違う場所で 〜三国の歴史〜

第二十三話

presented by 鳥哭様


一体どのくらいの距離を走っただろうか。

甘寧に切られた傷口から出血しているのが分かる。

いや、正確に云うと滲み出ているといった方が正しいか。

じわりじわりと鈍い痛みが腹部を刺激する。

その痛みに耐えかねてシンジは走る速度を落とす。

傷自体は酷いものでは無いが、如何せん出血してる量が

多いのか、シンジの顔色は悪い。

「はっ、はっ、はっ、はっ。」

腹を押さえながら、呼吸を荒げ、そして走る。

ただひたすら、具体的な目的も無く。

甄姫が炎上した船から帰還した後に、手当てをしてくれた

包帯を通じて白い布地を赤く染める。

苦悶の表情の中に、何かに気づいた様な素振りを見せる。

シンジの耳にか細い声が聞こえる。

「着いたのか?」

夢の中のピエロが言っていた場所はこの辺りなのか?

シンジは用心し、できる限り音をたてずに歩く。

現在、シンジは鬱蒼とした森の細い細い獣道を歩いている。

夜遅くなので生き物が活動している気配はない。

だが、この近くに人がいる。

それは確実だ。

少し歩くと小さな集落が見えてきた。

何個かの巨大なテント、奥にはかなり大きい洞窟がある。

そこには屈強な男が4人程いる。

男たちは土の上にそのまま横たわって寝ているようだ。

着きましたよ。

頭の中か、空耳かは分からないがシンジは確かにそう聞こえた。

そしてその声はあの夢のピエロであった。

「ここに一体何が?」

一見すればただの山中の集落。悪く考えれば山賊のアジトか。

まあ、後者だとは思うけどね。

でも、万が一違った場合は取り返しがつかないし。

あっちは寝てるみたいだから会話を聞き取るのも無理。

さて・・・どうするかな。

「とりあえず・・。」

シンジは忍び足で洞穴の方に向かう。

とりあえず、一番怪しいしね。

そこに何もなかったら、あのテントの中も見てみるか。

そんなことを考えている内に洞窟の入り口に辿り着いた。

中の様子を窺うため、顔だけそっとのぞかせる。

暗闇の中にぼやっと人影が見える。

目を凝らして、じっと中の様子を探る。

うっすらとではあるが、目が月明かりのない洞窟の暗さに

順応して、ぼんやりと中の様子が見える様になってきた。

どうやら中に木で作られた檻があるようだ。

そしてその中には女の子が2人閉じ込められている。

微かにではあるがモゴモゴとした声がきこえる。

どうやら口に何か入れられ、声を出さないらしい。

シンジは中に他に人がいないか確認した。

洞窟一本道で奥行きは30m程で人が隠れられる様な場所は

この位置からは見当たらない。

一度一呼吸置くと、後ろを振り返る。

山賊らしき男たちも未だ夢の中だ。

「行くか。」

自分にそう言い聞かせると洞窟の奥に歩を進める。

ゆっくりとゆっくりと奥に進んでいく。

そして檻の前に着いた。

檻の中には少女が2人いた。

目は充血し、瞼が腫れぼったいのを見ると随分泣いていた様だ。

彼女たちはシンジに気づき、体をビクッと震わせる。

「ん〜〜ん〜〜。」

足をバタつかせ、首を振り恐怖感を露にしている。

シンジはできる限り、彼女たちを怖がらせない様に片膝を着き

彼女たちと同じ目線に立つ。

「大丈夫・・・君たちに酷い事はしないよ。おいで。

口枷を取ってあげるよ。」

女の子の一人が恐る恐るこちらに向かってくる。

シンジは木の柵の間に手を伸ばし彼女の口枷を外す。

するともう一人の女の子もこちらに寄ってきた。

「はい。」

同じようにその子の口枷も取ってあげる。

「あなたは?」

最初に口枷を外した方の少女が尋ねる。

「シンジ。碇シンジ。」

するともう一人の方の女の子が問いただす。

「あなた誰?何するの?」

「う〜〜ん。とりあえずここから出してあげるね。」

実際シンジは特に意味があって、この場にいるわけではない。

夢の中の出来事に従っただけである。

だがシンジは起きた瞬間、夢の通りに行動した。

それが運命であるかのように。

シンジは抜刀し、木の柵を切り倒す。

彼女たちは、なるべく音をたてないようゆっくりとこっち側に

来る。

「あの・・・えと・・・」

どことなく子供っぽい女の子が何か言おうとしている。

「こら、小喬。ちゃんとお礼をいいなさい。

私は大喬といいます。助けていただいてありがとうございます。」

そういって深く御辞儀をする。

「しょ・・・小喬。ありがとう。」

もう一方の女の子も自分の名前を告げる。

だが、シンジの事をまだ警戒しているのか、その言葉は酷く

ぎこちない。

「詳しい話は後で聞くよ。とりあえずここから離れよう。」

そう言って、三人はまた音を忍ばせ森の中へ消えていった。















































一方仙人達の世界でも一波乱があった。

楊ゼンが仙人と妖怪達の中でも随一の実力を持った者達の

集団であり、現仙人界でもかなりの発言力を持っている

『七妖仙』を緊急召集したのだ。

暗い部屋の中に楊ゼン以外にも4人の者が存在している。

重々しい雰囲気の中楊ゼンが第一声を放つ。

「忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。

今回集まって戴いたのは『来訪者』についての対策です。」

楊ゼンがそう言うと、真っ先にある人物が口を開いた。

「もう人間界には関与しないのではなかったのか?」

重く低い声でその男は楊ゼンに問いただす。

名を聞仲という。

その纏う雰囲気が歴戦の強者だと無言で語りかけてくる。

「そういう訳にもいかないんだよね。」

緑色のパジャマの様なものを着た人物がそう答える。

楊ゼンがそれに続く。

「太上老君の言ったとおりなのです。現『来訪者』の数は前回より増えて

来ています。分かっているだけでも『碇ゲンドウ』、『葛城ミサト』

そのほかにも少なくとも2人存在していることが報告されています。」

また別の男が問いかける。

「奴等の目的は?」

赤色を主にした服を着ており、背中には長い剣を携えている。

この男こそ現仙人の中では最強の男『燃橙』その人である。

「まず分かっているだけで、『唯』の建国。その為に今回の

董卓討伐に乗じた董卓殺害。さらに彼は・・・」

楊ゼンが一息置く。

すると別方向から声が聞こえる。

「現人間の中で天下無双の実力を持つ呂府を引き入れておる。

奴は自分では気づいていないが、仙人骨を持ち独自で、しかも

無意識の内に仙人の強靭な力を手に入れておる。1対1で人間が

奴に勝つのはまず不可能じゃ。」

「つまり、呂府への対抗馬っていうのが・・・碇シンジだね。

望ちゃん。」

そう答えたのはまた別の男。

青い服を着て、頭には天使の様な輪が浮かんでいる。

元崑崙十二仙の一人普賢真人である。

「うむ。碇シンジこそわし等が計画の要となる。」

太公望がそう告げる。

「ここに集まった『七妖仙』・・・まあいつもの様に一人は

いないが、わし等は全員がスーパー宝具を持っておる。

そして、崑崙山の奇才『太乙真人』により、二段進化を遂げた

スーパー宝具を使えば、帰還者相手でも遅れは取らん。

実際、申公豹が『雷光蜘』を使い、それを証明しておる。」

楊ゼンがここで質問を投げかける。

「ところで、孫権が封神されたのはどういう事だい?

僕達はそんな事聞いてないよ?」

他の人物もそれに同意して頷く。

「今からそれを説明する。零壱頼む。」

太公望の後ろから紫の鎧を纏ったその姿が見えた。

「今紹介された零壱だ。」

無愛想にそれだけ告げる。

「もう一人この計画の立案者にも出てきてもらう。」

今度は太公望の横に白い靄ができ始める。

そこには信じられない光景があった。

「なぜ貴様がここにいる!!!女狐が!!!!」

その姿を見た聞仲が憤慨し、再び彼の元に戻ってきた『禁鞭』

を手に取る。

なぜ再びかというのはまた次回にでも説明しよう。

そう。

靄の中にいた人は『妲己』その人であった。

「はあぁい。聞仲ちゃん。お久しぶりねん♪」

体をクネらせながら聞仲を挑発する。

「いいだろう・・・殷没落の落とし前。今こそ

返してもらおうか!」

その様子を見た太公望が二人を押しとどめる。

「止めろ。二人とも。今が人間界と仙人界の秩序を守る

ための計画の始動の時じゃ。零壱、説明を。」

そう言うと、零壱が一歩前に出て口を開く。

「まず第一に妲己と我が創り主(勧善音菩薩)が

ある情報を元に作った刀剣。『虹綾』。これを

覚醒させる事が第一条件だ。これは妲己が地球の歴史の

正確な情報を入手できたからこその代物。刀剣の

質に間違いはない。後は使い手次第だ。」

妲己は今や地球そのものである。

そんな事ができるのも至極当然である。

「そうよん。でも、体がこっちに実体化できるようになったのは

ここ最近だけどねん。でも、星と一体化した瞬間に莫大な

情報が頭に染み込んで来た。それを創り主に送信したのよん。」

そう妲己が告げる。

零壱が続ける。

「碇シンジには『虹綾』が人の傷を癒す剣程度としか

教えていない。だが、実際は人の生気を吸い、人に生気を

与える剣。つまり・・・」

「わしの『太極図』と同じアンテナの役割をする訳じゃ。」

他の者は押し黙ったままひたすらその計画概要を

聞き入っている。

「来る碇ゲンドウと碇シンジの戦いの時、わしの時と

同じ事をするのじゃ。」

太公望が全員を見渡し、両手を広げる。

2000年以上前を回想するように、目を閉じた。

数秒すると目を開ける。

目は朧気だ。

そして、またこの言葉を発した。

「ここに『第2次封神計画』を実行する。」






To be continued...

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