違う場所で 〜三国の歴史〜

第八話

presented by 鳥哭様


あの惨劇から数十分孫堅たちはとんでもなく長い坂道の前に来た。


その坂道の手前には、左右それどれに大きな通路がある。


「おそらく、この先にいるんでしょうね・・・。」


シンジがそう呟くと、まず最初に反応したのは孫策だ。


「というか、お前さんは一体何処まで付いてくる気なんだよ。頂角を倒すのは俺達の役目だ。


ここは危険なんだからお前らは早く逃げな。女子供がいていい場所じゃないんだここはな。」


孫策はぶっきら棒にこう答えるが、それもシンジ達を心配してでの事である。


「いや、孫策。一緒の方が安全だと私は思うぞ。」


そこに話に混ざってきたのは周瑜だ。


「なんでだよ!敵の総大将の所に乗り込むんだぜ、それより危険な場所なんかねえよ!」


「考えてみろ孫策、後ろはあの鴉の大群。右も左も劉備殿、曹操殿が敗戦していれば


その軍勢の中を3人でどう切り抜けろと?それだったらまだこの6人特攻して


すぐさま総大将の首を掻っ切った方が都合がいい。」


だが、実際6人でそんな事ができるのだろうか?


周瑜の頭をそんな不安が横切っていた。


だがその不安も、ほんの数分後に解消されるのだが・・・


「俺は周瑜に賛成だ。」


そう一言だけ孫堅は呟いた。


「僕もです。」


シンジも同意している。


美女二人は返事はせずともシンジの後ろに立って視線で回答を送っている。


「で、孫策お前は?」


唯一の反対だった孫策もようやく折れて、それで賛成という事になった。


「では、のぼ「待ってください。」


「ん?どうしたシンジ?」


周瑜の進行の合図を止めたシンジが何を意図しているか?それにまず一番最初に聞きだそうとしたのは孫堅だった。


「いや、足音が聞こえるんです。」


「近くからか?」


「いや、そこそこ遠いと思いますよ。」


「何人だ?」


「30人ぐらいかな?多くても40人ですね。」


少し孫堅は悩むとあることを聞いた。


「シンジ。お前が良いのは耳だけか?」


「いや、他の感覚も・・・まあ人並み以上にはありますよ。」


はにかんだ感じで頬を指で掻きながら照れくさそうに返答している。


「なら、その歩いてきている奴らを見ることは可能か?」


「まあ、それぐらいなら。」


「なら、頼まれてはくれないか。このとおりだ。」


そういって孫堅は深く深く頭を下げた。


シンジはこういった、類の事が苦手なのか慌てた感じで返答した。


「そ、そんなにしないでくださいよ。見ますから顔を上げてください。」


そうして孫堅の顔を上げさせ、今度は遠くを見ようとしたその時だった。


「シンジ・・・。」


甄姫が心配そうにシンジの方を眺めている。


貂蝉も声には出さなかったものの同じようにシンジの事を見つめている。


「大丈夫・・・。無理はしないよ、約束する。」


そういって二人の頭に手を少しだけ置いて、目を閉じて集中力を高めていく。


そして、目をほんの2,3秒だけ開けるとまたすぐ目を閉じた。


相当疲れたのかシンジはたったそれだけの事で玉の様な汗を何個も額に浮かべている。


いや額だけじゃない、顔面も蒼白でさっきまでのシンジとは一目瞭然だ。


それほどまでに、シンジは弱ってしまっているのだ。


たった数秒でだ。


最初から解っていた様に貂蝉がすぐにシンジを支える。


「シンジ様・・・無理はいけません。御自重くださいませ。」


本当に心配そうな目をして、シンジを支える貂蝉とは違い、甄姫は支えられながら


肩で息をして苦しそうなシンジから小声で何かを告げられた。


そういうと孫堅たちの方を振り返りこう言った。


「今から私の言うことは全てシンジが言った事と思っていただきます。


まず誰が来ているか、それを教えるためには条件が2つほどあります。


それを呑んでくれるなら誰がこちらに向かっているかを教えますわ。」


「条件とは?如何なものなのだ?」


孫堅がこの話の核となる重要な点を聞いてくる。


「一つは黄巾党の首領との戦いの協力です。


坂の向こうには黄巾の首領以外は誰もいない事もシンジが調べてくれました。


まあ、この坂の上にいるのがその人であるという証拠は何処にもありませんけどね・・・。


ですが、この坂の上にいる人物は一人だけという事は確かです。


それと、もう一つの条件は承諾して頂けるなら御教えしますわ。」


どうやってシンジがそんな事を解ったか?


それは坂の上で呼吸をしている人物を数えたところ一人しかいなかったからだ。


これともう一つの事が相成ってシンジはあそこまで疲労の度合いを高まってしまったのだ。


さて、また話に戻るとしようか。


その甄姫の話を聞くとすぐさま反対するものがいた。


「なんだよそりゃ!!親父、そんな条件呑むことねえぞ!」


孫策はそう吐き捨てて、この条件を断ち切ろうとしたが、周瑜と孫堅は互いに目を合わせ


少し経つと頷きあい、シンジに向かって孫堅がこう言った。


「いいだろう。その条件呑ませてもらおう。」


「親父!!」


「少し黙っていろ、策!!」


そう言って息子を嗜めるとこちらに今の非礼を詫びて一礼してから話を元の線路に戻していく。


「それで、こちらに向かっている集団は味方か?敵か?」


甄姫は即答した。


「敵ですわ。黄色の頭巾を頭に巻いているのからして、まず間違いなく黄巾の兵士と見て間違いないですわ。」


孫堅は予想していたのだろうか、大して驚きもしなかった。


まあ、それは周瑜にも言えることだが・・・。(驚いていたのは孫策だけだ。)


「そして、もう一つの条件とは?」


孫堅は先ほど話してもらえなかった条件の内容を尋ねる。


「ええ、そのことですけど・・・・あなた達には今から来る37人の兵士たちの囮を


して頂きたいのです。」


ここでいう兵士たちというのはさっきシンジが発見した兵士たちだ。(言わなくても解るが)


具体的な数字は先ほど集中して見た、一瞬の間に数え甄姫に条件と一緒に告げていたのだ。


「なぜ、我々が囮をやる必要がある?各々方と協力すればおそらく誰も死する事無く


黄巾の兵士を退ける事ができるはずだ。なぜ我々だけで戦う必要があるのだ?」


ここで今まで沈黙を保っていた「美周朗」こと周瑜が話に入ってきた。


「それは・・・」


甄姫が答えようとしたところ、シンジが貂蝉に支えられながら立ち上がり甄姫の肩を叩いた。


「この先は僕が言うよ。」


「シンジ、無理はいけませんわ。」


シンジを戒めるような目で一回睨むも、シンジの苦笑いの前に毒気を抜かれたのか


甄姫は貂蝉と同じようにシンジを支え始めた。


「これで少しは楽になったでしょう?無理はしてほしくないですのに・・・」


貂蝉はそれを見て少し笑うと顔をキッと引き締め、孫堅たちに向かいあい話しかける。


「皆様方、シンジ様は病み上がりでまだ御体が優れないので、失礼であり、尚且つ危険も些か付き纏いますが、


座って話をしてもらえないでしょうか?少しでもシンジ様を楽にしてさしあげたいのです。何卒よろしくお願いします。」


そういって、深く頭を下げる。


「わかった。策、お前は立って回りに気を使え。」


そう言って孫堅と周瑜は硬い岩の地面の上に座った。


座ったのを見届けた後シンジ達3人もまた座り込む。


そして、シンジが話し始める。


「さっき貂蝉が言ったとおり僕はまだ病み上がりで長時間の戦闘は危険です。


だから、どれだけ弱い敵でも戦わないに越した事はありません。なら、態々戦場に赴くな


・・・そう言いたい気持ちも少なからずあるでしょう。でも、僕は近くで最近色んな村を襲っている集団がいる。


それなのにただ何もせずに指を咥えてみている訳にもいきません。


ですが、僕は手柄とかそういったモノには興味がありません。


僕がそいつを倒したとしても、誰が見ているわけでもありません。


だから、あなた方の手柄にでもして頂いて結構です。僕には、やつを倒さなくてはいけない理由がある・・・。」


そうシンジには頂角を倒さないといけない理由があった。


これはまだシンジ以外の誰もが知り得もしない真実でもあり、シンジにとっても頂角との戦いは


運命的に避けては通れないものだったのであろう。


あの異様な世界を生み出した、『サードインパクト』のように・・・。


そして、この男『頂角』。


この男がシンジの全てを告げる手掛かりとなるのだ・・・。


誰も知り得ない真実。


それを知るのは碇ユイ、碇ゲンドウ、この二人だけだ。


この二人・・・いや正確に言うと一人が紡いだ史上最悪の物語はまだ脈動を続けていた。


そして真実を知るもう一人も今また別の物語を紡ごうとしている・・・。


さあ、御覧あれ全てはここから始まるのだから。




















あれから数分後が経った。


シンジたちは坂道を登っている。


シンジはまだ傷が癒えてないのに、ここまでの旅路が厳しかったのか少し顔色が悪い。


これがシンジのもといた時代にあった、ゲームといもので例えるとボス戦というものだ。


それにしては、シンジのコンディションは最悪だった。


この状態で果たして勝てるのだろうか?


いや、勝たなくてはいけないのだろう、この先にシンジを待っているのはこのような生温い物語ではないのだから。


人の生き死に、裏切り、戦闘での傷、そして・・・・。


いや、やめておこう、これ以上いうと興が削がれてしまうかもしれませんから。


では、再度シンジ達に目を向けましょうか。


シンジは今まで二人に支えてもらっていたが、あと数10メートルで坂道が途切れるところまで来ると


自分一人で歩き出した。


「シンジ様?」


貂蝉が心配している様な感じと、いきなり如何したのかという疑問の混ざった声をかけてくる。


「もうすぐだからね。もう大丈夫だよ貂蝉、ありがとう。」


「いえ、とんでもございません。」


そういって貂蝉は無邪気にシンジに笑顔を向ける。


シンジもそれにつられて笑顔で答えると、今度は甄姫の方に視線を向ける。


「無茶はしないでください・・・それだけですわ。」


そういってぷいっと視線をはずす。


シンジは頬を少し掻いた後、前を向いて歩き出した。


そして後少しだった坂道を登りきった。


そこでシンジたちが何も無い荒野に人が一人ぽつんと立っているだけだった。


そして一歩ずつ、一歩ずつその男に近づいていく。


その一歩一歩がいつもより長く感じる程の緊張感が張り巡らされる。


そしてお互いの距離が10mぐらいの距離まできて、シンジから話しかけた。


「ご老人、あなたが黄巾党の総本山である頂角ですか?」


シンジの言葉からも解るとおり、頂角であろうその人は初老の男だ。


顔は土がこびり付いたように土色に染まり、髪も髭もボウボウで、しかも裸足と来ている。


どこからどう見ても清潔とは言えないだろう。


「ヒョ〜ヒョッヒョ。如何にもわしが頂角その人、本人に違いはない。


青年、御主もわしの教えを乞いに来たのか?我が太平道の極意をか?それとも・・・」


意味ありげな笑いを浮かべて、その無駄に長い髭をなでる。


その仕草は関羽のものとは似ているようにも聞こえるが実際に見ると、その差は歴然だ。


この老人のそれは気味が悪いのだ。


厭らしい笑み、唇の間から見える黄色い歯、そしてなでる髭も整っていない。


どれを取っても好意的なものは受け取れない。


「黙ってくださいませんか?」


シンジの声色が明らかに変わった。


頂角の意味ありげな笑いの意味をシンジだけは感じ取っていた。


「まあいいわ。それより、こんな老人相手に3人掛かりとは些か酷ではないかのう。」


そういって、頂角は今度は背中を掻き始める。


見たところ体を洗った感じがしないのからすると、痒いのは当たり前のような気もするが。


「残念ですけど、卑怯とかそういう問題ではないのですわ。様はあなたを倒されば、それで解決なのですからね。


手段は問いませんことよ。」


甄姫はそう口にすると、右手に予め持っていた笛を素早く口に当てた。


この距離なら笛の音色の攻撃が直撃する範囲内だからだ。


それを見たシンジと貂蝉は素早く後ろに飛んだ。


「無駄じゃよ。動けないじゃろう?そこの笛を持っている女よ。ひょ〜ひょっひょひょ。」


頂角の言葉どおり甄姫は笛を構えた状態から微動だに動かなくなった。


甄姫は驚愕の顔をしながら、どうにか動こうとしているのだろうが体が全く動いてない。


「なぜ動かないんですの?私の体なのに!」


もはや甄姫は完全なパニック状態だ。


だがシンジは冷静だった。


シンジは甄姫が叫ぶと同時に素早く甄姫を抱きかかえ、また貂蝉のいる場所に戻った。


今両者の間はおよそ40mといったところだろうか。


シンジは少し一息つきたいと考えていたのだろうが、その考えも届かなかった。


今度は貂蝉の様子がおかしいのだ。


「シンジ様!私の体も動きません!どうなっているのですか??」


シンジはこの事態にも動じなかった。


おそらく何らかのトリックがあるにせよ、鍵となっているのは頂角だ。


ならば、その本人から聞き出せばいい事だ。


力づくでも。


シンジは一瞬にして頂角の間合いまで入った。


流石に頂角も驚いたかと思ったが、頂角は驚いている様子など微塵もなく、それどころか涼しげな顔で


あっという間に近くに来たシンジを見下ろしていた。


シンジがそんな頂角の余裕の顔に気づいていなかった。


焦りからか・・・それともいつも切る瞬間の相手の顔を見ないのか・・・


シンジの心もちはどうなのだろう?


まあ、どちらにせよシンジの攻撃が始まった。


そう、居合いだ。


鞘から刀を抜き去って、さらにその鞘走りで威力を高めるシンジの速さを生かすのなら最高の技ではないだろうか。


そして、今回も一撃必殺のそれは決まったかに思えた。


だがシンジの刀は鈍い音がして、頂角の体に届く前に止まっていた。


そのとまった原因を見ると、さっきまでは何処にもなかった木製らしき杖を頂角が握っている。


「そんな・・・こっちは日本刀なのに・・・」


『日本刀』おそらくこの時代最強と思われたこの武器が、何処からどう見ても木で作られている杖に


受け止められたのだ。


驚くのが普通の現象だ。


だが、その杖を見てみると先っぽに赤い珠が付いている。


他はどう見てもただの木の杖だ。


「ヒョ〜ヒョッヒョ。さて青年、太平道の極意。その身を持って経験してもらおう。」


シンジはすぐさま頂角との距離をおいた。


「それでは、いくぞ。」


静かにそう告げると頂角から受けていた感じが一変した。


射抜かれるような視線をモロに受ける。


普通の人間だったら、一発で気を失うような緊張感。


シンジの悪条件はそれだけではない。


動けなくなった二人に危害が及ばないように注意しなければならない。


だが、頂角が攻撃を休んでくれるわけもない。


シンジは覚悟を決め、また納刀した。


そして、頂角もそれを見て杖を構える。


これがシンジの運命を大きく左右する対決だということをシンジは知っているのか?


知るはずもないだろう。


全てがここから始まるのだから・・・。


こうしてシンジの本当の意味での戦いが幕を開けた。






To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

鳥哭様より「違う場所で 〜三国の歴史〜」の第八話を頂きました。
今回は、このSSのキーマン(?)らしき男、頂角の登場です。
この頂角という男に、一体どのような謎が隠されているのでしょうか?(そもそも彼は人間なのか?)
それと碇ゲンドウ&ユイ・・・この二人がこの世界にどのような関わりを持っているかも、興味深いです。
しかし、この頂角との戦い、どう考えても分が悪そうです。
シンジ君の動きは明らかに見切られているし、精神的余裕もないし、体も本調子じゃないし、相手は宝貝みたいな杖を使うし・・・これでもかっていうほどの大ピンチですな。
普通に考えると、返り討ちは必死なんでしょうが・・・シンジ君はこの場をどう切り抜けるのでしょうか?
はっ!?・・・まさか甄姫と貂蝉が絶体絶命のシンジ君を庇って、・・・それでシンジ君が慟哭して、覚醒して、スーパーシンジ君になるのかっ!?いや寧ろなってくれっ!!(爆)
・・・あー大変失礼しました。恒例の妄想です。お気になさらずに・・・(滝汗)。
しかし実際、誰かの助けがないかぎり、この頂角は倒せない気がしますね。少なくとも今のシンジ君の力量では・・・。
故に、ここは一つ、シンジ君の早めのパワーアップを切望します!(頼みますよぉ〜)
しかしまあ、このSS・・・伏線がいっぱいありますなぁ〜(笑)。
一つの謎が解明される前に、新たな謎がどんどん出てきて・・・そろそろ小出しにしてもらわないと、ストレスで胃に穴が・・・(笑)。
次作を心待ちにしましょう♪
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