新起動世紀ヱヴァンガル改

第十八話

presented by とりもち様




 ネルフの特別独房・・・

「う〜ん・・・あれ?
 ここは?」

 ミサトは起き上がると、そう呟いた。

「えっと・・・」

 考え込むミサト・・・

 おもむろに周りを見渡し、独房らしき所に居る事に気付く。

「はぁ!
 そうだわ!!
 出しなさい!
 私を誰だと思っているの!
 ネルフの作戦部長なのよ!
 偉いのよ!」


 そして、戦自に捕まって、閉じ込められた事を思い出し、騒ぎ始めた。

 まぁ、本当は取り押さえられ、危険として、隔離されたのだが・・・
(完全に、人間扱いすらされてなかった可能性あり)

 ともかく、場所が変わっている事に気がついていないらしい。

 暫く騒いで居ると、看守を伴って、どこかで見た事のある人物が現れた。

「・・・うるさいわね。
 いったい、どこから、貴女のその元気は出てくるの?」

 不機嫌そうに現れたのは、リツコだった。

「へ?・・・り、リツコ?
 あ、助けに来てくれたんだ♪
 聞いてよ〜ここの連中ってさぁ〜」

 なにやら、脳内で勝手にストーリーを作り出し、嬉しそうにミサトが喋り始めた。

「何を言いたいか、理解しているし、同意も出来ないから、先に言うけど・・・
 ココはネルフ本部よ」

 ミサトの話を、途中で遮り、リツコがそう言った。

「へ?
 どう言う事?」

 状況が理解できなかったのか、キョトンとしたミサトは、そう訊き返した。

「だから、貴女は、既に、戦略自衛隊つくば技術研究本部の独房から、ネルフ本部に移送されているのよ」

 リツコは頭を押さえながらそう言った。

「・・・・・・??」

 少し考え込むミサト・・

「な、なら、何なの!
 この扱いわ!」


 そして、自分が、ネルフの独房に居る事を理解したミサトはそう怒鳴った。

「貴女ね・・・
 自分が何を向うで何をやったか・・・わかっているの?」

 リツコが声を低くしながら、そう言った。

「え?・・・それは、その・・・
 私は、ただ、自走陽電子砲を“徴発”に行っただけなのに・・・」

 リツコの低い声により、上りかけた血が下がったミサトは、そう答える。

「ちょうはつぅ〜?
(確かに、“挑発”だったわね)」

 【ちょうはつ】という言葉に、眉をひそめながら、リツコはそう訊き返した。

「そ、そうよ!
 ったく、人類の命運がかかっているのにあいつら・・・」

 ミサトは愚痴を言い始めたが・・・

「(人類の命運じゃなく、貴女の我侭でしょ・・・)
 1つ訊くわ・・・
 貴女は、いったい、何の権限で、徴発しようとしたの?」

 だが、それを途中で遮って、リツコがそう訊いた。

 勿論、声はかなり低い。

「はぁ?
 当然、特務機関ネルフの特務け」

 ミサトは、当たり前のように、ネルフの特務権限の事を口に出そうとするが・・・

「ネルフの特務権限を他の組織、特に、軍事組織に対して使用する場合・・・
 ネルフの司令のか、副司令のどちらかのサイン、 そして、国連事務総長のか、国連軍総司令のどちらかのサイン、 更にそれに加え、その国の、日本なら、総理大臣のか、国防省長官のどちらかのサイン、それらの内、 最低でも三つ以上がされている書類が必要になっているわよね?
 何時の間に、それだけの許可をとったの?」

 リツコはそう訊き返した。

 実は、ネルフが、他組織に何かしら命令するためには、国連上層部、その国の政府のその組織に関係するトップ、 更に、ネルフ司令の許可が必要になっていたりする。

 なぜなら、他の組織であり、使徒専門の組織でもない第16独立連隊が、被害を最小限に抑えつつ、 次々と使徒を倒していても、追加予算を殆ど求めてこないのに対して・・・
(第16独立連隊が、追加予算として、要求したのは使用した弾薬や燃料代くらいなものである)

 使徒殲滅の専門と言って、色々と便宜を図らせ、長年、膨大な用途不明の予算を毟り取っていたクセに、 ネルフは、いざ使徒が現れたら、1体も倒せず、むしろ、被害を出す、もしくは増やすだけだったクセに、 新たな、しかも、国を幾つも傾けるような莫大な追加予算を、次々と要求し、 無理やり(ゼーレが裏で手を引いて)出させると言う行動をとる為・・・

 多くの国々から、不満の声が上がり、存在自体を疑問視される事となり、その権限を大幅に縮小されたり、 発動の為の条件を厳しくされたりしているのである。

 無論、この事が早急に求められ、認められたのは、ミサトが有事の際以外でも、特務権限を持ち出し、 乱用している事が、某組織付近の警察等から、証拠つきで、 第16派の国連議員に報告され、使徒戦後の緊急議会に持ち出された事が、原因の1つである。
(飲酒運転とか、信号無視とか、無謀運転とか、ひき逃げとか、飲み逃げとか・・・)

 因みに、内情を詳しく知らない議員達には、ネルフの一部署の代表者がそんな事をしているのだから、 他のネルフ所員の殆どが同じ事をしていると思われてもいるらしく、ネルフ所員の国際公務員の資格を取り消し、 国連とは関係ないただの一機関の所員としよう言う議題も出されているらしい。
(ゼーレ派の国連議員達も、何とかこれは防ごうとしているので、長引いているらしい)

「へ?・・・何それ?」

 初耳とばかりにミサトが目を点にする。

「貴女・・・
 まさか、また、最重要書類すら、読んでいなかったの?」

 リツコの目はかなり冷たい。

 この場合、最重要書類とは、手元に着たら、できる限り急いで、読み、 覚えておかなければならない書類である。

 因みに、第三使徒戦が終わってからと言うもの、そう言う類の書類は、ミサトには、数通りの方法で、 しかも、2、3回程、同じものを渡されている。
(必ず読ませる為に・・・その為、通常の十数倍の速さで書類等が溜まるが・・・)

 当然、リツコも、時々、自分の手で直接渡し、読むように言っていたようだ。
(ただし、ほんの数回だけで、後は部下マヤ達の考えで接触できなかったが・・・)

「い、いやぁ〜ね〜
 そ、そんな事・・・」

 ミサトは汗を流しながら、目線をずらし、そう言った。

 ロクに読んでいなかったのはバレバレである。
(もしくは、読んだフリをしただけとか・・・)

 尤も、読んでも覚えていなかった可能性もあるが・・・

 因みに、紙の書類は、ほとんど机の肥やしに・・・

 フロッピィ等の記憶媒体は、雑に扱われている為、壊れて、読み込めない状態に・・・

 メール等は、読まないまま、保存の期限切れとなり、自動的に消去となっているのであろう。
(と言うか、ミサトの執務室のパソコン自体、壊れている可能性あり)

「じゃぁ、何で・・・
 まさか、貴女、許可もとらずに、戦自の、それも、つくば技術研究本部に兵器を寄越せって、 乗り込んでいったわけ?」

 リツコが、呆れたように言った。

「し、司令の許可はとったわよ!」

 ミサトは、慌てて、怒鳴るようにそう言った。

「いつ、司令に特務権限発令許可申請書を出したの?!」

「え?・・・い、いや、その・・・
 あ、私はチャンと出してもらうように頼んだわよ(汗)」

 怒鳴り返してきたリツコに、ミサトはそうこたえた。

「誰に?
 司令には、頼んでいたとしても、他の方々に対しては?」

 微妙に意味は違うのだが、リツコはそう訊いた。

 ミサトは『その辺にいた一般所員に、書類をとるように頼んだ』と言う意味で・・・

 リツコは『直接、司令達に、許可のサインを書いてくれるように頼んだ』である。

「え・・・え〜っと」

 まぁ、どちらにしろ、ミサトには、その問いには答えられなかった。

 確かに、あの時、ミサトは、頼んではいた。

 ただし、廊下をすれ違った名も知らない、顔もロクに見た事の無い、 その辺を忙しそうに走っていた他部署の下級所員に・・・

 だいたい、本当にすれ違いだし、他にも大勢いたし、特務権限があるネルフのお偉いさんと自負しているので、 重要人物以外、ろくに覚えようとしていないミサトが、他部署の下級所員の顔を覚えているはずもない。
(名前を知らなくても、自分の地位を使って顎でこき使うだけだし)

 あの場でチラッと見ただけだし・・・
(顔も判らないだろう)

 それに、あの時は、皆、忙しかったので、単なる戯言と思うか、 別の人に言っていると思って、誰も聞いちゃいなかった。

 当然、頼まれたと考えられる人物は、覚えてもいないだろう。

 覚えていても、何かを言っていたというだけで、内容は覚えていないハズだ。
(いくら部長職といってもミサトに人望ないので、面と向かって言われない限り・・・)

 まぁ、日向が居れば、彼に押し付けただろうが・・・

 いや、もしくは、勝手にやってくれた可能性もあるだろう。
(フォローに慣れていただろうし)

 だが、彼は、自分の身の為に人身御供とし、某地獄の収容所に送ったのだから、ココに居るはずもない。

 戻ってきても、もう、ミサトの為に働こうとはしないだろう。

 何せ、彼の裁判の時、ネルフ代表として、庇いもせず、 むしろ、自分の分まで罪をきせ、止めを刺す証言をしたのはミサトだ。

「ともかく、そのようなモノは申請されていないし、よしんば出したとしても、 貴女が戦自と問題を起こしたのは、許可がおりるよりも前なのは明白よ」

 苛ついたようにリツコはそう言った。

 それはそうだろう。

 どんなに急いでやったとしても、その人物達から、許可のサインを貰うだけでも、数時間は掛かりそうなのに、 ミサトは、あのまま特攻するように戦略自衛隊つくば技術研究本部に突っ込んでいったのだから・・・

 尤も、残りの2人も、作戦の内容や成功率、最低でも出る被害を聞いたら、ゲンドウ以外、出しはし無いだろうが・・・
(日本中の電気をかき集めさせるんだし)

 それに、正式に外部の軍事組織へ特務権限発令する為の許可をとろうとしたら、 ネルフのみで使徒を倒せないと判断されるか、もしくは、作戦内容の提示を求められ、その結果、 被害が増大するだけと判断され、早急に使徒殲滅の指揮権が第16独立連隊に移される可能性はかなり高い。

 本来なら、リツコは、さっさと極秘研究室にミサトを連れて逝き、脳改造の1つでもしたいのだろうが・・・
(誤字にあらず・・・)

 冬月経由のゼーレからの命令で、それは出来ないのである。
(様々な理由で、下手にミサトを弄るわけにはいかないのである・・・変な進化しそうだし)

 だったら、他の人間に任せれば良いとおもうかもしれないが、ミサトを抑え、その手綱を取れる人材は、 現在、ネルフ本部には、冬月とリツコ位しか居ない。
(いつも部下任せであったゲンドウでは、タイミング的にも手遅れになる可能性があるらしい)

 だが、冬月は、様々な理由で、リツコに投げた。

 尤も、それはゼーレに、ミサトの無能さを上申し、 ミサトをネルフ本部の独房に閉じ込めて置く為の行動をとっているらしい。

 現在、ゼーレの上層部、老人達の間では、後戻り出来なくなっている為、 あくまでも、裏・死海文書に拘っている計画固執派の者達と、裏・死海文書を疑問視し始め、 続けるにしても、裏・死海文書通りしなくても良いと考えて居る計画修正派の者達と、 失敗した後、自分や一族の事を考え、これ以上の出費を抑え、 極秘裏に補完計画を中止しよう頓挫させようと 考えている計画破棄派の者の三派に分かれ、議論が始まっているらしいが・・・
(殆どの老人達は、後戻り出来ないほどの出費をしている為、ココでやめたら、 権力の座から引き摺り下ろされるだけではすまない状態になっている為、固執派が一番多く、破棄派は一席しかいない)

「えっと・・・」

 ミサトは言い訳が出来なくて、目線をずらす。

 そして、暫く、沈黙が続く。

「それに、向こうで貴女は銃を突きつけたらしいわね?」

 少しため息をついてから、リツコが、新たな話を切り出してきた。

「そ、それは、あいつが身勝手にも、こっちの言う事を・・・」

 どの口で言っているのか、はたまた、全く理解していないのか、ミサトはそうのたまうが・・・

「貴女ね・・・
(他の組織の人間に、実弾の入った銃を安全装置を解除して、向けると言う事の意味が判っているの?)」

 リツコはミサトの行動を思い出し、頭痛を覚えつつ、ある事を思い出した。

「そう言えば、貴女、銃を紛失してから、携帯許可を取り消されてなかったっけ?
 見つけ出し、もう一度、申請書を出すまで・・・
 何時の間に見つけたのかしら?」
(作者注:第7話参照である)

「え?・・・あ、その・・・」

 リツコの言葉に、ミサトは冷や汗をながす。。

 何せ、あの銃は、丸腰じゃ心もとないと、諸事情で手薄になっていた備品部にコッソリ?忍び込み、 勝手にパクッて盗んでいったモノだったりする。
(様々な問題で、人が少なくなって、手が回らなかった時とか・・・無論、鍵はこじ開けて・・・)

 バレたらかなり拙い。
(ミサトだけではなく、盗まれた事を失点として、揉み消していた管理責任者とかが・・・)

 故に、何も答えられないで居た。

 勿論、リツコは、ミサトが自分の銃を見付けていない事は百も承知である。

 なぜなら、ミサトが紛失した(ミサトのとマコトの)2丁の銃を預かり、 管理しているのはリツコだったりするのだから・・・(核爆)

 まぁ、ネルフ上層部冬月としても、 ミサトに銃を与えておく危険性は、十分に理解していたし、 よほどの緊急事態が起こらない限り、与える気も無いので、 隠して置くようにと、保安部等の部長達からも要請されていたりもするが・・・

 無論、リツコ自身、今までの長い付き合いから、ミサトの銃の入手法も大まかに、しかも正確に、 想像できていたりする。

 本来だったら、懲戒免職にでもしたいのだが・・・

 ゼーレの思惑?がある為、この女を作戦部長という要職から外せないのである。
(それゆえに、ネルフが没落しているのだが・・・
 老人達、全員が気付くのは、もう少し後であり、気付いた後も、責任の擦り付け合いで、更に時間がかかる事となる)

 故に、この責は銃器類の管理責任者である備品部の課長の誰かに行く事となる。

「大体、貴女は・・・」

 そして、リツコの愚痴が始まった。

 おそらく、ストレス解消のために、来たのかもしれない。

 その証拠に、愚痴を始めてから、リツコは、ミサトには、言い訳や反論どころか、発言すら、殆ど許さず、 一方的に言いまくっていったし、その中には、あまりミサトに関係ない事も含まれていた。
(無論、聞いていなければ、怒鳴って繰り返す)








 その頃・・・

 どこかの企業の会議室で、とある会議がなされていた。

「これを、アレの替わりに・・・と言うことか?」

 とある資料を見ながら、一番偉そうな老人がそう言った。

「えぇ、そうです。
 立派なものでしょう」

 重役Aがそう言った。

「フム、あの組織の使っているモノに似ているな・・・」

 その写真は、あるモノに似ていた。

「実は、あそこの上からの提供です」

 重役Bがそう言った。

「なに?!
 本当か?!

 あそこは・・・」

 Bの言葉を聞き、老人が驚く。

 何せ、自分達のような中小企業連に、大企業連がバックについているところが、 無償でこんなものを提供してくれるとは思っていなかったからだ。

「はい、あそこの意向もあるようです。
 その証拠に、いくつかの条件を呑めば、共同販売元にしてもらえるそうです」

 重役Cがそう言った。

「乗っ取りとか、そう言うのではないのか?」

 老人が怪訝そうな顔でそう言った。

「いえ、条件と言うのが、危険な失敗作を設計から見直す事、技術提携を受ける事、 そして、あるモノをこちらの開発したものとして、ある場所に奪わせる事です」

 Cはそう答えた。

「危険な失敗作とは・・・アレのことか?」

 老人が渋い顔をしながら言った。

 アレと言うのは、今度、大々的に発表する気であったモノである。

 確かに、アレよりは、此方の方が、認知度が大きく、魅力ある商品である。

 しかし、アレはいまだ表に出ていないとは言え、それやネルフのエヴァンゲリオンと言う兵器を、 ライバル視して作ったものである。

 それを、しかも、その開発に、つい最近まで、携わっていた社員自身が、『危険な失敗作』と言うとは・・・

「はい、色々と指摘を受けました。
 最初は、我々も、かなり、頭にきましたが、確かに、頭を冷ました後、もう一度、第三者的立場で見直せば、 指摘通り、アレは特攻自爆兵器以外の何物でもありません。
 アレを出す事は、我社だけでなく、共同体にとって致命的なものになります。
 社長も、そう言っておられました」

 重役Dがそう答えた。

「なに?・・・シロウも?・・・どう言う事だ?」

 怪訝そうに老人が訊いた。

 何せ、このDも、自分の息子である社長も、開発責任者として、 このプロジェクトを進めてきた中心人物であったハズだからだ。

 因みに、その社長である息子は、急遽重要な用件が出来たとの事で、この場にはいない代わりに、 最も自分が信頼を置く部下を代理人としてよこしている。

 おそらく、経営者よりも、技術屋の色の濃い息子である。

 既に、技術について、先方に色々と話しているのであろう。

「我々は、設計から、何から、ネルフに踊らされていたのですよ。
 調べたら、確かに、思想上でも、異常と思われる部分が多数ありました。
 おそらく、設計者の中にも、“草”が紛れていたと思います。
 まぁ、既に、“草”のあたりはつけてありますが・・・」

 社長の代理としている男、息子の親友でもあるDがそう言った。

 確かに、アレは、息子とこの男だけで作ったものではない。
(基本設計はこの2人らしいが・・・)

 一企業の技術で作れるのなら、中小企業連を集め、 日本重化学工業共同体というモノを作らなくても良かったからだ。

 それゆえ、開発には、複数の技術者が関わっていた。
(無論、踊らせていたのは、ネルフでなく、実はゼーレだが・・・)

「なるほど・・・確かに、エネルギー関係については、わしも疑問があったしの」

 報告を聞き、老人は頷く。

「更に、最近、きな臭い事が多いです。
 おそらく、既に本体のプログラムも弄られている可能性があります」

「調べる事は出来るか?」

「出来ますが、今は止した方が良いですね」

「何故だ?」

 老人は、Dの言葉に怪訝な顔をする。

「完全に、アレを囮にしたほうが、安全だからです。
 まだ、向うとの約束は、会長と、シロウ社長と、ここに居る口の堅く、信頼の置ける一部の重役、 それに、極一部の技術者位しか知りません」

「・・・つまり、今後、ネルフの妨害を防ぐ為の囮・・・というわけだな?
 しかし、何故そこまで、あの財団連が・・・
 確かに、あそこは、ネルフを嫌っているようだが・・・」

 不思議そうに老人が呟く。

「正直な話、向うはアレを量産する為、信頼の置けるところを捜していたそうです。
 我々の作成したJAは、色んな意味で失敗作ですが、我々が担当していた関節や指など、 細部に使われている技術は、高い評価を受けています。
 その技術を潰させるのは惜しいと・・・」

 重役Eがそう答えた。

「つまり、向うはウチに部品を作る下請けになって欲しいという事か?」

「向うと我々の立場を考えれば、悪くない取引だと思いますが?
 何せ、致命的になる所を教えてもらい、信用を失わないように代替を貰い、 ある意味、この商品のコミッション、権利の一部も貰い、 更に、今後の取引相手にもなってもらえるのですから・・・」

 確かに、このまま発表会を行っていれば、共同体は致命的な打撃を受けるだけでなく、 回りを巻き込み、トンでもない事態になったであろう。

「確かに・・・
 この話が無かったら、ウチを始めとする共同体の企業連は、結果的に嵌められ・・・
 軒並み、巨額の負債を抱えて、倒産だからな・・・」

 老人はそう呟いた。

「はい・・・」

「他の共同体の代表には?」

「今のところ、極秘にしています。
 完全に白と思われるところ以外には、ギリギリになるまで極秘にして置いた方が・・・
 一応、正式な発表は、あの披露会で・・・」

「まぁ、仕方あるまい。
 ある意味、綱渡りじゃろうが・・・」

 老人は納得する。

 確かに、幾ら同じ共同体の仲間とは言え、事が事だけに、用心するにこした事は無い。

 何せ、裏切り者がどこにいるかわからないのだから・・・

「それと、披露会の前に、碇会長が、会長と直接会いたいと・・・」

「なんと!
 あの碇会長がか?!」


 流石にその言葉に老人は驚く。

 何せ、向うは、事実上、世界経済を握っている財団連のトップ、盟主ともいえる存在だ。

 一応、自分も会長だが、それは一企業のであり、その立場は、天と地ほどの差があるからである。

「はい、こう言う事は信頼関係が必要との事で・・・
 直接会い、話がしたいと・・・」

「う、うむ・・・判った。
 向うの都合に合わせて、直ぐにでも、ワシの予定を開けよう」

 老人は慌てて、スケジュール帳を開く。

「一応、極秘と言う事ですので、無理にあけるのではなく、空いている時間を教えてくれとの事です。
 気付かれるわけにはいきませんから・・・」

「そ、そうだな。
 ネルフの事があるしな・・・」

 驚きつつも、老人は頷く。

 何せ、相手は、自分から望んでも、会える相手ではない。

 その相手が、しかも、向こうから、こちらの時間に合わせて、会おうと言っているのだ。

「では、今回の会議はこの位にしておきます。
 この会議の事は、発表会当日まで、各々の胸の中にしまって置いてください」

 重役の1人がそう言って、その会議は終わった。









 暫くたった後・・・ネルフ・特別独房室前

「なんですってぇ〜〜!!!」

 説教愚痴が終わった後、 リツコが、そのままミサトを放置していこうとしたら、思い出したようにミサトが言った言葉を聞いて、 リツコが叫んだ。

「だから〜
 奴らのところにレイが居たのよぉ〜」

 そう、ミサトは戦自で、レイを見たから、レイを救い出す為にも、ココから出すようにと言い出したのだ。

「本当に居たの?!」

 リツコは、そう大声で訊いた。

「居たのよ!
 バッチリその姿を見たわ!
 奴ら、うちの邪魔をするために、チルドレンを攫っていたのよ!
 だから、助け出す為にも早く私を出して!」


 ミサトはそう叫んでいるが・・・

「ん?・・・・・・す〜は〜す〜は〜」

 だが、リツコは、ある事を思い出し、深呼吸をして落ち着かせる。

 普通だったら、すぐさま飛び出すのだろうが・・・・

 しかしながら、その情報元はミサトである。

 酔った挙句に自分のペットを酒の摘みにしていたくせに、肝心な時に忘れているような女だ。

 勿論、それは完全?な言いがかりなのだが、状況証拠等から、発令所勤務の者や諜報三課の者達などから、 ミサトにはペット・イーターの二つ名が、(本人の知らないところで)与えられている。
(色々な方から、この二つ名を送られました♪)

 何せ、骨を分析させたら、焙ったり、揚げたりした調理の後が出てきたのである。
(態々、そこまで偽装したらしい・・・ 因みに、捨てられているが、台所のゴミ袋の中には、温泉ペンギンの羽が・・・)

 無論、DNA鑑定などで、厳密で詳しい検査をすれば、別ペンギンと分かるだろうが・・・

 元の資料が無いので出来ないし、そこまでやる気はない。

 調理の後があるだけで、十分である。

 故に、この話を知っている者達は、ミサトの言葉を、そのまま信じる事は出来ないのである。
(一応、ペンペン事件?の事は極秘扱いとなっている為、本部内でも、一部?の者しか知らない)

 更に、ココに運ばれてくる時には、ミサトは酔って寝ていた。

 故に、妄想、夢かも知れないし、もしかしたら、独房から出る為に、でっち上げているのかも知れない。
(でっち上げでも、数分後、それを自分の真実にするので、嘘発見器にも引っかからない)

 ミサトならやりかねないとリツコは自分に言い聞かせ、心を落ち着かせた。

「・・・貴女、向うでは、ずっと独房に居たのよね?
 どうやって、レイに会ったの?」

 自分を落ち着かせたリツコが、冷静な態度で、そう訊いた。

「え?・・・
 いや、独房から外を見ていたら、偶々、レイが通りかかったのよ。
 たっく、人が閉じ込められているってぇ〜のに結構良い服を着てさ」

 ミサトはそう答えた。

「(独房の前に?・・・まさか、ネルフ関係者と分かっている人物の前に、普通・・・
 それにレイが私服を?
 しかも、良い服?・・・)」

 もし、戦自がレイを連れて行っていたとしても、 ネルフ関係者であるミサトの傍に連れて来るとは考えにくい。

 色々と問題が起こるからだ。

 それにミサトの話だと、結構、良い服を着ていたらしい。

 幾ら保護したエヴァのパイロットとは言え、そこまで良い服を与える必要があるのか?

 第一、レイは、服に関しては殆ど無頓着だったハズだ。
(ネルフに居た間は・・・)

 要求するとは考えにくい。

 だったら、普通の服で済ませるハズだ。

「ミサト、一つ訊くわ」

 故に、リツコは尋ねる。

「なに?」

 キョトンとした顔でミサトがリツコの方を見る。

「チャンと確認した?
 直接、間違いない?
 間違っていたら、貴女、ネルフを首になって、即行で私の特別研究室逝きになるわよ」

 リツコがハッキリとそう言った。

 今、不確定な情報を元に、戦自を叩くようなマネは出来ないからだ。

 間違っていたら、かなり拙い事になる。

 そんな機微も分からないミサトが情報源なのだから、なおさら、細心の注意が必要である。

 石橋の上でダイナマイトを爆発させ、ハンマーで叩いて、罅が入らない事を確認しても、渡らない位の注意が・・・

「え?・・・(汗)
 いや、その・・・確り、確認したわけじゃないけど・・・
 あ、アレは絶対にレイよ!」

 リツコの特別研究室行きと聞いて、少し汗を流し、ミサトは少し考え込みながら、そう言った。

「・・・・・・・・・なんで、そんなにハッキリと言い切れるの?」

 ミサトの態度を見ながら、リツコは冷たい声で、更にそう訊いた。

「だって、あの髪の毛の色は、レイしかいないでしょ!」

 ミサトは叫ぶようにそう言った。

「(髪の毛の色)・・・
 後ろ姿を見ただけ?」

 髪の毛の色と言う言葉にリツコは眉をピクンと動かして、そう言った。

「え?・・・えぇ・・・
 それは、まぁ、そうだけど・・・」

 ミサトはリツコの態度にあせりながら、そう言った。

「あのね、あの髪の色は確かに珍しいけど、他に居ないわけではないのよ」

 確かに、この世界では、レイの髪と同じ色の人が居るらしい事は知られている。
(シンジ達の策略の1つである)

 中には、似た色に染めている人も居るくらいだ。
(無論、人口のものな為、天然色とは見かけも違うらしいが・・・)

「で、でも、私が名前を呼んだら、キョロキョロしていたわ!」

 ミサトがそう叫んだ。

「顔を見たの?」

 リツコが確認するように訊いた。

「え?」

「顔よ、顔。
 当然、ハッキリ見たんでしょうね?」

 言葉に詰まるミサトに、リツコはそう言った。

「え〜と、遠かったから・・・
 で、でも、あの髪の毛の色で、名前を呼んだら・・・
 そう、レイと言う名に反応したのよ!」

 固執するミサト・・・

「じゃぁ、直接会って、会話した訳じゃないのね?」

 冷たい口調で、リツコが訊く。

「え〜そりは・・・」

 ミサトは言葉に詰まりながらも、直接会った訳ではない事を認める。

 かなり遠くから、ちらっと見ただけだった事も・・・

「この件については私がもう少し調べておくわ。
 貴女はそこで、自分がやった事について考えてなさい」

 リツコはそう言って、その場を離れて行こうとした。

「ちょ、チョッと、リツコ!
 レイを助け出すんじゃないの!」

 ミサトは驚いて、そう叫ぶが・・・

「後で、貴女がやった行動で、どんな結果をネルフに引き起こしたか、書類を送ってあげるわ。
 チャンとそれを読んで上で、自分のやった事についての報告書も書かせるからね。
 勿論、手書きで・・・」

 振り返らずに、リツコはそう言った。

「げ!」

 リツコの言葉に、ただでさえ、書類嫌いのミサトは顔を蒼くする。

 リツコはそのまま、そこを離れて行った。








「いいのですか?
 死んだ、いえ、行方不明と思われていたファーストの貴重な情報ですよ」

 独房から離れて、少しして、リツコの後ろに居た黒服がそう訊いて来た。

「確かに、貴重な情報かもしれないけど・・・
 その情報元が、あの作戦部長よ。
 有力どころか、ガセとか、妄想の可能性がかなり高いわね。
 それに、離れていたのなら、偶々、別の人間に声をかけられて、反応した可能性も高いわ。
 大体、ウチの現状から、こんな不確かな情報で、戦自をつつくわけには行かないでしょ・・・
(あぁ〜ミサトがあんな事をしなければ、あんな条件を呑まされなくて済んだのにぃ!)」

 リツコは心の中で地団駄を踏んでいた。

 懸命な読者諸君には分かったであろうが、実は、ミサトが見たレイは、レイ自身であったりする。

 因みに、少し若いバージョンで、マナと一緒にうろついたのである。
(2人の後姿は色違いでソックリである)

 勿論、ワザとミサトの目に入るように、しかも、離れた場所で・・・

 コレが、カヲルが言っていた爆弾である。

 ネルフの立場がかなり弱くなっており、更に、戦自や日本政府とある契約をしてしまった為、 トンでもない爆弾になっているのである。

 レイが居ると言う事で、ネルフが戦自を調べようとしても、 特務権限が使えないので、強制捜査など出来ない。

 知らぬ存ぜぬで、通されると、強く言えないからだ。

 調べるにしても、日本政府や戦自のトップ、国連等に許可を求めなければならないので、 抜き打ちが出来ない。

 もし、工作員を送って、強引に調べても、バレたら最後、ネルフという組織は日本国から追放であり、 第三新東京市から、追い出される事となる。
(どんな事情があっても、元々日本国の国土であり、幾らなんでも、敵対組織をそのまま置いておくなど、 できないだろうし)

 使徒の事を持ち出しても、ネルフは、いまだ1体も倒して居らず、 今まで倒してきたのは、別の組織、第16独立連隊である。

 むしろ、ネルフを追い出し、第16独立連隊の新たな基地として、 ジオフロントを提供しようと言う話も、チラホラと会議で出ているくらいである。
(因みに、そうなったら、幾ら日本国籍を持っていても、ネルフの所員であるなら、 国外退去し様と言う話も出ているらしい)

 そうなったら、ゼーレの計画もゲンドウの計画も遂行できなくなるのだ。
(黒き月から追い出されるから・・・)

 しかし、なぜ、ここまで強硬で、一方的な契約が結べたかというと、 ネルフの立場がかなり弱くなったからである。

 元々、予算をアレだけ、各国から膨大に搾り取り、威張り散らしておきながら、 いざその時がきたら、まったくの役に立たずで、むしろ、被害を拡大し、結局、他の組織に尻拭いをさせた癖に、 莫大な追加予算を、大威張りで、さも当然とばかりに要求する。

 更に、特権を乱用して、守るべき民間人に負担等を増加させる。

 他の組織に喧嘩を売りに行く。

 潰されないほうがおかしいくらいな状態だったからである。
(後半の二つはほぼ、主にミサト)

 つまり、日本の本部を存続させる為には、そこまで不利な条件を呑まざるを得なくなっていたのである。

 こんな状況になっていても、ゼーレの老人達は補完計画のシナリオに拘っている。

 諦めたほうが良いと思うかもしれないが、既に老人達も後に引けない状態になっているのである。

 投入した資産(含む借金)、今まで計画にかけてきた意地、自分達の寿命、それらの影響もある。

 なら、なぜ、ミサトをどうにかしないのか・・・

 それは、直接自分達の生活に影響が無いので、ある意味、 対岸の火事のような感覚になっているのかもしれない。
(コレは、ある意味、前史で、第三新東京市という恵まれた地域で、 しかも、ネルフ本部と言う、恵まれた職場に居た為、外部に負担を掛けていても、 ロクに実感していなかった所員にも言えることかもしれない)

 または、ミサトの奇行の報告を、ゲンドウが予算を増大させる為の偽証と考えているのかも知れない。

 だが、主に負担が掛かっているゼーレの下部組織の一部には、 上層部を見限ろうと考え始めているところもあるらしい。

 何せ、彼らの場合、自分達の生活に、直接関わっているのである。

 幾ら上の命令とは言え、熱狂的で酔狂な狂信者で無い限り、 自分達の生活を崩壊させてまで仕えようとする者は居ないのである。

 故に、老人達の気付かないところで、闇の世界で、太古から脈々と続いていたゼーレ帝国の真なる崩壊も、 ジワリジワリと始まっていたのである。

 それはさておき、リツコは、ミサトから訊いた情報をゲンドウに伝えるベキかどうか迷っていた。

 下手に話して、暴走してしまえば、終わりである。

 今のゲンドウの状態だと、その可能性は高い。

 今のゲンドウは、彼の言うシナリオが躓きっ放しで、先を見る事が出来なくなっているようだから・・・

 それに、リツコにとっても、丁度いい。

 レイが居ない事で、余計な嫉妬を燃やす必要がないし、ある意味、自分がゲンドウの愛を、 一身に受ける事が出来る可能性があるのである。
(まぁ、無理だろうが・・・)

 ゲンドウの計画も失敗すれば、ユイの事も忘れ、自分だけを見てくれるかもしれない。

 そうすれば、自分は母を超えた事になるのだろう。

 女として・・・

 だが、下手に自分以外からこの情報がゲンドウの耳に入れば・・・

 拙いかもしれない。

 耳に入れなかった自分を責める可能性もある。

 ならばどうするか・・・

 リツコは、予防線を張る為にも、冬月を引き込む事に決め、副司令執務室に足を向けるのであった。










To be continued...


(あとがき?)

 さて、前フリとか、布石とか考えていたら、長くなりました。

 いやぁ〜無視して書きたいトコロだけ書くと、訳が判んなくなるだろうと思って・・・

 いや、確かに、現時点でも、訳が判らない部分があるでしょうが・・・(^^;)

 ともかく、次はJA編に、完全に移ります(多分)

 勿論、一部の方がお待ちかねのアレも出てきます。

 故に気長に待っていてね。



(ご要望にお応えして、ながちゃん@管理人のコメント)

久方ぶりの更新です。お待ちしておりました〜♪
相変わらず、ミサトはミサトですね。エヘ、お仲間お仲間〜♪
その場のノリで、段取りすっ飛ばして戦自に「徴発」しに行ったとはね…。
でも彼女なら…ありうる、かな?
リツコはリツコで、ミサトのトバッチリを受けつつも、しっかり強かな(個人的な)策略を巡らそうとしてるし、…ていうかまだゲンドウにホの字なのね、このヒト。あと、母親へのコンプレックスも相当なものだし。
このままじゃ、道連れで地獄行き決定ですな。
あと冬月……冬月……ハテ?
えーと、ここの冬月ってどういうキャラでしたっけ?(滝汗)
マズっ、またDとドラハツとネオとリターンがゴッチャになってる。あとで読み直さねばっ!
…コホン、失礼しました。m(_ _)m
次は農協編ですか。やっぱ出るんですかアレ?アレってアレですよね?もしかして管理人の勘違い?
でもここは一つ信じて待ちましょう♪
楽しみですね。
BGMとかは…今回はちと無理かなぁ?シン達の介入があるなら、可能性あり?(ローカルネタでスミマセン。外れたらゴメンなさい)
何はともあれ、せいぜいネルフをおちょくって下さいね♪
次話も期待しております。

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