違う場所で 〜三国の歴史〜

第二十二話

presented by 鳥哭様


ただ呆然と中空を見る申公豹。

その様は平時の彼のものではない。

「申公豹?」

大河を眼下にしながら、黒点虎が主に問いかける。

「ああ・・・すいません。少し考え事をしていましてね。・・・ふう。

ところで、公主。あなたが出てくるとは以外でしたね。」

いつもの調子に戻り、いつのまにか背後にいた女性に語りかける。

「そうか?まあ・・・そうかもしれんな。」

艶のある黒髪を膝下まで伸ばし、体の周囲に水泡を纏った美女もまた

何処か物憂げな態度で答える。

「まあ、しかし大事に至らず済んで幸いでしたね。死者もなく、水賊の船が

炎上しただけ、まあでき過ぎでしたね。」

そう言うと、全員が地上を見下ろす。

蟻みたいに小さい人達が河口にいるのが確認できる。

「・・・申公豹。太上老君と王天君が曹操と接触を図っておる。そして董卓の

討伐も間近に控えておる。この先どうするつもりじゃ?」

「そうですね。今日の夜にでも、私が彼に接触します。」

「して・・・どうする気じゃ?」

一呼吸置いて、申公豹が答える。

「今回は董卓討伐。二喬の奪還。これを同時に実行するのは不可能です。」

そう。現在、二喬はゲンドウの指示により、董卓のいる洛陽ではなく

そこから離れた場所に向かわせているのだ。

今、シンジ達のいる場所から、洛陽まではおよそ馬で10〜15日程かかり、

二喬がいる場所までは馬であれば半日で着く。

身体への負担を考えるとあまりにも酷である。

「それを知った上で聞いておるのじゃ。」

公主がそう言い、厳しい視線をむける。

「今回は二喬の方に向かわせたいと思います。」

やはりといった様子で公主も頷く。

「まだ早いか・・・。鬼との対面は。」

鬼、そうそれは。

「ええ、呂布との対面は危険です。二喬奪還なら命の危険もさほどないでしょ

うし。」

「わしもその意見には同意する。」

そう言って彼女は踵を返した。

「御体大丈夫ですか?」

申公豹が問いかける。

彼女にとって人間界の空気は淀みすぎていて毒なのである。

「心配かけてすまない。」

そう一言言い残すと彼女は去っていった。

「申公豹。」

今までずっと黙っていた黒点虎が問いかける。

「何です?」

「呂布ってそんなに強いの?」

「ええ・・・勝ち目なしですね。今のままでは。」

「へえ・・・」

その後はただ沈黙が流れるだけであった。

そして申公豹は一つだけ読み違いをしていた。

呂布が十中八九、董卓の傍にいると思っていたからだ。

この事が後に波乱を呼ぶことを未だ知るものはいない。

































夢。夢。夢。夢。

そうか、またここか。

混濁した意識の中でそう思った。

「以外に速かったね。覚醒に慣れるのに。」

『僕』か。

だが今回はいつもと違った。

僕がいない。

いるのは『僕』だけだ。

いや、違う。

もう一人だれかいる。

ピエロ?奇抜な格好だな。

そう思っているとそのピエロが呟いた。

「あなたは私を知りません。でも、私はあなたを知っています。碇シンジ。」

彼がそう言うと『僕』が消えた。

今、いるのはピエロだけ。

「ゲームをしましょう。あなたの頭に直接感覚を流し込みます。それに従い

進みなさい。そこに宝物が眠っています。」

一呼吸置いた。

「見つけてみなさい。それが君に足りないもの。そう、言うなれば。」

また一呼吸置く。

「人間パズルです。」

そう言うとピエロは消えた。

言うまでもないが、もちろんピエロとは申公豹である。

少しばかり顔に特殊メイクを施し、シンジの前に現れた。

ちなみに彼、某スプラッター映画を遺跡で発掘し、鑑賞し大ファンになってい

たのだ。

他にも、色々くだらない物を見つけては遊んでいるようだ。

ちなみに彼の好きな映画はS○W、オー○ン、リ○グ、セ○ン。

・・・ホラーばかりだ。

彼の趣向は置いておくとして、人間パズル。

確かに彼の人間パズルは今足りないのではなく、ないのだ。

だから彼一人で完成はありえない。

そう彼には仲間が必要なのだ。

仲間が・・・





























碇シンジは目を覚ました。

そして思い出す。

尚香を助けた事。

水賊達も全員無事だった事。

年寄りを労われと、会ったばかりの黄忠に正座させられ説教された事。

大切な女性に無事で良かったと抱きつかれた事。

全員助かった祝いに、僕の家に何故か置いてあったお酒で宴を開いた事。

ついさっきまで殺し合いをしていた者たちと、こうやって笑いあうなんて

思ってなかった。

楽しかった。

満たされた。

今僕は幸せだ。

だから・・・怖い。

そう思いながら彼は無意識の内に駆け出した。

夢の中の事を思い出しながら。

その先に宝がある。

それは何?

わからない。

でも僕は行かなければならない。

不思議とそれは確信に近い存在として頭にある。

それは間違いない。

だからこそ行かなくてはならない。

走り出して気づく、今日の闘いの傷が癒えていないことに。

傷口からじわりと痛みが広がる。

だが、それも気にせず駆ける。

ひたすらに。

そこに助けを待っている人がいる事を彼は知らない。

だが駆ける。

胸を襲う焦燥感が彼にそれを教える。

彼がその場所につくまでは、まだ先だ。

休息もなしに、碇シンジの次の闘いの幕が開けた。

そう生死をかけた戦闘がそこにはあるのだ。

命懸けの追跡をする碇シンジ。

しかし、この15時間後、立場は逆転する。

命懸けの逃走劇が幕を開けるのだ。

そう、もう少しで・・・。

白い布地に赤い花が咲き始めていた。






To be continued...

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