<パイロット更衣室>

シンジ2人とユイが向かい合っていた。
3人とも俯いている。

「どうしてあのとき実験をしたのさ!?取り込まれるかもしれなかったのに!」
「ごめんなさい・・・・・。赤木博士には私に何かあったときにはシンジを育てる手助けをしてもらうと約束してもらっていたわ。彼女はそのとき手が離れかけていた高校生の子供もいて、シンジを昔の自分の娘のときの子供の頃を思い出すといってよくシンジをあやしてくれていたの 。万が一それに不都合があったときの為に大学時代の友人で不妊治療を受けてながら孤児の養育申請の相談をしようとしていた方と、高校の友人 で保母になっている方にそれぞれ手紙とビデオレターを用意しておいたのだけれど・・・・・言い訳にすぎないわね、ごめんなさい」
「思い出したんだ・・・・どうしてぼくが子供のとき、実験前に「生きていこうとさえ思えば、どこだって天国になる」なんて・・・どうして言ったんだよ。あのときからぼくは父親に捨てられてここにくるまでどんな風に生きてきたか!!」
手を知らず握り締めて母を睨む。
「その答えは2つ・・・・・ひとつはゲンドウさんとの賭け、あのとき既に計画書は提出直前だったわ。補完計画をキール議長・・・もう知っているんだったわよね、現状で立案した計画書をゼーレに提出しないことが条件だった。彼は、あの計画書をゼーレに食い込むために必要だと考えていたから・・・それとその言葉はゲンドウさんに宛てたものよ」
「全人類を巻き込む計画を立てるなんて母さんは間違ってる!」
シンジは振り絞るような声から次第に声を荒げる。
「そうね・・・・・・・・・・・・そしてシンクロ実験が成功すれば、多少の時間はかかっても他の案を2人で考えようと話していたの・・・もちろん稼動実験が成功すれば補完計画そのものも選択肢が増えるわ。」
「でも失敗したじゃないか・・・・」
ユイは多少俯くように視線を下にむける。
「失敗したときの事を考えていなかったわけではないわ、それがもうひとつの理由。コピーを使ってのインパクトはキリスト教にもある三位一体・・・は、わからないわね。父と子と聖霊の名のもとというふうに行われるの・・・・その計画の中で補完が成される時、要となるのは搭乗者とコアの中の人、それを通して 望む補完は行われる・・・・・・」
「待って・・・・じゃあコアに母さんが入っていた場合は・・・それは母さんが聖霊・・・・・・・?」
「半分正解、聖霊はリリスコピー。私はその魂として使われる・・・・・・補完発動の前段階での私の覚醒具合によるけれど・・・完全覚醒してい ればシンジが搭乗者だった時、望めば補完の流れから外すことも不可能じゃない、そう思ったの。そしてそれは私の世界では追認であるけれど成功した」
「・・・・・・・」
「傲慢だと思われるかもしれないけど、シンジを守りたかったのよ」
(うっ!!)
一瞬、かつてのヤシマ作戦のとき綾波がいった言葉がフラッシュバックする。
<<・・・・あなたは死なないわ。私が守るもの>>
綾波・・・・母さん・・・・・・・・
シンジの背中から胸にむけて焦がすような気持ちが熱を持つ。
レイとの思い出と母とがオーバーラップしてシンジは感情の行き場所を失い、涙をこぼしそうになって顔をやや上に向けていた。手をきつく握り締めながらも言葉を振り絞り続ける。
「でも母さんが実験しなければぼくはパイロットになんかなってなんかいなかったんだろう!?どうして・・・?」
ユイは辛そうに、絞るように声を紡ぐ。
「・・・リリスコピーでの計画が発動したら人の姿を保てる可能性のあるのは搭乗者だけだった・・・親のエゴだと思う、でもそれでも生きていて欲しかったの」
シンジは、その言葉に涙が頬をこぼれるのもかまわずにユイに視線を向ける。
「でも・・・あの赤い海の世界は地獄だ、誰もいない・・・いなかったんだ!!待っても誰も帰ってこなかったんだ!!そんな世界におきざりにされて幸せなわけがないじゃないか!!」
うつむき、荒い息をしながらも涙を手の甲でぬぐう・・・・そして顔をあげ目を母にきつく向けるが
「ごめんなさい・・・・本当に・・・・・・・・・」
自分を見ながらも、耐えるその表情の前でシンジはたじろぐ・・・・
「母さんは「そしてあらゆ・・

──────── Pause ─────────

一時停止ボタンを押されたように時間が止まる。

「これが私の記憶、他の世界でのシンジとの一コマ・・・・」
記憶を見せてもらったぼくらは何を恨んでいたのかも忘れ、呆然とするしかできなかった・・・・・

「それで母さんはぼくらに何を期待しているのさ」
もうひとりのシンジは俯いたまま問いかける。
「何も・・・・ただ、守りたいものがあるのならパイロットとしてではなく一人の人間としてそうすればいい。それだけよ」
「とりあえず今日は乗るよ。被害を出させないためにもね」
「そう、わかったわ。あなたはどうする?」
「今日、現場でケガをする女の子が出るはずだ。見過ごすわけにもいかないからね」
そう言って手を上げ、退出する。
それを見送り、残ったシンジの肩に手を掛ける。
「ひとつ伝えておきたいことがあるの・・・・他の世界で、私は擬似コアの製造に成功しているわ。その意味はわかるわね」
驚いたように顔を跳ね上げて、シンジは何かいいたそうにして結局俯いてしまう。
「ぼくを降ろそうということ?」
俯いたままシンジが問いかける。
「この技術は現在私だけが確保しているわ。それはあなた次第、シンジは何を望むの?」
「ぼくはっ・・・・!」
やはり言葉に詰まってしまう。
「帰還した者の問題は自己脅迫観念に陥ることよ。平静を保てそうでないのであれば、余計な被害を出さないとも限らない。私でも乗れるのだから無理をしないでシンジ・・・」
「うん、だけど見ていてほしい・・・」
「そう・・・」
「思いついたことがあるんだ」



<発令所>

《最終安全装置解除 エヴァンゲリオン初号機 リフトオフ!》
『シンジ君。今は歩くことだけを考えて』
やっと、指示が来た。
「わかりました。歩く・・・・ですね」
そのとたんエヴァの目が閃く、エヴァの足が持ち上がりアスファルトに一歩を印す
『歩いた』
発令所の人々は歓声をあげるがシンジの一言にセミが鳴きやむかのように沈黙する。
「歩かないかもしれない兵器にぼくは乗せられたんですねぇ・・・」
「シンジ・・・・茶番はいい。手加減は無用だ、行け」
「なっ!」
文句をいおうとしたミサトを抑えるかのようにゲンドウが声をかける。
ミサトは絶句し、背上司令席を仰ぐ。
「委員会は?」
「かまわん」
「了解。やってみるよ」
既に使徒はエヴァの存在を認め、こちらに近寄ってきている。
モニターに見えている威容を湛える使徒の姿を睨みつけながらもシンジが嗤う。
その表情をみている発令所の人々は、頼もしさと多少の罪悪感を感じながらも畏怖が湧き上がるのを認めざるを得なかった。
「本当のエヴァンゲリオンを見せてあげるよ!」
その言葉と共にアンビリカルケーブルがパージされ、同時にエヴァの姿が掻き消える。
焦るミサトがオペレータに叫ぶ。
「エヴァはどこっ!?」
《上空2000mにエネルギー反応あり モニター出します》
使徒はその存在を目で追いかけているのか仮面を上部に向けている。
そして使徒の周囲が赤い光に覆われ、空中に舞い上がる。
「重力を遮断しているというの・・?」
リツコは唖然としてた表情で呟く。
切り替わったモニターには空中に浮かぶエヴァとそれを追いかけるように宙に浮く使徒を映し出す。
赤い光に包まれる使徒とは違う光を放ちだすエヴァに皆は視線を外せず、皆映画のクライマックスのシーンのように挙動を見逃すまいと緊張の度合いを高める。
「もうひとりのぼく・・・あとは頼むよっ」
そう聞こえたかと思うと、発令所に警報が鳴り響く。
原因がわからない面々は自らの職分で原因を探る。
「シンクロゲージ、振り切れています!」
どういう意味かわかる人間はいても、その真意までわかる人間はゲンドウとユイだけだった。
その間にもエヴァは白く輝き、その光に吸い寄せられる蛾のように使徒が触れたと見えた瞬間。
「使徒が消えた・・・・?」
「パターンブルー 消滅」
モニターに映っていた使徒が見えなくなっていた。
オペレータの声が誰も返事を返せない発令所にこだまする。

静寂が支配する発令所に声が響いたのはモニターに起きた変化が起きたからだった。
「エヴァンゲリオン エネルギー領域に変化あり」
「なにがあったの!?」
「わかりませんっ」
ゲンドウたちも困惑を隠せない。
「どういうことだ」
「あれは・・・・シンジ・・・・そう・・・覚醒させたのね・・・」
「そうか、あれが・・・・・聖霊いや、神・・・」
「ええ・・・そして・・・・」
モニターに映る白い光に包まれた中から光がはじけるようにして12の翼が開かれる。
光をまとうエヴァは12の翼を持つ白く輝く巨大なシンジとなっていた。
「エヴァって・・・なんなの・・・・・」
ミサトの独白がむなしく発令所に響く。それは正しく皆の心を代弁していた。

この戦いは表向きは<第1次直上会戦>と呼ばれたが、ネルフ内ではこの戦いを含めて<降臨戦争>と囁かれることになった。



新世界エヴァンゲリオン 帰還者の宴

第二話

〜宴の興〜

presented by じゅら様




本来では人類補完委員会が開くはずだった会議は予定と大幅に異なる展開をみせた先の戦いのため、ゼーレがゲンドウを召集することになった。
「使徒再来か、あまりに唐突だな」
「十五年前と同じだよ。災いは何の前触れもなく訪れるものだ」
「幸いとも言える。我々の先行投資が無駄にならなかったという点においてはな」
「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」
「左様。今や周知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、ネルフの運用はすべて適切かつ迅速に処理してもらわんと困るよ」
「だが計画と大幅に違う」
「左様。碇君、エヴァがあのようなものだと何故黙っていた」
「イレギュラーはどの局面においても存在します」
手を顔の前に組む姿勢でゲンドウは返答する。
「ふざけるのもいいかげんにしたまえ!あれはなんだ!」
「あれでは南極のアダムと同様にインパクトを引き起こすのではないのかね」
「静まれ・・・・」
議長のキールの声で静寂に包まれる。
「忘れるな・・・人類補完計画。これこそが君の急務だ」
「はい、全てはゼーレのシナリオ通りに」
「そうはなるまい、エヴァの姿は現段階ではありえないものだ。現状エヴァはどうなっている」
「現在、総力をあげて解析・調査を行っています」
「よかろう、まずはそこからだ」
「はい、ですがその前にご報告があります」
「何だ」
「入れ・・・」

「失礼します」
ゲンドウの周囲のライトの範囲にユイが姿を現す。
「碇ユイ・・・」
「大変ご無沙汰しております」
「碇、これはどういうことだ」
「キール議長、オメガはアルファに戻った。そういうことです」
ゲンドウの言葉にキールと呼ばれた老人は顔を手で覆い、しばし思考に没頭する。

「この絶望的状況下における唯一の希望。それは叶ったというのか」
「約束されたと見るべきでしょう」
「計画は追って提出いたします。絶望を断ち切る手段については文書の最後にある使徒殲滅がキーとなります」
穏やかといってもいい表情を浮かべるキールにユイが返答する。
「わかった。報告を待つ。予算については一考しよう」
「残念ですが、ネルフの情報工作の範囲をいささか超えております。その点については皆様にご協力をお願いしたい」
「わかった。なんとかやってみよう」
「ありがとうございます」
ゲンドウが謝辞を述べ、困惑している周囲のゼーレメンバーを余所に会議は終了した。



<建設中の兵装ビルに向かう車の中> 

「昨日の特別非常事態宣言に対する政府発表が今朝第2新・・・」
「今回の事件には・・・」「在日国連軍の・・・」
ミサトがチャンネルを次々と切り替え、情報操作がうまくいっていることを安堵していた。
「発表はシナリオB−22かぁ。またも事実は闇の中ね」
「広報部は喜んでたわよ。やっと仕事が出来たって」
「うちも御気楽なもんね〜」
「どうかしら?ホントはみんな怖いんじゃない?」
「・・・あったりまえでしょ」
「オーライオーライ」「そのままー」
兵装ビルに物資搬入が行われるのをミサトとリツコは眺めていた。
正直、2人とも怖いのは何かということにおいて他と大きく異なった感想をもってはいた。
「エヴァとこの町が完全に稼動できるようにしなければいけない。だけど本当に必要なのは違う事のような気がする」
「あら、あなたにしては考えているのね。楽天的なあなたらしくもない」
「茶化さないでよ、希望的観測は人が生きていくための必需品よ。調査結果はどうなったのよ」
「そうね、コードは601を指しているわ」
訝しげに眉を跳ね上げてミサトが何か言おうとするが、先を制してリツコが答える。
「解析不能ってこと」
「ネルフのパツキン博士でもお手上げっての?まだ調査中なんでしょ?」
誰が・・・と、言おうとしてリツコは気持ちを抑えるように溜息を1つつく。
ミサトは意地悪そうな子供のように片頬笑っていた。
知らず知らずに進まない調査に苛立っていたのだろうか、まったくこういうときはこの友人の存在はありがたい。
「そうね。あなたのそういうところ、助かるわ」
「じゃ」
気持ちを入れ替え、2人はそれぞれの戦いに赴いた。



<ネルフ司令室>

「来たか・・・・」
大きな机、そこに手をいつものように組むゲンドウが呟く。
その机の前に応接セットのパーソナルソファーが2つとソファーが1つ。その間に応接用の机が置かれてある。
その部屋の扉が開き、シンジとユイが入室してきた。
「シンジ・・・・」
「父さん・・・・」
やはり根本は似たものであるのだろうか、2人はそれきり黙っている。
机の上の通話機が鳴り、ゲンドウがそれを取る。
「そうか、わかった・・・・」
それだけ伝え、通話を終わる。
「病院からだ。ユイの体には異常なし。意識のほうは投薬効果もあり、眠っているそうだ」
「そう・・・」
戦闘が終わり、ゆるやかに降下した初号機の回収はなされた。
しかし、エントリープラグから出てきたのは碇ユイだった。
ネルフが創設以来の大混乱する中、司令の指示で病院に搬送されたのだった。
「あれはシンジの意思か」
「ええ、おそらくサルベージは不可能。自力で出ることはできると思うけどその意思があるとは思えないわ」
「ならばシンジしかいないということか」
「ええ」
2人は心が鈍く重い鉛を呑む心持ちを飲み込み、シンジに視線を戻す。
「シンジ・・・お前が乗る他に選択肢はなくなった」
「シンジ、あなたが戻ってきたその心と力。親子としていう資格はない私達だけれども、みんなの為に貸してくれないかしら」
何かが心から削れる思いを・・・・・
預けるように・・・・・・
絞るように・・・・縋るように・・・・・
ともすれば弾けてしまいそうな心の手綱を制し・・・
ゲンドウは心を殺しユイは心を振り絞り、2人は改めて息子に頼み込む。
「条件がある」
「なんだ」
「レイを計画から外して欲しい。・・・ぼくが戻ってこれたのは綾波のおかげなんだ、彼女がつらいのは嫌なんだ」
シンジを知っている2人以外からすれば意外とも思える発言にゲンドウとユイは罪悪感がこみ上げる。
また、逆にゲンドウを知っている人間以外からすれば意外と思える発言をする。
「シンジ、レイをどう思っている」
「だいじなひと・・・・だと、おもう」
「計画ではお前に伝える事はできなかったが、ひとつお前の勘違いを訂正しておく。あれは母さんのクローンだ。その意味はわかっているか?」
「え!・・・どういう意味?」
「半分本当よ、遺伝子はエヴァから補正されて完全な私の分身というわけではないけれど」
「これからレイがどう生きていくのかはわからんが、再考することは約束しよう。だがパイロットはやってもらわねばならん」
「うん・・・」
「つまり遺伝子的にはエヴァとユイの子、異父兄妹の位置づけになる。自覚はしておけ」
「・・・わからないよ、いや。どうしていいかわからないというか」
「慣れろ。以上だ」
断言するゲンドウだが、シンジも言っていることはわかる。
あるいはレイとシンジには他の可能性もあったということなのだろう。
「・・・・・うん・・・・・・」
「他にあるか」
「・・・・セカンドチルドレン・・・アスカのこと・・・・・」
「・・・・・・・・・・はっきり言え」
「ご、ごめん。どう言えばいいのかわからないんだ、あとで伝えるよ」
「そうか。ではその2つでいいんだな?」
「う、うん。あと、みんな揃って住めればいいなと考えていたんだけれど・・・」
「ユイが2人となった。この修正を解決する案がなければその希望は飲むことはできん」
「・・・そう・・・だよね・・・」
残念そうなシンジだが、この問題は正直どう手をだしていいのか怖かった。
「では住居はジオフロントで用意しよう」
「・・・そういえば昔はミサ・・・葛城さんの家にお世話になったことがあってね・・・」
「それが希望か?」
「とんでもない!ゴミステーションが家の中にあるような感じなんだよ!?」
息子の目が飛び出さんばかりに見開かれ、改めてシンジの不遇の一旦を垣間見た両親であった。
「・・・・・・・・・そ、そうか」
ゲンドウの口ごもる様子を見てユイはくすくすと可笑しげに笑った。
「えと、・・・・ぼくは中学校に通うんだよね?」
「ああ」
「ならその近くがいいな」
「そうか。決まったら連絡させよう」
「ありがとう」
そこでユイは予ねてより決めてあった同居について、入院中の自分が出てくるまではと申し出る。
「シンジ、家にはとりあえず私がついていくわ。自炊ができるのは知っているけれど、よかったら私にやらせてくれない?」
「えっ・・・う、うん」
「私は病院のユイとレイの所にいく。必要ならば来るがいい」
「うん」
「私は住居の用意にかかるわ、携帯があるからまた電話して」
「うん、わかった」
ゲンドウの手からユイに渡った携帯電話をシンジは受け取る。

元々はレイの見舞いにいくつもりだったシンジだったが、司令室での話を聞き気持ちの整理がつかなくなっていた。
そのため、シンジはネルフ施設の中を歩いていたが馴染みのある食堂にとりあえず行くことにした。



<ネルフ 職員食堂>

「あ、シンジくん」
「えーと、伊吹さんでしたっけ?」
「ええ、シンジくんね。技術局1課所属オペレーターをしています。伊吹二尉よ。よろしくね」
「どうしたんです。こんなとこでアニメ雑誌なんて広げまくって・・・」
「えーと、シンジくんも関係あるんだけれどエヴァってこないだの戦闘で装甲が全部取れたの。覚えてるかな」
「あー、フルチンでしたね」
顔を真っ赤にして俯くマヤは、なんとか我慢してぼそぼそと続ける。
「だから装甲を付けなきゃいけないんだけど、エヴァと体型が違うもんだからある程度デザインしなきゃいけないんだけれどあいにくこういうの苦手でね」
「それでロボットアニメ・・・ですか?」
「えーん、そうなのよぉ」
「むしろ西洋あたりの甲冑を意識してみたらどうですか?人型ならそっちのほうが楽でしょう」
「そうなんだけど、顔とかが露出しちゃうタイプの資料が多くていき詰まっちゃったの」
「ああ、それならこういうのとかどうかな。イメージ検索でっと」
携帯のウェブサーチ機能を使い、適当なファンタジー世界のナイトのイメージ画像をサーチしてマヤに見せる。
「あー、これなら結構できそう。ありがとう、こういうとこにヒントがあったのね」
「どういたしまして」
「じゃ、ちょっと技術科にいってみるわ。ありがとうねー」
そう言い残し、マヤは手早く雑誌をまとめると足早に食堂を出て行った。
(エヴァってどうなるんだろ・・・)
楽しみでもあり、怖くもある。
どんなのになるのか今度聞いてみることにしてシンジは食券を買いに販売機に向かっていった。



<ネルフ司令室>

「はい、わかりました」
机の秘匿回線を使用していたゲンドウが受話器を強く握り締める。
ピキリと音を立てる受話器を静かに下ろすとゲンドウは目をきつく瞑り無言になる。
いつもと違う様子のゲンドウに、傍らに佇む冬月は不審気に声をかける。
「どうした。碇」
「キール議長が死亡したそうだ」
「なんだと!本当か!?」
「・・・・・・・」
「なんてことだ・・・」
沈黙がその重さを伝える。
ともすれば何が起こるかわからない予感じみた思いに、途方に暮れる冬月を余所にゲンドウが続ける。
「死亡の原因は調査中とのことだ」
「ドイツ支部の連中では話にならんな。どうする」
「鈴に連絡を取る」
「鈴?・・・加持を使うか」
「ああ」

何かが起こっていた。
未来は変わろうとしていた。
未来は始まろうとしていた。
運命は変わろうとしていた。
運命は始まろうとしていた。
だが、運命は知らないところで・・・「何か」が蠢き出していた。



To be continued...
(2009.03.21 初版)


作者(じゅら様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで