違う場所で 〜三国の歴史〜

第七話

presented by 鳥哭様


「孫堅ど・・・」


ガアアアーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


大量の鴉が甲高い哭き声を上げながら孫堅たちの軍隊に向かって一直線に飛んでいき


何百といる豪華なディナーを楽しもうと兵士という食事に群がっている。


一匹だけの鳴き声だと大して怖くもない鴉の鳴き声だが、何百という鴉の大群が


一斉に泣き声を上げて軍隊に突撃していくのだ。


その姿は彼らの視線から見ると黒い空が自分たちに襲い掛かり、飲み込もうとしよう


としているようにも感じるであろう威圧感だ。


血走ったかのような赤い目がより恐怖感を滾らせて、冷静な思考を剥ぎ取り


混乱を招き、より一層悪い展開を招いているのだ。


これこそまさに悪循環というやつであろう。


つい何分か前まではこの山の光景を目にして、怒っていた兵士たちが何も抵抗できずに


鴉に肉を啄ばまれたり、体中の至る所を鋭い嘴で突き刺され血を噴出しながら倒れていく。


この世に最後に残すであろう叫び声ですら、鴉の歓喜の哭き声により掻き消されてしまう。


鴉は肉だけでなく、彼らの断末魔の叫び声すらも食っているかのようだ・・・。


岩山が赤と黒の絵の具で塗られるかのように、不気味にその色を広げていく。


赤は死んでいった兵士たちの血溜り、黒は鴉たちの羽。


不気味なことこのうえない組み合わせだ。


そして、その地獄絵図のような黒い嵐の中を馬で駆け抜ける男がいた。


両手に根を持ち、まるで踊りを舞うかの様な動きで次々と鴉を叩き落し、鴉達の


硬い嘴による突き刺し攻撃を受け止め、そして時には体全体を使い、またあるときは


馬を操りその攻撃をかわしていく。


しかも、それだけの芸当をやっていながらも馬を完璧に操って鴉たちを


叩き落しているのだ。


このとんでもない男の名前はいうまでもないだろうか? 


いや、あえて紹介しておこうか。 そう、孫伯符その人である。


さっきまではあれほど怒り狂い般若のような顔つきをしていたが、一度戦闘に入ると


さっきまでの面持ちが嘘のように冷静に判断をし、どうやったらこの状況を打破できるか


を考えながら、一つ一つ無駄のない動作を繰り返している。


そして左、右の両方から弧を描くように根を使い続け、もうすぐ鴉たちの


群れを抜けようというところまで馬で駆けていた。


だが、ここで問題が起こった。


今まで狙われていたのは孫策であったが鴉は孫策に敵わないと悟ったのか、攻撃対象を


一転し、孫策の馬に目掛けて一斉に攻撃を開始したのだ。


孫策も根を使い叩き落すものの、全てを退けられずに少しずつ白かったはずの馬が


赤い色に染まっていった。


(ちっ!!こりゃこいつにゃ悪いが・・・すまんな。)


孫策は馬を乗り捨て、姿勢を低く保ちながら一気に鴉の群れの中を突っ切っていった。


顔や腕を何箇所か刺されたが、そんな事も気にせずに脱兎の如く走り続ける。


そして、孫策はその中を抜け、すぐに後ろから来るであろう追撃の一手を防ぐべく


後ろを振り向くが鴉たちは攻撃をしてこない。


少しばかり孫策の様子を見ること数秒、孫策の事を諦めたのだろう。


また群れの中に戻っていった。


食事を再開するために・・・。


孫策は仲間を救いたかった。


だが、今あの中に戻っていったとしても死ぬことは必至だろう。


今自分にできる事は、あの黒い檻の中から仲間が無事出てくる事を祈るだけだろう。


そして、孫策が少し気を抜いて腰を下ろしたその時だった。


10匹程の鴉が孫策目掛けて弾丸の様に一直線に飛んできたのだ。


正に当たれば一撃必殺であろうその一突き。


そして、その嘴は真っ赤に塗れて、衣服の様なものが黒い羽に纏わり付いている。


鴉たちは孫策を諦めたのではなく、孫策が油断して隙があくのを待っていたとでも


言うのだろうか?いや、たぶんそうなのだろう。



そして、油断していた孫策はその鴉が自分の仲間を食い殺したという事実だけは


認識できたが、体は全く反応できない。


(やられる!!)


孫策は死を感じ咄嗟に目を閉じた。


だが何時まで経っても自分を死に至らしめるであろう攻撃はこない。


不思議に思った孫策が目を開けると、そこには自分の父である孫堅と自分の戦友の周瑜


そして自分の知らない14歳程の子供と二人の美女が立っていた。


「何を呆けているのだ策。」


そういって孫堅は自分の息子の頭をグーでぶった。


「痛え!何すんだよ!・・・親父、周瑜無事だったのかよ・・・」


つい反射で怒鳴ったが、その熱もすぐ冷め自分の知りうる者が生きていてほっとしたのか


また座り込んでしまった。


今度は鴉たちが攻撃してこない。


それはおそらく他の5人がそちらに気を張り巡らしているからであろう。


「お前こそよく無事だったな孫策。おそらく他の兵士たちは・・・もう。」


鴉の大群を見ていると空腹を満たしきったのか、一羽また一羽と空に向かって


羽ばたいている。


「いったいなんなんだよ!!あのクソ鳥どもは!!」


孫策は何処に吐いていいかわからぬ怒りを怒声にのせて少しでも放出している。


「落ち着け策、今は怒るべき時ではないのだ。今は少しでも進軍するか、それとも


一旦撤退するかの二択のうちのどちらかを選ばなくてはならぬのだ。まずはそれを


考えよう。」


そこで異論を申し立てる者が約一名。


「無理ですよ。」


「ん?そういやおめえ誰なんだ?」


「まだ名乗っていませんでしたね。僕はシンジといいます。」


「甄姫ですわ。」


「貂蝉といいます。以後お見知りおきを。」


二人の女性と一人の少年が軽く会釈をして、自己紹介をする。


「んで、何で親父たちと一緒にいたわけよ?」


まあ、そこがやはり孫策にとっては一番気になるところであろう。


自分は二人があの鴉たちに殺されていたと思っていたのに、いきなり自分のピンチに


変な服を着た少年と美女二人と登場するのだ。


疑問に思わない訳がない。


「ああ、そのことか。彼らがいなけりゃ私たち二人もとっくに喰われてたさ。


あの大量の鴉たちにね。」


そういって苦い顔をするがすぐに整った冷静な顔つきに戻す。


「まあその話は後だ。進むか戻るか。孫堅殿どちらにする?」


孫堅達は悩んでいると一人の人物が口を開いた。


「もう戻れませんね・・・・。」


そういって一息ため息を吐く。


「どういう事だ?シンジよ」


孫堅はシンジに尋ねる。


「僕は他の人より少しばかり目と耳がいいんですよ。そして今鴉たちがこの岩山の出口の


所で大量に休んでいる・・・いや待ち伏せているといったほうが良いかもしれないですね。」


「という事は俺たちに残されたのは進むだけということか?この圧倒的軍勢の差がある中


でたった6人で挑もうというのか?」


孫堅は少し手で顔を抑え難しい顔をしたかと思ったが急に笑い出した。


「ふふふ・・・ははははは!!!!!!策、周瑜!この孫文台に命を預けてくれるか?


無謀かもしれんが何故か不思議と死の感触が全く感じないのだ!今までの戦闘で幾度も


経験したあの感覚が今日はない。これが吉なのか凶なのかは知らん。だがいつもと違うの


は確かだ。それでも一緒に進軍する志はあるか?」


「ああ。」


「あたりめえだぜ親父!」


二人とも拳を軽く突き出し、孫堅もそれに気づき自分も右手を握り軽く拳同士を


ぶつけ合った。


「行くぞ!!」


そういって進む孫堅の姿は勇ましいの一言であった。


いや孫堅だけではないそれに付き添うように歩む二人もだ。


その姿からは確かに死などは連想できないだろう。


「さて僕らも行こうか。」


シンジはそういって二人に視線を合わせ軽く笑う。


それが終わると彼らも歩みだした。


あまりに戦力の違う強大な敵の元へと・・・




















そして時間はまた進む。


今から見ていただくのは曹操達の戦いだ。


そう100対3の・・・・。


「当たり前だ!これしきの修羅場を乗り越えられずして何が覇道だ!!


量より質!!その言葉と同じように我らの武が敵100人より越えればいいだけの事


いくぞ!!悪来、惇!!」


「おうよ!!」


最初に駆け出したのは典韋だった。


相手の10メートル程前まで行って止まり、斧を片手に上半身をおもいっきり捻った。


そして、相手が自分の間合いに入ったその刹那、その捻った上半身の遠心力を利用した


斧の一撃で6人ほどの命を散らしていった。


「隙だらけだぜ。ハゲが!」


そういって渾身の一撃を放ち、上半身がさっきとは完璧に逆の方を向いて隙だらけの


典韋目掛けての鋭い刀の一撃が決まると敵は思っただろう。


「ぬるいわ・・・。」


なんと典韋の足の間から身を屈めた夏候惇が出てきたのだ。


そして先ず典韋に一撃を加えようとしたものの胴体を真っ二つに切り裂き、


近くにいた者の足を払い、追撃の手を少しでも和らげた。


「元譲!伏せてろよ!」


そういってまた遠心力を利用した一撃を前列の兵隊に与え、そして今度は最後に


さっき夏候惇が足を払い転ばせた兵士の一人に斧を振り下ろしとどめの一撃を加えた。


だが、次の黄巾兵士たちの一斉攻撃を防ぐ手は無いように思われた。


典韋は斧を振り下ろして攻撃態勢に入っていない。


夏候惇は倒せても3,4人。


いくらなんでも8~10人の攻撃を防ぐ手はないはずだった。


「おい、誰か忘れてないか。」


今度は曹操が典韋の巨体を利用した奇襲をしてきた。


その瞬間攻撃してきた兵士たちの斬撃が僅かばかり鈍ったのを曹操たちは見逃さなかった。


曹操は一人の兵士の首に剣を突き刺し、その後その首を刺した兵士の顔面に蹴りをいれた。


その蹴りを入れた方向にいるのはもちろん他に攻撃しようとした兵士たちだ。


少しばかりバランスを崩した瞬間に典韋は兵士二人の頭を掴み思いっきり二人に頭突きを


かました。


「なんでえこいつら。一撃かよ。」


その一撃で二人の兵士の頭は明らかに陥没している。


恐るべし悪来典韋。


そしてその死んだであろう兵士の遺体を思いっきりぶん投げてやった。


もう先ほど攻撃しようとした兵士たちは曹操の一撃により完璧にその期を逃してしまった。


こうして相手の戦力を50人ほど倒したであろうか。


その時には周りを敵が囲んでいた。


八方塞とうやつだろうか?


敵も普通にやったのでは勝てないと踏んだらしい。


「猛徳、バラバラに攻めたんじゃやられるし、かといって纏めて攻めたとしても


後ろからやられるだけだぜどうする。」


さすがに相手も自分たちの半分がやられた事で警戒しているのか、中々攻撃を


仕掛けてこない。


全くの均衡状態だ。


「総大将、もういちかばちかで一気に攻めちまいやせんか?」


典韋はそう呟いた時に相手の兵士もそれを聞いたのか、肩を少しビクッとさせ剣を慌てて


構えなおしている。


「いや、後少しだ。奴が来る・・・。もうそろそろその時だ。」


そういってまた少し静寂が訪れる。


そして攻撃の時は訪れた。曹操が視線を少し後ろに向ける。


そうすると口元を歪ませ二人に耳打ちした。


その瞬間に3人は後ろの方で構えている兵士たちに向かって攻撃を開始した。


そして兵士たちの悲鳴が聞こえた。


全ての方角からだ。


今曹操たちが向いている方の岩壁の上から矢を撃っている部隊がいるのだ。


その中でも凄いのが一回に矢を同時に五本打って全てを敵に命中させている者がいた。


そう、この男こそ夏候惇の弟である『夏候淵』なのだ。


曹操が後ろをチラリと見たのは弓矢部隊が来るのを待っていたからだ。


最初からこれは計画していた事だったのだろう。


兵士たちが全滅したのは予定外だっただろうが。


だが、それを黄巾の奴らに気づかれなかったのは単純に運が良かったからであろう。


もし、一人が自分たちから注意を逸らして岩壁の上を見ていたらここまで上手くは


いかなかっただろう。


それはこちらが後手に回ることになるのだから・・・。


そうこうしているうちに黄巾の兵士たちは全滅していた。


劉備軍に続き曹操軍も勝利を得た。


だが、残ったのは弓矢部隊と典韋と夏候惇と曹操のみ。


失ったものは大きいのだ・・・。


そして、中央の山からはさっき火柱が上がった後は驚く程静寂が鳴り響いていた。




















一方某所ではこのような事が起きていた。


男が一人何やら怪しげな儀式を開いている。


その男の名前は司馬懿。


彼が何をしているのかそれはここではあえて伏せておこう。


「今日は何万もの命が失われたはずだ・・・。これで遂にこの儀式の条件が完成した。


最後にこの光珠を円の中心におけば・・・。」


そして数秒がたった時、もの凄い風がその場を巻き荒らした。


そして円の中心には一人の女と中年の男がいた。


その二人は司馬懿にとって後に大きな誤算となるのだ。


シンジにとっては・・・・いやまだ言わないでおこうか。















そして、またある某所。


「なにやら、怪しげなことをしている奴がおるのう。」


少し悩むそぶりを見せた男は一匹のカバ(?)らしきものを呼んで耳元で囁いた。


「了解です!ご主人。」


「ちょっと不味い事になったのう。これで3人目じゃ・・・。さすがにこれ以上はのう・・・。」


そういって男はまた悩みだした。






To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

鳥哭様より「違う場所で 〜三国の歴史〜」の第七話を頂きました。
う〜ん、何やら一杯出て来ましたねぇ〜(笑)。
管理人は、三国時代の人物っていうと、教科書に載ってそうなメジャーどころしか知らないので、あらかじめ人物説明がないと、些かチンプンカンプンです(大汗)。
でも通な読者が見ると、血湧き肉躍るシーンなんでしょうねぇ〜。まさに英雄列伝といったところでしょうか。
司馬懿が召喚(?)した人物も謎です。もしかして、シンジ君の知り合いでしょうか?
彼らが敵か味方か・・・それが問題ですね。
あと、最後に出てきたのは・・・マコト?(爆)
次作を心待ちにしましょう♪
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