「は?・・・」

 副司令執務室に呼ばれたリツコは冬月から、ある事を聞いて、目を点にした。

「いや、流石にあのような公の場に出る者が、あの階級では、色々と問題がね」

 渋い顔をしつつ、冬月はそう言った。

 建前上、幾ら、非公開組織とは言え、世界各国にある組織、その一部門の責任者、しかも、本部という事で、統括責任者とも言える者の階級が、高々、特務伍長では、対外的に何かと軽んじられるからである。

「それで、外に出すついでに、一尉に戻すんですか?」

 同じように渋い顔をしつつ、リツコはそう言った。

 ミサトを一尉に戻すのは、冬月の本意ではなく、実は、ゼーレからの命令であった。

 このまま順調に?降格が進むと、ミサトを自分達のシナリオ通りにネルフ本部の作戦部長にしておくどころか、ネルフ本部に所属させる事自体、不可能になると考えられたからである。
(今でも、かなり無理をしている)

 それに、あのままだと、同じ部の部下でさえ、彼女よりも階級が高すぎる状態になっているので、流石に、トップが軍事組織に関して、門外漢の学者出身であるという理由にしたとしても、無理がありすぎるのである。
(つまり、司令が学者で組織運営の事が分かっていないと言う事が、ミサトが作戦部長と言う地位に居られる要因のひとつだったらしいが・・・)

 このままいけば、この矛盾だらけの役立たずな金食い虫の我侭組織は、少なくとも、数週間後には、ゼーレのコマである司令部の全員が、総取替えされ、某所にぶち込まれる事になり、全てあんな人事をしたゼーレの表向きの顔である人類補完委員会とは関係ない、真っ当な人材に替えられる事になるのは自明の理である。

 無論、補完委員会も責任と言う事で、解散させられ、前任者達とは関わりのない新たな委員が選ばれる事となるだろう。

 と言うか、既に、ゼーレの爺さん達には気付かれないように、国連ではそう言う動きが極秘裏に動いているらしいが・・・

「うむ、今までの降格は、殆ど無かった事になっている。
 まぁ、元々、殆どの降格処分も、六文儀の奴が口で言うだけで、その後、まともに書類すら、出してなかったからね。
 実は、彼女は、書類上、つまり、対外的には二尉のままなだったのだよ」

 因みに、その給与の差額は、ゲンドウがポッケに入れようとも考えていたらしいが・・・

 それ以上に、ミサトがネルフ内だけで出した損害だけでも、遥かにその金額を上回っている為、差額はそのままその補填に使われている状態である。
(冬月の指示で・・・まぁ、溶岩に水一滴のような状態だが・・・)

「大丈夫なんですか?」

「一応、対外的には二尉にしかなっていないので、一尉に戻すのはさほど問題は無いと思うが?」

「いえ、階級を戻す事により、葛城作戦部長が調子に乗って・・・」

 リツコの言葉に、冬月は嫌な汗を流した。

「そ、その時は、それを理由に、即座に書類を提出し、対外的にも本格的に降格させ、部下の数も減らし、役職も、作戦係長にでもするよ。
(むしろ、部下はゼロにして、非常勤作戦係り補佐辺りにでもするかな・・・
 普段はあそこに常駐させて・・・)」

 冬月はそう言った。

 しかし、考えている事を、即実行したほうが無難だろうが・・・

「では、この書類にサインをさせればいいのですね?」

 数枚の書類を手に、リツコがそう言った。

「あぁ、それで一応、受理されるから・・・」

 冬月はそういいつつも、一抹の・・・いや、多大な不安を感じずにはいられなかった。

 まぁ、その不安は当然の如く、的中する事になるのだが・・・

 因みに、冬月は、既に、ある書類を準備していたりする。

 それらは、ミサトの降格だけでなく、今後の為、作戦部縮小させる関係書類である。

 ゼーレの依頼で、あくまでもミサトがトップと言う体面?を保つ為、役に立たない等と言う、様々な理由をつけて作戦部を縮小させる為に・・・
(役に立たないと言うか、害なのはミサトなのだが・・・)

 これは、問題の先送りであり、新たな問題の発生原因になるのだが・・・

「やはり、ワシから委員会に進言して、この対処最終手段を実行に移すべきか・・・
 しかし・・・そうなると」

 いつの間にか、リツコが退出した部屋で、冬月は、とある書類棚を見つつ、独り、そう呟いた。






 ネルフ本部・某部屋

「また、君に借りが出来たようだね」

 部屋の主が、電話に向かってそう言った。

『またまた、どうせ、返すつもりもないのでしょう』

 軽い口調で電話の相手がそう言うと・・・

「そ、そんな事はないぞ、うん。
(いかんな、六文儀の奴、人心把握等と言う物をロクに考えん。
 少しは調停をする者の身になってくれ・・・って無駄な事だな)」

 冬月は心の中で、恐怖で部下を縛る事しか考えていないゲンドウに愚痴りつつ、そう言った。

『ほう、何で返してくださるんでしょうか?』

 冗談めいた声で、電話の相手がそう尋ねた。

 無論、軽い冗談であり、今までの相手(ゲンドウ)なら、何も応えず、シカトし、 ロクに返してくれない事が判っていて、期待せずに言ったのである。

「そ、そうだねぇ〜
(何がよいかなぁ〜
 下手な情報は渡せんし、かと言って、別の物にするにしても、予算も少ないしなぁ〜)」

 だが、部屋の主・・・冬月が、悩むように、そう言った。
(実はゲンドウはまだ復帰していない)

『へ・・・い、いえいえ、今、答えてくださらなくていいですよ。
(ははは、司令と違って、こう言う事まで真面目に答えるんだからな・・・)』

 電話の相手が、慌てて、そう言った。

 いつもの相手と違う為、軽い冗談?が通じない事がわかったからだ。

 こんな事で返してもらっていたら、本来の雇い主(ゲンドウ)が復帰した後で、どんな難癖をつけられるか、 わかったものではないからだ。

 これも、人徳?のなせる業であろう。

「そ、そうかね・・・
 しかし、チャンと報いるから、安心して起きたまえ」

 考え付かなかった冬月は、どこと無く、ホッとした雰囲気で、そう言った。

『はい、気長に待っておきますよ。
 それと連中が情報公開法を盾に、公開をせまっていた資料ですが・・・
 確り、ダミーを使ってあしらっておきました』

「そうか、助かるよ」

 その言葉を聞いて、冬月の顔に安堵の表情が浮かぶ。

『ところで、例の計画の方なのですが・・・
 意外にも、予想よりもすんなり行きました。
 行きましたが、何かが引っかかるんです』

 少し、考え込むように電話の相手が、そう言った。

「引っかかるとは?」

 冬月が怪訝そうに、そう訊いた。

『いえ、今までと、警備のとかの感じがですが・・・
 以前よりも、ザルの様な気がして・・・
 後、情報によると、共同体の中心企業である時田重工の外部に対する動きが、活発らしいのです。
 何か、共同体に関係なく、独自に何かをやっているようなのですが・・・』

「何か分かったのかね?」

 冬月は額に眉を寄せて尋ねる。

『いえ、今までとは違い、そこだけは、むしろ、異常にガードが固くなっています。
(その為に、他が疎かになったと言う見方もあるが・・・それだとあまりにも・・・)
 それと殆どのつてが、何時の間にか、使えなくなっていました』

 つまり、潜り込ませているゼーレやネルフのスパイからの情報が使えないか、途絶えているという事である。

「もしや、バレたんじゃないだろうね?」

 冬月は不安そうにそう訊いた。

 何せ、ネルフに予算を集める為にもと考え、計画したものである。

 元々、ゼーレも関与している為、大丈夫だろうと、冬月も楽観視していたのであるが・・・

『いえ、アレに関しては、特に変わった動きは無いのですが・・・
 他の企業には、アレの売り込みを始めていると言っているようです』

「特におかしいとは思えないが・・・
 それは嘘だというのかね?」

 確かに、発表会の前に売り込みに行くのは別段不思議ではない。

『一応、調べたのですが・・・ハッキリとは判りません。
 ただ、あそこが接触しているのは、戦自、日本政府だけではなく、 どうも、あの財団連関係企業の何処かと接触を持っているようなのです。
 他の日本重化学工業共同体の企業の上層部にも、黙って・・・』

 財団連とは、碇財団を始めとする六大財団が、中心となっている世界財団連盟の事である。

 実際に接触しているのは、碇財団、それもトップなのだが、ある程度、極秘裏にやっている為、 財団連の何処が接触しているのかは判らなかったのである。
(ネルフやゼーレでは・・・)

「ざ、財団連にもかね?」

 確かに、戦自や日本政府ならわかるが、産業的に、ライヴァルともいえる所にも、 売り込みに行くのはおかしいのではないかと、冬月は感じた。

『はい、一応、発表会にも、数名の重役を招待する事になっているようですが・・・』

「ふむ・・・判った。
 ともかく、これ以上、君が日本にいるわけにも行くまい。
 アレの件もある。
 後は諜報部の連中に任せて、早急にドイツに戻りたまえ」

 冬月は考え込みながらそう言った。

 もしかしたら、何かしらのアドバンテージを得るために、 見せつける積もりなのかも知れないという考えが出てくる。

 それなら、招待状を送るのはわかる。

 だが、態々、共同体の他の企業上層部にも黙って、 財団関係の企業と接触していると言う事が引っかかっているのである。

 だが、色々な事情もあり、電話の相手を、日本に留めておくわけには行かない。

 本来なら、相手はドイツに居るハズだからだ。

 多少落ちるが、ネルフ諜報三課の者達にやらせるしかないのである。
(そういう関係では、一応、手駒の中では、一番優秀である)

『わかりました、それでは・・・』

 電話の相手はそう言って、電話を切った。

「フム・・・もしもの事を考えておく必要がありそうだな・・・」

 冬月はそう呟いた。










新起動世紀ヱヴァンガル改

第十九話 発表会

presented by とりもち様











旧東京都心・第28放置区域

 その上空には、ネルフのヘリが飛んでいた。

「ココがかつて、華の都と呼ばれていた大都会とはね・・・」

 そのヘリの中で、何故かミサトが、下を見ながらそう呟いていた。

 実は、色々とあって、ミサトはやっとあの独房から出てきたのである。

(ミサトにとっては)非常に多く辛い苦行仕事を終えて・・・

 無論、終わらせないと、出るどころか、えびちゅも無しと言う事も、影響したと言う話もある。
(発案者リツコ)

 まぁ、独房から出てこられたのは、今朝になってからであるが・・・

 勿論、後で、その書類は間違えだらけである事が判明し、 やり直しの為、再び、独房に戻らされ、刑期?が延長される理由の1つになるが・・・

「見えたわよ」

 その声に促されミサトが前を見ると、そこには巨大な箱状の建物が見えた。

「何もこんなところでやらなくてもいいのに・・・
 で、その計画、第16や戦自はからんでいるの?」

 ミサトがそう訊いた。

「第16独立連隊と戦略自衛隊?
 いいえ、招待はされているらしいけど、介入は認められず、よ。
(ただ、財団連が、最近になって、かかわり始めているらしいけど)」

「どおりで好きにやっているわけね」

 リツコの答えに、ミサトは侮蔑するようにそう呟いた。






 日本重化学工業共同体・新商品完成披露発表会会場

 その会場に、ミサトとリツコは来ていた。

 席は中央、一応、(見かけは)マトモな料理が置いてあるが・・・

 だが、ビール等のアルコール類は、一切置かれていなかった。
(他のテーブルには、置いてある所もある)

 因みに、ノンアルコールビールも置いていない。

「ったく、ココまで準備するなら、えびちゅくらい置いておきなさいよ」

 ミサトが、料理をつつきながら、ぶつくさと文句を言った。

「バカ、私達は、公務、仕事できているのよ。
 それに、よく見なさい。
 戦自や、役人関係のところ・・・
 つまり、軍関係、官僚関係の所には置いてないでしょ?
 真っ昼間から、お役所関係のところが、公の場で、しかも、職務中にアルコールを飲むわけには行かないでしょうが・・・
 特に、報道関係者の席もあるようだし・・・
 これは、出席した所が、色々とつつかれない為に、向うがした配慮なのよ」

 リツコは、間違った文句を言うミサトの足を軽く蹴りながらそう言った。

 確かに、置いてあるのは、一部の一般企業の席だけである。

 その席でも、アルコールに手を出している所は少ない。

 いくら、パーティのような催しとは言え、一応、仕事できているし、 夜ならまだしも、こんな真っ昼間から酒を飲むのは、取引などにあまり関係のない、 招待されただけの企業くらいだろう。

 しかも、報道関係の人間が多数来ている。

 税金で来ている者達が、真っ昼間から酒を飲んでいるところを報道されたら、 今後、色々と立場が悪くなる可能性もあるのだ。
(この世界では、セカンドインパクト後、日本でもかなり、煩くなっているという設定です)

 だからこそ、あらかじめ、アルコール類は、殆ど出していないのである。

 その分、料理を奮発している様だが・・・

 しかし、まぁ、こう言う配慮は、職務中に、しかも、仕事をサボりまくって、 えびちゅを飲みまくるミサトには、考え付かないものであるし、余計なお世話と思うだろうが・・・

「たっ・・・だってぇ〜」

 不満そうに、ミサトが、言い返そうとする。

「それに、貴女は、今朝、出発前に、1ダース飲んでいたでしょう。
 シャワーを浴びるから、時間を頂戴とか言って・・・」

 因みに、それは500ml缶である。
(つまり、最低でも6リットル・・・)

 勿論、飲んだ後、出発の時間が迫っているのに、ご機嫌な調子で、シャワーではなく、風呂に入り、 数十分後、あまりにも遅いので、風呂場に怒鳴り込んできたリツコに桶をぶつけられるまで、 湯船に浸かり、のんきに鼻歌を歌いながら、更に飲んでいたらしいが・・・
(その所為で、遅刻しそうになった為、大慌てで、ネルフ本部にある一番早いヘリを飛ばしたのである)

「いやぁ〜別にあの位じゃ、私は酔わないから良いっしょ」

 頭を掻きながら、軽くそう言うミサト・・・

 本当に、この女、国際公務員の試験を突破したのだろうか?と言う疑問が涌いてくる。

「(湯船の中では、十分、酔っていたじゃない)」

 説得力が皆無のミサトの台詞を聞いて、リツコの目がかなり細くなり、その額には青いバッテンが浮かぶ。

 それはともかく、ある程度、JAについての説明が続いていくが・・・

『・・・というのが、表向きに発表していた妨害よけのデコイであるJAの説明です。
 ココまでは良いですね?』

 司会者がそう言った途端、一部の者達(含むリツコ)が吹出した。

「「「お、表向きぃ!」」」

「「「デコイだとぉ?!」」」

 更にそんな声があがる。

 何故か、共同体関係者席からも・・・

『はい、そうです。
 我々が作っていたのは、表向き、あの正体不明の使徒と呼ばれるモノとも戦えるモノです。
 N兵器がまともに効かない、しかも、 瞬間的な対応が必要な格闘能力が必要な相手と戦うモノが、 この程度のレベルでは、お話にならないでしょう』

 司会者は、ニヤニヤしながら、そう言って、JAのパンフレットを床に投げ捨てる。

『徹底して、秘密にしたのは、我々の作っているモノを快く思わない方々がいますしねぇ〜
 妨害をされては、たまりませんから・・・
 事実、デコイであったJAには細工をされていましたし・・・色々とね』

 司会者がそこまで言うと、一部を除く者達が一斉に中央のネルフ席を見る。

 リツコは居心地が悪くなるが・・・

「何ですって!
 私達が何をしたとでも言うの?!」


 即座に、立ち上がって、叫ぶミサト・・・

 状況がわかっていない。

 お陰で、更に注目される。

「バカ・・・」

 リツコが眉をひそめ、頭を抱えながら、そう呟いた。

『おや?
 我々は別に“どこが”とは、言っていませんが?
 もしかして、思い当たる事でも?』

 司会者はニヤニヤしながら、そう言った。

「んなわけないでしょが!」

 そうミサトは叫ぶが・・・

 あんな状況で、あんな事を叫べば、怪しい事、この上ない。

 だいたい、あの状況では、思い当たる節のある所で、更に、間抜けなトコ以外、叫ばないだろう。

『まぁ、それはさておき・・・』

 パチン!

 司会者が指を鳴らすと【祝! JA完成披露式典】と書かれていた横断幕が落ち・・・

 代わりに、【祝! GG完成披露式典】と書かれた横断幕が出てきた。

 会場名と横断幕の内容が違っていたのはこの為である。

「「「「「GG?!」」」」」

 ミサトやリツコを始め、知らされていなかった面々(含むJA関係者)が、JAの代わりに出てきた文字を見て叫ぶ。

 今まで聞いた事も無い名前だったからだ。

『はい、それでは、本命のGGの説明に移りますが、その前に質問がありそうですね?
 手をあげてください、詳しい説明の資料は、その間にお配りしますから・・・』

 司会者がそう言うと、一斉に、知らなかった面々が手をあげる。

『では、貴方からどうぞ』

 司会者が、共同体に所属する企業の代表らしい(知らされていなかった)人を先ず指した。

「なぜ、同じ共同体である我々にも黙って、こんな事を!
 これでは、JA開発に協力してきた我々は道化ではないか!」


 怒鳴るように、共同体の一企業の代表らしき人物が怒鳴った。

『先程も説明したとおり、妨害者の目を逸らす為です。
 敵を騙すには先ず味方から・・・という言葉もありますが・・・
 実のところ、共同体関連企業の内部にも、大勢のスパイさん達が居ましたのでね。
 一部の技術者を除く人々には悪いですが、GGの事は極秘にさせていただきました。
 あぁ、スパイらしい者達は名簿を作りましたから、皆さんの社長、会長様達にも、今朝、お送りいたしておりますよ。
 ○□×エレキトリニクス専務、△◎さん』

 司会者がそう言うと、その代表らしい人は、何故か冷や汗をかきながら座る。

 そして、ひとしきり質問を捌くと・・・

『では、先程から、渋い顔をしておられるネルフの赤木博士。
 どうぞ』

 やっとリツコをあてた。

 ちなみに、最初からずっと手を上げていたが、あえて後回しにされていたのである。

「GGとは、JAと同じ内燃機関なのですか?」

 リツコは席を立ち、そう訊いた。

『そうです。
 内燃機関を搭載しています。
 ただ、JAと同じ物ではありませんがね。
 原子炉のような半永久的機関とは違いますので、今は連続3日間の戦闘行動が限界ですね。
 まぁ、元々、人型機動重機ですから、幾ら、丈夫なものを作っても、機械であるがゆえに、 関節などの整備の関係上、何十日も連続で動かすわけにはいきませんが・・・
(乗っている人も耐えられないだろうし)』

 司会者はそう説明した。

「クッ・・・
 格闘戦を前提とした陸戦兵器に内燃機関を搭載する事は、 安全面の点から見ても、リスクが大きいと思いますが?」

 リツコが、前もって決まっていたような台詞を吐くが・・・

『いえいえ、今回、搭載している内燃機関は、ある意味、電池のようなもので、原子炉や核とは違い、 クリーンなもので、破壊されても、影響は特に残りません。
 機体を破壊されると、爆発の影響で、多少被害は出るかもしれませんが、それだけです。
 原子炉のように、放射能汚染などはありませんよ。
 それに、戦闘にも使えますが、基本的に復興支援などを念頭に置いた重機であります。
 まぁ、最初の名目がありますので、最初のロットは戦闘用にカスタマイズされていますが・・・
 それでも、紐付きで行動が制限され、それが無かったら、5分と動けないような兵器よりは、 役に立たつとおもいますが?』

 嫌味っぽく、司会者がそう答えた。

 しかし、それって、本当に内燃機関なのだろうか?
(作者はよく分かりません)

「え、遠隔操縦では緊急対処に問題を残します!」

 リツコがヒステリックに叫ぶ。

『はて?・・・
 GGは遠隔操縦ではありませんよ。
 お配りしている資料にありましたよね?』

 司会者は首を傾げつつ、そう返した。

「は?」

 司会者の答えに、目が点になるリツコ・・・

 実は、既に、資料はテーブルの上に二部ほど、届いていたが・・・

 リツコは司会者の方に集中していて、気付いていなかった。

 また、ミサトはリツコに来た事を教えるどころか、見ようとすらしていなかった。

 それどころか、敷物のようにして、既に、両方とも汚している。

 それはさて置き、リツコは完全に言葉に詰まっていた。

 なぜなら、元々、共同体が作っていた兵器は、余計な人死が出ないようにする為、無人だったハズだ。

 これは、第一の目的であり、子供達を矢面に出すネルフに対する比喩もあった為、不変のハズだった。

 それなのに、ココの司会者は、違うと言う。

『遠隔操作では、ハッキング対策もかなりモノもじゃないと大変ですのでね。
 ネルフのマギクラスのコンピューターと優秀なハッカーに襲われたら、指令回線を通じて、 のっとられるかもしれませんしねぇ〜」

「!!」

「・・・・・・」

「いだ・・・な、なによ・・・」

 ネルフをあからさまに疑っていると宣言しているようなものだが、 リツコは、これについて、何かを言うわけにはいけなかったし、ミサトが立ち上がって怒鳴なろうとする前に、 彼女の足を踏み、何も言わないようにと、無言でプレッシャーを放った。

 先ほどのこともあり、ヘタな事を言えば、立場が悪くなるからだ。

『それから、もしもの事を考え、チャンと、対ショック装置、緊急脱出装置等も確り完備されています。
 戦闘用の方は、大人で、志願し、訓練されたパイロットが乗る事になっていますし、更にそう言う装置などは、 グレードをアップし、徹底させています』

 混乱するリツコを横目に、司会者はそう説明した。

「クッ・・・」

 聞いていた情報がまったく違うので、リツコは、悔しそうに唇を噛んだ。

「どう言う事?」

 理解していないというか、話について行けないミサトが、そうリツコに訊いた。

 因みに、読む気が無い資料は、態々、使っている皿の下に敷いて、更に汚している。

『まぁ、同じように、人は乗りますが、制御不能に陥り易く、暴走をも許し易い、 危険極まりないどこぞの兵器よりは、安全だと思いますよ。
 まあ、幸いにも、“機動実験の時だけ”で、 まだ“実戦では”起きていないようですがね。
 尤も、実戦では、そんな暇も無かったようですがねぇ〜』

 嫌みったらしく、司会者がそう言った。

 確かに、零号機は実験で原因不明?の暴走を起こし、パイロットは行方不明・・・

 初号機は、暴走するどころか、動く前に、大破・・・

 戦場で、マトモに動いた弐号機は、ドイツ製であり、本部のものではない。

 更に言うなら、唯一まともに動かしたそのパイロットは、作戦部長で、上官でもあるミサトの所為で、 病院から逃げ出し、これまた行方不明なのである。

 唯一、本部にある起動可能な参号機もアメリカ製であり、まだ実戦で使った事はないし、 パイロットは、つい最近選抜されたばかりだし、シンクロ率の常態から見ても、 弐号機のパイロットだったアスカの半分も無ので、リツコには、マトモに動かせるとは思えなかった。

 それ故、何も言い返せない。

『それに、製作者側でも、制御法がハッキリと確立しておらず、よく分からない兵器など、全くのナンセンスです。
 ヒステリーを起こし易い人に火炎放射器等を渡し、一緒に火薬庫の中に居るのと同じですよ。
 ちょっとでも、対応を間違えれば、暴れだし、手に負えなくなるだけではなく、被害が増大するだけです』

 芝居かかったように、司会者は、肩をすくめつつ、更にそう言った。
(過激な比喩だ)

 周りから、失笑が流れてくる。

 リツコ達を見ている目も、侮蔑以外の何ものでもなかった。

「そ、その為のパイロットとテクノロジーです!」

 その雰囲気に耐え切れなくなったリツコが、そう叫んだ。

『パイロットとテクノロジーねぇ〜
 では、そのテクノロジーとやらで、貴女方はあの使徒と言う化け物を1体でも倒した事があるのですか?』

 その言葉に、やはり、リツコは答えられない。

 なぜなら、まだ1体も、ただの一体さえも、ネルフは使徒を倒した事が無いからだ。

『また、パイロットですが・・・
 パイロットは、志願し、訓練した大人ではなく、14歳くらいの子供でしょ?
 本来、大人が護ってあげなければならない存在を、矢面、生死の狭間にある戦場の最前線に送り出し・・・
 そして、本来、彼らを護る義務のある大人達が、援護をするどころか、後方で、しかも、安全な所に居て、 のーのーとヤジを飛ばし、生死の掛かった瞬間的判断及び、その行動の邪魔をして、子供達を苦しめる。
 貴女方の言うテクノロジーは、そんな事をする為のモノですか?』

 司会者はネルフの体制を皮肉った。

「アンタね!
 使徒にはATフィールドっていうのが」


 流石に、カチンときたのか、リツコの代わりに、ミサトが席を立って怒鳴ろうとするが・・・

『えぇ、知っていますよ。
 で、そのATフィールドとやらをネルフのアレが発揮した事があるのですか?
 本当に、使徒はATフィールドが無いと倒せませんでしたか?
 今まで、使徒を倒してくれた所は、そんなモノを使っていたのですか?』

 司会者はそう言って、ミサトの言葉を止めた。

「ぐっ・・・」

 ミサトは何も言えなくなる。

 確かに、今まで使徒を倒してきた第16は、ATフィールドを使っているようには見えなかった。
(実は、マギに感知されない程度で、若干使った時はあるが・・・第四使徒の時とか)

 記録では、すべて、そんなもの無しの物理攻撃だ。

 そして、いまだ、実戦どころか、実験でもATフィールドの展開記録は無い。

 まぁ、実戦で、チラリとあったかも知れないが、役には立っていないのは確かである。

 つまり、エヴァでさえ、使えない、もしくは、出力が低すぎて、役に立たないと思われていた。

 因みに、フォースであるトウジもまだ張れていない。

 エヴァを何とか起動させ、何とか動かせる程度のレベルである。

『それに、私達が言っているのは・・・
【子供達でないと乗れない欠陥兵器しか作ってないのに
貴女方は、その不条理極まりない現状に満足にし
それ以上、何も考えようとせず
技術でさえ停滞させ
何もしようとしていない事】
について、疑問を感じずにはおれないって事ですよ』

 司会者は途中で態と区切りを入れ、強調した。

『どうして、貴女方は、子供しか乗れないモノで満足しているのですか?
 何故、そこから、更に研究し、大人でも乗れるものを作らなかったのです?
 大人でなく、子供なら乗れると言う事は、何か、特別な条件があるんでしょう?
 何故、この数年間、それを解決し、大人でも乗れるモノを研究、開発しようとしなかったのですか?
 自分達だけの技術力で出来ないなら、何故、外部に協力を求めないのですか?
 態々、外部組織との間に溝を作り、敵対関係のような状況を作るのは何故ですか?
 人類の未来がかかっていると宣言しているクセに、徹底的に秘密主義を通しているのは何故ですか?
 貴女方は、既に、直接の犠牲者を出しているのに・・・
 最初の犠牲者は、直前まで、何も知らなかった少年らしいじゃないですか!
 しかも、説得すらせず、無理矢理載せ、そのまま説明もせず、死んでこいとばかりに、 行き成り使徒の目の前に打ち出したとか・・・
 なぜ、若い未来を簡単に奪っておきながら、 そんなにも平然として居られるのですか?!
 その傲慢な態度、姿勢を変えず、寧ろ、当然といった顔で、 突き進んでいるのは何故ですか?!』

 司会者が、次々に疑問を投げかけていく。

 会場がざわつく。

 最初の使徒で、初号機が大破し、無理矢理載せた子供を死亡させたらしいと言う事は、 その筋では、有名な話であるが・・・
(ゼーレでも、完全に防げなかった)

 まだ知らない人間が、ここには居たからだ。
(結構、噂程度には流れているらしいが・・・
 それに、報道関係者が居るので、後が大変であろう。
 揉み消しとか・・・)

 リツコは、その立場と裏の事情を知るため、ミサトは元からの知識と自分の偽善心(復讐心?)から、 それに答える事が出来なかった。

 まぁ、流石に・・・
“精神を程よく壊し、某計画の依り代、生贄にする為に〜”とか、
“裏でやっている事、真の補完計画を気付かれない為に〜”とか、
“面倒臭くって、資料を詳しく読んでいないので、(表向きの)理由を全く知りません”とか、
“自分の復讐に対して、他の組織に横から茶々を入れられたくないから・・・”等と、
本音を答えられるハズがないだろうが・・・
(上二つがリツコ、下がミサト)

 又、リツコは上手い言い訳を考え付かなかった。

 思いついても、直ぐに反論が思いつくか、言えば薮蛇を突付きそうなモノだけであった。
(ミサトにいたっては、何も思いつかないが・・・)

 それゆえに、押し黙り、何も答えないリツコとミサト・・・

 周りも、大抵が冷たい目で見ている。

 リツコとミサトは、居たたまれない気持ちになって、小さくなる。

 それを見て、司会者は、心の中で、ニヤリする。

『では、他に質問がなければ、休憩を挟みまして、GGのお披露目と起動風景を見ていただきます』

 リツコとミサトは、流石にその場に留まる事が出来ず、そそくさと準備されていた控え室の方に戻って行った。








 ネルフ控え室

「あの俗物共がぁ〜
 どうせ、ウチの利権にあぶれた奴らの腹いせでしょ!
 それに、機密がダダ漏れじゃない!
 諜報部や保安部は何をやっていたのよ!
 むかつくぅ〜〜!!」


 案の定、ミサトは八つ当たりをするようにロッカーを蹴って破壊すると言う行動に出ていたが・・・

 リツコは、配られたパンフをじっくりと読んでいた。

「何、読んでいるのよ」

 ひとしきりロッカーを破壊したミサトがリツコの方を見て、不機嫌そうにそう言った。

「あちら御自慢の新兵器の紹介文、と言うか、簡単な仕様書よ。
 貴女が汚した所為で読み難い所もあるけど・・・」

 リツコは一瞥しつつ、そう答えた。

「何よそれ!
 やめなさいよ!」


 すると、ミサトは怒った様に怒鳴り、リツコの持つパンフレットを奪おうと飛び掛る。

 リツコはあわてて、奪おうとするミサトを避けると、ミサトはそのまま、床と熱い?抱擁をする。

 そして、起き上がり、再びリツコを睨む。

 その目は裏切り者を見るような目だ。

「貴女ね・・・
 相手を知らずに何かをするって言う事がどんなことか分かっているの?」

 呆れたような表情で、リツコが嗜めるように、そう言った。

「必要ないでしょ!
 あんな奴らの事なんて!」


 ミサトはそう怒鳴り返した。

「貴女ね、一応、作戦参謀なんでしょ?・・・
【知彼知己、百戦不殆。
 不知彼而知己、一勝一負。
 不知彼、不知己、毎戦必敗】

 って言う言葉位、聞いた事あるでしょ?」

 そんなミサトの態度に呆れ、リツコはそう言った。

「何よ・・・それ・・・中国語?」

 難しい言葉を言われ、ミサトは眉を顰める。

「現代日本語にすれば・・・
【敵を知って、己を知っていれば、百回戦っても負けることはない。
 己は知っているけれど、敵の事を知らなければ、勝ったり負けたりする。
 敵も己も知らなければ、必ず負ける】

 有名な孫子の兵法の一説よ」

 リツコがそう説明するが、ミサトの頭の上にはクエスチョンマークだ。

 わかっていない。

「あ、貴女ね・・・
 戦術、戦略の基礎思想の一つでしょ・・・
(それだけじゃないけど・・・)
 どこかで習っているはずよ」

 冷や汗をかきつつ、リツコがそう言った。

 だが、ミサトは首を捻る。

 どうやら、マジで知らないらしい。

 勿論、士官候補生だった時、教習の課程で、それに近い言葉を教えられているのだが、そこはそれ、ミサトである。
(作者注:本当に、戦術や戦略を習う授業で出てくるかどうかは知りませんが、 まぁ、普通はこれに近い言葉位、知っているでしょうと言うことで・・・基本だし)

 当然のごとく、寝ていたか、サボっていたか、忘れているかである。
(よく卒業できたな)

「孫子って誰よ?」

 ミサトは怪訝な顔をしつつ、そう言った。

「昔、中国にいた偉人。
 孫武と孫ピンと言う2人の兵法家の事よ。
 まぁ、主に孫武の事を表すことが多いけどね」
(ピンの字は出ませんでしたので、御了承ください)

 呆れた顔をしつつ、リツコは孫子について説明をするが・・・

「はん!
 そんなカビの生えたような大昔の兵法家の言葉がなんの役に立つって言うのよ!
 現代科学の兵器がそんな昔にあったわけ無いでしょ!
 基本から変わっているのよ!」


 途中で、何も分かっていないミサトはそう言って、不機嫌そうに顔を背けた。

 授業っぽい事をされて、嫌になったのであろう。

 だが、そんなミサトの言葉を聞いて、リツコは心底呆れていた。

 時代が変わろうとも、孫子の兵法は戦術、戦略の基本として存在するし、それは変わっていない。
(やり方や武器は変わろうとも、それを扱う人間、戦争をやる理由など、 早々変わるものではないし、孫子の兵法とはある意味、完成されたものとして丁重に扱われているそうです。
 特に情報戦とか、重要だし・・・)

 それこそ、東西の多くの近代戦術、戦略家達が基本中の基本としている事を、この女は・・・

 いくら看板であっても、この女をこのままネルフの作戦部長としておいて置く事自体、 損失以外の何物でもない事を、リツコは再認識した。
(因みに、ミサトは自分の所の装備もロクに知らない、相手の事も知ろうともしないから・・・
 運だけで戦っているんだね・・・それも他人の)

 そして、ミサトとリツコが言い合いをしていると、休憩が終わり、お披露目の時間になった。

 だが、2人は時間に気付かずに言い合いをしていた為、会場に現れなかった。

 その為、呼び出しの放送が会場内に流れ、それを聞いた2人はあわてて、会場の方に走っていく事となり、 大恥をかく事となった。










To be continued...

(2005.07.16 初版)
(2006.02.12 改訂一版)


(あとがき)

 発表会前半戦・・・

 とことん、コケにされていますね。

 尤も、日本重化学工業共同体というか、時田重工も、傘下に入る事を条件にアレを貰ったんですがね。

 JAは起動すらしないので、例のプログラムは動きませんし、自壊プログラムも働かないでしょうから、 証拠がそのまま残る可能性がありますね。

 尤も、ゲンドウの事ですから、知らぬ存ぜぬで誤魔化すか、誰かに責任を押し付けるんでしょうね。

 まぁ、知らぬ存ぜぬだけで、済ませようとするでしょうけど・・・

 それと、ゼーレの草がここでも刈られていきます。

 日本も、どんどん健全?化していきますね。

 因みに、ながちゃんさんが期待しているアレ・・・

 今回は出てきませんが、当然出てきますよ、後で・・・

 無論、アレの正式パイロットは・・・(▼∀▼)ニヤリッ

 と言う事でお楽しみに♪

 でも、何時になったら、マヤとリツコはネルフを脱出できるのだろうか?

 もうそろそろやらないと拙い気がしますが・・・(^^;)
(リツコの眼を覚まさないと・・・)

 まぁ、予定では、もうチョッと先ですけどね。

 では、また!



(ご要望にお応えして、ながちゃん@管理人のコメント)

……しかしミサト、よく独房から出れたなオイ(笑)。
まぁ、仕事が終われば、またセカンド・ハウス独房に逆戻りでしょうけど。
あと、一瞬でもアレを自由にさせちゃダメですよ?
やっぱ風呂&トイレも監視が基本です。アレの言うことなど、金輪際信じちゃいけません。
さて、JA編(前半戦)ですね。
しかしリツコ、今回は災難でしたね。
ハッキリ言って、ミサトと同じで、道化役のように感じました。
でも叩かれても、しっかり敵(?)のパンフを読もうとする辺り、好感が持てますね。
…ミサトは違いましたが(笑)。
試練の回でしたね。
これを機に目を覚まして欲しいです。
彼女がネルフを抜ければ、金魚のフンマヤもきっと後をついて来るでしょうし…。
さて、管理人が期待しているアレですが、今回の登場はなしということで、少しガッカリ。
でもでも、首を長くして待ってま〜す♪
今回のサブタイトルからして、ミサトの能力の発表会(暴露会?自爆会?)も兼ねているのかなーと思いきや、今の所その兆候なし、残念!後半戦に期待しましょう(笑)。
あと、司会者って誰だったんでしょう?
時田…じゃないような気もするけど、気のせいかな?深読みしすぎか?
次の話では、GGのお披露目ということで、きっとまた一悶着あることでしょう。
期待して待つ!
P.S.鬚まだ復活しないのかな?(笑)

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