違う場所で 〜三国の歴史〜

第二十話

presented by 鳥哭様


上空で対峙するのは人外の力を持つ二人。


いや、二人と一匹か。


「なるほど・・・それがATフィールドですか。」


申公豹は自分の攻撃が全く効かなかったのに、動じる気配は全く無い。


それどころか少しばかり気分が高揚して来てる様にも見える。


何度も手を握っては開くを繰り返し、自分の今の力がどれ程なのかを確かめているようだ。


「これが結果よ!!無能なのはあなたの方って事ね。」


ミサトはそう言い放つと申公豹目掛けて銃を乱射する。


「申公豹、あの弾も赤い壁で包まれてるようだよ。」


黒点虎の言うとおり、ミサトは銃弾をATフィールドで包み込んでいる。


つまりかわす以外に攻略方法はない。


黒点虎は銃弾を難なく避けきる。


「さて・・・もう少し出力を上げますか・・・。」


雷公鞭が激しく光を放ち、申公豹の体を雷が取りまとう。


「さあ見せなさい!!使途の力をね!」


先程と比べると段違いの雷がミサトを襲う。


普通の人間なら塵すら残らずに消えるだろう。


だが使徒には生半可・・・いやどんな強大な力も通じないはずだ。


あの赤い壁がある限りは。


「無駄よ。私はこの世で2番目に強い人間。そしてこの世の女の頂点に立つ人間。


それが私『葛城ミサト』なのよ!!」


眼が血走り、鼻息も荒くなり極度の興奮状態の中何も考えずに銃を撃ちまくっている。


もう銃弾は出ずにATフィールドの弾丸が飛ぶだけだ。


だが黒点虎は全ての銃弾を首の皮一枚程度の距離でかわしている。


全く自分のバランスは崩さずに、逆にいつでも相手に反撃できる姿勢で。


「どうするのさ申公豹。これじゃ埒があかないよ?」


黒点虎の言うとおりだ。


持久戦に持ち込むのも手かもしれないが、もし葛城ミサトがS2機関を持っているとしたら


負けるのは自分の方だ。


そんな賭けをする気にはならない。


「なんで当たらないのよ!!当たりなさい!この!!!この!!!!この!!」


ミサトは何の戦略も立てずにただ我武者羅に銃を乱射するだけで、別の方法を一向に


使おうとしない。いやおそらくはこれしか思いつかないのだろう。


顔は醜く歪み、血管が浮き出ている。


今にも切れそうである。


「あの女の人五月蝿いね。」


「そうですね。」


銃弾を避けている最中にもかかわらず普通に会話するあたり、この2人?の実力を


物語っているのだろう。


「でもさ・・・」


「何です?」


「申公豹が本気だせばあの程度の雑魚瞬殺でしょ?実際楊ゼンの宝具だったら一瞬だし


太公望や聞中、太上老君の方が全然強いじゃないか。」


「確かにそうなんですが・・・下に彼等がいるから全力ではやれませんよ。


私が全力を出したらこの程度の結界無いのと同じですからね。」


黒点虎は確かに最強の霊獣かもしれない。


だがそれでも申公豹の力はそれを遥かに上回っているのだ。


「ごめんよ・・・。」


「あなたが謝る事じゃありませんよ。それに別に私が本気を出さなくてもいいですしね。」


そう言うと雷公鞭の光が徐々に増していく。


先程までの雷の光ではない。


ただ純粋に雷公鞭が光を放っているのだ。


「雷公鞭の真の姿を見せてあげましょう・・・。」


だがミサトにそんな声は聞こえていない。


ミサトは意味不明の暴言を吐き続けひたすら銃を乱射している。


見苦しい事この上ない。


口元から唾を吐き出し、さっきより顔の血管は浮き出てきている。


正に化け物と呼ぶに相応しい格好だ。


「見せましょうか。これは太上老君が本家本元ですが・・・私にもできますしね。


さあ雷公鞭よ!!その真の姿を現せ!!雷と蜘蛛を象る武器となれ!!」


物凄い光と共にアイスクリームの様な形が微妙に変化する。


アイスクリームの先から長い長い茶色の糸が何本も垂れ下がっていくのだ。


そしてアイスの様な部分には蜘蛛の絵が浮き出ている。


「これが雷公鞭の本来の形・・・その名は『雷光蜘』といいます。」


真の姿・・・これについても後々明らかにしていこう。


「さあ、蜘蛛が吐き出す雷の糸・・・その身に刻みなさい。」


申公豹が雷光蜘を掲げるとその真上に蜘蛛を象った雷の塊が生まれていく。


「これを使うのは初めてですので・・・手加減は一切出来ません。」


「ねえ申公豹?」


非常にマイペースな声で申公豹の台詞を止める。


「大丈夫なの?そんな強力な力を使ったら下の人たちにも被害が・・・。」


確かにその通りだ。


今出来ている雷は先程とは比べるのも馬鹿らしいほどの強力な雷なのだから


黒点虎が心配するのも無理はないだろう。


「心配無用ですよ。この『雷光蜘』は一点で雷を収束するものです。『雷公鞭』を多数の敵


に対して使う最終兵器とするならば、この『雷光蜘』は1対1で力を発揮する最強の


武具となるのです。まあ、多少眩しいと感じる事はあるかもしれませんが死んだり何だり


にはなりません。」


一方ミサトは先程から未だに申公豹に向けて銃を撃ち続けている。


そして黒点虎は先程から全くその銃弾を避けていない。


じゃあなぜ当たらないのか?


ミサトが幾ら無能とはいえ、銃の腕前だけは一流だろう。


そして彼女は先程から申公豹目掛けて撃っている。


避けないのになぜ当たらないのか?


答えは簡単だ。


届いていないからだ。


申公豹の雷光蜘でできた雷の蜘蛛の足が申公豹と黒点虎を包み込んでいる。


そして、その雷の障壁によりATフィールドの弾丸は消滅しているのだ。


これが何を意味するのか?


そうATフィールドはこの雷の前に敗れ去るという事だ。


「終わりです!!」


申公豹が雷光蜘を振り下ろす。


その瞬間に蜘蛛はミサト目掛けて物凄い勢いで這って進む。


「ぎゃ・・・ぎゃあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


断末魔の悲鳴が空の上で轟いた。


だが申公豹は止めを刺したはずが渋い顔をしている。


何故なのだろうか?




















一方こちらはシンジの戦い。


「やるのう小僧!!だがまだまだじゃ!!」


黄忠は老人とは思えない程快活な攻撃をしてくる。


近距離は剣で遠距離では弓の攻撃とどちらも厄介なのである。


さらには黄忠に隙が出来たとしても、それを補助するように的確に攻撃してくる魏延も


厄介な事この上ない。


野生児のような柔軟な攻撃で予想外の体勢から予想外の一撃を加えてくる。


二人ともかなりの力量を持った者だ。


確かに二人とも強いね・・・。でも僕には解る。僕がこの二人に負けることは無い。


『力』が漲っている。これが『僕』の言っていた力か・・・。


悪くは無いね・・・。これで大切な人たちを守れるのなら。


「くらえ小僧!!」


黄忠がこちらに目掛けて矢を3本同時に放ってくる。


こっちはフェイクか・・・。わざと大声を上げたな。本命はさっき気配を経って空に


放った矢の方か。


シンジは冷静に戦況を読み上に薙ぎ払う要領で剣を振るう。


ただその剣の振るうスピードはかなりの速さだ。


風圧で矢を弾き飛ばす。


「なんと!?」


だがその上に薙ぎ払って隙の出来た所に魏延が飛び込んでくる。


「・・・クラエ・・・。」


両刀を使い回転しながら突っ込んでくる。


それに対してシンジは振り上げた刀を思いっきり振り下ろす。


その一撃で床を破壊する。


魏延はその時飛び散った木片で一瞬怯む。


シンジは怯んだ隙に魏延を思い切り蹴り飛ばす。


「ガッ!!」


魏延は吹っ飛びはしたが、すぐさま受身を取り追撃は許さない。


これで一旦戦闘に区切りがつき、両者の睨み合いに入る。


(やはり見るより戦うに限るわい。この男の下で剣を振るい、弓を放つ。考えただけで


疼きが止まらんのう。韓玄を見限って正解じゃったわ。)


ちなみに韓玄というのは黄忠と魏延の元頭首です。


(・・・強イ・・・面白イ・・・。)


魏延もシンジに好印象?を抱いているようだ。


だが魏延は基本的に好戦的なので、シンジを最初見たときは「・・・殺す・・・!」だの


何だの言って左慈を悩ませていたのはまた別の話。


あの老人も苦労しているようだ。


「そろそろ行くよ。」


静かにシンジが告げる。


シンジの刀が一瞬光り、シンジはその場から消える。


実際には消えたのではなく、移動しただけだがあまりの速さに消えたようにしか見えない。


しかも『力』に覚醒している状態なのだから何時もよりも速さは上だ。


「ソコカ・・・!」


魏延は素早く体を後ろにずらす。


「ウグッ・・・」


間一髪だった。


先程まで魏延の顔があった位置にシンジの足があった。


シンジは一瞬で距離を詰め、さらには魏延の顎目掛けて蹴りを放っていたのだ。


しかもかなりのスピードと重さの蹴りだろう。


掠ってもいないのに魏延は痛みを感じている。


「・・・ナンダ?・・・コノ蹴リ・・・強イ・・・」


魏延は今までに出会った事の無い域の相手に少しばかり戸惑っている様子。


「ぼさっとするでない!!!!次が来るぞい!!!」


黄忠が魏延を怒鳴りつける。


その怒声に魏延は我に返る。


魏延は自分のすぐ横にまで何かが迫るのを感じた。


剣の鞘が自分目掛けて迫ってきているのを・・・。


だがそこは流石なのだろう。


それをしゃがむ事で何とか避けると、そのままシンジに向かって体当たりをする。


シンジは避ける事ができずに、そのまま倒れるがその反動を利用して魏延の腹を力一杯


蹴り飛ばした。


「ンガ!!」


背中を強打して悶絶する魏延。


それを放って置くほど今のシンジは甘くない。


魏延の胸倉を掴んで無理矢理立たせる。


蹴られた時に武器を落としてしまい、反撃されても致命的な一撃を入れられることは無い。


苦しそうに呻く魏延の水月目掛けて思いっきり拳を叩きつける。


その一撃で魏延は沈黙した。


ドサッという音と共に魏延は床に転がり残るのは黄忠一人となった。


「さあ、どうするの?」


圧倒的な威圧感の篭る眼差しが黄忠を射抜く。


「ま・・・まだじゃあ!!!!!!!!」


まだ戦いは終わらない。




















こちらは会話に一段落ついているようだ。


「・・・ふむ。話を聞いてなんとなくは理解できたな。」


老人・・・いや左慈は何かを確信したかの如く、ゆっくり頷く。


3人の美女はそれを見て、意味深な行動にどう対応していいか解らない様子だ。


「小生の目は間違ってはいない様だ。御主等に問う。御主等はこれからも彼と共に


乱世の世を邁進するのか?それとも見限り・・・乱世の渦に呑まれ息絶えるか?」


左慈は先程から彼女達を試すような口振りで語っている。


「質問にすらなっていませんわ。」


甄姫は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに首を大げさに横に振る。


「私達が選ぶのは前者の方。」


貂蝉が迷いの全く無い澄んだ声でしっかりと宣言する。


「ふむ・・・健気な女子よ。乱世には珍しい一途さよ。呉の姫よ・・・。」


「何?」


「・・・あまりこういう事を言いたくはないが・・・挫けるでないぞ?」


老人は悲しそうに彼女の方を見つめる。


「何の事?」


孫尚香には一対何の事なのか検討がつかない様だ。


「後数日で連合軍による董卓の討伐が行われる・・・。当然それには孫文台も出向く事に


なるであろう・・・。その戦で恐らく御主の近しい者の誰かが死ぬ。」


この老人は一体何を見て、何を考えているのだろう。


何故未来の事が解るのだろうか?


ただの予測?いや違う。


彼の纏う雰囲気がそれを語っている。


「・・・信じられないわ。」


「まあいい・・・。力というのも難儀な物。小生の持つ力等は特にな・・・」


会話が少しばかり途切れる。


「・・・そろそろ時間か。ではまた会おう。乱世の大器を彩る花達よ。


小生の名は左慈。乱世の終末を願う者だ。」


そう言い残すと左慈の姿が消える。


まるで先程からそこに何も無かったように・・・。


だが彼女達は気づかなかった。


左慈がいなくなったのと同時に現れた男に・・・。


その男こそ、これから幾度と無くシンジの前に立ちふさがる障壁となり得る事に・・・。




















上空は先程の死闘が嘘の様に静まり返っていた。


「取り逃がしましたね。」


申公豹が忌々しそうに雷光蜘を振るう。


「でも確実に当たったと思ったけど・・・。」


黒点虎はボソッと呟く。


「恐らく『ディラックの海』を使って逃げたんでしょうね・・・彼女も無能ではあるが


馬鹿ではないようです。」


「ただの牛じゃなかったんだね。」


黒点虎・・・中々の毒舌のようだ。


「まあ、いいでしょう。次に会った時は確実に殺しますから。」


かなり恐い事をサラッと言ってのける。


「でも少しばかり不味いですね・・・。」


「え、何が?」


「あの男が碇シンジと接触します。」


申公豹は本当に苦虫を噛み潰したように顔を顰める。


彼らしくない表情だ。


いや本人もこんな表情をするのは初めてだろう。


「あちらは私達が碇シンジに干渉できないのに気づいたようですね。だから今のうちに


碇シンジを殺すつもりですか・・・しかも左慈も既に去った後、拙いですね。」


「どうするのさ?その人も結構逝っちゃてるんでしょ?さっきの牛みたいに。」


黒点虎・・・本当に毒舌の様だ。


もしその台詞をあの女が聞いたら、あのカレーをご馳走になる事だろう。


人類史上最強(最恐?) にして最悪の兵器である。


あれを食べて平気な人間はいない。


いや平気な生物はいないの間違いであった。


「あれより数倍タチの悪いですね。ん?・・・どうやら心配は気鬱そうですね。」


申公豹はある事に気付くと、何時もの薄笑い気味の顔に戻る。


黒点虎は目を点にして首を傾ける。


「でしょ?竜吉公主?」


申公豹の目線の先には船を見下ろす美女がいた。






To be continued...

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