<ドイツ 某所>
「議長。お加減は如何ですか?」
「ああ、今は問題はない」
「そうですか、実はお願いが1つ出来まして」
「わかっている。アレの事か?」
「そうなります」
「そうか、実は既にそちらに出したところだ」
「なるほど。わかりました」
「それと先日のプランだが、受け入れる事にする」
「そうですか」
「うむ。では後日」
「はい」
受話器を置くキール。
机の装飾品は片付けられており、机の上には飾り気のない受話器と新聞だけが置かれていた。
新聞の表には不景気に対する政策の発表と、政治家のゴシップ記事が大きく載っている。
その片隅に月への無人衛星打ち上げが小さく載っていた。
キールは新聞を折りたたむと小脇に抱え、秘匿回線を使用した通話機からコードを引き抜く。
既に屋敷は抜け殻であり、屋敷の正門と出入口に合計3台の車が待っている。
部屋の出口に立つ執事らしき男に一言二言指示して部屋を出て車に向かう。
車に乗る前、振り返ったキールは回顧しているのか表情を和らげていた。
碇ユイ──
あれは、未来を何らかの要因で知ったものなのか・・・
または、未来のことを予知しているのか・・・・
そうなるように未来を削り出したのか・・・・

キール=ロレンツの疑問は結局出ることなく終わった。
溜息を1つつき、キールは車に乗り込む。
残された屋敷は、200年に及ぶ役目を終えて静かに佇んでいた。



新世界エヴァンゲリオン 帰還者の宴

第五話

〜宴の転機〜

presented by じゅら様




<司令室>

応接に座るゲンドウとユイ。
冬月は評議会の定例のため、本日は出張だ。
飾られた田無ツツジ・金魚草・黄ユリが飾り気のない司令室に色を落としている。
今日は抹茶は京都産、紅茶はアッサム産の抹茶チャイを楽しんでいる。
「ゲンドウさん。レイのために用意した戸籍ですが、予備はまだありますか?」
「ああ、何故だ?」
「これから2つ程必要になりそうなんです。ふふ」
「そうか」
楽しそうに微笑む妻を見て、ゲンドウも穏やかに微笑む。
「議長は何と?」
「議長の部下の方なのですが、派遣のお願いをしたんです」
「知っている顔か?」
「シンジたちは知っていると思いますよ」
「そうか」
クリスマスを待っている子供のような表情を浮かべる妻に、ゲンドウは戸籍の詳細を尋ねた。
そして狼狽えるという、ゲンドウにして実に珍しい事態となった。



<ネルフ格闘訓練場>

シンジは今まで実施できなかった格闘訓練を行っていた。
「っあ"っ」
口腔内から爆ぜる息。
その声と共に畳が陥没する。
右手の平を自分の顔の前に向け、直角に曲げた肘と腕を教官の構えたマットに叩き込む。
──ゾボム!
「ありがとうございました」
シンジは教官に礼をしてシャワールームに向かう。
教官達は残念ながら、壁や天井に突き刺さっていて返礼はできそうもない。
最初は防具なしから始まって、最後は完全防具装着。
打撃はマットで受けられた。
まぁ、負傷を減らすことには成功したようだが・・・
控えめに言って、二度と訓練に付き合ってくれそうもない。
「お疲れ様」
そう言ってレイがバスタオルを差し出す。
家に普通のタオルはなかったのだろうか。
「ありがとう。レイ」
シンジは自然にそれを受け取る。
最近は、2人とも互いがいる状態が自然になってきたようである。
シンジはシャワールームへと向かう。
丁度シャワーを浴び終わり、着替えていた時携帯が鳴る。
リツコかららしい。
《シンジ君。ちょっと相談にのってくれないかしら?》
「わかりました。えーと今からですよね。レイもいるんですが、一緒でかまいませんか?」
《ええ、かまわないわ》
「じゃ、すぐいきますね」
《技術部の執務室でいいかしら?応接もあるしね》
「はいー」
携帯電話を切ると、着替えを手早く済ませる。
シンジは部屋から出てレイに事情を説明すると、手を繋いでゆっくりと歩き始めた。



<技術部執務室>

シンジは部屋の前に立ち、インターホンを押す。
「シンジです」
《いらっしゃい。今あけるわ》
間をほとんど置かず返答され、ドアが静かに開く。
「いらっしゃい、時間をとらせてごめんなさいね」
「いいえー」
「それじゃ中で座ってもらえる?」
「はい」
相談と聞いていたシンジは"らしくない"リツコに何があったのか早く聞きたかった。
その雰囲気を悟ったのか、リツコはコーヒーを3つテーブルに載せると早速切り出した。
「実はね、先日シンジ君もいた時ユイさんからタイムスリップしてみますかと尋ねられたの。覚えてる?」
「あー、そういえばそんなこともありましたね。経験談でも聞きたいんですか?」
疑問が解けて、納得したシンジにリツコは予め考えてあった質問を返す。
「ええ、そんなところね。正確には、世界に予め存在したシンジ君はどこにいったのか?と、いうことよ」
「んー、たぶんコアのシンジん中だとおもうんですがー」
「どうしたの?」
訝しげに尋ねるリツコにシンジは視線を返し、逆に質問を返す。
「逆にお尋ねしますが、リツコさんは自分の魂の存在をどうやって確認してますか?」
「そう。意識できないのね・・・・・」
「少なくとも僕は感知はできないですね。だからコアの中って言ったんですが」
「昔のシンジ君と未来のシンジ君。どっちが優先的に表にでることになるのかも・・・」
「リツコさん。頭いーですねぇ」
リツコはコメカミを押さえる。
「2重人格的な存在になってしまうのか?とか、それも・・・」
「なるほど」
「何?」
「いや、そんな考えもあるんだなーと」
どうやら答えを正しく返してくれそうにない。
また、返せる答えも持っていそうにないシンジに頭を抱えるリツコ。
「ありがとう。もういいわ」
「すいません、お力になれなくて」
「いいえ。ありがと」
考えを一旦他に求めようと思い、シンジに礼をした。
そのとき、インターホンからMAGIに録音していたからかインターホンからいきなり大音量でマヤの声が聞こえる。
《先輩!大変です!初号機にトラブル発生。大至急来て頂けますか?》
「何か起こったようね、シンジ君もくる?」
「え?いいんですか?」
「乗るのは貴方よ。専門知識が必要な事でないものであれば、知っていて損にはならないわ」
「はい、じゃあ行きます」
応接にいた3人は何が起こったのか知る為、駆け足に発令所に向かった。



<発令所>

「どうしたの、マヤ」
「エヴァ初号機の素体なんですが、これを見てください」
「・・・・これ、本当?」
「は、はい」
「シンジ君がエヴァから精神汚染を受けていると考えていいのかしら」
「精神汚染ですかっ!!?」
絶句するマヤとシンジ。リツコはしばし思案する。
「マヤ、司令室に連絡を。今からいくと」
「了解しました」
「リツコさん、僕たちも」
シンジは不安を覚えた表情だった。
だが、何かあったときの対応の可能性をシンジは持っているかもしれないと考え直し、発令所にいてもらうことにした。
「いえ、すぐすむからここにいて頂戴」
「わかりました」
司令室に向かい、駆け足でリツコは発令所を後にした。



<司令室>

「司令。大変です!初号機に異常が発生しました」
ドアが開くとすぐさま飛び込んだリツコが報告を行う。
そんなリツコに構わず、動じない様子のゲンドウが問いただす。
「状況はどうだ」
「現在、初号機素体に変化あり。身体的特徴が御子息を模した形態から、性別が変わったように女性型になっています」
「ユイ。どう思う?」
応接のソファーに座っていたユイが静かに立ち上がり、リツコの傍に立つ。
「・・・・エヴァはその構造上、体内にエントリープラグを持ちます。その意味はゲンドウさんもご存知の通りです」
「つまり体がそれに相応しく変化したということか」
「おそらく」
「コアの内部への影響については?」
リツコが答える。
「現在は不明。大至急調べさせています。念のために近辺にいた御子息が傍についています」
「そうか、ユイ。赤木君とサルベージを。私も後から行く」
「わかりました。リツコさん、行きましょう」
「はい!失礼します」



<発令所>

初号機の周囲にたくさんの技術部の人間が忙しく動きまわり、コードのようなものが沢山取り付けられていく。
シンジとレイはそれを壁際に立ち静かに眺めていた。
「状況は!?」
大きな声と共にリツコが戻ってきた。
技術部の人間が計器データを持ち、何事か報告している。
その後ろからユイが入ってきてシンジを見つけると傍にやってくる。
「シンジ、やれる?」
「出していいの?」
「うん、お願い」
「わかった」
ユイはリツコに手を振ると、口に手を当て声を掛ける。
機材の位置関係から2階半あたりから声を掛け合っているようになる。
「リツコさん。サルベージですが、まずはこちらで試させてもらいますね」
「やれるの?シンジ君ー?」
「まぁ多分。やってみますねー」
調査器具やコードが沢山這う中、エヴァの装甲が外され素体が剥き出しになっている。
シンジは胸のあたりのタラップに立つ。
手をコアの前にかざすと、シンジの髪の色が抜けていく。
白銀の髪としたシンジの横顔から見える双眸は赤い光を放っている。
雰囲気を変えるシンジを周囲は緊張した様子で、コアのデータ観測を行っている。
小さく息を吐いたシンジはコアに手を差し込む。
すると、硬物であるはずのコアが水のようにたわむ。
誰かが息を呑む声が聞こえた。
シンジは、そのままコアに肩まで差し込む。
「いた!ん?あれ?・・・」
シンジは訝しげな表情をして、もう片方の腕も差し込む。
「よし、よいしょっと」
シンジが後ろに下がると、差し込まれていた腕が抜けていく。
その腕が手のところまで下がったとき、リツコの目が細まる。
シンジが握っている手が両方とも親指が上、手のひらが同じように下を向いている。
どういうことか・・・
その答えはすぐに出た。
シンジが力を込めて引っ張るとそこから2つの頭が現れ、そのまま2人の人間になっていく。
片方はシンジだろう。
身体的特徴が一致する。
しかし片方は女性だ。
コアにシンジが入り、予め入っていたユイはサルベージされた。
状況に驚き、思考が廻らないリツコだったが、その女性の顔を見て驚きを押さえ切れなかった。
「ユイさん!?」
足場を移動して駆け寄るが、シンジの後ろにいたレイがバッグから取り出したバスタオルをユイが受け取るのを見てユイでもレイでもないと考えを改める。
サルベージされた2人は意識がなく、タンカを呼び出し病院に搬送されていった。
搬送されていく2人に寄り添い、ユイとレイ。それと髪の色が元にもどったシンジが退出していった。
リツコは計測機から今のデータをプリントアウトし、それを持ってシンジたちを追いかけるように病院に向かった。
後には、どうしていいか判らないマヤたち技術部員が残された。
彼らは遅れてやってきたゲンドウに充分に説明する材料がなく、ゲンドウはユイからの連絡を待つことにした。

───尚、初号機の姿は最初の素体の姿に戻っていた。



<病院>

リツコが追いついた時には先に着いたシンジ達は待合室に通された後だった。
説明してくれた看護士は先の2人が検査中であるとリツコに伝え、仕事に戻っていった。
礼を言ったリツコは検査データを知る為、その足で詰め所に向かっていった。
最優先で行われた検査は1時間弱で終わった。
その後、リツコとシンジたちは病室前で医師から説明を受ける。
「男性の意識はまだないそうよ。ここは女性のほうの部屋」
リツコは補足して皆が入室する。
そこにはレイとよく似た少女がいた。
病院の検査着を着て備え付けの鏡の前に立ち、着衣の前を開いていた。
ドアが開いた音に驚き、体がビクッと跳ねたかと思うとギギギと音がしそうな仕草で首だけ回して見つめてくる。
「あなただれ?」
皆がどう声をかけていいか判らない中、レイがいつもと変わらない口調で尋ねる。
すると少女は泣き出しそうな表情で返事をする。
「シンジだよぉ〜ぅ」
「まぁまぁ、落ち着いてシンちゃん。さて、どこから説明したらいいでしょうか、リツコさん」
「お任せ下さい。シンジ君、まずは前を閉めてベッドに戻ってもらえる?」
「あ!」
男だったはずのシンジではあるが、妙に女らしい仕草で前屈みに背中を向けて顔を赤らめる。
恥ずかしくて仕方がないといった具合だ。
だが、その場のシンジ以外は皆思っていた。
(似合ってる)
程なくしてベッドに戻ったシンジにリツコとユイは、現状の説明と推測であるが原因を伝える。
彼が帰還し、自分の意思でコアに融けたシンジであることも確認された。

「エヴァに融けたら性転換なんて聞いてないよ〜」
泣いている女シンジを前にユイが本日最大の爆弾を落とす。
「シンジ。今まで一応シンジは2人いたわけだから貴方の戸籍登録はまだになるわ」
「そ、それが?」
「シンジ・・・たぶん元には戻れないとおもうの。だから女の子として名前を決めなければならないわ」
そしてユイは耳に指を突っ込む。
予測された、そして予測できなかった答えに女シンジは絶叫する。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
「まぁ、もし男の子に戻ってもまた改名すればいいじゃない」
と、ユイは楽しげに言う。
実際、母というものは子供は男女両方ほしがる傾向の人が多いらしい。
結局混乱した女シンジに自分の名前を決めることは不可能と判断され、ユイに命名されたのであった。
以降は、女シンジ改め <碇マリ(真理)> と、呼ばれることになった。
髪と目の色がユイと同じである外見は、その後も周囲に元が男であると不審を抱かれる事はなかった。
尚、更に1日してもう一人のシンジは目覚める。
シンジたちによると、彼は正しくこの世界の碇シンジらしい。
そしてユイからのすすめで、改めて今まで戦ってきた黒髪のシンジは便宜上、改名することになった。
元からいたシンジの名を変えさせるのは忍びない。と、いうことだった。
但し、前の世界で名乗っていた名前があるとのことで、その名前で登録された。
名前は <碇ジン(人・精霊の意)> こう呼ばれるのは前の世界の事もあり、馴染み深いらしい。
2人は改めて碇家の一員となり、やや手狭となった感のあるマンションに住まう事になった。
女性3人男4人という大所帯のため、主婦となったこの世界のユイは忙しさに追われる日々が運命付けられた。



<第三新東京市立第壱中学校>

「アスカー!この英語どう訳すのー?」
「ああ、それはね・・・」
朝からアスカは勉強熱心な生徒に質問を受けていた。
塾や授業の宿題なのか、生徒がテキストらしきものを手に質問している。
アスカは中学生の中に混じれば、まぎれもない"本物"である。
あっさりと転校初日に大学卒業を愚痴まじりに零したため、転校して数日だが勉学において担任教師よりもアテにされる始末だった。
ネルフの一件で精神的に疲弊していたアスカはネコを被ることもなく、一般的な性格の少女と皆に認識された。
特に深い付き合いの人間はいないが、交友範囲は全校に及ぶ。
最近は、英会話クラブとやらの勧誘が激しいらしい。
駅前留学ならぬ校内留学ができるとあっては勧誘にも熱が入るというものだろう。
教師たちも良いことだと黙認している。
最も試験のヤマや日本語関係には問題があり、皆も英語・数学・理科に絞って質問している。

逆に、教室の窓際のレイとジンには誰も近寄ろうとはしない。
中学生には少々話しかけ辛い空気を醸し出す彼らに、あえて踏み込もうとする猛者はいない。
レイの腰を抱くジンに、諦めや羨む視線が飛んでくる程度だ。
数日前にあった改名騒動以来、ジンの株は男子生徒を中心にあがっているらしい。
時々殺気じみた視線が混じってくるときもあるが、ジンの一睨みで大抵四散する。
トウジに代わって揉め事の仲裁を頼まれることもあるようになってきた。

やがて、眠そうにあくびを噛み殺しながらトウジが登校してくる。
ケンスケが眠そうなトウジに携帯を操作しながら挨拶を返す。
携帯カメラの画像をチェックしては選択削除してしている。
「おはようさん、なんやジンもレイも相変わらずっちゅーか。もう見慣れてしもうたなぁ」
「そうだな、被写体として悪くはないんだがな。あいつら撮ってるとすごく虚しくなってくるんだよなぁ・・・」
カメラは下手をすると所持品検査で没収されてしまう為、ケンスケは写真はもっぱら携帯で撮っている。
まぁカップルを写すのは相手が芸能人でもないと、いつかは醒めるものだ。
以前はそうでもなかったが、最近はトウジとヒカリが一緒に行動することが多くなった。
それに伴い生徒相手の写真販売はヒカリに大抵チクられる。
ケンスケも、縮小せざるを得ない小遣い稼ぎだった。
「そ、そうか。まぁ気にすんなや」
「トウジはいいよな、相手がいるんだし」
「ななな、なんのことやねん」
「別に〜?眠そうなのがその原因じゃない〜?」
「おまえ盗聴でもしとるんかいっ!?」
「ほら、2人とも。そのくらいにして。もうそろそろHRが始まるわ。」
聞き耳を立てていたヒカリが、中断させるべく話に割り込む。

やがてHRの時間になり、担任の教師が2人の生徒を連れて教室に入ってきた。
教室が一斉にざわめく。
「えー、おはよう。えー、今日は転校生を紹介します。では、挨拶を・・・」
2人の生徒は頷くと緊張した面持ちで大きな声で挨拶する。
「碇マリです。よろしくお願いします」「碇シンジです。宜しくお願いします!」
アスカやレイがいるから美人は見慣れているはずだったが、それでもマリの美しさは際だっていた。
レイそっくりの容貌であり、更に恥じらいの表情が加味されたその姿は男子生徒の心に可憐に映る。
最も慣れないスカート姿を、大勢の前で晒される羞恥によるものではあるのだが・・・
兄妹たちと顔を区別するためか、黒縁の眼鏡を掛けている。
いわゆる眼鏡っ子だ。
男子生徒の評価にしてみれば、アスカたちにも決して引けはとらないだろう。
ケンスケなどは早速携帯カメラを用意している。
「そういえば碇さんは御兄弟がいたのでしたね。・・・・・碇くんの席周辺がいいですかね。」
「どこでも問題ありません」
「そうですか、目が悪ければ前に座るといいでしょう。今空いている席を使ってかまいません。好きな席を使ってください」
人のよさそうな微笑みを浮かべる老教師に礼をした2人は、目が悪いというわけでもないだろうが前列の空席に着席する。

授業は滞りなく進み、休み時間となる。
教師が授業終了を宣告した瞬間、2人は生徒の壁に囲まれた。
「ねぇねぇ。やっぱりネルフのパイロットなの?」
「碇兄妹ってわけなんだろ。誰が長男なんだ?やっぱジンか?」
「えーと、長男もパイロットも想像通りだよ」
「つきあってる人いるの?」
「あー、アスカ?」
「な、なによ」
目で探したアスカを見つけ、シンジが手招きする。
嫌な予感がしつつもアスカがてくてくとシンジの傍に来ると、シンジがアスカの片手を取る。
「はい。つきあってる人」
シンジがもう片方の手でアスカを指差す。
「「なにいいいいいいいいいいいいいいいいい」」
大絶叫が教室を包んだ。
「こないだ入院してるときねー・・・」
「あっさりバラすなあああああああああああ!」
アスカは羞恥の極限をあっさりと更新して一瞬で真っ赤になる。
「くぉのバカシンジいいいい!!」
アスカのビンタを食らって文字通り吹っ飛ぶシンジ。
バチ───ンといういい音が教室に響いた。

アスカは憮然とした表情だ。
まぁ照れ隠しだろう。
シンジのほうも憮然として肩肘ついてあさってを向いている。
シンジの頬には小さな紅葉が咲いていた。
自分の席に戻ったアスカは耳の先が赤く紅潮していた。

最初の休憩時間はこうして終わった。
次の休憩時間はマリのほうにも質問が飛ぶだろう。
たまたま今は難を逃れたが、途方に暮れたマリだった。
(つきあってる人いるの?くらいならいいけど、つきあってくれなんていう人でもいたらどうすりゃいいんだよぉ)
予備知識が圧倒的に不足しているマリの受難は始まったばかり。
幸せはどこにあるのか・・・?
どこかへ行ってしまったのか、戻ってきておくれ〜と涙を流してビール抜き宣言された時のミサトのような表情を浮かべているマリだった。
まぁ実際にそんなことになる前にジンが釘を刺すだろうが・・・
授業が一通り終わり、シンジを連れてさっさと帰ろうとするアスカだった。
だが、それよりも早く携帯が鳴り、ネルフの青葉から伝言される。
アスカがシンジたちに話しかける。
「なんか今日、訓練終わったらリツコんとこ顔だすようにってさー」

「実は明日なんだけど、知ってるかしら?JA完成披露パーティがあるんだけど」
「もしかして、一緒にいく?って言いたいんですか?」
「いいえ、前はそう言ったのね」
くすくすとリツコが笑う。
「じゃあ、何ですか?」
「実はその披露パーティでの会話。覚えている限り書き出して欲しいのよ、あとは私の仕事」
「また暴走させたりするんですか?」
「暴走させる理由は、経済事情と戦時との確執かしらね」
「怪我人出さないようにお願いしますね」
「そうね、覚えておくわ」

またもJAは暴走するのだろうか──



To be continued...
(2009.04.04 初版)
(2009.04.11 改訂一版)
(2009.05.02 改訂二版)


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