違う場所で 〜三国の歴史〜

第二十一話

presented by 鳥哭様


「ぐはっ・・・ゴボァ!!」


シンジに脇腹を蹴られ吐血する黄忠。


「もう降参ですか?」


シンジは未だ赤目のままで興奮状態から覚めておらず、酷く好戦的だ。


だが、シンジの一言により戦意を失う黄忠ではないだろう。


「まだまだぁ!!!!年寄りと思って舐めおって、この若輩者があ!!!」


黄忠が叫ぶと同時に弓を放つ。


残り弓の数は10本・・・それら全てを避けきれば、もう近距戦以外の戦う方法はない。


なら全ての弓が使うまで遠距離で防御に専念するかな。


黄忠は放った弓を刀で叩き落としながら、戦術を練っていく。


(それにしても何て奴じゃ!!わしら二人を相手にして息一つ切らしておらんとは。


行く末が楽しみで仕方ないわい・・・。)


本当に嬉しそうに戦う二人。


だがそれも長くは続かなかった。


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!


船上にいた全員が吹っ飛ぶ。


いきなり船が爆発したのだ。


「フハハハハハハハ!!!!!!」


何処からともなく声が聞こえてきた。


紫の服で身を包んだ男がシンジの前に突然現れる。


「私の名は司馬仲達・・・『唯』の軍師をしている者だ。」


不敵な笑みを浮かべて、シンジの前に立ちふさがる。


そしてその男の横にはサングラスをかけ、相変わらず髭の濃い男が立っている。


「と・・・父さん!!??」


碇シンジが大声で叫ぶ。


そしてシンジが叫ぶのと同時にシンジの頬を銃弾が掠める。


「貴様が俺を父と呼ぶな。役立たずめが・・・。」


シンジを見下すように威圧している。


この男こそ碇シンジの父親である『碇ゲンドウ』なのだ。


「殿・・・時間がありませぬ。そろそろ行きましょう。」


司馬懿がゲンドウにそう呟く。


「殿か・・・そう呼ばれる日は近いか。まあいい。」


口の端を歪めるゲンドウ。


正に邪悪な笑みだ。


「貴様はここで死ね。連れの女を殺すのは惜しいが、クズの御手付きなど抱く気には


ならん。一緒に死んでもらおう。」


そう言うと右手の親指を立て、それで首を掻っ切るよくあるジェスチャーをする。


何とそれと同時に船が炎上し始めた。


さらに風の影響で火の回りが速すぎる。


「では・・・殿の愚息よ。縁があればまた会うこともあろう。」


司馬懿は高らかに笑い、ゲンドウは終始邪悪な笑みを浮かべながら消えた。


そうディラックの海だ。


だが一体誰がこの海を開けたのだろう?


少なくともこの2人ではない。


使徒化をしなければ、この海は開けない。


葛城ミサトでもないだろう。


彼女は申公豹との戦いでしばらくは戦線に復帰はできまい。


つまり最低でも後一人、使徒化した者がいるという事だ。


申公豹でもそこそこ苦戦したのだ。


たかが人間風情が敵う筈も無いだろう・・・。


おっと話が逸れたようだ。


現状に戻ろう。


「海に飛び降りるんだ!!!!!!!


シンジがそう叫ぶ。


多少手荒にはなるが、黄忠を抱え挙げる。


「何をする気じゃ!?小僧!!」


「何って・・・こうするんですよ!!!!!!」


黄忠を思いっきり投げ飛ばす。


「な・・・・何じゃ〜〜〜おおお〜〜〜〜〜〜おおおおお!!!!!!!!!」


綺麗な放物線を描きながら黄忠は海に落ちた。


「・・・グ・・・。」


さっきシンジにやられた魏延が黄忠の叫び声で意識を取り戻す。


「早く飛ぶんだ!!!!!!!魏延!!!!!!!」


「・・・飛ブ・・・?・・・何故・・・。」


魏延は全然状況を理解していない。


時間が無い!!もう仕方ない・・・手荒だけど。


シンジは魏延を掴むと黄忠と同じ様に投げ飛ばす。


「ウガ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


魏延が出したとは思えないほどの大声と共に魏延も海に落ちていった。


「沖からまだそんなに遠く離れてない!!急げ!!海に飛び降りろ!!」


シンジは大声を挙げながら船上を駆け回る。


途中でまだ意識のない甘寧を担ぎながら海に飛び込む水賊達がいた。


とりあえず甘寧は無事避難できたようだ。


さらにその先には甄姫達の姿があった。


「甄姫!!大丈夫!?」


甄姫は脇腹を押さえながらシンジの方に寄ってくる。


「ええ心配いりませんわ。さっきの爆発で少し強く打ってしまっただけです・・・って


シンジ!!一体何をするのですか!?」


甄姫が顔を赤くしながら叫ぶ


シンジは甄姫が抑えていた部分の服を破き骨折していないか確かめたのだ。


彼女は自分の素肌が見られるのが恥ずかしいのかずっとモジモジしている。


「良かった・・・骨に以上は無いね。内臓も痛手は負ってない。」


自分でも何故こんな事が解るかはわからなかった。


だがそんな事、今はどうでもいい。彼女が無事なのだから。


だがそれと同時にシンジはある事に気づいた。


「貂蝉と尚香は?一緒じゃなかったの?」


「・・・え?ああ、えっと貂蝉はさっきの爆風で海に落ちてしまって。」


モジモジしていたのから再起して話し出す。


「何だって!?貂蝉はじゃあ・・・」


シンジは無力感に苛まれる。


自分はまた大事な人を守れなかったのだから。


「シンジ、話は最後まで聞いてくれませんかしら?彼女は海に落ちましたけど意識は


はっきりしていましたし、無傷だったので先に沖の方に避難しましたわ。その時に水賊の


周泰も一緒だったから心配はないはずですわ。敵ではあれども彼は下劣ではありません


から。」


シンジはこの時少しだけムッとしていた。


彼女が自分以外の男の事を喋る。


しかも好印象でだ。


そんな事は今まであまりなかった。


この気持ちを人は嫉妬という。


だがシンジがこの気持ちに気付いてはいない。


彼の心はまだ壊れたままなのだから・・・。


「それじゃあ尚香は?」


途端に甄姫の顔が暗くなる。


「それが・・・あの時の爆風で逸れてしまって。恐らく海には落ちていないはずですから


少なくともまだこの船の中の何処かに・・・」


「わかったよ。甄姫は先に沖の方へ避難を、僕は尚香を探す。」


「駄目ですわ・・・と言ったところで聞く男でもありませんわね。」


(まあ、そういう所に虜にされてしまったのですけどね・・・。)


「気をつけて・・・。」


「うん・・・。」


本当に自然な流れだった。


辺りが炎で燃え盛る中、二人とも体が勝手に動いた。


甄姫がその綺麗な手で彼の頬を撫で、シンジも同様に彼女の頬を撫でていた。


そして、二人の顔が近づき一瞬だけ唇が触れ合った。


シンジは自分が彼女に相応しくないと思っていた。


だから今まで彼女の事を家族と思ってきた。


だが心の底では彼女を求めていたのだろう。


それが今この場所で表面化したのだ。


もしかしたらこれが彼女との最後の別れになるかもしれないのだから。


頂角との戦いで死というものを徹底的に叩き込まれた。


これも一つのトリガーだったのだろう。


「それじゃあ・・・」


「ええ・・・」


甄姫は振り返ると海に飛び込んだ。


シンジはその姿を見る事はせず、燃え滾る炎の中新しくできた大切な人を探しに行った。

























木箱が何個も積まれてる場所で女が寝ている・・・いや気絶している。


「ううん・・・」


どうやら起きたようだ。


「あれ?私確か・・・そうよ!!シンジの所に・・・って燃えてる!?」


孫尚香の周りは炎が燃え上がり、とてもじゃないが身動きができない。


(でも私なんでこんな所に?そうよ!左慈っていう人と話してていきなり消えたと


思ったら、その後いきなり船が爆発して・・・その時にここに落ちたのね。)


孫尚香が天井を見上げるとポッカリ大きな穴が空いていた。


それは自分が落ちた穴だとわからせるには充分だった。


(さて・・・このままここに残ったら焼け死ぬ。かといって出る方法もない。)


「終わり・・・なのかな?」


打つ手なし。


そんな状況だ。


孫尚香は膝を抱え蹲る。


(まだ20年も生きてないのに・・・武芸以外の事だって最近やっと挑戦しようと思った


ばっかりだったのにな。諦めたくは無いけど・・・もう何もできない。上の穴までは


飛んで行ける高さじゃない。周りは火の海・・・後は焼け死ぬのを待つだけか。)


「シンジィ・・・恐いよ。」


彼女の声は届くのだろうか?


きっと届くであろう。


(シンジ来てくれるかな?無理だよね・・・会ってまだ少ししか経ってない、しかも初対面


は最悪だったし。あの2人みたいに女らしくもない・・・私じゃ・・・やっぱり。


せめて想いだけでも伝えたかったな。)


彼女は泣いていた。


だがその涙も炎でもう少し経てば蒸発する。


そうもう少し経てば彼女自身も・・・。


「シンジィ・・・。」


(初恋・・・なのよね。)


自分が今最も会いたい人の名前を何度も何度も繰り返している。


泣きながら何度も何度も・・・。


耳に聞こえるのは自分の声と燃え盛る炎の音のみ。


孤独と恐怖が渦を巻きながら彼女を襲っている。


ただ待つしかできない。


自分は非力。


守られる立場じゃなく守る立場になりたくて、自分は何年も武芸の稽古をしてきたのに


自分は結局今この状況では何もできていない。


それがどうしようもなく悔しかった。


そして苦しかった。


(父様も兄様も・・・今頃私の事探してるのかな?考えれば私ってシンジに


助けられてなかったら今頃・・・やっぱり女の私が守る立場になるなんて無理なのかな?


ねえ・・・シンジィ教えてよ。可笑しいよね。まだ会って数日しか経ってないのに


兄様達より最後はシンジと会いたいなんて思ってる。そんなに彼の事私思ってたのかな?)


「もう苦しいよ・・・。」


大量の煙が辺りを充満し始め孫尚香も意識が遠のき始めていた。


その時だった。


(尚香・・・)


何処からともなく声が聞こえてきた。


「この声知ってる・・・。誰だっけ?」


意識が朦朧として、声の主が解らない。


(そう・・・もう聞くことはないと思っていた声。そうだ・・・)


「権・・・兄様?」


その声は死んだはずの孫権だった。


(尚香、お前はそんな奴だったか?いつも兄上に負けない様に何度転んでも挫けなかった


あの時の負けん気の強さは何処にいった?)


(はは・・・権兄様の声が聞こえるって事はもう私死んじゃったのかな?)


(死ぬ?尚香何を言っているのだ。お前はまだこっちに来るな。お前が生きている事を


望む者がいるだろう?我ら兄弟以外にもな・・・。)


彼女には死んだはずの兄が何を言いたいのか何となく解った。


「権兄様・・・ずっと見守っててくれたんだ。」


(尚香よ・・・我ら兄弟。死のうとも常に見守っているぞ。お前はまだ死ぬな。


生きろ!!お前はたぶん・・・呉の姫としては生きていかないかもしれない。


だがそれもお前の生き方だ。自分を信じろ・・・尚香。)


「そっか・・・でも私一人じゃどうしようもないんだよ権兄様。」


(さっきも言っただろう?お前に生きて欲しいと願っている者がいると。


自分だけじゃない他人も信じろ!!お前は強い・・・体だけでなく心もな。


俺は武運尽きて体は朽ちはしたが・・・魂までは朽ちはせん!!!


尚香生きろ!!自分の道を・・・武人としてでも良い、女としての道もまた趣き深いかも


しれんな・・・さあ、そろそろ別れの時だ。お前を必要としている男がそろそろ来る


だろう・・・達者でな。武運を祈る!!)


「権兄様・・・ありがとう。」


孫権の声が遠ざかっていく。


そして孫権の言ったとおりにあの男が来たのだ。


「尚香!!!!」


天井の穴からシンジが飛び降りてきた。


「しっかり掴まっててね。落ちないように。」


そして孫尚香を抱えるとすぐさま地を蹴り、また上の穴へ向かって飛ぶ。


シンジの常人外れの脚力なら届いてしまうのだ。


「シ・・・シン・・・ジィ・・・・ぐす・・ヒック。」


(嬉しい。来てくれた・・・本当に来てくれた。権兄様・・・ありがとう。権兄様は


この事を私に伝えようとしてたんだよね?)


シンジの腕の中で生きている間はもう見ることはないであろう兄の姿に感謝を捧げる。


孫権。


彼は本来、あの様な末路を辿る筈ではなかった。


その元凶は碇ゲンドウ・・・いやあるいは碇シンジ?


それは誰も解らない。


おっとこんな話をしている内に二人は船内から甲板にまで飛んできたようだ。


「火の海か・・・。」


周りは船内よりも激しい炎で燃え盛っていた。


シンジの跳躍力でも、その炎の壁により焼け焦げてしまうであろう。


「シンジ・・・ごめんね。私のせいで・・・私の。」


シンジの腕の中でより一層泣きじゃくる尚香。


自分がこの少年の重荷になっている事が彼女には何より辛いのだ。


シンジは泣きじゃくる尚香を宥める為に彼女の頭をゆっくりゆっくり撫でてあげた。


そしてシンジは異変に気付いた。


自分の手の甲が濡れているのだ。


「雨?」


シンジの予想は当たっていた。


ポツリポツリと雨が降って来ていた。


でもこの程度の雨では炎は消えない。


シンジがそう思った瞬間に雨は豪雨に変わった。


シンジは尚香を抱きしめながらその不思議な光景に唖然としていた。


さっきまでは火の海だったこの甲板からみるみるうちに火が消えていくのだ。


普通の雨ならこんな事はありえない。


わずか数分で火は完全に消え去っていた。


焼け焦げた木の匂いを嗅ぎながら、シンジと尚香は皆が避難したであろう壊れた我が家に


向けて足を進めていった。


そしてシンジと尚香もまた知らない。


この雨を降ったのは偶然ではない事を。


雨を降らせた人物の名を竜吉公主という。


彼女の宝具は水を操る。


まあ彼女については次回にでも語るとしよう。


今は全員が無事生還できた奇跡に体を預けて少しの間休むとしよう。


これから先の激戦に向けて力を蓄えるために・・・。






To be continued...

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