第一話・裏 その頃のシンジ
presented by トシ様
静岡の人里離れた山間に、歴史を感じさせる造りをした大きな屋敷がある。
ここは御神宗家。裏の世界において『鬼の一族』とまで呼ばれている御神一族の屋敷である。
その屋敷の縁側で、一人の少年がのんびりとお茶を啜っている。もちろんお茶請けの羊羹も完備だ。
10歳前後と思われるその少年は、中性的な顔立ちながら体は程よく鍛えられており、こうしてのんびりとお茶を啜っている姿にも隙がない。そしてその傍らには1尺3寸(およそ40cm)程の木刀が2本立て掛けられている。
少年の名は不破シンジ。かつて碇シンジと呼ばれていた少年である。
何故シンジが御神の屋敷にいるのか。それは6年ほど前まで遡る。
当時4歳だったシンジは、父親だった碇ゲンドウに捨てられた。そして1人公園で泣いているところを、偶然通りがかった女性に見つかり、泣いている理由を聴いた女性、御神琴絵によりそのままこの屋敷まで連れて来られたのだ。
連れて来られた当初シンジは緊張のあまり半泣き状態だったが、琴絵を始め屋敷の人間全員が、どこか親しみやすい雰囲気だったため次第に緊張は解れ、1週間も経たない内に自分の家の様に感じるようになっていた。
それから半年後、実の祖父であり碇本家現当主である碇コウイチロウが屋敷を訪れた。碇老はシンジを見たとたん、
「今まで会いに来ることも出来ず、本当にすまなかった・・・!」
そう言って泣きながらシンジを抱きしめた。その時、強く抱きしめすぎてシンジが失神しかけ、大騒ぎになったのだが(汗)。
その後なんとか落ち着いた碇老は改めてシンジに謝罪し、自己紹介をした後
「京都の碇本家で一緒に暮らさないか?」
と提案したのだが、シンジはその提案を断った。というのも、シンジはこの半年間ずっと御神の屋敷で暮らしており、ここの居心地の良さが気に入っていた。また、自分より1つ年下の女の子に懐かれており、その子と離れたくない、という理由もあった。
ちなみにその懐いている子とは、御神現当主の娘である。
それを聞いた碇老は残念がったものの、
「シンジが決めたのならワシは何も言わんよ。シンジ、強くなるんじゃぞ。」
そう言いながらシンジの頭を撫で、最低でも月に一度は会いに来ると約束して京都に帰っていった。
碇老が帰った後、御神宗家では誰がシンジを引き取るかを決める会議が開かれたのだが、この会議が荒れに荒れた。
というのも、御神とその分家である不破の主立った人間全員が立候補したのだ。おかげで会議は長引き始まってからおよそ5時間後にようやく2つに絞れた。
1つは御神現当主である御神静馬、美沙斗夫妻。もう1つは不破士郎、桃子夫妻だ。この両夫婦ともシンジに年が近い子供がおり、なおかつ仲が良いため自分の所に引き取り兄弟(妹)として育てたいと考えたのだ。
そしてそれから約1時間後、シンジは士郎達に引き取られることとなった。美沙斗は最後まで渋っていたものの、
「・・・美沙斗、将来美由希とシンジ君が結婚すれば自動的に義息子になるぞ?」
という静馬の一言により納得し、おとなしく引き下がった。ちなみに美由希とは静馬と美沙斗の娘なのだが、どうもこの夫婦、シンジを次期御神当主にする気満々らしい。
この日シンジは不破士郎、桃子夫妻に引き取られ、その5年後には親権を移し名実ともに士郎一家の次男、不破シンジになったのである。
士郎達に引き取られたシンジは、士郎や兄である恭也の下で本格的に御神流の修行を始めた。
御神流、正式には『永全不動八門一派 御神真刀流小太刀二刀術』という古流剣術である。
小太刀の二刀流を主体とし、他にも飛針という15cm程度の針や、糸に鉄粉を焼き付けた鋼糸と呼ばれる暗器や体術を用い、相手を倒すのではなく、確実に殺すことを目的として組まれた、剣術というよりも暗殺術に近い武術である。
この技は代々御神宗家とその分家である不破家が受け継ぎ、御神が伝えるものは『御神流正統』、不破が伝えるものは『御神不破流』と呼ばれている。
修行を始めた当初は二刀の扱いに慣れず、刀を振るどころか逆に振り回されていたシンジだったが、どうやら才能があったらしく、2ヶ月程で二刀の扱いに慣れ、飛針や鋼糸の扱い、基本的な体術を次々と修得していき、修行開始から1年程経った頃には御神流の基礎となる技術のほとんどを修得していた。
ちなみにその修行の最中、その成長振りを喜ぶ士郎とは対照的に、恭也は何故か時折哀れむような視線を投げかけており、気になったシンジが一度尋ねたが、
「・・・いずれ分かるよ。シンジ、覚悟だけはしておいたほうがいい。」
などと遠い目をしながら言われ、何やら嫌な予感がしたのでそれ以上追求しなかった。
そして修行開始から1年半程経ったある日のこと。
「恭也、シンジ。今日からしばらく出かけるから、旅の用意をしておけよ。」
士郎のその一言を聞いた時、桃子と恭也は「ついに来た・・・」と言ってため息を吐き、静馬や美沙斗は哀れむような目をしてシンジを見つめ、シンジは何やらよく分からない悪寒に体を震わせ、美由希はそんなシンジを心配そうに見上げていた。
「シンジお兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「だ、大丈夫だよ、美由希ちゃん。は、ははは、うん、大丈夫さ、きっと・・・。」
不安そうな顔で尋ねる美由希に対しシンジは大丈夫だと答えたものの、顔は引きつり冷や汗を流し悪寒に身を震わせながらではちっとも大丈夫そうではない。
「・・・父さん、今度は何処に行くんだ?」
「ん、そ〜だなぁ。山形の方になんか強い流派があるって聞いたから、とりあえずはそこに行くつもりだ。」
「・・・前みたいに出発した次の日から一文無しになる、なんてことはないよな?」
「あ〜、あの時は読みが甘かったな。やっぱり大穴狙いより確実に取りに行く方がよかったかなぁ。」
「・・・で、移動手段は?」
「ははは、何言ってるんだ恭也。この足は何のためにあるのかな?」
「・・・・・・はぁ、結局いつも通りか。」
こんな心温まる(?)親子の会話を聞くうちに、シンジの震えは段々と大きくなっている。今心拍数を計ったらきっとすごいことになるに違いない。
そしてその日の夕方、やたらと嬉しそうな士郎と全てを諦めた様な恭也、どこか虚ろな目をしたシンジのどことなく怪しい親子3人は、静岡から山形へと旅に出て行った。・・・徒歩で。
この旅の間、実にいろいろなことがあった。
ある時はシンジが泳げないと知った士郎が荒療治だと言って、シンジ(+ついでに恭也も)を滝壺に放り込んだ。
ある時は「シンジ、お前はまず恐怖心というものを知る必要がある。」と言った士郎により、ペーパーナイフを一本持たされて、いい感じに気が立っている猪の前に放り出された。
またある時には士郎に無理やり酒を飲まされた恭也が完全に酔っ払い、真剣を振り回しながら1晩中シンジを追いかけ回した。
他にも、恭也の予想通り士郎の消費癖のおかげで路銀がなくなり、仕方ないので付近の畑から失敬してきた野菜なんかと鋼糸を使い、即席の大道芸をして金を稼いだりもした。
勿論、当初の予定通り山形のとある道場で他流試合を行ったし、実戦形式のちゃんとした修行なんかもしたのだが、シンジの印象に残ったのは、士郎のスパルタ(?)振りだけだった。
そして1ヵ月後、御神宗家に戻った時にはシンジは傷だらけであり、それを見た桃子と美沙斗により、士郎は24時間耐久大説教大会に強制参加させられた。・・・ご愁傷様です。
ちなみにこの修行の旅は学校が長期休暇になる度に行われ、その度に士郎はお説教をくらうのだが。
さて、そろそろ冒頭に戻ろう。実はシンジは3日前に例の修行の旅から帰還したばかりであり、久しぶりの平穏な時間を過ごしていた。
シンジの斜め前では、兄である恭也が去年から始めた盆栽の手入れをしている。縁側でお茶を啜りながら過ごす弟と、盆栽の手入れに夢中になっている兄。おそらく10代前半でここまで枯れている兄弟は他にいないだろう。
「兄さん、盆栽の方はどう?まだ時間がかかりそう?」
「ああ。何しろ1ヶ月近く放置していたからな・・・。まだしばらくかかりそうだ。」
この後軽く鍛錬を行う予定だったシンジは、1時間ほど前から真剣な様子で盆栽と向き合っている兄に手入れの進行具合を尋ねたのだが、兄のいつになく真剣な声に苦笑いし、空を眺めながら再びお茶を啜り始めた。
お茶を飲み終えたシンジがなんとなく縁側で横になっていると、縁側のある部屋の奥から声をかけられた。
「相変わらず、君達兄弟は枯れているなぁ・・・。」
そう言いながらシンジの方に近づいてきたのは、士郎の弟であり、不破の現当主である不破一臣だった。一臣は苦笑いを浮かべたまま縁側に出て、シンジの隣に腰を下ろした。
「こんにちは、一臣さん。お久しぶりです。」
体を起こしたシンジは、そう一臣に挨拶した。実際シンジ達が帰ってきた時彼はちょうど仕事で出かけており、こうやって会うのはおよそ1ヶ月ぶりなのだ。一臣に気付いた恭也も一旦手を休め、軽く会釈している。
「ああ、久しぶり。どうだった、今回の旅は。」
「いつも通りですよ。父さんの気まぐれのおかげで日本全国をあっちに行ったりこっちに行ったり。その気まぐれの大半が食べ物関係でしたけど。」
「へえ、例えば?」
「最初大阪に行ってお好み焼きを食べて、その後すぐに広島風が食べたいとかで広島に行って。で、さつま揚げを食べようと言いだして鹿児島に行って、それから本場の味噌ラーメンを求めて北海道。そこから泡盛を飲むため沖縄へ。他にもいろいろありましたけど、大体こんな感じでしたね。」
シンジがため息を吐きながら話すと、それを聞いた一臣は笑いながら、
「なるほど、確かにいつも通りだね。で、兄さんは?」
そう尋ねたのだが、返ってきたのはシンジではなく恭也の返事だった。
「昨日から今日にかけて母さんと美沙斗さんによる説教大会が行われて、今は美影さんに説教されてます。」
どうやら盆栽の手入れが終わったらしく、どことなく満足げな表情をしている。
「そうか、母さんの説教か・・・。兄さん大丈夫かな・・・(汗)。」
そう呟いた一臣の頭には、漫画なんかでよくみかける巨大な汗が張り付いている。
「あの『不破の鬼姫』の説教ですからね。でも死にはしないですよ・・・多分。」
そう言ってシンジは、今頃満面の笑みを浮かべながら説教をしているであろう祖母の顔を思い浮かべた。
不破美影。不破の先代当主にして歴代最恐と謳われ、数々の犯罪組織を壊滅させた『不破の鬼姫』。現役を引退した今ではシンジや恭也、美由希といった孫をいじるのが生き甲斐だそうだ。
「さて、シンジ。一本やるか。」
そう言って恭也は盆栽の近くに置いてあった木刀を取った。シンジの傍らにあるものより2寸(約6cm)ほど長い。
「はいっ!」
シンジも縁側から立ち、2本の木刀を持って恭也の前に立った。
対峙した2人は何も言わず、ゆっくりと円を描くように動いている。御神流は実戦を主眼に置いている為、開始の合図など存在しない。
剣を持った瞬間から勝負は始まっている。士郎が2人に最初に教えた言葉だ。
そうして2人の立つ位置が最初とは逆になった頃、シンジが動いた。
「はあっ!!」
気合と共に打ち下ろした右の小太刀が恭也の左肩を狙うが、恭也はそれを左の小太刀で受け止める。が、直ぐにシンジの左の刺突が顔面に迫る。恭也は左手首を返して受け止めていた小太刀を弾くと同時にバックステップにより刺突をかわし、体の流れたシンジに対し右の小太刀で右頚動脈を狙った薙ぎを放ったが、シンジは瞬時に両手の小太刀を交差させて斬撃を防ぐ。が、防いだ瞬間刀ではなくハンマーか何かで叩かれたような衝撃が襲ってきた。だがシンジは防ぐと同時に地面を蹴り、その衝撃を利用して一旦間合を離した。
「・・・今ので決まったと思ったんだがな。」
「兄さんこそ、いつの間に『徹』なんて覚えたのさ。あと少し地面を蹴るのが遅かったら手首を痛めてたよ・・・。」
先程恭也が使ったのは『徹』と呼ばれる、御神流の基本技法の1つだ。
ただ斬るのではなく、その衝撃を内部に浸透させるもので、その気になれば木刀でも相手の内臓を破裂させることが可能な技である。
御神流にはこの技専用の受け方があるのだが、生憎シンジはまだ教わっていない。
「では、次はこっちからいくぞ・・・!」
そう言って恭也は一気に間合を詰め、右の小太刀を左袈裟気味に打ち下ろした。
徹が使われているかもしれない以上、シジは受け止めるわけにもいかないので避けるしかない。だが恭也は容赦なく連撃を打ってくる。
刺突、切り上げ、唐竹、薙ぎ、袈裟、と続く嵐のような攻撃をなんとか避けていたシンジは、右の小太刀による刺突をサイドステップによりかわすと同時に、恭也の後頭部に強烈な後ろ回し蹴りを放った。
殺気を感じた恭也は体を前に投げ出すことで避け、シンジの方を向いた瞬間に今度はシンジが攻撃に出た。
シンジは突進しながら両方の小太刀で連撃を打ってきたのだが、その速度が尋常ではない。避けたと思った瞬間には次の斬撃が目の前に迫っているのだ。
「くっ、『斬』の連撃か・・・。厄介だな・・・!」
『斬』、それは御神流において最初に習う基本技法である。
刃物と言うのは、ただ刃を押し当てただけでは斬ることは出来ない。引くという動作を加えて初めてその真価を発揮する。
『斬』は、いわばこの『引き斬る』という動作を技としてまで磨き上げたものだ。
従来日本刀には反りがついているため、振り下ろすだけでもこの引き斬るという動作は可能である。だが御神流ではこれを自分から行うことで、連撃の速度を速めたのだ。
そして、恭也が一撃の重さに特化しているのに対して、シンジは連撃の回転速度に特化している。実際シンジの連撃の速さは、恭也より3割ほど速いのだ。
「(あの斬撃とまともに打ち合えば、俺の防御は追いつかない。かといっていつまでも避けきれる自信も無い。・・・ならばっ!)」
シンジの攻撃をなんとか避け続けていた恭也は一旦距離をとり、一気にシンジに向かい踏み込んだ。
恭也の目の前にシンジの斬撃が迫る。
「ーっ、せあっ!!
恭也は徹を込めた斬撃をシンジの右の小太刀に思い切りぶつけ、そのまま2撃目を打とうとしていた左の小太刀ごと弾いた。
「(今だっ!)せえぇぇっーー!!」
両方の小太刀を弾かれたシンジの首筋目掛けて、恭也は左の小太刀での斬撃を放った。シンジの小太刀は弾かれ、防御は間に合わない。決まった!と思った瞬間、恭也の視界からシンジの姿が消えた。
そう、シンジは小太刀を捨て、一気にしゃがみこんだのだ。
絶対の自信を持って放った一撃をかわされ動揺している恭也に対し、シンジは恭也の喉にそのまま突き刺すような勢いで貫手を放った。
そしてシンジの貫手が迫った瞬間、恭也の視界から色が抜け落ちた。
色の無いモノクロの世界。その中で、恭也はゆっくりと迫るシンジの姿を捉えていた。そしてまるでゼリーの中を移動しているかのような感覚と共にその攻撃を避け、そのまま後ろに回り込む。そして骨が軋み悲鳴を上げる体を酷使してシンジの首に木刀を当てた瞬間、世界に色が戻った。
「あ、あれ?」
シンジは自分でも間抜けだと思う声を出しながら、今の自分の状況に困惑していた。兄の喉下に貫手を添えようとしたら、一瞬で兄の姿が掻き消え、気が付いたら後ろから首に木刀を当てられていた。
「に、兄さん。いつの間に超能力に目覚めたの?この間父さんに頭を殴られた時に打ち所が悪かったとか?」
「い、いや。俺もよく分からん。急に周りの風景がモノクロになって、お前の動きが遅くなったからなんとか背後に移動したんだ。」
どうやら恭也も困惑しているようだ。そうして兄弟そろって首を傾げていると、驚いた表情のまま一臣がやってきた。
「すごいな、恭也・・・。まさかその年齢で『神速』に辿り着くなんて・・・。」
そう呟いたまま呆然としている一臣に、シンジは気になっている事を尋ねた。
「一臣さん、神速って何ですか?」
「あ、ああ。すまない。説明しよう。」
そう言い、一臣は『神速』についての説明を始めた。
『神速』。それは御神の奥義の要であり、正式には『御神流奥義之歩法、神速』という。
極限まで高めた集中力により感覚時間を引き延ばし、その領域内で動くために全身の筋肉のリミッターを一時的に外すというものだ。その際に視覚からの情報の内、色彩に関する情報は不必要としてカットされるため、使用者は視界がモノクロになる。だが同じく神速の領域にいる者は色彩がついた状態で認識されるのだが、その理由は分かっていない。
これを極めた人間は銃弾すら見切ることが可能であり、これこそが御神が最強と言われる最大の所以である。
「とまあこんなところだ。実際詳しいメカニズムは分かってないから、あくまで俺や兄さんの推論だけどな。」
「そんな技が・・・。」
「相変わらず非常識な流派ですね・・・。」
説明をきいた2人は驚きに固まっている。まあ確かに銃弾を見切れる技があるよー、と言われたようなものだから、驚くのが普通の反応だが。
「だがこの技は反動がでかいんだ。現に恭也、お前今体中の筋肉が悲鳴を上げてるだろ。」
「・・・はい。実際立っているのもキツイです。」
「こいつは人間の潜在能力を無理やり引き出す技だからな。ちゃんと体が仕上がってないと耐えられない。だから兄さんの許可が下りるまで、絶対に使おうとするなよ、いいな。」
「はい・・・。」
「わかりました。」
一臣の注意に返事をした後すぐに恭也は屋敷に運ばれ、次の日彼は1日中筋肉痛に苦しんだ。それを看病しながら見ていたシンジは、自分も試してみようと思っていたのだが、痛みに悶える兄の姿を見て
「絶対に使わないでおこう・・・(汗)。」
と冷や汗を流しながら固く誓ったのだった。
恭也が『神速』を発動させてから2週間後、今日もまたシンジは縁側でお茶を啜っていた。しかも彼の膝の上では三毛の子猫が丸まっている。
・・・この少年、本当にまだ10歳なのだろうか。
「はあ、暇だなあ・・・。」
シンジは青空を見上げながら呟いた。普段ならこの時間は兄や父親と稽古をしているのだが、2人は今イギリスに行っている。なんでも父の友人がイギリスの上院議員を務めており、その護衛を頼まれたそうだ。それなら兄がついて行く必要は無いのだが、どうやら兄はその議員の娘さんと恋仲らしい。シンジは写真でしか見たことはないが、確かに綺麗で優しそうな人だった。
そのことで兄をからかった時は、小太刀片手に3時間ほど追い掛けられたが。
ともかく、暇になったシンジは先程まで2年前に生まれた妹のなのはと遊んでいたのだが、なのはが寝てしまったのでする事が無くなり、仕方ないのでこうして縁側でお茶を啜っていたのである。
そうしてシンジが湯呑みを両手に持ってボ〜っとしていると、不意に声を掛けられた。
「シンジお兄ちゃん、なんか今日はいつも以上にお爺ちゃんみたいだよ。」
声のした方向にシンジが顔を向けると、そこには1人の女の子が立っていた。
シンジより1つか2つぐらい年下だろうか。黒髪を肩下ぐらいまで伸ばした可愛らしい子で、その顔には苦笑いが浮かんでいる。
「ああ、美由希ちゃんか。今日は美沙斗さんと一緒じゃないの?」
「お母さんは今琴絵さんと一緒にお買い物中だよ。それにわたしだっていつもお母さんにくっ付いてるわけじゃないし。」
そう言って女の子はシンジの隣に座り、シンジの膝の上にいる子猫をかまい始めた。
この子の名前は御神美由希。御神の当主である静馬と、シンジや恭也の叔母である美沙斗の娘であり、同時にシンジの許嫁でもある。ちなみにこの事を聞いた時もちろんシンジは驚き、理由を聞こうとしたのだが、
「「シンジ(君)、うちの娘じゃ不満かい?」」
と、静馬と美沙斗が小太刀を構え、満面の笑みを浮かべながら言ってきたので、シンジは何も言えなかった。
・・・さすがは御神最強の親ばか夫婦といわれるだけのことはある。
まあシンジもただ単に驚いただけで反対する気も無かったし、美由希も「シンジと一緒にいられる」と聞いて喜んでいたためそのままめでたく許嫁として承認されたのだった。
ついでに言うとこの数年後、許嫁の意味を知った美由希が2週間ほどシンジの顔を見るだけで赤面したまま俯いてしまうようになり、それを見たシンジは、「・・・なんでさ」と言いながら首を傾げることになったらしい。
そうしてシンジはしばらくの間、美由希と一緒に縁側に座って子猫をかまったり話をしたりしていたのだが、1時間ほどするとどうやら美由希が眠たくなったらしく、シンジの肩に頭を乗せて眠ってしまった。それに気付いたシンジは少し赤面しながらも笑みを浮かべて美由希を起こさないように膝枕の体勢までもっていくと、そのままゆっくりと美由希の髪を撫でながら静かに微笑んでいた・・・。
ちなみにこの時、物陰から美影が不破の陰行術を駆使して2人の姿をビデオに収めており、後日それを見た静馬と美沙斗が娘の成長と2人の仲の進展を喜んでいたそうである。
To be continued...
(あとがき)
どうも、トシでございます。
第一話・裏をお届けいたしました。この話は第一話の頃のシンジ君の様子を描いたもので、とらハ中心の話になっています。
ゲンドウがシンジ君に恨みをぶつけている頃、シンジ君はどうしていたのか。その辺りを書いた、外伝的なものですね。
次回からエヴァの本編に突入する予定ですので、お楽しみに!それでは。
(ながちゃん@管理人のコメント)
トシ様より「未来を切り開く者達」の第一話・裏を頂きました。
シンジ君は御神(不破)の家で、幸せ(?)に暮らしていたようですね。安心しました。
しかし早くも美由希とはラブラブですか!?しかもすでに許婚の間柄だとは!!(笑)
ま、これも一つのLMSのカタチですね♪
シンジ君は何というか、恭也に感化されたのか年少にしては趣味がすごく爺臭いですな〜(笑)。
性格も歳不相応におっとりしているし・・・。
きっと中学生になっても、こんな感じなのでしょうね。
さて、こんなシンジ君ですが、どういう風にネルフに介入してくるのか、今から楽しみです。
悪即斬!の活躍を願っていますよ♪
当然、美由希も同伴ですよね?(静岡が実家なら第三新東京市までは近いでしょうし、万一の場合は彼女の両親+αが飛んで来れる距離でしょうしね)
次話を心待ちにしましょう♪
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