馬鹿にされるだけではなく、明らかに役立たず以下な人材を、 まだ使おうとしていた無能な上司と言う事で・・・)
その中には、副司令付きのオペレーター青葉シゲルの名もあった
日本政府と戦自からの抗議文と苦情と、プレッシャー・・・
(ミサトの行動は、ネルフからの宣戦布告かと疑われた)
A−801を出されないようにする為に、様々な組織との調整及び、ある条約を結ばせられる。
戦自に拘束されている整備部の部員の身柄引き渡しに関しての調整・・・
一応、一所に纏めて監禁されているものの、差ほど扱いは悪くないらしい。
しかしながら、あんな目にあった彼等が、辞表を出すのは避けられないだろう。
更に、ゼーレに言われた事の手前、それらの元凶である葛城ミサトをいかにして、保護するかと言う事・・・
(これが一番頭が痛い事である)
現在、ミサトは危険な重犯罪者として、戦自の特別隔離室で、完璧に投獄中であるらしい。
(因みに、ミサトは、戦自には、ネルフの作った人造強化兵士と思われている)
ゲンドウと入れ替わりで出てきたら、このような厄介事が一斉にやってきたのだから、 愚痴の1つも溢したくなるだろう。
更に、この後、セカンド・チルドレン失踪と言う問題がやってくるが・・・
かなり、追い詰められる事となるであろう。
(またゲンドウと入れ替わり入院かも・・・)
「ともかく、日本政府や戦自との調整が先だな・・・
あのバカ作戦部長に関しては・・・
よし、ゼーレに連絡し、向うに任せるしかないな。
(どれだけ苦労するか、どんなバカな事をしていたか、知ってもらおう)
それから・・・」
冬月は、書類の山脈に目を向け片付け、溜め息を吐くと、処理し始めた。
尤も、老人達は、自分達ではせず、エージェントを使い、結果報告を聞くだけなので、 苦労を特に感じないだろうが・・・
その頃、リツコは・・・
「コアが無事でも・・・
予算、でるかしらね?」
何とか、回収させた弐号機の上半身を見ながら、そう呟いた。
因みに、整備部の半分ほどがミサトの所為で居ない為、参号機や、他の部の部員も借り出して、 やっと回収したのである。
ついでに、使徒の屍骸も、ジオフトントの地下空間に運び込み、処理待ちである。
(予算があるかどうかはわからないが・・・)
弐号機上半身は、下から簡単にコアが覗ける状態だ。
焼き切れた為、一部が焼失、もしくは炭化しており、簡単には直せない。
直すなら、1から素体を作り、コアを載せ替えた方が早いし、安価だろう。
奇跡的に、コアに傷はついていないものの、あの加粒子砲の熱量を近くで受けた以上、 どんな影響がでているか分からない。
もしかしたら、弐号機も、専属のチルドレンであるアスカも、 色んな意味で使徒戦には、もう二度と使えないかもしれない。
「(もし、アスカが乗れなくなっていたら、どうするか・・・
チルドレンであった以上、ネルフから出すわけにはいかないし・・・
エヴァの操縦の経験者だし、ミサトより、戦術眼は遥に上よね・・・
と言うか、ミサトより下の人間を探すほうが難しいかしら)」
使徒戦に関して言えば、何も出来ない、失態だらけで、ストレスが溜まり、 復讐で目が曇るだけでなく、大暴走するしかないミサトと比べる事自体が間違いかもしれない。
アレは、その精神にかなりの負荷がかかっている為、使徒が関わると、 使徒戦が始まる前よりも、前後が見えなくなり、底辺をぶっちぎって、 新記録を樹立し続ける状態になるからだ。
「(ミサトを地下に閉じ込めて、アスカを作戦部長にした方がいいかもしれないわね。
それに、幾ら看板と言う言い訳を使っても、これ以上、ミサトを使う事は逆効果よね)」
リツコはそう考えていた。
因みに、リツコはアスカが病院から居なくなった事はまだ知らない。
それに、裏・死海文書に固執するゼーレの老人達の心情も・・・
彼等は、直接、ダメージを与えられるまで、ゲンドウの仕業と決め付け、 ネルフに起こっている事など、対岸の火事としか見られなくなっている事を・・・
(某事情により、使徒との戦場には、必ずミサトを置いておかなければならないが、 その手段として、ミサトを指揮官に留める事しか考えていない)
また、既に己のシナリオが崩壊している事に、目をそらしつづけ、何時の間にか、 全く別の目的を作り出す事により、半ば現実逃避をし、シナリオ通りと思い続けているゲンドウの事を・・・
(ユイに拘っていて、本来のシナリオの崩壊を認めず、まだ修正可能だと嘯き、 第16を目の仇にする事によって、本来のシナリオの現状から目をそらす)
おそらく、リツコがそれを知れば、荷物を纏め、マヤとペットの愛猫達をつれて、 バックれるかも知れない。
いかに、母親の影響で、ゲンドウに拘り、ある意味、悲劇のヒロインに浸り気味とは言え・・・
苦労や過労しかないのに、何も報われず、その先には破滅しかない事を知ったら・・・
「ともかく、色々としておかないとね・・・
新しいチルドレンを選別しないと・・・
でも・・・なり手は居るのかしら・・・
それよりも、目の前の仕事を片付けるのが先ね・・・」
しかし、そんな事は知らないリツコは、そう呟いて、データ採りなどを指示し始めた。
この十数分後、愛弟子から、アスカ失踪の報告を直接聞き、リツコの心労はピークに達する事となる。
何処か・・・
そこには、病院から居なくなったハズのアスカが、少々怯えながら、目の前に居る青年達を見ていた。
(因みに服は、私服であるが、4歳くらいの小さい子が着たがる様なキャラクターのプリント付である)
その様子は、今までのアスカとは違い、知らない大人の人が多いので、 脅えている幼い子供のように見える。
因みに、そこに居るのは、大人バージョンのシン達である。
そう、実はココ、第16独立連隊の某基地内なのである。
「<おびえる事はないよ。
気を楽にして・・・>」
シンは、警戒心を解こうと、ニコリとしながら、そう言った。
因みに、ドイツ語である。
「・・・・・・・・・」
母国語で、更に優しい口調で話されたので、アスカの怯えが、多少、収まってきた。
だが、なぜか、今度はアスカの頬が、ほんのりと赤くなっているのは気のせいだろうか?
シンの隣に居るレイが、とある資料を渡す。
「<訊くけど、君は、元々、お母さんの研究所に遊びに行っていたんだね?>」
その資料をチラリと見て、シンはそう尋ねた。
頷くアスカ・・・
どうやら、前もって、覚えている事を聞いていたらしい。
(誰がでしょう?)
実は、アスカは自分で抜け出してきたのではなく、シン達の手によって、連れ出されてきたのだ。
因みに、アスカが収容された病院・・・
実は、その経営陣は、財団の関係者であったりする。
(こっそりと、ネルフにはバレない様に準備していたらしい)
「<じゃぁ、自分の事を、自分でわかる範囲でいいから、もう一度、 今度は私達にも、話してもらえるかな?>」
「<えっと、私の名前は惣流アスカ=ツェッペリンです・・・>」
アスカが説明を始めた。
それはまるで、幼稚園の入学試験で、自己紹介をする幼児のようであった。
「(・・・まぁ、なんと言うか、ご都合主義というか・・・)」
そのアスカの説明を聞きながら、シンはレイ、マナ、マユミ、カヲルとテレパシーで会話を始める。
「(弐号機の実験前までの・・・
ネルフドイツ支部で、教育された期間の記憶が全部消えているわ)」
レイがそう念を飛ばす。
「(と言う事は、彼女は、捻じ曲げられていない本来のアスカさんって事かな?)」
マナが、そう念で訊いた。
「(多分、そう言う事でしょうね・・・)」
マユミが答える。
「(ふむ・・・コレは、キョウコさんを復活させて会わせるのも楽かな?
説明も・・・)」
カヲルがそうシンに尋ねた。
「(そうだろうね・・・
折角のシナリオの一部が無意味になったけど)」
シンはそう答えた。
「(まぁ、それはそれでいいんじゃないの?)」
「(そうですね、ある意味、このアスカさんは、あのアスカさんとは違うのですから)」
「(そうね)」
「(そうだねぇ〜)」
マナ、マユミ、レイ、カヲルが念を飛ばした。
「<・・・で、気がついたら、行き成り体が大きくなって、日本の病院に居たの>」
そんな会話をしていると、アスカの説明が終わった。
「<そうか・・・
じゃぁ、最後に君のお母さんの名前は?>」
シンジが、心の中で苦笑しつつ、そう訊いた。
「<惣流キョウコ=ツェッペリンです!>」
元気良く答えるアスカ。
「<そうか、じゃぁ、お母さんに連絡をしてあげるよ。
でも、ココは日本で、お母さんはドイツにいるだろうから、直ぐには来られない。
多分、二、三日、君には、ココに泊まってもらう事になるけど・・・
いいかな?>」
「・・・・・・・・・」
アスカは、母親が直ぐ来られないと聞いて、表情を曇らせた。
精神的にも、4歳の頃に戻っているのだから、そうなのであろう。
「<さっきのペンギンさん達も、お母さんが迎えに来るまで、一緒にいてくれますよ。
勿論、他のお友達も、一緒に遊んでくれますよ。
そうだ、今日からは、ペンギンヴィレッジに部屋を準備していますよ>」
マユミが、アスカに近付いて行き、優しく、宥める様に、そう言った。
「<ホント?!>」
すると、曇っていたアスカの顔が、即座に嬉しそうになり、そう訊いた。
「<えぇ、本当ですよ>」
「<わ〜い♪>」
諸手をあげて喜ぶアスカ・・・
「<じゃぁ、お姉さんと、一緒にペンペンちゃん達の所に行きましょう>」
「<はぁ〜い♪>」
マユミがそう言うと、アスカは席を立ち、マユミと手をつないだ。
どうやら、マユミに一番懐いているようだ。
「では、失礼します」
「あ、し、失礼します」
マユミのまねをして、嬉しそうに一緒にお辞儀をするアスカ・・・
(日本語で・・・)
そして、一緒に出て行った。
「・・・なんかなぁ〜・・・すっごい、違和感・・・」
先程とはうって変わって、かなり疲れた雰囲気を出しまくったシンが、机に顔を沈めながら、そう呟いた。
まぁ、アスカを知る者からすれば、泣き虫で素直なアスカというのは、違和感がありまくりなのだろう。
(姿が小さいアスカではなく、13歳のアスカなのだから・・・)
「でも、アレが本来のアスカ・・・4歳までの・・・
ネルフ、いえ、ゼーレに歪められていない」
レイがそう言った。
「そうだね・・・」
シンが頷く。
「あの攻撃的な性格は、ゼーレとネルフ上層部の歪んだ教育の賜物だったんだねぇ〜」
マナが前史で、攻撃的だったアスカを思い出し、そう呟いた。
「まぁ、色んな意味での依り代を作るためにね・・・
シン君もそうだっただろう?」
カヲルがシンにそう言った。
「そうだね・・・
でも、あのアスカには出来るだけ幸せになって欲しいよね」
シンが皆に同意を求めるようにそう呟いた。
「そうね」
レイが代表として、そう答え、残りの2人も、頷いた。
「そういえば、アレはどうなっている?」
シンがそう訊いた。
「あぁ、ゼーレが、つくばの戦自研に圧力を掛け始めているらしいよ。
あちらさんからは、どうすればいいかと言う相談が、極秘裏にきたよ」
カヲルがそう答えた。
すでに、ミサトを開放する為に動いているようだ。
「そうだねぇ〜
このまま、閉じ込めていても、戦自に迷惑が掛かるだけだろうしね」
シンが腕を組んで考え込む。
「呼び寄せるし?」
マナが悪戯っぽくそう言った。
「そう、つくばが大変な事になるわ。
一応、あそこはこちら側なのだから・・・」
レイがそう言った。
「じゃぁ、開放する代わりに、あの条件を呑ませるように働いたら、どうかな?」
カヲルがそう提案する。
「アレを?」
シンがそう訊き返した。
「そうだね、今のままでは、真っ当な人まで巻き込まれるだろうしね」
マナがそう言った。
真っ当でないのは、トライデント開発に関わっていた者達や、ゼーレの草関係だろう。
「確かに、ゼーレの老人たちにとっても、表向き、都合が良いはずだね。
ネルフとは組まない事を宣言するのだからね・・・」
シンが考え込みながらそう言った。
「最終的に、ネルフを責めさせる積りだから、敵対させるのは逆に好都合と考えるハズ・・・
深く考えずに、条件を呑むと思うわ・・・
尤も、若干の譲歩を求めるポーズはとるでしょうけど・・・」
レイも賛同するようにそう言った。
「だろ?
彼らも、その方が、何かとやり易くなって、良いだろうし♪」
カヲルがそう言った。
「ある意味、葛城さんに感謝だね」
シンがニヤリとしながらそう言った。
「味方にすると怖いのに、敵にすれば、これほど頼りになる人はいないね」
マナが嬉しそうにそう言った。
「でも、使徒戦時、何をやりだすか分からないから・・・
その行動を無視する訳にはいかない」
レイが少し不安そうにそう言った。
確かに、使徒殲滅権を得る為、此方の作戦の妨害をやるかもしれないし、 その時、どんな事をやりだすか、検討もつかないからである。
ミサトは、無能であると言われている。
だが、それは、能力が無いと言う意味ではない。
(矛盾しているかもしれないが・・・)
性格上、暴走しだすと、己の能力を上手く使いこなせなくなるだけなのだ。
ある意味、逆走するとも言える。
(組織の目的と反対側に向かって・・・)
故に、自分の手段を行う為に、何をやりだすか、検討もつかなくなる可能性があるのである。
そう言う事に関しては人の想像の斜め上を爆走できるほどの能力を持っているのだ。
ある人達は言う・・・
《本当の最悪とは、人の想像出来うる最悪な事の斜め上を逝く》と・・・
つまり、それを地で逝くのが、葛城ミサトなのである。
「あ、そっか・・・」
マナがチョッと眉を顰めてそう言った。
下手に無視すれば、被害拡大、自分達も只ではすまない事を思い出して・・・
「ともかく、僕は、戦自内にある僕ら派の陣営の権力強化を図ってくるよ。
同時に、向うの弱体化もね。
そうそう、準備が出来次第、レイ君にも手伝ってもらうから・・・」
「アレの事ね?
シナリオR−12をするのね?」
レイがそう応えた。
「そう言う事だよ。
かなり面白い状態になると思うよ。
じゃぁ、失礼」
カヲルはそう言って、出て行った。
「さてと・・・残りの仕事を済ませますか・・・」
「そうね・・・カヲルの準備が終わるまで、手伝うわ」
シンジがそう言うと、レイは書類を後の棚から持ってきた。
「じゃぁ、私はアレの準備をしておくねぇ〜
しつれ〜しま〜す」
マナもそう言って、出て行った。
To be continued...
(あとがき⇒悪あがき?)
新年になり、久々に会社に出たら・・・
恐ろしいほど、忙しくなりました。
う〜む、ずっと入院していたからなぁ〜
(年末には退院したけど・・・)
しかも、書く事も増えているし・・・
(AOLの事故かなにかで、送れないトコ出るし・・・)
う〜む・・・羅蛇どの、お待ちかねのあの【時田シロウ】ネタ、多少、遅くなります。
(ココでご報告)
『アレは簡単に作れるだろうから、落下でも良かったのでは?』と、数名の方に指摘されたのですが・・・
やはり、アレを一度壊すと、カヲルを始めとして、復旧させないのではないかと言う可能性がありますので、壊さない事にしたのですよ。
でも、第五使徒や、第三新東京市の路上についているコマネチの形のアレの跡・・・
やっぱおしかったかな?
ながちゃんさん、コメントよろしく♪
(ご要望にお応えして、ながちゃん@管理人のコメント)
アスカ、ついにミサトの魔の手から脱しましたね。わ〜い♪\(*^▽^*)/\(*^▽^*)/\(*^▽^*)/わ〜い♪
しかし記憶喪失ですかー、幼児退行ぎみの。元に戻るのかなー?いや戻んないだろーなーたぶん。母親と幸せに暮らすのでしょう。…え?もしかしてこれで出番終わりとか?
それはさておき、まあ頭のええ子ですから、10年くらいのハンデなんて克服して、すぐに社会復帰できるでしょうね。
でも、えらく素直なええ子ですなー、ホンマ。ちょっと容姿とギャップがある気もしますが、それはおいときましょう(汗)。
しかしネルフはもうダメですな。八方塞がり。ミサトを甚振るためには、ある程度のご威光は残して欲しいところですが、この先、予想もつきません。
シンジたちが裏で色々動き始めているようですから、何か新展開となるのでしょうか?
時田ネタもあることだし(笑)。
次も期待しましょう♪
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