一体のAC……アーマード・コアと呼ばれる戦闘機械が砂漠を疾駆している。
それの速度たるや軽く三百キロを超し、それが通った後には巻き上げた砂が舞い散っている。
その後ろ……後方百メートルもないだろうか、
上空を飛んでいる戦闘機に似たMT……マッスル・トレーサーが突如ミサイルを放った。
それに気付いたACは機体を大きく左右に揺さぶり、右へ一気に跳躍した。
一瞬にして目標を見失ったミサイルは地にぶつかり、爆発する。
巻き上がった砂の中より現れたACは右手に装備していたリニアライフルCR-WH05RLAの引き金を弾いた。
ライフルから放たれた弾丸はMTの装甲を穿ち、撃たれたMTは煙を噴きながら砂漠へ落ち、爆散した。
そしてACは立ち止まり、そのまま乗り手がいなくなったかの如く、完全に動きを止めた。






ARMORED CORE NINE BREAKER 〜Raven's Sky〜

第一話 FIRST WING 記憶をなくした迷い鴉

presented by 与吉様







「ったく、レイも物好きね、あんな砂漠のど真ん中で立ち往生してるACなんか助けちゃってさ!」

「………困ってる人を助けるのは世界共通の優しさだわ」

「よく意味は分かんないけど、いずれ敵になるかもしれないレイヴンを助けるこたぁないでしょうが」

青い髪の少女、レイに向かって言った言葉を言われた彼女は律儀に返した。
赤い髪の少女、アスカはハァ、と溜息を吐くとレイに向かって言った。

「確かに助けるのは良いんだけど、助ける奴ぐらい選びなさいよね、あんたは」

「………動物愛護週間だから、平気」

「それはもうとっくに終わった」

アスカを睨むレイ。
二人はこの『レイヴンズ・アーク』の中でも浮いていた。

『レイヴンズ・アーク』とは傭兵『レイヴン』とその雇い主との仲介役を務める組織だ。
常に他企業とは距離を離し、中立を保っている。
その中でもアスカとレイ、この二人は浮いていた。

まず二人共結構な美人だ。
アスカは炎をそのまま髪に投射したかの様な赤い髪と青いビー玉を埋め込んだ様な碧眼だ。
レイは水の色をそのまま髪に投射したかの様な青い髪と赤いビー玉を埋め込んだ様な赤目だ。
髪型を比べるとアスカはロングストレートをツインテールにしていて、
レイは少しシャギーの入ったショートカットだ。
容姿から見て、まず第一印象は『対象的』だろう。
赤のアスカに青のレイ。
見た目に伴って性格までこの二人は正反対である。
アスカが好戦的で感情の突起が激しいのに対してレイは無口で無表情、感情をあまり表に出さない。
さらに言えば戦闘スタイルまで正反対だ。
アスカが接近戦を好むのに対してレイは中・遠距離での撃ち合いを好む。

全くもって正反対で反発しそうな二人は紛争孤児で、姉妹同然の同居生活をして来た。
紛争の理由としては……この世界ではよくある企業同士の衝突だった。
その紛争に巻き込まれた二人の家族は、彼女達を庇って死んだ。
そして、二人は明日の朝日が拝めるかも分からない道を歩み始めた。
略奪・強奪、盗み……生きる為なら二人は何でもした。
それこそ人殺しの手伝いだってした事がある。

『二人共、仲良く生きて、幸せになりなさい』

それが、彼女達の親の残して行った意志だった。
だから彼女達は互いが互いを助け合って生きて来た。
食べ物が少なかったら二人で均等に分けたし、寒かったら二人で寄り添って寝た。
怪我をしたら細菌が入らない様にとすぐに口で傷口近くの血を吸い取って、
文字通り傷を舐め合って生きて来た。
それ程彼女達の絆は強い。
見た目や性格が対照的でも共に歩んで来た姉妹なのだ。
その二人が生きる為にレイヴンになるのは時間の問題だった。

傭兵、レイヴン。
渡り鴉の名を持ちこの世界で唯一の自由を約束された者達。
アスカとレイは十五歳になった時にすぐレイヴンズ・アークでレイヴンの登録をした。
どのみち明日を拝める確率が低い日々を切り抜けて来た二人にとって、
レイヴンと言う職業はまるで天からの恵みの様であった。
まず一に、自由が欲しかった。
彼女達の両親達が残して行った言葉を実現させるにはまず最初に自由が必要だった。
二つめに、ある程度の安全が欲しかった。
日々地獄を見て来た二人にとって安全地帯と言うものはないに等しかった。
しかしレイヴンズ・アークの建物内にいればその間だけでも身柄の安全は確保出来る。
何故なら、レイヴンズ・アークは全てにおいて中立で、その気になれば最高の軍事力を持つ企業だからだ。
中立に攻撃すると言う事はそれだけで他の企業からも叩かれるし、事が終わった後でも爪弾きにされる。
そして、レイヴンズ・アークはその中立を維持する為にAC部隊を持っている。

『エクスカリバー』

『イージス』

『ロンギヌス』

太古に存在した聖剣や聖盾、神殺しの名を持つ3部隊は事実上この世界で最強の部隊だ。
『エクスカリバー』は主に切り込み隊、と言っても大体がこれの出番で終わってしまうのだが、
基本的には敵部隊侵攻ルートを塞ぎ、自部隊の侵攻ルートを確保する部隊だ。
『イージス』は聖盾の名の通り、『エクスカリバー』の守り、援護を担当する部隊だ。
そして『ロンギヌス』は未だ見た者がほとんどいない最強の部隊。
『エクスカリバー』と『イージス』が切り開いた道を進み、容赦ない攻撃で敵を蹂躙し、破壊し尽くす。
これを見た者のほとんどは息絶え、良くても精神に大きな傷を残すと言う最強部隊。
この三つがレイヴンズ・アークが持つ最強のAC部隊だ。

とまぁ、レイヴンズ・アークの統治する町等で暮らせば少なくとも大抵の不自由はしないで済む。
その上に下手な事さえしなければ天寿を全うするまで殺される、何て事もない。
アスカとレイは前者の為にレイヴンになった。

そして、二人には才能があった。
今ではアリーナの中堅レイヴンとして有名になっている。

「まぁ、今回は見逃すけど、次はダメよ」

「………アスカは意地悪」

「はいはい、どうせあたしは意地悪よ。
で、どうすんのあれ?」

「お見舞いに行く」

「そう言う事じゃなくて、あのACの中にいた奴、これからどうすんのって事。
まだ寝てるんでしょ?」

レイは頷いて、

「取りあえず、話しを聞いてみる」

「そうね、それが良いわ。じゃ、行きましょ」

アスカの後にレイが付いて行く。
レイヴンズ・アーク本社のリビングテラスの一角にある売店から出た二人は、
そのまま隣の棟に向かった。

『特別病棟』と書かれたドアを開け、ただっ広い廊下を歩く二人。
一言で言えばここでも二人は浮いていた。
美少女が二人揃って特別病棟を歩くなんて事は病院に似合わない。

『シンジ・アンカー』

更にそう書かれた病室の前に立つ二人。

「お邪魔しま〜す………」

「………お邪魔します」

ギィ、とドアの軋む音と共に病室のドアが開く。
その先にはベッドの上に横になって天井を眺めている一人の少年の姿があった。

少年はアスカとレイに気付き、二人の方を向き、口を開いた。

「………誰、ですか」

淡々と、まるで感情がない様な声で、彼は二人に言った。

「あたしはアスカ・ラングレー、レイヴンよ」

「………レイ・トロープウェーブ、同じくレイヴン」

「レイヴン……鴉?」

レイヴンと言う単語を純粋に『鴉』と取った少年……シンジにアスカとレイは顔を見合わせた。
この世界でレイヴンと言うものを知らない者はいない。
むしろ『鴉』と使われる方が珍しいのだ。

「レイヴンって言うのは傭兵の事。あんた、そんな事も知らないの?」

アスカが信じられない、と言う風に言った。

「………あなた、レイヴンが分からないの?」

「レイヴン……鴉……傭兵……アーマード・コア……強化人間……EVANGELION………っ」

レイが問いかけるなり頭を抱えて何かを呟くシンジ。
アスカはその中のいくつかの単語に眉を顰めた

(強化人間は分かる……でもEVANGELIONって、何?)

「どうかしたの?」

優しくレイが語り掛ける。

「分からない……僕が何なのか……どこで生まれたのか……分からない………」

相変わらず頭を抱えながら言うシンジに二人は再び顔を見合わせた。







『記憶喪失?』

「えぇ、そう。自分の名前は分かるみたいだけど、他の事はサッパリ」

『………分かったわ、診せに来なさい』

電話越しの相手はそう言うと電話を切った。
病院のリビングの電話の受話器を置いたアスカはふぅ、と一息吐いた。

「リツコに診てもらえばちょっとは良くなるかしら?」

リツコ。リツコ・クリムゾンキャッスル。
名前はともかく姓は本人がそう自称しているだけで本当の姓は分からない。
彼女は医師として、研究者として、オペレーターとして非常に優秀な女性である。
今はレイのオペレーターをしているが、前のレイヴンのオペレーターをやっていた時は、
そのレイヴンを詳しい情報と正しい鍛え方、相手の対策等で上位ランカーにまで上げたらしい。
あくまで噂、だが。
そしてアスカが病室に戻ると。

「………」

「………」

数世紀前に起こったサイレントライン事件よろしくサイレントフィールドが出来上がっていた。

(レイも無口だけどこいつも無口ね………)

しかしいくらなんでもこの沈黙は痛い。
取りあえず今の状態を打破するべくアスカはこれからの事を二人に向かって言った。

「シンジとか言ったわね? これからすぐ退院して知り合いの所行くからさっさと着替えなさい。
レイ、リツコの所行くから車お願い」

「………分かった」

レイはアスカが言った事を理解したらしく部屋を出て行く。
アスカはベッドの上でボーッとしているシンジにジャージを投げ付けて、

「さっさとしなさい。別にこのままこの部屋にいたいって言うんなら良いけど」

と言うと、シンジはジャージに手を伸ばして着替え始めた。
自分と年が大して変わらない異性が裸になろうとしているのにアスカは平然とそれを見ている。
アスカもレイも、この程度なら昔から見慣れていた。
紛争後の土地はスラムと言うに相応しい程に荒れる。
強奪・殺人・恐喝……何でもありだ。
いや、そうでもしなければ生きて行けないのだ。
そしてアスカもレイも一時期は娼婦の仕事をしていた事がある。
つまり、経験済みなのだ。
しかしそれは二人とも承知の上での事だったし、『幸せになる』為の礎に過ぎない。
アスカとレイは男の裸程度、見慣れているのだ。

着替え終わったのかシンジがベッドから降りた。
アスカはシンジを連れてそのまま病室を後にした。







「で、こいつのACどこ?」

「アークの格納庫第六ハンガー」

レイの運転する四輪駆動車がアークの統治する町『クルセシティ』の道路を走って行く。

「そう、であんたは何か思い出した?」

「まだ、何も………」

アスカに問われたシンジは会った時と比べると比較的落ち着いた口調で答えた。

「あんた、強化人間ね?」

「………多分」

強化人間とは人類の忌むべき科学の生み出した産物だ。
人間の脳に知覚強化を施し、体の数%を機械化した強化人間は主にAC搭乗時にその効力を発揮する。
首筋にある穴にACコクピット内の端末のプラグを刺し込む事でACの制限を一部解除し、潜在能力を引き出す事が出来る。

腕部・脚部の重量制限をなくしてしまったり、
反動の大きいキャノン系兵器を構える事なしに放てたり、
同じく空中でも反動の大きいキャノンを放て、
機体熱の上昇を大幅にカットしたり、
移動源であるブースタの消費エネルギーを削減したり、
活動源であるジェネレータの出力を上げたり、
脚部の旋回速度を増したり、
胸部のミサイル迎撃機構を強化したり、
レーザーブレードの刀身を長くする。

これが今の強化人間の者達に備わっている能力だ。
そしてパイロット……強化人間自身は知覚と身体能力が強化される。
この技術は三大企業の一つ、キサラギが何世紀も前に発明したもので、今でも自ら望んで強化人間になる者は絶えないと言う。

そして、アスカは強化人間が嫌いだ。
何故なら、それは自身の能力でなく、『強化人間の能力』だからだ。
もちろん中には強化人間でもひたすら努力を惜しまない者もいる。
だが、大抵は強化人間=ただの人間より強いと思っている者が多い。
実力一筋で生きて来たアスカは簡単にそんな『力』を手にして下の者を虐げる者を何人も見て来た。
だからでこそ、強化人間に嫌悪を抱いている。

「多分、そうだと思う」

「一体いつ、どこで、誰があんたを強化人間にしたの?」

「………分からない」

シンジは空を見上げて言った。

「自分の事すら分からないのに、そんな事分かる訳ないじゃないか」

その表情は今にも泣きそうだった。






To be continued...


(あとがきという名の言い訳)

初めまして、与吉とか言う阿呆です。
この作品ARMORED CORE NINE BREAKER 〜Raven's Sky〜(以下ACNB-RS-)は
アーマード・コアとエヴァの世にも珍しいクロスオーバーです。
書いた本人でさえまだAC×エヴァと言う組み合わせの小説を読んだ事がない為、ある意味無謀な挑戦です。
まだARMORED CORE NINE BREAKERは発売していませんが、
取りあえず今分かる範囲で書けたので第一話を投稿させて頂きました。
一番困ったのがエヴァキャラの姓字。
これは悩みました。
シンジは碇→錨→Anchor→アンカーで、
アスカはまんまラングレーを引用。
レイは綾→Trope(言葉の〜)+波→Waveでトロープウェーブ、
リツコは濃い赤→Crimson+城→Castleでクリムゾンキャッスルです。
本当は『赤城』ではなく『赤木』なんですが、クリムゾンウッド(赤い木)だとなんか合わないので城にしました。
後ほど設定その他を作成しますので。
では、第二話で。


(あとがき in 改訂版)

数字を全て漢字にしました。
『100m』を『百m』か『百メートル』かちょっと悩みましたが『百メートル』にしました。
『300Km/h』も『三百キロ』か『三百Km/h』にしようか悩みましたが前者にしました。
『キロ毎時』よりも皆『キロ』と読んだり、『キロ毎時』より『Km/h』と表記したりするので結構悩みました。
取りあえず『キロ』で。距離を表す場合は『キロメートル』で。
『メートル』はいきなり『m(M)』じゃ何か分からないので『メートル』にしました。
『パーセント』は皆『%』で書いた方がピンと来るんじゃないかな、と思って『%』に。
単位って小説書くとき結構厄介者です。
これが英文の小説だったら問答無用で全てアルファベットなんでけどね。
日本語だと数字が熟語に含まれている事があるので全体的に数字を漢字に訂正しました。
この作品はこれからこれで行きます。
では。



(ながちゃん@管理人のコメント)

与吉様より「ARMORED CORE NINE BREAKER 〜Raven's Sky〜」の第一話を頂きました。
いやー、管理人ですが、最近その手のゲームにはトンと疎くて、原作はよく知りません(汗)。
故に今後のコメントは、かなりトンチンカンなものになるかもしれませんので、その点はご容赦下さいね。
さて、このSSはエヴァというよりは、どうやらエヴァのキャラを使ったアーマード・コアの二次創作のようですね。
シンジ君はいきなり記憶喪失・・・ということはつまり、彼には曰く付きの過去があるってことでしょうか?
しかし、ここのレイとアスカって・・・かなり擦れていますねぇ〜。
よもや娼婦経験があるなんて・・・ちょっと吃驚です(汗)。
ここの世界の「EVANGELION」と呼ばれる存在も、気になるところですね。
まだ序盤ですが、これから面白くして下さいね。
次話を心待ちにしましょう♪


(ながちゃん@管理人のコメント in 改訂版)

与吉様より改訂版を頂きましたので、差し替えました。
修正箇所は、数字の単位変更ぐらいで、お話の内容自体は変わっていませんので、今回は特にコメントはありません。
次話を期待しましょう♪
作者(与吉様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで