違う場所で 〜三国の歴史〜

第十話

presented by 鳥哭様


「おい、何だ!!あの炎は!!??」


その声で皆の視線はある物に惹きつけられている。


ちなみにここは義勇軍たちの本陣だ。


そこに駐屯していた兵士たちが、シンジと頂角の戦いの際に、頂角が出した火柱を見て


驚愕と恐れの悲鳴を上げているのだ。


「あれが頂角の力なのか・・・いやまさか、人間があんな事をできるはずがない」


兵士たちがパニック状態で騒ぎ立てる中で、自分をしっかり保っている人物がいた。


彼の名前は『孫権』。


そう、解ると思うだろうが、あの孫堅の息子である。


彼は前線には出ずに本陣で待機し、総大将と残りの兵士共々と援軍を出すかを


検討する会議を行っていたが、その途中で物凄い光と音に妨害され、その後にあの兵士の


声が聞こえてきて、その会議は当然中止になり皆突然の事態に混乱をきたしているのだ。


「そうだ。あんな事人間ができるはずがない。そうに決まっている。」


そう自分に言い聞かせるように独り言を呟くと、一息ついて気持ちを落ち着けた。


「ふっ・・・貴様に知る必要はない。」


孫権の耳に何処からともなく声が聞こえてきた。


孫権はあたりを見回すが、兵士たちの混乱で姿を見るどころの状態ではなかった。


「貴様に生きていてもらうと、俺の邪魔になるんでな。処分させてもらうぞ。」


その言葉を聞いた瞬間、孫権の全身に悪寒がはしり、その場にいてはいけないと


自分自身の第6感が警鐘を鳴らしている。


振り返ってその場を離れようとするが、両手を何者かに掴まれているのに気づいた。


「な!!お前らが何故こんな事を!!どうしたというのだ!??」


孫権の手を押さえていたのは、なんと自分自身の部下であった。


それと一つ気が付いた。


目が正気ではないし、鼻息もかなり荒い、そして顔色も青褪めていて血の気が無い。


「問題ない・・・貴様が俺の姿を見ることですら罪なのだからな。死ね・・・」


孫権の頭にヒンヤリとした堅いものが突きつけられた。


その正体はこの時代にあるはずの無い、武器『拳銃』。


「そ、それは?」


見たことの無い、いびつな物体への恐怖で孫権の声は掠れていた。


「問題ない。」


そして、引き金が引かれた。


孫権の頭を鉄の塊が通り抜けていく。


しかし、兵士たちは孫権の異常には気づいていない。


「裏切り者も始末してやらんとな・・・」


その呟きの後に孫権の手を押さえていた二人にも同じように殺された。


二人を殺したちょうどその瞬間に、孫権の体が淡い光に包まれだした。


すると孫権の体が人間の形を失い、徐々に光の珠になっていく。


そして、完璧にそれの形になると、その孫権であった光の珠は空に向かって飛んでいった。


この光の珠。


名前を『魂魄』という。


心や自分を支える源の塊、それが『魂魄』。


普通なら死んだと同時にそれは輝きを失い、その役目を終えるのだ。


だが、孫権の魂魄は空に飛んでいった。


これが何を意味するのか?


それをまだ知る者は数少ない。


さて、少し話を戻そうか。


この孫権を殺した男の事だ。


もう既に皆様方は察しているでしょう。


彼の名は『碇ゲンドウ』。


彼もまた時を遡った逆行者にして、碇シンジの実の父親だ。


そして、親子の奏でる最悪の結末がここから始まるのだ。


もちろんハッピーエンドなど約束されているはずもない。


これはゲームではないのだから・・・・


そして、歴史は大きく変わり、あらぬ方向に歪み捩れていく。


既に起こるはずのない悲劇が起こりすぎている事も、また然りだ。


目に見えぬところでも確実にその事態は侵食してきている。


孫権はこの様な所で死ぬ男ではなかったはずだ・・・。


『来訪者』彼らが歴史を大きく歪めてきているのだった。


そして、碇ゲンドウは己が欲を満たすために次なる獲物を求めに火柱の上がる


岩山の方へ向かっていった。


その背中は正に悪魔そのものだ。


そしてニヤリと醜く曲がった口元は悪魔ですら寒気を覚えるほどの邪悪さを漲らせている。


碇ゲンドウの過ごしてきた、この世界での3年間は碇シンジとは明らかに違うものだった。


それは、この場では語らないが、時機に明かされることだろう。


こうして一人の悪魔が戦場に赴きだす。


『碇ゲンドウ』人の形をして、人を為さない物。


彼に悲劇・・・・いや言葉では表せないほどの苦痛と不幸が降り注ぎますように・・・


心から私はそう願おう、この広い空に向かって。

























その頃中央の岩山では頂角とシンジによる戦いが繰り広げられていた。


シンジは夢現の境が解らないのかボウっと空を眺めている。


それを見計らって頂角は右手に持っていた杖から巨大な火柱があがったのだ。


少年はそんな攻撃が来るとは思うはずもなく、いや認識することも適わなかったかも


しれないだろう・・・あの様子だと。


さて、ここからは少しだけシンジの心の様子も覗いていこうか・・・。


「!!!!!!!!!!」


(ありがとうございました・・・妲己さん。)


最後にそう心の中で唱えると、力いっぱい足を蹴って火柱の中から抜け出した。


シンジは自分では気づいてないだろうが、火柱の中にいたのはほんの一瞬なのだ。


傍から見ると頂角の攻撃を驚異的な瞬発力で避けた様にしか見えないだろう。


それもそのはず、あの時の会話は妲己が時を止めて話していたのだから。


時間までも操作するとは・・・恐るべし妲己。


そしてシンジも冷静に声を出さずに口を閉じたままだったので、


内臓を焼かれる心配もなかった。


だが、それでも既に戦える状況ではなかった。


焼けた肌の焦げた臭いがそれを物語っているようだった。


時を進める時間が早すぎたようだ・・・妲己もわざとやった訳ではないようだが。


「シンジ!!!!!」


「シンジ様!!!!!」


後ろから聞こえる大切な人の声も少年の耳には届いていないのだろうか?


シンジはピクリとも動かない。


(そうだ・・・、立たなきゃ、そして守るんだ。甄姫を貂蝉を!さっきそう決めたばかりだ。


挫けるには早すぎるよね。逃げちゃ駄目だ・・・そう、逃げちゃ駄目だ!)


声は届いていた。


だが、屍のようなシンジの格好が、2人の女性をより一層不安にさせているのであった。


そして頂角が両手を天に掲げ、腰をクネクネ回しながら妙な踊りをし始めた。


「ヒョ〜〜ヒョッヒョ、これぞ太平道よ。さて次は2人の女子か。楽しめそうじゃの〜。」


(動け!動いてよ!!もうエヴァに頼っていた昔の僕じゃもう駄目なんだ!!動けよ!!)


シンジの頭の中では昔守れなかった親友の姿が思い描かれていた。


そう、『鈴原トウジ』という・・・。


一方、そんなシンジの心境など知らず、頂角は次なる行動を起こした。


少し肩を回し始め、両方の肩を回し終わったその瞬間。


さっきまで持っていたはずの杖がどこかに消えていた。


そして妙な踊りをやめ、頂角は二人の女性の方へ歩いていこうとした・・・その時だった。


頂角の頭に結構な速さで石がぶつかっていった。


「待て!!!!二人には手を出すな。」


シンジが最後の悪あがき・・・いや懸命に立ち上がり二人を守ろうとしたのだ。


悪あがきとも取れるがここはそう受け取らないでおく。


(動いた!でも、こらからどうする・・・。)


シンジは剣を杖代わりにしてやっとのことで立っていられるのだ。


状況は大して変わっていない。


頂角はさっきまで厭らしい笑みを浮かべていた顔を憤怒の顔に変え、


シンジを睨んでこう言った。


「どうやら余程死にたいらしいの青年。では望みどおりにしてやるわ!」


そして、つい先ほどまでは何も無かった右手には杖がしっかりと握られており


その杖の先が熱でぼやけ始めていた。


そして甄姫も貂蝉も今の状況ではシンジが避けられないことを知り「もう駄目だ!!」と


思い、目を瞑った。


シンジも必死で足掻こうとするが足に力も入らずにまた火が発射されると思われた


その時だった。


頂角の手に握れていた杖が何者かによって投げられた小剣により射抜かれ


頂角の手元から20M程遠くに飛んでいった。


そしてシンジから見て左側から声が聞こえてきた。


「ったく。だらしねえったらありゃしねえぜ。」


(・・・誰だ?)


全員の視線の先には紫色の鎧に、黒色のバンダナらしきものをし、真白の刀を持った


青年が立っていた。


そして、髪は青く、目は赤かった・・・・。


その青年は走ってこちらに向かってきてこう言った。


「こりゃ酷いな・・・どれ、ちょい見せてみろ。」


酷く優しい声で、そう言うとシンジの皮膚を少し眺めてこう呟いた。


「これぐらいなら・・・なんとかなるかな?」


そう言うと真白の刀を一本を水平に掲げ、目を閉じる。


(痛みが轢いていく!!??すごいぞ!!)


そうすると、シンジの姿が淡い水色で包まれてみるみる内に怪我が治っていくのだ。


2,3秒でシンジの火傷は完璧に治っていた。


そこでシンジはあることに気づいた。


「あの・・・あなたは誰なんですか?」


まあ、当然の質問だろう。


「俺か?俺の名前は零壱(ゼロワン)。俺に由縁する全てを護る者だ。」


そう言って、零壱は綺麗に整った顔を笑顔で染めていく。


だが、そうこうもしてはいられないのだ。


今は頂角との決戦の真っ最中。


頂角はシンジが回復している隙に弾かれた杖を手に取り、こちらに火の玉を放っていた。


「ったく・・・あんだけの火柱出しゃ、流石に打ち止めだろうよ。」


めんどくさそうに呟くと、零壱は頭に巻いたバンダナを外し火の玉目掛けて振り下ろす。


すると、火の玉は反対側の頂角目掛けて飛んでいった。


「何じゃと!!????」


頂角はかろうじて避けるが、零壱の言ったとおりあの大技でそうとう疲れが来てるようだ。


「まあ、これはお前さんの戦いだ。俺はこれ以上は加勢しない。まあ、あの二人を護って


やるがな。」


シンジは不思議とこの男に安らぎを感じていた。


(なぜだろう・・・凄い懐かしい感じがする。)


シンジがそんな事を考えていると、零壱が思い出したように言った。


「忘れてた。お前にこの刀を渡さないとな!!もうその刀使えないし・・・。」


シンジはその言葉を聞くと、自分の右手を見てみる。


そこには刃毀れをし、至る所が錆びている刀が握られていた。


「こ、これは??」


さっきまではこんな刀でなかったのは確かだ。


「さっきのお前の傷を癒しせいだ。」


「どういう事ですか?」


「あれはその傷を治す対象となるものの財産一つを奉げ、傷を癒すってやつだ。


まあ等価交換だな。お前さんの財産に値するものがそれだったって事だ。まあ傷の度合い


によっちゃ後ろのあの2人が生贄になるかもしれなかったがな。」


その言葉を聞いたとき、シンジは心から安堵した。


(良かった・・・刀一本で済んで・・・2人を失うなんて考えられないよ。)


シンジは気づいていない。


自分の思いの矛盾に。


まあ、それはおいておこう。


おっと、頂角が再起動を果たしたようだ。


今までこちらの様子を伺うだけだったが、少しずつ間合いを詰めてきている。


「さて、もう時間もねえな。シンジ、これやるよ。」


そう言うとさっきの白い刀をこちらに手渡した。


(あれ?何でこの人僕の名前知ってるんだろう?)


シンジはそんな事を考えながらもそれを受け取った。


「『虹綾』それがこの剣の名前だ。」


シンジは零壱に礼をする前に、迫ってきていた頂角の腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。


頂角はさっきまでの動きが嘘の様に、蹴りを思い切り腹に受けて吹っ飛んだ。


シンジは追撃しながら零壱に礼の言葉を述べる。


「ありがとうございます!!2人をよろしく頼みますね!!」


シンジは刀の鞘に手を掛け、まだ倒れている頂角目掛け一気に振りぬいた。


(軽い!??)


その刀はあまりにも軽かった。


いつもと勝手が違う感覚に少しばかり居合いのタイミングが狂ってしまった。


刀の刃が通った場所に頂角はいずに、空振りしてしまったのだ。


だが、シンジははっきりと気づいていた。


流れは自分にある事を。


頂角は今の攻撃に全く反応できていなかった。


シンジは「勝てる!!」そう確信していた。


だが、頂角も最後の手を使って来た。


「青年・・・これが最後の攻撃じゃ。くらえ!!」


(さっきと同じ火柱かな?動けばあれはあたらないはず。)


自分の頭の中でそう考えるとシンジはすぐさま右に駆けていった。


「これで終わりじゃ!!!」


そう言うと頂角の杖が地面に呑み込まれていった。


するとシンジを中心にして、円を描くように火の壁が出来た。


半径は10M程だろうか?


高さはそれほど高くはない。


シンジの脚力なら間違いなく飛び超えられるだろう。


だが、シンジはどうしようもない程の悪い予感がしてならない。


(試してみるかな?)


そう決めると地面に落ちてあった石を拾って、火の壁の上方に狙いを定め放り投げた。


すると火の壁が物凄い勢いでその石目掛けて延びていくのだ。


まさに火の蛇。


しかも火の壁は少しずつその半径を縮めて、自分に近づいてくるのだ。


(なんとかしないとな・・・。)


シンジの戦いは終わらない。

























一方シンジが火の壁に苦戦しているのと同じ時間の仙人界を見てみよう。


すると、ちょうど太公望が作った空間が静かに閉じていった。


「どうじゃ?これが碇シンジの全てだ。無論、本人が知らないことも含めてのう。」


シンジの過去・・・これを見てきたのは、四不象、楊ゼン、竜吉公主、そして太公望。


この4人だ。


「これが本当だとすると・・・碇ゲンドウ。奴は僕たちで始末したほうがいいんじゃ?」


楊ゼンがそう呟いた。


「そうっすよ!!ご主人!!」


「駄目じゃ・・・そうできない理由があるからのう。」


太公望は心底辛そうにそう答える。


「太公望よ。理由とは何じゃ?」


今まで一言も話していなかった公主が口を開く。


「理由は言えぬ。まあ、申公豹あたりがそのうち喋るかもしれないがのう。」


太公望の予想は大当たりだった。


近々、申公豹がその理由を明らかにするのだから。


その時まではこの申公豹の事も伏せておこう。


楽しみは多いほうがいいからね。


「そうか・・・。」


そう呟くと公主はふわふわと空に浮かびながら、楊ゼンにこう言った。


「少しばかり下界に下りたいのじゃが、よろしいか?」


「なぜですか?」


公主は静かに呟いた。


「決まっておろう。あの少年を助けにじゃ。」


次に口を開いたのは太公望だ。


「わしも少し下界に降りる。もう一人のわしが急げとさっきから五月蝿いしのう。」


もう一人の太公望。


まあこれも後に説明しよう。


「はあ・・・・わかりました。どうぞ行ってきてください。これが通行許可証です。」


そういうと机から2枚の紙を取り出し、二人に渡した。


「すまぬのう。」


そう言って公主はそれを受け取った。


「楊ゼン、しっかりやれよ。」


太公望は一言だけ楊ゼンにそう囁いて、許可証を手に取りスープーに乗って飛んでいった。


公主も何時の間にか消えていた。


ここから物語に仙人たちが絡んでくる。


3つの世界を跨いだ大きな戦いは始まったばかりだ・・・






To be continued...

(2004.10.23 初版)
(2004.11.20 改訂一版)

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