第四話・裏 いづみのミサト観察日記
presented by トシ様
私の名前は御剣いづみ。蔡雅御剣宗家の長女であり、同時に蔡雅の上忍でもある。私がこの第3新東京市にいるのは、簡単に言えば仕事のためだ。
先日、私は蔡雅御剣当主である空也様から命を受けた。その内容は、特務機関NERV作戦部長である、葛城ミサト一尉の観察である。なんでも不破家先代当主である美影様からの直々の依頼だそうだ。御剣と不破には密接な関係があり、その先代からの依頼であれば断ることなど出来ない。
こうして、私は旭川から第3新東京市まで出向く事となった。
第3新東京市に到着した私は、空也様が手配してくれた滞在先にやって来た。空也様が用意してくれたのは、葛城一尉の住むマンションから少し離れた一軒家だ。ここは碇グループが所有する物件の1つであり、NERVも手出しできないそうだ。その1室には監視カメラからの映像を見る為のモニターが所狭しと並んでいる。
忍者と言えば、天井裏辺りに忍び込んでそこから覗くという姿を思い浮かべるかもしれないが、今の時代こういった機材を使っての監視や諜報が主流となっている。無論、尾行なんかは自分の足で行うが、こういった盗撮や盗聴の機械を使うのが、今の時代における忍者の姿だ。
・・・そこ、ストーカーとか言うな。
さて、それじゃ始めるとしますか・・・。
翌日、7:00
基本的に忍者の朝は早い。1時間程前に目が覚めた私は、日課の鍛錬を済ませてシャワーを浴び、今はのんびりと朝食を食べながらモニターを見ている。
モニターには寝室と思わしき場所が映し出されているが、そこに葛城一尉の姿は無い。ふむ、昨日は確かに帰宅したはずだが・・・。
しかし・・・汚い部屋だ。布団らしき物体にはカビが生え、周辺にある家具には埃が積もっている。葛城一尉がこの部屋に来てからまだ半年も経っていないはずなのだが・・・。埃の積もり方を見ると、なんていうか幼い頃に見た雪原を思い出す。・・・謎だ。
7:30
何も変化が起こらなかったその1室から、目覚ましの音が鳴り響いた。
主のいない部屋の中で自分の職務を果たしている彼に、とりあえず敬礼をしておこう。
だが当の主は職務に忠実な彼の働きに答えず、まだ惰眠を貪っているようだ。結局、彼の働きも空しく葛城一尉は目を覚まさなかった。
9:15
目覚まし君がタイムカードを押して静寂が戻った部屋に、今度は電話の音が鳴り響いた。
その音がするのは、どうやらリビングのようだ。だが、ここをリビングと言っていいのだろうか。
床にはビールの缶が敷き詰められ、それを囲うようにして生ゴミの入った袋や、カップラーメンの器、つまみの残りかすが散乱している。
・・・誰かダ○キンに電話してくれ。
だが、そのリビングにも人の姿は見えない。それでも電話は鳴り続けていたが、急に音が鳴り止むと、眠たそうな声が聞こえてきた。
「ふわ〜い、も〜ひ〜も〜ひ〜?」
『ちょっと、ミサト!あなた何時まで寝てるつもりよ!?もう出勤時間はとっくに過ぎているのよ!!』
電話を掛けてきたのは、ネルフ技術部長の赤木リツコ博士のようだ。そしてこの眠たそうな声の主は、どうやら葛城一尉らしい。
「だいじょうぶよ〜、私にはゆ〜しゅうな副官がいるんだし〜。それじゃ〜ね〜。」
『ちょ、ちょっとミサト!待ちな・・・!』
赤木博士の慌てたような声が途中で途絶え、部屋には再び静寂が戻った。
しかし、モニターで見る限り葛城一尉の姿はどこにも見えない。ふむ、どこにいるのやら・・・。
10:45
先程の電話から1時間半ほど経つと、リビングにある空き缶の一部が動き始めた。
その空き缶を掻き分けて、人の上半身が姿を現した。寝癖だらけの髪の毛には、所々ビールが付着している。間違いない、葛城一尉だ。
葛城一尉はそのまま起き上がると、膝ぐらいまである空き缶の山を突き進み、リビングを出て風呂場に向かって行った。
・・・なんだろう。人、むしろ女として失ってはならない何かを確認した気分だ。
そうしてしばらくするとシャワーの音が聞こえたのでそちらに目を向けると、シャワーを浴びている葛城一尉の姿が目に入った。そしてその一部に目が止まり、固まった。一部。正確には胸部だが。しばらく固まった後で自分の胸元に視線を落とし、再びモニターを見る。
・・・くっ!何だこの敗北感は!?う、う〜〜〜〜〜〜〜!!!?く、悔しくなんかないぞっ!?
11:15
敗北感に打ちひしがれていると、シャワーを浴び終えた葛城一尉がリビング(?)に戻り、冷蔵庫からビールを取り出し、そのまま一気に飲み干した。
「ぷっは〜!やっぱ日本人の朝はビールに限るわね〜!!」
そんな事を言いながら更に2本、3本と空けていく。結果、葛城一尉が満足する頃には、空き缶が新たに10個生産されたのだった。
・・・ああ、先程までの敗北感が嘘の様に消えていく。ふっ、人間こうはなりたくないものだな・・・。
12:00
ネルフの制服に着替えた葛城一尉は、家を出ると鍵もせず、そのまま地下駐車場に直行。自慢の愛車、アルピーノ・ルノーに乗り込むと、颯爽とネルフに向けて発進した。
・・・しっかりと飲酒運転である。一応公務員なのだが、本人にとってネルフとは一種の免罪符の様な物である。
事実、これまでも警察に対しネルフのIDを見せ、違反を取り消させてきたらしい。そして今日も違反切符を揉み消し、ネルフへと向かって行った。
さて、私もネルフに向かうとするかな。
12:30
ネルフ本部に到着。偽造IDを使って本部に入ると、先に潜入していた仲間と合流し、MAGIの目を掻い潜って張り巡らされた監視カメラを使って観察を続行。
葛城一尉は本部に到着すると自分の執務室ではなく、親友(?)である赤木博士の研究室へと直行した。
「リツコ〜。入るわよ〜。」
ノックも無しに入り、勝手にコーヒーメーカーから紙コップにコーヒーを入れて飲んでいる。むぅ、礼儀知らずな。
「・・・ミサト、あなた完全な遅刻よ。」
「大丈夫よ〜。そこは、我が親友の優秀な赤木博士がいるんだから〜。」
額に青筋を浮かべながら言う赤木博士に対し、葛城一尉はあくまで能天気な答えを返している。
「・・・言っとくけど、今日は午前中に発令所スタッフによるミーティングがあったのよ。だから、データの改竄なんて無理よ。」
「そんな、聞いてないわよ!リツコ、あんたなんで起こしてくれなかったのよ!?」
そんな自己中な言葉に、赤木博士がキレた。
「ミーティングに関しては、昨日の内に言ってたじゃないの!それに、朝は電話したでしょうが!!」
ふむ、確かにしていたな。
「へ?ちょ、ちょっと待ってね、今履歴を・・・あ(汗)。・・・たはは。」
その言葉に慌てて履歴を見た葛城一尉は笑って誤魔化そうとするが、赤木博士からのプレッシャーは段々と大きくなっている。・・・怖っ!
「・・・ミサト、ここに2本の注射器があるわ。」
そう言って赤木博士は、白衣の中から毒々しい色をした液体の入った注射器を2つ取り出した。
「・・・右がチョウセンアサガオ、左がキチ○イナスビよ。さあ、好きな方を選びなさい。」
赤木博士はニヤリとした笑いを浮かべながら尋ねるが、どちらも中身は一緒である。ていうか何でそんなモノを常備しているんだろうか?
「あ、あはははは。わ、私仕事があるから。それじゃあね〜!」
動物的直感で危険を察知した葛城一尉は、そのまま全速力で逃げ出した。私でも逃げ出すだろうな。
13:00
ネルフの食堂に到着。カレーを注文するが、金が無いので、
「ネルフ作戦部長の、この私が食べに来てやってるんだから、無料でもいいじゃない!!」
などと訳の分からない事を喚き、ツケという形で注文の品を受け取る。
それからどこからともなく取り出したビールと共にカレーを食し、途中、
「まったく、カレーの作りが分かってないわね〜。これなら私のカレーの方がずっと美味しいじゃない!」
と言いながら食べ終わると、トレーやビールの空き缶を片付けずに退出。
葛城一尉が出て行くと、食堂のおばちゃん達が一斉に塩をまいた。
確か葛城一尉のカレーと言えば、赤木博士を含む友人十数名を病院送りにしたという猛毒だ。
・・・そうか、味音痴なのか。
13:30
自分の執務室に到着。仕事机を見ると、書類が積み上げられている。その高さは1mに達しそうだ。
葛城一尉はその書類の塔を見ると、その内上のほうにある書類10枚程度を取り、後は休憩中である日向二尉の部屋に持って行き、彼の机に置いた。
そして自分の部屋に戻ると、先程取った書類に判を押し、それが終わるとそのまま鼾をかいて眠り始めた。
16:00
起床。口元の涎を袖で拭うと、執務室にある冷蔵庫からビールを取り出し、それを片手に本部内を(本人曰く)視察。
視察と言っても、他の部署に行っては「仕事が遅い」だの「サボってる暇があったら仕事しろ」だのと、自分の事を棚に上げて怒鳴り散らしている。
噂によると、葛城一尉のネルフ内における評判は、彼女がネルフに来てから常にワースト1を保ち続けているそうだ。
なるほど、空気も読めないっと。
17:30
徘徊を終えた葛城一尉は、エヴァンゲリオンパイロットの綾波嬢とコミュニケーションを取ろうと病院に向かった。
だが、彼女の護衛も我ら御剣の役目だ。私は本部から出て病院に向けて駆け出した。
ジオフロント内の森を駆け回って、葛城一尉を追い掛ける。缶ビールを飲み、ジャイアニズム溢れる鼻歌を歌いながら歩く目標を捕らえると、気配を殺して接近。木々を利用して跳躍し、自重を乗せた延髄斬りを喰らわせる。そうして気絶した葛城一尉をその辺の枝に引っ掛け、再び本部に戻った。
・・・しかし、本来なら頚骨が砕けてもおかしくない一撃だったんだが・・・。本当に人間か?
18:30
気を取り戻した葛城一尉は病院に寄らずに本部に戻り、ビールを飲みながら過ごしていたが、時計を見るとそそくさと帰り支度を始めた。
そうしてタイムカードを押すと、颯爽と帰ってしまった。・・・あんた何しに来たんだ?
ちなみに葛城一尉が帰ると、日向二尉は自分の机に置いてあった書類の内、彼女が運び込んだ物を全て本人の執務室に持って行き、その机の上に置いた。その一番上には、「至急確認求む」と書いた紙も置いてあるのだが、彼自身、無駄だと思っているようで、深い溜息を吐きながら自分の部屋に戻っていった。
そうか、苦労しているんだな・・・。
19:30
ネルフを出た葛城一尉は、途中コンビニでツマミやらレトルト食品やらを買い込むと、その全てをネルフの経費で落とし、自宅に帰った。
自宅に入るとミサトは部屋着に着替え、先程買ったレトルト食品を温めずにそのまま食べ、ツマミを取り出しビールを飲み始めた。
せめて温めろよ!と思ったのだが、レンジを見るとコードが腐食してしまっている。
・・・この部屋は異界か何かか?とりあえず一度御祓いをする事をお薦めしたい。
21:00
ツマミを食べ尽くし、ビールの空き缶を新たに30本生産すると、テーブルの上にある物全てを部屋に投げ捨て、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。
今日1日、葛城一尉の行動を観察したが、言えることは1つだ。
・・・ネルフはとりあえず職安で求人広告を出した方が良い、早急に。
いや、マジで。
うう、こんな任務受けるんじゃなかった・・・(泣)。
To be continued...
(あとがき)
どうも、トシです。第四話・裏をお届けしました。
ミサトの日常。ネルフの一般的な勤務時間は8:30〜18:00の10時間としていますが、ミサトの勤務時間は6時間。
その内、仕事をしたのは30分程度。・・・こんなのが公務員でいいんでしょうかね?
それでは。
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