<司令室>

いつもの照明が絞られた司令室でゲンドウがいつもの姿勢で座っている。
しばしたち、インターホンが鳴る前にドアが開く。
「失礼します」
「・・・・・・・・」
返事をしないゲンドウの前にアスカは進むと姿勢を正し、敬礼と共に着任の挨拶をする。
「惣流=アスカ=ラングレー着任の挨拶に参りました」
「そのような命令は下されていない。弐号機パイロット、なぜ勝手にドイツを離れた」
「それは・・・・・こういうことよっ!!」

──ズブッ

その瞬間、引き絞られた弓から放たれたかのような速度でアスカの体が飛び出す。
その勢いで突き出された手刀はゲンドウの胸を易々と貫いた。
ほどなくアスカは赤く光る腕をゲンドウから引き抜く。
倒れた花瓶からは水が机一面に広がる。
ゲンドウの胸から大量の血が流れ出て、花瓶から零れた水と混じりあった。
花と血のにおいが次第に広がり、そこは殺人現場となる。
アスカの目からは光るものが流れて床に落ちていた。
「シンジ・・・・」
アスカは口の中で噛み締めるように呟いた。
水摘の落ちる音の中、声を押し殺したアスカの泣き声が響いていた。



新世界エヴァンゲリオン 帰還者の宴

第四話

〜宴の告白〜

presented by じゅら様




ゲンドウの体が徐々に横に倒れ、鈍い音がして床に倒れこむ。
「これで・・・いい。もうシンジを傷つける者はいない。あとは後始末だけ・・・」
アスカは司令の机の引き出しを探り、あるはずのものを探る。
「あった・・・」
机の中から黒光りする拳銃を取り出すとセフティーロックを解除して銃口を自分のコメカミに当てる。
「これで終わり・・・」
そう呟くと目を瞑り、静かにトリガーを引き絞る。
ガチッ・・・・・
ガチッ・・・ガチッ・・・・・
トリガーを引くが弾は発射されない。
弾は入っていないようだ。
「なっ!?なんで?」
拳銃の扱い方は間違ってはいない、これは弾が元々入っていなかったのだ。

「はい、そこまで」
動揺して声のした方向を振り向く。
今まで気付かなかった暗い横壁にあるドアが、シュッという音を立てて開いた。
「アスカっ!」
ミサトが両手で短銃を構えて、飛び出すように最初に部屋に入る。
やや大振りのそれはおそらくは特殊弾用だろう。
通常弾のモノもおそらくジャケットの内側にあるはずだ。
緊張感を最大にして構える姿は短距離走のランナーのようだ。

「初めまして。かしら、私は碇ユイ。シンジの母よ」
「はんっ!エヴァに消えた全ての元凶になった女ね。ミサトもシンジも・・・ご苦労なことね」
穏やかと言っていい表情で入室したユイを睨み付け、苦々しげにアスカが吐き捨てる。
その表情は睨むようでいながらも・・・
それでいて、どこか安堵したようにも見えた。
「アスカ。母さんはボクらと同じなんだよ。戻ってきてやり直しているんだ、父さんも母さんとやり直してたんだ」
シンジはアスカに腕を広げて訴える。
「はっ!シトも戦自も殺してきた私が、今更サードインパクトを起こした人間を殺すのを躊躇うとでも思った?」
「そういうことじゃないわ」
「じゃ、どういうことだってのよ。これで人類は死ななくて済むのよ、感謝されても非難されるいわれはないわ」
「もう補完計画は中止したの。今あなたがやったのはただの殺人」
「そうじゃないでしょ!セカンドインパクトで何億の人間が死んだとおもってるのよ」
ミサトもセカンドインパクトにおいては譲れない気持ちがあるのだろう。
厳しい口調で言い聞かせるように叫ぶ。
「アスカ!それは私も許されることじゃないと思う。だけど貴方が直接手を下すのは違う!」
「ふん!ミサト。あんただったらいいってわけ?セカンドインパクトで死んだ人達に言ってみるのね」
とっさに答えに窮したミサトは口をきつく結び、アスカを睨みつける。
「セカンドインパクトでなにがあったのか。本当のところは葛城博士に聞くしかないけど、事実は違う。葛城博士は人類が絶滅するところだったのを食い止めたのよ」
「なんですって!?・・・お、父さん・・・・が?」
「嘘ね。実験が行われなければ、セカンドインパクトそのものが起きることはなかった。違う?」
動揺するミサトを余所に、アスカはユイに斬り付けるような眼差しを向けた。
「オッペンハイマー博士にでも文句いいたいってことかしら?」
「その場にいたら全員殺してたわよ」
「だ、誰?」
会話の内容がわからないシンジが顔をきょろきょろと動かす。
意外にも答えてくれたのはミサトだった。
「シンジ君、原爆つくったひとよ」
「知らない?マンハッタン計画は他勢力の開発に対抗するために行われたことを。これも同じよ」
「黙って殺されてろってわけ!?ふざけんじゃないわよ」
右手を大きく振りかぶり、アスカが叫ぶ。
「違うわ。修正した流れは別の流れを太くして、結果は同じことになるってこと。セカンドインパクトは起こせなくするのが不可能なファクターなのよ」
「だとしても!こいつは事実を公表したりはしなかった!シンジを実験動物のように扱った!私は絶対に許せない、許せるわけないじゃない!」
「許せないと思うのはかまわないわ。ただ、それと殺すのは別問題。違う?」
「ぐっ、じゃあ誰かが裁いてくれるっていうの!?他の人間が犯人にされるだけでしょ」
「いま、この時間では未然の罪になるだけよ?」
「だからといって私に見逃せと?」
そういってアスカは壮絶といってもいい笑みを浮かべる。
時間逆行者にとって未然の罪というのは過去、味わった事件である為に認識を危うくしやすいのである。
「本当に問題なのはそうじゃないでしょ?」
「あんたに私の何がわかるっていうのよっ!」
「んー、ここで言ってもいいの?」
「なっ!なんですって!?」
覚悟をもって対峙していたはずのアスカが、初めて動揺する。
「本当は誰のために行動し・・・・」
「うるさいっ!黙れえええええ!!!!!」
アスカの目が紫光に染まり、体は僅かに赤く光る。
「っけええええええええ・・・・・・・ええ!!??」
状況からすると、アスカはATフィールドの展開を図ったのだろう。
だが、何も起こったようには見えなかった。
アスカ自身も当惑している。
「ごめんなさいね」
そう言って苦笑するユイにアスカは顔色を変える。
「あんた・・・誰?」
「シンジの母よ」
「私をなめんじゃないわよ!フィールドの相殺も中和もせず・・・」
アスカの頬に冷たい汗が流れる。
可能性としていうならこいつは怪物だ、使徒のほうが何倍もかわいいほど。
だが戦闘態勢を取ったアスカを、まったく気にした様子もない。
(覚悟を決めた私をなめられちゃ困るわね)
口の端をそっと湿らせ、いざ飛び掛ろうとしたアスカの前にユイは右手をあげて声を掛けてくる。
「ひとつ、伝えておかなくてはならない事があるの」
「なによ・・」
「貴方はマインドコントロールされている可能性が高いわ」
「はん!子供のころの話!?そんなのはとっくに克服したわよ」
勢いを削がれたアスカは馬鹿にしたように髪を左手でかき上げる。
「いいえ、まだそんなに経ってないわ」
「このあたしのどこが!」
「じゃあ、一つ目。貴方は時間をさかのぼってきた人間だと思うけど、この世界にきて最初にお母さんをコアから助け出そうとしなかったのは何故?」
「戦うためにどうしても・・・・」
「じゃあ、二つ目。さっき死のうとしてたみたいだけど、死ぬ前にお母さんを助けようとしないのは?」
「え?そ、それ・・・は・・」
(この何もかも見通されているような・・・この感じ・・・なに!?)
「これが最後。この世界に戻ってくるとき、誰かに誓うか約束しなかった?」

「・・・・・レイ?」

「ごめんなさい・・・」
「精霊となったレイのミス・・・か」
レイがシンジの背後で俯いている。
レイも帰還してきていた事を他の人達は初めて知る。
おそらくシンジにだけ話していたのだろう。
シンジは残念そうに溜息をつき、意味が判らないアスカは眉間に皺を寄せる。
「ねえアスカちゃん。昔話でこんな話を聞いたことはないかしら?」



〜ねふるむかしばなし〜
《我は悪魔。我を呼び起こしたのは誰だ?》
「私だ」
悪魔はゲンドウの頭上に浮かんでいるのだが、妙に見下されているような気分になる。
そんなゲンドウをとにかく見下ろし、悪魔は言い放った。
《お前の願いを死後の魂と引き換えにひとつだけ叶えてやる》
その声を聞いて・・・・しかし、まったく物怖じしないゲンドウが聞き返す。
「どんな願いでもだな?」
《ああ、どんな願いでも叶えてやろう》
悪魔が言い放つ。
あくまでも高みから見下ろす態度で、悪魔がゲンドウに問う。
そして・・・ゲンドウは答える。
「ああ。あの頃に戻りたい!」
『・・・・承知・・・・』
《─acceptum face redditumque votum─》
逆しまに世界が回る。
それに伴い、場所も目まぐるしく変わっていく。
《願いは叶えてやった・・・・・・さらばだ》
───ボシュー(もくもくもく)
景色が止まると、煙となって消えて行く悪魔。
残ったのは生まれて間もない赤子に戻ったゲンドウであった。
多重債務となったゲンドウの魂の行方はどうなるのだろう。
数度目になる悪魔との契約と彼らの顔を思い浮かべ、
赤子のゲンドウはニヤリと嗤いを浮かべておりましたとさ。
めでたしめでたし



「えーと、つまり何がいいたいのよ?」
呆れと不機嫌が半々になった表情でアスカが問いかける。
「誰かにお願いを叶えてもらったら"借り"が発生するってこと」
「借りっていわれても。それレイのこと言っているのならまぁ、確かにね」
「リリスがリリンを過去に産んだ事実は変わらない。親に、私は将来こうしたいっていうのは場合によっては約束なのよ」
「そ、それがどーしたってゆーのよ」
「元から精神誘導にかかりやすい性格だったしねぇ・・・」
ミサトが自分を棚にあげてのたまう。
「レイに帰還させてもらった者が責任感が強くなって、全部背負おうとするのはこのへんに原因があるんじゃないかな」
これまた自分を棚にあげたシンジがのたまう。
「願いはなに?と聞かれたのに、本人はそれを約束や誓いと勘違いしちゃってるってのがポイントかな」
「私がそれにかかっているってーゆーの?」
「たぶんね、自分の本来の理由以上にそれにこわだったのが根拠」
「でも、私は・・・司令や議長を・・・」
アスカは両手を握り締め、体を強張らせる。

「それ人形よ。議長もね」
「なんですってえええ!」
リツコが冷静に指摘し、驚いたアスカが叫ぶ。
タイミングを計っていたらしいゲンドウも入室してきた。
その脇で、ユイが机のスイッチを操作すると部屋の照明が明るく照らす。
その場にいるものでソレを人形だと思える者はほとんどいなかった。
それほどリアルだったのだ。
「で、でもさっきしゃべってたのに・・・」
「もちろん遠隔よ」
リツコが造ったのであろうか、自信ありげに話す。
ミサトのチャチャが入るまでだが・・・・
「リツコ・・・あんた人形でヘンなことしてないでしょうね」
「ミサトっ!」
「リツコさん。とりあえず、アスカのケアお願いしますね」
ユイの視線を受け止めたリツコが緊張の度合いを高める。
「は、はいっ!わかりましたっ!」
背筋を伸ばしたリツコが敬礼を返すと、アスカの腕を取って部屋を退出していく。
軍隊のように、手足を伸ばして歩くリツコという大変珍しいものを皆呆然と見送っていた。
「では失礼しますっ!」
ドアが閉まると皆の顔がミサトに向く。
心なしか皆、視線が冷たい。
「あー、えーと・・・えーと」
とっさにこの状況からの脱出の口実が思いつかないらしい。
まるでニワトリ小屋に入った野良猫が出られなくなったような表情で目を泳がせている。
「ミサトさん」
「えっ、何シンジくん!」
会話のとっかかりが欲しかったミサトがシンジに飛びつくように顔を向ける。
シンジは泣きそうな、それでいて嬉しそうな微笑を浮かべていた。
「よかったですね。お父さん、人類救ってたんでしょ?」
「あ・・・・・・・・」
次第に相好を崩し、顔を背けるミサト。
その肩が震えている。
ユイとゲンドウは視線を交わし、ミサトに命令を出す。
「葛城君・・・・」
「はい・・・」
「下がっていい」
「了解しました」
振り向き、敬礼をするミサトの左目からは涙が一粒零れていた。

部屋に残ったゲンドウとユイは退出してアスカの見舞いに行くというシンジとレイを見送る。
「後始末、1日仕事になりそうですね」
「そうだな」
人形に血糊、幸い絨毯等の毛製品がない為に比較的楽そうだがモノがモノだけに始末に困る。
「赤木博士に技術部から何名かまわして貰おう」
2人は人員と手筈を整えてから、ほとんど使われていないユイの執務室へと移動した。
「ゲンドウさん、出張の予定ですが・・・」
「ああ、わかっている」
冷えたほうじ茶を、飲みながら羊羹をつついている。
結局、南極への出張はユイと冬月及びミサトが随行することになった。
予定より遥かに早いミサトの事態把握は彼女の心の助けになるのであろうか・・・

尚、第三新東京市は常夏である。
ミサトの南極行きには準備として、冬服の購入が考えられる。
ドイツ時代の服のサイズが合うなら良いのであろうが・・・
司令の名前で書面通達し、伝言は日向によって伝えられた。
このビールの減量を伴う出張命令は、悲鳴でもって答えられたとか・・・・



・・・・数日後、零号機起動実験の日

<ネルフ第2実験場>

エントリープラグ内、思考から抜け出したレイが静かに瞼を開く。
零号機の再起動実験を前に、レイは緊張した面持ちで深く息を吸い込んでいた。
ゲンドウも今や娘同様に暮らすレイを心配して、レスキュー及び医者や特殊工作器等の手配の抜けがないかと周囲に煩く叫んでいる。
そんなゲンドウの様子にシンジは胸をなで下ろす。
アスカは最近シンジの傍にはつかず、少し遠くから眺めるように壁に寄りかかっている。
「レイ、準備はいい?」
「はい、問題ありません」
リツコの声にレイがやや緊張を解くように答える。

「では、これより実験に移る」

ゲンドウは隣のリツコに指示を出すと、黙ってモニターの数値に注視する。
マヤが最後の実験の開始を視線でリツコに問う。
背後にゲンドウに張り付かれ、少々落ち着かないようだ。
リツコが静かに頷いて、零号機の再起動実験は始まった。
「第一次接続開始」
「主電源コンタクト」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フォーマットをフェイズ2へ移行」

起動までのプログラムは問題なく進む。
プラグ内のレイの表情にも再び緊張感が張り詰めていく。
そんな中、いよいよ絶対境界線までのカウントダウンが開始される。

0.7…
0.6…
0.5…
0.4…
0.3…
0.2…
0.1…

「ボーダーラインクリア、零号機起動しました」
辺りにホッとしたような雰囲気が流れる。
そして次の言葉でそれらは困惑へと変わる。
「様子はどう?レイ」
「何かが挟まっている感じがします」
「レッレレ、レレレレイッ!?貴方まさか!?」
「シンジっ!って、どっかいきやがった・・・」
「フケツ・・・」
「マヤ、小学生みたいなこと言ってないでモニターして」
「は、はいっ。・・・シンクロ問題ありません。連動実験に移ります」
「ああ、問題ない。リツコ君・・・私は司令室に戻るので後を頼む・・・」
「司令、私も」
「わかった」
ゲンドウとアスカは返事も聞かず、実験場から足早に出て行く。
こうして携帯を捨てて逃走したシンジを探して、保安部とアスカの捜索は始まった。
奇しくも使徒の現れるタイミングで起こったこの捜索は、使徒接近の報を館内放送されるまで大捕り物となった。

「碇、未確認の飛行物体がここに向かって接近中とのことだ」
司令室に近い副指令室からやってきた冬月が、大まかな事情を知らせてくる。
ゲンドウは机の通話機からアスカの精神治療の具合、実験場のレイと零号機の状態から実践投入の可否を確認する。
「わかった。・・・・今回は零号機を出す」
「何!?まだ実験段階ではないのか?」
「弐号機出撃にかかる準備に10分以上開きがある。併行して初号機を準備しても15分、その時間が稼げればいい」
「そうか、ならば発令所に」
「ああ・・・」
冬月が実験場に連絡を取り何事か話した後、2人は発令所に赴いた。



<第三新東京市 芦ノ湖上空>

正八面体の巨大な物体が陽光を反射して輝いている。
見ようによっては青いクリスタルにも見える使徒は、ネルフへと向け悠然と進行していたように見えた。



<発令所>

発令所では既に出張中以外の全員が揃い、戦術も練られていた。
今度の使徒は格闘機能を捨てた戦車タイプという位置づけだ。
敵が戦車であれば、地雷と鉄甲弾になるのだが敵が生物でもあるため貫通力と爆発のバランス予測が難しい。
まずは貫通しないと話にならないということで、貫通力の大きいものを使用することにした。
市内でN2地雷を最初には織り込めないため、兵装ビルと自走砲による爆撃で敵の照準を散らす戦術となった。
戦略的には戦自に連絡を取り、無人飛行機でN2を使用できるように手配を掛けた。
戦況が絶望と判断されたらN2無人機を使徒の足元に移動後、爆発させる手筈になっている。
後は、初号機・弐号機を順次投入するだけだ。
顔を腫らせたシンジとアスカは現在更衣室に向かっている。

「零号機発進準備」
「第一ロックボルト解除」
「解除確認しました」
「了解、続いて第二拘束具解除」
「了解」
「エヴァ零号機、発進準備完了しました」
マヤの声にリツコが頷く。
「レイ。初めての実戦になるけれど問題はない?」
「はい、問題ありません」
相変わらずの落ち着いた様子で返答する。
やや緊張気味なその様子はリツコの目には良好と感じられた。
「目標の本部上空までの到着予想時刻、あと1921」
「エヴァンゲリオン零号機、発進!」
ゲンドウの合図で零号機が発進された。
初めてのカタパルト上昇。
強い重力がレイを襲う。
記憶の通りならば到着の瞬間、加粒子砲が襲ってくる。
だが、前回の初号機でない機体と周辺火力の集中。
レイを使徒が狙ってくるかは予測ができない。

「目標表面の変化を確認。目標は同軸座標上で回転しています」
発令所全体が息を呑む音が、このとき聞こえたかもしれない。
《キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ》
零号機が地表に到着した直後、使徒は急ブレーキをかけた車のような女性の叫び声のような奇声を発する。
次の瞬間、クリスタルのような体が一気に捻られ回転スピードを上げて地中に潜っていく。
「まさか!?ここを直接目指してくるというの!?」
「使徒、装甲防壁沿いに零号機の反対側に向かいました。移動速度、衰えません!」
皆が極度の緊張の中、発令所にレイから通信が入る。
「地上に到着。使徒の姿は確認できません。指示を」
そして、追うようなオペレーターの追跡報告に皆が息を呑んだ。
「目標、本部索敵範囲外へ移動した模様」
リツコの背中に冷たい汗が流れた。
「まさか、にげたの・・・?」



<作戦司令部 会議室>

日向率いる作戦部は今、技術部の報告を広げた地図の上に置いて頭から煙が上がりそうな表情で意見を交し合っていた。
だが作戦部の面々が集った作戦会議、進捗は芳しくない。

報告では現在使徒は襲来した姿に戻り、第三新東京市周辺を周るようにしているらしい。
地中を逃げる以上、第三新東京市に来ては逃げられ・・・を繰り返されると、市は畑と化す。
場合によってはシェルターも破るだろう。
地下を移動する関係上、使徒の戦闘でそれが起こる可能性は非常に高い。
故に他の地での作戦となると、地下に予め地雷を仕込む等の手段が非常に使いにくくなるのだ。
追い込もうとエヴァを出すと逃げる可能性が高い。
さらに他の場所となると電源の関係で零号機は5分しか使えなくなる。
現実的な作戦としては、N2地雷の爆圧を地表に使って逃走防止を図るしかない。
エヴァは現在3機中2機が飛行性能を持っているようだが、姿を見せると逃げる使徒に対抗手段は持っていない。
作戦は、タイミングを合わせてN2で使徒を宙に押し上げる。
次に、その間に接近したエヴァで殲滅しか挙がっていなかった。
だが使徒の索敵範囲のデータが変動傾向にあり、いまもそれは拡大しているそうなのだ。
戦自に協力を依頼した無人偵察によると現在索敵は半径50キロ以上にも及んでいる可能性が高い。
こんなやっかいな進化をした使徒に頭痛がする。
あるいはこんな進化をさせた彼らに文句も言いたくなってもくる。
これは、接触がイニシアチブを取らないと判断した使徒の進化なのだろうか。
いちはやく逃げては何度も攻めてくる。
人間同士の兵法に照らし合わせれば、こちらに緊張を長期間強いる戦略を使徒が取っている事になるのだろう。
そこまで考えられている戦略だとすると、時間を稼ぐのはパイロットの消耗を考えなければ容易なのだが倒すのは難しい。

作戦会議は徹夜で行われ、作戦部は多大な消耗を強いられていた。
元来真面目な日向は、実行可能な作戦プランを洗い出す作業に没頭していった。

使徒打ち上げ作戦:N2地雷に指向性を持たせて上空に使徒を吹き上げる。
            N2改造における技術部との折衝中
ベークライト作戦:地面に使徒用の落とし穴を掘り、密閉された中に硬化ベークライトを充填しておく
           ベークライトを充填する時間の短縮案の考案が必要
エヴァ槍投擲作戦:エヴァによる索敵範囲外からの投擲による狙撃
            ソニックグレイヴの耐久度、及びエヴァの筋力の懸案中
etc....

エヴァ初号機は飛行実験を兼ねてシンジが出撃し、使徒が逃げて帰還。
交代で弐号機が出撃。シンジ同様に使徒が逃げて帰還することになった。
その間、報告書と作戦書は30を超えた。
だが、時間を稼がれたおかげでミサトたちが帰国。
持ち帰った槍を使用することになった。
後日、日向の愚痴に付き合った青葉がゲンナリとすることになった。

かくして零号機が出撃、手加減したロンギヌスの槍は正しく使徒を貫き太平洋に落下。
槍の捜索では国連に助力を申請。
ゲンドウはゼーレに相当嫌味を言われたらしい。
ユイに愚痴を零していたそうだ。
作戦部は今回の使徒のおかげで、使徒の進化予測及び考えうる作戦。
多大な宿題を残す形となった。

第五使徒ラミエルは殲滅された。
報告によると公共で被害が大きかったのは交通施設。
民間で被害が大きかったのは、ラミエルが地下を掘りまくったせいで源泉が枯れた多数の温泉施設だったそうだ。
この件ではミサトの出張に伴い、日向の家に預けられて食事内容が大幅に改善されたペンペンだけが喜ぶことになった・・・



To be continued...
(2009.04.04 初版)
(2009.05.02 改訂一版)


作者(じゅら様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで