違う場所で 〜三国の歴史〜

第十六話

presented by 鳥哭様


あの戦いから4日が過ぎた。


シンジの症状も良くなり、また同じ日が続くはずだった。


だが人生とはそう上手くいかないものである。


「さて・・・そろそろいいですわよね?」


「覚悟はいいですね?シンジ様。」


「元気になった事だし・・・」


シンジは3人の美女の前で正座をしている。


「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と・・・・一体どのようなご用件で?」


シンジもはや為す術なしだという事を学習したようだ。


「まずはあの変異の事から話してもらいますわ。もう頭痛も治まったでしょう?


私達の手厚い看病の御蔭ですわね。」


「感謝してます。」


だが恐らくその時の心配等から来る反動で、いつもの2割増しぐらいに迫力が凄い。


孫尚香だけは事態を傍観して楽しんでいるようだが。


「じゃあ、シンジ様・・・知っていること全部話してくださいね。」


「そうよ〜〜心配したんだからね。」


感情の篭った貂蝉と棒読みの孫尚香の声がシンジの耳に届く。


シンジはとりあえず尚香に目線で助けを求める。


だが、尚香が慌てて目線を反らして失敗に終わった。


自ら危険な場所には行かない。懸命な判断だろう。


「え〜〜〜〜〜〜〜と・・・説明しようにも僕自身よく解ってないから・・・。」


「つまり・・・私たちには話せないと?」


うう〜〜なんでそういう結論に至るかな?そんな僕って嘘ついてたっけ?


確かにシンジは嘘を付いた事はあまりない。


だが、心配かけないと戦いに行くときは何も言わずに行く事が多々あった。


それが彼女達からの、こういう場合の信頼を激減させているのだろう。


「シンジ様・・・良い度胸ですね。私だって怒るときは怒るんですよ?」


「あら貂蝉奇遇ですわね。私もですわ。怒るときは怒らなくてはなりませんよね?シンジ。」


鬼だ・・・鬼が二匹いる。あと・・・グレムリンも。


言わなくてもわかると思うが、鬼=貂蝉&甄姫。グレムリン=孫尚香だ。


「いや、本当に自分でも解らないんだよ・・・あれが何なのかも。ただ感じたのは


凄い興奮してた様な気がするんだ。本当だよ!!僕自身よく解らないんだ!!信じてよ!」


必死に弁明するシンジ。


「シンジはそう言っていますわよ貂蝉?」


「でもシンジ様は前科がありますわよね・・・。」


「そういえばそうですわね。」


明らかな棒読みの台詞の言い合い。


シンジ、全く信用されておらず。


「さあ、シンジ。そろそろ喋っちゃいなよ。後が恐いわよ・・・。」


孫尚香が妥協案?らしきものをシンジの耳元でそっと呟く。


二匹の鬼に聞こえたなら孫尚香もタダでは済まない・・・いや、瞬時に冥福を祈る事に


なるだろう。かなりの確率で。それ程今の二人の迫力は圧巻だった。


「本当だって!!信じてよ!!」


「シンジテヨ・・・ですって。どうします?」


「そうですね。証拠が欲しいですわね。」


「証拠って・・・どうすれば言いの?」


「私達の命令を聞いてくだされば・・・」


「信じてあげますよ。」


二匹の鬼が僅かばかり光をシンジに与えていく。


「でも、聞けないなら・・・。」


「き・・・聞けないなら?」


シンジは恐る恐るだが聞いてみる。


「まあ・・・何かあるでしょうね。」


貂蝉が首を少し傾け、頬に手を置き笑ってみせる。


いつもならその仕草に見惚れていただろう。


だが今は違う。


血の気がサッと失せて、背筋に悪寒が走り、唇が一瞬で乾き、歯がガタガタ鳴っている。


心は体にも影響を与えると言うが、それを示すのにとても分かり易い反応をするシンジ。


「で・・・「「聞くんですか?聞かないのですか?」」


2択の様にも聞こえるが、実際シンジに与えられた回答は「聞く」しかない。


当たり前だろう。命には代えられないのだから・・・。


ましてや、本当に何も知らないのに誤解されて、息を引き取る事になるのは真っ平御免の


はずである。


「それじゃあ・・・」


だが、会話はそこで打ち切られた。


ちょうどシンジの後ろの壁が強い衝撃を受けて壊れ、何人もの人間が乗り込んできたのだ。


そして、その内の一人がシンジに飛び掛っていく。


「3人とも話しは後からだ。」


さっきまで怯えてたのが嘘の様に、後ろから襲ってきた男の鳩尾に肘鉄を入れてゆっくり


立ち上がる。


「無論ですわ。」


「何でいつもこうなんでしょう。」


「いつもこうなの?」


三者三様の返事を返し、シンジ達は戦闘を開始した。

























一方こちらは、シンジの家のすぐ近くの川だ。


そこに馬鹿デカイ船が止まっていた。


少しばかり船上の様子を見る事にしよう。


「頭!!たった今小屋に突撃を開始したそうです。」


「ああ・・・わかった下がっていいぞ。」


「わかりました!!」


今命令した男こそ、この船の持ち主である水賊の党首だ。


名は甘寧、字は興覇という。


「・・・興覇・・・?」


「悪いな、どうにも乗り気になれねえんだ。」


甘寧が話している相手の名は周泰、字は幼平という。


「・・・俺も・・・だ。」


この様子からすると無口な人物なのだろう。


甘寧は居心地悪そうに近くに置いてあった酒を口に運ぶ。


「ちっ・・・不味い。最高級の酒のはずがこんなにも不味く感じやがる。」


「・・・そうか・・・。」


「しかも何で俺が人の女を攫うような三流以下の真似をしなきゃならねえんだ!!


しかもそれを強要された理由が部下を人質にされたからときやがった。全くだらしねえ。」


掌を顔にあて、少しばかり溜息を吐く。


「・・・俺も・・・だ・・・。」


「相も変わらず無口な奴だな。まあ腕っ節は俺と同じってのは認めるぜ。


それに水賊ではあるが、道は誤っちゃいねえ。俺が保障するぜ。」


「・・・そうか・・・。」


その言葉にようやく二人とも笑顔を見せる。


「あの髭達磨が・・・いつかぶっ殺してやる。」


髭達磨・・・二人いるのでどちらか見極めがたいが、たぶん皆さんの思っている方が


正解であろう。


「勿論お前さんも来るよな?」


ドンと周泰の胸を強く叩く。


「・・・無論・・・。」


「それでこそ周幼平だぜ!!お前も少し酒飲むか?」


「・・・遠慮する。」


「下戸でもねえのに・・・まあ、いいさ。」


「へっ・・・さっきと比べりゃ月とスッポンだぜ。こりゃ美味えや。」


「・・・興覇・・・。」


甘寧の方を身ながら周泰が話しかける。


「あん?」


「・・・少し・・・。」


そう一言だけ言うと甘寧は意を察したのか酒の入った瓶を周泰に手渡す。


「あいよ。お前さん少しは喋った方がいいぜ。俺じゃなかったらたぶんわかんねえぜ。」


「・・・そうか・・・?」


今度は微妙にアクセントが違う。


「ああ、そうだ。」


「・・・そうか・・・。」


「はあ・・・お前さんに言った俺が馬鹿だったわ。お前はそれが一番似合ってる。


それで良いんだろ?」


「・・・そうか・・・。」


「もういいわ。それよりどうだい?酒の味の方はよ。」


「・・・美味い・・・。」


今までの中で一番力強くそう言ってみせる。


「だろ?この甘興覇のお気に入りだからな。美味くて当然だ。」


ニヤニヤしながら酒をグイッと飲み干す。


「頭〜〜〜〜〜!!!!!!!!」


大慌てで先程の下っ端らしき人物が叫びながら走ってくる。


「ん?どした?」


「突撃した野郎達が全滅したとの報告が・・・。」


「ほう・・・。」


「あちら側の四人はこちらの船へ向かっているそうです。」


「そうか・・・よし!!!」


「・・・興覇・・・?」


「手厚い歓迎をしてやろうじゃねえの。強者にはそれなりの対応をしないとな。


他の者には一切手出しをさせないよう伝えろ。俺と幼平が直々に相手をしてやるぜ。」


「・・・珍しいな・・・。」


「そうか?久々に楽しい戦ができそうだ。」


「・・・ああ・・・。」


「迎えの者を出せ。あちらさんをそのままにしたら強硬突破してきそうだからな。」


「わかりました!!!それでは失礼しやす!」


「そんじゃ・・・行くか!!」


この2人の実力とは如何程なのだろうか?


それはもう少し後でわかる事だ。

























時は少し戻る。


シンジ達はちょうど襲撃してきた甘寧の手下を倒していた。


「殺ったの?」


孫尚香はちょうど自分の足元に蹲った男を指差してシンジに訊ねる。


「いや、どうもこっちを殺そうとはしていなかったから、気絶させただけだよ。


それよりさ。」


小屋の壁が一部ポッカリと穴が開いて、そこからちょうど良くあるものが見えている。


シンジの目線はそのあるものを見ている。


「シンジの良いたい事はわかりますわ。」


「怪しすぎますからね。」


「あはははは・・・。」


穴の向こうにはちょうど河に浮かぶ巨大な船があった。


「あれだろうね。」


「あれですわね。」


「あれですね。」


「あれよね。」


4人の考えは見事一致していた。


まあ、いきなり自分達が襲撃されて、こんな街も何もない所にあんな巨大な舟が


あるとなっては、疑わないわけがない。


「じゃ、行きますか。」


孫尚香が一番先に向かう。


ここまで来たら危険も承知なのかな?3人とも。それとも・・・


「ほらシンジ行きますわよ。」


シンジの頬をペチペチと叩きながら微笑む。


どう見ても今から戦地に赴く女性の顔ではない。


他の2人は先に船に向かっているようだ。


「ねえ・・・。」


「どうかしました?」


「何で・・・もしかしたら死ぬかもしれないのに、皆そんな簡単に危ないところに笑顔で


進んでいくの?恐くはないの?死ぬかもしれないんだよ?いや、もしかしたら死ぬより


辛い目に遭うかもしれないのに・・・。」


シンジはそれがどうしようもなく気になっていた。


「確かに恐怖もありますわ。でも・・・」


「でも?」


「それ以上にシンジを信じてますもの。それは私だけじゃありませんわ。きっと他の


2人も私と同じ想いだと・・・そう思います。そう、まだ会って数日の尚香もあなたの事を


信頼しています。あなたには人を惹きつける何かがあり、そして私達に安らぎを与えて


くれます。この様な答えじゃご不満かしら?」


「ううん・・・ただ頑張らなくちゃってさ。凄い重圧だからさ、そこまで信頼されてると


知っちゃったらね。」


こんな僕を必要としてくれてるんだ。今度は・・・今度は絶対に守り通そう。


彼女達の心を、体を、その幸福を。絶対に途切れさせたりはしない。


そして、シンジは少しだけ困った感じの混じった、笑顔をする。


「ええ・・・頑張ってくださいな。」


会話が終わる。


そして静かに2人は走りだした。


戦はもうすぐそこまで迫っているようだ。

























とある場所でも波乱が起きていた。


非常に神秘的な場所だ。


庭のような場所。


小さな池があり、綺麗な蓮が何個も浮かんでいる。


そして、その奥には豪勢な建物があり、その近くの豪勢な椅子に女が座っており


近くには初老の男が立っていた。


「あなた様はいつもいつも何を考えておられるのですか!!?」


「あ?何がだ?」


「あの様なゴミは早く駆除すべきでしょう!!」


「ゴミ?ああ・・・あいつの事か?」


「そうです!!それに悪戯に仙人達を放っておいたから色々な害も生まれたでしょう!


以前の教訓を活かし、大木になる前に芽を狩っておくべきです!!」


「でもよぉ・・・それじゃ面白くねえじゃねえか。」


「面白い??あなたは何を考えてらっしゃるのです!!面白いかどうか等は二の次。


今は下界の人々の安泰なる暮らしを先決すべきでしょう!?」


「おい・・・知ってるか?」


「何をです?」


「この世で一番恐ろしい感情って何か・・・知ってるか?」


「・・・愛ですかな。最も変化しやすく壊れやすく作りやすく騙しやすい。


故に恐ろしい化け物にも見えてくる。違いますか?」


「ああ、全然違うぜ馬鹿。」


「ばっ・・・・馬鹿とは何ですか!?では一体何だと言うのですか!?」


「バーロー『退屈』に決まってんだろう。」


「『退屈』・・・ですか?」


「おうよ。『退屈』ってのは恐いぜ〜〜。飽きとは全然違う。全てに無気力になるんだ。


慣れちまってな。俺達は慣れれば慣れるほど退屈になっていく。そして、俺みたいに無駄


に長生きしてると慣れが当然の様に付き纏う。すると、ある日を境に全てが『退屈』に


変わったんだよ。刺激がねえ。刺激がねえとどうなる?成長が止まる?んなもんじゃねえ。


生きれないんだよ。そこにいるだけの存在。そうなっちまう。俺は今ここにいる。


そして生きている。だが、安泰な世の中が訪れて何も起きなくなったら俺には『退屈』が


襲ってくる。するとどうだ。俺はここにいても、それは生きちゃいねえんだ。


ただここにいて、ここに座っていて、ここで息をしていて、ここで心臓を動かして


ここで何かを見てる物体になるんだよ。つまりそれは俺じゃねえんだ。」


「・・・」


「さあ・・・俺をもっと楽しませろよ・・・碇シンジ。あいつらを思い出させるぜ。


あの4人を・・・。さあ、もっともっと悩めよ。お前は最高だ。安心しろよ。


碇ゲンドウなんかにゃお前の大切なものは奪えはしない・・・。なんたってよ、お前の


後ろにゃ神様がいるんだからな・・・。そう思うだろう。」


その言葉が終わる瞬間、初老の男の横に男が現れた。


「なあ・・・零壱。」


「相変わらずだな。観世音菩薩・・・。」


「当然だろう?俺を誰だと思ってんだよ。カ・ミ・サ・マなんだぜ。」


「神様ねえ・・・。俺にはそうは見えないが・・・。」


「ほう・・・。神を冒涜するのがどれ程愚かな事か、その身に教えてやろうか?」


「・・・遠慮する。」


「解ればいいんだよ。第一あの剣だって、碇シンジ専用の剣として俺が直々に作って


やった世界でたった一つの剣だぜ。折れる事もないし、刃毀れする事もない。


さらに持ち主まで選ぶと来た。漫画にだってこんな都合の良い剣はねえよ。」


「全くじゃ。色々と無茶をして・・・。」


老人も微妙に会話に入ってくる。


「しかも、その剣の名前のセンスもまた抜群じゃねえの。『虹綾』あいつが昔好きだった


女の名前を剣の名前にもする。流石は慈愛と慈悲の神だと思わないか?なあ?」


((そういうのを野暮っていうんだろうな・・・))


二人の考えはシンクロしていた。


「・・・何か腹立つな。」


「気にするな。」


そう言うと零壱は消えていた。


まだここが何処だかいってなかったようだ。


ここは天界・・・。


仙人界の更に上・・・神達が住む世界。


そこにいる零壱。


彼の正体とは・・・その謎はいつか解けるだろう。


この物語が途切れない限りは・・・。






To be continued...

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