<碇邸 ジンの部屋>

──ドクン
シンジがバルディエルに侵されて叫ぶ・・・
「うわあああああああああああ!」
──ドクン
白い髪、赤い目を持ってタブリスと向かい合うシンジ。
セントラルドグマで2人とも宙に浮かんでいる。
弐号機は沈黙し、初号機はタブリスをその手に掴んでいる。
──ドクン
(だめ・・・碇君が呼んでる)
地上に出たレイを出迎えたものは、シンジの初号機がアスカの弐号機を抱きしめている姿だった。
初号機は弐号機を抱きしめたまま量産機の槍でも破れないほどの強いフィールドを張り、自分ごと量産機を閉じ込める。
量産機は、手に持つ槍や剣で初号機を貫く。
レイは息を呑む。
アルミサエルを道連れに、同じ事をした私には解る。
目には涙が浮かぶ。
レイは声なき叫びを上げたと同時、まだ弐号機は生きていたのか初号機の手を取る。
2つの巨大兵器は、お互い見つめあったかと思うと同時に光に包まれる。
視界は白一色に染まる。
それにむかって両手を伸ばす。
──ドクン
・・・・誰もいなくなった赤い海に私は浮かぶ・・・・
どれくらいの時間が経ったのか判らなかった。
只々悲しかった。
慰めにしかならないかもしれない。
自己満足にもならない行為を行う私を見て、彼はどう思うだろう。
ただひたすらそれを行う機械のように。
見つけられる限りの世界、見つかる限りの過去の私に記憶を転写していく。
今の自身の過去に記憶を送ることが出来たらその時点で私は消滅できるだろう・・・



・・・「ぉぃ・・・おい・・・・レイ」
「夢を、見ていた・・・」
肩を揺さぶるジンの腕に手を添えて止める。
薄手の布団が肩から滑り落ち、素肌のレイを薄明かりに晒す。
「どんな・・・?」
「別の世界の私の夢・・・」
レイは心配そうなジンの頬にそっと手を伸ばす。
ジンも落ち着いたのかじっとレイと視線を交わしている。
やがて、レイはジンの首元に頭を預けて囁く。
話さずにはいられなかった。
「置いていかないでね」
ジンは黙ってレイを抱き寄せた。



ジンは息を整え、寝転んだままレイと並んで開けた天窓から月を眺めていた。
2人は静かに会話を交わす。
「昔の夢を見たのか?」
「ええ」
「そっか」
ジンもそれ以上は追求しない。
「俺は皆と違う、帰還は3度目だ。1度目は、依り代にされて赤い海に残っていた所をレイに魂を送ってもらった・・・」
「そう」
目を閉じてレイが囁いた。
「2度目は進んで自ら主体となり、最初から発動した補完を制御しようとした。だが世界に命は戻らなかった」
「その後、今度は自分の力で体ごと過去に来たんだ」
「ゼーレも親父も。もしかしたら、母さんも知らない何かがまだ補完計画にあると俺は思ってる」
「ん?おい、レイ?」
レイは、ジンの胸に頬を預けたまま寝息を立てていた。
ジンは黙って一息つくと、レイの頭に手を乗せて自らも眠りに落ちていった。



新世界エヴァンゲリオン 帰還者の宴

第七話

〜宴の追憶〜

presented by じゅら様




<ネルフ 司令室>

ゲンドウと冬月が席に、その前に一人の男が立っている。
一見して中年に差し掛かろうかという年代で、髪を後頭部で束ねている。
無精髭を生やし、ややもすると窓際族といったその風体だ。
だが目だけは常に何かを伺うような光をたたえている。
男は机の前で敬礼するとゲンドウに話しかける。
「おまたせしました。議長も渡米した模様です」
「ご苦労」
「それと、例のものは無事送られました。これが今回の報告です」
「そうか」
報告書と数点の写真が書類ケースから取り出され、机の上に置かれる。
ゲンドウはそれを無言で手に取ると、書類をめくっていく。
「いやぁ、向こうは今混迷を極めているようです。国連も使徒どころではなくなったようですね」
「ああ、だろうな」
「ですが、収穫もありました。第二支部の計画は凍結の上、技術員を大量に派遣した模様です」
無精髭を生やした男はゲンドウの前であっても不敵な笑いを浮かべたままだ。
男は一旦区切ると、片手を机の上につきゲンドウの目を覗き込むように視線を巡らせる。
「しかし、あちらの手際は不味かった。早く介入しないと・・・」
ゲンドウは机の上に報告書を投げ出すと、顔の前で手を組み考えを巡らせている。
「アメリカ主体で動こうとするでしょうな」
片手でお手上げポーズをとり、おどけて見せる。
「そちらは議長が動く。ここは情報を入手次第、計画に割り込むしかあるまい」
「では、私はこのまま戦自に」
「ああ、ダミーを混ぜて情報を流せ。それから、諜報部から使えるのがいたら君の権限で使え」
「わかりました」
「では以上だ」
「では」
男は敬礼をして退室していく。
男が出て行ったのを確認した冬月はゲンドウに愚痴るように声を掛ける。
「全く。まだ使徒もくるというのに」
「人はパンのみに生きるにあらず。ですよ、先生」
机の上の報告書を冬月に渡したゲンドウは、情報を得るべく動き出していた。



<第三新東京市立第壱中学校>

「最近のクラスは、大別して3種類にわけられるんだ」
「なんや、それ?」
「つまり、カップルかそうでないか。あるいは・・・」
「ん?あるいは?」
「片思いのやつらさ」
「あほくさ、でも大変やなー」
「トウジはいいよな。心配なくて」
「わいはほっとかんかい。で、なんでまたそないな話をしたんや?」
「・・・・・・そうだな、なんでだろ」
「なんや、そりゃ」
クラスの中、唯一聞き耳を立てていたヒカリ。
何か思い浮かんだのかトウジのそばに行き、袖を引く。
「ん?なんやヒカリ」
「よー、委員長」
「トウジ。耳かして」
「ん?なんやちゅーねん」
(ぼそぼそ)
「は?ケンスケが?」
「ん?俺がなんだって?」
「い、いやなんでもないわ。ケンスケ最近元気ないのぉーってな」
「そうか?まぁそうかもな」
ケンスケは溜息を1つつくと机に突っ伏した。

少ししてHRの時間になり、担任の教師が1人の生徒を連れて教室に入ってきた。
教室が一斉にざわめく。
「えー、おはよう。えー、今日は転校生を紹介します。では、挨拶を・・・」
「渚カヲル、趣味は歌です。事情があって学校に通うのは初めてなのでお手柔らかにね」
そう言って口の両端をかるく引き上げる微笑を浮かべる。
教室に息を呑む音が、複数同時に聞こえた。
そんな雰囲気を意に介さず老教師はカヲルに質問する。
「あー、席は空いているのを使ってください」
そう言われると、カヲルはマリの隣の空席に腰を掛ける。
「渚カヲルです、よろしく。ここ、いいかな?」
マリは真っ青になって挨拶を交わす。
「よ、よろしく、渚君。私は碇マリ」
「カヲルで良いよ、碇マリさん。だいじょうぶかい?」
「私もマリでいいよ、カヲル君」
「わかった。じゃ、よろしくマリさん」
「よろしく」
緊張しながら挨拶するマリに、朗らかな笑顔で挨拶をするカヲル。
席についたカヲルは昨日の事を思い返していた。



<ネルフ 司令室>

ゲンドウに向かって敬礼しているのはシンジたちと同年齢の少年だった。
ワイシャツと黒ズボンという学生の出で立ちだ。
その前にゲンドウ。後方に冬月が立っている。
委員会から送られてきた経歴書は予想通り、名前とセカンドインパクト当日という胡散臭い生年月日だけだった。
使徒であることは伝えているのだからあとはこちらで調べろという事なのだろう。
「渚カヲル監察官。只今着任いたしました」
「ご苦労」
経歴書をカヲルから受け取ったゲンドウは、一目見てそれを机に投げ出す。
「海の旅は楽しかったですよ。またいつかいきたいものですねぇ」
「そうか。・・・・ユイ」
応接に座っていたユイは、にこやかに応じる。
「はい」
「後を頼む」
「わかりましたわ」
そう言ってゲンドウは、冬月を引き連れて退室していった。
ユイはカヲルに微笑むと応接に座るように言う。
「そこに座ってくれる?あと、飲み物はコーヒーとお茶どちらがいいかな?」
「ありがとう。ではお茶で・・」
間髪入れず。と、いうかカヲルの返答を待たずにテーブルにお茶がのせられる。
カヲルは小さく首をかしげ、礼を返し一口含むとユイに向きなおす。
ユイは微笑みを絶やさずに対面に座る。
その手には、紙片が握られていた。
そしてユイは知り合いにでも話すかのように質問を口に出す。
「貴方は自分がどこから来てどこへいくのか・・・考えたことはある?」
今までこういう話の振り方をされたことはない。
無理もない。自らの起源に答えを持つリリンはいないし、自分を予め知っていたとしても見当外れの気がする。
突然の質問に、困惑というよりも訝しげにカヲルは返答した。
「人はどこから来てどこへ行くのか・・・僕は聖者ではないですが、あえて答えるなら自分の証は僕自身の意思であり。僕はそれを知っている。しかし、貴方たちに知るすべはない。・・・これで、どうですか?」
「委員会からは情報を頂いています。貴方が使徒であるということも」
カヲルは少し驚きながらも、この会話が楽しくなりはじめていた。
ありきたりのリリンよりよほど面白い。
「なるほど。では先ほどの質問は使徒は何者であり、何を目的としているのか・・と、いうことですか?」
「ちょっとだけ違うわ。何を目的としているかではなく、本来何を目的としていたのか」
しばらくカヲルは考え込む。
リリンであれば一族の使命やら教義やら、はたまた種のレゾンテートルまで及びかねない。
しかし、使徒と知っているならば種の存在意義の事しかあろうはずもないのだが・・・
「教えられるほど知りはしませんよ。せいぜいアダムに惹かれ、回帰を目指すモノが使徒であるということぐらいしかね」
「結構。ではこの写真を見て」
テーブルの上に1枚のレントゲン写真かと見間違えそうな白黒の写真が置かれる。
「写っているものは何だと思う?」
「カラーじゃないんですか・・・」
写真を手にとったカヲルの手が一瞬震える。
これが持つ意味は・・・
「先日、月面探査機から送られてきたものよ」
カヲルは顔を上げ、ユイに次の言葉を視線で急かす。
そこにはサキエルの仮面のようなものが写っていた。
「仮説でいいなら説明できるわよ?」
「聞こうか」
「簡単な話。使徒が滅ぼし、人が栄える。そして神が降りる」
「そんなはずは・・・いや、そうか・・・」
「だから仮説・・・ね」
「では、神が刻んだ使徒の本能は・・・」
「だから私がいるのよ」
「どういう意味だい・・・?」
カヲルの額に汗が一筋滲みだす。
「貴方が思っているのとは違うわよ?あえていうならば、私は"新しいモノ"だから」
そう言ってユイは自らの前にある湯のみを持ち、お茶を一口飲む。
カヲルの眉が一瞬跳ね上がり、空気がたわむ。
カヲルは緊張していたらしい自らの手がきつく握られていた事に気付き、手から力を抜く。
「それで僕にどうしろと?」
「あら、話が早いわね」
「老人たちもそうでしたよ。何かを話すときは対価として何かをやらせるのがね」
「ふうん。でも、安心していいはずよ。貴方の抱える問題を解決することなんだから」
「裏はなんです?そのためにそれを話してくれるんでしょう?」
「あら、意外ね」
「何がです?」
「子供じゃないってことよ」
「そうですか。それで?」
「ふふ、それはね・・・・」
ユイは悪戯っぽく笑うとカヲルに説明を始めた。



<第三新東京市立第壱中学校>

次の休み時間、カヲルは女の子達に囲まれていた。
男子は女の子の輪に入りずらいという表情を浮かべて遠巻きにしている。
「渚君、ドコから来たの?」
「ねえ、渚君って彼女とかいるの?」
質問に一つ一つ丁寧に、笑顔で答える。
マリはそんなカヲルの笑顔を見られず、ジンの席に避難していた。
 
昼休みになるとアスカがマリの席に来て、まだ他の女の子達に囲まれているカヲルとマリの手を掴む。
「マリ、渚君、ちょっと来て」
アスカがカヲルを連れていこうとすると、周りの女の子達はふてくされた声をあげる。
「アスカずるーい!渚君と一緒にご飯食べようと思ってたのに」
「アスカ、渚君にも手をだすのー?」
煩い周りの声にアスカは大きな声で叫ぶように返答する。
「そんなんじゃないわよ!!ちょっと話がしたいだけ!!」
そう言って二人を連れていく。
屋上には三人だけだ。
「あんた、もしかしてチルドレンなの?」
アスカの問いにカヲルは笑顔で答える。
「そうさ、ゼーレではタブリスと呼ばれているよ。惣流・アスカ・ラングレーさん」
「やっぱりあんた、使徒なのね。サードインパクトを起こそうと思ってるの?」
「いや、違うよ。僕は、そうだね・・・ありていに言うとわからなくなったところさ」
そう言うと、少し遠くを見るような目をする。
マリはカヲルの言っていることを不思議に感じ、聞き返す。
「カヲル君は未来を知っているの?」
「いや、ネルフで君たちのお母さんに話だけは聞いたよ」
「ね。カヲル君は、なぜ来たの?」
マリが聞くとカヲルはマリを見つめて笑みを浮かべる。
「それはマリさんに会いたかったから、さ」
カヲルに見つめられ顔を赤くするマリ。
赤ずきんとオオカミの問いかけの軍杯は、カヲルに上がったようだ。
カヲルは首だけ振り向くとやってきた彼らに手を振る。
「彼らも来たようだね」
その視線の先にはシンジとジンとレイがいた。



<ネルフ 発令所>

シンジたちは使徒の来襲スケジュールを知りうる限りネルフに明かした。
故に、昨日来襲予定だったイスラフェルを作戦部は捜索している。
国連経由で各国の衛星の情報まで廻して貰っているのに今だ発見されてはいない。
一夜あけた発令所ではオペレータを青葉・日向・伊吹と阿賀野・大井・最上でローテーションを組み、24時間体制を作り上げていた。
もちろんミサトも準待機で家に戻れそうにない。
そんなミサトが発令所に現れ、日向に声を掛ける。
「どう?やっこさん、現れそう?」
「いえ、まったく。本当に現れるんでしょうか?」
「はぁ、まったく。ホンットーに相手の事はお構いなしね、使徒ってーのは」
「どうします?」
「分裂するってーだけしかわからないしねぇ。とりあえず前に来たっていう海岸方面中心にお願い」
「了解しました」
「ちょっと仮眠とってくるわ。なんかあったらおねがい」
徹夜してしまったミサトは欠伸を噛み殺す。
ミサトは、リツコの所に寄ってから仮眠をとろうと重い足取りで出て行った。



<技術部長室>

リツコは自分の部屋で、先般のエヴァ乙号機による第6使徒戦の記録を解析していた。
モニタ上に使徒を分析したデータが表示されている。
室内にはハードの稼動音が低く響いていた。
そこに小さなドアの開閉音と共に、ゲンドウが入室してくる。
「赤木君」
「あら、司令。わざわざこんな所までどうなさったんですか?」
「う、うむ」
「コーヒーでもいかがですか?さっき煎れ直した処なんです」
「実はな。妻にばれている」
───パリーン
コーヒーカップが大きな音と立てて床に落ち、破片と化す。
リツコはふらつくと、椅子に腰を落とす。
俯いたリツコの表情は前髪に隠れて見えない。
「私にどうしろと?」
「すまん」
冷静な仮面をつけ、顔をあげる。
仮面の下は絶対に見せてやるもんかと思う。
「君の要求は後日聞かせて貰う。だが一つだけ言わせて貰う」
「なんですか?」
「────愛していた」
「嘘つき・・・」
仮面は欠け落ち、リツコはゲンドウの胸に顔を埋めた。
数分ほどそうしていただろうか。
2人はそっと離れる。
離れる間際に、2人はかすかなキスをする。
それきり2人は背中を向け、振り向く事はなかった。
ゲンドウは退室し、リツコは元の席に座り込む。
そのまま15分程たったろうか。
床のコーヒーカップの破片を部屋の隅に寄せるだけしてまた椅子に戻る。
今は片付ける気になれない。
相変わらず使徒の記録データが表示されたモニターを見つめてない目で見る。
キーボードの脇にあるボールペンを、何とはなしに手に取ると器用に回していた。
そこに小さなドアの開閉音がして、誰かが入室してくる。
モニターにその姿は映っていた。
「少し痩せたかな?」
「そう?」
だが、さすがに今は気分良くあしらう気にもなれそうもない。
侵入者が廻してくる腕を、先ほどまでくるくる回していたボールペンで迎撃する。
残念ながら、侵入者は根性が座っているのか平静を装っている。
ただし、その手の動きは止まった。
「悲しい恋をしてるからだ」
侵入者の手のひらにボールペンが1本刺さっている。
ぷらぷらと揺れている、痛そうだ。
「どうしてそんなことになるのかしら?」
「それはね、涙の通り道にホクロのある人は、一生泣き続ける運命にあるからだよ」
痛みに耐えた侵入者は机に体重を掛け、何事もなかったように今度はリツコの左目の下から涙の通り道を示すように指を動かす。
ボールペンが音を立てて床に落ちる。
ある意味、尊敬に値するだろう。
「これから口説くつもり?でもダメよ、こわーいお姉さんが見ているわ」
研究室を覗く窓には眉間に皺を寄せ、眉を吊り上げて睨み付けるミサトの姿が張り付いている。
侵入者の芝居に付き合っていたリツコは、これ幸と芝居を打ち切る。
同時に、侵入者はよれたハンカチを取り出して、片手で器用に血止めする。
「お久しぶり、加持君」
「やぁ、暫く」
先ほどまで芝居がかった雰囲気でリツコを口説こうとしていた加持は、片手を上げ軽く答えた。
黒い髪を後ろで束ねた不精髭の侵入者は、加持リョウジという。
「しかし加持君も、意外と迂濶ね」
先程まで窓の外から中の様子を窺っていたミサトは、部屋の中に入ると加持を睨みながら言い放つ。
「こいつの馬鹿は相変わらずね。用事が済んだんなら、さっさと帰りなさいよ!」
「本部への出向辞令が出てね、ここに居続けだよ。また3人で連るめるな。昔みたいに・・・」
加持は昔を懐かしむような笑顔を見せた。
「誰があんたなんかと・・・」
リョウジの言葉にミサトが何か言ってやろうとした時だった。

断続的な警報音と共に、壁のスクリーンは一面、"EMERGENCY"の赤文字で埋め尽くされる。
「やーっときたわね!」
そう言い放つと、ミサトは舌なめずりをしながら発令所に取って返していった。



<発令所>

「警戒中の巡洋艦"はるな"より入電。《我、紀伊半島沖にて巨大な移動物体発見。データを送る》」
警報が響く中で発令所内に報告が届くと、オペレータが端末を操作しデータを解析した。
「受信データを照合。パターン青。使徒と確認」
目標が使徒であることが確認されると、ゲンドウは命令を下した。
「総員、第1種戦闘配置」



やがて各自は配置につき、作戦の説明の段となった。
「みんな、準備はいい?」
「「「「はい!」」」」
「分裂する使徒という前提で作戦を立てました。日向君、説明を」
「了解しました。敵が2体に分裂するということで今回こちらはエヴァ4機出撃することにしました。これは数の優位をもたらすと共に援護をもたらす前衛の負担減少が狙いです」
「はーい。前衛希望しまーす」
「アスカ。まだ説明の途中よ」
「はいはい」
アスカが横から茶々を入れ、ミサトがたしなめる。
「こほん、前衛用の用意した武器はソニックグレイヴ。槍は戦況次第。後衛はパレットガンを使って頂戴」
「戦闘の場所は?」
「ここ、第三新東京市よ。エヴァは4機中3機が活動時間の制限がないの。だからこちらから出向くという手もあるんだけど、兵装ビルからの援護も考えるとちょっちね」
「後衛はレイとカヲル君。前衛はアスカとジン君で頼むわね。レイはジン君を援護。カヲル君はアスカの援護を担当して」
「「「「了解」」」」
悠々とイスラフェルは第三新東京市に到着。
出撃したエヴァ4体はフォーメーションを組み、アスカはすぐさま操る弐号機からフィールド製の羽を伸ばして宙に舞う。
ジンは飛ぶかのような跳躍で一気に間合いを詰める。
兵装ビルとレイ・カヲルの援護射撃がジンの接近に併せて止む。
接近されたイスラフェルはまず一番近いジンの初号機に目標を定め、右腕を振りかぶる。
その片手をジンは下から両手首を揃える様に併せ、後方に受け流す。
丁度背中をイスラフェルに向ける形となったジンだったが、背中を敵前面に合わせた状態から体当たりのように敵に当たる。
当たると見えた時、地面は陥没してイスラフェルは体をくの字に曲げ、後方にたたらを踏む。
「はっ!」
掛け声と共にジンは追い討ちとして体を半回転させ、今度は両手を敵のコアに添えて衝撃を叩き込む。
初号機の左足が大地を蹴り、吹き飛ぶイスラフェルに飛ぶように突撃する。
「っあ"っ!」
右手の平を内側に肘を支点に上方に向ける。
右腕と肘を同時に接したかと思うとイスラフェルが不自然なまでに空中に吹き飛ぶ。
「アスカっ!やれっ!」
「おうけーい!」
ジンの声にアスカが応え、弐号機がイスラフェルに追いすがる。
空中に舞い上がったイスラフェルは、回転して飛んでくる弐号機になすがままフィールドの羽で分断されて地に落ちた。
「さあ、ここからだ」
「油断しないで!くるわよ!」
ミサトの激が飛び、皆も次に備えて構えをとる。
予測が甘かったのだろうか。
イスラフェルは敵の数を見て分裂していたのか、4体に分裂する。
「なんですってー!?」
ミサトの悲鳴が発令所に響き渡る。
「4人でタイミングを併せるなんて無理よ!」
アスカの叫びが皆の意見を代弁していた。
「みんな、下がって!作戦の変更よ!」
僅かな葛藤の末、ミサトは退却を宣言したが・・・
「ここでN2を使わせるわけにもいかん。戦場の移動か有効な作戦を立案したまえ」
後方からのゲンドウの指示が飛ぶ。
「くっ」
唇が噛み締められ、ミサトは苦渋の表情を浮かべる。
そんなミサトに横のリツコから声が掛かる。
「ミサト。分裂した使徒が互いを補完するということらしいけど。もしこれが戦車で、互いに弾薬を補給しあえるとしたら何が考えられる?」
しかし、この問いには日向に即時答えられた。
「そうか、補給ラインですね」
「もっとも目に見えていない訳だけどね」
リツコは軽く肩をすくめる。
「そんだけ判れば上等よ。みんな!各自、分裂した使徒を引き離して!再生速度の変異から有効な補給ラインの情報を測定します!」

「あ、そうなのかい?」
──ボッ!
カヲルの声と共に使徒の1体が地に伏した。
乙号機の手にはコアが握られていた。
「すいません。倒してしまいましたよ」
そう悪気ない表情で言い切られてしまう。
乙号機はコアを握り潰し、パンパンと手を払う。
「なぁっ!」
ミサトは変な声を出し、間抜けな表情のまま固まっている。
また、リツコも表情こそ驚いた風で固まっていた。
この事態に最初に対応したのはアスカだった。
「そーゆーことなら!」
モニターに映るアスカの目が一層輝きを増し、弐号機は右腕を赤く光らせる。
まさしく蜂が刺すかのごとき弐号機の動きは正確に分裂した1体のコアを抉り出していた。
そのままコアは灰が宙に舞うように消えていく。
その動きを観戦者のごとく眺めていた発令所が我に返った時、イスラフェルはコアをなくした体のみ残して殲滅されていた。



To be continued...
(2009.04.11 初版)
(2009.04.18 改訂一版)
(2009.05.02 改訂二版)


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