違う場所で 〜三国の歴史〜

第十一話

presented by 鳥哭様


シンジが戦ってるその上空に何か浮いているのが見える。


しかも普通なら空には飛ぶはずのない物体が2つもだ。


・・・・・・それは何処からどう見ても猫と奇怪な服を着た男。


猫が空に浮かびその上に男が座っている。


そんな状態だ。


「ねえ申公豹。珍しいね、人間の戦争をわざわざ見に来るなんてさ。」


猫が男に向かって喋った。


男の名前は申公豹というらしい、服装は・・・ピエロ?みたいな感じだろうか。


まあ、間違ってもセンスが良いとはいえない服装である。


「そうですね。なんといっても『碇シンジ』という男がいるのです。当然でしょう。」


そういって心底嬉しそうな笑みを浮かべる。


「その碇シンジって何なのさ?」


猫が不満そうに疑問の声を上げる。


「う〜〜んそうですね。あんまりベラベラ喋ってしまうと楽しみが減ってしまいますから


ね、少しだけなら教えてあげましょうか?黒点虎(こくてんこ)・・・」


そういって申公豹は猫、いや黒点虎に喋りかける。


ちなみにこの黒点虎は霊獣である。


だからこそ空を飛べるのだ。


しかも最強の霊獣と仙人界では呼ばれているほどなのだ。


猫は見かけによらないようだ。


「うん。教えてよ申公豹。」


黒点虎は興味津々のようだ。


「まず、そうですね〜・・・黒点虎。あなたは彼について何か知っていますか?」


どうせ答えられないのを知っている申公豹は口元をニヤつかせている。


「彼って「碇シンジ」だろ?普通の人間なんじゃないの?」


まあ当然の答えを返す黒点虎。


「ふふふ違いますよ、黒点虎。彼は歪められた体と生命とこの世で最も原点に近い


魂魄を同時に授かった少年なのですよ。」


黒点虎は目を点にしながら全く意味のわからない申公豹の説明に更なる説明を求めた。


「全然意味わからないよ。」


「それはそうでしょうね。この事を知っているのは太公望と私ぐらいのものでしょう。


もしかしたら他に数人知ってそうな人の心当たりはありますけどね・・・。」


「それはわかったから早く詳しく教えてよ、申公豹。さっきの事をさ。」


明らかな不満をありありと声に出して申公豹に伝える。


「そうですね・・・説明し難いというのが本音ですね。先ず歪められた体と生命。


これは今の時代の常識とはかけ離れた技術を持って生まれたものですからね。


魂魄の説明は今はやめておきましょう。楽しみが減りますから。」


「なんでそんな事を申公豹が知っているのさ?」


「ああ、それは太公望が教えてくれました。まあ途中までは私も自分で大体の内容は


察していましたから、答えあわせという意味では大いに役立ちましたよ。」


そう言いながら大きく首を縦に振る申公豹。


「また女禍(ジョカ)の遺跡から何か見つけてきたの?」


『女禍』以前この地球の歴史を自分が昔、住んでいた星の歴史と一致させたいが為に


少しでも歴史がずれる度に何度も人類、いや生命を破壊しては創り


破壊しては創るを繰り返していた始まりの人が一人だ。


だが、その女禍も太公望たちの手によって倒されたのだが、その女禍がいた場所には


色々な情報が山の様に眠っていた。


つまり、話をまとめると、女禍が倒されるまでは、ほぼ同じ歴史を繰り返していたのだ。


シンジの情報が何らかの形で残っていても不思議ではない。


申公豹はそれを発見したのだ。


「ええ、そうです。そこにはこう記されていました。始まりの人の遺伝子を色濃く


受け継ぐ十七の人現る。そして、実際にここに記された通り奴等が現れました。」


「奴等?」


「遥か未来の話ですね。いや遥か過去と言ったほうが正しいのでしょうか。


奴等の事を当時『使徒』と呼んだそうです。それを倒すという口実を盾に目論んでいた


計画を『人類補完計画』というそうです。内容は全世界の命あるもの全てを巻き込む


集団自殺そのものですよ。それをやろうとしていた老人たちはそれが最後の救いだの


とか言ってたそうですけどね。ああちなみにその老人たちの集団の事を『ゼーレ』とかと


呼んでいたそうです。もっともその存在を知っているのは極々小数の人類だけだったよう


ですが。」


「う〜〜ん、なんか実感が湧かない話だね。で、それと碇シンジが何の関係があるのさ?」


難しい話の連続で少しぶすぅっとした顔で申公豹に話の続きを催促する。


「いいですよ。彼はその人類補完計画の生贄として使われ、『サードインパクト』と


いうものを起こしました。『サードインパクト』は全ての生物の命をLCLという液体に


変化させました。まあ、本当はそれだけではないのですが、面倒なので詳しい


話はまた今度にしますよ。では、話を戻します。


そして取り残されたのは碇シンジと同居人の女一人。


そしてその女もすぐに液体になってしまいました。


その瞬間に碇シンジの中に潜んでいたあるものが覚醒したんです。」


「あるものって?」


「私も黒点虎もこの世にある全ては始まりの人の遺伝子を受け継いでいます。


それはわかりますよね?」


『始まりの人』女禍と同じで故郷の星が滅びた後この星に流れ着き


この星を自分たちの故郷と同じようにしようとした女禍の暴挙を止め


地球と一体化した人々だ。


結果的には女禍は数年後に復活を果たすのだが・・・。


まあそれも全て終わったことだが。


「うん。実感はないけどそれはわかる。」


「もう話の流れから大体想像できたでしょう?黒点虎。」


そういって、ポンと黒点虎の頭に手を乗せる。


「つまり始まりの人の遺伝子が覚醒したって事?」


「半分は正解です。もう半分は秘密です。」


「ええ〜〜〜なんでなんだよ、申公豹。」


申公豹を睨む黒点虎。


だが、全く恐くない・・・いやそれどころか全く表情が変化してないようだ。


「すいませんね黒点虎。これ以上秘密を言ったら私が殺されちゃうかもしれませんから。」


そういって笑いながら目線を後ろに向ける。


「そうでしょう?太公望、太上老君。」


後ろには太公望と宇宙服みたいな物を着た何かが浮かんでいた。


「申公豹・・・お主どこまで知っているのじゃ。今話していたのを聞いたが


その口振りからすると、わしの教えた以外の事にも勘付いているのか?」


太公望は極めて真面目な口調で申公豹を問い詰める。


彼にしては珍しいことだ。


「全部知ってるんでしょ?どうせあなたの事なんだからさ。」


太公望の横に浮かんでいた何かが喋った。


どうやら中に人が入っているようだ・・・まあ、あたりまえだが。


「ええ色々調べさせてもらいましたからね。」


「で、君の美学には背く行為?」


宇宙服・・・いや申公豹の言動からすると太上老君というらしいが・・・。


「いえ、大変興味深いといったでしょう。それより、寧ろ彼の父親・・・碇ゲンドウの方


は私の美学以前の問題です。」


そこで二人をもう一度正面から見据え、一息ついた後こう呟いた。


「息をしているだけで不愉快ですね。」


それまでの険悪な雰囲気すらも吹き飛ばす極寒の殺気があたりを包み込んだ。


どんな歴戦の兵でも腰を抜かすような空気の中でも、太公望と太上老君は平然と申公豹と


対峙している。(太上老君はよくわからないが・・・)


「申公豹、それはお主自ら、碇ゲンドウを殺すということに捉えていいのか?」


そう言うと右手には棒状の物を握り締めて、戦闘の態勢を整える太公望。


「ふう・・・相変わらずだね申公豹。どうせ、めんどくさがって何もやらないんだろう?


今だってそういう思わせぶりな言葉遣いで太公望をからかってるだけだろう?」


太上老君は静かにそう呟いた。


「流石私の師ですね、太上老君。あなたの言うとおり私は何もする気はありませんよ。


まあ、太公望に珍しく過激な反応を示してくれたので、からかった方としては嬉しい限り


ですよ、全く。」


そういって肩を竦めて殺気を解く。


それを見て太公望も戦闘体勢をやめる。


だが、太上老君の周りにはいつしか2枚の白い衣が舞っていた。


片方の白い衣には朱雀、白虎、玄武、青龍が描かれている。


「申公豹・・・お主は本当にわからん奴よな。」


そういって大きく息を吐いて疲れた表情で申公豹を睨む。


だが、どう見ても睨んでいるのも冗談半分といった感じだ。


「ふふ、相変わらずあなたは興味深いですね・・・。太上老君も、その宝具をいい加減


しまって下さいませんか?恐くてしょうがないですよ。」


本当は恐怖など微塵も感じてないのだろう。


それどころか、嬉々とした顔で二人を見ている事からすると、


戦いを望んでいたのかもしれない。


いやはや本当に全くわからない男である。


「朱龍玄虎(しゅりゅうげんこ)・・・スーパー宝具を超えた最強の宝具ですか。


本気で私を殺す気でしたね?太上老君。」


背筋をゾクッと通る快感に酔いしれながら、申公豹は太上老君と対峙する。


「そりゃ、碇ゲンドウをあなたが殺すっていうんならしょうがないでしょ?それが私達に


とってのタブーになっているのは君も知っているでしょう?」


なぜ、それがタブーなのだろう?


それはやはり伏せておく事にしよう。


「ええ、もちろん知っていますよ。ですが影ながら助力はするつもりですよ。


それは禁止された行為ではありませんからね。」


「そうか・・・。」


太公望と申公豹が見詰めあっている、その時だった。


「申公豹・・・なんか僕だけ会話から取り残されてない?」


黒点虎はすっかりいじけてしまっていた。


「すいませんね黒点虎。お詫びといってはなんですが、碇シンジの秘密を一つだけ


教えてあげましょうか?」


「本当に?でも太公望達が怒るんじゃ?」


「大丈夫ですよ。彼らならもう行きましたから。」


「え?」


そういって黒点虎がさっき2人がいた所を見ると、もう2人の姿はなかった。


「彼等は次の仕事にいきましたよ。」


「仕事って?」


「秘密です。」


どうせそう言われるだろうと思ったのか黒点虎はその台詞を聞き流して、自分の要求を


申公豹に伝える。


「そんな事はいいから、教えてよ。碇シンジの秘密をさ。」


「では単純に簡単に、そして尚且つ単純に教えてあげますよ。」


「そんな前置きはいいからさ。早く話してよ。」


心変わりされる前に聞きだそうとしているのか、何度も催促をする。


「わかりましたよ。彼・・・つまり碇シンジは人間ではないのですよ。」


その会話の後にはひたすら沈黙が空を覆っていた。


人間ではない。


これはいったいどういう意味なのだろうか?


違う場所での物語りはひたすら流れ続ける。

























そして、話題の人『碇シンジ』は火の壁をどう打ち破るかを考えていた。


(う〜〜ん、どうやら上を跳び越そうとすると火が追いかけてくるし、正面突破は・・・


無理だよね、うん。こんなのどうしたらいいっていうのさ。)


シンジはさっきからこんな進展のない時間を過ごしていた。


この火の壁ができてから、すでに3分が立っている。


火の壁は非常にゆっくりだが、徐々にシンジに迫ってきている。


後5分もすればシンジは焼かれ死ぬだろう。


いや、その前に酸素の量も減ってきている事からすると、


窒息死の方が早いかもしれない。


まあ、どうにかしないと死ぬ事は確定しているのだ。


シンジはこのままでは何も進まないと、先ほど貰った刀の柄を一度しっかりと握り締めた。


(この剣なら、もしかすると・・・)


シンジはある一つの作戦を思いついた。


すると、シンジは目を瞑り自分の視覚を捨て去り、音を聞く事だけに集中する。


(方向は・・・こっちか。で、距離は・・・20?いや30m先だな。)


シンジは頂角のいる位置を音で判断しようと試みている。


頂角の呼吸の音、心臓の脈打つ音、骨の軋む音、筋肉が動く音。


今のシンジにはそれすらも敏感に感じ取っている。


だが、シンジは病み上がりだ。


すぐに体中から汗が噴出してきている。


顔色も少しずつだが血の気が失せてきている。


果たしてシンジの試みは成功するのだろうか?

























一方外では零壱(ゼロワン)が頂角と話していた。


「おい、お前が頂角なんだよな?それは間違いないか?」


「いかにも、わしが頂角じゃ。」


そういって、また何処からともなく杖が出現した。


「ほう、俺の知るところによるとお前・・・」


「貴様、何を知っているのだ?」


「さあな?」


頂角は知られたくない事実を、零壱が知っている事を悟るとすぐさま杖を地面に突き刺し


また妙な呪文を唱えだした。


その間僅か2秒ほど。


シンジの時と比べると、タメの時間が極端に少ない。


だが、零壱はそんな頂角の不穏な動きにも動じず黙って立っている。


後ろで、何かを叫んでいる女二人がいるが、彼女たちは空間中にできた赤い壁に阻まれ


どうする事もできないようだ。


「死ぬのじゃ!!」


さっきとは比べ物にならない程の熱が地面を伝わって零壱の方に流れてきている。


誰の目でもはっきりとわかるほど、一本の赤い蛇が地中を這いずりまわっているように


しか見えない。


だが、それでも零壱は黙って立ったままだ。


「お前の負けだよ。」


その一言を呟いた瞬間、真白の刀が頂角の左胸を貫通していた。


間違いない『虹綾』だ。


白い刀が血で少しずつ赤く染まり、頂角は体を痙攣させ、苦しみながら地にひれ伏した。


未だ命があるようだが、じきに絶命するだろう。


この怪我で生きているはずもない。


だが、何故『虹綾』がここにあるのか?


それはシンジが頂角のいる方向や距離を、その異常的な聴覚で感じ取って


その方向に向かって刀を投げつけたのだ。


シンプルだがシンジが考え付いた中では最良の案だったのだろう。


だからこそ、零壱も何の行動もおこさず、ただ黙って何もしなかったのだろうか?


シンジがどうにかするだろうと信じていたのか、はたまた何か奥の手があったのだろうか。


それは彼自身にしかわからない。


「よくやったな。」


そういって零壱は体中汗だくになったシンジが倒れかけたのを受け止めた。


一瞬で、どうやってシンジの近くにまで移動したのだろうか?


しかも片手にはさっきまで頂角の胸を貫いていた虹綾を持っていたのだ。


やはり謎の男である。


「「シンジ(様)!!」」


赤い壁はいつの間にか消え去り、甄姫と貂蝉が自分の大切な人の安否を確認するべく


全速力で走ってきて、零壱からシンジを受け取った。


甄姫はシンジを自分の膝の上にのせ、土やら何やらで汚れた頬や髪を何度も撫でている。


貂蝉はそれを微笑ましそうに見ながら、何分か後には今度は貂蝉が膝枕をして、彼の


頭をやさしく丁寧に撫でていた。


そして、その頃にはすでに零壱はいなかった。


地面に虹綾が刺さっているだけだった。


風が静かに吹いていた。


シンジは少しだけ目を開けて、虹綾の方を見た。


(綾・・・波?)


シンジの目には、刀ではなく綾波の笑顔が映っていた。


そう、第五使徒『ラミエル』を倒した直後の、あの笑顔だ。


それはやはり幻覚なのだろうか?


はたまた夢なのだろうか?


それを知る人物はいないだろう・・・・おそらくは。


(綾波、僕少しは強くなれたかな?今ならみんな僕を必要としてくれるのかな?綾波・・・


君は僕をどう思ってたのさ?)


もちろん綾波が答えるわけもない。


(幻か・・・。)


シンジの意識が途切れる寸前にシンジは何かを感じ取った。


(碇君・・・。)


それは間違いなく綾波レイの声であった。


だが、おそらくは幻聴なのだろうとシンジは思った。


まあ、普通はそうだろうが・・・。


シンジの意識は途絶えた。


また風が流れていった。

























そしてまた上空にはまだ彼等がいたようだ。


あの一人と一匹が何やら先ほどの戦闘の事について話している。


「ねえ、申公豹。」


「なんです?黒点虎。」


「僕見たよ。」


「何を見たんですか?」


「碇シンジの髪が銀色に、目が紅色に染まっていくのをだよ。」


「へえ、そうですか。」


「どうしてなのさ?」


「それはまたいずれの機会にでも教えてあげますよ。」


「絶対だよ。」


「わかりましたよ。黒点虎。」


風がまた吹いた。


まだ黄巾の乱は終わっていない。


終わったのはシンジたちの戦いだけだ。


そしてまだあの男もいるのだから・・・






To be continued...

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